東方史上最強の弟子 レンイチ   作:浜栲なだめ

47 / 55
第四十七話「腕型・阿修羅」

 

 二人には、譲れない思いがあった。

 二人には、揺るぎない自信があった。

 何より二人には、認めたくなかったのだ。

 いくら足掻こうと自分の力ではどうにもならない、圧倒的すぎる力の存在を。

 

「――がっ!?」

「――むッ!?」

 

 武村と岩流がそれぞれ前後から迫りくる戦車に走り、二人が拳と木刀をその装甲に叩き付けたのはほとんど同時であった。

 渾身の力でぶつけた拳と木刀は、無慈悲に、非情に、呆気なく、戦車の装甲の前に容易く砕け散った。

 武村の拳が激痛と共に血に赤く染まり、岩流の木刀は破片を散らばらせながら砕けて柄の部分しか残っていない。

 二人はその瞬間、戦う力を失った。

 

「ふ、私の『ふらわ~戦車』の前にひれ伏すがいいのです! 二人を轢いてしまいなさいなのです!」

了解(ラジャー)!」

 

 離れた場所から武村と岩流の攻撃が戦車の前に意味をなさなかったのを見て満足げに笑った里香は意気揚々と無線に指示を飛ばす。

 

「……ここまでか」

 

 武村と岩流は砕けた拳と木刀をそれぞれ見つめ、自分達に向けて動く巨大な鉄の塊を見上げて呟いた。

 まだ、辛うじて戦車の攻撃を避けられるだけの体力は二人に残されている。それでも彼らが自分達の敗北を悟ったのは、何よりも戦意が死んでしまったから。

 自分の力を真正面から砕かれたからに他ならない。

 動く体力は残っていても、動く気力は尽き果てていた。

 迫りくる戦車の前に二人が倒れんとしていたその時、あろうことか戦車は突然二人の目の前でその動きを止めた。

 その急停車に驚いたのは武村と岩流だけでなく里香も同じであった。

 

「何をやっているのです!? 何故急に止まるのです!?」

「た、隊長、それが……」

「前方に敵影が……!」

「敵影?」

 

 戦車に乗るメンバーの声はまるで幽霊でも見たかのような、信じられないという気を帯びていた。

 里香はすぐにふらわ~戦車の前方に視点を移す。すると、確かに武村がいる方の戦車に向けて走ってくるものがある。

 よく姿が見えず、さらに倍率を上げて里香は近づいてきている敵影の正体を見た時、里香は思わず声を上げた。

 

「な!? リーダー(蓮一)自ら、突っ込んできたぁ!?」

 

 この試合はリーダーが気絶した瞬間にその敗北が決定する。

 だから、チームのリーダーはまず他のメンバーを常に護衛に付けるか、見つからないよう前線から退いてどこかに身を隠すことを考える。

 いくら強い者がリーダーであったとしても、リーダーがたった一人で敵に向かって特攻してくるなど、この試合のルールを知っていればあり得ない行動なのだ。

 だからこそ、里香も他のメンバーも、この状況に動揺を隠しきれない。

 

「あいつ! この暑さで気でも狂いやがったですか!?」

「た、武村を轢くために戦車を動かすと蓮一に照準が合わなくなってしまうのですが!? 隊長どうしましょう!?」

「どうしましょうじゃねぇですよ!? リーダーを倒せばその時点で勝ちなんだからさっさと蓮一向けて撃ちまくれなのです!」

「い、イエス、マム!」

 

 里香の罵声にメンバー達は武村と岩流を他所に蓮一に向けて砲撃を開始する。

 

「くそ! 間に合うか!?」

 

 砲撃が開始されようと蓮一は一直線に武村に向けて最短距離を走り続ける。

 

「くそ! あいつ、この砂のステージを何て速さで駆け抜けるんだ!」

「ふざけるなよ! こんな無謀が通用するか!」

 

 岩流側の戦車、すなわち現在蓮一の真後ろから砲撃を続ける戦車が撃った一発の砲弾が、ついに蓮一を捉えた。

 蓮一の背中が砲弾とそれが巻き上げる砂煙の中に消える。

 

「やったぞ!」

 

