メジロラモーヌと同棲する話   作:iox-1a

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れいのごとくみきりはっしゃです。



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「りゃもーぬ?」

 

抱きかかえる小さな小さな乳児。

 

 

「そう、上手ね。でも少し違うわ。らもーぬ。」

 

 

手に僅かに感じる彼の重み。

 

 

「もう一度?」

 

 

「れゃもーぬ?」

 

 

それにどこか安らぎを感じる私がいる。

 

 

「ら・も・ー・ぬ。さぁ、続けてご覧なさい?」

 

 

「りもーぬっ!」

 

 

しかし、そんな彼とのお話の難易度は思った以上に難しい。

何とか私の名前をを呼ばせようと思考してみる。

 

「いいえ、もう一度。らもーぬっ!」

 

「れもーぬ!」

 

だけれどもその苦労は徒労に終わりそうだ。

 

 

「…あともう少しなのだれどね。」

 

 

遂には私は自分の名前を呼ばせる事を諦めた。

 

「ははっ、すまないラモーヌ。まだこの子にキミの名前は難しいみたいだ。」

 

いつの間にか彼の父親が側にいる。

子供を抱きかかえ私の名前を呼ばせようとしているのが目に写ったのだろう。

 

「気にしないわ。この頃合いの齢の子はみんなそんなモノ。いいのよ、これからずっとおおきくなってから走る私の姿をみて、私の名を呼んでくれるのなら。」

 

そう言って小さな小さな彼の頭を撫でる。

髪の毛の生えきっていない小さな頭。

庇護欲を掻き立てられてしまう。

 

「そして、一緒にレースを愛して欲しいわ。父親の貴方のように。」

 

「あぁ、俺もそう思うよ。」

 

一体どんな大人になるのでしょう。

男の子でなくウマ娘なら一緒に走ってあげられたのかもしれないけれど。

まぁ、ともかく…

 

「貴方、立派な父親になりなさい。良い事?」

 

私は彼にそう言った。

 

「勿論!約束するさ!この子と妻の為に!ラモーヌもラモーヌのレースを愛した様に俺はこの子と妻を愛しているから!」

 

貴方の口から放たれる私の知らない女性。

 

それを聞いてしまうと、私は…彼が誰とどうなろうと勝手な筈のに、何故か後悔に耳がピクリと震えてしまう。

 

その名を語る貴方の…私と一緒に芝を愛してくれたそのヒトの顔は、かつて芝にむけられていたソレよりも…格別に輝いていているのだから。

 

つまらない人。

 

            

 

──────────

 

メジロラモーヌさん。

 

多分、知り合いで一番綺麗な女性を挙げろと言えば真っ先に彼女の名前が出てくる。

俺が物心つく前から事あるごとに父を訪ねに遊びに来ていた。

俺を随分と可愛がってくれた女性。

 

クリスマスにはプレゼントをくれたし、お正月にはお年玉、誕生日にはディナーをご馳走してくれた事もあった。

 

それだけではない。

父母に相談しにくい悩みをこっそり彼女に打ち明けた事さえある。

他愛の無い俺の悩みも彼女は真剣に聞いてくれた。

そんなメジロラモーヌさん。

ずっと血縁者なのだろうと思っていたのだが、案外そういうわけでもないらしい。

 

───私と貴方のお父さんとの関係?そうねぇ、共犯者とでも言っておこうかしら?

 

ラモーヌさん曰くそういう間柄だそうだ。

あまりに詩的な表現で当時、小学生に上がるかどうかの俺には理解できなかった。

実際のところ、彼女が現役のトレセン生であった時、その担当トレーナーが父だった。

…というのが真相だ。

 

この事は母から教えて貰った。

同じウマ娘の母が言うには、ラモーヌさんはトリプルティアラというとんでもない偉業を達成し、その影に父の姿があったそうだ。

 

だからこそ、既婚者である父に肩を寄せ腕を回しレースの内容を語るラモーヌさんの姿を見ても母は何も心配する事はなかった。

むしろ、トリプルティアラという偉業を成し得た彼女が自身の夫と親密に接するのを喜んでいた節もあった。

 

でも俺は考える。

 

ラモーヌさんが父を見ていたその瞳。

鈍色がかった双眸から注がれる視線は只の恩師に向けている物ではなかったと。

 

