東方史上最強の弟子 レンイチ   作:浜栲なだめ

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第五十話「0の同志」

 

「――ジャブ! ジャブ!」

「ぐ! かはっ!」

 

 無人島西エリア。

 第三次予選開始から既に一時間が経過し、徐々に敵と遭遇する選手が増え始めていた。

 

「そして! とどめの、アッパー!」

「ぐはぁ!」

 

 武村の流れるような三連撃をもろに食らい、肉団子のような体系の大男は涎をまき散らしながら仰向けに倒れ、同時にそのグローブから一つの星を落とした。

 

「よし、これで星一つゲットじゃな~い……ってあら?」

 

 武村が、相手が起き上がってくる前にドロップした星を奪取し、急いでグローブにはめ込み終えると、大男は既にワープされ、目の前には誰もいなかった。

 

「え、加減したのに今ので気絶させちゃったのかい……? うそ~ん!」

 

 武村は頭を抱えて叫んだ。

 一方、東エリアでは。

 

「ぐへぇ!」

「ぎゃ!」

「あべし!」

「……ふん、所詮こんなものか」

 

 四つどもえ、というよりかは三対一という構図で岩流が木刀を振るい、三人の選手が吹っ飛ばされていた。

 

「くそ……! こいつが噂では人里最強と言われている剣士か!」

「三人で向かってもこのザマかよ……!」

「あっという間に三次予選まで残った俺達から星を三つ奪いやがったぜ!」

 

 左手に木刀。右手に今しがた三人からドロップした星三つを握り、依然岩流は三人相手に圧倒していた。

 グローブに星をはめこみ、大きく溜息をつくと、岩流は後ろの茂みに横目をやりながら言った。

 

「つまらんな。こんなものでは私は(たぎ)らぬ。そこに隠れているもう一人もかかってきたらどうだ?」

「――――」

 

 岩流の言葉と同時に茂みが僅かに揺れた。

 しかし、いくら待てどもその茂みの奥に居た誰かは出てくる気配がない。

 

「…………ふん、逃げたか。臆病なのか、あるいは賢しいのか」

 

 岩流はそう吐き捨てるように言うと、視線を目の前に迫ってきている三人に戻した。

 

「余所見とは慢心だな!」

「隙ありぃ!」

「星を取り返させてもらう!」

「……全く、つまらん」

 

 岩流は木刀を振り抜いた。

 一方で北エリア。

 

「へぇ、まぁ人数も少なくなってきてるしいつかは戦うと思ってはいたけどね」

「いやぁ、いくらなんでも最初に鉢合わせるのは私的に勘弁してほしかったんですけれど……」

 

 大きな火山を背景に、小夜と霊夢は向かい合っていた。

 好戦的な姿勢の霊夢とは対照的に小夜は少し逃げ腰である。ただ、流石というべきか逃げ腰の状態でも微塵も隙が見当たらない点には霊夢も僅かに苦笑いを浮かべていた。

 

「そっちから来ないなら、私から行くわよ!」

「えぇ! ちょ、本当に戦うんですか!?」

「当然でしょう!」

 

 距離を詰める霊夢からさらに距離を取って逃げ回る小夜の姿がモニターに映し出されていた。

 

「……あの、馬鹿。あとでお仕置きね」

「いや、でも凄いね。霊夢ちゃんの踏み込みも初動もなるべく消しているし、スピードも悪くないのに全く距離が詰まらないね」

「私はあいつに逃げ方教えるために師匠やってんじゃないのよ」

 

 会場では幽香が呆れた様子で逃げ回る小夜の様子を見ていた。

 一方、南エリア。

 

「ぐ……つええ」

「こいつ……こんなに強かったのかよ……」

「残念じゃったのう」

 

 海岸沿いの砂浜で一人の坊主頭の大男が合掌しながら倒れている二人の選手を見下ろしていた。

 

「なんだ、まだ儂は一発しか当てておらんぞ。ほれ、立ち上がって向かって来ないか」

「く、くそ……! 舐めやがって」

「で、でも……体がもういかれちまって動かねぇ!」

「ふむ、この島では怪我の治りが早いと聞いておったが、とんだ期待外れじゃな」

 

