NEW『三好in山本五十子の決断』   作:フォークロア

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三日目です。


第八・八話(仮) 三好inハッピーバースデー(4)

「地味にこの世界に来てからはじめて桜を見たな……」

 

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 チサとの〝男女の嗜み〟を終えた将和は一眠りついた後に、開いていたスキマから次の世界に来ていた。(二回目)

 

「待っていたよ、長官」

「草鹿…」

 

 桜が満開に咲き誇る桜並木の通路奥には、草鹿が立っていた。

 よく見ると、彼女はいつもの海軍制服ではなく白色の和服と赤い袴を紫の帯を巻いて着ており、腰に刀を差していた。 

 

「着物、似合ってるな」

「ありがとう。普段は軍服だけど、家ではけっこう着物を着ててね。着付けはお手の物さ」

「なるほど」

 

『スカートを履いてるのも、なんだか新鮮だな』

 

 そう将和は思ったのも他意や下心ではなく普段草鹿がズボンを履いていたからであろう。※1

 大多数の海軍乙女達がスカートを履く中、ボーイッシュな出で立ちと言動で海軍内から人気を博す彼女だけに、女性受けが良く、ズボン姿が様になっていた。

 それが彼女の基本スタイルとして定着していた為、こうして女性らしい、、、、、格好をしてきたところを見て、草鹿も〝五十子たちと同じく〟だと将和には改めて認識できたのである。

 

「一昨日、昨日となかなか楽しめたようだね」

「分かるか?」

「それはもう、貴方の雰囲気を見ればなんとなく分かるよ」

 

 将和は肩をすくめた。何のことはない。草鹿も女としての勘を働かせたということだ。

 

「もう内容は理解していると思うけど、僕は二人ほど甘くはないよ」

「そりゃ、楽しみだ。それにしてもちょっと意外だな」

「なにが?」

「君はてっきり俺のことはあまり好いていないと思ってた」

「なっ!?」

「いや。南雲一筋だァ!みたいな感じだったから」

「僕が異性に興味を抱くのがそんなに変だったかい?」

「変ではない。ただこと俺に対してそういう感情を抱いてたというのが意外だった」

『特に原作での印象がな~』

 

 草鹿は驚くが、原作の彼女を見ていたら、そう思わざるを得なかった。しかも将和からしたらこっちの世界に来てから陸軍を除いて(南雲との機動部隊司令官の交代時に)最初に張り合ったのが何を隠そう草鹿である。その後は確かに和解したが、「良い印象は抱いていないだろうなぁ」と思ってたし、彼女は南雲が南遣艦隊司令官に転任した後もそのまま参謀長として付いていったのである。その辺り、強い執着があったろうことは想像に難くない。

 その為、五十子やチサ、あとの二人についてもなんとなく好意を向けられていることに将和も薄々勘づいていたが、こと草鹿だけは将和にとっては意外であった

 

「僕にとっても正直意外だった。自分が女として異性に惹かれる日が来るなんてね。でもしょうがないじゃないか。気がついたら(恋に)落ちていたんだから」

 

 そう言うと、草鹿は視線を漂わせながら意を決したように(きっかけを)話し始める。

 

「最初は貴方が憎かった。でもハワイ作戦を考案し成功させたのを見て感心した。未だ僕たち海軍が航空戦術について試行錯誤をしている最中、貴方は目から鱗とも言えるやり方を実施して、ハワイ作戦を完璧に仕上げたんだ」

「未来知識と登子が俺の世界の武器を提供してくれたおかげだぞ」

「知識と武器だけなら、どうしても僕等は既存の考え方にとらわれて作戦を考えて実施していたと思う。貴方は自分が思っている以上に、葦原海軍を変化させているのを自覚した方が良い。もちろん良い方向にね」

「……そうか」

 

 将和は照れくさくなりそっぽを向いた。

 

「そんな貴方に僕は気がつけば目で追っていた。貴方の隣に立つ小澤を見て羨ましいと感じた。そんな憂鬱な思いを抱いていた時に汐里さんから背中を押されてね」

「南雲が?」

「ああ。『峰ちゃんは三好長官の元で、学ぶべきだよ』ってね」

「……」

「実際僕も長官の元で航空戦術とその采配を学んでみたかった。だから、汐里さんの最後の一押しもあって機動部隊付きの参謀へと転任希望を出した。そうしたらMO作戦で参謀長として貴方の元へ赴任したという訳さ」

