東方史上最強の弟子 レンイチ   作:浜栲なだめ

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第五十六話「本戦へ!」

 

『第三次予選、終了おおおおおおおおお!』

 

 その大音量のアナウンスと共に蓮一達は全員元の会場に転移されてきた。

 

「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

 

 戻ってきた選手達を出迎えるのは周りを囲む観客達からの大歓声と拍手喝采。皆、選手達の奮闘に興奮を抑えきれないのだ。

 

『これにて予選は終了! 人武祭本戦に進む豪傑がここに決定しましたぁ!』

 

 アナウンスと同時に蓮一を含めた総勢12名がスポットライトに照らされる。

 

「蓮一さん! 良かった、ちゃんと予選突破したんですね!」

「ギリギリだけど、まぁ、よくやったわ」

「小夜、霊夢! 大きな借りができたな」

 

 スポットライトに照らされた蓮一に霊夢と小夜が声をかける。

 二人共心底安心したと言った表情だ。

 

「お、蓮一! ちゃんと生き残ってきたんじゃな~い!」

「蓮一殿はここで終わるような武人ではない、当然だ」

「あれ、武村と岩龍さん……なんだか随分と打ち解けたようで?」

 

 武村が岩龍と肩を組みながら蓮一に手を振ってくる。

 

「いやぁ、岩龍とはお互い背中を預けた戦友じゃな~い」

「無論本戦では容赦などしないが、それでも武村殿とあの三次予選を切り抜けたのは事実だ」

「そうなんですか? とにかく本戦では二人とも戦うことになるってことですね!」

「負けないじゃな~い!」

「見せてもらうぞ、蓮一殿の力を」

 

 そう言い残して二人は去っていった。その蓮一にまた近づいてくる影があった。

 

「やぁ、蓮一。やはり君も生き残ったか」

「ご無沙汰してます」

「教授! 玄亀さん!」

 

 教授と玄亀の姿だ。教授は魔力を使い果たしたのかふらふら、玄亀の方は半壊した盾を背負っている。

 二人も自分同様、激戦を潜り抜けてきたに違いない。

 

「玄亀さん、その盾、大丈夫なんですか?」

「ああ、自分、まだ本戦用に用意したとっておきの盾があるので心配には及びません。お気遣い、痛み入ります」

 

 そう言いながら、玄亀はその視線を蓮一の真後ろに動かす。

 見れば、そこには猟奇的な笑みでこちらを見ている鬼若の姿が見えた。

 

「ふふ、君こそ気を付けたまえよ、蓮一。君は特にヤバい奴らから目を付けられているみたいだしね」

 

 そう言うと、夢見は顎で左方向を示す。蓮一がそちらに首を回すと、自分を今にも殺しにかかりそうな怒りの形相を浮かべたアイリス改め、アリスの姿が見える。

 蓮一はその視線に物怖じせず、静かに睨み返して見せた。

 

「大丈夫、目を付けているのは俺も同じだから」

「ふ、む。まぁ、気をつけるんだね」

 

 蓮一の目を見てこれ以上言うことはないと察したのか教授と玄亀は蓮一の傍から離れて言った。

 

「おう、蓮一」

 

 一人、アリスへのリベンジに燃える蓮一に最後に声をかけたのは、最終局面でギリギリの戦いを繰り広げた大泥棒、石川五右衛門であった。

 

「五右衛門……!」

「おめぇ、最後の星、どっから持ってきやがった」

 

 五右衛門は剣呑な口調でそう問い質した。

 

「あの星は、仲間から貰った星だ」

「貰ったぁ? 奪ったじゃなくてか?」

「そうだ、貰ったんだ」

「…………」

「…………」

 

 しばらく五右衛門と蓮一の間でにらみ合いが続いたかと思うと、突然、五右衛門が天高く叫ぶ。

 

「そういうことだったべかあああああ! 畜生、やられたべ!」

「は!?」

「いやぁ、おらが蓮一に奪われた星は絶対に11個だと思ったのになんか一個増えてたからなまら不思議だったべ。なるほど、そういうことだったべか」

「あ、ああ?」

「これでスッキリしたべ、んじゃな」

「え、それだけ!?」

「んあ? なんかおかしいべか?」

「いや、つい数分前まで星奪い合ってたし、なんか因縁でもつけられるかと」

 

