『飛行場に格納庫、そして二機の零戦……この時点で誰か想像がつくな』クスッ
草鹿との〝男女の嗜み〟を終えた将和は一眠りついた後に、開いていたスキマから次の世界に来ていた。(三回目)※
そこは広大な滑走路が地平線の彼方まで続いていた。
「待ってたで、長官!」
「ワタルはお前だったか、淵田!」
零戦の横にはパイロット服を着た淵田が立っていた。※1
「長官、大体はもう理解しとるやろ? うちとは模擬空戦で白黒つけて欲しい」
「君が5人の中に居ると予想した時から、こうなるんじゃないかと思ってたよ、淵田」
「ふふふ……あんさん、この3日でぎょうさん女性と楽しんではりますけど……いきってふぬけとりまへんか?」ニヤニヤ
淵田のからかいに将和も応える。
「それを君自身で直接確認してみたらどうだ、いろいろ、とな。少なくとも俺は君と当たるのを楽しみにしてたんだぜ」ニタァ
「へっ? うちと当たるのを待っとった?」
「ああ。君なら必ず空戦で勝負を挑んでくると思っていたからな」
「ほぇー、てかうちが居ると確信してたんですか?」
「そりゃ、大和であんなに熱い視線を向けてきてたんだ。流石の俺でも気付くぞ」
「マジで!? うち、そんなに分かりやすかったですか?」
そう言うと、淵田は顔を片手で覆い隠した。
「そう言えば、あの時はお酒が進んでて多少気が緩んでいたかもしれない」と感じたのである。
ふと、淵田は将和の左手に視線を落とすと自身が送った腕時計が垣間見えた。
「それ、つけてくれてはりましたん?」
「ん? ああ…君から貰った腕時計だからな。愛用させて貰ってるよ」
「いやー、でもそれは搭乗員のみんなで集めたお金で購入したもんで」
「だけど、君が選別したんだろ?」
「な、なんでそのことを!?」
「板谷が言ってたぞ」
「あのアホゥ~」
淵田はガックリとした。
「ホンマはもっと別なモン探してはりましたんですけど、どうもうちそういうの他人とのセンスがずれとりまして」
「ふーむ? 他に何を考えてたんだ?」
「ええ。阪神の『24金コーティングラインストーン バックパック』とかですね。ホンマはそれを渡すつもりやったんですけど、板谷等は最後まで反対したんですよ」
「ああ……君がチャーミング過ぎるからだよ」※2
「う、うちがチャーミング!? 嘘言わんといてください……」
「関西人は冗談は言っても嘘は言わない。知ってるだろ」
いつもは眼を瞑っている位の糸目の淵田だが今は両目を開いて将和を見つめた。その表情に将和もフッと微笑むのである。
「…………///」
『な、なんやろか。長官、やけに押しがつよおないか///』
笑顔を見せる将和に淵田は顔を赤くする。本来は自分が押し倒すくらいの勢いでいくつもりだったのに、反対に自分が押されている状況に困惑してしまった。
「いやー、そんな風に言われたらこっちもホンマか冗談かの判断が出来ん言うか」
「君が俺をその気にさせたんだぞ」
「えっ?」
「ミッドウェーでは俺の為に怒って神を蹴散らしてくれたそうじゃないか。体調も悪いなか。そこまでされて何も思わない振りをする程、俺は薄情にはなれねぇ。ずっと気になっていたんだ。こういった場を設けてくれた以上、俺も君には真摯に向き合いたいと思う」
「……あ、あはは……そう言ってくれると、こっちも冥利に尽きると言いますか……」
「好いたらしいわぁ」そう遠回しに言われている気がして、淵田はなんとも言えない幸福感を包まれ、両手を両頬に当てる。
「…………どうしよう、あんさんにそんな風に思われてたのが凄い嬉しい…………///」
「俺と君は…どこか似てるからな。なんとなく分かるんだ」
「長官……」
「今夜は…覚悟しておくんだな」
「うぐっ」
