NEW『三好in山本五十子の決断』   作:フォークロア

11 / 21
第六話(仮) ミッドウェー海戦 急

 第六爆撃中隊長クリス・マクラスキー少佐は「ヨークタウン」を発艦すると、左旋回で高度を取りながら列機の集合を待った。33機のドーントレスは、高度五〇〇〇でマクラスキーの18機と、メディスン・ベスト大尉の15機の二群になって上空を旋回する。

 

『もうこれ以上は待てないわ!』

 

 痺れを切らしたクリスは艦爆、雷撃の同時攻撃は諦め、右手の拳を上げ前方へ突き出した。

 

「ベスト、行くわよ! 」

 

〈了解!〉

 

 クリスは配下の部隊に伝えると、南西方向へと真っ直ぐ飛んだ。何せ、敵艦隊は奇妙にも大出力で電波を発信しているのだ。その方角に行けば良いのである。

 

 幸いにも彼女達の行く空は雲一つない快晴に変わっているので、視界を妨げるものは何もない。直ぐに敵にありつける。そう思い三五〇キロ飛行したが、敵艦隊はどこにも見あたらない。

 

 クリスはもう一度航法図を見直すが、針路を間違えてはいなかった。しかし、これ以上敵を見つけられないと、帰りの燃料がなくなってしまう。

 

 どうする?と悩んでいたクリス。しかし、運命の女神はクリスに微笑んだのである。

 

「少佐、左後方に敵機が見えます!」

 

 後部座席に座る機銃手のアリスティアが報告する。

 クリスが機体を旋回させて前方を見ると確かに葦原軍機の編隊が見えた。

 

「ミッドウェーを攻撃した編隊に違いないわ。あの編隊のあとを追うわよ。その先に葦原艦隊がいるはずよ!」

 

 上手くいけば、敵艦のレーダー電探上で敵味方の機影が重なりあい、カムフラージュ出来るかもしれない。

 

 幸い敵は此方を気付いていない。マクラスキーは配下の部隊に距離を取らせると、敵編隊より二〇〇〇メートル上方の高度七〇〇〇を保って葦原軍機編隊の後方をピタリとついて飛んだ。

 

 

〈艦隊司令部に打電 サクラサク我、敵機動部隊主力の誘因に成功す

 

 空母「大鳳」は、陽動成功の報告の言い回しを後方の小澤機動部隊が受信出来るよう最大出力で電信を発した。

 

「敵機接近、対空戦闘命令!」

 

 敵の攻撃隊が散見して襲いかかってくる。この時点で未だに零航戦は空襲に晒されていたのである。しかし、電探による陣風の誘導及び護衛艦からの対空砲火網を敵部隊は全く突破出来ずにいた。それでも敵雷撃機は肉迫して魚雷を投じてきたが、「大鳳」は難なく回頭し躱す。最後の一機が攻撃を終え引き上げていくと、乗組員達はホッと一息ついた。

 

「長官、『出雲』より入電! 『索敵機が敵機動部隊を発見。第一、第二、第三航空戦隊は攻撃隊を全力出撃せり』以上です」

 

 報告を聞いた「大鳳」の艦橋では歓声があがった。

 

「やりましたね、長官!」

 

「うむ……俺たちもここを凌いで一撃お返ししたいな」

 

「はい!」

 

 そんな折に機上電探が接近してくる機影を捉えた。

 

〈東方から編隊接近中。距離八〇キロ〉

 

「敵機か!」

 

「いえ、味方機のようです」

 

「となると、ミッドウェーを攻撃した隊であると思われます」

 

 電側室からの報告に、雀部航空参謀が味方攻撃隊が帰投の途についていると言う。将和も納得した。ミッドウェー攻撃隊は敵機からあとを付けられ後方の味方機動部隊の位置を悟られないように、零航戦の上空を通過していく予定だからである。当然、「大鳳」「神鳳」の攻撃隊も帰還してくる。やがて、雀部の言葉通り東方から点々と友軍機の姿が見えてきたと思った。