「なるほどな。だが、聞いた限りだとそれはあくまでも提督としての、、、、、、俺に憧れてたってだけだろ。異性として俺を意識するのとは違うくないか?」

「そうだね。この思いはあくまでも憧憬しょうけい。同じ職場での貴方の仕事ぶりや人柄に対して強い尊敬の念を抱いているだけの感情だと僕も思ってた」

 

 「だけど…」と草鹿は続ける。

 

「先のミッドウェーでの海戦で貴方の乗る空母が被弾したと聞いた時、僕は心に穴があいたような喪失感にとらわれたんだ」

「草鹿……」

「自然と涙が出てきた。その時自覚したんだ。ああ、そうか。僕は貴方のことを異性としてもお慕いしていたんだ、てね」

「……」

「失ってからはじめて気付く恋慕れんぼって奴さ。それから直ぐに『大鳳は無事』だと聞かされてほっとしたけど、気付いてしまったこの気持ちに嘘はつけない」

 

 そう言うと草鹿は真っ直ぐ将和を見据え、将和も草鹿を見つめ返す。

 

「これがきっかけだけど、納得してくれたかい?」

「十分すぎるほど納得したよ」

「一人の女として貴方に向き合いたいと思う。この思いを……この刀で受け止めてくれないか、長官!」

 

 そう言って、草鹿は将和に一振りの刀を差し出した。

 将和も頷き受け取った。将和も草鹿が意図していることを正しく理解していたのである。 

 とここまで客観的に見てきたドクシャにとっては「なんで将和、誕生日プレゼント貰う為に戦わされなあかんねん?」「ふつうに告白してYES・NOすれば良いだけなのに、なんでこんなまどろっこしい色恋沙汰に発展させるんだ?」と疑問に思ったかもしれない。

 答えを簡潔に述べると、要するに今まで、そしてこれから行なっていく彼女たちとの勝負は一種の〝恋愛の駆け引き〟だったのである。

 海軍の職業はあくまでその人のステータス。客観的評価をする為の材料にはなるだろう。

 しかし、それを除いて相手を見た場合「男として」「女として」「何を持って?」相手を判断するか。

 草鹿に一つの物差しがあった。それをこの〝駆け引き〟で見出し判断しようとしていたのである。※2

 それは五十子にしろ小澤にしろ同じ。そしてそれに付き合わされる将和にもそれ相応の対価プレゼントが用意されていた。そう賭けていたのは自分の人生プレゼントはわ・た・しだったのである。故にこの勝負に於ける勝ち負けは大きな意味を持ってくる。なんせ「負ければ体も心もすべて捧げる」といった覚悟を持って彼女たちは挑んでいた訳であるのだから。

 

「真剣でか」

「安心してくれ。これは特別製でね」チャキ

「ぅん…………これはっ!」

 

 草鹿は鞘からブレードを抜いて掲げる。

 よく見てみると、通常の刀とは刃と峰が逆向きになっていた。

 将和はそれを見て自身の鞘からもブレードを抜いて見る。

 

逆刃刀さかばとうか!」※3

「ふふ。本当は竹光や木刀を考えていたんだけど、登子君から良いものを貰ってね」

「なるほど。死人は出なさそうだな」ニヤ

「ああ。聞けば貴方も剣には多少覚えがあるのだろう? こう見えても僕は一刀流剣術の家元の娘でね。是非受けて立ってくれるかい」※4

「……いいだろう。来い」

 

 両者は刀身を構えると、切先きっさきを相手へと向け向かい合う。

 

「勝負は相手から先に一本取った方の勝ちだ」

「分かった」

「いざ、尋常に!」チャキ

 

 草鹿が両手を上へ伸ばし、上段斬り真向斬りの構えに入る。※5「どこからでもかかって来い!」という強い自信の表れである。

 彼女の流派は一刀流流派の無刀流。信念に『攻撃は充分なる調査をし精密なる計画の下、切り下ろす一刀の下に集中すべきなり』という思想を持っていた。

 

「……」チャキ

 

 対する将和は切先きっさきを下後方へと向けた。

 所謂、脇構えの姿勢である。

 

「……」

「……」

 

 二人の間に静寂が訪れる。

 そして

 

「っ」

「てぇーやぁぁぁ!」

 

 草鹿が先に仕掛ける。

 この時、彼女が振り下ろした「唐竹割からたけわり」には相当な威力があった。

 それこそ、まともに受けた場合剣ごと真っ二つに折られて叩っ斬らきつけられただろう。

 だが、

 

「ふっ!」

 

 将和は敢えて刀身を横に構え上段に持ち、左手をブレードに受けの姿勢に入った。

 

『無駄だ!! この剣は必ず、、防げない!!』

 

 草鹿はそのまま将和へと剣を振り下ろす。

 

カキン!