 蓮一の言葉を聞いて、五右衛門は大笑いし始める。

 

「だっはっはっはっは! そりゃ、おめぇのせいで予選落ちてたら何か喧嘩売ってたかもしれんけど、別におら達二人共予選は通過したべさ? 本戦に進めるってのにこれ以上争う理由ねぇべさ?」

「まぁ、確かに、そうなんだが……」

「色々やったが二人共本戦には進めんだ。過去のことは水に流して本戦で頑張ろうや!」

 

 そう言って五右衛門は去って行ってしまった。

 切り替えの早い奴だと蓮一は感心した。

 

 

 第三次予選が終わり、ステージ上には本戦出場者の12名だけが残された。

 そして、彼らの目の前には辻秋、そして彼の率いる自警団八武長が立っていた。

 

「さて、まずは諸君、予選通過おめでとう。君たちこそ、豪傑と呼ばれるにふさわしい名だたる武人だ。そして、そんな君たちこそ、ここにいる八武長達と戦うにふさわしい!」

 

 そう言って、辻秋は自分の後ろに立つ八武長達を指さす。

 すると、八武長の中でも一際体格の小さい少年が前に出てきて、蓮一達を一通り見回すと、大きくため息をついてから会場中に聞こえるような大声で言った。

 

「ねぇねぇ、本当にこんな奴らが僕ら八武長の相手になると思ってんの? もう一回予選やり直した方がいいんじゃないの?」

「なっ……!」

 

 会場中がどよめき始める。

 一方で蓮一達予選突破者の中からは少なからず不穏な空気が流れ始める。

 今、この場で戦闘が開始されかねない勢いだ。

 

「おいおい、随分元気の良い少年じゃな~い」

 

 一触即発の緊迫した空気を破って出てきたのは武村だった。

 

「へぇ、誰かと思えば、負け犬の武村じゃん。どうしたの? こんな大会に出てきてまた赤っ恥かきに来たの?」

「君こそ、いいのかい? あんなこと言っちゃって?」

「どういう意味だよ?」

 

 睨みつける少年に向けて武村は挑発するように言った。

 

「いや、ほら、子供だから手加減はしてあげるけど、流石に勝ちまでは譲ってあげられないからさ? 恥ずかしい思いしちゃうんじゃな~い?」

「へぇ……いい度胸だよ、負け犬!」

 

 少年が青筋を立てて今にも武村に飛びかかっていかんとするその時、少年の頭を拳骨で殴りつけて止めたのは、腰に刀を差した短髪で無表情な青年だった。

 

「そこまでだよ、アキレス」

「痛ってえな! ムサシ!」

 

 ムサシ。そう呼ばれた青年は表情一つ変えず、続けざまにもう一発拳骨を入れた。

 

「おいこら、アタシは年上だよ。目上にゃあ敬語使えっていつも言ってるだろうに。いい加減覚えなさいね」

「あんたの拳骨本当に痛いんだからやめてくんない!?」

「お前さん、今『やめてくんない』って言ったかい?」

「や、やめてください!」

「ん、よろしい」

 

 三発目の拳骨を掲げるのを見てアキレスは怯えた表情で謝る。

 

「悪かったね、こいつは見てのとおり子供だから、言っていいことと悪いことの区別ってもんがまるでわかっちゃいない。いい加減、本音と建て前ってもんを覚えて欲しいもんさ」

 

 物腰こそ落ち着いていて丁寧だが、その言葉の節々に隠れた棘を聞き逃さなかった。

 

「まるでアキレス殿の言ったことが間違いではないとでも言いたげに聞こえるな、なぁ、ムサシ殿」

「……まぁ、そこら辺をどう捉えるかはテメーで決めておくんな。ただ誤解しないでおくれよ、アタシらもお前さん方には期待してるんだ」

 

 ムサシは表情を変えずに岩龍に言った。

 

「だから、頼むから時間の無駄だったなんて思わせねぇよう、全力でかかってきておくれよ。遠慮するこたぁない、アタシらは普段から妖怪と命張って戦ってんだから、文字通り殺す気で来て結構だよ」

「…………」

 

 そう言って最後に岩龍と視線を交わすと、アキレスの耳を引っ張って元の位置に戻っていった。

 

