東方史上最強の弟子 レンイチ   作:浜栲なだめ

41 / 55
第四十一話「怪盗 後編」

 これまでのあらすじ。

 霧雨商店に届いた、魔導書を盗むという怪盗からの予告状。盗まれた魔導書の悪用を危惧した霧雨は自警団にこの警備を依頼。

蓮一と小夜と数人の団員が万全の体勢で警備に臨むが、怪盗はその警備をいとも容易く破り、団員達の混乱中、あっという間に侵入し、ついに魔導書が保管してある倉庫の目の前まで辿り着いてしまう。

 蓮一と小夜も謎の怪盗に果敢に立ち向かうものの、全く歯が立たず、結果魔導書は一時奪われてしまう。

 しかし、そこに、蓮一の師匠、霧雨魔理沙が助太刀。なんとか怪盗を追い払うが、魔理沙は怪盗がまだ魔導書を諦めていない、と迎撃作戦を提案する。

 着々と近づく怪盗との再戦。しかし、そこに大きな問題が蓮一の前に立ちふさがるのであった。

 

「蓮一さん! 説明してください! 幼馴染って!? 魔理子さんと知り合いだったこと最初から気づいてたんですか!? 知ってて私に隠したんですか!?」

「違うのよ? 私が蓮一にこの事は二人だけの秘密にしておいてねって頼んだのよ? ねぇ、蓮一?」

「なっ……! ふ、二人だけの……秘密!?」

「そうよ、二人だけの秘密」

「ぐ、ぐぬぬ……! れ、蓮一さん……!」

 

 なんでだろう。一言も喋っていないのに勝手に俺の立場が悪化している気がする。

 蓮一は小夜と魔理沙の間で最早ものしゃべらぬ銅像と化していた。

 この二人の険悪な雰囲気の中に自分が何か口を出したところで火に油を注ぐのは目に見えていた。

 というか、正しくは蓮一がどれだけ言葉を重ねても隣の魔理沙が容易く誤解を招く表現に変えてしまう。いくら水をかけても、かける傍から油に変えていくのだ、この魔法使いは。

 そういう訳で、今蓮一ができる最善の策はこれ以上油を注がぬよう閉口に徹する事だけでった。沈黙は金、とはよく言ったものだと改めて蓮一は先人の知恵に感心した。

 

「――もう、蓮一さんなんて知りません!」

 

 しかし、黙っていても結局こうなる。先人の知恵も案外あてにならない。

 どこかへと走り去っていく小夜の背中を手で追いながら蓮一は事の発端を作った魔法使いを殺意すらこめた眼で睨み付ける。

 一方で魔法使いは大変満足そうな晴れ晴れとした笑顔を浮かべていた。

 

「じゃ、私、まだ仕事残ってるから」

「散々かき回しておいて性質悪いな!」

「蓮一、何やっているの? 小夜が見えなくなっちゃうわよ?」

「ぐ……」

「ほら、さっさと追いかけなさいな、早く」

「あ、後で覚えてろ!」

 

 仕方なく、蓮一は魔理沙に背を向けて小さくなっていく小夜の背中を追いかけていった。

 

「これもまた修行よ、蓮一」

 

 走り去っていく蓮一をまた満足そうに笑って見送ると、魔理沙は魔法陣の方の作業へ戻るべく歩を進める。

 しかし、その足を一人の男の声が止めた。

 

「――よう、秋雨魔理子さん、だったか?」

「……これは、どうも、霧雨さん……」

 

 いつの間にか霧雨が魔理沙の後ろに立ってこちらを見ていたのだ。流石にさっきまでのやり取りは見られていなかっただろうが、魔理沙は徐々に心臓の鼓動が早まり、汗が出てくるのを抑えられなかった。

 

 

「へぇ、あんた、魔法使いだったのか」

 

 霧雨が地面に描かれた巨大な魔法陣を見て呟く。

 

「ええ、まぁ。何か問題が?」

「……いや、何も。ただ、俺が一方的に、魔法使いって奴を気に入らないってだけの話さ」

 

 そうしてゆっくりと地面に向けられていた視線を魔理沙に向けた。

 魔理沙の手は汗でぐっしょりと濡れ、呼吸すら苦しく感じられてきていた。

 

「な、何か、魔法使いに嫌な思い出でも……?」

「そうだなぁ、魔法使いっていうよりは魔法自体を好かねぇ。魔法って奴が嫌いなんだ。今守って貰っている魔導書だって、悪用されて人里に被害が出るかもしれねぇから仕方なく守ってるに過ぎねぇ。魔法使いも、魔法も、俺は全部好かねぇんだ。あんたには、悪いがな」

「……何も、変わってない」

「ん?」

 

 それは誰にも聞こえない位の小声での一言だった。

 そこに深い考えはなかった。いつもの魔理沙ならばもっと冷静に、熟考を重ねたうえで発言しただろうが、その時の彼女はなにせ、『いつもの彼女』ではなかったのだ。

 だから、小さく呟いた一言と共に感情が爆発するまま、魔理沙はいつの間にか口を大きく開いていた。

 