 坊主頭の大男は口元から伸びる長い黒髭を撫でると倒れたまま動けずにいる二人の方へと歩み寄る。

 

「闘志に違い、動かぬその身体、さぞ辛かろう。今儂がその苦難から解放してしんぜよう。うぬらの死をもって、な」

「ひ……!?」

「な、なに言ってんだ……!?」

 

 男達の顔が青ざめるのが見て取れた。

 

「心配無用。この島では死に瀕する攻撃を受けてなお、仏の元へは連れてゆけぬと言う。しからば、そのまま苦しみながら全快を待つよりかは一度死んでみた方が早かろう」

 

 確かにこの島の中では例え即死級の攻撃を受けてもワープされるだけであり、しかもワープ後には身体のダメージは完全に回復してしまうという破格の加護がある。

 しかし、かと言って積極的に死に向かう者や殺しを行う者がいるかと言われればそれは当然少数である。

 正常な人間は、いくら不死の加護があろうとも生きることから意識的に脱却することはないし、同種を意識的に殺そうともしない。それらは生命の理が外れる行為だからだ。

 できる者がいるとすれば精神が弱り果てた者か、あるいは狂ってしまった者か、あるいは、数百年単位で数万個体の一つに偶発的に現れる、生まれもっての異端、突然変異個体である。

 

「南無阿弥陀仏」

「うわああああああああああ!」

 

 その二人の悲鳴は気色の悪い肉の潰れる音でかき消された。

 そして、血に染まった拳を開き、血の跡だけが生生しく残った砂浜に二つだけ残っていた星を拾って坊主頭の男は満足げに笑った。

 

「うむ、これであの二人もこの鬼若(おにわか)によって苦しみから救われたに違いなかろう。やはり、良いことをすると気持ちがいい」

 

 そこに、一人の男が背後から歩み寄る。

 その足音に気が付き、自らを鬼若と名乗ったその男は背後を振り返る。

 

「ほう、貴様も儂と合戦を所望するか」

「……自分、今のは見過ごせませんので」

「ああ、見ておったのか。だが、安心めされい、しっかり痛みなど感じる暇もなく屠った筈じゃからのう」

「救うだのなんだの言って、あなたの笑みは暴力への悦楽だ。それが自分は気に入らない」

「ほう、いってくれる。貴様、名は?」

「……玄亀」

 

 玄亀はそう名乗ると、背中に背負った巨大な盾を右手に持ち、鬼若に向けて構えた。

 

 

『さぁあああああああって! 人武祭、三次予選が開始されてから早くも三時間が経過いたしました! ここで、現在のランキングを会場に居る皆さんにお見せしましょう! どうぞ!』

 

 その実況の声と共に、モニターが映り変わり、そこに総勢二十五名の選手の名前と順位、そして星の保有数が書かれていた。

 

「れ、蓮ちゃんは何位ね!?」

「予選が開始してからモニターには一回も映らなかったからねぇ」

「流石に……負ける筈はないから、上の方にいると思……う」

「アバ……でも蓮一の名前、一番下に見えるよ?」

「え!?」

 

 阿八の一言で全員が驚愕の声と共にモニターに映るランキングの一番下に視線をやる。

 そこには言った通り蓮一の名前がはっきりと出ていた。

 

「蓮一君が、最下位!?」

「しかも星の数が0個ね!?」

「大大大ぴ~ん……ち」

「アバ! まずいよ! すごくまずいよ!」

「…………アイリスという選手が圧倒的だな」

 

 想定外に危機的な状況に置かれていた蓮一に不安の声を上げる刃空達とは対照的に、靈夢は静かに、しかし険しい顔つきでそう呟いた。

 

「アイリス、現在一位で星の数は28個……二位とは星十個分以上差をつけてのトップ独走状態ね」

 

 幽香もどこか怪しむような視線をモニターに送っている。

 

(アイリス、か。聞かない名前だけど、第二次予選での最後の攻撃、そして他の選手達とは圧倒的な力の差を感じさせる得点差。アイリス……いや、まさか)

