美機動部隊に災厄が降りかかってきたのは、味方攻撃隊を送り出してから2時間後のことであった。およそ150機ずつの葦原機が、第16任務部隊と第17任務部隊の二個輪形陣に殺到してきたと思えば、直俺のワイルドキャット隊はたちまち零戦隊に蹴散らされ、敵の攻撃隊が艦隊の防空網を突破してきたのである。※
この攻撃で、「サラトガ」に三発、「ワスプ」に四発、「ホーネット」に四発、「ヨークタウン」にはなんと五発命中した。他は殆ど大なり小なりの護衛艦艇に命中して大破乃至は沈没させられた。※
そんなショックから立ち直る暇なく、敵の雷撃機がゆうゆうと接近してきたので※艦長達は必死に空母の回避運動を行なわせたが、なにせ夾叉雷撃をされたので、両舷から魚雷が迫ってくるので被雷は免れず魚雷が次々と命中した。これにより「ホーネット」「サラトガ」には三発、「ワスプ」には五発が命中したが、なかでも「ヨークタウン」は艦橋損傷で操舵手も負傷して動けなかったので被害は大きく、七本が命中した。※
各空母の艦長は、最大限の努力を払って排水するよう命じて復旧作業に従事したが、「ヨークタウン」は絶望的だった。艦長負傷により副長が臨時で指揮をとっていたが、七発の魚雷命中により、たちまち大浸水が生じて、艦の基底部には大量の海水がなだれ込み、機関室、機械室、罐室などがすべて水没した。これらの被害のため機関も停止し、右舷に大きく傾むいたのである。
「オールド・ヨーキィの状況はどうなってるの、救えそう?」
「浸水が激しく排水不能、破孔をふさぐことは不可能だそうです」
部下からの悲壮な報告にフレッチャーは落胆する。「ヨークタウン」は以前に第17任務部隊の旗艦を務めた愛艦であったので、フレッチャーにとって他の空母よりも愛着があったのである。※
「スプルアンス司令は負傷しており、指揮を担えない状況です。よって、作戦指揮官は司令官が担うべきかと」
「ッ……他の空母の状況はどうなってるの?もし戦闘可能なら葦原軍にもう一撃入れるべきだけど」
「他の空母も先の攻撃によって戦闘能力を喪失しております。司令官……」
報告を受けたフレッチャーは内心で頭を抱えた。
『たった一回の攻撃で麾下の空母部隊が全て戦闘不能に追い込まれるなんてッ。しかも敵機の数から明らかに空母は5隻以上は存在している……もはやここが引き際ね。あとは一隻でも多くの空母をパールハーバーへ帰還させないと、完全に敗北となる……』
ここでフレッチャーは自身の責任において全部隊に撤退命令を下した。
しかし、葦原軍は逃がすつもりはなかったのである。
午前10時25分には、「サラトガ」の搭載レーダーがあらたに一〇〇近くの敵機が接近してくるのを感知したからだ。これこそ葦原軍の第三次攻撃隊であった。
報告を受けたフレッチャーは愕然とした。こんなにはやく敵機が再び来襲してくるとは思わなかった。敵は本艦隊へ攻撃隊を送り出した後、ミッドウェー基地に向けた攻撃隊を即座に対艦兵装を施して出撃させたに違いなかった。
◇
「空母は全て沈めるぞ、全軍突撃せよ!!」
攻撃隊指揮官の友永大尉は四隻の空母を認めると、これにとどめを刺す決心をした。
友永は各空母の艦爆・艦攻を二五機ずつに分けて当たらせると、それぞれに攻撃するように命令を出した。※
この攻撃によりミッチャーが乗艦する「ホーネット」とフレッチャーが乗艦する「サラトガ」も爆弾と魚雷を三発ずつ食らった。此方はまだ雷爆撃の被弾数が少なく致命傷を負っていなかったので、二七ノットの速力が出せたためこれだけの被害で済んだが、「ワスプ」が六発の爆弾と魚雷を食らい沈没しかかっていた。艦長が「総員退艦命令」を出したことで「ワスプ」の命運は定まった。
また「ヨークタウン」にも爆弾と魚雷が五、六発をそれぞれ食らい撃沈された。しかし、スプルアンスをはじめ司令部職員達は事前に旗艦を重巡「ミネアポリス」に移していたために、難を逃れていたのである。
これで第三次攻撃隊は引き上げていったが、「サラトガ」「ホーネット」はまだ持ち堪えた。持ち前の抗堪性で二艦はなんとか沈没ぎりぎりの線まで追い詰められながらも持ち堪えたのである。
ーーー結果は敗北だけど、これだけでも不幸中の幸いだと思うしかない。