 

「なっ!?」

「っっ!!」

 

パキン

 

 草鹿は唖然とした。

 が折られたのは自分の方だったからである。

 必殺の初撃を将和はなんと刀身のはばきで受け止め防いだのである。

 

「……まさか、僕の方が折られるなんて」

「ふふ。銅製のはばきは刀の部位で最も硬い部分だからな」

「……負けだ。貴方は僕より確実に強い。これ以上試合っても勝てないだろう」

 

 剣の道を究めた草鹿だからこそ、自身の将和の実力差をはっきりと認識出来た。※6

 故に「この勝負は貴方の勝ちだ!」と自ら引いたのだが、

 

「ふむ……なら」

 

 そう言うと、将和は刀を鞘に収めて草鹿へ差し出した。

 

「……何のつもりだい?」

「俺は次に無手で挑もう。これなら実力差は同等、、だろう。どうだ」

 

 なんと将和の方から草鹿へと再試合を申し込んだのである。しかも次は〝自身は刀なし〟で草鹿刀を持った彼女とやり合おうと提案してきたのである。

 将和からしたら今回の戦いについては単純に実力の差で最初から勝負が決まっていたも同然なので敢えて自身にハンデをつけた。※7

 五十子やチサの時はどちらが勝っても負けても可笑しくなかった。故に勝った時の喜びと達成感が半端なかった。たが今回の草鹿との勝負に関してはそもそも将和の〝十八番だった〟ので、物足りなさを感じてしょうがなかったのである。

 

「それは……」

「別に馬鹿にしている訳じゃねえ。ただお前とやり合ってから、まだ昂りが収まらねえんだ。俺の我が儘に付き合ってくれないか、峰」

「っっ……」

 

 草鹿は震えていた。

 『お前程度、刀を使うまでもないからもっと遊ばせろ』と言われた恥辱。

 そして、はじめて名前を呼ばれて認められた喜び。

 様々な感情が沸き起こった。

 

『…なんていう…屈辱!! そして』

 

『なんていう…喜びなんだ!!///』

 

「ふふ…ふふふ……いいだろう、長官! だが」

 

 草鹿は将和を見据えると、受け取った刀身の鞘から刀を抜き、切先を将和に向ける。

 

「次は僕が勝つよ」

「ああ。来い峰」

 

 対する将和は空手の熟練者が自身に適した構えを見せるように、体重をやや後ろに右手を顎の位置に、左手を逆に下の方に構えて対峙してきた。※8

 『刀を使わずに勝負を挑んできたことを後悔させてやる!』と思った草鹿は直ぐに自身の考えを改めた。

 

『死角が見当たらない…………ッ!? どうやら刀以外でも強者らしい』

 

「フフ……こんなにもワクワクした気分になったのは初めてだ」

 

「俺もだよ」

 

 

 そう言って、草鹿は鞘から刀を抜く。

 

 切っ先を将和に向ける。

 

 

「すぅーーーふぅーーー」

 

「すぅーふぅー」

 

 草鹿の顔に汗が流れ出る。

 

 そして……

 

 

「はあーーー!!!」

 

「……ふっ」

 

 草鹿は将和へ真向斬りを行なうと将和は右へステップを踏んで交わす。

 

「てぇーや!」

 

「っ……うぉー!」

 

「っ……!」

 

 草鹿は空かさず刀身を翻すと、袈裟切りを行なう。

 それをよんでいた将和は最小限の後ろ後退し躱すと間合いを詰めて右拳を峰へ当ててくるも、草鹿は左腕でそれをガードする。

 

「でぇーや!」

 

「っ……」

 

 空かさず草鹿は刀を右手一本に持ち替えると右薙ぎを行なうも、将和は寸でのところで身を屈めて躱し十分な距離後ろへ後退する。

 

「ふっ……」

 

「ふぅ……」

 

 二人はお互いに笑いあう。

 

『強い! 無手で僕の攻めを凌いで反撃に転じてくるなんて……』

 

「ふっ……」

 

「む……」

 

 草鹿は刀を右手持ちすると、剣先を真上へと向ける。

 

『片手上段か……』

 

 将和は草鹿の雰囲気が最初の試合と同じように変わったことを感じ取る。

 

「うぉーーーたぁ!」

 

 草鹿は真っ直ぐ将和へ間合いを詰めると飛び足からの真向唐竹割りを決めるが、

 

「っ……」

 

「なっ!?」

 