 

 靈夢はそこまで考えて一旦思考を止めた。

 今の推理は憶測と推測で進み過ぎていると感じたからである。

 

「靈夢、私も今おそらくあんたと同じようなことを考えているわ」

「幽香……」

「でも、確定はできない。予選が始まってからあのアイリスっていう選手の姿も一切見えなかった。今は情報が少なすぎるわ」

「そうね。でも、もしこの推測が本当だとしたら、あのアイリスという選手は……」

「ええ、もしアイリスがあのアリス・マーガトロイドだとしたら、現段階ではこの大会最強の選手でしょうね」

 

 幽香ははっきりとそう断言した。

 

 

「はぁっ! はぁっ!」

 

 同時刻、蓮一は息を切らして森の中を走っていた。

 あれから三時間程度、端末を片手に反応の近い相手に向けて全力で走り続けていたのだ。

 しかし、いくら走れども相手は見つからない。

 近くに居た相手の反応があまりに小さすぎるのだ。詳細な場所が分からない以上、容易く見失ってしまう。

 しかし、反応の大きい選手を狙うかと言われれば、それはあのアイリスしかいない。

 あの大量の人形戦法に未だ具体的な打開策が浮かばぬ以上、今は迂闊に戦いを挑みに行く訳にはいかない。

 無論、悔しい気持ちは隠しきれないが。

 

「しかし、まさかかれこれ三時間くらい走って誰も見つからないなんて……」

 

 星0個の今、蓮一がすべきことはとにかく誰かと戦闘をし、星を増やす事だけであった。

 

「おかしいな。逃げられてるって事はないだろうし……」

 

 星が0個になってわかったことが一つあった。

 このレーダーが選手の持つ星を頼りに探知するのは聞いていた。しかし、どうやら星が0個になるとそのレーダーが探知できず、端末にも表示されないようであった。

 事実、蓮一のいる地点には自分の位置を示す青い矢印があるだけで、赤いポインターは全く表示されていなかった。

 つまり、現状蓮一の位置を掴める選手はいないのである。

 

「まぁ、星0個の選手となんて誰も戦いたくないもんな。そのための救済措置にもなってるのか。上手くできたシステムだな」

 

 蓮一は端末を見て改めて驚嘆の声を上げた。

 取り敢えずはこれで奇襲攻撃も可能になり、星を集めやすい立場にあることはわかった。

 しかし、それでも何故か誰も見つけられない。

 反応を元に近くを散策したが、さっぱり気配が感じられない。

 

「くそ! 何でだ!? 流石にもう一人くらい見つかっても……」

「――――うわああああああああ!」

「っ! 今の声は!」

 

 おそらくはこの付近にいた選手だろう。

 叫び声ということは誰かと戦っていることになるが、おかしい。蓮一は端末を取り出して再確認する。

 やはり、自分以外には交戦可能な距離にいる選手が見当たらない。

 この地点に蓮一よりも早く辿り着き、かつ交戦できるような別の選手の反応は端末を見る限り確認できなかった。

 

「……どういうことだ? まさか、ワープか? いや、星の数は誰も変わっていない。じゃあ、一体……」

 

 とにかく蓮一は真相を知るべく、叫び声の聞こえる方向へと走り出した。

 声の方向と大きさからしてそこまで遠くはないはず。

 蓮一の推測通り、すぐに木の間から戦っているらしい人影が見えた。

 そして、その人影達を視認し、蓮一は息を呑んだ。

 

「あいつは……アリスの人形!?」

 

 片方はおそらくは蓮一が狙っていた選手に違いなかった。しかし、それと戦っているのは黒フードを被ったアリスの操る人形に間違いなかった。

 人形は徐々に男を追い詰めていくと、最後に顔面に拳を入れて背後の木に叩き付けた。

 

「ぐ……あ……」

「あいつ! 気絶させる事を優先して……!」

 

 男は気絶し、星を一つドロップしてワープする。

 人形はそれを拾うと、凄いスピードでその場から走り去っていった。

 

「成程な……俺の星を奪うだけじゃ飽き足らないって訳か!」

 

