NEW『三好in山本五十子の決断』   作:フォークロア

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第七話(仮) ミッドウェー海戦 結 壱

 小澤は彩雲からの情報をもとに敵艦隊への航空攻撃を決意。各航空戦隊へ待機させている攻撃隊を直ちに差向けるように命じたことで、ここ第二航空戦隊の旗艦「飛龍」でも発進準備におおわらわとなっていた。

 

 飛行隊長の江草カナヲ少佐は艦橋へと呼ばれると、楠木司令から直接命令を伝えられた。

 

「偵察機の報告から敵の機動部隊は、私達が居る位置から方位一〇度(北北東方面)、距離二五〇海里(約四六三キロ)に一〇海里間隔で二群に分かれているの。獲物美空母を平らげてきて、江草」

 

「はい、必ず敵空母を撃破してきます!」

 

「うん、その意気なの。でも無理して敵艦へ突っ込んだりはしないでね。ミッドウェーから戻ってきた攻撃隊も再兵装させたら二次攻撃に出すから。みんな搭乗員の命こそが何ものにも代えがたいと三好長官から耳にタコが出来るくらい言われてるの。被弾して途中で(航空機が)力尽きても必ず迎えに行くから、無事に帰ってきてね」

 

 多恵は江草の手を握り生きて帰ってくることを厳命した。

 江草も力一杯握り返し、一歩下がると敬礼した。

 「飛龍」の乗組員は全員が一丸となって、〝手際よく〟作業を進めていく。

 それは各空母でも同様であった。

 艦橋の様子が艦内スピーカーから流される。

 

「発艦準備完了!」

 

 午前7時50分、「飛龍」では川口少佐から出撃準備完了を報告した。

 

「発艦始め!」

 

 飛龍艦長の加来大佐が間髪をいれず、発艦命令を下した。各空母でも陣風に続き艦爆、艦攻が発艦する様子が見えた。「飛龍」でも陣風9機が次々と発艦して行く。

 

 次は艦爆が発艦する番だ。艦爆隊の発艦一番機は当然江草の機である。発動機を最大出力にして制動機を離すと、九九艦爆は初めゆっくりと、そして急激に加速し、飛行甲板すれすれに舞い上がっていった。二五番通常爆弾250キロ爆弾を搭載した九九式艦爆は、悠々と発艦を終えた。

 

 二航戦を先頭に一、三航戦の攻撃隊がそれぞれ続いていくと、針路を北北東に取った。

 後は、彩雲が報告した位置より移動したであろう敵機動部隊を発見できさえすれば良い。

 

『敵さえ発見できれば、必ず二五番を命中させてみせる!』

 

 江草は、ひたすら敵空母発見を祈った。

 「飛龍」を発艦して一時間が経過した。

 敵空母がいれば、直俺の戦闘機隊が現われるはずである。

 敵空母には電探が搭載されている筈だから、付近に居れば自分達を捉えているだろう。

 

「隊長、そろそろ敵艦隊の位置です」

 

 偵察員の松尾二飛曹が、図番に鉛筆で線を書き込みながら言ってきた。

 

「いないわね・・・松尾、敵艦隊は確認できる?」

 

「うーん・・・・・・ッ! 隊長、居ました! 左敵空母です!」

 

 松尾が興奮気味に声を出したことで、江草を視線を左へ向け敵空母を確認した。

 

「確認したわ。行くわよ!」

 

 江草は操縦桿を左へと倒して機首を左方向へと向けた。

 

 

 

 

「右舷前方、距離八〇キロに航空機集団! 大部隊です!!」

 

 第17任務部隊旗艦・空母「サラトガ」のレーダーが100機以上の敵機をキャッチしたのは、午前8時40のことである。

 

 これこそ小澤の放った第二次攻撃隊であった。

 

「敵機接近す、100機以上!」

「三〇〇ノットで接近してきます。あと20分ほどで艦隊上空に進入してきます!」

 

 報告を聞いた指揮官のジェニファー・フレッチャー少将は緊張のあまり青ざめた。珊瑚海海戦の悪夢を思い出したからだ。

 

「対空戦闘の用意よ! スプルアンスにも伝えなさい!」

 

 

 一方その頃、空母「ヨークタウン」の艦橋には待望の報せが舞い込んでいた。

 

「なに、本当か!」

 

 ブラウニングの大きな声がした。

 

「司令官、やりました。マクラスキー隊です。空母2隻に命中弾を与えました!」

「本当?クリスはやってくれたのね!」

 