 草鹿は驚いた。

 自身の真向斬りを将和はなんと両手をクロスさせ自身の右手首を挟むことで受け止めたのである。

 

「くっ……」

 

「ぐっ……!」

 

 空かさず将和は蹴りを入れて草鹿を弾き飛ばすも、草鹿もその勢いを利用して後方へと後退する。

 

「ぅ……フフ」

 

「……はは」

 

 将和と草鹿は再び笑いあう。

 

「ふっ……!」

 

 今度は将和から攻めた。

 草鹿へ駆け足で間合いを詰める。

 

「はぁ!」

 

「ふっ!」

 

「っ……はっ!」

 

 草鹿は自身の刀が届く領域に入った将和を捉えると袈裟切りを行なう。

 しかし、将和は勢いよく跳び躱すと共に右足を大きく振り上げ後ろ回し蹴りを草鹿へと仕掛ける。

 

「ぐ…ッ」

 

「ふっ…!」

 

「ッ…てぇーや!」

 

 寸でのところで草鹿は後退して躱すもそれをよんでいた将和は連続で回し蹴りを行い、草鹿の頬をかする。

 ほぼ直感での回避だった。流石は剣術を極めただけあり、それに転じて狙わずに左薙ぎを行い将和のズボンを掠めた。

 お互い決定打にかけた為に、一斉に間合いを再び取る。

 

「……はは。やるじゃねぇか。あの連続蹴りを躱してなお二の足を斬りに来るなんてな」

「はぁはぁ……こっちこそ参るよ。刀も抜かずにこれじゃあ師範代は返上しなきゃね」

「そりゃ、お前より凄腕の剣術師範(夕夏)と幾重にも勝負してるからな。この程度は経験の範囲内だ」

「それは凄い。是非機会があればその人とも手合わせ願いたいね」

 

『刀を振り回すだけじゃ捉えきれないか……』

 

 草鹿は息を整えると剣先を低く構える。

 

「ふっ……」

 

 将和は草鹿がしようとする意図を察しニヤける。

 彼女は刺突により勝負を決めるつもりであった。

 

「…………」

 

「…………」

 

 両者の間に長い沈黙が訪れる。

 ふと散ってきた桜の花びらが草鹿の剣先に当たり二つに割れる。

 そして……

 

「ふ……ッ!」

 

「……っ」

 

 草鹿の刺突を将和は体ごと傾けることで躱す。

 しかし、草鹿はよんでいたのである。

 

『この間合いなら蹴りは届かないよ。で、胴へと二段突きならどうだい!』

 

 草鹿は剣先を引っ込めると再び刺突を将和へと仕掛けた。

 

「ふっ……!」パシッ!

 

「なっ!? ぐわぁ!!?」ドサッ!

 

 草鹿は驚愕した。将和は上体を後ろへ反らすイナバウアーポーズことで草鹿の二段突きを躱したのである。

 そればかりか剣先を真剣白刃取りし、草鹿の動きを止めた瞬間に下からの回し蹴りを草鹿の首に当てて勝負を決めたのである。

 首へとクリーンヒットを当てられた草鹿は刀を手放して倒れ込んだ。

 と同時に将和も姿勢の関係上刀を掴んだまま後ろへと倒れ込んで勝負は終わった。

 ハンデをつけて尚軍配が上がった将和の完全勝利である。

 

「……空が高いね、長官」

「ああ」

 

 草鹿は大の字で寝そべったまま感想を述べる。

 将和も大の字で寝そべったままそう答えた。

 

「負けたよ。負けた……完敗だ。貴方は強いな」

「さっきのは紙一重だった。俺もこんなにドキドキしたのは久しぶりだよ」

 

 二人はお互い笑いあった。

 

「にしてもお前も優しいな。最後の最後で剣先が鈍ってたろ。でなけりゃ取れなかったかもな」

「あはは……仕方ないよ。それが僕の限界さ。それに貴方の蹴りこそ手加減してただろ」

「まあな」

 

 剣を用いた実戦に近い模擬戦であっても、お互いに加減は心得ていたようである。

 

「……剣術の家元の娘に生まれ剣を習ってきたけど、女の身であるが故に将来は何処かの良家の妻となり子を産んで育てるのが僕の責務だ」

「……?」

 

 ふと草鹿は自らの本音を明かすように独白し、将和は静かにそれに聞き入る。

 

