「おぉ……! 見事なお菓子の世界だな」
将和はわくわくしていた。
「これは面白い!」と。同時に「ここは絶対彼女が居るだろうな」と思った。
「『チャー●ーとチョコレート工場』思い出すな。作中では道ばたの草もお菓子として食べれてる描写あったし。いや、ここは『ヘン●ルとグ●ーテル』だな。お菓子の家は……あった!」
しばらく道なりに進んでいると、建物が見えたので中へ入ると
「あっ、いらっしゃい長官」
「やっぱり君か、五十子」
〝案の定〟将和を出迎えたのは山本五十子その人であった。
将和は「知ってた!」と思った。
「ここ良いですよね。ずっと住んでいたいぐらいです」
「君にとっては間違いなく天国だろうな…」
「体はお菓子で出来ている……」と将和は思った。
それほどこの世界、甘党な五十子にとっては理想郷であったろう。
なんせ、あちこちに世界中のお菓子があって食べられるのだ。
現に将和が来るまで彼女はそれなりに堪能していたようだった。
「お菓子にしますか、お茶にしますか、それとも……プ、プレゼントが欲しいですか///」※
『えっ、なに? そんな言い方されたらスッゲエ気になるんだけど』
「…………取り敢えず、お茶で」
将和は多少悩んでお茶を所望した。
「アハハ。少し待ってて下さい」と五十子は笑いながら、奥へと消える。「プレゼントを選んだらどうなってたんだろ……」と思いながら待っていたら、五十子は珈琲とケーキを持ってきたので、将和は礼を言うとカップを手に取りブラックで一口飲んだ。
「っ……上手いな」
「本当ですか?良かった。ここお菓子だけじゃ無くて色々な産地の珈琲豆がありましてね。ちょっと私もお菓子を食べ過ぎて途中で重たくなっちゃったから苦いものが欲しくて。色々飲んでた中で、この豆が一番美味しかったので持ってきたんです」
「それもあるんだろうが、珈琲入れるの意外に上手かったんだな」
「あはは、寿ちゃんには負けますけどね」
ありふれた会話をお互い交わしつつ将和は本題に入った。
「それで登子から聞いたんだが、俺にプレゼントを渡したい人たちがいるとか。その一人が君だった訳だな」
「はい。ですけど、長官。ただプレゼントを渡すだけという訳ではないんです」
「だろうな。それならわざわざこのような場を設ける必要はない。それで俺は何をすれば良い?」
「長官には私たちがそれぞれ提示する内容で勝負をして貰いたいんです。長官がそれに勝てばプレゼントを受け取れると考えて下さい」
「ほーぅ」
「面白いじゃないか!」と将和は関心を抱いた。
「じゃあ、負けたらプレゼントは受け取れないということか?」
「いいえ……ただ、えーとその場合プレゼントの中身が変化するかもです」
「?…俺が負けたら君たちに何かを与えないといけないとかは?」
「それはないです。あくまで長官の誕生日をお祝いするためにプレゼントを渡そうというのが主旨ですので。あ、いやでも……」
---将和さんとの勝負に勝てば『貴方が欲しい』と言えば良いんですよ!by登子
「五十子?」
「な、なんでもないです!///」
「???……因みに五十子以外には何人が控えてるんだ?」
「四人います」
『初代ポ●モンリーグかな? 四天王のあとにグリーンが控えてる的な?』
「ふむ……一つ質問したい。俺と勝負をしようとする意図は?」
話を聞く限り勝負がどう転ぼうとも将和はプレゼント?を受け取れるということだ。
であるならば「君たちは俺と勝負をすることで何の意義があるのか?」と将和は知りたかった。
尋ねられた五十子は一度深く目を閉じ深呼吸すると、覚悟を決めた眼差しで将和の目を見据える。
「長官、私たちは貴方をお慕いしております」
「っ、五十子」
「ですが、この感情が女としての恋慕なのか。または海軍乙女としての憧憬なのか。判断がつかない。自信が持てないんです」
「……」
「この迷いを確信に変えるためにも私たちと戦ってくれませんか、長官」※1
「ッ……」
将和も一度目を深く閉じて考えた。
『一方的に決めつけて相手のことを知ろうとしてなかった。彼女を主に軍人として見ていたのは俺の方だったか』
一呼吸終えると将和も五十子を見つめ返す。
「……勝負で答えを見出す。好きだぜ、そういうの。君の覚悟に応えよう。だが、勝負するからには俺は全力で勝ちにいくぜ」
「望むところです!」
「ようやく合点がいった」「腑に落ちた」と将和は思った。
司令長官と提督、上司と部下、同僚、戦友、そういった括りではなく、一人の男と女、個人同士、垣根を越えて〝サシ〟で試合う。
将和ははじめて司令長官というビジネスファクターを外して山本五十子を一人の女性として見ようと決めた。
「それで君は俺に何で勝負をしようと言うんだ」
「ふふふ、それはですね……これです!」