 

「着艦よーい!」

 

 「大鳳」と「神鳳」は甲板をあけると、風向に合わせて停止し着艦に備えた。

 「大鳳」と「神鳳」の上空を他航空隊は迂回して、通過していく。

 一方の所属航空隊は真っ直ぐに高度を落として着艦態勢に入ろうとしていた。

 

 

 午前8時24分、クリス・マクラスキーは自身の確信通りに前方に待望の葦原機動部隊を発見したのである。

 

「発見したわ。二隻の空母よ。他に戦艦二、駆逐艦多数が見える」

 

 クリスは無線封止を解除し、「ヨークタウン」へ「これより攻撃に入る」と報告した。

 視界に見える空母は、今までの敵情写真で見てきた葦原海軍空母のどの艦種にも当て嵌まらない。

 おそらく新型空母であろう。

 

「攻撃開始。目標を大型空母2隻に絞るわよ! ベストは後方の空母をやりなさい! 私達が前方の空母をやるわッ」

 

 攻撃目標を指示すると、クリスは前方の空母を狙って降下アプローチに入る。降下しながら敵空母を見る。飛行甲板には着艦していた航空機が複数見える。しめた! ダイブで飛行甲板ごと航空機を破壊するんだ。上手く行けば敵空母は大爆発を起こして轟沈させられるだろう。

 

 クリスはこの時、勝利を確信していた。

 

 ◇

 

「後方に敵急爆あり!」

 

 空母「大鳳」の見張員の絶叫する声が聞こえてきた。

 報告を聞いた艦橋職員達はその瞬間、全身が凍り付くような思いを味わった。

 

『追尾されていたか……ッ!』

 

 将和は即座に状況を理解した。帰投してきた機が半分ほど着艦したところで、美軍機が現われた。「大鳳」や「神鳳」には電探が完備しており、美軍機が飛来すれば即座に捕捉できる。しかし、敵は巧妙にカムフラージュして、帰投してくる攻撃隊と電探上で機影が重なり合うように襲来してきたのである。味方機が高度五〇〇〇メートルで帰投してくるのに対し、敵編隊は高度七〇〇〇メートルを飛んで、見つからないように飛来してきた。

 

 空母「大鳳」では非常警報が鳴り響き、乗員は瞬時に美軍攻撃隊が襲来してきたことを悟り、対空戦闘準備に入った。しかし、未だに着艦に着こうとして旋回していた味方機が邪魔だった。対空砲の射線上に居たからである。こうなると不用意には撃てない。

 

「直援隊、ただちに迎撃せよ! 後方より敵急爆。友軍機は着艦停止、空中退避よ!」

 

 こうなると頼みは護衛戦闘機隊である。しかし、友軍機に着艦にあわせて、直援戦闘機隊は空母上空から距離を取っていた。

 

 その為、雀部航空参謀が隊内電話で笹井に呼びかける。

 

〈了解、ただちに戻ります〉

 

 しかし、間に合わない。

 

 そうこうしている内に、マクラスキー少佐率いるドーントレス爆撃機隊が頭上から降下してくる。

 

「両舷前進全速!」

 

 艦長の城島影狼大佐が命じたことで、「大鳳」は速力三〇ノットで疾走する。

 しかし、敵急爆隊は編隊を崩さず、真一文字に射点へ向かって来る。

 

「『神鳳』の後方上空、敵急降下爆撃隊が向かってます!」

 

 狙いは「大鳳」だけでなかった。見張士官の一人が「神鳳」も狙われていることを報告する。

 しかしその時、笹井中尉率いる直援戦闘機隊が姿を見せた。

 

「頼むわよ、やっつけて!」

 

