東方史上最強の弟子 レンイチ   作:浜栲なだめ

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一次予選終了。
二次予選開始。


第四十四話「チーム戦」

『蓮一選手、一次予選、堂々のトップ通過あああああああ!』

 

 観客席中に実況の高らかな声が響き渡る。

 同時にそれを観客席で満足げに聞く六人の豪傑の姿があった。

 

「凄い、蓮一君、この数日でとんでもない成長じゃないか」

「これもわいちゃんらが日々厳しく鍛え上げた成果ね!」

「すごいよ! 蓮一! 正直攻撃の軌道とか丸見えだったけど、それでもすごく強くなったよ!」

「蓮一……頑張っ……た」

「そうね。あいつにしては上出来な結果ね。一体何をしたのよ? 靈夢?」

「いえ、ただ、普段から積み上げてきた基礎。それを昇華させる手助けをしてあげたまで。全て蓮一の努力の賜物よ」

 

 靈夢はそう静かに呟き、ステージの中央で拳を掲げる蓮一を見て微かに笑顔を見せた。

 その後、数十分してからようやく他のステージでも勝負が着き始め、その度に観客から大きな歓声が上がる。

 既に会場のボルテージは限界まで上がり切っていた。

 そして、最後のステージの決着が着くと、実況がまた声高らかに喋り始める。

 

『ここで! ついに一次予選がすべて終了! 壮絶なバトルロワイヤルを勝ち抜いた猛者はこいつらだあああああああ!』

 

 その声と同時に巨大なキューブ型のスクリーンが降りて来て、その側面に五十名の顔写真が映し出される。

 さらに、会場の中央のステージが割れ、その下から煙と共に生き残った五十名の選手達が観客達の前に姿を現す。

 

『それでは、ここで! 勝ち残った猛者達一人一人を余す事なく紹介していこうと思います! ナンバーワンは勿論この人! 四剛を瞬殺した超新星ルーキー! 自警団、蓮一選手うううううう!』

「うおっ、眩しい!」

 

 実況が蓮一の声を呼ぶと、天井のスポットライトが動いて、蓮一を照らしだす。同時に数多の歓声が蓮一を包み込む。

 

「蓮一! これからも大波乱、期待してるぜー!」

「きゃー、かっこいいー!」

「蓮一ー! 頑張れよー!」

「うわ、凄い歓声……俺がこんなに歓声を受けるなんて……」

『さぁて、蓮一選手! 一言どうぞ!?』

「え!? 急に!?」

 

 突然、実況から何か言うよう促され、蓮一は言葉に詰まってしまう。何も考えていなかった上に、慣れない歓声に最早頭が真っ白の状態の蓮一は自然と浮かんだことを叫ぶしかなかった。

 

「――倒す」

『んん?』

「全員、倒して、俺が頂点を、獲るッ!」

 

 瞬間、会場中が無音になり、蓮一はやってしまったと言わんばかりに慌てて口を塞ぐ。しかし、一拍置いて、会場中はさらに熱気を増した歓声に包み込まれた。

 

「うおおおおおお! 頼むぜ、優勝!」

「蓮一! 蓮一! 蓮一!」

 

 いつの間にか、蓮一コールまで始まってしまっている。

 さらに、周りの他の選手達からの好戦的な視線が背中を刺してくる。

 

『ハッハッハッハ! 素ん晴らしいいい! 最高のコメントだよ、蓮一選手ぅ! 熱い優勝宣言をありがとおおおう! さて、次の選手は、おっと、この人も超新星ルーキー! ほんの少し前に人里を巻き込んで自警団に大喧嘩をふっかけた超大物元指名手配犯! 武村選手ううううううう!』

「はっはっは! よろしくじゃな~い!」

「えええええええええええ!?」

「お、蓮一じゃないか、久しぶり!」

「な、何で、あなたが、ここに……」

 

 スポットライトに照らされ、観客達に果敢に手を振る彼は蓮一の姿を捉えると、ニヤリと笑って蓮一の方にも手を振った。

 

「いや、面白い事になりそうだからって出してもらったんだよ、団長さんにね」

「あの人は……」

 

 人武祭の出場条件は種族が人間であること、それだけだ。ついでにハーフもありなので霖之助のような半妖でも出場可能というゆるさである。

 今更元指名手配犯が出た所で不思議もないのであろう。観客はむしろそれを面白がるように武村に声援を送っていた。

 