「ろくに魔法の事も知らない癖に一方的に否定されるいわれなんてない! お前の価値観を、私に押し付けるなッ!」

「…………!」

 

 魔理沙が我に返った時は既に遅かった。その怒声は辺り一帯に響き渡り、作業をしていた自警団達が一様に作業を止めて魔理沙達の方を見ていた。

 何より、目の前の霧雨の驚いた表情が、感情に合わせて自分が失言をしてしまった事を思い知らせていた。

 

「……すみません、感情的になり過ぎました」

 

 俯き加減の魔理沙の口から出たのはその一言だけだった。

 しかし、霧雨はその言葉を聞いてしばらくすると突然大きな声で笑い出した。

 魔理沙が不思議そうな表情で霧雨の方を見る。

 

「わっはっはっはっは! いや、すまねぇ、その言葉がつい懐かしくってな!」

「え? 懐かしい?」

「ああ、今のあんたと全く同じ台詞を昔、俺の娘にも言われたんだ」

「――――!」

 

 魔理沙は声が出なかった。必死に動揺を隠す事で手一杯だったのだ。

 今、魔理沙は魔理沙であって魔理沙ではない。今の彼女は霧雨にとっては秋雨魔理子なのだ。彼の一人娘の霧雨魔理沙とは別人。

 だから、霧雨の今の台詞に過剰な反応を見せてはいけない。

 魔理沙は動揺が表情に出ないよう、必死に拳を握りしめて耐えた。

 

「その娘さんは……今どこに?」

「今は行方不明さ。今の台詞と共に家出しちまったきり帰って来ねぇ。娘はな、魔法使いになりたいって言って家を出たんだ。わかるか? 魔法っていう存在が俺から娘を奪いやがったんだ」

「…………それが、魔法が嫌いな理由ですか?」

「まぁ、そうなるか」

 

 それからしばらく、魔理沙と霧雨の間に長い沈黙が流れた。

 作業を止めていた団員達も、一心に二人の次の言葉を、固唾を飲んで待っている。

 先に口を開いたのは霧雨だった。

 

「悪いな、本当はこんな話するつもりじゃなかったんだ。今回、力を貸してくれた事は本当に感謝している。それに人里のためにも魔導書は絶対に守る。決してないがしろにはしねぇ。俺は人里が好きだからよ。これが、俺の本心だ」

「ええ、私もすみません。思い出したくない事を思い出させてしまって……」

「いやいや、じゃ、俺はもう戻るぜ。今日俺が魔導書と立てこもる倉庫の方を見に行くんでな」

 

 そう言って、多少気まずい空気の中、霧雨は魔理沙に背を向けて霧雨商店の方へと戻ろうと足を伸ばした。

 その背中越しに、魔理沙の声が響く。

 

「……まだ、娘さんの事を愛していますか?」

「…………」

 

 霧雨は足を止めた。

 しかし、その顔を魔理沙の方に向けないまま背中越しに質問に答えた。

 

「家出した時から、あいつの事は勘当してる。もう、(家族)だとは思ってねぇ」

 

 それだけ言って、霧雨はまた足を進めだして、霧雨商店の中へと姿を消していった。

 同時に団員達もおもむろにそれぞれ作業を再開し始める。

 その中で、魔理沙だけが動けずにいた。

 

「……それは、そうよね」

 

 もう見えない霧雨の背中を追うように、誰もいない霧雨商店の入り口に視線を固定させたまま、魔理沙は誰にも聞こえない位小さな声でそう呟いた。

 

 

「小夜さん! 落ち着いてください!」

「落ち着いてます! 頭キンキンに冷えてます!」

「とてもそうは見えないんですけど!?」

 

 頭から蒸気を発しながら後ろから追いかけてくる蓮一に小夜が叫ぶ。

 もうどれだけ走ったのか、霧雨商店から大分離れた地点に二人はいた。

 

「……ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ」

「や、やっと……止まった……」

 

 ようやく小夜の体力が尽きてその足が止まった事により、蓮一も彼女に追いつけた。

 二人とも肩で息をしながら汗だくになってしばらく立ち止まり何も言わない。

 

「――ごめんなさい。私、迷惑かけてますよね」

「いや、そんな事ないですけど」

「いえ、かけまくってます。兄さんの件から、ずっと」

 

 蓮一に背中を向けたまま、小夜は続ける。

 

「疎外感、を感じているんです。蓮一さんは毎日苦しい修行を乗り越えて強くなっていってる。でも、私はずっとあの時のまま、私は何も成長していない」

「小夜さんだって毎日俺と同じ修行を乗り越えてるじゃないですか!」

「違うんです。あの方達はまだ、私にどこか遠慮している。蓮一さんがやっている修行に比べれば、私の修行なんて大した事ないんですよ? その証拠に、昨夜、私は少しも役に立てなかった。結局簡単に気絶させられて、気が付いたら蓮一さんが怪盗を追い払った後で……」

「それは……」

 

 小夜は両拳を力強く握りしめていた。

 