 士官の一人が答える。将和が上空を見ると陣風は六機ずつに分かれ、一隊が「大鳳」に向かう敵編隊へ、もう一隊が「神鳳」へ向かう敵編隊へと突進していった。

 笹井機は敵編隊へとりつくやいなや少し遠い距離から射撃した。

 

 

「下後方、敵機っ! 撃ってきます!!」

 

 心臓を、直接掴まれた気がした。

 後部座席のアリスティアが絶叫した。此方に気付いた敵戦闘機が上昇してきたのだ。

 機数は少ないが悪魔の敵戦が6機、下後方から正確無比な射撃で、次々と仲間を襲う。

 

「隊長、早く。敵戦に後ろを取られます!」

 

 アリスティアの構えるブローニングM1919重機関銃が7・62ミリ弾をばら撒く音、少し遅れて、より重たい銃撃音。彼女は悲鳴をあげながらも、銃撃を続ける。

 

「グリーン少尉機爆発」

「ああ、今度はローア少尉機が……」

 

 味方からの悲痛な通信が聞こえてくる。気がつけば18機がたったの7機に減少していたが、クリスの視線は、海面に複雑な航跡を描き回避運動を続ける敵空母大鳳に向けられていた。

 

 悲しさも悔しさも怒りも、今は何も感じない。

 自分達の帰りの燃料が無くなるのでさえ、どうでも良かった。

 チャンスはただ一度きり。必中の距離と角度で、30発の500ポンド爆弾をあの空母に送り届ける。頭にあるのは、それだけだった。

 

 PBY飛行艇からの事前の報告通り、この海域に敵の空母2隻がいた。

 しかしそのたった2隻に、ヴィンランド海軍航空隊は駆逐され仕留めきれずにいる。

 

 先行したミッドウェー基地航空隊も合わせれば、敵空母一隻に対し攻撃を試みた友軍機の数は優に150機近くにのぼるはずだ。これが図上演習であれば、爆弾や魚雷の数発はとっくに命中していなければおかしい。しかし、眼前の敵空母は被弾している様子は見られなかった。

 

『なら、私が当ててやるわ!』

 

 瞬間、クリスは操縦桿を思い切り倒しハーフロールから降下角四五度のダイブに移った。

 

 待ちかねていた配下の七機が即座に追従する。

 

 高度15000フィート。

 急降下爆撃は、艦船などの移動目標に対する命中率を高めるための爆撃方法だ。

 どれだけ深い降下角で突入できるか、引き起こし時の海面への激突を恐れずどれだけ低高度まで肉薄して爆弾を投下できるかが爆撃の成否を分ける。身体が浮き上がりそうになるのを踏ん張り、全力で操縦桿にのしかかりながら、照準器の先に標的を求め続ける。

 

 高度10000フィート。

 照準器を睨み、敵空母大鳳との誤差を微修正。突入針路クリア。

 降下角60度。先頭のクリスの降下線を辿って、後続機も急降下する。

 最も上手いクリスが見本を示し、後続の部下達がそれに倣うことで命中率を高めるやり方だ。

 

 高度8000フィート。

 クリスの意識は、SBDドーントレスと一つになる。降下線のイメージが鮮明になり、空母大鳳艦橋の上に立つ葦原人1人1人の顔まではっきりわかる。

 

 高度6000フィート。

 クリスは歯を剥き出しにして、人前では決して見せない獰猛な笑みを浮かべる。

 間抜けな衛兵ども、止められるものなら止めてみせろ。今から私が突き立てるこの槍で、お前達の不敗神話を終わらせてやる。

 

 高度3000フィート。

 爆撃照準器の十字架のセンターに、空母大鳳の中部甲板が入っている。単縦陣で雪崩れ落ちてくる七機のドーントレスに、対空砲火が炸裂してくる。

 

 高度2000フィート。

 並みのパイロットならもうとっくに投下して引き起こしに入っている高度だが、クリスはまだ降下をやめない。

 腹に抱えた500ポンド爆弾を、より確実に命中させるため。

 後少し。

 

