葦原軍は美鰤陀国への宣戦布告に伴い、真珠湾への奇襲攻撃と同時にマレー半島への奇襲上陸を敢行した。
制空権を握るために一番最初にコタバル飛行場へ上陸したのは侘美浩少将の指揮する歩兵第五六連隊である。
主隊となるのは山下奉文中将の指揮する第二十五軍であり、コタバル上陸から2時間後には北方に数十隻の輸送船団を伴う攻略本隊が次々に強襲上陸した。
これを支援するのは南遣艦隊である。
【南遣艦隊/馬来攻略部隊】
司令長官 長谷川清大将
同参謀長 南雲汐里中将※
独立旗艦・空母「赤城」
付属軽空母「祥鳳」「瑞鳳」「蒼鷹」 ※1
第七戦隊 司令官 栗田華扇少将
重巡「最上」「三隈」「鈴谷」「熊野」
第三水雷戦隊 司令官 橋本神奈子少将
軽巡「川内」 駆逐艦15隻
第四潜水戦隊 司令官 吉富子鈴少将
軽巡「鬼怒」 潜水艦16隻
第五潜水戦隊 司令官 醍醐潤美少将
軽巡「由良」 潜水艦12隻
第二二航空戦隊 司令官 松永萃香少将
(美幌航空隊、元山航空隊)
コタバルではインド旅団が待ち伏せしており、激戦がつづいたが、上陸は無事に成功。山下兵力主力はシンゴラに無血上陸を果たした。
葦原軍の攻勢に際し、ブリトン軍は東洋艦隊の要たる「プリンスオブウェールズ」と「レパルス」を派遣し葦原軍輸送船団と支援部隊撃滅による葦原軍の侵攻を阻止しようとするも…
「長谷川長官、哨戒行動中の伊号潜が敵戦艦を発見したそうです」
「なんて報告してきたんだ?」
「『敵「レパルス」型戦艦二隻見ユ。地点「コチサ」一一針路三四〇度 速力一四節 一五一五』…ちょうどマレー半島プロコンドル島の196度225浬の位置です」
南雲の報告に『史実どおりだな…』と長谷川は思った。
「それにしても『赤城』が南下してきてるのが分かってる筈なのに空母を護衛につけてないなんて」
南雲は鰤戦艦が空母の護衛をつけていないことに怪訝な表情を浮かべる。
史実を知ってはいるが、今世界では空母『赤城』はヴィンランド側にハワイ攻撃を悟られない為に敢えて南下している情報を流している。
当然、ブリトン側も察知することになるから空母を護衛につけてくるかもしれないと考えていたのであるがどうやら史実どおりに動いてきたようであった。※2
「それだけ航空機の真価を正確に理解していないと言うことさ。海軍も史実ではミッドウェーで負けるまで空母の増産を計画してなかったからな」
長谷川がそう答える。まだ今の段階ではヴィンランドとブリトンは空母の真価を正確に把握していない故に生産体制や戦略等において従来の戦法通りに行動してしまうのだから、ある意味仕方なかったのかもしれない。
将和達が未来情報を伝えなかったら葦原海軍もそのように行動したかもしれなかったので、早い段階で未来の知識を得た影響は戦艦や空母の提供よりも計り知れない利益であったと言えるだろう。
「先手必勝だ。母艦機を鰤戦艦に当ててやるんだ!」
「了解!」
こうしておよそ数十分後、「赤城」「祥鳳」「瑞鳳」「蒼鷹」の飛行甲板にはそれぞれ攻撃隊の発艦準備が行われた。
「総飛行機発動ォ!!」
「チョーク外せェ!!」
「攻撃隊、発艦用意宜し!!」
「攻撃隊、発艦はじめ!!」
チョークを外された一番先頭の零戦が発艦していく。続けて艦爆、艦攻の順に上がって行ったのである。
「帽振れェ!!」
攻撃隊は編隊を組むと、南の空へと遠ざかっていく。
攻撃隊の陣容は以下のとおり
南遣艦隊攻撃隊/攻撃目標・鰤戦艦
空母「赤城」 零戦9機、九七艦攻27機
軽空「祥鳳」 零戦3機、九九艦爆12機
軽空「瑞鳳」 零戦3機、九九艦爆12機
軽空「蒼鷹」 零戦3機、九七艦攻9機
零戦18機・艦爆24機・艦攻36機の計78機の艦載機が鰤戦艦へ向かった。
一方、この時アルトリア・フィリップス中将が指揮する戦艦「プリンスオブウェールズ」と「レパルス」は、葦原軍輸送船団と護衛艦隊を撃滅すべく北上を開始していたが、※3
「80機余りの敵機ですって!?」
「はい、レーダー室からはそのような報告が……」
「シット! 全艦反転!! 対空戦闘用意よ!!」
南雲部隊から発艦した攻撃隊は「プリンスオブウェールズ」と「レパルス」へと襲いかかった。
防空エアカバーを持たない敵艦への攻撃だけに、攻撃隊にとって射程圏内におさめるのは容易だった。
対する「プリンスオブウェールズ」と「レパルス」の二隻は自慢のポンポン砲で対空弾幕を張ったが、葦原軍機はそれをものともせずに接近してきた。
まず最初に仕掛けたのは九九艦爆であった。急降下爆撃により敵艦艇の対空火器を黙らせてから、後続の艦攻による魚雷攻撃で仕留めるのが、攻撃隊の算段であった。
果たして「プリンスオブウェールズ」と「レパルス」の二隻は、それぞれに250キロ爆弾が当たったから堪らない。各所の対空砲座が吹っ飛んで敵機への対応が利かなくなった。