 レナは報告を聞き〝奇跡だ〟と感じた。

 しかし、喜んだのも束の間だった。

 

「司令官、フレッチャー少将より入電。レーダーが南方からやって来る葦原軍の編隊を捉えたとのことです!」

 

 瞬間、先程の歓声は止み艦橋に緊張が走った。レナも表情を強張らせる。

 

「ッ!・・・すべてのワイルドキャットを敵の迎撃に向かわせて下さい!」

 

 レナが命じてから20分後、第16任務部隊の南方上空で、葦原軍攻撃隊とこれを迎え撃つヴィランド軍戦闘機との間で空中戦が始まったのである。

 

 

 

 

 葦原軍攻撃隊は第17任務部隊に肉迫していた。

 

「小林の隊は左正横の敵空母を、坂本の隊はもう一隻へ攻撃を仕掛けろ。残りの隊は私に続け!」

 

 江草は眼前に見える敵空母を2隻確認すると、土佐爆撃機隊隊長の小林大尉に「サラトガ」を、加賀爆撃機隊隊長の坂本大尉に「ワスプ」を攻撃するように命じ、自らはもう一群いる筈の敵空母部隊第16任務部隊へと標的を絞り突き進んだ。

 

 楠木長官からも空母二隻を中心に美軍が二つの輪形陣をしいて来ているのを知っている。目の前にいるのはその一群ならば、別にもう一群の空母部隊がいる筈だ。目の前の空母部隊は「赤城」と「加賀」の爆撃隊に任せて、自ら率いる飛龍・蒼龍隊は別空母部隊第16任務部隊を捜索、攻撃することを決断した。

 

ーーー必ずこの近くに居る筈だッ! 

 

 その江草の機転は功を奏し、見事に第16任務部隊を発見したのである。

 

「見つけたわ!全機、私に続け!」

 

「隊長、前方上空に敵戦およそ二五!」

 

「ッ…来たわね。戦闘機隊、頼んだわよ!」

 

 江草は松尾から敵戦闘機発見の報告を受け、戦闘機隊長へとジェスチャーで援護を要請した。

 彼女の右横上空を飛ぶ陣風は、板谷禰豆子少佐の機である。

 

「了解したわ」

 

 板谷は親指を立て、了解の合図を送り返した。

 

「護衛機以外は私に続け!!」

 

 板谷機はバンクしながら増槽を投棄して敵戦闘機群へ向かう。その後ろには列機も続いていた。

 

「攻撃隊には近づけさせるな!!」

 

 たちまち前方上空で零戦とグラマン戦闘機の空戦が始まった。

 板谷機が突入すると、瞬時に一機のグラマンが火を吹いた。

 

 50機以上の戦闘機がくんずほぐれつの格闘戦に入った。

 しかし、鍛え抜かれた搭乗員が操縦する陣風の強さは圧倒的であった。

 

 グラマン戦闘機は、陣風の第一撃で半数近くが火を吹き落ちて行った。

 残りは空戦を避け、急降下で逃げて行く。

 陣風の隙を見て、艦爆、艦攻を狙うつもりだと板谷は即座に判断し追撃をかける。

 

「敵戦は崩れたわ。突入するわよ!」

 

 一方の江草は戦闘機同士の空中戦を尻目に艦爆隊に突撃開始を発令。

 高度四〇〇〇メートルで急降下射点へ艦爆隊を誘導していた。

 その時、松尾二飛曹が思わぬ方向からの敵戦闘機来襲を知らせた。

 

「南方上空、敵戦闘機隊突っ込んで来ます!」

 

 上空五〇〇〇メートルから太陽を背に、10機以上のグラマンが銀翼をつらね、真一文字に突っ込んで来た。

 

「密集隊形をとれ!」

 

 江草は麾下の部隊に対し密集隊形をとるよう命じる。

 敵機が襲ってきたら一斉に応戦する構えである。

 

 九九艦爆各機が後部に一挺備え付けられている13.2ミリ旋回機銃を放ち、敵戦を何機か撃墜するが、残りのグラマンは旋回して追撃を駆けてくる。

 

 松尾二飛曹から悲痛な報告が江草へ入る。

 

「後方上空、グラマン6機!」

 

 討ち漏らしたグラマン戦闘機が江草隊の後方から迫ってきていた。

 敵も必死である。

 しかし、技量はそれほど高くないことを江草は見抜いた。

 

