NEW『三好in山本五十子の決断』   作:フォークロア

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第五話(仮) ミッドウェー海戦 破

「先行した機動部隊、作戦海域ミッドウェー沖に到達。ミッドウェーに対し、第一攻撃隊発艦す」

 

「旗艦・瑞鶴より入電。われ索敵機の展開完了せり。ただちに第ニ次攻撃隊発艦準備にうつる」

 

「重ねて瑞鶴より入電。未だ敵影見ず。我、索敵機第二陣発艦せしめ」

 

 主力部隊・旗艦大和の司令室では、第一機動部隊より現状の報告が舞い込んでくる。

 

「敵機動部隊、出てきますかね……」

「…スピー……これだけ大きい餌……必ずかかってくる……はず……スピー……」

「ああ、三好長官なら必ず成し遂げてくれるさ」

「…………」

 

 宇垣達は口々にそう話すが、五十子は前方の海域を見つめつつ将和を思う。

 

『……大丈夫、大丈夫だよ三好長官。私達は勝つから』

 

 

 ◇

 

 

「総員配置につけ!」

 

 

 午前5時15分過ぎ、空母「大鳳」の電測室から艦橋に報告が入った。

 

「南東方向に機影確認。こちらに向かって来ます」

 

「それは編隊か、それとも単機か!」

 

 部下からの曖昧な報告に先任参謀の伊藤一輪中佐が怒鳴るように正確な報告を求めた。

 

「単機でーす」

 

「(単機か……)敵の偵察機かもしれんな。対空戦闘用意!」

 

 将和は即座に敵の偵察機であると見抜き命令を発する。※1

 

「敵索敵機! 盛んに電信を打っています!!」※2

 

 その直後、友永大尉機から初めての報告が零航戦のもとに入った。

 

「長官、友永機からです。『我れ敵戦闘機およそ三〇と交戦中』以上であります」

 

 通信参謀の小野小町少佐が、いよいよ戦闘が始まったと報告をした。 

 

「索敵機から敵機動部隊発見の報告は? 此方は囮だから見つかっても構わないけれど、ぐずぐずしてたら敵の目は後方の一航艦にも及ぶわよ!」

 

 航空参謀の雀部神奈子中佐は敵が此方の位置を掴んでいるのに、味方が敵機動部隊の位置を掴めていない現状に苛立ちを覚える。※3

 

「航空参謀、敵空母は必ず付近に居る。こっちはドンと構えて腰を据えて待機していようじゃないか」

 

 将和は雀部を宥めるような口調で言った為、彼女も落ち着きを取りもどした※4

 

『さてさて北東海域にいるだろうに、見つけられないのは敵が史実と違った行動をとってきたか、あるいはツキが向こうにあるか、だな』

 

 ミッドウェーの壁が厚いのは、此方の世界でも共通らしい。しかし、これは葦原海軍が乗り越えるべき試練であった。その間にも戦闘は推移していき、午前6時30分、迎撃に現れたヴィンランド軍機の妨害を排除した葦原軍攻撃隊は約40分に渡り空襲を実施。

 

 午前7時00分には、攻撃隊長の友永大尉より「攻撃終了。これより帰投す」と、無線機による報告が入ってきた。※5

 

『そろそろだな……』

 

 将和がそう思った午前7時5分に電探室より緊急連絡が入った。

 

〈敵編隊、南東方面より接近す。距離一二〇キロ。機数は一〇です〉

 

 将和は直感した。

 

「南東からか。ミッドウェー攻撃隊の帰投にしては早すぎる。おそらくは敵さんからの攻撃隊だ。戦闘機隊を直ちに向かわせろ」

 

 これが絶え間なく続くヴィンランド軍機の空襲の始まりとなった。※6この時、零航戦上空には「大鳳」「神鳳」から一個小隊4機ずつ飛び上がった直援戦闘機八機が旋回を続けていた。

 

「上空直援隊、隊長機! 聞こえますか!」

 