『さぁ、どんどん参りましょう! お次はこの方! 剣の技なら並び立つ者なし! 皆様ご存じ人里剣術道場師範、岩流選手ううううう!』

「うむ」

「岩流さん!」

「蓮一殿。息災でなによりだ」

 

 依頼の時からまだ一か月も経っていない筈なのに、木刀を携え、微笑む岩流は以前よりも大分逞しくなったように見える。

 物腰が落ち着いているし、なによりこんな時でも少しの隙も感じない。

 普段の高天原の師匠達を見ている様で、自然と蓮一も姿勢を正してしまう。

 

「……言伝、受け取りましたよ」

「ああ、この人武祭。私は、丁度いい機会だと思っている」

「丁度いい機会?」

「ああ、蓮一殿。是非、この人武祭で、あなたと手合せ願いたい!」

「お、俺と……?」

「ああ、師匠と鈴鹿殿の闘い、その再現たる試合を所望する」

 

 岩流の目は本気だった。

 蓮一も何も言わず、ただ静かに頷き、視線を交わす。

 おそらくは自分と同等かそれ以上の相手。蓮一としても、力試しとしては格好の相手である。

 そして、この人武祭、しいては人間の頂点を目指すうえでは確実に倒すべき相手に違いなかった。

 

「な~に、二人でライバルみたいな雰囲気かもちだしているのさ。ていうか、蓮一との戦いを望んでいるのは僕も同じじゃな~い」

「た、武村!」

「……貴方が、噂の拳鬼か」

「その通り、よろしくねぇ」

「ふ、貴方ともひりつくような闘いが期待できそうだ」

 

 岩流と武村の間で火花がほとばしる。

 武村が赤なら岩流は青。対照的な二人のライバルの図に蓮一は何故か余計に胸が高鳴っていた。

 

「じゃあ、俺達三人。この人武祭の頂点を目指す同士にしてライバルといったところだな?」

「負けないじゃな~い?」

「うむ、私も同じだ」

 

 三人は闘志を燃やしながら笑い合う。

 そんな中、依然として選手紹介は続いていく。

 

『お次は、隣の村からやってきた……えーと、警察官? 小兎姫選手うううう!』

「みんな~、小兎姫のこと応援してくれないとぉ~、逮捕しちゃ~う、ぴょん!」

「うおおおおおおおおおおおお!」

 

 会場の男子勢から一際大きい声援が送られていた。

 

「あ、あの人……さっきとキャラが違う!」

「あ、小夜ちゃんだ~! おーい!」

「しかも見つかった!」

 

 小兎姫のテンションに戸惑いを隠しきれない小夜は若干彼女から引くようにして彼女と相対する。

 

『続いて~、我らが期待の星! 当代博麗の巫女、博麗靈夢様の娘さんにして、将来の博麗の巫女! 最年少ながら、見事、一次予選を通過してあらせられます! 博麗霊夢選手うううううう!』

「恥ずかしい、紹介ねぇ……」

『霊夢~、頑張って~』

『ああっと! なんと紫様からも応援のお声がかけられました!』

「あ、あの……くそババア! 私の悪目立ちを狙ってるわね!?」

「靈夢ー! 頑張れえええ!」

『な、ななな、なんと! お母様までいらしてらっしゃったようです!』

「う、嬉しいけれど……母さんったら……」

 

 霊夢は顔を赤らめて俯き、スポットライトの光から逃げるようにして人ごみに紛れていった。

 

『続いては~、なぜ人武祭に出てきたのか? 今大会のダークホースとも言えるでしょう、幻想郷、唯一の科学者! 岡崎夢見選手うううう!』

「どうも」

「あ、教授、生き残ってたんですね」

 

 スポットライトに照らされ、落ち着いた様子で手を上げる夢見に、蓮一は声をかけた。

 

「ふふ、君の方こそ。随分と大活躍だったそうじゃないか。あの四剛相手に」

「こんな所で負けてられませんよ! 師匠に怒られます!」

「そうか、君には武術に長けた師匠がいるのか」

 

 そんな夢見と蓮一のやり取りを遠目から見て、小夜はため息をついた。

 

「また、蓮一さん、他の人と話してる。しかも女の人……相変わらずすぐに人と仲良くなっちゃうんだから……それに、私と違って予選から大活躍だし」

「小夜ちゃん、どしたの?」

 

 小夜は、劣等感を抱え始めていた。

 このままでは自分が修行した成果を見せられない。もっと蓮一に近づきたいのに、その差は開くばかり。

 

「きっと、私の地味な試合なんてほとんど誰も見てくれていないだろうし……」

 

