東方史上最強の弟子 レンイチ   作:浜栲なだめ

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第四十六話「小夜、幽香す!」

 

 

 砲塔から煙と轟音が放たれるたび、砂漠に巨大なクレーターが作られる。

 せめて砲弾に爆薬が入っていなかったのが蓮一達の救いであっただろう。砲弾は砂と砂鉄を固めて作っただけの弾丸にすぎず、着弾と同時に爆発するものではない。

 もしも砲弾が本物であったならば、既に爆発の余波だけで蓮一達は全滅しているだろう。

 

「くっ、とりあえず逃げる! 蓮一、走れ!」

「教授! 武村と岩流さんが!」

「放っておけ! あいつらは私達から自ら離れていった、もう見捨てるしかない!」

「見捨てる……?」

 

 夢見の言葉に蓮一は足を止めた。

 

「何やってる! 止まったらいい的だ!」

「…………」

 

 見捨てる。その選択肢が果たして正しいのか。

 確かに二人の反対を押し切って独断先行を始めた武村と岩流は見方によってはチームを裏切るような行為とも取れる。

 チームの和を乱し、自殺行為に近い特攻に走った。

 おそらく武村も岩流もあの戦車を破壊することはできないだろう。それは蓮一にも直感でわかった。あの戦車は唯の人間がそう簡単に壊せるものではない。

 もしも武村に以前の人外の力を発揮させる黒いオーラが、岩流に本物の刀があればまだ結果は違ったかもしれない。

 しかし、今の二人にはそれがない。おそらく、いや確実に彼らは敗北するだろう。

 

「それで、いいのか……?」

「くそ! おい玄亀、だったか? 蓮一を連れていく! 手を貸してくれ!」

「了解です」

 

 チームから離れて独断先行。それが、果たしてチームの仲間を見捨てるだけの理由になるのだろうか。

 チームから仲間を切り捨てる。それが現状で正しい行動であるのか。

 蓮一は動き出した。

 

「おい! 蓮一!?」

「二人を助けに行きます。教授は俺が二人を連れて戻るまで準備だけして待っていてください!」

「馬鹿な! ふざけた真似は止せ!」

 

 教授の罵声も気に留めず、蓮一はまず武村の方に駈け出して行った。

 

 

「マァッスウルゥ!」

「きゃあ!」

「ぐぅ!」

 

 密林エリア。未だにオカマ、オネェ軍団のコンビネーションに小夜達はろくな対抗策を見いだせていなかった。

 木の上から降り注ぐボディプレス。

 攻撃の合間をチームプレイの不足によって潰され、双方ともまだ互いに攻撃が直撃したわけではないものの、やはり劣勢に追い込まれつつあった。

 

「ちょっと、このままじゃ私達本当に負けるわよ!」

「わかってますよ!」

「対策を練った方がいい、一旦退避しよう」

 

 それが出来たら苦労はしない。

 しかし、まるで縫い付けられたかのように不思議とここから出られない。

 出ようとすればあのボディプレスを一撃もろに食らう必要があるだろう。

 

「ふふ、無理よ。あなた達はここでアタシ達に負ける」

 

 会話を遮るように再び攻撃が仕掛けられ、集まっていた小夜、明羅、霊夢は散らされてしまう。

 

「む~、そろそろこれ飽きてきたからなんか打開策欲しいわぁ。小夜ちゃ~ん!」

「…………」

「そ、そんなこと言われても」

 

 小兎姫とアイリスからも小夜に指示を催促する視線が送られているのを感じる。

 

「小夜!」

「小夜殿!」

「小夜ちゃん!」

「…………」

「う、うう……」

 

 この様子を上から見ていた加間はこれ以上ない好機と笑みを浮かべた。

 

(占めた、あいつら、本格的に仲間割れし始めたわ! あのリーダーの小娘をここで獲る!)

 

 加間は小夜の真上近くにいるメンバーに指で指示をだす。

 即座に加間の意図を読み取ったらしいメンバーはすぐに小夜の真上にポジションをとり、プレスの準備を整える。

 

(アタシの合図と同時に攻撃なさい。いいわね?)