 雀部航空参謀が隊内電話機から連絡を入れた。

 

〈こちら笹井! 聞こえます〉

 

 直援戦闘機隊を指揮しているのは、エースパイロットの笹井竹子中尉である。※7

 雀部が問うと彼女は落ち着いた声で応えてきた。

 

「敵攻撃隊が南東より接近中です。迎撃してください!」

 

〈了解。ただちに迎撃に向かいます〉

 

 直援戦闘機隊は笹井機のバンクに続いて南東方面へと向かったが、艦隊上空を空けるわけにはいかない。笹井達は艦隊南方上空で旋回しながら、攻撃態勢で敵攻撃隊を待った。

 

「司令官、敵がミッドウェーに待機させている航空機をすべて此方に差し向けているなら、攻撃機を発進させているんでしょう。上空直援戦闘機のみでは対応しきれません」

 

「母艦の全戦闘機を予備機を含めて発進させろ。ここからは忍耐の時だぞ」

 

 大鳳級空母には零戦23機が、第二次攻撃隊を援護するため待機している。命令と同時に前部エレベーターが陣風を載せ飛行甲板へせり上がってくると、陣風はそのまま飛行甲板後方へ並べられた。

 

 搭乗員が乗り込み、陣風が飛行甲板を蹴って飛び立つ。「大鳳」と「神鳳」からは予備機を含めて26機ずつ陣風が舞い上がり、艦隊上空を旋回した。

 

〈敵機を下方に見る。双発の爆撃四、アベンジャー雷撃機およそ六。これより攻撃を開始する〉

 

 敵機を認めた笹井が報告してくる。※8

 勝負はあっという間につき、再び笹井中尉より報告が入った。

 

「全機撃墜、こちらの損害なし」

 

 笹井率いる直援戦闘機隊八機は艦隊上空に姿を現すと、そのまま「大鳳」と「神鳳」は各小隊ごと着艦した。整備員が陣風へ駆け寄り、燃料と弾丸の補給を済ませると、笹井達は再び上空へと舞い上がった。

 

〈北方より編隊接近中。距離一二〇キロ〉

 

 次に現われた美軍航空隊はヘンダーソン少佐が指揮するミッドウェー基地のヴィンランド海兵隊所属SBDドーントレス爆撃機16機であり、午前7時53分に直援戦闘機隊と戦闘に入った。

 

〈北東より新たな編隊接近中。距離一五〇キロ〉

 

 連続して報告が入る。これは、スウィニー中佐指揮するB-17爆撃機17機で、午前8時10分には艦隊上空に現われ再び対空戦闘が始まるのである。※9

 

 しかし、零航戦が奮闘している間遂に偵察機が敵機動部隊を発見するのである。

 

 

 

 

「司令官! 第二次攻撃隊をミッドウェー基地攻撃に回すことを具申します!」

 

 午前7時15分。空母「瑞鶴」の艦橋で神大佐が小澤中将へと進言していた。

 

ーーーなんでコイツがここにいるんだ?

 

 図らずも艦橋の職員達は同じことを考えた。※10

 

「…神大佐、第二次攻撃隊は敵機動部隊攻撃用に兵装待機させてあるんだ。いったい、何を思ってそんなことを言ってるんだい?」

 

 いち早く現実に戻った草鹿が尋ねた。周りは彼女に白い目を向けていた為、間を取り持って尋ねたのである。

 

「明け方より偵察機を出しているにも関わらず敵艦隊発見の報告はありません。これはつまり敵は怖じ気づいたか珊瑚海海戦の負傷から回復していないから、ミッドウェー海域に空母を出して来ていないと判断します。居ないならば、我々機動部隊は翌日の攻略部隊のミ島上陸支援の為に、ミッドウェー基地を徹底的に叩くべきです!」

 