 砲撃したメンバーが歓喜の声を上げた瞬間、武村側の戦車からは見えていた。

 砂煙を切り、無傷のまま変わらず走り続ける蓮一の姿が。

 

「馬鹿野郎! F(フラワー)2、目標に当たってねぇぞ!」

「なんだと!? 確実に命中した筈……!?」

 

 蓮一は変わらず前を向きながら、その周辺にしか聞こえない位の声で砂煙の中に向けて言った。

 

「すまない、恩に着る」

 

 その言葉の後に砂煙の中から返答が返される。

 

「構いません。自分、堅固なので……」

「あれは!? 蓮一チームの大盾野郎! いつの間にあそこに!?」

 

 砂煙の中から姿を現したのは、盾を構えた玄亀の姿であった。蓮一に砲弾が当たる瞬間、辛うじて彼が盾となり、砲撃を防いだのである。

 その代償として玄亀が受けたダメージはあまりにも大きかったが。

 そして、蓮一はついに武村の目の前に辿り着いた。

 

「蓮一……僕は……」

「掴まってろ、走るぞ」

「え?」

 

 武村の返答を待たぬまま左手首を掴むと、蓮一は再度全力疾走で戦車から離脱していく。

 

「戦略的全力撤退いいいいいい!」

「ぐああああああ!?」

「くそ、逃がすかぁ!」

 

 想像を絶する力で武村はほとんど引きずられるようにして蓮一と共に戦車から離れていく。

 何度も砲撃が傍の砂を巻き上げるが、奇跡的に一発も直撃する事なく、むしろ砲撃により舞い上がった砂煙を目隠しに逃げおおせる事に成功した。

 同時に、岩流の方でも変化が起こっていた。

 

「岡崎殿か……」

「だから言っただろうに。無様だな」

「ふ、返す言葉もない」

「じゃあ、さっさと撤退しようか」

「何?」

 

 困惑の色を浮かべる岩流に夢見は面倒そうに答える。

 

「木刀を折られて使い物にならない君でも、うちのリーダーは助ける必要性があると判断したらしい」

 

 そう言いながら夢見は魔法陣を展開すると、戦車が蓮一の砲撃に気を取られている内に転移魔法で岩流と自分を転移させた。

 

 

「――という訳で、ようやく全員揃って奴らから一時隠れおおせることに成功したわけだが」

「皆、僕のために申し訳ない!」

「すまなかった!」

 

 夢見が魔法で砂丘をくりぬくようにして作った砂のかまくらの中、武村と岩流は他のメンバーに向けて頭を地面につけた。

 

「もう、いいんです。これからは一人でどっか行かないでくださいよ? 俺達はチームなんだから」

 

 蓮一の言葉に黙って頷く二人を見て、夢見はため息を洩らす。

 

「チームが纏まるために払う代償は余りにも大きすぎたな」

「教授」

「実際、どうするんだ? 武村と岩流はそれぞれ拳と刀を失くして戦力にはならない。助けに行った蓮一を守るために防御役として私の魔法で転移させた玄亀はおそらくはもう戦えない」

 

 夢見は奥の方に横たわる玄亀を指さして言った。

 

「い、いえ! 自分は、まだやれます……!」

「黙って寝ているんだ。あの砲撃を蓮一に一切の被害がいかないようにその身一つで受け切ったんだ。私は医学はあまり詳しくないが、その素人目にも今の君はとても動いていい状態じゃない」

「玄亀さん、本当に無茶させてすみません」

「蓮一さんが謝ることじゃないです。自分が勝手にやったことなので」

「話を戻そう。現状、まともな戦力は私と蓮一のみ。私達はまだリーダーの姿すら見つけられていない上に戦力は依然圧倒的な差がついている。この状況をどう打破する?」

 

 夢見に言われ、皆顔を暗くする。

 改めて現在の状況は余りにも不利。ここからどう逆転するのか誰にも具体的な案がなかった。

 一人を除いて。

 

「……一応、一つアイデアはある」

「本当かい?」

「でも、その口ぶりだと何か問題があるんでしょう?」

「ああ、教授に負担を掛けることになる」

 

 それを聞くと夢見は頭を掻いて、やっぱりか、と言わんばかりに大きな溜息をついた。

 