 高度1500フィート。

 必中距離。

 クリスは爆弾投下レバーを引いた。

 

 

「敵急爆、左前方より突っ込んで来ます!」

 

「敵機、撃墜!」

 

「やった!」

 

 将和が見ている前で20機近い敵急爆編隊の横合いから駆け付けた直俺戦闘機隊の零戦がドーントレスを撃墜していく。射撃は的確で、1機、また1機と命中弾を与え、敵機が火を噴き爆発しては砕け散る。

 

 それは「神鳳」でも同様な光景だった。艦橋職員達が喜んだのも束の間、遂にその時がやってきた。

 

「敵機直上ォォォォォ! 急降下ァァァァァァァ!!」

 

 見張員が大声で叫ぶ。

 

「取り舵、いっぱーい!」

 

 城島艦長の大きな声が聞こえる。

 

「総員、衝撃に備えろッ!!(こいつはもらう、、、ぞッ)」

 

 将和は当たると内心で悟り、乗員へ対ショックに備えろと厳命した。

 

 瞬間、ドーントレスマクラスキー機が投下した五〇〇ポンド爆弾が艦中央へと炸裂する。これによって甲板上に着艦していた機体共々爆発した。

 

 まもなく「大鳳」ににぶい衝撃が伝わり、その瞬間にだれもが〝やられた・・・・・・〟と直感したが、将和だけは微動だにしていなかった。

 

「命中弾!」

 

 後続の敵機からも二段目、三段目と爆弾が投下され、命中。

 艦橋が黒煙におおわれて、視界の利かない状態がしばらく続いた。

 数十秒後、ようやく煙がおさまり周囲の状況が見えてきた。

 

 どうやら被害は大したことなさそうだった。

 

 上空を見ると敵の急爆は攻撃を終えて引き上げている。

 「大鳳」の被害状況を確認した城島艦長が、将和の方へ向きなおって報告した。

 

 「爆弾は甲板に命中するもすべて貫通することなく焼け焦げたぐらいです。航空機の発着艦に支障はなく、本艦は依然、三〇ノットでの航行が可能で、戦闘力も維持しております」

 

 皆がそれを聞いて、思わずほっと胸をなでおろした。

 

―――「大鳳」だから助かった!

 

 大鳳級空母は四〇ミリの鉄板を張った重装甲甲板を持つため、五〇〇ポンド爆弾程度ならば弾き返す防御力を有していたのである。これが他の空母だったら甲板を貫通していただろう。

 

 こうしてマクラスキー隊の攻撃を零航戦は凌いだのであった。

 

「炎上している機は直ちに海中へ投棄。急いで飛行甲板を空けさせ、上空に退避している味方機を着艦できるようにさせるんだ」

 

 周りの人間が呆然としている中で、将和は味方機を着艦させるように命じる。

 流石であった。

 将和が冷静に対応しているのを見て、各々が即座に持ち場につき己の職務をはじめていく。

 彼にとって何時如何なる時も常在戦場であった。

 

 ◇

 

 高度1500フィートで投弾したクリス・マクラスキーは、海面激突ぎりぎり、高度650フィートで機首を引き起こした。

 

 降下角60度は、人間の感覚としては垂直と変わらない。落下による加速も加わり、操縦桿を引くタイミングが一瞬でも遅れれば助からない、正に紙一重の戦法だ。

 

 引き起こしと同時に、マイナスGが強烈なプラスGに変わる。全身の血液が逆流し脳が貧血状態になるため、ブラックアウトも起こり得る。その血も凍るほどの冷徹な意志の力で操縦桿を引き続けながら、クリスは後席の機銃手に問いかけた。

 

大鳳は燃えているか、アリスティア!」

 

 あくまで念のための戦果確認だった。投弾の直後、確かな手応えを感じた。今頃は、敵空母から盛大な火柱が噴き上がっているはずだ。

 