(了解よ)

 

 加間は指を三本立てると、一秒ごとに一本ずつ折っていく。

 

(3)

 

 まだ小夜達は何か言い合いをしているようだ。というよりは小夜が一方的に責められているだけのようにも見える。

 

(2)

 

 さっきまでおろおろと周りを見回してばかりだった小夜がここで首をだらりと下ろした。おそらくはチームメンバーの叱責に耐え兼ねて心が折れたのだろう。なんて脆い女だ。

 加間はその様子を見て勝利を確信した。

 

(1)

 

 周りにいた仲間達が小夜から後ずさりするよう離れていく。おそらくはリーダーの戦意喪失に混乱しているのだろう。なんということだ。もう自分達の攻撃を防ぐ術はあのチームにはないという訳である。

 

(0! やっておしま――――いいいいいいいいい!?)

 

 その瞬間、大きな衝撃が木の上にまで響き渡り、急に加間の足場が斜めに傾き始める。

 いや、加間の足場だけではない。木全体が斜めに傾いて行っている。

 つまりは、加間チーム全員分の体重すら容易く持ち超えて見せた密林エリアの大木が折られたのである。

 

「きゃあああああああ!」

 

 低音の奇声を上げて、加間チームは絶対安全圏の木の上から全員地面へと落とされた。

 何が起こったのか、わからない加間達が起き上がって最初に目にしたもの。

 それは、さっきまで責め立てられていた気弱なリーダー、小夜が木を叩き折った後の姿であった。

 

 

 加間達が攻撃を仕掛ける直前。

 

「小夜!」

「小夜殿!」

「小夜ちゃん!」

(なんで、皆して、私に……!)

「…………」

(やだ、怖い! なんでチームなのに、仲間の筈なのに!)

 

 小夜はチームのリーダーとしての責任感とその重圧に押しつぶされそうになっていた。

 視界がどんどん狭まっていき、思考も混乱しているのか上手く物事を考えられなくなっていく。

 元々気性の大人しい小夜はこういった大人数からかけられる重圧に精神的に弱かった。

 このまま何もできずに負けてしまうのか。

 以前の小夜であったならそうであっただろうが、今の小夜は違った。弱り果てた精神に小夜は本能的にその打開策を見つけていた。

 

『小夜、あんたはあまりに気が小さいわ。まずはもう少し自信を持ちなさい』

 

 それは幽香との修行の最初に言われた台詞であった。

 

『でも、幽香師匠。私、そんな簡単には……』

『……まぁ、別に私も無理に変われなんて言わないわ。気性っていうのはそう簡単に変わるものでもないしね。でもね、あんたはもう少し威圧感を纏わなければならない』

『威圧感?』

『ようは、舐められないようにするってことよ。喧嘩っていうのはねぇ、始まる前から大体勝敗を決めることができるわ。相手を自分の気迫で萎縮させることでね』

『自分の気迫で……成程、幽香師匠が言うと説得力ありますね!』

『あんた、随分と私には慣れたわよね。むしろ馴れ馴れしいっていうか』

 

 幽香は困ったような表情でさらに続けた。

 

『強い奴ってのは大抵格下相手になら戦う前に気当たりで、自分で手をくださないまま相手を圧倒するものよ。格下相手に技なんて使っても仕方ないからね』

『気当たりだけで……』

『そう。あんたがこれから最初に覚えるのは相手を圧倒する気当たりよ。そこらへんのチンピラ程度なら一睨みで失神させられるレベルにはなってもらうわ』

『そ、そんなことできるんですか……?』

『イメージできない? なら、あんたがこの世で一番恐ろしいと思うものの真似でもしなさい。強くて恐ろしい者になりきれば、イメージもできるようになってくるわ』

『……それなら、なんとかなりそうです』

『何よ、私の顔をじろじろ見まわして? ぶっ飛ばすわよ?』

 

 相手を威圧させる術を。

 気が小さい私が、憶病な私がそれでも強くなれる術が、一つだけある。

 小夜はイメージした。自分の中にある一番恐ろしいもの。そして、それを模倣した。

 

「小夜、聞いてるの!?」

「小夜殿、大丈夫か!?」

「ん? 小夜ちゃん、どしたの?」

「…………」

 

 霊夢、明羅、小兎姫、アイリスが小夜の顔を覗き込むようにしている。

 小夜は、いや、小夜が模倣したそれは顔を上げ、ただ一言、こう呟いた。

 

「――五月蠅いわね。殺すわよ?」

「――――!?」

 