「なんだか、自分に自信が持てないんです。それで、蓮一さんにも置いてかれる気がしたんです。だから、ここの所の私はおかしかった。自分でも笑っちゃう位に」

「…………」

「ごめんなさい。もう、大丈夫です。もう、いつも通りの私に戻りますから」

 

 そう言って、小夜は向き直って、走ってきた道をまた戻っていく。

 その最中、蓮一に目を合わせる事はないまま、その横を走り去って行った。

 

「……小夜さん」

 

 その背中を蓮一が追う事はなかった。

 空が真っ赤に染まり、日が沈んでいく。

 また、夜が近づいてきていた。

 

 

 その夜は静かな夜だった。

 昨夜、火事にまで発展した大騒ぎがあった事など嘘のように、霧雨商店は普段通りの体裁を保ち、その闇夜に変わらず佇んでいた。

 それを霧雨商店の向かいの屋敷から見下ろしていた怪盗は首を傾げる。

 

「おかしい。昨日はあんなにそこら中に警備の人間の姿が見えたのに、今日は一人もいないなんて。まさか、私が諦めるなんて思わないだろうし」

 

 罠か。

 怪盗は昨夜、寸前の所で邪魔をして来た魔法使いを思い出した。おそらくこの異様な静けさもあの魔法使いの入れ知恵に違いない。

 しかし、怪盗はそこまで思考を進めてからそれを鼻で笑って止めた。

 

「まぁ、こんな事を考えた所で意味のない事ね」

 

 そう言って、怪盗は屋敷の屋根から空中へと足を下ろす。

 みるみるうちに怪盗の身体が地面に向けて落ちていく。同時に、怪盗の身体は瞬く間に周りの景色と同化していた。

 闇に紛れるのとは訳が違う。地面に音もなく降り立った時、既に怪盗の身体は不可視と化していた。

 傍目から見て今霧雨商店の前には誰もいないようにしか見えない。

 『不可視化する程度の能力』これが怪盗の能力であった。

 

「この能力の前には如何なる策も無意味。だって、人間は見えない物を見る事はできないもの」

 

 そう言って一歩踏み出した矢先、途端に周囲に変化が生じた。

 周りから急に濃霧が発生し始めたのだ。みるみるうちに怪盗の周囲は濃霧に包まれ、一寸先すら真っ白な世界に包み込まれて何も見えなかった。

 明らかに不自然な霧の発生。魔法使いの仕業によるものである事は明白であった。

 

「霧……?」

 

 突然の状況の変化に周囲の警戒を始める怪盗。そして、それを霧雨商店の屋敷の上からニタニタと眺めている一人の魔法使いの姿があった。

 霧雨魔理沙である。ただ、都合上現在は秋雨魔理子の姿をしているが。

 

「ふふ、来たわね。さぁ、たっぷりいたぶってあげるわ、怪盗さん」

 

 魔理沙は既に怪盗の能力について団員や蓮一の話からおおよその答えに辿り着いていた。

 表にいた五人の団員達を声も上げさせずに気絶させていた事、売り場内に潜んでいた筈の怪盗を団員二人が見つけられなかった事、売り場に集まっていった団員達が誰一人怪盗の姿を見ていない事、そして怪盗が人ではない事。

 以上の観点から相手が姿を消す類の能力を持っている事はすぐにわかった。

 そして、能力さえ分かれば後の対策は容易かった。

 

「……視界は大分悪くなったが、むしろこれは好都合。相手も私を完全に捉えきれない筈。私には効かないけど、もしかしたら毒ガスの類かもしれないし、さっさと屋敷内に入ってしまいましょう」

 

 そう怪盗が霧雨商店の見えた方角に向け足を踏み出した瞬間。

 

「なッ!?」

 

 突然、怪盗目がけて虹色の星形の弾丸が飛んできた。

 反射的に後ろに飛んで避けるが、息もつかせず次々と同じ弾丸が怪盗目がけて放たれる。

 

「馬鹿な! 当てずっぽうじゃないわ! 明らかに私を狙って攻撃している!?」

「見えない物を見るためにはどうすればいいかなんて簡単。知恵を絞るのよ。こんな風にね!」

 

 避けた傍から次々と襲い来る魔理沙の攻撃に、怪盗は防戦一方に追い込まれていた。

 

「何故、見えない筈の私の位置がわかる!? それに不可視の能力以前にこの霧で…………霧!」

 

 その自分の言葉でようやくこの霧の意図に気が付いた。

 

「そろそろ気が付いたかしら? この霧はお前の動きを知るためのもの。お前の不可視化の能力はただ見えなくなるだけで実体はそこにある。ならばお前が動けばこの濃霧も動く。上から見ていれば一目瞭然よ」

 

 怪盗の動きで霧が変化を見せるポイント。そこを魔理沙は狙い撃っていた。

 しかも、この霧は魔法陣で無理やり生成している以上、魔法陣の中でしか存在できない。必然的に巨大な霧箱が作られている事になる。

 霧の中に居てはわからないが、その巨大な霧箱を上から覗き見る魔理沙には一目瞭然であった。

 その上、怪盗からは上方の魔理沙の位置は霧に閉ざされ見えないのだから防戦一方になるのも当然であった。

 

