東方史上最強の弟子 レンイチ   作:浜栲なだめ

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第四十五話「不協和音」

 

 この人武祭のルールでは、参加者は武器の携帯が許されている。

 ただし、死人は出せないという名目上、殺傷力の高い刀や、あまり使っている者はいないが、銃火器の類には制限がかかる。

 刀ならば木刀に差し替えるだけで問題はないが、銃火器は基本持ち込み禁止であるため、それを武器に戦う参加者は基本、別の武器を探すか無手で戦うことになる。

 また、人武祭に持ち込める武器類は基本、携帯可能なものに限られており、武器は持てる、もしくは背負うことの出来る分だけ。さらに、自分の身体よりも遥かに大きく、持つことができないようなものも人武祭には持ち込むことはできない。

 それらを無理に持ち込めば強制的に失格になる。

 しかし、これらのルールには一つ、例外が存在している。いや、例外というよりは抜け穴と言った方が無難だろう。

 あくまで今のルールはあくまで会場への持ち込みが不可能という制限しかかかっておらず、人武祭中で使用が不可能であるとは一文たりとも書かれてはいないし、言われてもいない。

 つまり、それらの武器を会場内で『調達』できた場合にはその限りではないのである。

 

 

 蓮一達がそれを見たのは、試合が始まり、化け化け呼ばれる謎の生物を残らず倒した直後であった。

 

「おいおい、なんだいアレは?」

 

 最初に気が付いたのは武村であった。

 照り付ける太陽から照射される熱に汗を流しながら、武村は前方を指さしてそう言った。

 最初はわからなかったが、他の全員も徐々に、自分達に向かって近づいて来る巨大な敵の存在に気付いた。

 

「あれは……鉄の、猪か!?」

「自分、あんなに大きな猪は見たことないですが」

「ほー、珍しいなぁ。久々に戦車なんて見たよ」

 

 戦車、という聞きなれない単語を口に出したのはこのチームの紅一点、岡崎夢見である。

 他の皆が不思議そうな顔をして夢見を見つめるのを見て、夢見はその戦車について詳しい補足を話し始めた。

 

「私のいた世界では知れ渡っているありふれた兵器なんだがね。あれは戦車という動く砲台だよ。大砲の持つ敵を一発で殲滅する超火力、車の持つ自由自在な高い機動力、そして鉄の持つ堅固な防御力を全て一つに纏めた科学兵器さ」

「私の居た世界?」

「蓮一。君はどうでもいい所に着眼点を置くんだねぇ? 私の話をしっかり聞いていれば私のことなんかよりも重要な事項が山ほどあったと思うがねぇ」

「確かに、今の話が本当なら攻撃もスピードも防御も持ち合わせた化け物じゃな~い」

「だが、そんな掟破りな兵器を運営側が果たして易々と認めるだろうか?」

「でも、運営は何も言ないですね……」

 

 玄亀の言葉で全員が押し黙る。

 運営が近づいて来る戦車という掟破りの超兵器に対して、何もアナウンスをして中断しないということは、つまり、そういうことなのだ。

 

「大分距離があったのにもうあんなに近づいて来ている。相当、早いじゃな~い、あの戦車」

「ふむ、あれだけ目立つものを今までどうやって隠していたのか疑問はあるが、まずは目の前の危機を回避するのが最優先だな」

「やるしかないですね!」

 

 そう蓮一が全員を見回して頷いて見せた瞬間、戦車の砲塔から爆炎と煙が吹き出し、ドン、と空気を震わせる程の轟音を響かせたかと思うと、次の瞬間、蓮一達の数メートル右にあった砂丘が爆散し、後には巨大なクレーターとその中心に煙を立てている両手に収まりきらない程大きな真黒な鉄球が深く砂にめり込んでいた。

 

「おいおい、今のが、戦車の攻撃かい? 本当に大砲じゃな~い」

「言ったでしょ? あれは動く砲台。あれの一撃をもろに食らえばどんなに頑強な人間だって原型を留めない程度には無惨に死ぬ」

 

 その夢見の一言に全員の表情から血の気が引いた。

 

「――こちら、(フラワー)1! 隊長! 第一射、ターゲットの右、約10メートルに逸れました!」

「よし、射角調整、次発装填、急げ! 奴らが混乱している今が好機なのです!」

「イエス、マム!」

 