 瞬間、靈夢達は思わず二、三歩後退する。

 意識してやったのではない。無意識に、本能的に、小夜の声を聞いた途端、体が勝手に動いていた。

 

「……小夜?」

「チッ」

 

小夜は霊夢の呼びかけに対し舌打ちを返すと、急に手近にあった巨木に地響きが起こるような強烈な廻し蹴りを叩き込んだ。

まるで巨木はクッキーか何かのように容易く折れ曲がり、やがて大きな音を響かせながら倒れていった。

同時に、木の上に居た加間チームも木々と一緒に落ちてくる。

小夜は落ちてきた加間チームと自分のチームを交互に見比べながら言った。

 

「この程度の相手を前に私に指示を仰ぐんじゃないわよ」

 

 まるで、小夜の言動や仕草は別人のようであった。

 これが小夜そっくりに化けた別人だと言えば十人中十人が納得するであろう。それ程に今の小夜の姿は普段の彼女とは余りに対照的すぎた。

 

「小夜、あなた一体……」

「何?」

「ッ!」

 

 霊夢の方に小夜が視線を向けた瞬間、霊夢は身体が途端に重くなったような重圧感を受けた。

 まるで身体に鉛を付けられたかのような、気怠さを通り越して苦痛すら感じる重圧。それはまごうことなき、小夜から発される気当たりであった。

 

「誰が喋っていいと言ったしら?」

「ぐ……う……!」

 

 さらに体の重みが増していく。まるで自分一人に何倍もの重力がかけられているかのように霊夢は感じた。

 最早息をするのも辛くなってきている。言葉も上手く出ない。

 霊夢は苦しそうな表情で口を動かす。

 

「わ……悪かった……わよ……!」

「そう、ならいいわ」

「がッ………はあ、はあ、はあ!」

 

 小夜が霊夢から視線を外すと今まで身体をむしばんでいた重圧は消え失せ、霊夢は苦痛から解放される。

 それを見て、他のメンバー達もその口を固く閉ざした。

 

「あ、アタシ達を無視してるんじゃないわよ!」

 

 しかし、小夜の豹変に気が付いていないのか、もしくはそれに混乱して正常な思考が失われているのか、木から落ちていた加間チームのメンバーの一人が背後から襲い掛かる。

 

「五月蠅いって言ったのが、聞こえなかったの?」

「――ひ……!」

 

 それが彼の最後の言葉となった。

 小夜が後ろに視線を向けた瞬間、嵐のような気当たりにその神経は容易く飲まれ、風呂上げたその腕は小夜の身体に指一本触れる事すら叶わぬまま、地面に伏した。

 

「ちょ、ちょっと! 聞いてないわよ! 何あの小娘!? 人睨みで大男一人失神させたわよ!?」

「何よ……なんだっていうのよ!」

 

 加間チームの面々は小夜の豹変と、その圧倒的な実力差に畏怖の念しかない。

 とても今の小夜に、仲間からすら敵以上に警戒される彼女を倒そうなどと考えるものはいなかった。

 全員が、今、目の前の小夜を恐れていた。

 

「仕方ないわね。不甲斐ないあんた達のために私が一つ提案してあげるわ」

 

 誰もが固唾を飲んで続きの言葉を待っていた。

 今、自分達の命は彼女の掌の上。そんな強迫観念が周囲を支配しているようであった。

 

「マンツーマンよ。あんた達にチームプレイなんて不可能。だったら、特定の敵一人を決めて、そいつだけに集中しなさい。逆に敵を倒す障害になるようなら誰だって敵よ」

「…………」

「ああ、そうだ。私はこれ以上この戦闘に手を出すことはしないわ」

「何ですって!?」

 

 加間チームの一人が驚愕の声を上げる。

 

「何よ? 手を出してほしいの?」

「い、いや……そういう訳じゃ……」

「私が戦ったら試合にならないわ。だから、このチームのメンバー全員を倒すことができれば、私達の負けでいいわ」

「なッ!?」

 

 これには加間チームだけでなく、霊夢達も明らかな動揺を示した。

 つまり、小夜以外のメンバーを倒せれば、その時点で加間チームの勝利。それでも厳しい条件に見えるが、小夜に戦いを挑むよりはまだ勝機が見えるように思えた。

 