 大男四人に一斉に襲い掛かられたものの、冷静に対処しきり、一次予選を突破し、自分としては満足できる結果だと思った。

 しかし、その遥か先に、本選出場候補を軒並み瞬殺したという蓮一がいた。

 小夜の心の内はあっというまに劣等感に覆いつくされた。

 

『さて、次は自警団の華! あのジャンヌ様一押しの麗しの美少女! 先の試合でも大男四人の攻撃を見事に掻い潜り、全てを返り討ち! 美と武を持ち合わせた我らが綺羅星! 小夜選手ううううう!』

「え?」

「うおおおおおおお、小夜さああああん!」

「さっきの試合見てたぜぇ!」

「小夜さああん! かっこよかったですよー!」

「え、嘘……」

『お、おおっと、なんという大歓声! かくいう私も彼女のファンですが! ここに来て、今までで一番の声援だあああああ!』

 

 実況の言葉に嘘偽り、世辞はなかった。

 明らかに、初めの蓮一以上に会場は小夜の声援に包まれていた。

 その中には男性だけでなく、女性の熱烈な声援も混じって聞こえる。

 隣の小兎姫が彼女に笑って告げた。

 

「小夜ちゃん、いつだって、あなたの頑張りを見つめている人は確かにいるの。それがこんなにも大きな声になる。誇っていいのよ、これがあなたの積み重ねてきた努力、そしてあなたという人の魅力」

「わ、私、生まれて初めてこんなたくさんの人から応援されました……!」

 

 嬉しさのあまり、小夜は前に一歩踏み出していた。

 そして、ありのままを叫んでいた。

 

「私! 頑張ります! 皆さん応援、よろしくお願いしまあああああああああすッ!」

「うおおおおおおおおおおお!」

「勿論だあああああ!」

「一生ついていくぞー!」

「小夜さんかっこいいいい!」

 

 鳴りやまぬ声援に、小夜は満面の笑みで返した。

 

「……ふふ」

「ん? 幽香どん、随分と嬉しそうね?」

「やっぱり……手塩にかけた弟子だか……ら?」

「ここ数日は蓮一君の時よりも熱が籠っていたからね。私達が覗き見していても気付かない程度には」

「アバ!」

「う、うるさいわね!」

 

 ニヤニヤと笑う刃空達に幽香が声を荒げる。

 その隣で靈夢が同様ににやつきながら、どこか優しい口調で言った。

 

「幽香、弟子っていうのも、いいものでしょ?」

「…………まぁ、そうかもね」

 

 誰にも聞こえなさそうな程の小声で、幽香は一言そう呟き、顔をそむけた。

 

『さて、ラスト! その出身、性別、容姿、全てが謎に包まれております! 今大会一番の変り種! ローブの戦士、アイリス選手ううううう!』

 

 その実況の声と共に、ローブで全身を包み、さらに深くフードを被ってその顔すら隠す、謎の人物がスポットライトに照らされた。

 観客も流石にその正体不明の人物にはこれといった歓声が遅れず、会場全体をどこか変な空気が流れた。

 それを素早く察知し、実況がマイクを手に取る。

 

『で、では! 選手の紹介を終えた所で! 次の二次予選の説明に進みましょう! 二次予選の内容はああああああ!』

 

 実況が急に流れ出すドラムロールと共に、目いっぱいまで発表を引き延ばす。

 

『――二次予選! 内容は! チーッムッ戦ッ! でございます!』

「ち、チーム戦?」

「こんなの去年はなかったよな?」

「予想もつかんぞ?」

 

 チーム戦。その言葉を聞き、選手にも、観客達にも困惑した空気がたちこめる。

 事実、蓮一自身も意外でならなかった。まさか、この人武祭で自分以外の仲間という存在ができるなどという状況があり得るなど。

 

『そぅれではあああ! まずはチームを決めちまいましょうッ! チームは五人一組、機械によって完全にランダムに決められます! そして、その注目の抽選結果は!?』

 

 同時にキューブ型のスクリーンの絵が変化し、五人一組に分けられたチーム分けの結果が映し出される。

 観客、選手、両名の視線が一点に集中する。

 蓮一も急いで自分のチームを確認したかった。このバトルロワイヤルに生き残っている時点で皆ある程度は強い。しかし、それでもさらにその中でも強い者と組みたい。それは、蓮一だけでなく全員が思っていることなのである。

 

「あった、1~10グループある中での3グループか。メンバーは……」

 