そう自分を納得させて帰還の途につくフレッチャー達もまさか第三の攻撃が迫っているとは夢にも思わなかったのである。
◇
「江草より。敵空母を降下爆撃し、多数の命中弾を与え二隻炎上せり」
「村田より。艦攻隊は四機失うも敵空母に魚雷命中せり」
空母「瑞鶴」の艦橋に第二次攻撃隊の戦果報告が入る。
「よし!だが、美空母は打たれ強い。まだまだ攻撃の手を緩めるな!」
小澤は果敢に攻撃を命じる。
それから30分後、「瑞鶴」の艦橋に第三次攻撃隊の友永大尉から報告が届いた。
〈美空母2隻を撃沈! 残るもう2隻にも、中破以上の損害を与える!〉
この報告電を受け、葦原海軍の乙女達はだれもがミッドウェー海戦の勝利を確信した。電報は直ちに連合艦隊旗艦「大和」の山本長官にも転送されたので、彼女も勝利を確信したことだろう。
しかし、まだ長い一日は終わっていなかった。そう、ミッドウェー海戦はまだ続いていたのである。
「司令官、三好長官からお電話です」
小澤は将和から連絡を受ける。
〈小澤、「大鳳」と「神鳳」を預かってくれ。「出雲」を率いて逃げる敵機動部隊に艦隊決戦を挑もうと思う〉
「ッ・・・なるほど、あわよくば敵空母を鹵獲しようという訳か。了解した。此方からも水雷戦隊を出そう」
小澤は将和の意図を理解して、一航艦からも艦艇を派遣することを決断した。
◇
敵の攻撃隊が迫ってきていた。私達の艦隊を前にすると部隊を二つに分けてそれぞれ襲いかかってくる。まず急降下爆撃隊が先行し、各空母に連続して急降下で爆弾を命中させて炎上させた。
その攻撃が終わると次に雷撃機隊が低空飛行で突っ込んできて「ヨークタウン」から七〇〇メートル付近で魚雷を投下していく。
ーーーダメだ、やられる! 誰かあの敵機を落として!!
そう祈るも無情にも魚雷が命中し紅蓮の炎を上げると、私の体は真っ赤な炎に包まれた。
ーーーかん
声が聞こえる。
ーーーれいかん
この声はブラウニング参謀長?
「司令官!」
「………ッ……」
ブラウニングの呼ぶ声で、レナは我に返った。彼女が顔を覗き込んでいる。
「よかった、気がつかれて。魘されてたから心配しましたよ」
「ブラウニング参謀長……私はいったい……そうだ!ッ……」
レナは起き上がろうとして、直ぐに右腹を押さえた。
痛みで悲鳴をあげてしまいそうだった。
見ると、体に包帯が巻かれているようだ。
「無理はしないで下さい。あばらの骨が折れているんですよ」
「状況はどうなってますか? ヨークタウンは? 戦闘は?」
レナはブラウニング大佐に現状を問い掛ける。彼女も頭に包帯を巻いて、顔にかすり傷が所々にあった。
「落ち着いて下さい。状況を一から説明しますね。ヨークタウンが爆撃を受けたとき、衝撃で艦橋も損傷し私達も負傷しました。それから、司令部の機能が不全になりましたので、旗艦をミネアポリスにして司令官共々移乗させたのですが、それから葦原軍の二次攻撃隊が来襲してヨークタウンとワスプが撃沈され、ホーネットとサラトガは大破しました。指揮を受け継いだフレッチャー少将は撤退命令を下して、今現在艦隊はハワイに向けて帰還の途上なのです」
「そう…だったのですね。フレッチャー少将の判断は適切です。空母はたとえ一隻でも、救わないと…」
「はい」
「フレンダとニミッツ長官にあわせる顔がありませんね」
レナは体の苦しみを堪えながら言った。
「ミッドウェーの戦いは、もともと葦原軍の戦力の方が勝っていたのです。そして、わが太平洋艦隊は真珠湾で不意を衝かれてから、立ち直る時間を与えられなかった。ニミッツ提督もそれを理解しているでしょうから、私達を責めはしないでしょう」
ブラウニングが慰めるような口調でレナに言った。
「次の再戦に備えましょう」
「・・・そう、ですね。そして、艦隊を立て直さないと」
「はい。今現在本国では大々的に空母の増産を行なっておりますので、捲土重来を喫しましょう」
そのときである。重巡「ミネアポリス」の医務室に副官が飛び込んで報告してきた。
「南に艦隊が現われました!」
「何ですって!?」
「ッ!?」
レナはブラウニングに手を貸して貰い外に出て双眼鏡を向けると、確かに艦影が見えた。
「何てこと!? 戦艦がいる!」