「――ならば!」

「ん?」

 

 今の状況のままではなぶり殺しにされるだけだ。そう判断した怪盗は多少の攻撃を受ける覚悟で、全速力で霧雨商店の方向に向かって突っ込んだ。屋敷の中まで霧は生成できない。生成のための材料と魔法陣が大量に必要になると同時に魔術操作も容易ではないために現実的ではない。

 そう判断しての捨て身の突撃。一度屋敷内に入ってしまえばこちらのものだと判断したのだ。

 そして、その判断は間違っていなかった。

 

「成程、そう来たか」

 

 魔理沙が魔力弾で狙い撃ちにかかるが、数発被弾しながら尚突進を続け、そのまま玄関を打ち破りながら霧雨商店の中へとなだれ込むように飛び込んでいった。

 

「勝った――――」

 

 そう安堵したのも束の間、怪盗の足に何か糸に引っかかったような感触が走る。

 その瞬間、ガコン、という音と共に、怪盗目がけて巨大な丸太棒の振子が入り口に突進していた彼女に襲い掛かってくる。

 

「ブービートラップッ!?」

 

 急に捨て身の突進を止められるはずもなく、向かってくる巨大な丸太に自ら当たりに行く形で怪盗は丸太に激突し、入り口からまた濃霧うずめく外まで勢いよく吹っ飛ばされた。

 

「――予想通り。予想通りよ、怪盗さん。ふふ、可笑しいくらいに、ね」

 

 霧雨商店の入り口に突進していった怪盗が再び外に吹き飛ばされてきたのを霧の動きに察知し、魔理沙は高らかに笑った。

 

「もうおやめなさいな、怪盗さん。お前は一歩もこの屋敷の中には入れない。加えて、あなたのその不可視化の能力の弱点もわかっているわ」

 

 魔理沙が勝ち誇ったように地面に倒れる怪盗に向けて言い放つ。

 同時に怪盗の辺りを包む霧が晴れていく。

 

「霧が晴れた? 材料が尽きたの? とにかく、今が好機!」

 

 怪盗は完全に霧が辺りから消えたのを確認して再度屋敷に向けて走る。霧のない今なら動きを捉えられる事はない。

 しかし、その怪盗の目算は背中に撃たれた魔法弾による一撃によって崩れ去った。

 魔理沙は、霧の晴れた状態で怪盗をあっさりと撃ちぬいて見せた。

 

「な、なん……で?」

「言ったでしょ? 弱点は分かっているって。一つ目はそれね。不可視化が解けた事に自分が気付けない点」

「なッ!?」

 

 いつの間にか、怪盗の不可視化は解除されており、月明かりに照らされ、赤いメイド服を着た金髪の少女が魔理沙の瞳にはっきりと映っていた。

 

「蓮一や団員達から話を聞いた時から不思議だったわ。何故不可視化の能力があるのに、何故お前はわざわざ『暗闇を好む』のかしら?」

「なんですって?」

 

 魔理沙は怪盗の能力が不可視化の能力と気が付いた時、大きな疑問を抱いていた。

 何故、不可視化の能力があってわざわざ電気を消す必要があったのか。

 商品売り場で襲われた二人の団員は、突然電気が消されたと言っていた。しかし、不可視化の能力がある以上、光を奪う必要などあっただろうか。

 蓮一の時も同様に突然電球が割られている。何故、そこまでして暗闇にする事を好むのか。

 その疑問を解決したのは商品売り場で襲われた女性団員の目撃証言であった。

 

『意識を失う直前、私は確かに見たんです。笑ってこっちを見つめる金髪の少女の姿を……』

 

 最初は怪盗が恐怖を植え付けるためにわざと不可視化を解除したのかと思った。しかし、違う。

 

「お前の能力は何か物体に触れると不可視化が解除される、という欠点がある。違う?」

「…………!」

「流石に塵やゴミじゃダメでしょうけど、ある程度の質量があればそれに触れるとお前の不可視化は維持できなくなる。だから、二人以上の敵を攻撃する時、片方を攻撃するとその時に不可視化が解除されて姿を見られてしまう。だから、光を奪って攻撃していたのよね?」

「ぐ……これか!? 服に付いているこの木のブロック! くそ!」

「ええ、木製のブロックにガムを張り付けたの。さっきの丸太の先端に固定してあったわ。当然粘着性は魔法で高めてあるから、簡単には外れないわよ?」

 

 魔理沙の言った通り、スカートについたブロックはいくら引っ張っても外せない。

 ならばと、怪盗は腰の短刀を引き抜き、容赦なくスカートを切り裂いた。

 あられもなく生足が曝け出されるが、彼女には一切の躊躇を感じない。

 

「さぁ、これで、もう私の不可視化を見破れない!」

「大した根性ね。 でも、言ったでしょう。お前の能力の弱点はわかってるって」

「――ッ!?」

 