「ただでさえ、最初に使った防御壁と煙幕、岩流と玄亀のために使った転移魔法で使用予定の魔力をオーバーしかけている」

「わかってる。だから、使い過ぎた魔力分は、俺が供給する。それでどうだ?」

「は?」

「知り合いに魔法使いがいるんだ。そこで聞いた。魔法使いの中には他人の生命力を奪って自分の魔力にする輩もいると」

「本気で言っているのかい? つまり、それは、わざと私がお前から生命力を余計に奪う事で次の予選で落とすこともできるってことでもあるんだが?」

 

 その夢見の言葉で武村と岩流が、彼女に掴みかかろうと動くが、それを蓮一が手で制した。

 

「その時はその時だ。それに、もう既にこの中のほとんどが次の予選に支障が出るだけのダメージを負っている。考え方に違いはあれど誰もがチームのために戦って受けたダメージ、そして、俺がリーダーとしてしっかりやってれば防げた筈のダメージだ。なら、俺もそれなりのリスクは覚悟する」

「私はいいが、勝ち進んだところで君達が次の予選を勝ち進める確率は限りなく低いだろう」

「問題ない。いずれにせよ、ここで負ければ0だ」

「……いいだろう。そこまで言うなら、君の言うとおりにしよう。話してみてくれ、この状況を打破する案を」

 

 蓮一の言葉に、ようやく夢見はその首を縦に振った。

 

 

「――見つかりませんね」

「チッ、あいつらどこに隠れやがったですか……」

 

 メンバーからの冴えない報告に里香は苛立たしく舌打ちをする。

 このまま持久戦に持ち込んでもこちらの勝利は揺るがない。しかし、里香としてはそんな地味な勝利では満足できない。

 

(私の戦車作りには余りに人手と金が足りないのです。人武祭はこの幻想郷に戦車の力をアピールする絶好の機会! この大会で戦車の力を見せつけてスポンサーを手に入れる、そのために地味な勝ちはいらないのです! 圧倒的に一方的に蹂躙してやるのです!)

 

「仕方ない、私が出るの――――」

「こ、こちら、F1! 前方に蓮一を発見! どうやら一人だけのようですが」

「F2も確認、二台で追いますか?」

「さ、さっさと止めを刺してやるのです!」

 

 突然の蓮一の発見。しかもたった一人。

 確かに先程武村と岩流は戦力外にしたし、玄亀という盾持ちも砲撃を直撃させたのでもうまともに戦えないだろう。

 残るは岡崎という魔法使いだが、前線に出てくるような魔法使いには見えない。さっきも転移で戦車の真正面に立ったにもかかわらず岩流一人を回収して逃げるように転移した。

 つまりは戦車を倒しうる魔法を使えないということではないだろうか。

 ならばと里香は迷わず撃墜命令を出す。

 おそらくは何か策があってのことだろうが、まずあの戦車を同時に倒すのは不可能。それに万が一倒されたところで、最終的には自分が出ればいいだけの話。どちらにせよ、二重三重に保険はかけてあるのである。

 里香には一片たりとも不安はなく、その先に見ているのは勝利のみであった。

 

「……よし、来た!」

 

 蓮一はこちらに砲塔を向けて向かってくる二台の戦車を見ると、一目散に走り始めた。

 

「くそ、相変わらず砂漠を走っているとは思えないスピードだ」

 

 蓮一の走り方は、右手と右足、左手と左足を同時に出して走る少し特殊な走法であり、師匠から教えられた『難波走り』と呼ばれる走法であった。

 これにより走る際の身のうねりによる力のロスがなくなり、極めれば如何なる地形でもより早く、より長距離を走ることができるという。

 元々は江戸時代の飛脚に伝わる走法であり、この走法で当時の飛脚たちは100キロ以上もの距離を休みなく走り抜けたという。

 師匠はこれを極めれば垂直な崖や水の上さえ走れると言っていたが、今の蓮一は精々足場の悪い地形でもいつも以上の速度で走れるという程度である。

 

「くそ、横に大きく動きながらジグザグに走りやがる! 照準が合わせにくいったらないぜ……おい、近づきすぎだ! 速度落せ!」

「わかってるよ! 畜生、スピードに緩急があって間隔が一定にならねぇ!」

 