『無駄死にではなかったぞ、皆』

 

 爆弾を投下した機体が軽い。ドーントレスと一体化したクリスの心に芽生えた刹那の感傷は、しかし、後席機銃手の強張った声に掻き消された。

 

「少佐! 敵空母が……」

 

 アリスティアのただならぬ様子に自ら後方を振り返ったクリスは、その目を疑った。

 期待した程の炎が上がっていなかったからだ。

 

『外した? いや、クリス機の投下した500ポンド爆弾は、敵空母大鳳の中部甲板を正確に命中させていた。後続の2機も、同じ降下線を辿って近くの飛行甲板にそれぞれ命中させたはず。3発の命中弾、それらが全て不発……? いえ違う。甲板には焼け焦げた痕が三つ見えるし、甲板上にあった機体は燃えて煙が上がっているのが見えるわ……』

 

 だが、それだけだった。艦内から炎上する気配が無いばかりか、空母の格納庫を貫いた形跡が見受けられなかった。

 

 『何故……? 空母に3発もの爆弾が当たれば、飛行甲板を貫いて炸裂し、格納庫内に収容している魚雷や爆弾が引火して火が上がるはずだ。どうして何も起こっていない!?……はっ!』

 

「敵は重装甲空母かッ!」

 

 クリスはその答えに当たりをつけ愕然とした。

 

「敵機が迫ってきます!」

 

 愕然としている場合ではないことを、クリスはアリスティアの悲鳴で察した。視界の隅で、スマートな緑色の翼が陽光を弾いた。

 

 そして、この時のクリスは知らなかったが、もう一つの敵空母神鳳へ攻撃を仕掛けていたベスト隊の状況も悲惨だったのである。

 

 空母神鳳に爆弾を命中させるも弾かれていたのは同じだった。そして、投弾後だったメディスン・ベスト大尉のドーントレスが、陣風の機銃弾を蜂の巣状に浴び、粉々に砕け散った。攻撃を終えたあとの気を抜いた隙を突かれた形だった。

 

 それを皮切りとしたように、同じコースで降下する彼女の列機達も、逃げる術は無かった。火線に絡め取られ、腹に抱いた爆弾ごと中空に散華する機が続出した。黒い硝煙、橙色の炎、そして青灰色のドーントレスの破片が空を彩った。

 

 爆撃機隊が、僅か数分で……!?

 

「後方、敵機っ!」

 

 〝しまった!〟っと思った。この時クリスは茫然自失としており注意散漫だったのである。アリスティアによって〝ハッ〟と気付かされる。次の瞬間には、アリスティアの構えるブローニングM1919重機関銃が7・62ミリ弾をばら撒く音、少し遅れて、より重たい銃撃音が鳴り響く。それらが耳朶を打った時には、クリスは右のフットペダルを蹴りつけ、機体を横へ滑らせていた。

 

 かわした、そう思った瞬間。機体に衝撃が走る。

 

 笹井が借る陣風が的確に機銃を右翼に命中させたから堪らなかった。翼がもぎ取られたことで、姿勢制御できずに、クリスの機体は海面にダイブすることになる。その前に、クリスとアリスティアは何とかパラシュートで脱出し共々一命はとりとめた。

 

 それから一時間後、彼女達は敵の駆逐艦に拾われ救助された。同時に、クリス・マクラスキーの軍人生活はそこで終止符を打った。

 

 

「『大鳳』『神鳳』が共に中破か……」

 

「「「「「「「「「………」」」」」」」」」

 

 小澤司令部では零航戦から、敵爆撃機によって攻撃を受けたと報告が入ってからなんともいえない空気になっていたが神だけは違った。

 

「三好大将は何をしているのですか!? 貴重な空母の運用を任せているのに!! 三好大将は恥を知るべきです!!」

 

「「「「「「「「「「ッ!?」」」」」」」」」」

 

 いきり立った神が、将和を非難した。

 