 

だから俺の両親…父と母が交通事故で死んだ。

その一報があった時、真っ先に駆けつけてきたのは親戚達ではなく…ラモーヌさんであったのだろう。

 

───あぁ…なんてっ…なんてっ…。もう大丈夫よ。大丈夫だから。

 

何が大丈夫なのだろう。

あの日そう言って優しく包容してくれた彼女の身体は俺以上に震えていた。

 

まぁ…父がこうして死んでしまった以上もう確かめる術などないのだが…。

 

───

 

「どうぞ、上がって頂戴。」

 

「お邪魔します。ラモーヌさん。」

 

「そんな事言わないで、今日から貴方の家よここは。メジロのお屋敷でなくてごめんなさいね。」

 

某都市圏の郊外にある個人宅。

一人住まいには似つかわしくない、規模だった。

この邸宅は車3台分のガレージと大きな庭まで付いている。

比較的、一般的な家庭で育った自分としては充分過ぎる程の豪邸であった。

 

「…ありがとうございます。」

 

「寛ぎなさい、自分の家だと思って。」

 

そう言い手を差し出すラモーヌさん。

俺はそれをなんの躊躇いもなく応えると、まるで男子学生の重さなど存在しないかの様に玄関口からフローリングへと引き上げられた。

 

─貴方、私の家においでなさい。

 

ラモーヌさんからそう言われた。

 

丁度、両親が亡き後、自分の処遇はどうなるのだろうか?そう思い悩んでいた時。

 

理由は不明だが、親戚付き合いが良好とは言えなかった我が一家。

 

その為、率先してこの身柄を引き取ろうという親戚はいなかったのだ。

まだ、幼ければ需要があったのかもしれない。

しかし、生憎高校生まで成長してしまったのだから引く手は皆無。

しかも、来年には大学受験を控えている。

 

─うっかり引き取って、養子なんかにしてしまえば…手間もお金もそりゃあねぇ?

 

通夜の時、陰でそう話す親戚の声を聞いてしまった。

両親が少なくない資産を遺してくれていたので、金銭面で心配事をかけるとは全く考えてはなかったが…。

 

まぁ、両親の財産目当てに変な親戚が集まらなかった分にはいいのかもしれない。

だからこそ、母以外で最も信頼の置く女性…ラモーヌさんからそんな提案を受けた時は、まるで地獄に垂れる一本の蜘蛛の糸の如く感じてしまった。

 

勿論、赤の他人に甘えてはいけない。

そうも考えたが、返事を曖昧にしている内、用意周到な彼女によって全ての準備がととのってしまっていたのである。

彼女はさらに進んで自分のことを養子縁組にまでしようとしていたのだが、流石にそこは断っている。

 

「あの、ラモーヌさん。どうして?貴女は俺にここまでよくしてくれるんですか?」

 

脚を一歩、彼女の邸宅に踏み入れた時。

俺はそう言った。

 

「あら?どうしてそんな事を聞くのかしら?」

 

「…それは。」

 

無条件の善意に少し不安になってしまうから。

 

 

いくら貴女が優しくて、父との間に確固たる絆があるとは知っていても。

 

…でも、そんな事。

 

まるで全てを見透かした様な彼女の眼の前では言える筈もなかった。

 

「じゃあ、貴方は何でだと思う?私がよくする理由を。」

 

返事に臆する俺に逆に彼女は言葉を投げ掛ける。

 

そんなのコレ一つしか考えられない。

 

「父が貴女のトレーナーだったから?」

 

「ふふっ…。」

 

勿論、正解を貰えるそう思った。

 

「そうね、勿論それもあるけれど。でも一番の理由はそうじゃないの。」

 

でも、彼女の反応は少し予想と違っていた。

 

「レースを…芝を共に愛して欲しいから。だから、私は貴方を贔屓する。」

 

─ラモーヌは…彼女は人を愛さないんだ。どこまでもレースを愛しているから。

 

ふと生前の父の言葉を思い出す。

 

「ねぇ、だから期待しているわ。あのヒトの子供である貴方に…。」

 

優しく微笑むラモーヌさん。

 

こうして俺と彼女の共同生活が始まった。

 

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