「……あー、まぁちょっとごたついたけれど、本戦について説明を始めさせてもらっていいかな?」

 

 会場全体が静まった所で辻秋が話を戻す。

 

「本戦はこのステージで一対一の勝負だ。まず、勘違いしないで欲しいのは、これが試合というより実戦よりであるということ」

 

 試し合いではなく、戦いである。そう、辻秋は強調した。

 

「この本戦のルールにおおよそ反則はない! 開始の合図が鳴った時にいない、合図前に戦闘を開始する、対戦者以外がステージに立つ、これ以外に失格になるルールはない! 武器の持ち込みも良し、急所狙いでも、騙し討ちでも、不意打ちでも何でもあり! ほとんど実戦と同じだと思ってくれていい!」

 

 最低限の勝負成立に必要な条件、定刻に対戦者両名のみが戦場に立ち、同タイミングで勝負を始める。

 これ以外には反則はいっさいない。文字通り何でもありの勝負をしようと辻秋は言っているのだ。

 人によってはこの条件に文句を付ける者もでたかもしれないが、流石にここまで勝ち抜いてきた武人に、そして日々妖怪と戦う八武長に、この程度で怖気づく者などいる筈も無く、むしろ皆本戦の内容に嬉々としているようにも見えた。

 

「ふ、全員良い顔だ。では、これより明日の本戦一日目の第一から第三試合の対戦組み合わせをくじ引きで決める!」

 

 辻秋の声を合図に奥から大量の棒が入っている豪勢な装飾の施された箱が運ばれてきた。

 

「明日の本戦一日目では三試合のみを行う! まず、今から全員に好きな棒を選んでもらう! その棒の中には先端が赤、青、緑のいずれかに染まったものが各色二本ずつ入っている! つまり、棒を一斉に引き、色付きを引いた六人が明日の対戦メンバー、そして同色の二人が対戦相手となる! 順番は赤、青、緑の順に勝負を執り行う!」

「対戦メンバー以外の奴らはどうなるのだ?」

「明日の対戦が終わった後、対戦メンバー以外でくじ引きを行ってもらう。これを最後の一人となるまで繰り返す! これが人武祭本戦だ!」

 

 この二十人の誰と戦うかは、くじ引きするまでわからない。

 いつ誰が、誰と戦うかは完全に天に委ねられるという訳だ。

 面白い、どうせ優勝するつもりなのだ。当然誰と当たっても勝てなければそれは叶わない。

 望むところ、蓮一の闘志はより燃え上っていた。

 

「それでは、全員、くじを選べ!」

 

 ステージ中央に運ばれた箱を囲むように二十人が立ち、それぞれが自然と一本ずつくじを選ぶ。

 不思議とくじを選ぶ段階で揉めるようなことはなかった。特に誰かとくじが被るでもなく、まるで何かに操られるかのように、全員がほぼ同時にくじをつかみ取った。

 

「では、一斉に引き抜いて!」

 

 辻秋の声と同時に全員がくじを引き抜く。

 対戦メンバーに選ばれる確率は30%。蓮一の引いたくじの先端は――――

 

「――赤!」

 

 色付きのくじ。明日の第一試合に出場決定だ。

 

「後は対戦者だが――――」

「あら、またあんた?」

 

 その聞き覚えのある声に、蓮一は即座に声の方向に首を回す。

 

「よう、三次予選では世話になったな」

「つまんないわね、もっと手ごたえのある敵と戦いたかったわ。まさか、もう叩きのめした後の雑魚とまた戦うことになるなんて」

「アイリス!」

 

 赤のくじ、第一試合。高天原一番弟子、蓮一VS人形の魔法使い、アリス

 初戦の相手は蓮一が今、最もリベンジに燃える相手であった。

 

「こんなに早く、リベンジの機会が来るとはな」

「リベンジ? 思い上がるんじゃないわよ、凡才。あの時と同じように私に触れさえもできずあんたは平伏すことになるわ」

 

 蓮一とアリスが睨み合う中、他の二組の対戦者の間でも早速火花が散っていた。

 

「へぇ、早速負け犬と対戦か」

「おいおい、子供を殴るのは気が引けるじゃな~い。頼むから負けて泣かないでくれよ?」

「その言葉、そっくりお前に返すよ!」

 

 青のくじ、第二試合。拳鬼、武村VS第六武長、アキレス。

 