 無線機から流れてくるチームメンバーの報告を聞きながら、リーダーである里香は満足げにほくそ笑んでいた。

 里香は人間の中では数少ない、そして蓮一と同じ能力持ちである。その能力は『材料から完成品を作製する程度の能力』。

 あくまで、作り出す物に見合った必要量の材料の調達と、作り出す物の構造に関して深い理解が必要になるが、その条件さえ揃えばどんなものでも数秒で作り出すことのできる能力である。

 先刻倒された化け化けも実は彼女の能力の産物であったりする。

 

「くく、正直運が良かったのです。まさかこんなに材料のあるステージで戦うことになるとは」

 

 里香の作ったものは二種類の戦車。一種類は自分以外のメンバーが乗っている『ふらわ~戦車』。そして、もう一つは里香自身の乗る司令機、『イビルアイΣ』。

 そして、その材料はこのステージ中に無限に溢れかえる砂、である。

 大量の砂とその砂の中に含まれる砂鉄を材料に用いれば、後は戦車技師を本職とする里香の専門知識で要所をカバーし、戦車を精製する事は可能であった。無論、装甲強度や精密性、機動力諸々、本物に比べれば酷い劣化品ではあるが、それでも生身の人間からすれば脅威同然の兵器には変わりなかった。

 

「さぁ、この私の戦車達から無様に逃げ惑うがいいのです!」

「――こちらF1。次発装填完了、射角調整良し! いつでも撃てます!」

「よし、撃てぇーーーー!」

 

 無線機から伝えられる攻撃準備完了の報告。

 里香はここぞとばかりに声を張り上げ、砲撃命令を下した。

 

「とにかく、今はここから離れるぞ!」

「離れるって、どこにさ!?」

「それは……」

「――ッ! 全員伏せて!」

 

 突然の強大な敵の出現に混乱するチーム。その中で、戦車の砲塔が自分達の方向に真っ直ぐと向き直るのを夢見は見逃さなかった。

 夢見の言葉の直後、再び砲塔から轟音が鳴り響き、今度はその砲弾は寸分違わず蓮一達目がけて目にも留まらぬスピードで飛んできた。

 蓮一は一瞬、死を覚悟し、目を閉じる。

 が、その砲弾は蓮一達の誰一人をも傷つけることはなかった。

 

「きょ、教授!?」

「危ない所だった。私は幻想郷(ここ)の魔法使い程魔法に長けている訳ではないのだから、あまり私を頼らないでくれよ?」

 

 砲弾は空中で透明な壁にぶつかり、制止していた。

 夢見がとっさに作り出した魔法の防御癖であった。しかし、砲弾は無事防げたはいいものの、夢見は明らかに魔力を大きく削がれ、消耗しているように見える。

 そう何度もアテにすることはできないかもしれない。

 そう確信した瞬間、蓮一はとっさに声を上げていた。

 

「全員、一旦退避! そこら辺の砂丘に隠れます! 教授、魔法で目くらましを頼みます!」

「言われずともわかっている!」

 

 夢見が汗ばんだ額を乱暴に右手で拭いながら手を前に掲げる。

 巨大な魔法陣が地面に現れ、その数秒後、まるで空に吸い込まれるかのように地面の大量の砂が空に舞い上がったかと思うと、数十メートルまで舞い上がったところで、一気に地面に降り注ぐ。

 砂漠の細かく乾いた砂はそれだけで巨大な煙幕となった。

 

「今の内だッ!」

「た、隊長! ぜ、前方の視界が塞がれ、ターゲットが見えません!」

「姑息な真似を! まぁ、いいのです。F1は周囲を警戒しつつその場で待機! いつでも砲撃ができるよう準備しておくです!」

「イエス、マム!」

「さぁて、戦いの主導権は依然私達にあるのです。焦らず確実に追い詰めるのです!」

 

 

「くそ、あいつら、なんてもの持って来るんだ!」

 

 取り敢えずは近くにあった大きな砂丘の後ろに蓮一達は身を隠すことができた。

 しかし、こんな程度の隠れ場所ではいずれは見つかってしまう上にどちらにせよこの暑さでは長期戦は酷だ。

 向こうは戦車の中に入っているからまだいいが、こちらは直射日光を受け、滝のような汗を流し続けている。

 あと一時間もすれば全滅してしまう可能性も十二分に考えられた。

 