「・・・敵の空母機動部隊が出てきていないと言うのは君の憶測じゃないか。友永隊長からはミッドウェー攻撃に向かった第一次攻撃隊は敵機の迎撃と激しい対空砲火を受けたと聞く。それはつまり敵は僕達がミッドウェー攻撃を仕掛けてくると読んで待ち構えていたことに他ならない。これがもし敵からの抵抗を受けずに奇襲攻撃となっていたなら、敵は此方がミッドウェー攻撃にくることを知らなかったと判断できるから、敵空母も現海域に出てきていないと考えられただろうけど、強襲攻撃となった時点でその可能性は低いと僕は見る」

 

「それを言うならば、敵側もミッドウェーの防衛放棄を実は選んでおり、島の防衛のみを強化して我が軍を釘付けに時間を稼ごうとしている可能性があります! ミッドウェーを我が軍が狙っていると知った敵は次にハワイを攻略されると危惧するでしょう。であるならば、ハワイ防衛を第一に考えなければなりませんから、それまでには防衛強化を施す必要があります。しかし、我が軍に緒戦のハワイ攻撃で基地施設を徹底的に叩かれた為に、その復旧と強化に著しい遅延が出ている為に、貴重な海軍戦力のこれ以上の不必要な犠牲は避けて〝ハワイ決戦〟までに戦力の温存を図りたかった。だからこそ、敵空母は出してこないと考えます! これは驕りではなく、敵側の心情に立って考えた推測です! 敵もバカではないはず。冷静に考えたら我が艦隊とマトモ、、、にやり合えば兵力差から普通には勝てないと考えるはずです。しかし、勝てなくとも空母艦隊をハワイに駐留させていれば、それだけ我が軍に心理的な揺さぶりを加えることが出来ますから海軍戦略としては概ね合っています。そう、フリート・イン・ビーイング艦隊保全主義です。だからこそ、敵艦隊は出てきていない! 出てきていない以上、我々は目の前の脅威ミッドウェイ基地・航空隊を払拭するのに全力を費やせば良いだけです!」

 

 いやはや……なんともはや、持論を事実と仮定を織り交ぜ、あたかも正しいかのように彼女は持っていく。「海軍の辻政伸」の異名は伊達ではないということか。彼女の考えは聞いてみるとなんとなく正論に思えてくるから恐ろしい。もしも自分達が未来情報を知っていなければ何人かは真に受けたかもしれない。※11

 

「少し勘ぐりすぎではないか、神? 予測と予想は全くの別物だぞ。お前の意見は多分に都合の良い解釈を孕んでいる」

 

「敵がわたしらの思惑通りに動いてくれると思ったら大間違いやで」

 

「ああ。現場を預かる僕達は常に最悪な事態を想定しそれを回避するように努めなければならない。都合の良い解釈で物事を決めてしまえば、その為の犠牲になるのは海軍乙女の娘達なんだよ」

 

 小澤や淵田、草鹿は神の持論には穴があると遠回しに指摘した。※12

 

「っ…いいですかぁ皆さん、古賀閣下より出された『大海令第18号』の主目的はミッドウェー島を必ず、、攻略することです! 敵空母が近くにいるかもしれない、、、、、、から本艦隊は事前に対艦兵装で攻撃隊を待機させておきましたが、その結果三好提督の零航戦は今なおミッドウェーの基地航空隊より一方的に叩かれているだけ、、ではありませんか!」

 

「「「ーーーッ!!」」」

 

 神の発言に小澤・草鹿・淵田の三人はカチンときた。今すぐにでも援護に向かいたいと思っているのを我慢しているにも関わらず、コイツは……

 しかし、それに気付かない神はあくまで自分の考えを変えずに、敵空母を誘い出して撃滅しようとしている第一機動部隊の行動は無駄であると主張する。

 

「……とにかく、午前5時(ミッドウェー現地時間では午前8時)までは対艦兵装のまま攻撃隊を待機させておく。利根の4号偵察機は、不調で発進が遅れたため、未だ索敵線の先端までは到達していない。同機が針路を折り返すまでは、ミッドウェーへの再攻撃はその後に検討しても良いだろう」