「こ、これは、一番避けたかった展開なんだけど……」

「小夜、思えばあなたと手合わせするのは初めてですね。これも天の導き、お互い全力で戦いましょう」

「は、はい……ジャンヌ様」

 

 緑のくじ、第三試合。自警団ジャンヌ隊副隊長、小夜VS第八武長、ジャンヌダルク。

 

「これで一日目の対戦組み合わせが決定された! 本日はこれにて解散! 明日の試合は正午丁度から執り行うものとする! 各自、万全のコンディションで試合に臨むように! 以上、解散!」

 

 

「――はい、とりあえず今日は三人共お疲れさま」

 

 昼。二日ぶりの高天原にて、現在蓮一、小夜、霊夢は師匠達と昼食をとっていた。

 しかし、その空気はどこか重い。

 

「まぁ、小夜と霊夢はよくやったわ」

「でも蓮一君は、ちょっと、ねぇ?」

「蓮ちゃんはダメダメね」

 

 早速予想していたとばかりに霖之助と刃空からダメ出しを受ける。

 

「うぐ……」

「何かしらね? やっぱり修行が足りてなかったのかしら?」

「アバ! そうだよ!」

「そうに違い……ない」

「いえ! 修行はむしろ多すぎです! ハードワークです!」

 

 やはり、そう来たか。

 蓮一は内心冷汗まみれである。いや、もう現実でも冷汗まみれであった。

 第三次予選にてあれだけの醜態をさらしたのだ。しかも、師匠達は常にこれまで以上にハードな修行に移る口実を探している。

 このままでは師匠達は自分の限界を超えた地獄のような修行を課すことだろう。そう蓮一は恐怖していた。

 

「今回は、なんというか……そう! 多人数相手の戦いの不慣れが影響したというか!」

「じゃあ、あんた、明日のアリスとの試合も負けるの?」

「う……」

 

 幽香の鋭い一言に蓮一は言葉に詰まる。

 

「ん? 今、幽香師匠、アイリスのことアリスって……」

「ああ、私と靈夢は依然あいつと戦ったことがあるのよ」

「え!? 師匠達と渡り合ったんですか!?」

「そんな訳ないでしょ? まぁ、魔導書のせいで少し時間食ったけど完勝よ」

 

 幽香は当然と言わんばかりにため息をつきながらそう言った。

 師匠は何も言わないが、幽香師匠が完勝なら、師匠もそうに違いないと判断した。

 

「まぁ、私と小夜二人がかりで随分と人形は壊したし、本戦では数で圧倒されることはないわよ」

 

 霊夢が珍しく蓮一を励ますようにそう言った瞬間、その声は突然聞こえてきた。

 

「――いえ、それはないわよ」

「――――!」

 

 その瞬間、まず動いたのは幽香であった。

 何もない空間に突然正拳突きを放ったかと思うと、そこにあったらしい見えない何かは屏風を突き破って外に吹っ飛んでいった。

 同時に、空気に色が付いたかと思うと、いつの間にかそれは幽香の拳の真横に赤いローブの銀髪の女性の形となって現れていた。

 慌てて蓮一が外を見ると、そこにはかつて、魔理沙と共に撃退した赤いメイド服の怪盗、夢子が倒れている。

 

「あらあら、夢子ちゃーん、大丈夫~?」

「全然大丈夫ではないです。正直、死んだかと思いました」

「手加減したし、魔界人なら死なないわよ」

「……久しぶりね、神綺(しんき)

「お久しぶり、博麗の巫女」

 

 師匠と再会の挨拶を交わす、謎の女性に蓮一はすっかり困惑している。

 

「蓮一、これは神綺。魔界を作った創造神でアリスの母親でもあるわ」

「え!? 神!? 母親!? え!?」

「その神様をこれ呼ばわりとは、相変わらず巫女のくせに生意気ね? あ、あとアリスは昔気まぐれに拾った子供を私が育ててるってだけで別に血のつながりとかないから、誤解しないでね?」

「すみません、状況が全く理解できないです」

 

 蓮一は考えるのを、やめた。

 

「――で、何でいきなりウチに来たのよ? あなたが魔界から出てくるなんて珍しい。というか、創造神不在の魔界は大丈夫なの?」

「大丈夫大丈夫、魔界はもう、私のこと無視で勝手に栄えちゃってるから、もう私なんてあってないようなものよ」

 

