MI作戦を終え内地へと帰投した将和は停泊しているGF旗艦「大和」に赴いた。
「神がいないようだが……?」
作戦室を見渡すと集っていた提督、参謀の中に神の姿はなかった。
「過労で倒れたみたいでね、MI作戦で張りきり過ぎたんだと思うよ」ニッコリ
「……そうか」
良い笑顔で言う五十子と視線を逸らす周りの雰囲気に何かを気付いた将和は、それ以降は口にしないようにした。
「攻略したミッドウェーは飛行場が稼働するまで第二艦隊に防空を任せます」
「うむ。ハワイからの航空攻撃を撃退するためにも順次ローテーションで艦隊を防備につけとく必要があるだろうな」
「けど敵艦隊を降伏させた今、ヴィンランドも直ぐに攻勢には出て来れないだろうぜ」
「ですね。その間にハワイ攻略に向けて安心して準備に取り掛かれます」
「憶測で判断すると足元をすくわれるぞ。奴等の事だ、やろうと思えばブリトンから空母を借用もできるし、巡洋艦を改造して空母を即時揃えてくることだってあり得る」
「はい。油断はできませんからガダルカナル島の飛行場建設を急がせてます。7月中には航空隊が進出する予定です」
「外南洋部隊も……創設する……予定」
「……抜かりなさそうだな」
「『大鳳』と『神鳳』の被害状況はどうなってますか?」
「二隻とも中破。厚い装甲で爆弾を弾いたからこの程度で済ませられた感じだな」
「すぐに戦列復帰できそうだな」
「鹵獲した空母も……戦力化されたら……ハワイ攻略、楽になる……スピー……」
「……実は起きてるんじゃないか、黒島」
皆の内心を代弁するように寝ながら答えている黒島に宇垣がツッこむ。
「はは、あっそう言えばAL作戦だが、零戦の鹵獲は大丈夫か?」
「攻撃に飛び立った機の喪失は数機の艦爆・艦攻だけですので大丈夫です」
史実同様ミッドウェー攻略前に、葦原海軍はダッチハーバーを空襲しアッツ・キスカ島の占領に成功していた。史実ではここで不時着した零戦が捕獲されて解析されたことによって、米軍は零戦に対する有効戦術を見出すことになったが、今回はAL作戦に際して零戦の未帰還は無かったので捕獲自体はまず無かったと判断して良いだろう。現に美軍は零戦との戦いに今後も苦戦していくのである。※
「それは良かった。ま、問題は……」
将和はそう言って指揮棒でトントンとガダルカナル島を指した。
「此処をヴィンランドが来るかどうかだな。来なければそれに越したことはないが、攻めてくればそれに対応して動いていかなければならないだろう」
「ハワイ攻略の為になんとしても泥沼化だけは防がないといけないね」
五十子の言葉に皆が頷いたのである。
この後の検討会では、ミッドウェー海戦時における急降下爆撃による被害を鑑みて、「出雲」艦長の松田大佐に書いて貰った爆撃回避法や弾幕射撃の操艦マニュアルを各艦の艦長、船長クラスも目を通すように布告させること等を取り決めたりするのであった。
その日の夜、将和は翌日に東京に向かうために準備をしていた。そんな時に扉をノックする音が聞こえた。
「開いてるよ」
「私です、長官」
「五十子……?」
訪ねてきたのは五十子だった。取り敢えず将和は五十子を椅子に座らせてお茶を出す。
「どうしたこんな時分に?」
「三好長官、この度は海軍を助けて頂き真に感謝に絶えません」
五十子は将和に見据えると頭を下げた。
「五十子……?」
「私たちの不始末を危ない橋を渡って拭ってくれました。愛想を尽かしてもおかしくなかったのに。このご恩をお返しさせてください。なにか願い事がありましたら、可能な限りで叶えさせて頂きます。ですからどうか、これからも私たちと共に歩んでもらえませんか?」
「………………………」
将和は無言で立ち上がると椅子に座る五十子に近づき……額にデコピンをしたのである。
「あいたッ!?」
「ふー、あのな五十子……俺はただ単に海軍を助けたわけじゃないぞ」
「………?」
将和の言葉に五十子は首を傾げる。
「お前が葦原の未来を憂慮して啼いていたからだ」
「………………」
将和らと接触して歴史を知ってから、宇垣や黒島達は葦原の未来に涙を流した。だが五十子は泣いてはいなかった筈だった。
「心が啼いていた」
「ッ」
その言葉に五十子の瞳が揺れる。確かに五十子も泣きたかったが自身は聯合艦隊司令長官の身であるがため、泣く事は耐えていた。それを将和は感じ取っていたのだ。
「自分の為ではなく、誰かの為に啼いていた……俺はそんなお前を信頼して手を差しのべた。後はそれをどう活かすかはお前次第だったが……ちゃんとお前はやれていたよ。良くやったな」
「……三好長官……ッ!?」
将和の言葉に五十子は堪えきれなくなり大粒の涙を流していく。そんな五十子に将和はゆっくりと抱きしめて頭を撫でる。