「とにかく、この暑さでは長いこと持ちません。早急に対策を練りましょう」

「対策って言ったって……まずは近づいて一発ぶん殴ってみるしかないだろう!」

「私も賛成だ。まずは近づかないことにはどうしようもない」

 

 武村と岩流は揃って戦車に近づく方針を推奨する。

 しかし、夢見は二人の意見に首を横に振った。

 

「それは自殺行為だ。そもそもあの装甲は殴ったり木刀で叩いたりして壊れるものではない。それにあの戦車が一体どれだけの重量を持っていると思っているんだ? 近づいても轢かれて終わりだ」

「自分も、あれに不用意に近づくのは良くないと思います」

 

 夢見の意見に玄亀も賛同する。

 

「じゃあ、どうする!? 僕達の中で近づかずに攻撃できる奴なんて岡崎一人しかいない! 一人でどうにかできるっていうのかい!?」

「だから、近づかずにあの戦車をどうにかする方法をこれから考えようという話じゃないか!」

 

 どうも、二人の様子がおかしい。

 いつもならもう少し落ち着いて話ができる二人が、何故か妙に攻撃的な口調だ。

 蓮一の頬を嫌な汗が流れ始めた。

 

「やっぱり全員で近づいて攻撃するのが最善だろう! あの装甲だって全てが頑強な筈がない! それに、あの戦車とかいうのに急な小回りや旋回ができるとは思えないし、砲撃も近すぎて撃てなくなるじゃな~い!」

「だから、そんなことしてもあの装甲は生身の人間がどうこうできるものじゃない! それに近づくと言ったってあの砲撃を避けつつ近づくなんて隠れる場所もろくにないこのステージじゃ無理だ!」

「そんなのやってみなくちゃわからないだろ!」

「やらなくたってわかる!」

 

 武村と夢見の論争はさらにヒートアップし、より険悪な雰囲気の満ちたものとなっていた。

 

「じゃあ、君の魔法であの戦車をどうにかできるのか!?」

「できなくも、ない。ただ……できればそれだけの大魔法はもう使いたくない」

「はぁ!?」

 

 これには武村だけでなく岩流や玄亀も顔をひきつらせていた。

 

「お前、何言ってるんだ、この状況で!?」

「予選は明日もある。魔力は体力と違い一日や二日で全回復するものではないんだ。ここでそれだけの魔力を浪費すると私の予選突破が困難になる」

「それはあまりに自分勝手が過ぎるのではないか、岡崎殿? これはチーム戦だ。ならば個々が皆のために協力すべきだ」

「だったら(仲間)のために出来る限り魔法を使わずに勝つ方法を練って欲しいな」

「ふざけるな! 今ここで勝たなきゃまず次に進めないんだぞ!? 後のことなんて考えてる場合か!」

「お前のような脳筋にはわからないだろうさ。私のような魔法使いの戦い方はな」

「なんだと、この……!」

「ちょ、二人とも仲間割れはやめてくれ!」

 

 チームにひびが入り始めていた。

 相手の予想外の戦力が巻き起こした混乱、動揺、そしてこの暑さだ。状況に苛立ちが募るのも無理はないだろう。

 しかし、止めに入るのがあまりにも遅すぎた。

 四人は蓮一を睨み付けるように視線を送ると言った。

 

「そういえば、さっきから蓮一は一言も意見を言っていないじゃな~い。君はどうなんだい?」

「え?」

「そうだな、リーダーはどう思う。近づくべきか、否か」

「そうだな、リーダーに決めて貰おうじゃないか。私は信じているよ。君が正しい判断をしてくれるのを」

「よろしくお願いします」

「え、いや、俺は……その……」

 

 突然の問いかけに蓮一は答えを返せずにいた。

 どちらの意見も正しいとは思う。ただ、どちらに決めるかと言われてもまだ蓮一には明確な答えなど出ておらず、かと言って何か妙案がある訳でもない。

 

「どうしたんだい! 早く意見を聞かせてくれ!」

「お、俺は……」

 