 里香チームのメンバーは戦車の操縦と砲撃とを二人で役割分担しているが、どちらも準備時間三十分の間に里香に最低限の説明をされただけの素人である。

 そんな彼らは標的が大きく横に動いたり、距離を一定に保てないと照準を合わせるのは難儀な事である。

 弾着地点の算出や予想など、彼らにはあまりにも難し過ぎていたのだ。二台の戦車で砲撃を続けるが、全く当たる気配がない。

 ならば、彼らが痺れを切らしてどういう思考に至るか。

 

「もう砲撃なん手当てる必要はねぇ! 轢いてしまえ!」

 

 二台が急に速度を上げる。それを見て蓮一はジグザグ走行をやめ、直線的に真っ直ぐと走る。

 しかし、流石に人の走力では戦車には勝てない。少しずつ蓮一と戦車との距離が近づいて来る。

 

「はぁ! はぁ!」

「あと少し! あと少しだ!」

 

 戦車のエンジン音が真後ろに響いて来るのを聞き、蓮一は必死の思いで走り続ける。

 戦車のキャタピラが蓮一の背中に迫り、その身体を巻き込まんと寸前に迫ったその時。

 

「よし、よくやった、蓮一!」

 

 瞬間、今まで走っていた蓮一は転移魔法の光に包まれると共に消え、それと同時に砂漠が陥没し始める。

 

「な、なんだぁ!?」

「地面が、どんどん沈んで!?」

 

 やがて砂地はすり鉢状に陥没し、二台の戦車はその中央に埋まりかけていた。

 

「くそ、落とし穴か!?」

「だが、この程度の傾斜! 戦車ならばどうということはない!」

 

 戦車が再び穴の外に向けて走行を開始する。戦車のキャタピラとは足場の悪い場所でも走行できるようつくられた形状だ。

 それ故に、落とし穴に落とされたとしても、キャタピラさえ回れば問題なく復帰可能であった。

 しかし――――

 

「なんだ!? 全然進まねぇぞ!?」

「違う! 進んでないんじゃない! 上っていこうとすると砂が下に流れて、戻されていく!?」

「見ろ、落とし穴の中央から砂の噴水が!?」

 

 すり鉢状の落とし穴の中央から魔法によって砂が噴水のように上に巻き上げられているのが見えた。

 それによって落とし穴の砂が滑り落ち、結果、いくら落とし穴を脱出しようとしても戻されるのである。

 

「こ、これはまるで――――」

 

 

「アリジゴクです!」

「アリジゴク?」

 

 作戦開始数分前。蓮一の打開策を聞き、全員が困惑した表情を浮かべていた。

 

「アリジゴクって確か、すり鉢状の落とし穴の中央で蟻が落ちてくるのを待ってるんですけど、あれって不思議ですよね。一度嵌ったらどうしようとも蟻は落とし穴から脱出できないんです」

「ああ、アリジゴクが巣の中央で砂を掻き出す事で落とし穴の砂を中央に流れ落ちるようにしているんだったか」

「それを、あの戦車相手にやろうかと思うんです」

 

 蓮一の案に全員は取り敢えずの理解を見せた。

 

「成程、戦車を無力化する方法としてはありかもしれないな。ここのさらさらの砂で塹壕を作っても容易く突破されそうだし、アリジゴクか。面白い事を考えるじゃないか」

「砂を掻き出すのは教授が始めに砂の煙幕をするためにやっていた砂巻き上げ魔法でいいと思う」

「砂巻き上げ魔法って……まぁ、いい。だが、このステージ全体を覆い尽くすようなことはできない。落とし穴まで誘導する役が必要だろう」

「無論、俺がやる」

 

 夢見が魔法でアリジゴクを作っている間に蓮一が戦車を誘導してくる。

 それが最善手であったし、そうするしかない。夢見はそれでも容易く囮を名乗り出た蓮一に素直に感嘆した。

 

「おい、僕らだって囮位やれるじゃな~い! リーダーを囮にするなんてあまりに無謀過ぎるじゃな~い!」

「でも、俺武村や岩流さんよりは足速いと思うし」

「確かに……」

「それに、二人にはまだやって貰う事がある」

 