「家は伝統的な考えを重視する家柄でね。男は働きに出て、女は家のことを担当するという考え方を重視してた。長女として生まれたのに、親は次男に家督を継がせようと決めててね。だから嫁入りの為に『女らしく』『淑女たれ』と言われてきた。だけど性に合わなくて。剣の稽古もしてたら、身内や周りから疎まれ蔑まれる。そんな家に嫌気がさして、反発し海軍に入隊した。軍人になれば女としてではなく、一人の軍人として見られると思ったから。男らしく振る舞ってきたのは、ただの女の子であると周りに思われたくなかったからだった」

 

 それは草鹿自身の生い立ちであった。幼少期の形見の狭さと葛藤が〝男らしく〟振る舞うことへの一種の強迫観念となって今の彼女を形作った。それを草鹿は自ら将和に曝け出したのである。※9

 

「我ながら子どもっぽい考えだろ」

「いや。自分で考えてその道を決めたんだろ。親元を離れて。なら俺はその考えを尊重する。周りがどうこう言おうと、君は君らしく生きれば良い」

「やはり貴方は……」

 

 そう言うと草鹿は涙声で答える。

 

「女として見られたくなかったと思う反面、心の何処かでこんな僕を女性として認めて欲しかった。今日、貴方に勝てたらこの思いは胸の内にしまっておこうと思ってた。でも僕は……私は貴方が好き。こんな私でよければ貴方の側に置いて欲しい」

「俺も将来海軍を去ればただの将和だ。こんな俺でよければ……共に来い、峰」

「はい。幾久しく宜しくお願いします」

 

 そう言うと、峰は将和へと口づける。

 

「ンっ……」

「んっ……ハァー……強い男は好きだよ///」※10

 

 そう言った峰の顔はこの日一番輝いていたのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本来はこの後、私も小澤さん達と同じくご同衾と行きたかったけど今回は長官の為に遠慮させて貰うことにするね」

「俺の為?」

「3日連続だと、この後がしんどいでしょ。別の機会に改めさせて貰うわ」ニコ

 

 将和は顔を片手で覆った。確かにこの2日間色々と羽目を外してしまって〝ペースを間違えてしまっていた〟からだ。

 

「………………すまん。今度必ず埋め合わせする」

「ふふ。最後に一本とれた」

『良い峰打ちだったわ…』

 

 草鹿はしてやったりという表情を浮かべる。

 ただ、そんな草鹿も後日全回復した将和に腰砕けにされることになるのだが、この時は思いもしなかったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 おまけーね

 

 

 

 

「そう言えば長官、貴方に剣を教えた達人っていったいどんな人?」

 

 ふと草鹿は戦いの最中、将和が言っていた剣術師範がどんな人が気になっていたので問い掛けた。

 彼ほどの腕前に仕立てた人物なのだ。剣を習う者としてやはり気になった。

 

「ああ……前世の俺のお嫁さんだよ」

「嫁ぇ!?」

 

 草鹿は驚愕する。まさかの将和の家内、それも女性だったのだからびっくりした。※11

 

「三好夕夏と言ってな。俺の初恋の人であり、最初の妻だ。夕夏とは時々剣道をしててな。一度だけだが真剣を使って模擬戦を行なった時もあったよ」

「その人はいったいどのくらい強かったの?」

「うーん……一つ言えるのは俺より強かったってことかな。色々と……」

 

 将和は遠い目をして嘗ての思い出に浸る。

 死して尚、彼女の姿は色あせずに思い出せる。

 自身が愛して止まない存在だったのである。

 

「峰も会ったらきっと意気投合すると思うぞ」

「うん。もし可能なら是非その人に指導を受けてみたかった」

 

 無論それは叶わぬ願いであると二人は認識しているが、せめて何か記録だけでも見せてやれないかと将和は考えた。

 

『そうだ。確か登子から携帯を預かってたな。ちょっと聞いてみるか……』ピッポッパッ prprpr

 

〈はい。此方新高山です〉

 

「ああ、登子。今峰の所に居るんだけど、ちょっと峰に俺と夕夏が剣を使って模擬戦をしている映像を見せてやりたくて、どうにか出来ない?」

「ふむふむ……なるほど。分かりました。では、専用のHMDを二つお送りします。頭に被って頂けたら、将和さんの記憶を読み取ってVRをディスプレイから峰さんと連動で流せるようにしますので、活用してください」

 

 そう言い終わると、数秒ほどで将和達の目の前にHMD(ヘッドマウントディスプレイ)が出てきたのである。

 

「長官、それは?」

「これを頭につけてくれ。前世の俺と夕夏との模擬戦が見れるようになってるから」

「……つくづく思うけど、まるで魔法ね」

 

 そう言うと、二人はHMDを被り視界が暗転した後に、その光景が現出した。

 

 

 

 

『……貴方、覚悟はいい』

 