「どうしたの? さっさと動けば?」

 

 その言葉と同時に全員が動いた。

 加間チームは一斉にその場から退避する。他の敵チームメンバーはともかく、あの小夜の周囲にだけは近づきたくなかった。

 同時に、霊夢達もその後を追う。

 戦況は、小夜の豹変から一気に逆転してしまった。

 

 

 その様子を見ている会場の方では下品な笑い声が響き渡っていた。

 

「ひゃっひゃっひゃっひゃ! ちょっと! あれ! 小夜ちゃん、まるで幽香どんそっくりね! あっひゃっひゃっひゃっひゃ!」

「五月蠅いわね、殺すわよ」

「言動まで全くおんなじね! ひゃひゃひゃひゃ! 幽香どんになったみたいだから名付けて『幽化』ね! どうね!」

「この……クソ鴉が……!」

 

 散々大笑いされた挙句、小夜の豹変に『幽化』という不本意な名前まで付けられ、幽香の怒りのボルテージが徐々に上がってきつつあった。

 

「まぁまぁ、でも弟子は師匠に似るとは聞いていたけどここまでとはね」

「な~んか……気当たり……まで別人」

「アバ! 凄いよ! 弟子級とは思えないよ!」

「……あいつに模倣を教えたのはミスだったかもしれないわね」

 

 幽香は画面に映る小夜の姿を見て頭を抱えた。

 靈夢は隣で幽香に笑いかける。

 

「どちらかというと、昔の幽香みたいね。よく見られているのね、あなた」

「……そうかもしれないわね。あの戦いを遊びとしか思っていないような舐めた態度は昔の私そっくりね」

「いい所も、悪い所もちゃんと見てくれている。いい師弟関係を築けている様で安心したわ」

「私は不安が増えたわ」

 

 幽香は苦笑いを浮かべる。

 その目からは後で絶対に小夜をシめるという殺気が漏れ出していたが、靈夢はあえて見て見ぬふりを続けた。

 

「それにしても、模倣とはいえここまでのポテンシャルを秘めていたとは驚きね」

「……どうせ、あんたはわかってたんでしょ? だから高天原に簡単に入門させた。違う?」

「さて、何のことかしら?」

「ふん」

 

 笑顔を崩さない靈夢に鼻を鳴らしながらまた幽香は目を背けた。

 しかし、幽香自身かなりの驚きではあった。修行中はあそこまで模倣できたことなど一度もなかったために、やはり弟子級に自分の劣化版とはいえ、気当たりを伝授するのは上手く行かないと思っていた。

 それを容易く、人武祭中に完成させてみせた彼女に、異質な才能を見出しつつあった。

 

「あれだけ出来るんなら、修行中にやってみせなさいよ」

 

 幽香は周囲に聞こえぬよう小さく呟いた。

 

 

「ふ、ふふ! ふふふ! あーはっはっはっは!」

 

 密林エリア。

 加間は、走りながら笑っていた。

 小夜という化け物の登場に一時はリーダーを倒すという試合のルール上負けを認めるしかない所まで追い詰められていた彼らだったが、小夜本人からの申し出でその状況は大きく変わった。

 

「小夜以外の全員を倒す、ね! 確かにそれはそれで厳しいわ! 厳しい! だけど――」

 

 後ろから追ってくる他の敵メンバーを見て加間はニヤリと笑った。

 

「こいつらはチームプレイなどできないカモ! 今までと同様にアタシ達のコンビネーション技に対応できない!」

 

 加間を走りながら手を上に掲げると、指を二回鳴らす。

 これが、集合の合図であった。

 

「リーダー、おまたせ!」

「アタシを追っている小娘も連れて来てるわぁ!」

「そろそろ決めちゃうのね?」

 

 茂みから次々と味方達が現れ、並走を始める。

 密林の中に分散したかのように見せかけて、実際は再度敵メンバーを一つに固めるために計算された逃走経路を走っていたのである。

 

「マンツーマンと言えど、私達が一つに固まればそんなの不可能よ! これで誘導は十分、筋肉爆撃(マッスル・ラブ・ボンバー)行くわよぉ!」

「了解!」

 

 その掛け声と共に、猿顔負けのスピードで木の上に上るメンバー達。

 そして、同時にここで敵メンバーも全員が一つに集合した。

 