 

 気持ちを落ち着けた小澤はそう決断した。※13

 しかし、それから間もなく偵察機から〝敵発見!〟の報告が入ってきたのである。

 

「司令官、彩雲『瑞鶴』所属4号機が敵機動部隊を発見しました!ミッドウェーより方位二〇度、距離一七〇海里、針路二五〇、速力二〇ノット。敵空母は一〇海里の距離を置き、二隻ずつに分かれ輪形陣を作ってるそうです!」

 

 それは彩雲が情報を発信してから5分後のことだった。※14

 

「来たかッ!」

 

 小澤は彩雲からの報告書を通信参謀から受け取り目を通す。〝敵見ゆ。空母二ずつを中核に二個輪形陣をなす。輪形陣の開距離一〇海里。重巡八、駆逐艦二〇、速力二〇ノット、針路二八〇〟と記載されていた。

 

「艦内放送!!」

 

 小澤は凛とした口調で命令した。

 マイクを取り上げると、加賀艦内へ状況説明を始めた。

 

「敵機動部隊を発見した。我が艦隊は、これより全力を上げ敵空母攻撃に向かう。各員一層の努力を要請する」

 

 現在上空を旋回するのは零戦のみで美軍機の姿は見られない為、発艦作業に支障はなくできそうであった。※15

 

「『翔鶴』』および第二、第三航空戦隊へも出撃を命じよ」

 

「はっ! 直ちに伝えます!」

 

 すでに各航空戦隊は敵艦攻撃用装備でいつでも出撃可能な状態であった。

 命令は隊内電話で全艦隊へ伝えられ、発艦準備が始まった。

 

「発艦準備完了!」

 

 午前7時50分、出撃準備完了の報告が入った。

 

「発艦始め!」

 

 瑞鶴艦長の有馬大佐は間髪を入れず発艦命令を下した。※16

 

 

 第ニ次攻撃隊/攻撃目標・美機動部隊

 

 ・第一航空戦隊 司令官 小澤智里中将

   空母「瑞鶴」 陣風9機、艦攻27機

   空母「翔鶴」 陣風9機、艦攻27機

 ・第二航空戦隊 司令官 楠木多恵少将

   空母「飛龍」 陣風9機、艦爆18機

   空母「蒼龍」 陣風9機、艦爆18機

 ・第三航空戦隊 司令官 角田斗角少将

   空母「土佐」 陣風9機、艦爆27機

   空母「赤城」 陣風9機、艦爆18機 ※17

 

 

「行ったな。ただちに上空の攻撃隊を収容し、第三次攻撃隊を編成せよ」

 

「了解!」

 

 司令部では休む間もなかった。第一次攻撃隊は第二次攻撃隊が発艦し終わるまで、母艦上空で旋回飛行を行い着艦待機していた。既にガソリンが残り少なくなっていた帰投機の一部は、軽空母へ着艦していたが、大半はまだ上空飛行したままだった為急ぎ各母艦へと着艦してきた。※18

 

 ミッドウェーから戻った攻撃隊は直ちに格納甲板で艦攻は魚雷を、艦爆は五〇〇キロ徹甲弾を搭載し、再出撃準備を着々と進めた。※19そんな最中、整備班長からの現状報告を受けた草鹿はすぐに試算を行い、小澤へと報告し淵田も耳を傾けていた。

 

「司令、ミッドウェー攻撃で損傷を受けた機体は修理を急がせてるようだが、完全修理には二時間は必要とのことだ。損傷のほとんどは地上砲火によるものだそうだけど、燃料タンクを射抜かれた機体はゴム防止されていた為に誘爆せずに帰投できた機体が多かったらしい。損傷機を除けて攻撃隊を編成すれば、45分後には出撃可能になる計算だよ」

 

「ふむ、そうか……」

 