特に「レパルス」は艦齢が古い巡洋戦艦なので、たった一発でも爆弾が命中したら痛い打撃となった。それが複数箇所に当てられたからどうにもならない。艦全体が悲鳴をあげたように振動し、速力が衰えた。
そこに九七艦攻が襲いかかってきたので、この時点で二艦の運命は定まった。投じてきた魚雷が片舷に4発命中した「レパルス」は満身創痍となり、テナント艦長は総員退艦を命じ、自らは残ろうとしたが幕僚達に担がれて脱出し味方駆逐艦に救助された。
しかし「プリンスオブウェールズ」では様相が違っていた。
最初の魚雷二発が左舷に命中し、後から三発当てられたことで各所が浸水し満身創痍とはなったのだが、その中の一発が艦尾に命中しスクリュープロペラと推進軸を破壊してしまったことで舵が利かなくなってしまった。
「プリンスオブウェールズ」が沈むと覚悟したフィリップス司令官は自らも艦と運命を共にしようと覚悟していたが、思いもよらずにあらぬ方向へ誤進行していく「プリンスオブウェールズ」の姿に焦燥した。
不幸中の幸いなのはこの時になって葦原軍機が攻撃を終えて引き揚げていったところだが、それでももはや自艦が戦闘可能な状態でないことは火を見るより明らかであった。
気付いた時には艦の前方に陸地が見えてきていた。
「舵は利かないのか!?」
「駄目です。このまま半島に突入しますッ!」
フィリップスの問いに航海長は悲痛な返答で返す。
果たして「プリンスオブウェールズ」はそのままマレー半島の東岸へ突っ込み座礁した。フィリップスは固定砲台としてせめて敵軍の進撃を遅らせられないかと考えたが〝流石に無理だろう〟と悟り総員退艦を命じた。
死に場所を得られなかったフィリップス達はやむ無くマレーへ上陸し鰤陸軍との合流を計ろうとするも、上陸した場所が未開の地であった為彷徨い歩いた。
そして、予想以上に早くマレー半島を横断してきた葦原陸軍と遭遇。この時彼女達は何日間も飲まず食わずで疲弊していた為、戦う気力もなく手を上げ降伏したのである。
こうして、フィリップスの軍人生活は事実上ここで幕を閉じた。後に本国へ帰国した彼女は再び軍役に就く事はなかったのである。
◇
同日ウェーク島方面
【ウェーク島攻略部隊】
第一艦隊司令長官 高須魔理沙中将
独立・旗艦「陸奥」
第六戦隊 司令官 五藤衣玖少将
重巡「青葉」「衣笠」「古鷹」「加古」
第六水雷戦隊 司令官 梶岡女苑少将
軽巡「夕張」 駆逐艦20隻
第五航空戦隊 司令官 原瑞霊少将
空母「翔鷹」「瑞鷹」「大鷹」※4
支援航空戦隊
第二四航空戦隊 司令官 後藤小傘少将
(千歳航空隊、追浜航空隊)
軽空母部隊による航空援護と秋月型駆逐艦による電探探知によって、反撃に出てきた美航空機を全て撃墜した葦原海軍は、航空攻撃によりウェーク島基地飛行場を真っ先に破壊した後、艦砲射撃を敢行した。※5
「よーし! 撃ち方はじめ!」
恋符「マスタースパーク」さながらの砲弾がウェーク島の美海兵隊守備陣地に飛来する。
ウェーク島の航空戦力撃滅を確認した攻略部隊指揮官の高須魔理沙中将は自らが乗る戦艦「陸奥」を先行させ、二万メートルの沖合から艦砲射撃を実施したのである。この砲弾の炸裂によって海岸砲が空高く吹き飛び、各所にクレータを現出させた。
戦艦「陸奥」の艦砲射撃から数時間後、
「長官、ヴィンランド軍が白旗を掲げました!」
「陸戦隊の上陸前にヴィンランド軍の戦意を奪えたか。戦艦もまだまだこの戦争に捨てたもんじゃないんだぜ!」
初日の戦闘で飛行機全部を失い、「陸奥」の艦砲射撃で高角砲と野砲のすべてを失ったヴィンランド軍は、美海兵隊指揮官カニンガム中佐の判断によって、これ以上の抵抗は無駄と悟り、白旗を掲げたのである。
12月11日、葦原軍陸戦隊が上陸後、ヴィンランド軍は武装解除しウェーク島は攻略完了したのである。
また同じ頃、葦原軍はグアム島も無血占領に成功したのであった。※6
空母「赤城」【零戦21機、艦爆18機、艦攻27機・計66機】
軽空「祥鳳」【零戦6機、艦爆12機、艦攻9機・計27機】
軽空「瑞鳳」【零戦6機、艦爆12機、艦攻9機・計27機】
軽空「蒼鷹」【零戦15機、艦爆18機、艦攻18機・計51機】
史実ではウェークの戦力をあまく見た海軍が用意した攻略部隊は貧弱な戦力であった為に、米軍の抵抗に遭い駆逐艦二隻を喪失し撤退した為、一次攻略作戦は失敗。真珠湾攻撃より帰投してきた二航戦を12月21日の二次攻略に当てて3日後に攻略を完了という、緒戦における日本側唯一の敗北を喫した戦いとなった。
しかし、本世界では葦原海軍はウェーク攻略に際して戦艦「陸奥」に、軽空母部隊を当てて挑んだため、その様相は変わっていた。
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