東方史上最強の弟子 レンイチ   作:浜栲なだめ

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第四十八話「ハンディキャップ」

 

『第二次予選終~~~~了~~~~!』

 

 その声と同時に蓮一達は元いたステージに帰って来た。どうやら蓮一チームの試合が一番最後に終わったらしい。

 蓮一達が転送されてくると同時に、会場を蓮一チームへの歓声が包み込む。

 

「人気者じゃな~い」

「まぁ、あれだけやれば、多少はな」

「やらかしてくれたからねぇ、ウチのリーダーが」

「自分、緊張します」

「ん?」

 

 会場からだけではなく、第二次予選を突破した他の選手達からも蓮一への鋭い視線が刺さっていた。

 単に相手チームを倒し勝利したからだけではない。あの里香の作った飛行型戦車イビルアイΣとの戦闘は全て会場に見られている。

 先に試合を終えた選手達もたった一人で身の丈の十倍はあろう戦車をいとも容易く叩きのめした蓮一の姿が目に焼き付いているのだ。

 当然警戒されるし、注目を浴びる。

 

「次の予選内容によっては多対一も覚悟しないと、だな」

 

 あれだけ人外の力を見せつけたのだ。次の予選がまたバトルロワイヤルであれば、徒党を組んで蓮一を潰しに来る可能性は極めて高かった。

 

「なんだ、蓮一、生き残ったのね」

「ん? 霊夢か! そっちも生き残ったんだな!」

「当然よ。まぁ、完封勝利とは言えないけれど」

「そうか。あれ? 小夜は?」

 

 小夜の所在を尋ねると霊夢は非常に複雑な表情に変わる。

 

「ああ、えーと、小夜は試合後に倒れて、幽香が連れて行ったわ」

「倒れた!? そんなに手ごわかったのか!」

「いや、敵が手ごわかったというか……もう、説明面倒くさいからこの話はパス」

 

 そう言って逃げるように蓮一の前から去って行ってしまった。

 まさか小夜が幽香の模倣、『幽化』を会得していた事実など、この時の蓮一が知る由もない。

 

『蓮一、蓮一ってば……』

 

 困惑を隠せぬ蓮一の袖を今度は後ろから何かが引っ張った。

 しかし、後ろを振り向いても誰の姿も見当たらない。しかし、袖が何かに引っ張られているかのように服の皺が伸びているし、何より目の前から聞こえてくる声が其処に何かがいることの証明であった。

 その声色から判断し、最初は驚いた蓮一も落ち着きを取り戻し、目の前にいるのであろう人見知りの河童の名を告げた。

 

「もしかして、にとり、か?」

『そうそう。よくわかったね』

「お前も人武祭見に来てたんだな」

『だって私達河童が作ってるんだよ? 転送装置とか、このドームとか、その他の機材諸々も』

「そうなのか!?」

『声が大きい! 私の存在が大衆の目に晒されたらどうしてくれるの! 恥ずかし過ぎて死ぬからね、私!』

「虚弱すぎるだろ。直せよ、それ」

『簡単に治せたら苦労ないよ! っていうか、そんな話しに来たんじゃないよ!』

 

 話がどんどんあらぬ方向へと向かっていくのをにとりが止めた。

 

『えっとね、蓮一の対戦相手のチームのさ、里香っていたじゃない?』

「ああ、まだあそこにいるな」

 

 蓮一が指さした先には顔を俯ける里香チームの姿があった。

 

『その里香って子をさ、私に紹介して欲しいんだよ』

「へぇ、コミュ障の癖にどういう風の吹きまわしだ?」

『私だって話しかけに行くなんて嫌だよ! でも、どうしても気になるんだもん、あの戦車ってやつ!』

「ああ、技術者同士何か惹かれるものを感じたんだな?」

 

 蓮一はにとりの要望に納得した様子を見せると、依然として袖を掴んでいるらしいにとりの見えない手を掴みとり、里香の方に引っ張っていく。

 

『ちょ! ちょ! いきなりとか心の準備が!』

「でも今いかないと見失うかもしれないだろ? ていうかそろそろその透明化する奴解除しろよ」

『光学迷彩スーツ試作型改だよ!』

「ほら着いたぞ」

『ひゅい!?』

 

 一方、近づいて来る蓮一達にも気付かず、里香達は重たい空気を漂わせていた。

 