『艦爆、艦攻も防弾改造を施していたおかげでこれだけの被害で済んだな。以前のままだったならばもっと未帰還機が出ていただろう』

 

「よし、損傷機を除いた攻撃隊で発進準備を急がせろ。準備が出来次第、第三次攻撃隊を発進させる。何がなんでも敵空母を残らず仕留めるんだ!」

 

「よっしゃ。とことんやりましょう、小澤長官!」

 

 小澤の激励に淵田は感激し、それは各航空戦隊の下々の者達にも同様の反応不休の努力となって現われた応えたのである。※20

 

 「第三次攻撃隊は修理中の機体を除き、10分後に出撃準備が完了します!」

 

 「ご苦労。準備出来次第、ただちに発進させろ!」

 

 

 第三次攻撃隊/攻撃目標・美機動部隊

 

 ・第一航空戦隊 司令官 小澤智里中将

   空母「加賀」 陣風8機、艦攻25機

   空母「瑞鶴」 陣風7機、艦爆25機

   空母「翔鶴」 陣風8機、艦爆25機

 ・第二航空戦隊 司令官 楠木多恵少将

   空母「飛龍」 陣風7機、艦攻16機

   空母「蒼龍」 陣風8機、艦攻15機

   空母「赤城」 陣風6機、艦攻23機

 ・第三航空戦隊 司令官 角田斗角少将  

   空母「土佐」 陣風7機、艦攻23機

   軽空「霊鷹」 陣風3機、艦爆18機

   軽空「魔鷹」 陣風3機、艦爆18機

   軽空「多鷹」 陣風3機、艦爆18機 ※21

 

 

〈発艦始め!〉

 

 艦内スピーカーが流れる。

 時刻は午前9時35分のことであった。

 編隊は上空で隊列を組むと、東北東の空へと向けて飛行していった。

 

「第三次攻撃隊も行ったな」

 

「ああ。第一級の攻撃隊だ。間違いなく戦果を上げてくれるさ」

 

 小澤の呟きに草鹿が快活よく答え皆が安堵していた時だった・・・

 

 「司令官、零航戦より入電。『大鳳』『神鳳』が敵機の急降下爆撃を受け被弾したとのことです!」

 

 瞬間、艦内が凍り付いた。

 戦闘は、まだ始まったばかりであったのだ。

第一次攻撃隊を送り出した後、第零航空戦隊は敵機来襲に備えていた。この時には既に第零航空戦隊は大出力で電波を発信しているので、敵からは容易に位置が特定できるようになっている状態であった。

※1
もはやこの海域はヴィンランド領であった。従って敵機が付近一帯を哨戒飛行していても可笑しくなかった。「大鳳」の艦内に『対空戦闘』のラッパが鳴り響くと直ちに迎撃戦闘機が飛び上がったが、そちらに対処している間にアディ大尉のカタリナ飛行艇が別方向から、第零航空艦隊付近へと接近してきたのである。

 

※2
この機はアディ大尉のカタリナ飛行艇であり、陣風の追撃を躱しきり避退した。

※3
 第一機動部隊は攻撃隊の発進にあわせて、所属の戦艦及び重巡「利根」「筑摩」から偵察機零式水偵察対潜哨戒機九五式水偵を発進させていた。

 また、各空母からも攻撃隊の後発に艦上偵察機零式水偵・彩雲各種偵察機偵察爆撃機九九艦爆を敵空母捜索の為に発進させている。

 これだけ多くの偵察機を三段索敵で当てているにも関わらず、未だ敵空母を見つけられないのは、果たしてミッドウェーの鬼門と呼ぶべきであろうか。

※4
前世でその歯がゆさを経験している将和だからこそ、今回は受け身に回っていたのである。故に彼は冷静だった。将和の大人な対応に冷静さを欠いていると感じた雀部も恥じらい落ち着きを取りもどしたのである。