「成程、どうやら私達は固まって移動させられていたって訳ね」

「まぁ、相手がマンツーマンに乗ってくる保障はどこにもないからな」

「も~、小夜ちゃん一人でいいんじゃないかなぁって私思ってたんだけどな」

「…………」

 

 やはり、リーダーは覚醒してもチーム自体は何も変わってない。

 相も変わらず協調性のない烏合の衆。

 

「イケるわよ! やぁっておしまい!」

「マァッスルゥ!」

 

一人目のボディプレス。ここは当然の如く避けられる。しかし、ここからの二撃目、三撃目が怖いのだ。

ここで自分の周りしか見えていないと、必ず味方同士で足を引っ張り合う。

 

「第二、第三マッスル、投下ぁ!」

「マァッスルウウウ!」

「ンマッッスルゥウウ!」

 

 これで終わり。さっきと同様に着々と追い詰めればいいだけ。

 初撃でプレスを仕掛けたメンバーに向かってくる霊夢に対して他のメンバーの攻撃が入る。これを避けようとすれば次の三撃目で味方の方へ突っ込まざるを得ない。

 しかし、ここで予想外の事態が起きた。

 

「もう、避けないわよ」

「なんですって!?」

「だってそいつは、あんたの担当でしょ? 明羅!」

「心得ている!」

「ガァ!?」

 

 霊夢はそのままプレス投下点に突っ込んでいき、攻撃態勢に入る。本来はそれよりも先に二撃目のプレスが彼女を襲っている筈だが、今回は違った。空中で、投下中のメンバーに対し明羅が木刀を振り下ろし、吹き飛ばしたのである。

 二撃目の男は真横に吹き飛び、木の幹にぶつかってしまう。

 そうなると、当然三撃目は意味がなくなり、ただ敵のど真ん中に落ちただけになる。

 

「あ~、私の獲物が落ちてきたぁ、ラッキー」

「あ、ああ……!」

 

 ただ意味なく落ちただけの男の目の前には小兎姫が十手を構えながら好戦的な笑みを浮かべていた。

 初撃で投下された男の前には霊夢が立ち塞がっている。

 完全に投下したメンバー全員が木の上に戻るタイミングを失ってしまった。

 

「確かにあんた達のその攻撃は凄いと思うわ。少なくとも私達にはできない精巧なコンビネーション技。でもね、精巧過ぎてどこか一か所予想外の事態が起きると、全て台無しになるのよ」

(嘘でしょ!? 今のはコンビネーション!? あいつら何で急に!?)

「く、くそ! なんなのよ! 加間ぁ! アタシ達はもう木の上に戻れそうにないわぁ!」

「わかってるわよ!」

 

 ズシン、という地響きと共に、唯一木の上に残っていた加間が自ら木の上から降りてきた。

 

「もう筋肉爆撃は中止よ。ここからはプランBで行くわ」

「プランB? まだコンビネーション技でも隠していたわけ?」

 

 霊夢がうんざりしたような口調で問うと、加間は指を振る。

 

「プランBはねぇ、コンビネーションじゃないわぁ。私達が好き勝手暴れて、敵をぶっ殺すって作戦よ!」

「覚悟なさい! 小娘共!」

「見なさいアタシ達の鍛え抜かれた身体と精神! マンツーマン? 大歓迎よ! むしろそっちの方が効率的にあんたらを潰せるってもんよ!」

 

 勝ち誇ったように笑い始める加間チームの面々に、霊夢達は総じて溜息を洩らした。

 

「あんた達、全く分かってないのね」

「何がよ!」

 

 霊夢は加間チームに向けて同じく勝ち誇った笑みで言った。

 

「あんた達がマンツーマンに降りた時点で、私達の勝利は確定してるのよ」

 

 その台詞に加間は青筋を浮かべて霊夢に突進してくる。

 

「調子に乗ってんじゃないわよ、小娘共がああああ!」

「あんた、もう一つわかってないわね」

 

 その手が霊夢に触れる寸前、強い衝撃と共に加間の視界は急速に横に流れ、いつの間にか、その身体は再び強い衝撃と共に真横数メートル先にあった木に体当たりしていた。

 何をされたのかわからず、鈍い痛みと共に加間は数秒間動けない。

 ゆっくりと首を回すと、さっきまで加間が立っていた場所に全身をローブで包まれたアイリスと呼ばれた選手が立っていた。

 