「た、隊長、すみません! 自分達があんなアホみたいな罠に引っかかっちまったばっかりに……!」

「俺も、もっと正確に砲撃ができてれば……あの戦車の力を半分でも引き出せれば!」

「もう、いいのです。負けは負け。私の戦車もまだまだということなのです」

「そ、そんなことないです! 俺は! 隊長の戦車に出会えて、心からすげえって思いました!」

「俺も! 俺みてぇな偶然二次予選まで勝ち残っただけの野郎が、隊長の戦車に乗っただけであの拳鬼と岩流師範を簡単に追い詰めちまってた! 隊長の戦車は本当にすげぇよ!」

「隊長じゃないのです。ふふ、偉そうなこと言いながら無理やり私の戦車に乗せられて、しかも結局負けて、私は隊長失格ですよ」

 

 自嘲気味に呟く里香を周りのメンバーは必死にそんな事はないと訴えかけ続けていた。

 試合開始前からこんな情の厚いメンバー達のことを総じて駒のようにしか見ていなかった自分が恥ずかしくて、里香は顔を背けた。

 

「――あー、お取込み中悪い、里香っているか?」

「てめぇは!」

「蓮一!?」

「隊長を気安く名前で呼びやがって!」

「舐めた野郎だぜ!」

「……敵チームの大将さんが一体私みたいな負け犬になんの用なのです?」

 

 予想はしていたが酷い警戒のされようであった。

 蓮一は笑顔を崩さないまま、慎重に話を進めた。

 

「実は、里香の戦車に関してこいつが話を聞きたいって……おい、その光学迷彩なんちゃらさっさと外せ!」

『え……やだ』

「なんでだ! お前が里香と話しに来たんだろうが! 姿を見せないで会話なんてできるか!」

『できるもん! 少なくとも蓮一とはできてるもん!』

「初対面の相手に姿見せないままなんて礼儀に欠けるだろうが! ほら、外せ、ここか!?」

『ひゅい!? どこ触ってんのさ、エッチ!』

「え!? わ、悪い、そんな変な所触ってたか……?」

『河童の頭頂部はデリケートなんだよ!』

「しらねぇよ! 頭頂部かよ! てっきり胸の辺りに手がいったのかと思ったわ!」

『何考えてんのさ、蓮一不潔』

「面倒くさいな、もう!」

 

 そこに誰もいない筈なのにあたかも誰かが居るように会話する蓮一。しかも、蓮一の見ている空間から確かに女の子の声が聞こえてくる。

 里香達はその様子を不思議そうに見つめていた。

 

「おい、俺は腹話術でも見てんのか?」

「やっぱあそこには誰も見えねぇよな?」

「でも、女の子の声がするぜ?」

「いったいどうなってんだ?」

「…………」

 

 狼狽する他のメンバーを他所に、しばらく蓮一の様子を観察した里香は一歩蓮一に近づき、そして、蓮一が話しかけている何もない空間に向けて同じように声をかけた。

 

「あの、私の戦車に興味があるって聞いたのです」

『ひゅい! え、あ、そ、そう! そうだよ!』

 

 がちがちに緊張したような返答が返って来た。

 里香は続ける。

 

「なんで、私の戦車に興味を持ったのです? 生身の人間数人に圧倒されちゃったのに」

『い、いやでも、あれはまだまだ発展途上っていうか、改装を繰り返せばいくらでも強くなるし、何よりもあれはどんなに弱い人でも蓮一達を追い詰められるほどに強くしてくれるっていうのが一番の特色だと思ったんだよ。力のない人でも自分の身を守る力が得られるって画期的だなって私は思う!』

「――! いたのです、ちゃんと私の戦車、分かってくれる人……!」

 

 里香はこみあげてくる喜びを抑えきれず、おそらくは目の前にいるであろう透明の相手に詰め寄るように近づいた。

 

「良かったら、私のラボとかも見てくれないですか? きっと、口頭で説明するよりも私の戦車をより理解してもらえると思うのです!」

『え……まじで?』

「まじなのです。だから、その、姿をみせてくれると、ありがたいなぁとか思うのですが……」

『…………』

 

 しばらく沈黙が続いた後、突然、空中からしみ出して来たかのように何も見えなかった空間から青い服と緑の帽子を被った青髪の少女が姿を現した。

 しかし、今はその視線は舌を向いており、その顔はトマトのように真っ赤である。

 