※5
 この時、友永からは「再攻撃の要あり」との連絡は入っては来なかった。史実では攻撃の成果が不十分として機動部隊に対し「カワ・カワ・カワ(第二次攻撃の要あり)」と打電することになったのだが、そこは将和が事前に対策積みであった。ミッドウェー攻撃隊の兵装に時限式の爆弾を施して攻撃に当てていたのである。

 結果、美守備隊は一次の攻撃よってミッドウェー飛行場に埋没した爆弾の撤去作業に難航させられ、飛行場の復旧に時間がかかることになるのである。こうなると味方の航空機が飛行場を自由に使うことが出来ない。

※6
もともと、空襲が予想されていたミッドウェー基地では午前6時には迎撃の戦闘機26機(バッファロー20機、ワイルドキャット6機)が出撃し、続いてTBFアベンジャー雷撃機6機、B-26マローダー爆撃機4機、SB2Uビンジゲーター急降下爆撃機12機、SBDドーントレス急降下爆撃機16機からなる混成攻撃隊を葦原艦隊に差向けていたのである。ミッドウェー基地航空隊は電波の発信源であった葦原艦隊の方向を目指して飛行してきていた。

※7
今世界では台南空に編入せず、新編された空母搭乗員として勤務していたのである。

※8
この美攻撃隊の正体は、ミッドウェー基地から発進したフィバリング大尉率いるTBFアベンジャー雷撃機6機と、爆弾の代わりに航空魚雷を抱えたコリンズ大尉率いるB-26マローダー双発爆撃機4機であった。シマード大佐(ミッドウェー司令官)が友永隊の迎撃に全戦闘機を投入してしまったため、彼らは戦闘機の護衛なしに進撃してきたのである。結果的に勝負は10分で片が付いた。

※9
その間も雀部航空参謀は隊内電話機で各戦闘機隊へ次々と指示を出し、各戦闘機隊は、それぞれ指示された目標へ向かって発進して行く。零航戦所属の「出雲」以下秋月型駆逐艦が猛烈な対空砲火を放ち、艦隊上空はたちまち硝煙に包まれていった。

神は今回のMI作戦に際して軍令部より出向してきていたのである。AL作戦を提案したのだから北方部隊司令部に行くのが当然のような気がするが『海軍の辻政伸』と名高い彼女は、周りの空気を知ってか知らずか馬耳東風、唯我独尊であった。

 将和が聞けば「これが歴史の修正力か・・・」と皮肉っただろう。

 神も海軍兵学校を上位で卒業しただけに、エリートの部類に入る海軍乙女教科書人間であった。

 欠点は自分の領域しか興味がなく、自身の思惑を優先させる傾向な人種の為に、視野狭窄で他者の意見を聞き入れないところだろう。彼女の海兵同期は「コリ性だったが、あきらめが早すぎ唯我独尊でわがままな点がある」と愚痴ったというが、まさにそのとおりであった。

 それにしても彼女のヴィンランド軍指導部の戦略推論は史実フィリピン/レイテ沖海戦後の大日本帝国のやり方を彷彿とさせる。

 大本営(陸軍部)はフィリピン戦の時点で戦争の勝算が無いと悟り、本土決戦を考案しその為の兵備準備をし始めた。そうして取った戦略が硫黄島や沖縄での時間稼ぎであった。

 それが硫黄島や沖縄戦となった。

 なるほど。それに当てはめるならば彼我の兵力比ではまともに正面から戦ったら勝てないと悟った美軍はハワイでの決戦意志を固めて、その為の兵備準備の為にミッドウェイ島を捨て石に葦原軍を釘付けとして時間を稼ごうとし、不必要な犠牲をこれ以上出さずに来たる決戦に備えて空母部隊は温存しハワイにてその時に迎え撃とうとしているという展開の想像も出来なくはない。