 グラマンは射線が定まらないまま、遠くから射撃してくるが、隊長たる江草の技量は他の艦爆機とはひと味違った。

 

 江草は後方のグラマンから目を離さず、右へ左へと機体を横滑りさせ見事に射線をかわした。

 

「味方の陣風、グラマンに追いつきます!」

 

 松尾二飛曹の喜声に、江草はグラマンの後方を見る。

 たちまち二機のグラマンは陣風に追いつかれ、一連射で火を吹いた。

 その機体からパイロットが飛び降り、一つのパラシュートが開いた。

 残りの機も回避し陣風と空中戦に入った。

 

ーーーこれで邪魔者がいなくなった!

 

 艦爆隊は態勢を立て直し、ようやく降下突入地点に達した。

 この間、一分もなかったが、江草達には何時間も経過したような気がした。

 

 今度は空母を護衛する巡洋艦と駆逐艦から雨霰のごとく凄まじい対空砲火が撃ち上げられる。上空から急降下する艦爆隊はともかく、低空を長時間飛行する艦攻隊なら多数の犠牲が出るに違いない。

 

 村田達の負担を減らすためにも、自分達艦爆隊が頑張らなければならないと江草は思った。

 

「捉えた。全機、突撃せよ!」

 

 午前9時1分、江草率いるの飛龍艦爆隊は「ヨークタウン」に、蒼龍艦爆隊は「ホーネット」に向かって、ほとんど垂直に近い角度で急降下し高度一〇〇〇を切った。

 

 2隻の空母に左右両舷と中間から一隊ずつ同時に急降下するのだ。この攻撃方法は高度な飛行技術を必要とし、世界でも葦原海軍のみが行える急降下爆撃である。

 

 江草の視界には凄まじい対空砲火が迫ってくる。思わず目標から目をそらしそうになるが、そこを頑張り通す。

 

『八〇〇、七〇〇、六〇〇、五〇〇!』

 

 高度計を読み取りタイミングを見計らう。

 

「テーッ!」

 

 爆弾投下と同時に、江草は歯を食いしばって操縦桿を引き上げる。

 

「命中! 当たりましたよ、隊長!」

 

 松尾が後方を見ながら声を張り上げる。

 瞬間江草も後ろを振り返って見ると、敵空母の飛行甲板から火柱が上がった。

 どうやら艦橋付近の中部甲板に命中したようだ。

 

「敵空母、火災発生! また、当たりました!」

 

 数発の爆弾が、次々と敵空母の飛行甲板で炸裂した。江草の後に続く九九艦爆が投下した二五〇キロ爆弾が命中したのである。

 

 敵空母「ヨークタウン」は飛行甲板の前部、中央、後方と万遍なく爆弾が命中した。

 江草率いる飛龍艦爆隊は五発もの命中弾を得た。二発の至近弾も敵空母から10メートルと離れていない。

 

 蒼龍の艦爆隊も投弾した爆弾のうち、四発の命中弾を得た。

 これこそが、技量世界一に恥じない葦原海軍航空隊の驚異的な命中率である。

 

 二五番通常弾は飛行甲板を貫き、格納庫で内部に詰められた六〇キロの爆薬が炸裂するので、いくら耐久性がある美空母とはいえ、ここまで集中的当てられると痛い。

 

 投下された爆弾は飛行甲板を下からめくり上げ、大きな穴をあけたので、空母としての機能は喪失させる事に成功した。

 

 その時になって、ようやく敵艦の対空射撃で右翼から燃料が白く吹き出していることに気づいた。

 

「松尾、やられたのは右翼だけ?」

 

 松尾二飛曹が機体の右側、左側と全体の損傷箇所を確認した。

 

「隊長、損傷は右翼のみです」

 

 防弾改造を施していたおかげで以前より機体が打たれ強くなったことに江草は感心した。江草は燃料コックを右側へ切り替えた。タンクが空になるまで右翼の燃料で飛び、少しでも燃料を節約し、何が何でも機体を母艦まで持って帰るつもりであったのである。

 

 もし、帰れなければ海上に不時着し、味方の救助を待つしか無い。今の葦原海軍は要救助に全力をあげてくれるようになったため回収してくれる可能性は高いが、海上漂着はほぼ遭難と同じなので搭乗員達にとっては可能ならばそれは避けて通りたい道であった。

 

 

 

 

「フレッチャー少将より、葦原軍機の攻撃を受け『サラトガ』『ワスプ』共に爆弾命中とのことです!」

 