「なんだ、私と同じ位ちっちゃい女の子なのです」

「わ、私は河童のにとり! 見た目はこんなだけれどあんたよか年上だよ!」

「ところで、今のもしかして光学迷彩ですか? すごいのです! まさか実現させていたなんて!」

「ひゅい!? え、う、うん! ま、まだ試作品だけれど、結構、自信作、だったり……」

 

 里香の称賛ににとりはまんざらでもない感じで小さく笑みを浮かべた。

 

「そうだ! この光学迷彩を組み込んだステルス戦車なら……! うん、今度こそいける! にとり、でいいですよね? 私も里香でいいのです! さっそくラボで改造案をまとめたいのです! 一緒に来てほしいのです!」

「え、う、うん」

 

 興奮気味の里香に手を引かれ、にとりは戸惑いながらも彼女についていく。

 

「隊長! 俺達もついていきます!」

「今度こそふらわ~戦車を乗りこなしてやりますよ!」

「よし、私はビシバシ行くですよ! 覚悟のある奴だけついてこいなのです!」

「イエス、マム!」

 

 その元気な掛け声と共に里香は会場の出口に向かってにとりと他のメンバー達と共に走っていく。

 しかし、出口付近で蓮一の方を向くと、両手を口元に当てて大声で叫んだ。

 

「来年こそは私の戦車でギッタンギッタンにしてやるのです! 首洗って待っていやがれなのです!」

「おう! 望むところだ!」

 

 蓮一は笑顔で手を振り返すと、里香は会場を走り去って行ってしまった。

 よくわからないが、取り敢えずは悪くない形で収拾がつけられたのではないかと思う。

 そして、蓮一が自分のチームの元に戻ろうと身を翻した瞬間、会場のモニターに実況の姿が映し出される。

 

『選手のみなさん、第二次予選お疲れ様でしたぁあああああああ! 数時間前まではこの会場に500名もの選手がいたというのに、今や二次予選が終わり、その数は25名にまでに絞られることとなりました!』

 

 そうだ。蓮一は辺りを見回す。この会場内に残った25人こそが本選出場のために倒さねばならぬ猛者達の姿。

 蓮一が周りの25人――否、今は小夜がいないので24人だが――を見渡すのと同時にその24人もまた辺りを見回していた。

 そして、互いにその視線の間で火花が散る。

 誰も彼もが負ける気など一切ないのである。誰が相手でも自分が勝つ。そういう気概に満ち溢れた者達だけが今この場に残っている。

 

『そして、いよいよ三次予選、これが本選に進む12人を決める最終予選となります!』

 

 その実況の言葉と共に会場全体がぴんと張り詰めた空気に変化する。

 ついに次の予選で決まるのだ。

 自警団最強の八人、八武長に挑む十二人の豪傑が。

 

「ここまで蓮ちゃんも小夜ちゃんも残って来たね」

「まぁ、あの二人なら当然だろう」

「二人共鍛えてる……から」

「アバ!」

 

 高天原の豪傑達も口ではクールな物言いだが、その視線は蓮一から少しも外れず、その手足は落ち着きなく動いている。

 師匠としての自覚が芽生えてきた証拠だろう。自分達の弟子が見事本選に進めるのか気になって仕方がないのだろう。

 靈夢はそんな刃空達を見ながら良い傾向だと心の中で呟き笑った。

 

『えー、第三次予選は明日の朝九時から行われます! 選手の皆様は三十分前の八時半までに登録を済ませた後、この会場に集まっていただきます。そして、その第三次予選の内容、それは、サバイバルです!』

「サバイバル?」

 

 その実況の言葉に会場中がざわめき立つ。

 

『お静かに! 明朝、選手の皆さんはこの無人島にランダムに転送され、そこで二十五人のサバイバルを48時間行っていただきます!』

 

 会場のモニターには海に浮かんでいると思われる小島が映されていた。幻想郷に海がないことを考えるとこの場所は恐らくは作り物か、外の世界という奴なのだろうか。

 いずれにせよ森林と活火山のようなものが見られる正真正銘の無人島のようである。

 

「ここで二日間生き延びるってことか?」

 

 誰かが呟いたその一言に実況が大声で反応を返した。

 

『大まかにはその通り! しかしぃ! 二日間を生き残る間にも皆さんにはこの星をとりあっていただきまぁす!』

 

 そう高らかに実況が掲げたのは、親指と人差し指で挟めるくらい小さな星型のバッジのようなものであった。

 