五十子は懐からカードを取り出した。
「ポーカーでどうですか」
「いいだろう」
五十子は世界が違えど山本長官である。
故にギャンブルごとは他人より一つ格上である。
しかし、将和は即答で引き受けた。
「勝負は1回きりの変則スタッド・オープンポーカーでどうですか?」※2
「構わないぞ」
「では、カードはお互いで切り合います。配る時はお互い裏面で相手の前に並べて下さい」
そう言い五十子はカードを切ると将和へと裏面表示で5枚手元に置く。
次に将和もカードを切り五十子へと裏面表示で5枚手元に置く。
「じゃあ……」
「うん」
五十子と将和は一斉に5枚のカードを表面にした。
『これは……!』
『っ……』
両者は自分の手札と相手札を見比べた。
五十子の方は♥・♦・♣のQが3枚に、♣のJと♦の4が1枚ずつ。
対する将和は♣と♥のAが2枚に、♠と♥ の3が2枚、♥の4が1枚であった。
この時点でお互いに役が出ていた。
「3カード」
「ツーペアだな」
『よし。最初からQが3枚、3カードが完成してるのは幸先がいい……! ここで長官が私に勝つ為に狙うとしたら、1枚チェンジで山札に2枚ずつ存在するAか3を引いて〝フルハウス〟……勝てる! いや、ここで油断はしちゃダメだ。勝利を確実にするためにも、2枚チェンジで4カードぐらいは完成させておかないと』
「今回ばかりは私が勝ちを拾いますね」
「確かに圧倒的不利だ。だが諦めたらそこで試合は終了だ。俺はたとえ僅かでも勝つ可能性がある限り最後まで諦めないぜ」
「っ!……では私は2枚チェンジで」
「流石だ!」と思った五十子は気を引き締めるとJと4を捨てて、山札を引いた。しかし、次に彼女が引き当てたのは、♦のAと♣の3だったのである。此方も流石は山本長官であった!
「私は3カードで確定です」
「ふむ……」
『さあ、どうでますか? 私がAと3を引き当てた以上、長官がフルハウスを完成させる為には山札に残る1枚のAと3を引き当てるか、そうでなければ3枚チェンジで1枚残るAを狙って3カードを完成させないと勝てませんよ』
この時ばかりは五十子もほぼ自分の勝利を確信していた。
「じゃあ俺は……この2枚をチェンジで」
『はっ……!?』
五十子に衝撃が走った。何故なら将和がチェンジに選んだカードは♣のAと♠の3だったからである。
『ツーペアの優位性を崩した? そうか、ハート のフラッシュ!』
五十子は将和が敢えて『ツーペア』『3カード』の役を壊して『フラッシュ』の大役を狙ってきたのだと思った。しかし
「……」ペラ
『スペードの5……フラッシュは崩れた。これで……』
「勝った!」と五十子が思った次の瞬間、
「ふっ」ピッ!
「これは!?」
将和は笑い、五十子は目を見開いた。
次に将和が引いたカードが♣の2であったからである。
「ストレート……俺の勝ちだな、五十子!」
「はーぁ……まさかここで〝ストレート〟を完成させてくるなんて」
「賭けだったがな」
「いいえ。ふつうあの手札なら〝フルハウス〟か〝3カード〟を狙いますよ」
「それも考えたが、君がAと3を引き当てたからな。敢えて〝フラッシュ〟か〝ストレート〟を狙ったんだ」
「どうしてですか?」
「直感的にそっちの方が役が出る確率が高いと感じたんだ。それに……」
将和は五十子の目を見据えて言った。
「君からのプレゼントが欲しかった。だから決断したんだ」ニカッ
「ッ……!!」
瞬間、五十子は自分の中で繋ぎ止めてた何かが切れた音が聞こえた様な気がした。
『ああ、やっぱりこの感情は……もう抑えられそうにない』
「負けました。完敗です。約束どおり、プレゼントをお渡ししますね」
そう言うと、五十子は家に備え付けられていた冷蔵庫の中から〝とある箱〟を取り出した。
「それは?」
「コペンハーゲン産の生ショコラです」
「ああ…。確かに高級なお菓子だな」
この時代ではまだまだ電気冷蔵庫が(葦原では)一般家庭に普及していない。上流階級しか電気冷蔵庫は持っていないので、外国産の生菓子はそれこそ現地に行ってしか食べられないのである。
ということで五十子は自分にヨーロッパ産の高級生菓子をプレゼントしようと考えていたのだろうと思ったが、予想に反して五十子は否定してきた。
「いいえ。これだけなら私が勝った時に渡そうと考えてました」
「うん? じゃあ、なんで持って来たんだ?」
「こうするためです」
そういうと五十子はチョコを口に加え、目をやや細めると
「んっ!?」
「んっちゅ」
舌が絡み合う程度にはキスと共にチョコを将和の口腔に押し込んできた。
「ん…ネチャ…ぁ…どう、ですか?///」
「ネチャ…クチュ……甘いな」
五十子の大胆な行動に意表を突かれた形だった。
「プレゼントはお気に召しましたか」