『いつでも良いぞ。夕夏』

 

 将和と夕夏、二人は剣を鞘から抜くと切っ先をお互い相手へと構えていた。

 

「この人が夕夏さん?」

「ああ。どうだ、夕夏は?」

「見事な物腰……そして美しい人……」

『真剣を使うことになった経緯は黙ってよ……』

 

 草鹿ははじめて映像越しに見る三好夕夏の姿に惚れ惚れとしていた。

 因みに何故二人が真剣で戦うことになったかというと、この日は将和がシベリアでの白軍と赤軍との戦から帰ってきた日であり、夕夏にタチアナとの関係で女性関係を匂わせたことへの昼ドラ劇から何やかんやあって、真剣を使っての模擬戦に移行していったというのが経緯である。

 将和と夕夏、二人が刃を抜いてから、暫くの間静寂が場を支配した。

 

 そして、

 

『っ!!』

 

『っ!!』

 

 

キィン! キィン! キィン! キィン! キィン! ヒュン!

 

 先ず、先に動いたのは夕夏の方であり、上段振りから、突き、三連撃を神速で将和に仕掛けるも、それを全て受け流し返した将和の一刀をかわしてからの回し斬りを行う。

 

『っつ!!』

 

『っつ!!』

 

 それを受け流した将和の返し斬りを夕夏は避けるも、今度は将和が下段からの横薙ぎを仕掛ける。

 それを要領よく飛びかわした夕夏と交差する事で両者半回転してからの距離を保つ。

 

『っぅつ!!』

 

『っぅっつ!!』

 

 すかさず将和も仕掛け、両者一進一退の攻防で剣が交差するも、お互い決定打を得ないまま、距離を再び開ける。

 

『貴方、顔がニヤけてるわよ』ニタァ

 

『夕夏こそ、笑ってるじゃないか』ニヤ

 

 両者ともに、剣のしのぎを削る戦いに、内心では心が弾んでいた。

 

『っっっつ!!!』

 

『っっっつ!!!』  

 

 剣を交えてからの交差、半回転斬りからの将和の下段斬り責めを夕夏は体全体を地面と平行に飛ばす事で着地した瞬間一気に下段からの連続斬りを敢行。

 将和もそれを要領よく後ろへ後退し剣戟を受け流すことで返し斬りを行うも、夕夏は体を無駄なく将和の上から回り込むように飛び込み剣戟。

 再び、後ろを取ろうとする夕夏の二の腕を絡ませた将和と夕夏は、お互いに大円を描くように周り、両者とも重い一撃を叩き合いながら再び距離をとった。

 二人の戦いに峰は知らず知らずの内に手に汗を握っていた。

 

「なるほど。確かに凄腕だわ。けど、私だってこのくらい…」

「本番はここからだぞ」

「えっ?」

 

 

『スピードをあげるわよ、貴方ッ!』

『こい、夕夏ッ!』

 

 瞬間二人の姿が消えた。

 

「はっ?」

 

 草鹿は呆気に取られた。

 二人は目で捉えられないようなスピードで剣戟をはじめたからである。

 

 

 キン!

 

 

『はあぁ!』

 

『てあぁ!』

 

 

 ピィン!

 キィン!

 

 

 二人は常人が目で追いきれぬ攻防戦を繰り広げる。

 夕夏の突きを剣で受け右へ流した将和はそのまま右側にはじき、そのまま唐竹斬りをしようとするも、それより一歩夕夏は速く左手に持ち替えた剣で将和の右肩へ斬りかかる。

 それをよんだ将和は剣を右あいから水平に割り込ませて防ぐが、夕夏はその勢いで将和を一歩後退させて回転。その勢いに乗じて左薙ぎ斬りに掛かるが、将和も空かさず唐竹斬りを行い、両者の剣がクロスして拮抗。

 再び距離をとって、即座に間合いを詰めてきた夕夏は将和へ左薙ぎ斬りをするも、将和は後退しながらジャンプしてかわし、一太刀。

 夕夏は左に回りながら後ろを取ろうとするも、将和は宙返りからの夕夏を正面に捉えて一太刀。

 それを受け止めた夕夏は今度は将和がやったように宙返りし、正面に捉えた将和と剣を交差させての拮抗。

 そのまま両者剣を交えたまま走りながら、離れたら再び一太刀。

 何度も刃を交えながらも、両者一進一退の攻防を繰り返す。

 将和は夕夏の左薙ぎ斬りを剣で受け止め返して、右薙ぎ斬りをするも、夕夏はそれを剣で受け止め左に受け流し、今度は夕夏が左に流して、その隙を見逃さず突きを繰り出し、将和の右腋腹を夕夏の剣が掠めていた。