『この星は出場者全員のこのグローブに10個付けられた状態で渡されまぁす。この星の数が予選終了時に多かった上位12名が本選に進める。つまり! 二日間のサバイバルの中で皆さんにはこの星を奪い合って貰う訳です!』

 

 ようやく、予選の意図を理解したらしく選手達はそれぞれ既に三次予選に向けた戦略を立て始めているようであった。

 サバイバル、そしてその中で同時に星を奪い合わなければならない。

 想像以上に過酷な戦いになるだろう。

 

『詳しいことは明日説明いたしますが、必要となるサバイバルグッズは全てこちらで容易しておりますので、選手のみなさんは各々の身体と! 武器を! 持ってきてくれればオールオッケーです! それでは本日はお疲れ様でした! これにて人武祭予選一日目を終了致します!』

 

 その言葉で、閉会の曲が流れ初め、選手は係員に誘導されて選手控えに戻り、その場で解散となった。

 しかし、まだ蓮一にはやることがある。蓮一は急いで夢見の元へ走った。

 

「教授!」

「……ん? 蓮一か、お疲れ様」

「ほら約束通り、魔力の補給」

 

 そう言って、蓮一は右手を差し出した。

 人から奪った生命力を魔力に変えること自体は容易い、奪う人間のどこか一部にでも触れていればよいのだ。

 しかし、それはまずやらない、というのが魔法使いのルールである。

 別に破ればどうという訳ではなく、魔法使いとしてのプライドに掛けた心の檻のようなものだ。

 魔法使いになる、とは本来捨虫の法により人を捨て、他の生命を奪うことなく生きながらえることのできる身体になるということ。その魔法使いが人間から奪った生命力を魔力に変えるという事は外法中の外法。

 生命の犠牲なく生きられる存在が他の生命を奪うという矛盾。それをやってしまっては最早それは魔法使いでもなければ人間でもない、半端者である。

 だから普通の、あるいは高等な魔法使い程そんなことは絶対にしない。

 

「私はどちらだろうね」

「ん? 何の話だ?」

「いや、こちらの話だ」

 

 夢見は考える事になった。

 現状、魔力を回復させるための手段はいくつもない。その中でも最も手っ取り早く、最も効率が良く、最も現実的な手段は誰かの生命力を魔力に変換するという方法だ。

 科学者としての私ならば外法だろうがなんだろうが、迷いなくやっていただろう。

 しかし、魔法使いとしての私はどうだ。

 元々、魔法の存在を証明するために幻想郷に来て、魔法使いなっただけの覚悟のない魔法使いだ。しかし、最近この魔法のことがわかるにつれ、私の中にも魔法を使える存在という特別性が意識の内に根付いてきているのだ。

 この私自身の変化は予想外であった。何が予想外かといえば、私は魔法使いという特別性(プレミア)を守りたいと強く願っていることである。偏執と言ってもいいかもしれない。

 私は科学者なのか、魔法使いなのか。それにより、目の前の蓮一の手を取るか取らないか、答えが変わる。

 私はしばらく考えた後、極めて客観的に自分の状態を観察した結果導き出される最適解を口に出していた。

 

「うん、保留」

「は?」

 

 蓮一は一瞬夢見が何を言っているのかわからずそのまま固まっていた。

 

「いや、保留だよ、保留。少なくとも今は君の生命力を魔力に変換する必要はない」

「え? いいのか? 魔力、使い過ぎたんじゃないのか?」

「まぁ、予定よりは使い過ぎているがね。だが、それは君たちとて同じだろう」

「え?」

「武村は拳を、岩流は剣を、玄亀は盾と身体を、そして君は手の内を犠牲にしてしまった。それぞれ次の予選に何かしらのハンディをもって挑むのに私だけ何もないというのは少し忍びない。だから、私も魔力というハンディを背負うことにした、それだけだよ」

「なんか教授、かっこいいな!」

「女の子にかっこいいなんて言っても喜ばないんだぞ?」

「でも、かっこいいよ」

 

 正直思いつきででっち上げただけの理由なのだが、そこまで言われると恥ずかしくなってくる。夢見は視線を逸らした。

 

「じゃ、教授! 今度は敵同士だ! お互い本選目指して頑張ろう!」

「ああ、また明日だな。寝坊するんじゃないよ?」

「教授もな!」

 

 そう言って、蓮一は夢見に手を振って走り去っていった。

 

「かっこいい、か」

 