 グループ3

 蓮一選手

 武村選手

 岩流選手

 岡崎選手

 玄亀選手

 

「うわぁ、知り合いだらけだぁ……」

 

 蓮一は安堵すると共に、呆れてしまった。

 ここまで自分の知り合いだらけで埋め尽くされると今後敵になるかもしれない相手の調査ができない。

 辛うじて玄亀という選手だけは初対面だ。

 

『皆様、御自分のチームメンバーは確認できましたでしょううううううかぁッ! それではこれから各チームそれぞれくじ引きで相手チームを決定、その三十分後、各ステージに転送され、チーム戦を開始して頂きまぁす! そして、勝者チームのみ、最終予選に進めるという訳です!』

「成程、また半分、ここで落とされる訳だ」

 

 五十名居た選手がまた二十五名まで絞られる。

 ここでは個人の力とは別にチームの力も試されるという訳だ。

 

『それでは各チームは集まって代表を決め、その後ステージ中央に集まってください!』

 

 その実況の声が響くと、ステージ上の選手達はお互いの声を呼び合い、自分のチームメンバーを呼び集める。

 蓮一はその点、ほとんどのメンバーが顔見知りの上に皆比較的近くに居たおかげでそこまで集合に時間はいらなかった。

 

「まさか、このメンバーで集まることになろうとはね」

「敵ではなく味方になってしまうとは……」

「まぁ、いいじゃないか。皆そこそこ強そうじゃない」

「あとは、玄亀さんって人だけだけど……」

「あの、蓮一さん、で間違いないでしょうか?」

 

 後ろから突然話しかけられ、振り向くと、そこには2メートルはあるのではないかという巨体が蓮一を見下ろしていた。

 おそらくはこの人が玄亀だろう。

 

「あ、あなたが、玄亀さん?」

「はい、自分、玄亀といいます。よろしくお願します」

「ヒュ~! 君でっかいし、強そうだねぇ!」

「それに丁寧な物腰。好感が持てるな」

「背中に背負ってる大盾が武器かい? あなた結構面白そうね」

 

 他のメンバーの心象も悪くない。

 なんとかチームにはなりそうだ。蓮一が安堵していると、玄亀が口を開く。

 

「あの、一人リーダーを決める必要があるのでは?」

「ああ、そうだったじゃな~い」

 

 リーダーが次の対戦相手のチームをくじ引きで決めるのだ。

 

「うむ、それならば蓮一殿でいいのではないか?」

「まぁ、あれだけ活躍して目立ってるし、一番観客受けもいいと思うじゃな~い」

「ええ、そんな適当な!」

「私も賛成だ」

「自分も異論はないです」

「み、皆がそこまで言うなら……」

 

 こんな所で反対するのも仕方ない。どうせくじを引くためだけのリーダーだろう。

 蓮一は、取り敢えずリーダーを引き受け、会場の真ん中に向かう。

 既に何人か集まっている各チームのリーダーの中、見覚えのある顔を見かけた。

 

「あれ? 小夜、リーダーになったのか?」

「は、はい……一応……」

 

 小夜は恥ずかしそうに首を縦に振る。

 

「ひ、ひどいんですよ! 皆、面倒くさいから私に押し付けて! しかも協調性がなさそうなメンバーばかりだし……!」

「は、はは、取り敢えずお互い頑張ろう。ぶつかった時は容赦できないけどな」

「わ、私だって負けません!」

 

 直後、最後に来た一人を合わせて十人が揃い、中央に巨大なくじ箱が出現する。

 箱からは十本の棒が飛び出ており、おそらくは先端の数字か色が同じチームが対戦相手という形式だろう。

 

『それでは、好きな棒を掴んで一斉に引き抜いてくっださあああい!』

「これだ!」

「えい!」

 

 蓮一が引いた棒の先は赤色に染まっていた。

 隣の小夜は青。蓮一は安堵するのも束の間、急いで同じ色の相手を探す。

 緑、青、黒、黄。赤色の棒は見当たらない。

 

「あなたが対戦相手なのですね!」

 

 気が付くと、後ろに小さい女の子が不敵な笑みを浮かべて立っていた。

 その手には、先端が赤く染まった棒が握られている。

 つまり、この少女のチームが次の対戦相手。蓮一の心臓が高鳴った。

 

「私の名前は里香(りか)なのです! 蓮一さんが相手とはいやはや、私も運がないのです」

「何言ってるんだ? どっちが勝つかなんて勝負が始まるまで分からない。お互い、全力で戦おう」

 