 皆の苛立った視線が蓮一に突き刺さり、それに蓮一が耐え兼ねたその時、蓮一をその視線の矢から救ったのは、皮肉にも敵の襲撃を示唆する砲撃音であった。

 

「――――ッ!?」

 

 一斉に全員が砂地に伏る。瞬間、隠れていた砂丘が跡形もなく吹き飛んだ。

 その光景を見て全員が戦慄した。

 戦車の砲弾の火力にではない。その砲弾が明らかに自分達の真後ろから放たれていたことにである。

 

「馬鹿な!? いつの間に後ろに回り込んでいた!?」

「あんなデカ物が横切ったら嫌でも気付くはずじゃな~い!」

「いや、違う。後ろに回り込んでなどいない。どうやら私の煙幕を利用していたのは私達だけに限った話ではなかったようだ」

「そういうこと、ですか……」

 

 蓮一達に近づいて来る戦車を見つめてから、今度は真後ろの崩された砂丘の方を見て、蓮一は呟く。

 

「敵の戦車は、二台いたんだ……!」

 

 蓮一達を挟み撃ちにする二台の戦車が蓮一達に向けて砲塔を向けていた。

 

 

その頃、小夜チーム。密林エリア。

 

「くそ、なんなのよ、こいつらは!」

「マァッスルゥッ!」

 

 その意味不明なバリトンボイスと共に木の上から筋骨隆々の男達が大の字になってボディプレスを仕掛けてくる。

 その攻撃を巧みに回避しながら霊夢は叫んでいた。

 

「さ、小夜! あんたリーダーでしょ!? なんとかしなさいよ!」

「そんなの無理です!」

「おーほっほっほ! アタシ達の筋肉爆撃にもうなす術もあるまい!」

 

 彼らはまるで猿か何かのように素早く木の上を移動しては小夜達のチームに対し、ボディプレスを仕掛けるという戦闘スタイルを取っていた。

 しかも、彼らは一人が地面に落ちれば、その一人がまた木の上に上るまで他のメンバーが上手くボディプレスの着地点を変えてサポートし、木の上から敵の真っただ中に落ちた仲間を安全に木の上に戻す、完璧なチームプレイをこなしていた。

しかし、一方で小夜達は

 

「きゃ、ちょ、あんた邪魔よ!」

「やかましいぞ、博麗の! こちらだって回避に手一杯なのだ。そちらの立ち回りなど知った事ではない!」

「ちょ、こんな時に喧嘩はやめてください!」

 

 明羅は背中合わせにぶつかる霊夢とすぐに喧嘩を始める。

 さらに、他の二人は。

 

「キャー、ムキムキのおっさんが降ってくるわー! きもーい!」

「…………」

 

 小兎姫は自分勝手に動き回るし、アイリスも他の仲間のことなどまるで眼中にないかのように離れた所で一人攻撃を避け続けているだけで何もしようとしない。

 小夜チームのメンバー、小夜、霊夢、明羅、小兎姫、アイリス。この五人の相性はまさに最悪と言えた。

 全員、我が強すぎてまるでお互い協力などという発想に至らないのだ。

 それ故、固まっていると逆にお互いがお互いの足を引っ張り合う結果となり、この有り様である。

 小夜は頭を抱えていた。

 そして、それらの各チーム様子を実況席は余すところなく観客に伝えていた。

 

『おおっとぉ、全てのチームが交戦状態となっているようですがぁ、この戦況、どう思われますかぁ!? 紫様に変わって第二次予選の解説をしてくださると共に、この大会の予選内容を考えた方でもあります、この人武祭の主催者、自警団団長、辻秋さんッ!』

『ええ、ほとんどのチームがこの予選の課題にぶつかっているようで、考えたこちらとしては上手くいってニンマリというところですね』

『予選の課題!? なんですか、それはぁ!?』

 

 実況が隣で喧しく煽り立てるのを、苦笑いで聞き流しつつ、辻秋は説明を続けた。

 

『この課題は抽選でランダムに組まれたチームによる対抗戦、と選手達には言いましたが、その実は違います。こちらに保管してある選手達の履歴書から得た情報を元に運営委員達が各選手のプロファイルを既に完了させており、それに基づき、チームは私達によって意図的に組ませて頂きました』