 蓮一は顔に似合わぬ悪い笑みを浮かべて言った。

 

 

「くそ! まるでアリジゴクだ! これじゃいつまで経っても戦車が落とし穴から出られねぇ!」

「……ん? おい、今何か上の方で音がしなかったか?」

「あん? 気のせいだろ?それよりもさっさとこの状況を――――」

 

 その言葉が言い終える直前、戦車の真上にある出入り口の扉が開かれた。

 

「お邪魔しま~す」

「げぇ!? 武村!?」

「岡崎の言った通り本当に真上に入り口があったじゃな~い」

 

 そう言って、戦車の中で青い顔をする二人の敵チームメンバーに向けて、武村は笑顔で言った。

 

「さ、表に出ろ。それとも僕がそっちに行こうか?」

「ひいいいいいいいいいいい!」

 

 こうして、ふらわ~戦車の乗組員二人は武村に片腕一本でノックアウトされた。

もう一方の戦車も岩流が木刀なしで容易く制圧して見せていた。

どうやら、戦車さえなければ二人にとっては格下の相手であったらしい。

 

「――F1! F2! 応答するのです! クソが! 二台ともあんなふざけた落とし穴にやられたなんて! 屈辱なのです!」

 

 ふらわ~戦車二台からの無線が途絶え、里香はわなわなと拳を震わせる。

 そして、目の前の操縦桿を握ると、怒りに任せてそれを引き上げた。

 それをスイッチに、彼女自身の乗る司令機が起動を始める。

 

「こうなったら、私の究極の戦車、『イビルアイΣ』で奴らを叩きのめすしかないのです!」

 

 砂の中に埋まっていたらしいそれは。砂を振り払いながら、その姿を地上に現し、そして、空高く飛翔した。

 

「あれは!」

 

 蓮一達がそれに気づくのにさして時間はかからなかった。空に舞い上がったそれはあまりにも目立ちすぎる異形の様相をしていた。

 天使の輪のような白く光るリングに悪魔のような蝙蝠型の翼。そして、その機体は巨大な目玉そのものであった。

 最初に見た時は誰もが妖怪だと思うに違いない。

 

「お前達、よくも私のふらわ~戦車をやってくれたですね! ここからが本番、私の最高傑作の戦車、イビルアイΣが相手になってやるのです!」

 

 スピーカーでもついているのか、大音量の里香の声が目玉の化け物から響き渡る。

 

「うわ、すげぇ!」

「空を飛ぶ機械があるなんて驚きじゃな~い」

「岡崎殿、あれも外の世界では一般的な兵器なのか?」

 

 驚きと共にどこか目を輝かせた三人が夢見に視線を送る。

 しかし、それとは真逆に彼女のイビルアイΣを見つめる視線は冷たく、失笑している。

 

「いや、どう見てもただの悪趣味な目玉の化け物だね」

「どう見ても戦車でしょうがああああああ!」

 

 夢見のコメントが相当頭にきたのか、その怒声と共にイビルアイΣの目玉から大量の光弾が放たれる。

 

「うわぁ!?」

「安心して欲しいのです。当たっても気絶するだけなのです。人をぶっ殺すにはまだ出力不足なのです」

 

 何か物騒なことを言っているが、蓮一達からすれば聞いている場合ではない。

 しかし、怒りに任せて適当にばらまいただけなのか、三十発程度の光弾はいずれも砂に小さなクレーターを作った程度であった。

 

「見たかなのです! 空を制したこの戦車に勝てるものなどいないのです! この戦車こそが! 幻想郷に必要な妖怪と戦う武力! 人は戦車に乗ることで力を得るのです!」

 

 どこか宣伝じみた口上を大声で並べ立てながら里香は再度目から大量の光弾を落としてくる。

 

「空じゃ、流石に手が出ない……!」

 

 蓮一の顔に焦燥が見える。

 操縦席の里香はそれを見て満足そうに笑った。

 

「そう、空を制するということは実質戦いを制することに近いのです。飛ぶことのできない人間などこのイビルアイΣから見れば敵ではないのです」

 