 神の発言に司令部内の職員、参謀全員が絶句し、〝信じられない〟と視線を向け、智里の堪忍袋の緒が切れようとしていた時だった。

 

「フッ!」

 

「ガッ!?」

 

「黙れや、下司げす

 

 手を上げたのは淵田だった。彼女は神の右頬に右拳を叩き込んで殴り倒したのである。

 

「それ以上喋ってみろ……次はお前を海に沈めたる。今すぐ出て行け。それとも自分の足で出て行くのは嫌か」

 

「ひっ」

 

 その眼光に、神は後退りしながら腰を抜かすのであった。

 

「面倒だ。連れていけ!」

 

 草鹿は従兵にそう言うと、神は抱えられるように艦橋から退出したのである。

 

「……感謝するよ、淵田。君がアイツを殴らなければ私が手をあげていた。それと草鹿、てっきり君は反三好派かと思っていたよ」

 

「腹を立ててたのは私も同じですから。あの人を悪く言うヤツは今後も私がしばいたります」

 

「僕は元々彼のことを高く評価しているよ。彼との確執はあの時既に解消してたさ」

 

 淵田と草鹿は苦笑しながらそう言う。

 

「ふっ…なるほどな(彼女達も…そういうことか)。三好長官の零航戦と合流する! 既に敵の陽動と攻撃隊を送り出すのには成功している以上、例え囮とはいえ敵に空母を一艦たり敵に沈めさせてやる必要はない!」

 

 ここで小澤は零航戦との合流を命じた。

 

「友永大尉より伝令! 敵艦隊発見。これより避退をはかる敵空母へ攻撃を開始するとのことです!」

 

 第三次攻撃隊は遂に美機動部隊上空へ殺到した。

 

 いよいよ戦いはクライマックスへと向かっていたのである。

第16任務部隊の戦闘要領は、急降下爆撃が高空から、雷撃機が低空から同時攻撃し、戦闘機はその中空に両方を守ることであったが、この時、デバステーターとワイルドキャットの発艦がなかなか始まっていなかった。しかし、ドーントレス爆撃機隊の出撃準備は既に終わっていたので「グズグズしていたら攻撃のチャンスを逃してしまう!」とマクラスキーは判断したのである。

この時点で零航戦の任務は完了していた。空母艦載機による波状攻撃をいくつか受けていたからだ。これで、敵艦載機群からの攻撃を吸収誘引することが出来たのである。

このようなカウンター・アタック先に攻撃させ終えた敵機に密着追尾攻撃が出来たのは、マクラスキー少佐の技量によるところが大きい。別の部隊であれば出来なかったであろう。(※運の要素も大きい)

ゼロファイターの機動力と火力が圧倒的なだけではない。敵新型空母タイホウ・クラス空母の回避能力もまた卓越したものであることを、クリスは認めざるを得なかった。

ブリトン海軍では重装甲のイラストリアス級空母があるのを知っている。飛行甲板を含み格納庫の装甲を厳重にしているので、格納庫が狭くなり母艦搭載機数が減る欠点があるが、その分厚い甲板は敵の500ポンド爆弾程度ならば弾き返す防御力を有する。

 葦原では眼前に見える敵の新型空母タイホウ・クラス空母がまさにそれに当て嵌まっていたのだ。

 彼女は帰国後に退役。後に自述伝を出し、この時の様子を残す貴重な資料を後世に提供することになるのである。

 

 その記載に以下のように記述している。

 

『……気付いた時には手遅れだった。敵は無為無策で挑んできたのではなかった。空母を囮、、、、に自分達の攻撃を吸収していたのだ。私たちが攻撃を仕掛けたことで、我が機動部隊は葦原艦隊から位置を悟られ、攻撃を受けることになった。自分達はまんまと最初から敵の策にはまっていたのだ』




ご意見、ご感想をお待ちしております。m(__)m 
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。