『な、なんだぁってええええ!? 一体何故そんなことを!?』

『それこそがこの予選の課題。各チームメンバーの組み合わせは、メンバーが最も相性の悪い組み合わせになるように組まれています。つまりは、チームプレイに難が出るように仕組んであるという訳です』

 

 十人十色、とはよく言ったもので人間には十や二十では収まりがつかない程に色々なタイプがいる。そして、それは同時に個々の武のスタイルにも同様のことが言える。

 持っている武器が刀剣類ならば、相手との間合いを重視するだろう。メリケンサックなどを付けている者は相手の急所など攻撃箇所を念頭に置くだろう。

 また、その武人が力に自信があるのならば真正面から敵を叩き潰しに行くだろうし、逆に力に自信がない者は慎重に作戦を練って確実に勝利を得ようとするだろう。

 その思考が武士道精神に満ち足りた者ならば、その武人は一対一の正々堂々とした一騎打ちを望むだろうし、逆に実戦と着実な勝利だけを求める武人ならば、多少卑怯な手でも当然のように使い、相手を追い詰めるだろう。

 このように、持っている武器、個々の体格、その思想やポリシーなど様々な要素から武は形作られている。

 ならば必然的に人間関係同様、相性の良いタイプ、悪いタイプというのが確実に存在するのである。

 

『チーム戦とは個人戦の集合ではありません。チームプレイが出来るかどうか、この一点だけでチーム全体の力量は大きく変化します。逆にチームプレイがまともにできなければ、個々の力は相殺され、本来の実力の半分も出すことはできないでしょう』

『成程! つまり、このチーム戦の勝利の鍵はチームプレイにある、と!』

『その通りです。相性の悪い仲間同士で如何にチームプレイができるか。そこを入念に置かれているのがこの予選です。他者と協力し合うことを知らない武人は大成しません。今のようなチームプレイが出来ずに追い詰められる状況にたって尚、協力ができない者はこの人武祭の頂点を獲るにはいささか不適格、という訳です』

 

 そう厳しく辻秋は告げた。

 

『成程、成程! では、辻秋さんから見て、現状はどうでしょうか!?』

『そうですねぇ、特にチームの差が明確に表れているのは砂漠と密林ステージで戦っている4チームですね。密林エリアは小夜チームが圧倒的に不利です。というかあのチームはこの組み合わせの中で一番チームプレイがし難いチームと言えますね』

『ほう、それはまたどうして?』

『彼女達は皆、大きな力を持つが故に、常に一人で戦うことしか思考にないんです。というより、もしかしたら一人で戦う以外に方法を知らないだけなのかもしれません。こういうタイプは相性が悪い、良いではないんです。そもそも相性というものがない。強いて言えば仲間という存在に相性が悪い。数千の仲間と共に敵と戦うよりも、数千の敵と一人で戦う方が彼女達にとってはまだ気が楽という訳です。チームプレイには最悪の人材と言っても良いでしょうね』

『そ、そんな武人達を一つのチームに纏めて勝ち目なんてあるんですか!?』

『それで勝てなければそれまでです。武人には適応力も求められます。状況に合わせて戦い方を変えられないようでは頂点には程遠い、という訳です。しかも、彼女達の相手チーム、加間(かま)チームは既に驚異的なチームプレイができている。現状全てのチーム中、頭一つ抜き出ています。これは苦戦するでしょうね』

 

 モニターを見ながら辻秋は楽しそうにそう言った。

 運営は中立の立場に立たなくてはならないとはいえ、自分の部下が苦戦しているというのに余りにも無関心な態度を彼は取り続けていた。

 

『一方で砂漠ステージの二チーム。こちらも圧倒的ですね』

『現在蓮一チームは仲間割れ中、とのことですが。っていうか、あの戦車! あれ運営的にはアリなんですか!?』

『ええ、ルール違反ではありません。あれは彼女が能力によってステージ内の砂で作り出したものですから。そして、この人武祭では人、であれば能力、魔法の使用は認めています』

 

 正直、人武祭のルールの大きな穴を指摘されているのであるが、辻秋は微塵も動揺を見せずに淡々と答えた。

 来年はしっかりルールを改変しよう。そう辻秋は心の内で決心を固めていた。

 

『この2チームは小夜チームに比べれば対極的なタイプが混ざっているというだけで、チームプレイが不可能という訳ではありません。ただ、その代わり、ステージに細工をしました』