「え……? えっ……?」

 

 周りの加間チームのメンバーも顔を真っ青にしている。

 未だ状況を把握できていない様子の加間に霊夢が馬鹿にするような口調で言った。

 

「あんたの相手は私じゃなくて、アイリスよ」

 

 その時、わかった。

 彼女達はコンビネーションなどできていない。

 簡単な事なのだ。ただ、決まった相手を叩きのめす。それしか考えていない。当然、敵が自分以外の相手に攻撃を仕掛けている瞬間など完璧な隙である。

 さっきの攻撃はコンビネーションなんかではない。霊夢を攻撃しようとしたメンバーが隙だらけだったから、明羅が攻撃した。

 ただ、それだけの話。担当する相手以外は他の敵チームは愚か、味方すら気にかけていない。

 究極的なマンツーマン戦法。そして、それがこの協調性の欠片もないこのチームに限りフィットする。

 

(や、やられたわ! アタシ達が木から降りた時点で、相手の土俵に立った時点で! アタシ達は……既に敗北していた……!)

 

 そこからはあっという間であった。

 一人一人が全身筋肉の鎧を纏い、かつ己の技に磨きをかけてきた武人。それがいとも容易く宙に舞い、自分の腕より細い脚で脳を揺らされ、自分の腕の半分の細さもない華奢な腕で内臓までダメージを入れられる。

 圧倒的な実力差の前に、彼らは一撃も攻撃を当てる事は愚か、攻撃することすらできなかった。

 

「こ、こいつら……!」

「強過ぎよぉ……!?」

「敵わない、わ……!」

 

 一分も持ちこたえられただろうか。

 加間を除く他のメンバーは白目を剥いて彼の前に積み上げられる。

 目の前にはアイリスが立っていた。

 

「…………」

「ふ、完全にしてやられたわ。あんた達、一人一人は化け物クラスね」

「…………」

「でも、言っておくけど降参はしないわ。こんなになるまで戦ってくれた仲間達を見て、私だけ軽傷で帰る訳にはいかない」

 

 加間はゆっくりと立ち上がった。霊夢や明羅、小兎姫は一切手を出す様子はない。

 相手のアイリスは加間の半分位の背丈しかない。

 アイリスが小さいのではなく、あまりに加間が大きいのである。加えて磨き抜かれた身体と技。

 これだけ見れば、勝利するのは加間に見えなくもない。

 

「いくわよおおおおおお!」

 

 振り上げた拳と共に叫びながらアイリスに突進する。

 しかし、彼女が腕を軽く横に振った瞬間、加間の身体はまた真横に吹き飛び、今度は頭から巨木に突っ込んだ。

 

「さ、最後まで……何をされたのかすら、わからなかったわ……! 私達の、完敗、ね……!」

 

 その意識が闇に飲まれた瞬間、ステージ内を大きなブザー音が鳴り響き、試合終了の合図を告げた。

 

『試合、終了おおおおおおお! 勝利したのはまさかまさかの、チームプレイ皆無の最悪チーム、小夜チームだああああああああ!』

 

 実況の喧しい声がエリア全体に鳴り響く。

 それを聞き、小夜は満足そうな笑みを浮かべ、そして、意識を失った。

 

 

「ふぅ、なんとか終わったわね」

 

 霊夢は会場に転送されてくるやいなや、大きく背伸びをする。

 

「一時はどうなることかと思ったぞ」

 

 明羅も掠り傷すら負っていない割には疲れたような様子である。

 

「うひー、小兎姫ちゃんも疲れたよぉ」

 

 やはり、全員精神的な疲労はピークである。

 まさか、チームになったというだけでここまで苦戦を強いられるとは思ってもいなかったのだ。皆随分とストレスが溜まった試合だったことだろう。

 

「ん? 問題の小夜は?」

 

 その霊夢の言葉で全員が凍り付く。

 

「まだ、あの状態なのか……?」

「ちょっと、あの状態の小夜ちゃんは小夜ちゃんって呼べないからノーサンキューなんだけれど……」

「…………」

 

 誰もがあの小夜には苦手意識を持つに違いない。

 霊夢は辺りを見回すと、会場の隅で救護員が担架に小夜を運ぼうとしているのを見た。

 