 死んでも聞きたくなかった報告が空母「ヨークタウン」のレナの耳に舞い込んできたことで、彼女の表情が歪んだ。

 

 第16任務部隊が葦原軍の攻撃隊を迎撃している最中のことだった。先に攻撃を受けた第17任務部隊では、もはや無線封止は無用とフレッチャーが回線を開いて、第16任務部隊のレナのもとへ連絡を入れたのである。

 

「……これは、空母2隻の攻撃隊なんかじゃない」

 

 今第16任務部隊に来襲している敵機の数は、優に一〇〇は超えている。そして、フレッチャー少将の第17任務部隊にも同等の数が来襲していたとするなら、敵機の総数は二〇〇乃至は三〇〇になるだろう。

 

 敵は機動部隊を二つに分けて、片方が攻撃を受けている隙にもう片方の戦力を差し向けてきたのだ。どちらかと言えば任務部隊を二つに分ける自分達の方がその策を取っている立場だが、今回は完全に相手にお株を奪われた。

 

 しかも攻撃部隊を二つに分けてそれぞれの任務部隊に攻撃を仕掛けてきたのだから、此方に比べて数に余裕があるのだろう。

 

『敵は敢えて此方に空母の存在を晒して、攻撃を誘引させた。そして、此方の位置を掴んだ瞬間に別動隊へと攻撃を加えてきたんだ。最初から目の前の空母は囮だった。敵は此方がミッドウェー付近に潜んでいることを予想し、空母部隊を分けて挑んできた。私達はまんまと敵の策に引っかかったんだ』

 

 自分も少しは懸念はしていた。しかし、葦原軍が先手を此方に譲って後手に回るのを容認する程に柔軟、、な策を実行してくるとは思えなかった、、、、、、

 

 何よりこの策は味方を犠牲にする作戦でもあるし、葦原にとって貴重な空母を喪失するかもしれない。やろうと画策しても大きすぎるプライドが邪魔して稚拙なレベルでしか行なえかったろう。それが葦原を自分なりに研究していたレナの推論であった。

 

 また、目の前の敵に攻撃を決めたのも、何より恐れて躊躇するよりは、決めたことをやり遂げるべきだと思ったからだ。しかし、後になってその決断に疑心を抱いてしまっている自分がいた。

 

『……この策はアドミラル・ミヨシによるもなの……』

 

 レナは今回の策を将和が実行してきたのだと考えた。

 

『だけど、まだ……ッ!』

 

 気後れしちゃダメだ。自分達も敵に一撃を入れた。そうして敵からも攻撃を受けている。言わば、パンチの殴り合いだ。まだ、勝負はこれからだと思ったその思考も急降下してくる九九艦爆に消し去れてしまう。

 

「直俺機抜かれました。敵急降下!! 直上ォ!!」

 

「なッ……」

 

 レナが上空を見上げると、江草の率いる艦爆隊が急降下で迫ってきていた。

 

 次の瞬間、オールド・ヨーキィヨークタウンの愛称の艦橋前が噴火した。

 

 江草機が投下した250キロ爆弾が艦橋付近の甲板に着弾し、その爆風がレナ達に襲い掛かったのである。

 

 レナは壁に叩きつけられて、あまりの激痛に意識を失った。

 命の安い時代であっただけに、ヴィンランドと戦争になった時から江草自身も途中で戦死するだろうと思っていたのがつい半年前のことだ。

 多恵の言葉を聞いた江草の双の瞳には感慨の光が浮かんでいた。

この時代GPS等という上等な物はないだけにそこが難点でもあった。

楠木は、第三次攻撃隊としてミッドウェー攻撃から戻った攻撃隊を再兵装させて出撃させるつもりだったので、江草達は最悪の場合、、、、、でも第三次攻撃隊のために敵空母の足をとめておかなければならなかった。

尚、この時雷撃隊を率いる村田少佐も三航戦の雷撃隊を17任務部隊に当て、一航戦の雷撃隊を16任務部隊に当てるように指示していた。

そう考えれば不思議とストンと納得してしまう自分がいた。彼は葦原軍内でもかなりの発言力を有している程、人望が高い。彼が言うなら、アドミラル・ヤマモトも認可するだろう。空母戦闘は先手必勝だ。故に敵に先制攻撃を敢えて許して、カウンター・パンチを打ち返してくる作戦は見事としか言いようがない。




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