 一方、火山の頂上付近に座るアリスは蓮一の近くに居た選手をワープさせたのを確認すると、勝ち誇ったように笑みを浮かべた。

 

「もう、星は集まらないわよ。私の人形が先に駆逐しちゃうからね。そして、貴方の居場所は私には手に取るようにわかる」

 

 アリスは金色の髪の毛を指に巻き付けながらそう呟いた。

 自分の魔力を流し込んだ物質を対象に付着させることでその居場所を知る魔法。緩やかにではあるが、魔力を消費し続ける上、魔法使いに使うと逆探知までされかねないリスクの高い魔法ではあるが、相手がただの人間で、時間が二日間程度なら予選中はもたせられる。

 つい数時間前にワープする蓮一を追うように移動できたのもこの魔法の恩恵である。

 

「あなたにはこの予選で最高の屈辱を味あわせて、敗退させてあげるわ」

 

 星はもう二度と蓮一の手には戻さない。

 アリスの頭の中にあるのはそれだけであった。

 

「――やぁ、ランキング一位さん。そんな目立つところで文字通り高みの見物とはずいぶん余裕じゃないかね」

「……誰?」

 

 アリスが向けた視線の先にはこの緑豊かな島では非常に目立つであろう真っ赤な服に身を包み、さらには髪までが真っ赤な女が立っていた。

 

「申し遅れたね、私は岡崎夢見。物理学者兼、魔法使いをやっている。知人は私を、教授と呼ぶよ」

「そう」

 

 興味など欠片もないようなそっけない態度でそれだけを応えるとアリスは視線を戻した。

 その瞬間、アリスの鼻先を魔力のレーザーが掠った。

 もう一度視線を戻すと、アリスに人差し指を向けた夢見の姿があり、その指先からは煙が上がっていた。

 

「君から質問しておいてその態度は失礼じゃないか」

「……そう、遊んでほしいのね?」

 

 アリスは静かにそう一言呟くとゆっくりと椅子にしていた岩から立ち上がり、夢見の方に身体を向けた。

 同時に、アリスの周囲に大量の魔力が放出されていくのを夢見は見た。

 

「やはり、君も魔法使いか……!」

「さっきの攻撃で仕留めておかなかったことを後悔するわよ、三下」

 

 火山の頂上で、二人の魔法使いが激突した。

 

 

「さて、どうしたものか」

 

 森の中、一人蓮一はリュックの中に入っていた携帯食料をむさぼりながら考えていた。

 自分は星0のダントツ最下位、このままでは予選突破は不可能。一刻も早く星を集めたいところだが、自分の近くにいる選手は一体どういう手を使っているのか知らないがアリスが人形を操って先に倒してしまう。

 あの人形よりも強い人間なら問題ないだろうか。

 

「……いや、あの数の人形を一体残らず倒せるだけの実力を持っている奴なんているのか?」

 

 最悪アリスは数十体もの人形を操る事が出来るのは身に染みて知っている。あの大群を倒せる者などこの大会の選手にいるだろうか。

 師匠達なら案外片手間にやってしまうのだろうが、今の所師匠達と同等かそれに近い実力を持つ選手を自分は知らない。知っていて、アリスの人形を撃退できたとしても、自分がそれを倒すことなど可能なのだろうか

 考えれば考える程八方ふさがりのように思えて蓮一は頭を悩ませるばかりであった。

 

「考えても仕方ない。取り敢えずは動く――――か!?」

 

 突然蓮一の後ろの茂みから音が聞こえたかと思うと、その中から人影が勢いよく蓮一の顔面目がけて突っ込んできた。

 

「がッ……!」

「んあ? あり、人だべ!?」

 

 蓮一は顔面に頭突きを食らい、そのまま仰向けに倒れた。

 ぶつかってきた謎の人影は蓮一を見て驚いて身体を起こそうとしてくれている。普通はむしろチャンスだと追撃してくるようなものだが混乱しているのだろうか。

 

「おい、大丈夫だべか! すまんべ、見落としていただか……」

 