本気とも冗談とも捉えられるような言い回しで、相手を翻弄するのは関西人の基本である。※3
しかし、どちらの意味であっても淵田には大きく応える告白であったのである。
「これを本気と取るか、冗談と取るかは……君に任せる」フッ
「たはは……これは……一本、取られましたわ///」
淵田は顔を真っ赤に染めて悶える。
二人の間になんとも甘い空気が醸成されつつあったが、
「く、空気が甘い!」
「二人だけの世界がこの世界に広がっていってるわ!」
「ねぇ、長官と隊長の二人とも私たちが居るのを忘れてない?」
「それね」
「……ところで、お前らも居たんだな?」
ふと、将和は後方に控えていた板谷達に顔を向ける。
「あはは。いやー、なんてったってね」
「三好長官と淵田さんの一騎打ちとあっちゃ」
「これを見たいと思うのがパイロット魂ってもんですよ」
「うむ」
「私たちは機体の整備や試合の判定等を行いますので、お気になさらず」
この場に淵田と将和以外にも板谷、江草、村田、友永、高橋等の隊長格搭乗員達が勢揃いしていた。
「あの……ひょっとして迷惑でしたか?」
最年少の納見が控えめに尋ねた。
「いや、少し意外だっただけだ。せっかくだ、後学の為にもよく見ててくれ」
将和の返答に皆「はい!」と言って、笑顔で頷いたのであった。
◇
「ではいっちょ」
「やりまっか!」
〝にいっ〟とお互いに笑いあうと、お互いに零戦の操縦席に乗り込んで各種点検を行なった。
「「コンターック!!」」
既に暖気運転はさせていたので二機の発動機は一発で始動する。
「お気をつけて」
「おう」
「ほな、ちょっくら行ってきますか」
「チョーク外せェ!!」
板谷達がチョークを外したのを確認すると将和と淵田の零戦は飛行場から発進した。
将和と淵田は高度4000に上昇すると模擬空戦をはじめた。
「先ずはお手並み拝見や、長官!」
最初に仕掛けたのは淵田の方である。
機体を左急上昇させると捻り込みを掛けた。※4
海軍戦闘隊のお家芸である。
「ふっ……!」
対峙している将和は不適な笑みを浮かべると、エンジンを全開にする。
『すり抜けられたか! このまま回転したら逆に後ろを取られる……』
淵田機が左捻り込みに入ると見た将和は、これをやり過ごすために機体をフルスロットルさせることで、やり過ごした。淵田はこのままだと三好機は旋回して、捻り込みを終えて下りて来る自機の背後を取れると瞬時に判断した。
「なら!!」
次の瞬間、淵田は機体を宙返りの頂点から逆落としに右へ切り返し三好機へついていこうとしたが
「よんでたぞ、淵田」
三好機は上昇軌道へ入り難なくやり過ごした。
「アカンな。完璧に遊ばれとる。先手を譲ったんは、ウチを試しとったんかいな、長官……」
余裕で此方の攻撃をいなした将和に淵田は嘆息し笑った。
『やっぱり、領域が異なる。いったいどれだけ奥底に秘めとんや、長官』
「今度はこっちから行くぞ、淵田!」
淵田機と十分に距離を引き離した将和は水平急旋回で切り返し淵田機へ突っ込んで来た。
「うおっ!?」
淵田は瞬時に操縦桿を手前へと引いた。
予想以上の速度で三好機が接近してきた為、急いで捻り込み回避を行なったのだ。
「うっぬぬぬ……!!」
急激な機動には相当なGがかかるため、淵田もキツかったがやらないとやられるので耐えた。
「躱したか…」
今回将和は零戦には馴染みがない上昇軌道からの旋回による一撃離脱戦法を実施した。
それだけに不意打ちとなったが、淵田は反応速度がよく躱しかつ追撃を仕掛けてきたことに感心した。
「よっしゃ! 後ろを取ったる!!」
この様子を下から観戦していた板谷達は手に汗を握っていた。
「おお! まさか長官、ゼロで一撃離脱戦法を仕掛けるなんて!」
「淵田さんが捻り込みを仕掛けた!」