 なんだ、この適当な創造神。

 そんなことを思いながら神綺を見ていると、突然神綺は蓮一の方に向き直り、その顔を覗き込んでくる。

 

「で、あなたがアリスの宿敵の蓮一君ね? 一時は夢子ちゃんがご迷惑をお掛けしたようで、ごめんなさいねぇ」

「神綺様、神たるもの下賤の民に易々と頭を下げられる必要はないかと」

「下賤の民って……」

 

 外の茂みまで吹っ飛ばされたからか全身木の葉と砂にまみれた夢子はそう言って神綺を御しながら蓮一を睨み付ける。

 

「まぁまぁ、夢子ちゃん。ここでは私は別に何も創造してないから、神とは言っても全然偉くないわよ。だから、蓮一君も気兼ねしないでね?」

「はぁ……」

「それで、神綺って言ったっけ? あなたさっきアリスの人形に数で圧倒されることはないっていう私の台詞に異議を唱えてなかった?」

「小娘、口の利き方を弁えろ」

「知らないわよ、魑魅魍魎の類は全て私の敵。あくまで対等に話させてもらうわ」

「貴様!」

「まぁ、お母さんに似て芯の強い子ねぇ」

「――っ! そ、そう?」

 

 その神綺の一言で、霊夢の警戒が少し緩んだ。

 一発で霊夢の心を僅かにでも掌握するとは、中々侮れない。

 

「話を戻しましょうか。アリスはね、転移魔法で自分の作った人形を転移させてそれを操って戦う、人形魔法が得意なのよ」

「それは、俺も一度戦っているのでよく知ってます」

「うん、それで、アリスの人形師としての腕は神である私が見てもすざましくてね? 私が魔界人一人創造するのとほぼ同じ速度で精巧な人形を一体作り上げちゃうのよ? いやぁ、やっぱり私の創造神としての血が流れてるのかしらねぇ?」

 

まるで娘の自慢をする母親のようである。

 

「あの、血は繋がってないんじゃ?」

「あら、親子だもの。親子は似るものでしょ? 例え、血が繋がってなくともね?」

「え、は、はい……?」

 

 一瞬、ちらりと神綺が師匠の方を見たような気がしたが、すぐに神綺は元の調子でまた喋り始める。

 

「という訳で、そんなアリスは日々人形たちを作って倉庫に保管するものだから、私が把握している分だけでもあの子の人形の保有数は二千体を超えているわ」

「二千!?」

 

 精々、あの時霊夢と小夜が壊した人形は二百から三百。ほとんど、損害言えるだけのダメージは負わせられてなかったと知り、霊夢は歯ぎしりする。

 

「そんな訳だから、アリスとの戦いで人形魔法による人海戦術は逃れられないわよ。それに、最近あの子は上海と蓬莱っていう今までの人形とは格の違う究極とも言える精巧な人形を作りだした。私が創造した最強クラスの魔界人である夢子ちゃん並に強いわよ、その人形」

「まぁ、戦闘プログラムは私が基盤になってますからね」

「ああ、あの二体の人形ね……」

 

 霊夢は心当たりがあると呟いた。

 そして、その表情を見る限りは、神綺の言っていることに偽りがないことはすぐにわかった。

 

「……で、何でそんな情報を俺に教えてくれるんですか?」

「あなたにはアリスを倒して貰いたくてね」

「え?」

「あの子は才能が有り過ぎて完全に驕り、慢心の塊になりかけている。そろそろ何か挫折の一つや二つ経験しておかないとろくなことにならないかなとね」

「親バカだと思ってたけど随分と厳しいのね?」

「親バカだからこそ、しっかり教育はしないといけないのよ。あの子は私の宝物だもの」

 

 それを聞いて、蓮一は頭を下げて言った。

 

「神綺さん、先に謝っておきます」

「ん?」

「俺は、明日、あなたの娘を完膚なきまでに叩きつぶします。もしかしたらもう二度と立ち直れないかもしれません。もしそうなったら、すみません」

「なっ!?」

「あら」

 

 笑顔で言い切る蓮一に夢子と神綺は驚愕の表情を浮かべる。

 一方で、刃空が噴き出し、霖之助と幽香はニヤニヤと笑っている。

 