 再び怪盗が不可視化の能力を発動した瞬間、彼女の真下から虹色のチューブのようなものが生えてそれが彼女の足に絡みついて、地面に足を固定させる。

 それだけで、怪盗の不可視化はまた解除された。

 魔理沙がさも愉快そうにクククと笑いながらゆっくりと足のチューブを取ろうともがく怪盗に近づく。

 

「物体に触れれば不可視化が維持できない。それならば地面や床に立っているだけで解除されちゃうわね。だから、お前は常時、浮いていた。もう一つ不思議だったのよ。この霧雨商店の目の前の砂利道を通ってきて、しかも、多くの団員があなたの足音を聞いているのにも関わらず、何故屋敷内に足跡の痕跡がないのか。」

 

 多くの団員がカツ、カツという足音らしき音を聞いている。しかし、その足跡の痕跡はなく、しかも倉庫前の電球が落とされた時に限って足音は聞こえなかったという。

 そもそも姿まで消して足音を消さないなど愚行の極みだ。

 つまり、足音は自分の居場所を勘違いさせるための罠。実際は、怪盗は地面から数センチ浮いた状態で徘徊していたのである。

 怪盗に襲われた者が聞いた足音、売り場での捜索中に電気が消えた事、倉庫前でも突然電球を吊り下げていた糸が切れて灯りを奪われた事。

 それらの情報から既に魔理沙は能力の弱点を解明しつくしていた。

 向かってくる魔理沙に怪盗は僅かに恐怖の念すら抱いていた。

 

「今度は首輪を付けてあげるわ。私が解除しない限り絶対に外せない首輪。自分で首を切り落とせば、話は別だけれど」

 

 動けない怪盗に魔理沙が金属の首輪を取り付ける。これで完全に不可視化の能力は封じられた。

 しかし、怪盗は追い詰められたにも関わらず、微かに笑みを浮かべていた。

 

「ふふ、やられたわ。私の完敗よ」

「随分と余裕そうね。言っておくけどお前に次の機会という奴はないわよ?」

「ええ、わかっているわ。私も今夜で決めるつもりだったから。入念に準備をしてきた。、万が一、私がこうして倒される事も見越して、ね」

「……まさか」

「今頃、裏口の方から倉庫に向かっている筈よ。援軍がね」

 

 怪盗はそう言ってニヤリと笑った。

 

「それに、完敗したけれど、私はまだ諦めていないわよ!」

「なッ!?」

 

 瞬間、地面を大きく抉りながら爆発を起こし、怪盗は空に舞い上がる。

 魔理沙もそれを追って、上昇していく。

 短剣を構えた怪盗に魔法陣を展開する魔理沙。両者は月に照らされながら睨み合う。

 

「さぁ、第二ラウンドよ。人間如きに倒せるかしら? 『魔界人』である私を!」

「いいわ、完膚なきまでに叩きのめすッ!」

 

 

「ぐああ!」

「く、くそ、なんだこいつらは! 怪盗は一人じゃなかったのかよ!?」

 

 団員が一人、また一人と倒される。

 もう残すは蓮一と小夜と二人の団員を残すだけになっていた。

 突然、裏口に現れた二人のフードに身を包んだ敵。人型をしているようだが、あきらかにその動きは人間離れしている。

 魔理沙が交戦を始めたのを機に肩の力が抜けていた自警団達にとってこの新たな敵の襲来はこれ以上なく効果的な奇襲となった。

 

「ぐふッ!」

「ぎゃあ!」

 

 ついに二人の団員も倒され、残すは蓮一と小夜だけになっていた。

 

「う……蓮一さん、相当強いですよ……この敵」

 

 いつにも増して弱気な小夜の声が響く。

 夕方に小夜と交わした会話が思い出される。

 

「カ、カカ、カカカカカカカ」

「ギ、ギギギギギ、ギギ」

 

 人間らしからぬ声をフードの奥から響かせながら蓮一と小夜を取り囲むように立ち回り、同時に攻撃を仕掛けてくる。

 蓮一は難なく捌ききるが、小夜の方はそうもいかなかった。

 

「ぐぅッ!」

「小夜さん!」

「蓮一さん、後ろ!」

「がッ!?」

 

 攻撃を受けた小夜に気を取られ、蓮一まで攻撃に反応しきれず、蹴りを食らってしまう。まるでコンビネーションでは歯が立たなかった。

 

「ご、ごめんなさい。また、私が足を……」

「小夜さん……」

 

 原因は明らかに小夜の弱気過ぎる姿勢にあった。いつもの小夜ならばあの程度の攻撃はいなしてみせていた。しかし、今の小夜はあまりにも弱気過ぎて身体が固い上に、反撃をしようとしなかった。

 無駄に防御に徹底してしまっている。あれでは相手が好き放題に攻撃できてしまう。防御とは牽制や反撃などの攻撃も挟み、相手を好きにさせない上で成り立つものだ。

 防御だけを徹底しているだけでは守る事にはならない。攻撃と防御があって初めて防御に意味が現れるのである。

 それが、今の小夜はわかっていない。自分の武に自信が持てない故に、且つ、昨夜の戦闘であっさりと攻撃を食らって気絶してしまった事がトラウマになっているのか、相手の攻撃に対し、過剰に憶病になっていた。