 その言葉と共に、里香は脳裏にかつてこのイビルアイΣを壊した唯一の人間を脳裏に浮かべる。

 その人間は飛ぶことはできなかったものの、空を飛べる亀の背に乗り、霊力という特殊な力を操っていた。

 

「あの人間にもしっかりリベンジしてやるのです……!」

「――くしゅん!」

「ん? どうしたね? 風邪かね、靈夢どん?」

 

 会場で突然大きなくしゃみをする靈夢に周りの視線が集まる。

 靈夢は恥ずかしそうに鼻をすすりながら言った。

 

「いえ、誰かが噂してるのよ。あのイビルアイΣの中の子とかが」

「ん? 何言ってるね?」

「いーえ、こっちの話よ」

 

 靈夢はかつて自分の倒した飛行型戦車イビルアイΣを見ながら懐かしむように笑った。

 

「――当たれ、当たれ、当たれぇ! なのです!」

 

容赦ない対地爆撃が続く中、蓮一はそれを避け続けるしかない。

 最早蓮一一人でどうにかできる相手ではない。このままでは遅かれ早かれ光弾が当たってしまう。その時であった。

 

「――ッ!? 砲撃、なのです!? いったいどこから!? ああああ!」

「悪いね、借りているよ」

 

 イビルアイΣに向け、突如砲弾が直撃する。

 見ると、先程までアリジゴクに嵌っていた戦車が砂地に斜めに埋まって射角を上げて対空砲撃をしていた。

 

「ぐッ、戦車で……対空射撃なんて!」

「射角調整さえできればあとは着弾計算だけ。天才物理学者の私には容易いことだよ。あと、戦車は肉薄攻撃に弱いんだから機銃位つけたらどうだい? 私の世界では全ての戦車が機銃を付けていたものだが」

「無線まで当たり前のように使いこなしやがってなのです!」

 

 砲弾はイビルアイΣの右翼を貫いており、それによって飛行状態が維持できなくなったのかイビルアイΣはふらふらとゆっくり地面に落ちていった。

 

「ぐぅ! キャタピラ展開!」

「おお、ちゃんと戦車らしいところもあるんだねぇ」

 

 落ちていくイビルアイΣの下からキャタピラが展開され、砂漠に着地する。

 すかさず戦車を建て直し、夢見は正確無比に砲撃を直撃させるが、最強の戦車と豪語するだけあり、装甲には傷一つつかない。

 

「今なのです!」

「――ッ! 退避するしかない!」

 

 ふらわ~戦車に向け、イビルアイΣから光線が放たれる。

 すかさず転移魔法で戦車から避難するが、イビルアイΣの光線で戦車は一瞬で破壊されてしまう。

 

「翼が落ちた程度で勝ったつもりになったら大間違いなのです! 私の能力と戦車技師の能力さえあれば、無敵! 誰にも負けないのです!」

 

 これで蓮一達は生身でこのイビルアイΣと戦わなければならない。追い詰めたと里香が確信したその時、いつの間にか蓮一が何故かイビルアイΣの真正面に立っていた。

 

「これ、能力で作ったものなのか?」

「は? ええ、そうなのです。私の『材料から完成品を精製する程度の能力』で作ったのです」

「なんだ、能力使いだったのか」

 

 嫌に落ち着いている蓮一の様子が気味悪く感じてならなかった。

 

(なんですかこいつ。あのどこか余裕な態度、紫髪の巫女を思い出すのです)

「じゃあ、こっちも使って問題ないな」

「こっちも……?」

 

 蓮一は合掌し、目を閉じる。

 それに合わせ、蓮一の身体から闘争の塊のような荒々しい気が静かに溢れ出してくるのがその場の全員に分かった。

 そして、それに最初に気付いたのは武村。

 

「これは、動の気の発動……!」

 

 かつて蓮一と戦った際に感じた動の気。

 それが蓮一の体内から放出されていた。ただ、今回はそれだけには終わらない。

 

「『手数を増やす程度の能力』発動」

「こいつも能力者なのです!?」

 

 武村は一度戦っていて知っている。蓮一はあの能力で霊体の腕を二本増やせる。

 知らなかったのは、その能力に新たな進化がなされていたことであった。

 