 夢見も蓮一の背中を見送りながらそう一言呟くと、宿舎へと歩いて行った。

 こうして人武祭予選一日目は終了した。

 

 

「さて、蓮一。取り敢えずは三次予選出場おめでとう」

「あ、ありがとうございます、師匠」

 

 高天原に帰った蓮一は早速靈夢に呼び出され、二人きりで四畳半の一室で向かい合って正座していた。

 何故か鬼仮面を被った靈夢の目は真っ直ぐ蓮一を射抜きながらもどこか厳しい。

 

「そして、何故約束を破った?」

「す、すみません!」

「『曼荼羅制空圏』、そして『腕型・阿修羅』。私との修行で得た新技の内の二つ、あれはまだ未完成の上に、体力の消耗が激しい。だから、合計して一日一回までと約束した筈だな?」

 

 その通りであった。

 どちらの技も未完成で曼荼羅制空圏は究極的に集中力を使うが、まだ相当実力差のある相手でなければまともに使えない。腕型・阿修羅は発動限界が五分しかなく、それを超えると意識が飛ぶだけでなくその後半日は身体が動かせない程の疲労が襲ってくるのである。

 しかし、今日一日、しかも未だ予選の段階でそれを二つ共使ってしまった。

 修行中でも一日に二つ両方を使ったことはない。靈夢に身体にかかる負担が重すぎると判断されたのである。

 

「お前、もしかしたら死ぬかもしれないとは考えなかったのか?」

「……勝つことしか頭になく、考えていませんでした」

「馬鹿者が!」

 

 靈夢から罵声が飛ばされる。

 

「今日のお前を見て思ったことがある」

「はい……」

「お前は大技に頼り過ぎている節がある。確かに必殺技と言えば聞こえはいいがな、必殺技に頼っているうちは武人として大成などしない。技はあくまで基礎の集合。勝負を決めるのは常に心だ」

「心……」

「そうだ。今のお前は技に心を委ねきっている。お前、今できる大技を全て相手に破られたら、戦意喪失するんじゃないのか?」

「う……」

 

 否定できなかった。

 確かに、曼荼羅制空圏や腕型・阿修羅が破られた時、自分がどう戦うのか蓮一には想像できなかった。

 きっとそれだけで絶望し、勝負を諦めてしまうのではないだろうか。

 

「必殺技に頼るということは心が弱い証拠だ。強さとはそういうことではない。強さとはどんな逆境にも立ち向かえる不屈の心。いつか言った筈だな、勝負は最後まで往生際の悪い者が勝つ、と」

「はい……」

 

 それは武村との最後の戦いの時にも頭に浮かんできた言葉であった。

 それほど身に染みて大事なことを、今日蓮一は見失っていた。

 きっと、どこか新たな力を手に入れ、どこか調子に乗っていたのだ。そして、その慢心を見逃す程八武長は甘くはない。

 今日一日で本選までが行われていたとしたら、蓮一は優勝どころか三次予選で落ちていてもおかしくはなかった。

 

「お前はまだ気が付いていないのだ。私達が毎日のようにお前に課している基礎がどれだけ心強い武器になっているのか。私から言わせれば今日の予選、どちらも大技を使うまでもなく確実に勝てた相手だ。お前はまず、自分の本当の力量を知る必要がある」

 

 そう言うと、靈夢は鬼の仮面を外し、改めて蓮一の目を見つめて言った。

 

「蓮一、あなたは明日から始まる三次予選中、私との修行で得た技の一切の使用を禁じるわ。私からではなく、これまで高天原で得たあなたの力を十分に発揮し、見事勝ち抜いて見せなさい」

「はい!」

 

 蓮一は力強い返事を返した。

 靈夢は叱るだけでなく、自分に助言をくれた。つまり、まだ自分に期待をしてくれているとうことだ。ならば、その期待に今度こそ全身全霊で応えなければならない。

 蓮一は拳を固めた。

 

 

「――はっ! ここは!?」

「私の私室よ」

「ゆ、幽香師匠!?」

 

幽香の声を聞いた瞬間、小夜が寝ていた布団から跳ね起きて即座に正座する。

 

「……まったく、あんたやってくれるわよね」

「な、なんのことですか……?」

 

どうやら小夜には『幽化』の記憶がないらしいことを悟ると、ますます面倒そうに重たい溜息を幽香は吐いた。

 