 少し、落胆気味の少女に喝を入れるように言って蓮一は少女に手を差し伸べた。

 少女はその手を驚くように見つめ、それから満面の笑みを浮かべると、急に蓮一の胸に飛び込む。

 

「うおっ!?」

「わ、私、嬉しいのです! 私に心から対等に接して、そんなこと言ってくれる人、今までいませんでしたから!」

『ちょ、おいおい』

「……蓮一さん、何やってるんです?」

「さ、小夜!? ち、違う! これは!」

「ぎゅ~」

「そろそろ離れてくれ!」

 

 抱き着いたまま離れない里香を強引に引きはがした時には既に小夜の姿は消えていた。

 一方で里香は満面の笑みで蓮一に一礼すると走り去っていく。

 

「おやおや、蓮一、モテモテじゃな~い?」

「ちゃかさないでくれ」

「やはり女子はいつの世も強く、逞しい者に惹かれるもの」

 

 武村と岩流が意味深な笑みを浮かべて蓮一を見ていた。

 一方で、小夜チーム。

 

「あら、小夜おかえり。相手は、ああ、あの筋肉馬鹿共のチーム。楽勝ね」

「霊夢さん」

「ん?」

「絶対に勝ちましょう!」

「え? あ、もちろんよ。やけに気合入ってるわね?」

 

 チームメンバーの霊夢はくじ引きを引く前と後の小夜のやる気の差に大いに困惑していた。

 一方で里香チーム。

 

「お、おい、俺達の相手、あの蓮一のチームだって?」

「それに拳鬼の武村、剣術道場師範の岩流まで……」

「後の二人は見覚えがねぇが一人はとんでもなくでけぇ!」

「女一人くらいしか勝機がねぇじゃねぇか! 終わった……!」

 

 相手チームのそうそうたる面子を前に早くも意気消沈しかけているメンバーを見て、里香は苛立たしく舌打ちをし、一人の胸倉を掴んだ。

 

「何、始まる前から負けた気になってるのです!? それでもあのバトルロワイヤル生き残った猛者か! ああん!?」

「ひ、ひいっ!」

「で、でもよぉ、里香ちゃん……実際、あの相手じゃ俺らにゃ重すぎるってよお」

 

 里香の剣幕に怯えながらもそれでもメンバーから弱気な声は絶えない。

 まぁ、確かに相手があれだけ猛者と噂の粒ぞろいならば臆してしまうのは仕方ないかもしれない。

 だが、こちらには向こうのチームどころか、この会場の誰もが予想だにしない奥の手がある。

 里香は心の中でほくそ笑んだ。

 

(正直、本選までは『化け化け』だけで凌ぎたかったけど、流石にあの面子が相手じゃキツイのです。なら、他の出場者に恐怖を刻み込む目的でアレを出す!)

 

 里香は掴んでいた手を離し、そして笑った。

 

「安心するです、奴らに勝つ手はあるのです」

 

 

『さて、三十分が経ちましたぁ! それでは、全チーム準備はよろしいですかあ!? これより各対戦チームごとにそれぞれ別個のステージに移動して貰います! そこで戦闘を開始して貰う訳ですが、その勝利条件はたった一つ!』

「これを、お持ちください」

「ん? これは、ネックレス?」

 

 くじ引きから三十分。ほとんど戦略を練るというよりは雑談や自己紹介で終わってしまったが、取り敢えずチームの雰囲気は悪くない。

 これなら案外あっさり勝ってしまうかもしれない。

 そんなことを思っていると、黒服の係員から蓮一は綺麗な装飾の施されたネックレスを受け取った。

 他のチームでも一人がそれを受け取っているらしく、係員に促されるままそれを首に付けると実況が説明を続ける。

 

『勝利条件はチームのリーダーが着けているネックレス! それを奪うこと! それ以外は何も関係ありまぁせん!』

「なっ!?」

『それでは皆様頑張って~』

 

 瞬間、一次予選の時と同じく、体中が光に包まれ、蓮一達はまたステージに転送されていった。

 

「う……ん?」

 

 目をゆっくりと開けた時、目に入って来たのは青い空、照り付ける太陽、そして砂。

砂、砂、砂。見渡す限り砂に囲まれ、他は何もない。

蓮一達は砂漠へと転送されていた。

 

「ここは……砂漠……!」

「ほう、幻想郷ではあまり見ない地形だ。珍しい」

 

 悠長に隣で夢見が呟く。

 