「凄く良かったが、けっこう無理してるだろ。顔が赤いぞ」
「…………ああ、すいません。こういうのはちょっと慣れてなくて///」
将和は最初こそ放心していたが、特に動揺した様子が見られない。
逆に五十子の方が羞恥から顔を赤く染め手で顔を覆った。
キス自体はじめてなのに、それに加えて接吻による菓子の口移しを行なったのだ。
よほどの覚悟がいったであろう。
「君がこうも大胆な行動に出てくるなんてな」
「自分でも似合わないかなと思ってます」
「だが、俺に負けたらしようと決めてたんだろ」
口移しはたとえ恋人同士であっても極めて親密でなければ出来ない行為だ。
嫌がられるかもしれないという恐怖もあったはずだ。
「他の娘たちの手前、抜け駆けして良いのか、最後の最後まで迷ってたんですけど、負けた時に決心がついたんです」
どうやらあの時がきっかけで「女としてこの人が本当に好きなんだ」と確信したらしかった。
「俺で良いのか」
「貴方だから良いんです」
「俺は諸々の事が片付いたら海軍を去る。そうなればただの三好将和だ。戦後は一般人だぞ」
将和は多少自虐的に言う。それはまるで「提督としてだけの俺に幻想を抱いているなら覚ました方が良いぞ」「俺が将来偉大な指導者になると思っているなら期待するな」「みんな、俺を名将のように見ているが実際の姿は理不尽に抗っている一人の男だ」「俺の伴侶になっても『こんな筈じゃなかった』『思ってたのと違った』『相手を間違えた』と失望するかもしれないぞ」と言っているようであった。
また、女性が中心の葦原海軍に定年雇用という訳にはいかないであろうと将和は考えていた。特殊な事情が相成って、特別に提督として働かせて貰ってるが、平和になれば自分たちは海軍にはそもそも必要なくなるので去らなければならないだろう。
また、今次大戦が葦原優位の和睦で終わった後将和は政治家にはなるつもりはなかった。既にミヨシ・ノートによって戦後葦原の民主政治化は約束されているので敢えて自分が出しゃばる必要はない。
ーーーこんな俺で良いのか?
「なら私も一緒して良いかな?」
「えっ?」
「私もね、将来は海軍を辞めて駄菓子屋をやるのが夢なんだ。もし長官が海軍を去るなら一緒に駄菓子屋をやらない?」
「い、いやだが五十子。海軍に残っていれば君は間違いなく出世できるんだぞ。俺なんかと「なんかなんて言わないで下さい」」
「私は地位や名声より貴方の妻の座が欲しい!もし私がGF長官でも海軍乙女でもなくなって、ただの山本五十子になったとしても、私を貴方の傍に置いていただけませんか?」
「……叶わないな」
そう言うと、どこか決心を決めた顔をして将和は机の上に置かれていたチョコを手に取り一口咥えて五十子に視線を向けた。
「五十子」
「はい? ふぇっ、んっ…ちゅるっ……ちゅるるっじゅる……!!///」
先ほどのよりよりディープなキスとチョコの口移しを将和は五十子へと行なった。
「ぷっハァ、ん…ちょ、長官///」
「提督としてではなく、俺と一人の男を受け入れてくれたんだ。これが俺からの答えだ」
チョコと唾液が混じった液体を口から流した五十子は恍惚とした表情で将和を見た。
「長官とはじめてキスをしたんですけど、その上手くないですか!?」
「亀の甲より年の功ってな。だが、実は俺も口移しの接吻ははじめてでな。なかなか……もう一度」パク
「えっ、ちょっとま……んっ……!」
将和はチョコを咥えると五十子に寄せて唇を奪った。
「んっ、ちゅ……んぅっ、ちゅぅぅ……ぷはっ、はぁはぁ///」ダキ!
「五十子?」
力が抜けたように五十子は将和の胸へと身体を預けた。
「ごめんなさい。今のでかなり……」
そう言うと彼女は上目遣いで物欲しそうに将和を見つめた。
「長官……私を一人の女として扱ってください」
「……寝床に行くか」
「はい///」
そこから先は……甘い一夜だったと言っておこう。
「因みに誰の入れ知恵なんだ?」
「登子さんと長谷川長官、それに山口長官からアドバイスして貰ったかな」アハハ
『清と登子は分かるが、山口!お前もか!』※3
恋慕:恋愛感情を含む場合に使われます。仕事で上司に対して恋愛的な感情を抱いている場合に適しています。
憧憬:尊敬や憧れの気持ちを表す言葉です。上司の仕事ぶりや人柄に対して強い尊敬の念を抱いている場合に使われます。
敬愛:尊敬と愛情が混ざった感情を表します。恋愛感情まではいかないが、深い尊敬と親しみを感じている場合に適しています。
ノ「このくらいはしないと将和さんを落とせませんよ!」
ヤ「……まあ、長官のペースに任せていたら長官のペースでしか事は運ばんよ。ただ、眠れる獅子を奮い起こすことは君たち次第で出きるだろう」
「「「「「なるほど……」」」」」
ご意見、ご感想をお待ちしております。m(__)m