 この妙に訛った言葉遣いは聞き覚えがあった。

 予選開始前に質問していた選手の一人だ。

 

「お前……星取るチャンスなのにむしろ助け起こすなんて優しいな」

「あん? だっておめぇ、星持ってないべさ」

「ああ、気付いてたのか」

「グローブみりゃ一発だべ」

「じゃあ、お前は俺に襲われる可能性を微塵も考えていない馬鹿って事になるんだが、それでいいんだな!」

「うわっと!」

 

 最早、不意打ちだとかを気にしている余裕はなかった。今までさんざん妨害されつつもようやく偶然会えた他の選手。ここで確実に星を回復させておきたい。

 蓮一は容赦なく訛り口調の男の襟と袖を掴み、一気に背負い投げをしかける。

 

「おいおい、ちょっと待て! 馬鹿はおめぇだべ!」

「なッ!?」

 

 完璧に背負い投げが決まった筈かと思えば、訛り口調の男は投げられる勢いを利用し、そのまま空中で半回転しながら地面に足から着地してみせた。

 蓮一は丁度下ろしていたが、男は地味に重いリュックを背負っており、重心が不安定な状態である。

 それでなお、咄嗟にここまでの身のこなしを容易く決めて見せる所、相当の強者だろう。

 蓮一は一層警戒を強めつつ、構えを取った。

 しかし、男の方は慌ててグローブを見せて星を取り付ける部分をしきりに指さしている。

 見ると、そのグローブには蓮一同様、一つの星も取り付けられてはいなかった。

 

「お前も、星を全損したのか?」

「そうだべ、やっとわかったべか!? だから、互いにこの戦いは意味ないべ。わかったらさっさとその拳を下げれ」

「あ、ああ」

 

 確かに両方星が0個ならば戦った所で百害あって一利なしである。

 蓮一は言われた通り拳を下ろして構えを解いた。

 男の方はそれを見て安堵の息を洩らした。

 

「ふぅ、急に攻撃されて驚いたべ。ま、星のないステルスもん同士仲良くやろうや。おらは五右衛門ってもんだ。おめぇは?」

「蓮一」

「まぁ、実は知ってたべ」

「何で聞いたんだ!?」

「蓮一、うん、ここで会えたのも何かの縁だべ。蓮一、おめぇ、ちょっくらおらと手ぇ組まねぇか?」

「手を、組む?」

 

 五右衛門の言っている意味が分からず、蓮一は首を傾げる。

 

「考えてもみれ。おら達は今一緒にいることに利も害もねぇ、特別な存在だ。星を持ってるもん同士じゃ、なんの取引もなくこうはいかねぇべ?」

「まぁ、俺達は奪われる物をまず持っていないからな」

「そこだべ。この星の奪い合いというルールのせいでこの予選中に協力プレイなんて考え着く奴は一人もいねぇ。だが、逆にそこが盲点になんだ。一人を倒すのには二人いた方が絶対に楽に決まってるべ。しかも、星を持ってる選手の中に二人で協力して戦いに来る奴らなんて想定してる奴はいねぇ。つまりはより不意打ちが決まり易い状況にある訳だべ」

「成程、確かにそうかもしれない」

 

 五右衛門の話は確かに理に適っている。確かに星を奪うのに一人で戦うよりは二人で戦った方が効率もいいし、確実性が高いに決まっている。

 今の所打開策が浮かばない中では五右衛門の提案は非常に魅力的に思えた。

 だが、蓮一にはこの作戦に乗ろうにも乗れない大きな障害がある。

 

「駄目だ。俺の近くにいる星持ちは俺よりも先に人形に狙われる」

「ん? どういうことだべ?」

 

 蓮一はアリスの人形が自分の付近にいる星持ちの選手をいち早く倒してしまって星を奪おうにも奪えない状況にあることを話した。

 ややこしくなるので一応、アイリスという偽名はそのまま通して置いた。

 

「成程、アイリスっていやぁ、今一番星を持ってる選手だべ。そいつが魔法使いでそいつの操る人形が蓮一の近くの選手を皆殺しにしちまうべか」

「まぁ皆殺しっていうのは語弊があるけど、そういうことだ。俺の位置はレーダーに映っていない筈なのにピンポイントで俺の周辺に人形がいるんだ」

「…………なるほど」

 