「ふふ、師匠と弟子っていうのも似るのね」

 

 そう言って微笑んだかと思うと、神綺は立ち上がる。

 

「まぁ、期待してるわね、蓮一君。明日は私達も観戦に行くから。でも、お願いだから予選の時みたいな無様な戦いはやめてね?」

「…………」

「……送っていくわ」

 

最後の神綺の一言に重圧を感じつつ、彼女達は師匠に連れられて部屋を出ていった。

 三人の気配が遠ざかった途端、蓮一は刃空に背中を叩かれる。

 

「よく言ったね、蓮ちゃん! それでこそ高天原の一番弟子ね!」

「まぁ、馬鹿弟子にしては上々ね」

「いやぁ、まさか蓮一君からあんな強気な一言が出るなんてねぇ。師匠として誇らしいよ」

「アバ! かっこよかったヨ! 蓮一!」

「べりぃ……ぐっど!」

「え、そうですか? そんなに褒められると照れるな」

 

 師匠達からの賛辞を受けて照れ臭くなる蓮一。

 その期を見計らったかのように、師匠達は豹変した。

 

「じゃあ、蓮ちゃん、しっかり宣言通り完封勝利するため今から猛特訓ね!」

「え?」

「いやぁ、嬉しいな。蓮一君から修行を申し出てくれるなんて」

「え、いや、そんなことは言ってないですけど……」

「アバ! 今のままじゃ全然ダメダメよ! これから急ピッチで強くならなきゃ完封勝利無理よ!」

「え? あの、ちょっと、師匠?」

「男たるもの……有言実……行」

「ちょ、明日の試合には万全のコンディションででなくちゃって――――」

「大丈夫、何があっても朝までには蘇生して見せる」

「万全なコンディションって生きてるって意味じゃないです!」

 

 しまった、と思った時にはもう遅い。

 蓮一は師匠達に引きずられて部屋からいなくなった。

 残された霊夢も小夜と部屋を出ようと声をかけるが、返答がない。

 

「小夜?」

「ジャンヌ様と試合、勝てるわけない、どうしよう、辞退したい、お腹痛い、もう終わりだ、おしまいだ、なんでこんなことに、神様ごめんなさい、ああ明日なんて来なければいいのに――――」

「小夜!? ちょ、しっかりしなさい!」

「――あ、そうだ、旅に出よう……自分探しの、旅に」

「気をしっかり持ちなさい!」

 

 ずっと喋らないかと思えば、小夜は明日の試合のプレッシャーでおかしくなっていた。

 

 

「それで、本当の目的はなんなの?」

「あら、アリスを倒してもらうためにアドバイスしに来たって言ったじゃない」

「結界を張っておいた。この空間は私達しかいないわ」

「…………実はね、協力して欲しいのよ」

 

 高天原を出てから、神綺は語り始める。

 

「ここ数年、地上にほんの僅かだけれど魔界の気を感じるのよ」

「魔界人がいるってこと?」

「いえ、そこまで強い気ではないわ。あなた達みたいな一度魔界に来た者が発する魔界の残り香みたいなものね。そんなものをずっと地上に感じていた」

「……残り香ならそんなに長く続かないんじゃ?」

「だから何かおかしいのよねぇ。まるで、魔界にいながら、地上にもいる。そんな感じだわ」

「訳がわからないわね」

「そうよねぇ」

 

 神綺も眉間に皺をよせている。

 

「とりあえず、この里にいることは確実かなと思っているの」

「そうなの?」

「夢子ちゃんに魔導書を回収しに行ってもらった時に襲撃が事前に何者かに告知されていたらしくてね。魔界人の夢子ちゃんの気配を察知できるということは、魔界に行ったことがあって魔界人の気配を知っているか、同じ魔界人かだけだからね」

「ああ、蓮一から話は聞いてるわ。予告状が送られてきたんでしょ?」

 

 魔導書、グリモワールが何の縁か霧雨商店に流れ着き、それを盗むという予告状が送られてきた。そのため、自警団にその防衛依頼が送られ、蓮一と小夜は魔理沙と協力の元夢子と対決したのだ。

 