「長官機の後上方に食いつくつもりだわ!」
「これは勝ったかも!」
「いや。あの人ならおそらく……」
「そうはいくか!」
ーーー急降下で躱すだろう。
そう言い終わらぬ内に将和は操縦桿を前に倒す。
淵田が捻り込んで三好機の後上方に食いつこうとした時には、三好機は全速で左急降下を行ない追撃を躱していた。
〈やりますね、長官!〉
〈淵田こそ、こんなに心躍るのは久しぶりだ!〉
〈ウチもです!〉
無線でお互いに軽口を交しあう。
パイロット同士、空戦を通じて意気投合していた。
そこには上司と部下という枠を越えた二人の絆が芽生えていたのである。
「なんて手に汗握る模擬戦なの!」
「すごい……」
「うむ」
「いい戦いぶりだわ!」
「五四型零戦だからこその、急上昇・急降下に取り入れた縦横三次元運動ね!」
『お互いに相手の一手先をよんで行動している。なら読み間違えた方が負ける……!」
板谷達も二人の戦いに食いついてみていた。
〈勝負だ、淵田!〉
〈負けませんで、長官!〉
二人は同高度で向かい合う。
「よーそろーっ!」
先に仕掛けたのは将和だった。
淵田機の前で左上昇捻り込みに入ったのである。
『仕掛けに出たな』
「ならこっちはインメルマンや!」※5
淵田の方は右逆上がりに回り込んだ。
『こっちが宙返りをしたら左捻り込みを繰り出して宙返りが終わる瞬間にこっちの内側に滑り込んで後ろを取る算段なんでしょうが』
「その手には乗らへん!」
この時、淵田は三好機がこのまま左捻り込みによる宙返りの後半降下を続ければ機首が自機と逆向きになると予想し、高度をかせいで上空からの切り返しで勝負を決めようと踏んでいた。
この彼女の考えはおおよその搭乗員相手ならその狙いに的を得たであろう。
相手が並の搭乗員ならばだが……
『よし、切り返し完了や! これで長官機の尻尾が前方に見えるは…ずーーー』
「甘いな、淵田!!」
「な!?」
淵田は驚愕した。
予想に反して切り返しを終えた段階で三好機の機首が後ろに見えたからである。
何が起こったのか? 淵田はこの時になるまで気付けなかった。
「え、エンドロール!?」
「うまいわ!」
「淵田さん、死角だから気付いてないわよ!」
『あれなら高度が若干落ちても速力を低下させずに淵田機の後方やや遠くから追尾する態勢にできる!」
「っ……!」
「っ!」
事の真相を観戦していた板谷達は知っていた。
淵田機が逆宙返りを行った時、将和は淵田の狙いに気付いて変則技を仕掛けたのがはじまりだった。
ここで将和のパイロットとしての真価が発揮された。
なんと宙返りの頂点から機体を横転させて、機首を方向転換させたのである。※6
これにより高度が若干落ちるが機体の速力を低下させることなく、淵田機を後方やや遠くから追尾する態勢に持って行ったのである。
『しもうた! こっちの狙いを見破ってたんかいな、長官!』
気付いた時には手遅れだった。
三好機はエルロンロールから急旋回に入って、淵田機の後ろに食いつこうとしていた。
『こうなったら後ろの取り合いや! やけど、格闘戦はウチにとっても十八番やで!』
淵田は機体を左旋回させる。
たちまち三好機と淵田機は交互に旋回しあいながらお互いに後ろを取ろうとする。
格闘戦である。しかし、淵田が十八番な様に将和にとっても十八番であった。
「っ、まずい!?」
「後ろをとったぞ、淵田!」
「そう簡単にウチはやられへんで、長官!」
たちまち淵田は機体をロール※7させて三好機の射線上から外れるように操縦する。
しかし、将和は落ち着いて照準に入るチャンスをうかがった。
「決まったわね」
「ええ。ああなると旋回性能が互角でもパイロットの腕がものを言うわ」
「長官機が淵田さんの機を射線に捉えました!」
ドドドドドド!