『砂漠ステージの熱帯気候ですね! 現在ステージ内の気温は既に40度を超えています! 見ているこっちまで熱気が伝わってくるようですよ……』

『脱水症状による時間制限があり、かつ暑さは人を苛立たせますから。しかし、蓮一チームはもくろみ通り仲間割れが始まっているというのに、里香チームはその統制を一切乱しませんね。あの戦車の内部で暑さを軽減しているからかもしれませんが』

『里香チームもまたチームプレイが出来ているという訳ですね!』

『いや、あれはチームというより……いえ、まぁいいでしょう。ともかく、蓮一チームと、小夜チームはかなり苦しい状況という訳ですね』

 

 その辻秋の解説を聞いて、高天原の面々は緊張気味の表情でモニターを一心に見つめていた。

 

「うう、蓮ちゃん、小夜ちゃん……二人とも大ピンチじゃないかね!」

「迂闊だったな、味方がいるという想定で修行させたことなんて一度もなかったからねぇ」

「というか、むしろ自分は一人、敵は数千の絶体絶命の想定が普通だったよ!」

「むむ……頑張れ~」

 

 蓮一と小夜の思わぬ弱点を指摘されたようで刃空、霖之助、阿八、鈴鹿は顔を曇らせた。

 一方で人武祭に向け蓮一を鍛えてきた靈夢、そして小夜を鍛えてきた幽香はより剣呑な顔つきでモニターを睨む。

 二人とも何も言わないが、内心は刃空達よりも気が気でないだろう。

 

「あら、蓮一も小夜も二人とも大ピンチね」

「――! 紫!?」

「…………」

「あらあら、高天原の豪傑達が揃いも揃って弟子に集中しすぎて背後の警戒を解くなんて、特A級の達人級にはあるまじき失態ねぇ」

 

 靈夢達の後ろで、紫は不敵な笑みを浮かべていた。

 

「霊夢だって大ピンチよ」

「そうねぇ。まぁ、でもあの子なら何とかなるわ。リーダーの小夜さえ倒れずに余計なことをしないでくれれば、あの子が一人で片づけるわよ」

「まるで小夜が戦力にならないような口ぶりねぇ」

 

 瞬間、突き刺さるような殺気を紫に対して向けたのは意外にも幽香であった。

 紫は幽香のその行動に素直に驚愕の表情を浮かべると、何故かどこか満足げに笑う。

 

「うふふ、これは失礼」

「幽香、紫の挑発に乗っても紫が面白がって喜ぶだけよ。その殺気しまいなさい」

「……ふん」

 

 靈夢に言われ、幽香は視線を再度モニターに戻した。

 

(あの花以外には心など決して許さなかった破壊神が、随分と丸くなったものねぇ)

 

 紫は幽香の後姿を見てほくそ笑みながらその場から歩き去って行った。

 

 

「くそ、どうすれば!」

 

 前後から二台の戦車が挟み撃ちに迫ってくる。

 考えている猶予はない。今すぐこの場所を離れ、体勢を立て直す必要がある。しかし、かといってこの砂一面のステージのどこに体勢を立て直せるような場所があろうか。

 そう蓮一が考えあぐねている間に、武村と岩流は動き出していた。

 

「もういい! 僕らで戦車を壊す!」

「お前達はなんとか持ちこたえろ!」

「ちょ、武村!? 岩流さん!?」

「つ、連れ戻します!」

「やめろ! あいつらの二の舞いになる! あー、もう! これだから脳筋は嫌いなんだ!」

 

 ついにチームは崩壊し始めてしまった。

 武村と岩流はそれぞれ前後の戦車の方に各個撃破に向かっていく。

 残された蓮一、玄亀、夢見は戦車の射線から外れるように走るしかなかった。

 

「こちら、F1! 隊長、武村と思われる敵がこちらに接近しつつあります」

「こちらF2! こちらも岩流が接近。撃ちますか?」

「いや、奴らには所詮ふらわ~戦車は壊せないのです。近づいて来た所を轢いてしまいなさいなのです! 照準は変わらず蓮一、砲撃準備完了次第撃って撃って撃ちまくるのです!」

「イエス、マム!」

 