腕型(モード)・阿修羅!」

「あれは、以前とは違う!?」

 

 蓮一の声と共に動の気と霊体の腕が混ざり合い、蓮一の腕はやがて蓮一自身の腕二本に加え、霊体の、しかも若干赤みを帯びた筋肉の塊の如き頑強な腕が四本生まれていた。

 今まで合計四本までの手数が、六本にまで増えていた。

 

「な、なんなのです、そのヤバそうな腕は!? ほ、砲撃なのです!」

「遅い」

 

 里香がその腕に本能的な危機感を覚え攻撃するよりも、蓮一の攻撃の方が遥かに早かった。

 赤い霊体の腕が正拳突きを真正面のイビルアイΣに放つ。

 何の変哲もない、基本中の基本。技とも呼べないそれは、戦車の砲撃ですら傷一つつかなかったかの装甲を、まるで粘土か何かのように凹ませ、蓮一の十倍以上あるその機体は50メートル後方に吹き飛ばしていた。

 

「な、なのですうううう!?」

 

 一体何が起こったのか理解できなかった。

 たった一人の人間の、たった一本の腕で、立った一撃で、イビルアイΣは戦闘継続不可能になるだけの損害を受けていた。

 あらゆる機能が全てダウンしてしまっており、操縦桿をいくら動かそうとびくともしない。ついには脱出を促す赤い警告ランプまで光り始めている。

 

「う、嘘なのです! このイビルアイΣがたった一撃で!」

 

 涙目で様々な操作を試みるが、どれも反応はない。

 

「万事休す、なのです……でも、この勝利は譲れない、なのです!」

 

 里香は真横にある真っ赤なスイッチをカバーガラスごと叩き押す。

 すると操縦席内をけたましいサイレンが鳴り始め、正面のスクリーンに30からカウントが始まる。

 

(これこそがイビルアイΣの最終兵器なのです。機体の負荷を無視した高エネルギー砲。自爆前提の奥の手!)

 

 イビルアイΣが壊れれば、もう実質里香に勝ち目はない。

 しかし、イビルアイΣの自爆と同時に放たれる高エネルギー砲で蓮一を倒せばギリギリこちらの勝利である。

 

「喰らうのです!」

 

 イビルアイΣは爆発するかのような煙を上げ始めたかと思うと、その目玉が発光を始める。

 これで終わりと思った瞬間、蓮一が動いた。

 六本の腕でイビルアイΣを鷲掴むと、それを、空へ投げた。

 

「おらああああああああ!」

「なああああ!?」

 

 空高く舞い上がったイビルアイΣの目玉は上方に極太レーザーを五秒ほど発射し続けると、爆発四散し、その破片を地面に降り注がせた。

 誰もが信じられないという目で蓮一を見ている。

 

「『腕型・阿修羅』は動の気と霊腕を混ぜ合わせて作り出した腕だ。動きの精密性に難があるけどその分、純粋なパワーは極限まで上がっている」

「こんなの……ずるい、なのです……」

「戦車使ってた奴が言うのか? それで、どうする?」

 

 蓮一の言葉に、里香は諦めたような渇いた笑みを浮かべ、両手を上に上げて降参した。

 第二次予選、蓮一チーム、勝利。

 




人武祭出場者紹介

里香(東方旧作キャラ)
幻想郷唯一の戦車技師の少女。
幻想郷に戦車の有用性を広め、不自由なく戦車作りができるよう援助してくれるスポンサー探しと幻想郷の人々の支持を得るために人武祭に出場。材料から完成品を精製する程度の能力というどっかの錬金術のような能力を持つ。
その能力で『ふらわ~戦車』と『イビルアイΣ』という二種類の戦車を計三台作り出し、蓮一達を追い詰める。
しかし、アリジゴク作戦により『ふらわ~戦車』二台が無力化された挙句に夢見に利用されるという失態を犯し、本人曰く飛行型戦車らしい『イビルアイΣ』で逆転を計るも蓮一の新技、『腕型・阿修羅』によって呆気なく倒される。
語尾に『なのです』と付ける口癖があり、どこかの艦娘との関係性を疑われるかと思われたが、言葉遣いが汚過ぎてそんなことはなかった。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。