 おおよそ蓮一も敵の攻撃に目が慣れてきた。力は強いが勝機は十分に見える。

 しかし、小夜があの状態ではほとんど二対一に等しい。

 流石に二対一の状況でこの敵を倒すのは容易ではなかった。

 

「小夜さん」

「だ、大丈夫です。今度は絶対に足を引っ張りませんから、きっと――――」

「小夜ッ!」

「は、はい!?」

 

 蓮一は混乱しかけている小夜に向けて大声を出す。

 小夜が驚いた表情で蓮一の方を見る。

 

「カカ、カカカカカカ、カカカカカ、カ!」

「蓮一さん! 後ろ!」

「お前達は少し黙ってろ!」

 

 敵のパンチを掴みとり、背負い投げを繰り出すと共に、それをもう一方の敵の方へと投げつける。

 二人は一緒になって吹き飛んでいき、裏口に積んであった木箱の山にぶつかり、崩壊する木の箱の山に飲まれて埋まっていった。

 蓮一は息をつくと小夜の元に駆け寄ってその両頬を両手で挟むように平手打ちする

 

「落ち着け、敵は二人で来てる。なら、こっちも二人で闘うんだ」

「で、でも、私は――――」

「小夜は、強い!」

「――ッ!」

 

 その時、崩落した木の箱の山からフード達の手が出てくる。

 残された猶予はほとんどなかった。

 

「小夜は高天原に来てどれくらいだ?」

「二週間と、少しでしょうか……」

「その頃、俺はまだ一日に一回は気絶してたよ」

「だから、それは、師匠方が私の修行を緩めにしてくれているから――――」

「あの人達はそんなに器用じゃない。それに、まず人によって修行を変えるような人じゃない。そうだろ?」

「でも……」

「……預ける」

「え?」

 

 蓮一は小夜に背中を向けて、這い出して来たフード二人の一人に向けて構えをとった。既にまたフードの二人組は蓮一と小夜を囲むように陣形を取って攻撃の機会を探っている。

 

「小夜、俺の背中をお前に預ける」

「…………」

「信じろ、自分の力を。そして、そのお前を認める俺を!」

「――――はい!」

 

 その時、初めて小夜の声に元の張りが戻った。

 

「カカ! カカカカカ、カカカカカカカ!」

「ギギギギ、ギギ! ギギギ!」

 

同時に、フードの二人が背中合わせに構える蓮一と小夜に向かって襲い掛かってくる。

だが――――

 

「――遅いッ!」

「――甘いッ!」

 

 先刻とは一変。蓮一の正拳突き、小夜の上段蹴りのカウンターがそれぞれ敵を見事に撃ちぬいた。

 完璧に決まった技を食らい、フードの二人組はもう動く事はなかった。

 それに蓮一は笑い、小夜は目の前の情景が信じられないとばかりに目を大きく見開いている。

 

「れ、蓮一さん、私、私!」

「言っただろ? 小夜は強いって」

「は、はい!」

「……え、えーと、じゃあ、自警団の皆さんを介抱しましょうか、小夜さん」

「あれ、敬語に戻しちゃうんですか?」

 

 戦闘の興奮が収まってくると共に、さっきまでの敬語を外した話し方が恥ずかしくなって戻す蓮一に小夜が不思議そうに尋ねる。

 

「えーと、なんか、すいませんさっきは、小夜さんに偉そうにベラベラと……」

「戻してください」

「え?」

「さっきみたいに小夜って呼んでください。後今後敬語も禁止です」

「え……? いや、でも」

「禁止です」

「は、はい」

 

 有無を言わせぬ小夜の迫力に、蓮一はただ頷くしかなかった。

 嬉しそうに笑う小夜を月明かりが綺麗に照らしていた。

 

 

「はぁ! はぁ! まさか、ただの魔法使いに……ここまで手こずるとは……!」

「ぐ……くそ、魔力が!」

 

 つい数刻前には地に伏しているのは怪盗で、見下ろしているのが魔理沙だった。しかし、今は違う。

 霧の発生に大量の魔力を消費していた魔理沙は魔力の枯渇と共に一気に追い詰められた。

 魔力の切れた魔法使いなど普通の人間と同等レベルだ。魔界人である彼女に敵う道理がある筈もなく、魔理沙の魔力切れを機にあっけなく形勢は逆転した。

 怪盗の方も重傷ではあるが、魔理沙の魔力が枯渇した事により不可視化を妨げる首輪は外れており、まだ魔導書を奪っていく程度の力は残っていた。

 勝ち誇った笑みと共に短剣の切っ先を魔理沙の首筋に軽く当てて背中を向けて空へと舞い上がっていく。

 

「――ッ! 逃げるつもり!?」

「もうあなたには戦う魔力が残されていない。普通の人間になったあなたなんて殺す必要性もないわ。それに、私はもう疲れたわ。さっさと魔導書を取り返して、帰らせてもらうわ」