 五右衛門は少し目を閉じて考え込むと、急に眼を開き、蓮一の身体を嗅ぎ始める。

 

「うわ! なんだお前! もしかしてそういう趣味か!?」

「ぶっ飛ばすぞ、おめぇ! じっとしてろ、まだ僅かに匂いが残っている筈だべ」

 

 しばらく五右衛門は蓮一の周囲を回りながら何かを探すように匂いを嗅ぎまわると、蓮一の背中に回り、声を上げた。

 

「あった! こいつだべ!」

「な、なんだ?」

 

 五右衛門が指先につまんでいたのは金色の髪の毛であった。あおれはおそらく、アリスの髪の毛。

 

「べたつかせて念入りに付着させられていたべ。おそらくはこれに自分の魔力通して発信機みてぇにしてたんだべ。昔、そんな魔法を使う魔法使いと会ったことがあるべ」

「そうなのか! よくわかったな!」

 

 五右衛門は髪の毛を捨てると得意げに笑った。

 

「おらの鼻はよく利くべ。おめぇさんから女の匂いと僅かな魔力の匂いがしたんでもしかしてと思っただけだべ」

「魔力にも匂いがあるのか……」

「ああ、常人には嗅ぎ分けられんべ。匂いは人によってちげぇから極めればそれで魔法使いの所在までわかるべ」

「犬みたいだな」

 

 取り敢えず、これでアリスの発信機は取り除かれ、人形を追尾させるのは不可能なはずだ。

 同時に、これで確信が持てた。現状、五右衛門は信用できる。

 後々的になる算段をつけているならば、将来的に敵になる相手の手助けなどしない筈だ。あのまま放っておいていれば、蓮一は本当に成すすべなく最下位のまま予選を終えていただろう。

 つまりは今の五右衛門の行為はほとんど無益にライバルを一人復活させてしまったと言ってもいい。協力者のメリットの観点から考えてもあまりに裏切る前提の人間の考え方にはそぐわない。

 

「うし! じゃあ、これで問題ないべ? お互い結構切羽詰まってるべ。協力してくれるな?」

「ああ、頼むぞ、五右衛門!」

 

 蓮一と五右衛門は固く握手を交わした。

 今ここに星0コンビが誕生したのである。

 

 

「――! 馬鹿な、私の探知魔法が……破られた!?」

「余所見していていいのかな?」

「……しぶとい」

 

 火山の山頂付近。依然としてアリスと夢見の闘いは続けられていた。

 しかし、夢見は第二次予選での魔力消費によって倹約的な戦いを強いられている。一方でアリスは今まで最小限の労力だけでここまで勝ち抜き、力を十分に温存している。

 夢見も三十体程の人形の猛攻をよく凌いでいるが、戦況は終始劣勢であった。

 

(探知魔法が破られて蓮一の居場所はもうわからない。星を全損させるとレーダーに映らなくなるのは想定外だったわね。今までは目の前の赤毛の相手で探知なんて忘れていたし、今蓮一がどこにいるのか知る術がない……くっ、人形を増やして捜索させるか? しかし、これ以上操る人形を増やすと私の魔力も厳しい)

 

 今は蓮一を意地になって追うのは賢いとは言えなかった。

 仕方なく、アリスは当初の目的を諦めることにした。

 

(仕方ないわね。まぁ、端末に星の数は出るし、あいつの星が溜まったらまたレーダーが居場所を探知する。その時にまた叩きのめせばいい)

 

 アリスは頭の中で考えが整うと、夢見を見て笑みを浮かべた。

 ローブを深くかぶっているため、その笑みが夢見に見えることはなかったが、同時に放出された魔力量を見て、数秒後に迫る危機的な未来は容易く予想できた。

 

「そろそろこの遊びも終わらせましょうか?」

「ふむ、ここまでか」

 

 アリスが魔力を人形に供給しようとしたその時、夢見は転移魔法によって一瞬でそこから消え失せていた。

 