「あの、私何かやってしまいましたか?」

「まぁ、やったわね」

「すみません、すみません、すみません!」

「まぁ、結果オーライって感じでもあったから最悪ってほどじゃないわよ。さっさとその顔上げなさい」

「は、はい」

 

 ゆっくりと幽香の方を伺うように小夜は顔を上げる。

 

「動ける?」

「大丈夫です!」

「だったら、庭に出なさい。少し修行をつけてあげるわ」

「え、いいんですか!? あんなに面倒そうだったのに!」

「面倒だったわよ。でも、私一度始めたら最後までやらないと気が済まないのよ。覚悟しなさい。あんた、もう私が満足するまではずっと私の弟子だから」

「なんか、今日の幽香師匠優しいです!」

「やかましい」

 

 満面の笑みを浮かべる小夜のおでこに幽香はでこぴんを食らわせる。

 軽いでこぴんに見えたが、それだけで小夜の上半身はのけぞるように吹っ飛ばされ、その頭部を畳に打ち付けた。

 

「い、痛い……」

「さっさと立ちなさいな。明日の予選開始までにはなんとか仕上げるわよ」

「え!? 寝れるんですか、それ!?」

「あんた次第よ」

「えー」

「最悪寝不足位のハンデは享受しなさい」

 

 幽香の目的は小夜の『幽化』の制御であった。

 確かに『幽化』は小夜の秘められたポテンシャルを引き出すには最適な方歩かもしれない。今まで彼女にない自信が幽化により定着し、知らず知らずの内に抑制されていた本来の実力を十二分に発揮できるようになっている。

 流石にとんでもないポテンシャルを秘めているとはいえまだチーム戦の時には弟子級トップクラス程度の実力までしか引き出されていない。だが、あれをもし小夜自身が自我を持って制御出来たらどうだろう。

 今回の幽化は半ば暴走である。幽香になりきり過ぎたせいで、本来の小夜の動きや気の運用を度外視した戦い方をしてしまった。そのせいでポテンシャルの解放も完全ではないまま、余計な体力だけを浪費する結果となってしまったのだ。

 ならば、彼女が自我を持って幽化を制御出来れば、その秘めた能力が完全開放され、かつそれに適した戦い方ができる。

 あの靈夢が認める程の潜在能力があるとすれば、妙手、あるいは現時点ですら達人級に手がかかるかもしれない。

 幽香はまだ見ぬ小夜の可能性を想像し、笑みが収まらなかった。

 

「あの、その不敵な笑みはなんですか?」

「なんでもないわよ。ああ、それよりもあんたに聞きたかったんだけれど」

 

 そもそも、模倣に幽香が使われた時点で幽香本人としてはこの疑問があったのだ。

 幽香が模倣を進めたのは自分が思う世界一怖いもの。それになりきることで威圧感を体で覚えさせようと考えたのだ。

 そして、その小夜の世界一怖いものに今回幽香が選ばれた。それ故の幽化と考えるのが自然である。

 

「私って、そんなに怖いかしら?」

「本気で言ってるんですか? それとも私を和ませようとギャグを言ってくれたんですか?」

「捻りつぶすわよ」

「ごめんなさい! ごめんなさい! ごめんなさい! ていうか、それが怖いんですってば!」

 

 その夜は遅くまで幽香の罵声と小夜の悲鳴が高天原に響き渡ったという。

 第三次予選、サバイバル開始まであと数刻。

 

 




人武祭出場者紹介

武村
元拳鬼と呼ばれていたお尋ね者。フルネームは武村一騎。
昔、妹の小夜と共に自警団にはいろうと入団試験を受けに行ったところで豊金の怪しい取引の現場をみてしまい、それがきっかけでお尋ね者になり、同時に小夜を豊金の手から救うために墓吐武頭を組織し、自警団に戦争を挑むことになる。
豊金の追手から逃げている間、動の気に目覚め、森で追い詰められたところを流浪の鬼に救われて、鬼に弟子入りする。その際に鬼拳を会得する。
蓮一とは孤高の道か、絆の道かで対立し、因縁のライバル関係になり、スラム街での激闘の末、蓮一に敗れた。
その後は他の方面の助けもあり、豊金の問題は無事解決。スラム街の修繕を墓吐武頭のメンバー総出で手伝っている。
今回の人武祭出場にどういう意図があるのかは不明。もしかしたら普通に腕試し気分で参加しているのかもしれない。本人楽しそうだし。
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