 

『流石に強いな』

『あなたこそ。腕は鈍っていないようね』

 

 二人の動きが止まった時、将和と夕夏は自身へと向かって来ていた両者の剣を握っていた方の手首を空いていた手で握り止めていた。

 二人は手を離した瞬間に距離を取る。お互いに次の一撃で勝負を決めるつもりであった。

 夕夏は刀を右手に持ち水平に構える。右手一本で突き刺す「右片手一本突き」を決めるつもりであった。

 

『はあぁぁぁ!』

 

『っつ!』

 

 

キィィン!

 

 

 夕夏の突撃技を将和は刃を逆さまにして受け止める。

 

『甘いわね』

 

『なにっ!?』

 

 将和は続けてくる夕夏の攻撃に驚愕した。

 

『ふっ!』

 

『ぐわっ!』

 

 瞬間、将和の額に突きが入り後ろへと倒れた。

 夕夏は空いていた方の手から腰に差している鞘を掴んで二段突きを決めてきたのだ。

 勝負は夕夏の勝利であった。

 

『大丈夫、貴方?』

 

『大丈夫だ、加減してくれてたろ?』

 

『まぁね。でも、たまには真剣も良いわね♪』

 

『堪忍してくれ』

 

『うふふ、冗談よ♪ 剣は凶器。剣術は殺人術。どんな奇麗事やお題目を並べてもそれが真実だからね。今後は二度と貴方とは真剣で勝負はしないわ』

 

『(竹刀では勝負は続けていくということね……)』

 

 

 そこで映像が終わったので二人はHMDを外した。

 

「と、こんな感じだったがどうだった、峰?」

「……どうりで」

「うん?」

「道理ではばきで此方の剣を受け止め折るなんていう離れ業ができた訳だ」ガクッ

 

 草鹿は両手を地面について落ち込んだ。

 

「ひょっとして、私の太刀筋は止まって見えてた?」

「…すまん。俺も夕夏が基準なんだ」

 

 将和は視線を逸らして答える。

 

「そっか……うん、決めた!」

「うん?」

「私、夕夏さんを目指す!」

「えっ?」

「彼女みたいに強くなって、長官の隣に立ってみせる!」

 

 草鹿の唐突な宣言に将和は困惑したが、彼女の姿がどことなく若い頃の夕夏や美鈴と類似して見えたのである。

 

「……」ナデナデ

「ん……くすぐったいよ、長官///」

 

 気がつけば将和は草鹿の頭を撫でていた。

 

「夕夏は夕夏。峰は峰だ。同じにはなれないが、女も剣術も自分らしく磨いていけば良いさ」ナデナデ

『なんだろう、長官に撫でられると不思議な多幸感に包まれている気がする。これが甘えるってことかしら///』

 

 長女として厳格な家と環境に育ってきた草鹿はこの時はじめて甘える事の良さを理解しはじめた。

 

「さて、まだ時間はある。今日いっぱいはなるべく君の要望を叶えてやりたい。何か希望はあるか?」

「じゃ、じゃあ今日いっぱいは私と剣の稽古をしてくれない」

「喜んで」

 

 この後、メチャクチャ峰とチャンバラして過ごした。

なお、智里からはその時に名残惜しかったので別れ際にキスをせがまれたのはご愛敬。(二回目)

※1
海軍乙女の海軍制服は基本下はスカートであるが、小澤等もズボンを履いている為特に服装のバリエーションは選ぶことが出来ると考えられる。

※2
これについて相手を判断する物差しは実は五十子や小澤、後に控えている彼女たちも実は草鹿とほぼ同じだったのである。

※3
分からない方は「るろうに剣心」をご参照下さい。

※4
多少どころではないです。

※5
 「刀 上段斬り」は、日本葦原の武道や剣術において、上から下への斬撃を指す。この技は、相手の防御を突破するために使われ、正確なタイミングと技術が必要である。刀の刃を相手に向けて振り下ろす際には、体のバランスと腕の動きを調整することが重要。

 この技は、日本刀を高い位置から振り下ろす一撃にスピードと威力があり、また、上段に構えることで自身の身体を大きく見せて、敵を威圧する効果がある反面、構えたときに胴や足腰を敵にさらすことになり、攻められやすい態勢でもある。

※6
 そもそもはばきの部分を当てて相手の刀を折る芸当自体、常人には出来ぬ神業であった。ある程度剣に覚えがある者がそんなやり方で防がれたら〝そりゃ心も折れるわ!〟