「俺も君の立場を知ってるが故に共感している。軍人としての職責と個人としての葛藤、司令官としての孤高さ。俺も昔そうだった。まあ、そんな時は夕夏たちに支えて貰ったもんだが」
「……そうなんですか?」
「あぁ。だから俺と君は似た者同士だ」
そう言って将和は前世での出来事を五十子に話す。話を聞いた五十子は笑みを浮かべた。
「フフ、仲良かったんですね。凄いなあ、夕夏さんって人…………私もがんばらないと……(ボソッ」
「ああ(最後何ていったんだろ?)」
前半は聞き取れた将和だが後半は聞き取れなかった。それはさておき、将和は五十子に言わなければならないことがあった。
「それと五十子」
「はい…?」
「男に対して〝何でもする〟というのは無用心だぞ。そう言うのは惚れた男を堕とす時に使う切り札だ。不用意に使うんじゃないぞ。自分は大切にしないと」
「…………」
まさしくこの時まで将和は五十子に対して〝女の子〟として見ていたのである。
「なら三好長官、私の〝女〟としての覚悟を貴方に伝えるね」
「ん……?」
そう言って五十子は立ち上がると将和の唇にキスをする。一瞬の事であり将和は唖然としてしまい、やった本人は気付けば顔を真っ赤にしていた。
「……そ、それじゃ!!」
そう言って五十子は一目散に将和の部屋を後にするのであり残されたのは将和一人だった。
「……どこで俺は彼女にフラグを立てた?」
将和は自問自答した。それはさておき、翌日には将和は五十子と共に一式陸攻に乗って東京に向かうのである。
首相官邸で畑首相に今回の戦果を報告すると、政府としては支那、ヴィンランド、ブリトン政府に対して講和を打診する方針であることが告げられ、あとは向こうの回答待ちであった。もはや講和することに対して国内に不満を唱える者はほぼ皆無であった。
更に今回の一連の出来事を起こしたであろう陸海両総長襲撃の首謀者や協力者も見当をつけており、摘発次第相応の制裁を科すことになったようである。どうやら相当指導者陣は憤っているようであった。それが如実に現われていたのは、海軍省で出迎えてくれた怒り心頭な嶋野であった。
「今度の作戦で多数の被害が出たにも関わらず、豊田が漏らした言葉は『それがどうしたというんですか? 我が軍の勢力範囲を広げるための名誉ある武勲です』でしたわッ」
話を聞いてみると、どうやら今回の件で豊田は軍令部総長としての役職にふさわしくないと海軍内で見られているようであった。
「三好長官が命がけで我が軍の勝利に貢献してくださったのに、恥ずかしい限りです。申し訳ありません」
堀海相も将和に謝罪する。
「別に俺に対して気負う必要はないぞ」
「そう言っていただけると救われます。ですが、それとは別にこれは私たち海軍の信用問題ですわ。ケジメはつけさせて頂きます」
『夕香ちゃん、相当お冠だな……』
嶋野が五十子へ目線を向けると五十子もニコリとして頷いたのである。※
7月上旬、海軍は人事を発表した。海軍大臣の豊田は交通事故に遭い療養という事で交代、後任は井上成実が就任した。そして、軍令部の参謀として勤務していた神はガダルカナル島基地の海軍陸戦隊特別参謀として転任となった。
◇
「司令長官を辞めると言うの、ニミッツ」
「はい、プレジデント」
6月9日の午前9時、ホワイトハウスのルーズベルト大統領のもとにセシリア・ニミッツは呼ばれていた。事の発端は、セシリアがミッドウェー海戦の〝完敗〟に対する責任を取るべく辞意表明をしてきたことにあった。※
当然、ミッドウェー決戦敗北を知ったルーズベルトも〝ハワイ喪失〟があり得ると考え、最悪の事態を考えていた。故に『ニミッツを手放すわけにはいかない』と考えていたのである。
「……ニミッツ、辞める前にひとつ聞くわ。ヴィンランドは葦原との戦争に負けるようなことはあると思う?」
ルースベルトがそう聞くと、セシリアは声を詰まらせながら言い切った。
「いいえ、ヴィンランドは……、最後には必ず勝つでしょう」
この答えを聞いて、ルースベルトはまず、彼女の闘志は〝未だ衰えていない!〟と確信した。そして深々と頷きながら、おもむろに問いただした。
「……では、なぜ辞めるというのかしら?」
セシリアは一旦目を閉じ、顔を上げるやしぼり出すようにして、これに答えた。
「作戦は失敗しました……完敗です。太平洋艦隊喪失の責任をあきらかにするため、私が、辞めるべきだと考えます」
ルーズベルトは、セシリアが〝そう言い出すだろう〟ことぐらいは端からお見通しだった。
頷きながらも、ルーズベルトはさらに問いただす。
「たしかに完敗に違いないわ。だけれどそれは貴女の所為なのかしら?」