板谷達が視界の先で三好機から放たれたペイント弾は見事に淵田機に命中していた。
かくして、模擬空戦は将和の勝利で終わりを告げたのである。
◇
「いやーお見事。負けました。完敗です」
「いや、こっちも久しぶりに胸躍る空戦だったよ」
模擬戦を終えた後に降りてきた二人は共に向かい合っていた。
板谷達は機体を格納庫に収納していってこの場には居ない。※8
将和は真剣な表情で淵田を見据える。
「淵田」
「は、はい」
「俺の答えは既に君も知っての通りだ」
「え、ええ///」
「だが、本当に俺で良いのか? 今は状況的に海軍の提督を務めてるが、時勢が落ち着けば俺は海軍を去ることになるだろう。そうなれば俺はただの平凡な一般人だぞ」
「…それがどないした言うんですか」
淵田も真剣な表情で将和に返す。
「うちはあんさんに惚れたんや。提督としてのあんさんの姿を憧れたのもあるけど、決め手は男をみしてくれたとこにうちは惚れ込んだんや。自信持ってください」
「……っ……ははは……信じてない訳じゃなかった。だが、敢えて聞いときたかったんだ」
「みんな、同じ回答やったんじゃないですか?」
「ああ。みんな、同じだった。本当に男として冥利に尽きる……未央」
「はい……ん、ぅ……」
将和は淵田を引き寄せ、唇を重ねた。
それは彼女にとっては初めてのキスだった。
「ん……」
ディープではないが、ただ彼女のふっくらした唇に自らの唇をぴたりと重ね合わせ続けた。
「ふ、んぅっ……む……」
そのままあえて動かずにいることで、ゆっくりと彼女に彼の唇の温度を染み渡らせていく。
「……ふぅ、ぅ……ん」
腕の中で、淵田が次第にくたっとしてくる。
「んっ……ん……」
胸を高鳴らせながら、将和は少しずつ、淵田の唇をついばみ始めた。
「ん、ぅ、ふっ……ん、ん……んっ、んむ、んっ……んっ……」
淵田の唇も、やがて恐る恐る応え始める。
静かにでもお互いについばみ合うことで、唇の熱さと柔らかさが、桁違いなくらいに感じられた。
「んっ、んっ……んぅ、ちゅ……ふ……」
淵田は将和とキスしてることで、高揚と空気不足から頭の後ろがしびれるようだった。
「んんんぅっ……」
ぎゅうっと、淵田の腰のくびれをさらに抱きしめた。
淵田は吐息と共に震えて、背中を反らす。
「ふ、んぅっ……んっ、んっ……」
唇が熱心さを増す。
宙に浮いたままだった指先が、そっと将和の胸板に重ねられてくる。
その反応は嬉しさ。初めて知る、キスの心地よさだった。
あまりに長く、将和たちは唇を重ね合わせ続けてーー
「は……ぁ……はぁ……ぁ///」
離れたときには、淵田は体の力を抜いて将和に預けてきた。彼の腕の中にいる淵田はぷるぷると震えて、小動物のようになってしまっていた。
将和は抱いた手を少しゆるめながら、胸を高鳴らせて、彼女の潤んだ揺れる瞳をのぞき込む。
「未央……」
「あ、あの、あのうち、申し訳ありません……」
「ん……?」
「口づけ、初めてで、つたなかったやろし、そのっ……」
「…………」
「あッ……」
びくんっ、と淵田は硬直する。
気がつけば、自身が将和にお姫様抱っこをされていたからだ。
「一つだけ君に嘘をついていたことがある」
「えっ?」
「俺は冗談が嫌いなんだ。だから、最初の発言には冗談は含まれていない」
「長官……」
「今夜は付き合ってくれ、未央」
「……こうして抱かれるのは二回目ですね」
そう言うと淵田も将和へと両手を回す。
「私もさっきキスされた時から昂ぶって仕方ないんですよ。だから……この昂りを沈めては貰えませんか///」
「喜んで」
その日の夜は淵田にとって生涯忘れ得ぬ一夜となったのである。
「いやー、にしても長官達の腕前もさることながら、五四型零戦の性能はやはり素晴らしいわね」
「うんうん」と皆、板谷の言葉には頷いた。
「あれだけの機動を行なおうとすれば、それに応えてくれる機体がなければよね」
「そうね。ところでさ、登子さんから頂いたこのF6Fっていう美軍の次期主力戦闘機の資料、見てみたんだけど五四型と同等か多少ゼロの方に軍配が上がってたのよね」
「それは本当ですか!?」
板谷が資料を掲げながら言った言葉に納見が反応する。