 また、フリート・イン・ビーイング艦隊保全主義は世界共通の海軍戦略の一つであった。

 ただし、これには確たる証拠もなければ、あくまで神の主観が入混じった憶測と偏見も多分にあった為、小澤は元より、将和と関わり己の知見と視野を深めた草鹿や淵田は、神の上辺だけそれらしく聞こえる意見などに共感することはなかった。

 確かに神の自論は「敵がああするだろうから、自分達はこうしよう」という楽観論とも角度を変えれば見えるだろう。

 一方、第一機動部隊が敵空母が現われるのを前提として動いているのは、動かしがたい事実史実があるからなので、敵情があるなしの差は大きかった

 ここで小澤は賢く、不調により発進が遅れた利根4号機を〝ダシ〟に使った。

 教科書人間は完璧さを求めるため、一つの不備があれば失敗したときにそれを元に「自分が悪いのではなく、欠陥を作ったやつが悪かったから失敗したんだ!」という傾向がある。その部分を指摘した。

 小澤の決断に神は何かを言おうとして口をつぐんだ。

 司令官が決断を下したのだ。これ以上は誰も文句は言えない。

 それにこの判断は包括的に勘案したものだから、いずれにとっても容認できる提案であった。

 

 こうして史実兵装転換劇は回避された。

利根4号機の不調対策はちゃんと行なっていた。小澤は「加賀」が搭載していた偵察機を利根4号機が飛ぶ同角の方向に飛ばしていたのである。

 零式水偵と違い、彩雲は快速であったので敵の直掩機を躱し敵空母へ接近したので、正確な情報を伝えた。

ミッドウェー基地からの攻撃は今、将和の零航戦が一手に引き受けていてくれていた為、他の航空戦隊は安心して攻撃隊を発艦させられたのである。

 小澤が視線を横に向けると「翔鶴」からも陣風が発艦する様子が見えた。陣風に続き、艦爆、艦攻が次々と飛び立って行く。総指揮官は飛龍の江草少佐で、爆撃機隊も率いる。雷撃機隊は村田少佐、制空隊は板谷少佐が率いて出撃する。葦原海軍最精鋭の母艦航空隊だ。必ずや美空母を撃破してくれるに違いないと第一機動部隊司令部では確信していた。

 なお、この時「瑞鶴」の艦橋内では神大佐が唯一居心地悪そうにしていた。司令部が事前によんでいたとおりになったから、自分が間違った指摘をしてしまっていたことを自覚したからだ。

第二次攻撃隊の兵力は陣風54機、九九式艦爆81機、九七式艦攻54機の計189機である。零航戦は既に敵の攻撃が集中し迎撃に務めているため、今度の出撃は主力機動部隊が攻撃の中心である。

第二次攻撃隊が発艦している最中の午前8時からミッドウェー基地を攻撃した友永率いる葦原軍攻撃隊が続々と戻ってきた為に司令部では多少緊張が走った。攻撃隊のあとを敵機につけられていたら発艦途上に攻撃を受けるかもしれなかったからだ。しかし、敵機は三好艦隊に集中していたために小澤艦隊は発艦最中に敵機の空襲に晒されることはなかったため、滞りなく20分足らずで第二次攻撃隊が全機発艦していったのである。

ミッドウェー攻撃から帰った搭乗員達はここではじめて美空母が現われたことを知り、再出撃に備えた。美空母が出現したからにはもはやミッドウェー基地を相手にしているような場合ではない。しかも敵空母は四隻はいるという。第一次攻撃隊の搭乗員達は〝抜き差しならない事態になった〟とすぐに味方の状況を察した。

また、将和零航戦が敵機の攻撃を一身に受けていたことで、後方の空母群第一航空艦隊は攻撃に晒されず艦内が揺れることがなかったことも相成って、整備員達は能率良く兵装準備を行っていった。結果、予定時間より15分早い、わずか30分で出撃準備を整えることに繋がったのである。

第三次攻撃隊の兵力は陣風60機、九九式艦爆104機、九七式艦攻102機の計266機である。総指揮官は、再び艦攻隊の友永大尉が取る。




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