「逃亡? いえ、どちらかと言えばむしろ撤退。つまりは、目的は達成された、ということね」

 

 振り上げた手を下ろし、人形達の魔力供給を通常量に戻すと、アリスは釈然としない表情でまた岩場に座りなおす。

 

「なんだか、煙に巻かれたようで気に入らないけれど、邪魔が消えてせいせいしたわ。これで、いつでも蓮一を叩きのめしに行ける。それまでは、まぁ、高みの見物といきましょうか」

 

 さっきまでの闘いを突然中断された不満も苛立ちも既にアリスの脳内からは消え失せていた。

 あるのは蓮一への執着だけ。自分の人形を壊した下等生物へ罰を下す、ただそれだけ。

 

 

「――おし、準備はいいだべか?」

「ああ」

「目標は百メートル先でうろうろしてるあいつだべ。なぁに、作戦通りしっかりやりゃ確実に二人で星を取れる」

「ああ、わかってる」

 

 緊張気味に呟く蓮一に五右衛門は言った。

 

「なぁ、蓮一。今会場にいる観客や、端末見てる他の選手の奴ら、おら達の星0ってザマを見て何を思ってると思う?」

「……まぁ、こいつらは予選落ち確定、ってとこだろうな」

「そうだべ。こいつら二人はもう駄目だっつって残り23人の中で誰が本選出場するか賭けが始まっとることだべ」

 

 さらに五右衛門は続けた。

 

「要は、おら達は今誰からも期待されてねぇ、0の状態。いんや、おらと違って第一次、二次で目立ってたおめぇはむしろマイナスの状態だぁ。でもよ、ここから二人で巻き返して、予選終了時には気がつきゃ一位争いをしてるってなったら、どうなる?」

「どうなるって……あいつらすげぇってなるんじゃねぇか?」

「だべなぁ! きっと滅茶苦茶目立つべ! 一気にプラスの状態になるに違いねぇべ! そいつはきっととんでもなく気分がいいべ」

 

 五右衛門が何を言いたいのか蓮一にはよくわからなかった。

 すると、五右衛門は急に何かを思い出しているかのように虚空に視線を向けて言う。

 

「不可能だって思われてることを可能にしちまう、誰もできねぇことをやってみせちまう。そう言う奴のことを皆はヒーローって呼ぶべ」

「ヒーロー……か」

 

 途端、蓮一の肩に向けて勢いよく五右衛門の右手が振り下ろされた。

 

「蓮一、なるべ、ヒーローに!」

「……おう!」

「そんなら行って来い! おら達のヒーロー伝説、その第一章だべ!」

「おう!」

 

 五右衛門が肩を力いっぱい押し、それに応えるように蓮一は勢いよく第一歩を踏み込んだ。

 五右衛門という同じ境遇の協力者を得て、蓮一の最底辺からの下剋上が始まった。

 

 




人武祭出場者紹介

岩流(オリキャラ)
 道場破り(三十五話~三十七話)で登場。一刀斎(こんがら)の道場破りの旅の末に人里に立てた一刀流剣術道場の一番弟子。
 一番弟子ということもあり、道場内での実力も高く、一刀斎から師範代を任されており、他の弟子達からの信頼も厚い。
 しかし、精神的に脆い面があり、格下相手に敗北する事もあった。一刀斎が道場から退こうとしているのを知り、自警団を通して蓮一と出会い、鈴鹿と一刀斎の試合に同席する事となる。
 達人級同士の壮絶な試合と、一刀斎の最後に残した言葉からその日から一変し、精神的な弱点を克服。本来の実力を発揮し、二代目道場師範となる。
 師範となってからは以前のような弱弱しい面は微塵も見られなくなり、むしろより強い相手との戦いを求めるという戦闘狂の節がある。
 一刀斎からお墨付きを貰うだけあり、その実力は人武祭出場者の中でもトップクラスであり、今のところ一刀流の技を使うことなく第三次予選までを突破している。
 鈴鹿と一刀斎の試合と蓮一と自分との試合を重ねており、本選で蓮一との闘いを望んでいる模様。
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