 

 宙高く舞い上がった怪盗は魔導書と霧雨のいる倉庫の方に短剣を向ける。同時にその切っ先に魔力が集まっていくのがわかる。

 魔理沙の顔に焦燥が浮かんだ。

 

「なッ! 待て、お前、何するつもり!?」

「決まっているでしょ? 魔導書が倉庫にあるのは気配でわかった。だから、屋根を吹き飛ばして取りにいかせてもらうわ。ここまで体力を消耗させられたらもう穏便になんて済ます余裕がないわ」

「や、やめなさい! 倉庫にはまだ――――」

「やめろと言われてやめるように見えるかしら?」

「くっ!」

 

 魔理沙は立ち上がって霧雨商店の中へ走っていく。

 最早飛ぶだけの魔力すら惜しい状況であった。

 

「何をする気かしら? まぁ、もうあの魔法使いに私は止められないでしょうけど」

 

 十分な魔力が集まり、紫色に輝く光球が出来上がるのを見ると、怪盗はそれを躊躇なく倉庫に向けて放った。

 空気すら震わせる程の爆発音と共に応急処置で直した倉庫は容易く砕け散り、ほとんど全壊していた。

 炎に包まれる倉庫に悠々と降りていく怪盗は真下にいる二人の人間を見て顔をしかめた。

 

「あなた、何故そこに居るのかしら?」

「お、おい! 大丈夫か!? 秋雨さんよぉ!?」

「う、五月蠅い……黙って魔導書抱えてなさい……!」

 

 滅茶苦茶に壊された倉庫内に、何故かついさっき霧雨商店の中に入ったばかりの筈の魔理沙の姿があった。

 屋敷の間取り上、全力で走っても三分はかかる筈である事は怪盗も知っている。

 だからこそ、魔理沙が何故倉庫に居て、しかも魔導書を抱える男性をなけなしの魔力を振り絞って守っているのか。

 何もかも怪盗は分からなかった。

 

「あの怪盗は私が相手するから……お前は、早く逃げなさい!」

「でも、あんたもうボロボロじゃねぇか!」

「どうでもいいでしょ! 人里を守りたいんでしょ!? だったらその魔導書奪われる訳にはいかないでしょうが! そこの隠し扉、まだ生きてるから、早く!」

「隠し扉? お前、なんでその事を知って……」

「早く行きなさい!」

「遅いわね」

 

 魔理沙が強引にでも霧雨を逃がそうとした瞬間、霧雨と魔理沙の間に短剣が刺さる。

 怪盗が降りて来て再びその短剣を引き抜くと今度はどの刃を魔理沙の首に当てる。

 

「成程、隠し扉ね。その方向だと客間とつながっているのかしら? 納得だわ。でも、もう終わりね。あなた、私の邪魔をし過ぎたわ。ここで殺すわね?」

「……ッ!」

 

 流石にもう反撃する魔力など残ってはいなかった。

 怪盗の攻撃の余波から霧雨を守るために残していた魔力をひねり出すので精一杯だった。もう、諦めるしかない。そう魔理沙が目を閉じた瞬間、霧雨から怪盗に向けて何かが投げつけられる。

 しかし、容易く怪盗は片手でそれを受け止めた。

 

「ん? こんな攻撃で私が怯むとでも――――なッ!?」

「……お前の目的はそれだろうが」

「――まさか!?」

 

 魔理沙が目を開けて怪盗の手に握られているものを見る。

 それは今まで必死に守り抜いて来た魔導書だった。

 

「そいつはくれてやる。だから、帰れ!」

「お、お前一体何考えて……!」

「お前は黙ってろ!」

 

 信じられないという表情の魔理沙に霧雨は罵声を浴びせる。

 怪盗はしばらく魔導書を見つめると、魔理沙の首にあてがっていた短剣を腰の鞘に戻す。

 

「いいわ。確かに、欲しいものは手に入った。もう私がここを訪れる事もないでしょう」

「ああ、そうしてもらいたいぜ」

「では、御機嫌よう」

 

 そう言って、怪盗は再び天高く舞い上がり、その姿を消した。

 

「な、なんで……あんなに人里を守るためにって」

「……うるせぇ。いいんだよ、これで」

 

 その言葉と同時に魔理沙の体力は限界を超え、その意識は途切れた。

 そして、解除されていく変身と共に姿を現した金髪の少女を見て、霧雨は大きく溜息をつく。

 

「全く、世話のかかる馬鹿娘だ、畜生」

 

 

「ただいま、帰りました」

「あら、夢子ちゃん、おかえりなさい。あら、随分ボロボロなのねぇ」

「はい、神綺様。少し、手こずりまして」

 

 魔界。怪盗がその中心部に立つ大きな屋敷に帰り着くと共に、その家主であり、また魔界の創造主でもある魔界の神、神綺が彼女を出迎えた。

 夢子と呼ばれた怪盗は膝をついて頭を下げる。

 