※7
このシーンの解説。

将和からしたら「お前ちょっと待てよ」「なんでそこで諦めるんや。もっと我武者羅になって挑んでこいよ!」「こっちとら不完全燃焼やわ!」「自分の得意分野で勝てても達成感が得られへん」「こんなんでアンタを娶っても何にも達成感がないわ」という話。「そりゃお前も剣術にはそれなりに実力があって、形勢判断が速く正確やから、相手の力量を知りこれ以上は無理だと判断したんやろう。力のない奴ほどそういった判断ができずに勝てない試合をし続けるもんやからな」「でも、それだと俺が納得できへん」「恋の駆け引きによるプレゼントは私や作戦。それはええけど、君を手に入れるためのもっとこう手強い試練を与えてくれ」「なによりこんな久しぶりにおもろい試合をここで終わらせることが『そんな殺生な~』やわ」「そも、これで終わらしたら所詮はその程度の駆け引きやったいう発展のないモンになってまうやん」「やったら俺の方から再試合を申し込もう」「俺に嫁ぎたかったらもっと必死になれや~と」「そんで試合う俺も不利な状況で君を負かしたら、それに勝った時の価値が大きいつうもんや」

という感じです。

※8
範馬 刃牙と同じ構えです。

※9
 女性が海にしか入れない世界だけに女性の社会進出が進んでいたこの世界。葦原中津国も史実日本程に女性の社会的地位が低いことはなかったし、家庭が亭主関白ばかりではなかった。女性が働きに出て、男性が専業主婦という家庭も当然あった。(※ただし、社会的には主流ではなかった。)これは女性が働いて稼げば家庭内での夫とのパワーバランスが対等になるからである。当然、女性の賃金は男性と同等であったし、夫が粗暴で家庭を蔑ろにすれば妻が愛想を尽かして子どもを連れて出て行き、一人で子を育てる(※女性への社会補償は手厚かった)、なんて事態も珍しくなかったので、男性側はジェントルマンに振る舞うことが基本とされていた。しかし、男性が働きに出て女性が家庭を守るスタイルは史実同様、家庭の基本スタイルではあった。

 世界各国では女性が政治家や軍人として働いているのは当たり前だった世界ではあるが、如何せん、葦原では陸において男が主導権をもってきたという歴史的背景があったのである。これは幾ら女性が海に入れても人間が陸地で生活を営む生物である以上、力仕事関係で男性側に軍配が上がってしまうからだ。人が海に出ても最後は陸に戻ってくるものなのである。(そもそも海に比べて陸地の方が職業が多い。女性は海に入れる=あらゆる分野においてアドバンテージがあるという単純な社会の方程式が成り立つ訳にはいかなかったのである。) しかも女性は結婚すれば、妊娠・出産による休職という制約があった。子どもも一人二人ではなく沢山もうける必要があった。20世紀以前は乳幼児の死亡率や成人するまでの病死率が高く、一人二人ではお家断絶という事態もあり得た為当然と言えば当然であった。(※鬼滅の刃の主人公の家庭を見れば分かるかと。)そして、葦原は歴史的に政治・軍に携わってきた女性政治家及び女性軍人の殆どが保守的であった。革新的改革を行うのは男性政治家・男性軍人が多かったのである。

 こうした観点もあり葦原社会は必然的に男性が働きに出て、女性が家庭を守り子育てを行うことが一般的な考え方になってしまっていった。20世紀において結婚した女性が子どもを産むことを社会が一般的に期待していたのである。しかも、女性が結婚せずに生涯独身であることは、一般的には「恥」とも考えられていた。結果的に女性が結婚し家庭を持つことが重要な役割とされていたのである。(尚、葦原では史実にあったような「結婚十訓」のスローガンや「国民優生法」が制定される等といった事態まではいっていない。)

 実はこうした葦原人女性の社会裏事情が……将和への恋慕が一番の動機だが……今回のような彼女が行動を起こした背景にもあったのである。というのも、葦原中津国ではこの時代は(意中の殿方が居り若年期に結ばれなければに限るが)成人してお見合い結婚するのが主流だったからである。(※海軍乙女等の職業歴も言ってみれば、良家の相手とのお見合いをする上で、女性の一種のステータスになっていた。)であるが故に五十子たちが恋愛結婚への願望があり今回事に及んだというのは否めない。

※2の答え。

尚、草鹿は将和が死後転生してきたことを知っているので、前世があることは知っているし、結婚していたことも知っていった。しかし、その奥さんが剣に強かったのには初耳だった。




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