瞬間、艦の前方に水柱が林立しレナに海水が降りかかった。
「ぐっ…!」
傷口に海水が染み渡り、レナが苦悶の表情を浮かべる。
痛む体を抑えながら、レナは艦橋へと上がった。
「キンケイド少将!」
「スプルアンス司令!?」
臨時的に第16任務部隊の指揮を執っていたキンケイドは、スプルアンスが起きてきていたのに驚いた。
「ご無事でなによりです」
「いえ、それより葦原艦隊が!」
「司令、そのことに関して先ほど葦原艦隊より降伏勧告が通達してきてまして……」
レナはキンケイドから通信文を受け取ると読み上げる。
『貴艦隊の奮戦に敬意を表する。諸君は祖国と国土を守る為、我が身を省みずよく戦った。まさに海軍軍人の誉れと思う。我々もまた祖国を守る為に全力を以て当たる。しかし、同時に不必要な血を流すことを望まない。戦闘を終わらせる意志があるならば、我が軍はジュネーブ条約に基づく降伏規定を完全順守する。抗戦するならば砲が止むまで戦闘を続ける。願わくば、理性に基づく判断を望む。以上、艦隊司令 三好将和……』
レナは最後の一行まで読み終えると、敵艦隊を見据える。
「 軍人の意地を見せて突っ込むという手も考えていましたが、正直勝てる見込みはありません。司令……」
キンケイドがレナにすがるように問い掛ける。敵に回り込まれた今、逃げるのはほぼ不可能に近い。しかし挑めば必ず負ける。その決断を下すのに判断がつきかねていた所、スプルアンスが復帰したので彼女に判断をあおぎたかったのである。
「そっか……相手はアドミラル・ミヨシだったのね。まさか空母部隊に戦艦部隊で挑んでくるとは思いもしなかった……」
レナはどこか自分を納得させるように独り言を言う。
「平文にて葦原艦隊に打電して降伏する旨を伝えて下さい」
「し、しかし司令官!? 我々はまだ戦えます!!」
「相手は戦艦を伴っているのです。もし交戦を続ければオーバキルになります。私は私の責任において部下達を死なせる訳にはいきません」
「ッ……」
レナの指摘にブラウニングも口を噤んでしまう。確かに向こうには戦艦がおり、艦艇数も多い。もし抵抗すれば一方的に撃ち負けるだろう。幸い葦原軍は捕虜に対して寛容に接していると聞いているので降伏しても部下の身の安全は保証される可能性も高い。
しかし、ここで問題となるのは降伏する決断を下す指揮官の責任が本国に帰国後問われることであった。まだ航行可能な空母を敵に明け渡すことになるのだから、その責任は重い。それをレナは取ると言ったのである。
「フレッチャー少将にも連絡して下さい、全責任は私が持ちます」
「……サー。直ちに……」
「……我々にはまだ機会が与えられたのです。胸を張って下さい」
「……はい」
「ミネアポリス」の檣頭に降伏旗が揚がり、レナの命令が艦隊に伝わる。空母を預かるフレッチャーとミッチャーも渋々と従った。抗戦しても勝ち目がないからだ。
かくして、レナ達の戦いは終わった。
◇
小澤は将和から提案を受けた後、二水戦旗艦「神通」の田中妖夢少将へ命じて、いくつかの護衛艦と共に前進。
第零航空戦隊では旗艦を戦艦「出雲」へと移し、「大鳳」「神鳳」以下の少数の護衛艦艇は後方へ下げ、前進してくる二水戦と合流する。
そして将和自らは「出雲」へ乗船し、田中少将の水雷戦隊と共に敵機動部隊へ追撃戦をかけた。 退避を図る美機動部隊が行く先は十中八九真珠湾だろう。
ーーー行き先が分かっているならば迂回してハワイの前に陣取れば良い。出雲の出せる三〇ノットで艦隊を移動させれば夜間には追い付くだろう……
果たして将和の意図は功を奏し、その日の夜間には……哨戒中の伊四百潜水艦部隊の協力もあり……美機動部隊を捕捉できた。
威嚇射撃を行ないスプルアンス提督は自ら責任を取るとして、葦原艦隊へ降伏を決断。
将和は「ホーネット」と「サラトガ」の鹵獲に成功したのである。
それと同時刻に近藤輝夜中将率いる攻略部隊はミッドウェーに向け前進。薄暮頃には先行した三川霊夢中将率いる三戦隊の「金剛」「比叡」がミッドウェー島二万メートルの沖合から艦砲射撃を実施した。ハワイ基地の航空援護が効かない夜間、それも満潮の午前0時に上陸作戦を仕掛けるべく、敵砲台と海岸線陣地を真っ先に潰すべく行動を開始したのである。