 ふらわ~戦車に乗っているチームメンバーのその返答と共に、息つく暇も与えぬ砲撃が始まった。

 

「うわぁ!? あいつら、近づいて来る武村や岩流さんじゃなく俺達を狙って……!」

「そりゃ、リーダーの君を倒せば勝ちなんだからそうだろう! しかもどうせあの二人では戦車の装甲は破れない!」

 

 蓮一達は着々と追い詰められつつあった。

 

「くそ! どうすれば!」

 

 

 一方、小夜達も。

 

「うふふ、そろそろ降参したらいかがぁ? 子猫ちゃん達ぃ?」

「このアタシ達が相手だったのが運の尽き。大人しく降参するならやさしくしてあげるわぁん」

「こいつらってムキムキの男だったわよね!?」

「オカマ、軍団ですか……」

「違うわよ!」

「その通りよ!」

「どっちよ!?」

 

 小夜の言葉に何故か否定と肯定、両方の返事が木の上から返ってくる。

 

「アタシ達はチーム内の二人がオネェ、そして三人がオカマなのよ!」

「うわー、酷いチームねー」

「小兎姫さん!」

「ていうかオカマとオネェってなんか違うの?」

 

 霊夢のその一言に木の上から大爆笑が巻き起こった。

 

「全く、これだから小娘(ガキ)は!」

「なぁんにもわかってないんだから、困っちゃうわぁ」

「オカマとオネェの違いもわからないなんて、今までの人生一体何を見て生きてきたのかしらぁ?」

「何でこんな奴らに私の人生まで全否定されなくちゃならないのよッ!」

「霊夢さん、落ち着いて!」

 

 彼らと話すたびに霊夢の苛立ちが募っていくのが傍から見ていてわかった。

 

「確かにあなた達も知っての通り、オカマとオネェは長きに渡り対立していたわ」

「いや、初めて聞いたのだが……」

「お黙り! 女侍!」

「しかし、アタシ達は相手の見方を改め、同じリピドーに従う同志であったことを試合前の準備時間、三十分の間に気が付いたのよ!」

「…………」

「あの、アイリスさん? そんなにしっかりと聞かなくてもいいかと思います、よ?」

 

 木の上の声はさらに続けた。

 

「こうして、リーダーであるアタシ、オカマ派の加間と」

「副リーダーであるアタシ、オネェ派の尾根が協定を結び、アタシ達は真の仲間となったのよ!」

「もう、アタシ達を止められる者などいないわ!」

「オカマとオネェの力が合わさった時、どうなるか、見せてあげる! 全員、筋肉爆撃(マッスル・ラブ・ボンバー)用意!」

「ラブはどこから出てきたんですか!?」

「突っ込んでる場合じゃないわ! 小夜、くるわよ!」

 

 そして、再び木の上からのプレス攻撃が再び始まった。

 

「くそ! ふざけた奴らだけど、チームプレイは本物みたいね……!」

「おーほっほっほ! 当然よ! お互いを仲間(なカマ)と認め合ったアタシ達に最早死角はないわ!」

 

 やはり、ここでも小夜達はお互いが勝手に動き回るせいで、攻撃のチャンスを自分達で潰してしまう。

 

「うう、こんなチームに負けて敗退はいやだぁ……どうすれば、どうすればぁ!」

 

 蓮一チーム、小夜チーム、絶体絶命。

 




人武祭出場者紹介

加間チーム
 オカマとオネェの混合チーム。両者の差は当人達にしかわからない。
 オカマ派の加間とオネェ派の尾根のはたきかけにより、お互いが同志であり、共に背中を預けるに足る仲間だと認知し合えた模様。
 そのおかげか、辻秋に全チーム中最高のチーム力と言わしめた第二次予選だけを見れば最強のチーム。
 密林ステージに合わせてか、木の上を巧みに動き回り、相手の真上から自慢の身体でプレスをしかける筋肉爆撃「マッスル・ラブ・ボンバー」で小夜達を追い詰める。
 しかし、これは全員が木の上を自由に動き回れる身体能力、そして、最大の弱点となるプレス後のカバーが難しく、チーム力と個々の技量、双方が高くなければ不可能な技であり、それをさらっとこなしているのを見る限り、武人としての技量は何気に全員高い。
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