「うん。流石長官の世界の航空機だわ。敵の次期主力戦闘機とタメをはれる性能を有してるんだもん」
「それはすごい……だが、私も資料を拝見したが美軍は光文20年頃にはF8Fなるバケモノ戦闘機を開発するのだろう? さすがにもしも読んだ性能どおりな機体を繰り出してくれば零戦を含めて陸海軍の主だった戦闘機は歯が立たなくなるだろう」
今度は友永が反応する。彼女達航空隊長格の人間は将和の正体を教えられている選ばれた者達でもあり、史実米軍の資料を提供されていた。その中で今後の戦いで海軍搭乗員達はどのように相手と空戦を戦っていくかの研究も同時に行なっているのである。
「そうね。だからこそ、はやく後継機たる『烈風』を開発して欲しいのよね。彗星や天山は開発の目途が立ってるらしいんだけど、2000馬力級のエンジンを必要とする戦闘機だけは、我が国はエンジンを取り揃えるのに苦労してるみたいだし」
「に、2000馬力!? それは凄いですね。一体、『ゼロ戦』を凌ぐ『烈風』とはどのような性能なのですか?」
納見は興奮気味に聞いた。実はこの中で彼女だけは詳しい資料を見ていなかったからだ。とは言えだ。
ーーー五四型零戦だけでも自分の目から見て開戦前から海軍が保有していた戦闘機とは一線を画する性能を有しているのに、海軍の次期主力艦上戦闘機『烈風』なる機体はいったいどのような性能を有する機体だというのか?
これが彼女の抱いた思いであった。
「えーと、今どのように一七試艦上戦闘機の開発が進められているかは不明だけど、取り敢えず『烈風一一型』の資料によると……正規全備自重 4719キロ。最高速度が高度6000メートルで時速626キロ、上昇力が高度6000メートルまで6分で、航続距離が1960キロほど。武装が主翼内に20ミリ機銃機四艇とあるわね」
「えっ?」
「はっ?」
「へっ?」
「うん?」
「ほぇ?」
板谷の発言に納見、友永、村田、江草、高橋の五人全員が疑問を抱いた。
「な、なに?」
「それって五四型とそんな大差あるんですか?」
「それではF6Fと並んだ程度の性能ではないか」
「機体速度も上昇能力もF8F以下じゃない」
「陸軍が開発してる四式戦闘機とかいう機体は最高速度655キロ、上昇力が5000メートルまで5分弱とか資料で書いてましたけど……」
「で、でも烈風と疾風じゃあ、艦載機と陸上戦闘機の違いがあるし。それに烈風は零戦の弱点を補うために作られた機体設計だから、より高い防御力と強力な武装を持ってはいるから、これはこれでありなんじゃ」
「では、グラマンより急降下に於ける加速性能は優れているんですか?」
「二一型ゼロ戦は、時速640キロ以上の急降下を行なえば空中分解してしまう機体強度だったわ。五四型で790キロまで耐えられる設計だけど、アレほど高品質な機体を今の葦原が再現するのは難しいから、烈風に賭けているんだけど」
「グラマンが800キロ以上の急降下限界速度を有する以上、それ相応の機体強度をもって急降下を行える機体でないと、五四型の後継機とはとても言い難い性能よ」
「そもそも、F8Fと同等かそれに負けず劣らずな性能の機体を開発してくれなければ困る。美軍がF6Fを戦場に投入してきて歯が立たないと分かれば、F8Fの開発を早めて早期に戦場に投入してくる可能性が高いだろうからな」
「そうなったら烈風は時代遅れな機体となるわ」
「そう、よね……」
この時、彼女達は『烈風』の真の姿に気付いたのである。
そう。『烈風』とは所詮『3年遅れでF6Fと並んだ機体』『ゼロ戦よりひと回り大きい機体に、ひと回り大きい発動機を搭載しただけの戦闘機』『F8Fは第三世代、烈風は第二世代の戦闘機』でしかなかったのである。
これはつまり葦原海軍が『烈風』を史実日本海軍が要求していたような性能で史実より2、3年早めに完成させたとしても、1945年頃には『時代遅れの航空機』となっている可能性が高いと言うことだった。
この気づきが後の新税航空機開発に生かすことに繋がるとは、この時彼女達は予想すらしていなかったのである。
ご意見、ご感想をお待ちしております。m(__)m