「敵の姿は見当たらないじゃな~い」

「うむ、砂丘も多く、広大な地形。一応隠れようと思えば隠れられる場所もある訳だ」

「………熱いです」

 

 取り敢えず、メンバーは皆近くにいるようだ。

 この気温に加え、日陰も少ない地形。これは早急に決着を着けないとこちらがたおれてしまいそうだ。

 

「早く、相手チームを見つけましょう!」

「そうだねぇ……ん? ありゃ、なんだい?」

 

 蓮一の意見に同意を示す一同。

 そこで武村が蓮一の後方を指さして見せる。

 見ると、そこには何か半透明な生き物がいた。

 

「真っ白で」

「白い三角巾のようなものをして」

「足がなくて」

「舌を出して」

「浮いてる……」

 

 その生き物がこちらに凄い勢いで宙を舞いながら突撃してきたと同時に、全員その名前を声に出して走り出していた。

 

「幽霊だああああああああああああ!」

 

 明らかに漫画などで見た幽霊、そのものであった。

 

「嘘だろ!? 幽霊って砂漠に住んでるのかい!?」

「し、知らぬ! この辺りで彷徨い、果てた旅人の霊魂か何かであろう!」

「魔法は信じても幽霊まで信じる科学者ってもう科学者じゃないわよねぇ。ああ、でもこんな明るい昼間から見ちゃったし……否定できないわぁ」

「……少し、可愛い、です」

「皆、気をしっかり持ってください!」

 

 後ろを振り向くと、いつの間にやら一体しかいなかった幽霊が十体程に増えていた。

 

「増えたああああああ!」

「蓮一、落ち着け!」

 

 武村と岩流が同時に足を止め、それから半歩遅れて他の全員も向かってくる幽霊たちと相対した。

 

「取り敢えず、逃げてちゃ埒があかない! 戦うしかないじゃな~い!」

「うむ、それは賛成だ」

「ま、仕方ないな」

「自分、全力を尽くします」

「そ、そうだよな、敵の攻撃の可能性もある! よし、物は試し、戦ってみるか!」

 

 一方で、その様子を遠くから伺っている団体があった。

 

「隊長! 目標と化け化け隊が交戦状態に入りました!」

「よし! 随時、戦果を報告するのです!」

「隊長! こちらも大よその準備、完了しました!」

「弾薬、燃料、共に満タンです!」

「いつでも出れます!」

 

 双眼鏡で遠方を見渡す者、そして背後で『秘密兵器』の準備をする者。

 既に里香のメンバー四人はさっきとは別人のように変わっていた。

 里香はその様子に満足げに鼻を鳴らすと高らかに指示を出す。

 

「よし! お前達は先に乗り込んで出撃準備をしてるのです!」

「イエス、マム!」

「化け化け隊の戦果報告はどうしたのです!」

「そ、それが……」

 

 迅速に行動を始める三人の男達とは正反対に、望遠鏡で化け化け隊と蓮一チームの交戦状況を見ていた男は顔を青ざめさせている。

 里香が男から双眼鏡をひったくって化け化け隊の方を覗く。

 

「な、なんだと……なのです!」

「ふう、案外あっさり倒せて安心したじゃな~い」

「霊魂にも剣は効くのだな……」

「霊魂っていうよりは何か特殊な生き物ね」

「可愛かったのに……」

「ふぅ、よし! 進みましょう!」

 

 そこには、化け化けは一体も残っていなかった。

 余りにも一瞬で化け化け達は蓮一チームに倒されてしまっていた。

 里香は数秒口を開けていたが、その後、すぐにその驚愕は失せ、代わりに笑みがこみ上げてきた。

 

「ふっふっふ! それでこそ倒しがいがあるのです!」

「隊長……?」

「総員、出撃! 状況を開始、なのです!」

「イエス、マム!」

 

 辺りを見回しながら近づいて来る蓮一チームを見て、里香はほくそ笑みながら、背後でエンジン音を立てる『それ』に搭乗する。

 

「ククク、目に物見せてやるのです!」

 

 




人武祭出場者紹介

四剛(オリキャラ)
金剛、剛田、東剛、剛州の四人を合わせて呼ぶ際の呼称。
それぞれゴリラ、サル、チンパンジー、オランウータンに似ている。
一次予選、バトルロワイヤルにて蓮一と当たったが瞬殺され、敗退。
毎年本選出場候補として上がる猛者らしいが、腕っぷしが強そうということ以外に今の所活躍がない不憫なかませキャラクター。
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