「あ、夢子! どうだった? 私の魔導書は? 取り返してこれた?」

「はい、アリスお嬢様。こちらに」

 

 その神綺の後ろから顔を出す、金髪のショートヘアに赤いカチューシャを付けたアリスと呼ばれる少女に夢子は霧雨商店から奪ってきた魔導書を手渡した。

 それを手に取った途端、アリスは目を爛々と輝かせてはしゃぎまわる。

 

「ありがとう! 夢子!」

「いえ、喜んで頂けてなによりです」

 

 夢子は太陽のような笑顔を振りまくアリスに笑って返答する。

 アリスはしばらく魔導書に頬ずりしていたかと思うと、突然思い出したかのように夢子に尋ねる。

 

「あ、そういえば、夢子にあげた私の『人形』は?」

「申し訳ありません、どうやら壊されてしまったようです」

「……へぇ、人間でもあれ、壊せるのね」

 

 夢子の言葉に、アリスが目を細めて興味深そうに笑うのが見えた。

 そのまま何か呟いていたかと思うと、アリスは夢子の前から走り去って自分の部屋へと戻って行った。

 今度は残った神綺が夢子に尋ねた。

 

「それにしても、本当に苦戦したようね。人間ってそんなに強いのかしら?」

「一人、魔法使いが紛れていました。それに、初夜に魔導書を取り戻しに行く時、私が現れるのが事前にわかっていたような様子だったのが気になります。そのせいで十分な対策を練る時間を与えてしまっていました」

「誰かがいち早く夢子ちゃんの襲撃の情報を掴み、人間達に教えた、という事ね?」

「おそらくは……」

「それはそれは、人間も侮れないわね」

 

 神綺はそれを聞いて頷きながら不敵な笑みを浮かべる。

 

「――今度、私達も行ってみようかしら」

 

 そして、笑いながらそう呟いた。

 

 

「それで、これが怪盗の仲間なのか?」

「はい、確かに俺達に襲い掛かって来た筈なんですが……」

「うーん? 本当かよ? だってこれはどうみたって……」

 

 翌日。蓮一達は霧雨の元に裏門で倒した敵を見せに行っていた。

 しかし、霧雨は改めてフードをめくってその敵二人を確認するが、まだ信じられない様子だ。

 それもそうだろう。何故なら昨夜蓮一達が戦っていた敵の正体は――――

 

「どう見ても、これ、『人形』だよなぁ?」

 

 それは精巧に作られた陶器製の人形であった。

 昨夜、蓮一と小夜が攻撃した個所には大きくヒビが入っている。命を持たない筈の人形が動いて自分達に襲い掛かって来たというのだ。

 蓮一達には信じがたい事実であった。

 

「もしかしたらこういう魔法があるんじゃ?」

「あ、じゃあ魔理――子さんに聞けばいいんじゃ?」

「あいつはもう帰って行ったよ。もうここに来ることもねぇだろうな」

「え?」

 

 蓮一はその霧雨の台詞に素直に驚いていた。

 まさか蓮一達に挨拶もなしに勝手に帰るような人ではない筈だった。それに、霧雨の表情もどこか冴えない。

 蓮一は色々と詮索したい気持ちを抑えて、その場は何も聞かなかった。

 

「――まぁ! なんにせよこれで怪盗騒ぎは終いだ! ありがとうな、蓮一、小夜ちゃん! お前達のおかげで助かったぜ!」

「え、いや俺達は依頼なんて達成してないですよ。結局魔導書だって奪われましたし……」

 

その言葉に霧雨はその大きな掌を蓮一の頭に乗せる。

 

「いいんだよ! 依頼人が満足してんだ! 素直に依頼達成ってことにしとけ!」

「じゃあ、お言葉に甘えてそうさせてもらいます」

「おう! あー、だけど報酬は悪いがなしだ。これだけ店を壊されちまったからな! ガハハハハ!」

 

 そうして、ようやく長い二日間の怪盗との戦いは幕を下ろした。

 色々な事が不完全燃焼で終わってしまった依頼だったが、その中で確かに得たものはあった。

 

「じゃあ、蓮一さん! 今日はもう自警団のお仕事はお開きにしてパーッと気分転換しましょう」

「え、気分転換って、そんな急に!?」

「大丈夫です、蓮一さんはただついて来れば大丈夫です。色々と荷物を持ってもらうので」

「うわー、気が滅入るなぁ」

「これも修行です」

「気分転換だろ!?」

 

 そう二人で笑いながら早速里へと駆けだしていく。

 

「今日は依頼達成記念で豪華な夕食にしますからね、蓮一さん!」

「楽しみにしてるぞ、小夜!」

 

 少なくとも、小夜との関係には一つ進展があったのかもしれない。

 蓮一は手を振る小夜に同じく手を振り返しながら彼女の元へと走って行った。

 




ついに依頼達成です。
長かった依頼編も終わってようやく人武祭編に入れます。

とは言っても、来週の分を投稿した後。作者、試験のため休載いたします。

申し訳ありません。留年だけはしたくないんです(遠い目)
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。