「お待ちしておりましたわ、三好長官」
「やはり最後は君だったか、嶋野」
未央との〝男女の嗜み〟を終えた将和は一眠りついた後に、開いていたスキマから次の世界に来ていた。(四回目)※将和はなんとなく最後は嶋野だろうなぁと見当をつけていた。ふだん姿を見せないからである。
「私とは飲み比べで勝負をして下さいまし」
よく見ると、高級そうな酒類が豊富に並んだ光景が目の前に広がっていた。
「良いぞ」
将和は嶋野の挑戦を即受けた。
「一度こうしてお酒を交しながらじっくりと話をしてみたいと思ってましたの」
「ん…」
将和は上着を脱ぐとハンガーにかけて座る。
将和と嶋野が居るのは、それなりに良い雰囲気のバーであった。
スタイリッシュにくり貫かれた窓枠の外にはうっすらと揺らめく宇宙空間を表したかのような黒模様が広がっていた。
「その……」
「うん、どうした?」
「いえ…上着の上からは分からなかったのですが……意外と逞しい体つきをしているのですね、三好、長官……///」
「そう言えばお互いに制服姿でしか会ったことなかったな」
将和はいつもの海軍制服を脱ぎ、上はタンクトップ姿だった。
対する嶋野は水色のドレスコードを身に纏っていた。
「上着を脱いだ殿方を、こんな近くで初めて見ましたから…少々気恥ずかしいですわ///」
「はは。君の方は予想どおり箱入り娘のようだな」
嶋野は流し目で、上目遣いに将和を見つめると顔を赤らめた。
対する将和は特にふつうだった。
薄闇の中、嶋野は緑色の光を反射し紫のカクテルを光に染めるグラスを手にして微笑みながら囁いた。
「貴方と、私たちの未来に乾杯」
「では俺は、今宵の密会に」
「フフ、お上手ですね…」
将和も琥珀のグラスを掲げる。お互いに一杯、二杯、三杯と飲み交わしていくと、気分が高揚してきた。
『しかし、何と言いましょうか。今日の長官はやけに色気があるように見えるのは酔いが回ってるからでしょうか? それとも……』
嶋野は純粋にそう感じた。来ている服装から肉体美を感じられるのもそうだが、どこかテカテカしていた。嶋野がそう感じるのは勝負内容が飲み比べであったからというのもあるが、何より彼女が最終日であったというところも大きかった。この4日間で将和も色々と磨きが掛かっていたのである。※1
『まあいいですわ。夜は長いんです。じっくりと見定めさせて下さい、三好長官…貴方の器を』
あくまで私の方が主導権を握っているのだ、という自信が嶋野にはあった。
なまめかしく、グラスの中の液体を唇で舐め、飲み干すまでは…
「ら、ら、らからねぇ! 私がどれだけ海相として頑張ってきたかぁ!」
「うん」
「及川ひゃんも酷いんにゃから、土壇場になってわたひに譲って自分は責任逃れするんらからゃぁ!」
「苦労の程、お察しするよ」
『彼女も色々とストレスを抱えてた……いや、心から相談出来る相手が居なかったんだな』
白い肌は赤く火照り、目の焦点さえ合わせられずに酩酊した嶋野が口上をまくしたてる。
胸の谷間まで、アルコール一色に染め上げれてしまった嶋野は、ろれつが回らないながらに日ごろの愚痴を将和に漏らした。
「勝負は俺の勝ちだな」
「長官、今夜は寝かせませんわよ~」
「さすがにこの状態の君をどうこうは出来んな」
「んっ……!」
そう言うと、将和は嶋野へとソフトなキスをする。
「っっっ///」
「今日はここまでだ」
「長官……」
「なんだか無理をしてないか?」
「えっ」
「いや、あくまでそう見受けられるという感じだ」
「……」
「話したくないなら別に構わないが」
「……ますから」
「……うん?」
「わたしは皆さんに比べて一歩遅れてますからぁ」
「遅れてる? 何が?」
「恋愛競争に遅れてるんですわぁ。五十子さん達が羨ましいです、ひっく」
「なぜ?」
「GF長官として三好長官と共に戦場を渡り歩けるから……小澤さんも、草鹿さんも、淵田さんもあなたの隣に並んで立つのに相応ひくて……!」
「……」
「だから恋敵になれない。こういった機会でもない限り長官とは仕事仲間の枠でしかいられない」
酔いの回っていた嶋野は心の内を曝け出す。
「私だって出来るならあなたの隣に立って共に海に出たいんでしゅのよっ」
ビシッ!
大胆にも将和に体を寄せながら宣言をする嶋野。
ほとんど露わになった乳房を縁取る金の細工が嶋野肢体の美しさを際立たせる宝石のようだった。
『ようやく合点がいったな』
そう将和は思った。将和は嶋野自身がこういった場を設けたにもかかわらず終始他の面々に比べ慎ましい言動をとっていたことに釈然としていなかった。要は彼女は〝海軍乙女〟として自身の相手に相応しくないという後ろめたさを感じていたのだ。五十子達が海軍長官、海軍乙女としてではなく男・女として受け入れて欲しいといったのとちょうど真逆の形である。そして嶋野の悩みもまた女としての維持であり、プライドの問題でもあった。ここでもし仮に将和が嶋野の告白を受け入れて個人同士で恋仲になったとしても、後々に五十子達と自分を比べて後ろめたさを抱いてしまうだろう。
そんな彼女の心境は将和も理解できた。
「…なら共に来れば良い」
「…へっ?」
ポカンと嶋野は呆気に取られる。
「君さえ良ければ艦隊参謀として俺の元に来てくれないか? どうせ海相を離れてフリーだろう?」
「で、ですが私は」
「元海相だろうと元帥だろうと艦隊勤務をしたらダメだという決まりはないだろう。地位の問題について言えば俺だって元帥の位から期間限定の特別降格人事で大将として艦隊指揮を担っているんだ。既に例外はある。要はお前次第だぜ」
嶋野は目を見開くと次の瞬間には笑みを浮かべる。
「良いんですの? いえ、良いんですよね!」
「ああ。自分が納得できるまで…俺と共に戦ってくれないか」
「はい! 長官、私があなたに相応しい女になってみせますわ! その時は是非!」
「んっ……」
そう言うと再びお互いにキスを重ね合った。
宇宙の星々に照らされた中で、二人の姿は一番星の輝きを放っていたのであった。
…こうして、将和を巡る女性たちの攻防戦はひとまず終結したのだった。
「誕生日プレゼントは、わ・た・し、作戦は如何でしたか!」
「…………まあ、なかなか楽しかったよ」
『やっぱり入れ知恵してたのはお前だったか、登子……』
そう思う将和なのだった。
分かる人には分かる小ネタ
登子「私たちはいつも将和さんに憧れております。でも今日は憧れるのを辞めましょう。憧れるのを辞めて勝ちに行きましょう!」
五十子、智里、峰、未央、嶋野「「「「「おー!!!」」」」」
将和「勝っても負けてもみんな得するやん……」