「小夜!」

 

 霊夢は担架の方に駈け出していた。

 他のメンバーもついて来る。

 小夜は担架の上で眠っているようであった。霊夢が近づくと、気が付いたのか、少し苦しそうな声を上げながら目を開ける。

 

「…………」

 

 全員が固唾をのんで彼女の第一声を待っていた。

 

「……あれ? 皆さん、どうしたんですか? あれ? 試合は? ていうかここ会場!? あれ!?」

「良かった、元に戻ったわね」

「ふぅ」

「本当に良かったよ、小夜ちゃーん!」

 

 全員の心からの安堵が伝わってくる。

 小夜は困惑した様子で霊夢に尋ねた。

 

「あの、もしかして私、気絶して……試合、負けちゃったんですか?」

「ん? いいえ、勝ったわよ、完封勝利よ」

「あ、そうですか、良かったぁ」

「こちらこそ、良かったわ」

「何の話ですか?」

 

 どうやらあの時のことは一切覚えていないらしい。

 全員が気を抜いたその時だった。さっきの小夜とほぼ同等の殺気に全員に再度緊張が走る。

 

「あ、幽香師匠!」

「お疲れ様、小夜」

「あ、あんたは、風見幽香……!」

「こうして会うのは久しぶりねぇ、博麗霊夢」

 

 霊夢の警戒レベルが一気に上がる。

 他の面々はわかってはいないらしい。

 

「何しに来たのよ」

「ただ、弟子を迎えに来ただけよ」

 

 そう素っ気なく一言呟いて、幽香は担架に乗せられた小夜を軽く持ち上げた。

 

「弟子……? まさか、さっきの小夜の状態は……!?」

「ええ、そうよ。皆あんなに怖気づいて、可愛かったわねぇ」

「ぐっ……!」

 

 さっきの小夜の二重人格とも言える新たな面が誰をベースに造られたのか、理解し、霊夢は歯軋りした。

 将来的に博麗の巫女として立ち向かわねばならない『妖怪』に、自分は怖気づいたのだ。それが悔しかった。

 

「あ~、小夜ちゃんのあのさっきはあなたのなんですねぇ、納得。いやぁ怖かったですよぉ」

「……まだまだ、上には上がいるということか」

「…………」

 

 他のメンバー達も気が付いたのか、幽香と小夜を見比べてそれぞれ何か思うものがあったようである。

 

「じゃ、私とこいつはこれで失礼するわ」

「え、ちょ、人武祭!」

「三次予選は明日ってあの喧しい実況が言っていたわよ。今日はこれでお開き」

 

 そう言って、幽香は小夜と共に消えていった。

 

「ふぅ、本当に……気に入らない」

「まぁまぁ、今回は小夜殿の助けがなければおそらくは勝てなかった。マンツーマン戦法、あれは小夜殿が良くチームの特性を理解していたからこそ出せた結論だ。今回ばかりは彼女にやられたな」

「小夜ちゃんはもっと可愛い子だと思ってたんだけれどねぇ。やっぱり、ライバルかぁ」

「……小夜、覚えたわ」

 

 それぞれが思いの丈を洩らす中、最後の一言に聞いた事のない少女の声が響き、三人はその方向を見る。

 アイリスがいた。

 

「あんた……今喋った……!」

「というか女子であったか」

「ねぇ、もっかい喋って! もっかい!」

「…………」

「ねぇってば~!」

 

 何気にその日最大の驚きであったという。

 

 




人武祭出場者紹介

小夜
 自警団の団員の一人。ジャンヌ隊と呼ばれる八武長ジャンヌの率いる女性のみの隊に所属し、そこで副団長を務める。
 蓮一とは武村の事件で知り合い、事件後も高天原の二番弟子として入門。現在は蓮一と一緒に高天原で生活中。
 人武祭を前に幽香に修行をつけてもらっており、その際に習った『気当たり』を小夜自身が世界で一番恐ろしいと思っている幽香を模倣し、なりきる事により習得。
 その威力は指一本触れずに気当たりだけで加間チームの一人を失神させ、戦況を変えるほど。
 元々素質はあったらしく、高天原にすんなり入門できたのもそれを靈夢が見抜いていたかららしい。
 まだまだ幽香との修行で習得し、未だ使っていない技は多い。
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