「私は断じて予告状など送ってません! 穏便に済ませるつもりだったのに、あんなに警備がいるから仕方なく……」

「その割には結構激しい戦いだったと聞いてるけど?」

「……少し興が乗っていたのは事実かもしれません」

「だから、アリスの件もあるし、思い切って地上に調査に行きましょうってことになったのよ!」

「まぁ、それは博麗の巫女としても見過ごせない案件だし、私も気を張っておくわ」

「よろしく頼むわね。あと、それともう一つ変な気配が――――いや、気のせいかもしれないしこれはいいわ。じゃあ、よろしく頼むわね」

 

 最後に気がかりな言葉を残して神綺と夢子は去っていった。

 

「変な気配? 何事もなければいいのだけれど……」

 

 

「あー、さて、明日からいよいよ君たちの出番だ! 各自全力を尽くしてくれ。決して相手を侮ってはいけないよ? 特にアキレス!」

「わかってるよ! 元々手加減なんてする気ないし。あの負け犬、ぼっこぼこにしてやる!」

「まぁ、ガキは元気で馬鹿な方がいいってもんだ! 好きに暴れてきやがれ」

「うっせぇな、クーフーリン!」

 

 大笑いしながらアキレスの頭に手を乗せるクーフーリンにアキレスは何度も蹴りを繰り出すが、クーフーリンはこれをことごとく避ける。

 

「そういえば、ジャンヌは隊員と対戦だったな?」

「ええ、小夜は副隊長で、特に才能に溢れた私の右腕です」

 

 ベオウルフに小夜のことを訊かれ、ジャンヌは顔を輝かせて語る。

 

「小夜はそれはもう、いい子で! 初めて見た時からきっと美しく逞しく成長するとは思っていましたが、もうあれは地上に舞い降りた天使ですね! 少し気の小さい所が心配でしたが、それも予選を通して克服してきたようで、ずっと彼女を見てきた私としてはもう感涙の極みですね! 私と小夜を引き合わせてくれた天の導きに心からの感謝を!」

「あ、ああ、そんなに溺愛しているのに、明日はまともに戦えるのか?」

 

 ベオウルフの問いに、天に祈りを捧げながらジャンヌは声のトーンを一つ低くして告げた。

 

「いえ、それだけはありません。私は小夜と全身全霊で闘うつもりです。あの子がより高みへ行くために」

「……小夜を後継者として育て、やがては踏み台になると言うのか」

「ええ、昔、誰とも知らぬ殿方と約束しましたから。小夜を守ると。そのために、小夜にはもっと強くなってもらわなければなりません。私が守れなくなっても、自分を守れるように。それが、あの日から私に課せられた使命」

 

 思い出すようにジャンヌはそう言って、静かに目を閉じた。

 

「うむ、各々好きにやればよい! そのための祭りだ! 我らも年に一度ハメをはずして自分勝手に騒いでいい宴の日だからな! ガッハッハッハッハ!」

「お前さんは、ハメはずすんじゃないよ。人死にが出ちまうからね」

「ラ~ララ~! 遂に~蓮一氏と~作曲できる時が!」

「あー、まぁ全員気合十分と言ったところなのかな? なぁ、アーサー?」

 

 特に辻秋の言葉に耳を貸す気はない様子の八武長の面々に苦笑いを浮かべる。

 アーサーだけからは他の面々のような戦闘前の昂ぶりは感じられず、鎧の下から無機質な声で返した。

 

「興味はない。実戦に近かろうと所詮は試合。私の求める闘争はきっと手に入らない」

 

 そう言って、アーサーは部屋を出て行く。

 

「――蓮一、お前ならあるいは……」

 

 その最後の呟きは他の八武長達の喧騒の中に消えた。

 

「……さて、見せてもらいましょうか。人は妖怪に喰われるだけの存在なのか、それとも、抗う力を秘めた存在なのか」

 

 辻秋は不敵な笑みを浮かべる。

 人武祭本戦、人の頂点を決める戦いが、今始まろうとしていた。

 

 

 




ようやく一区切りです。亀更新ですみません。

長くなりすぎたので
次回からは章を新たに『自警団八武長編』として開始しようと思います。
ここまで読んでいただいた読者の皆様ありがとうございました。
次回からはより白熱した戦闘を書いていく予定ですのでこれからもよろしくお願いします!

亀投稿ですが、完走目指して頑張りますので気長にお付き合いください!
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