ある程度海岸付近の防御陣地を潰したと判断した三川中将は、砲先をミッドウェー基地の中心部へと向けて発砲した。これは意図していなかった効果をもたらした。
その日の0時を迎える前に、ミッドウェー基地から白旗が揚がったのである。※
これにより上陸前にヴィンランド軍が降伏したことで、葦原軍はミ島の無血占領を果たすことになる。かくして別時空で日本軍が上陸出来なかったミッドウェーの地に葦原軍は足をつけたのである。
今まさに史実とは歴史が乖離し始めていた。
ここに葦原軍はMI作戦を完遂したのである。
〝トツレ(攻撃態勢をとれ)〟
各指揮官の命令で、それぞれの部隊は攻撃態勢をとり美空母へと攻撃を仕掛けてきた。
艦爆隊は五〇〇〇メートルの高度から急降下爆撃態勢をとったら、一〇〇〇メートルまで緩降下。それから急降下して、五〇〇メートルで爆弾を各艦に叩きつけた。
この時期の葦原海軍機動部隊の練達艦爆パイロットの力量は命中率八〇パーセントなので、よほど練達の艦長でなければ避けきれない攻撃法であった。
一方の艦攻は高度を海面近くまで降ろして、雷撃準備に入る。此方は艦爆隊が敵艦隊を叩いて疲弊したところをトドメをさすのである。
将和達が来て以降は、この戦法が葦原機動部隊の常套となった。空母運用はまだまだ葦原をして試行錯誤していた段階であっただけに、第一人者達の提言は葦原海軍の戦術を効率をより良くさせていたのである。
4隻の空母が必死に逃げ惑うなかを、艦爆が獲物をねらう鷹のように急降下してきた。
最大戦速を出しても、四〇〇キロ以上の速力で急降下してくる爆撃機は避けられない。
対空砲火で数機が撃墜されたが、それで葦原軍の勢いは止められるものではない。
葦原艦爆隊は指揮官機を先頭に一本棒となって、敵艦に殺到すると爆弾を叩きつけた次の瞬間には急降下フラップをめいいっぱいはたらかせて急上昇していった。
美空母は飛行甲板と格納庫には搭載機がなく、いずれも不燃処理をしてあったが、それでも完全完璧という訳ではない。
軍艦には燃えるものがいっぱいあり、その最たるものが兵器であった。
4隻とも火災が広がり、ダメコン・チームがおおわらわで消火を始めたが、完全に消し止めるには30分から1時間はかかる見込みであった。
言葉にすれば〝それだけ〟に聞こえるだろうが、これで空母としての機能は完全に失われたのであり、艦を預かる艦長や乗船している提督達は顔を真っ青にして、飛行甲板には大穴があいて火炎が上がったのを目撃していたのである。
そして相手となったのも、これまた練達の雷撃機搭乗員達であった。被弾しながらも此方が感心してしまうほどきれいに雷撃を敢行して空母の上空を飛び越えていく。
そして傾斜すると、飛行甲板が使えなくなるので空母としての戦闘能力は失われる。
爆撃によって飛行甲板を叩かれるのと同じ結果だが、沈没する原因は雷撃による要因が大きいという違いがある。
それはスプルアンスを同様だが、彼女は意識不明の重態なので更に報告が遅れた。何せ旗艦たる「ヨークタウン」の司令部が損傷したのだから、所属部隊内で混乱が生じるのは仕方がない。臨時的に巡洋艦群司令官のキンケイド少将が部隊指揮を担っている状況だった。
第17任務部隊のフレッチャーの方が「サラトガ」艦橋が無事な分、混乱をおさめるのがはやかった為、第16任務部隊の状況確認へと目をまわすことが出来た。
エスコート艦が猛烈な対空砲火を噴き上げてくるが、先の攻撃で直俺戦闘機隊を一掃されて手持ち無沙汰となった零戦隊が機銃掃射を浴びせてきて対空砲火を阻害してくる。おかげで攻撃隊はあまり被害を受けることなく目標に突入出来たのである。
爆撃が終わると次に雷撃機隊が低空飛行で突っ込み「ヨークタウン」「ホーネット」「サラトガ」「ワスプ」から七〇〇メートル付近で魚雷を投下し退避していった。
こうしてヴィンランド空母に、あらたな災厄が舞い降りてきた。ふたたび艦爆の急降下爆撃と、艦攻による雷撃に見舞われたのである。
美機動部隊も敗走したことも聞いていた守備隊はこれ以上の抵抗は無駄だと悟り白旗を掲げるのを誰も止める者がいなかったのである。
ご意見、ご感想をお待ちしております。m(__)m