「はい。作戦をごり押ししたのは、まぎれもなくこの私です。結果がすべてですから敗北の責任を取りたいと思います」
するとルーズベルトは、いかにも不思議そうな顔をして一息吐いた。
「ふー……なら貴女は戦わずして、ミッドウェーをはじめから放棄しておけばよかった、と言いたいのかしら?」
「いいえ……、そうは思いませんが……」
セシリアがそう言い淀むと、ルーズベルトはニミッツの顔をきっと見据えて、堰を切ったようにまくしたてた。
「敗北の原因ははっきりしてるわ! 空母兵力で葦原軍に劣って、航空隊の技量でも劣っていたからよ! その不利を補うために、貴女が作戦前に最大限の努力をはらっていたことは、私だけでなくみながよく承知してるわ。勝つチャンスは確かにあった。だけど、葦原軍が大きな失策を犯さなかった。……ただそれだけのことよ」
それでもセシリアが頑なに口を閉ざしているので、ルーズベルトがさらに言及した。
「要するに現状のヴィランドは未だ準備不足なのよ。はじめから空母数で劣り、航空隊の訓練も充分ではなかった。翻ってアドミラル・ミヨシは、空母戦力を我が軍の2倍以上整えて戦争を仕掛けてきた。だから今は劣勢の状態で戦わざるを得ないのよ。ヴィンランド合衆国の戦争準備が整いさえすれば、葦原軍如きに断じて負けるはずがないわ!」
その思いはセシリアも同じであった。しかし敗戦の責任をうやむやには出来ない。
「……ですが、私は、ハワイ防衛に欠かすことの出来ない戦力をむざむざ喪失させてしまいました……」
セシリアはなおも自戒したが、これを聞いてルーズベルトはすかさず言い返した。
「むざむざ、ですって……。私はむざむざ敗れたとは思っていないわ! 貴女がなにか失策を犯したのなら話は別だけど、これまでの、貴女の指揮に不満は一切ないわ。貴女の仕事は勝てる舞台を整えること。壇上の上での責任は現場指揮官にあるわ。要するに、司令長官を代える必要性はまったく感じていないのよ……たしかに、艦隊の喪失は痛いわ。だけど、勝負は時の運。艦を失ったのならその分だけ造って補えば良い。ネイビーガールが必要なら新たに育てれば良いわ。もちろん、貴女がなにか大きな失敗をやらかして敗北したのなら後退して貰うけど、現状貴女は前任者の尻拭いをして指揮を執っているのだから、よくやっているわ。……本当の勝負はまさにこれからよ、ニミッツ」
ここまでルーズベルトが一個人に熱く語るの見たことが無い。「白銀の魔女」の異名を持つ彼女もれっきとした人間である。何も感じないことはない。
ーーー大統領が、私を買ってくれているッ!!
セシリアは不覚にも目頭に熱くなるものを感じた。身に余る光栄だが、感傷にふけっているような場合ではない。太平洋艦隊が壊滅状態にあり、ミッドウェイを失った今、〝ハワイ防衛〟は喫緊の問題だった。
「……今の現状ではハワイを護りきる自信はありません」
セシリアが力なくそう応じると、これにルーズベルトは頷いた。
「そう決めつけるのはまだ早いわよ。タンカー改造の護衛空母をさらに増やす予定だし、ブリトンと交渉して空母を貸与してもらうことも検討してるわ。また、オアフ島には大量の友軍機を配備させるし、いざと言うときは……政治的な切り札をきらせてもらうわ」
実はこの時、ルーズベルトはすでに肚を決め、最悪の場合は武力による防衛ではなく〝政治的な防衛策〟で決着を図るしかない、と考え始めていた。それは葦原人の感覚ではとても受け入れがたい、恐ろしいほどの現実主義に立脚したハワイ防衛策であった。
「それはまさか……」
セシリアがルーズベルトの思惑を理解しそう言った時だった…
「お困りのようね」
声が聞こえ、両人が振り返ると壁の一隅が暗くなり、その闇が一人の人影に凝縮し金髪ロングで巨乳の女性が姿を現した。
「「ゴースト!?」
白昼堂々と幽霊が現われたと思い、二人は仰天した。
「ソーリー。驚かせてごめんなさい」
その女性は流暢な英語で言った。
「私の名前は…まあ、マリンとでも呼んでちょうだい。一応、天界で女神をやってる者よ」
ルースベルトとセシリアは顔を見合わせた。いきなり神だと名乗られて、「はい、そうですか」とはならない。しかし、超常的な存在でなければ目の前の事象が説明がつかないと、現実主義者の二人は即認識はした。
「……いったい神が、私達になんの用ですか?」
落ち着きを取り戻したセシリアがルーズベルトの前に立ち問い掛ける。怪しい者が大統領執務室に居る。いざと言うときは我が身を盾にしても大統領の身は守らねばならない。
彼女は誠に合衆国の軍人であった。
「あなたたちは今、苦境に立たされているわよね。その理由は葦原でも同様に女神が現われて彼女たちを助けたからよ」
マリンは事の経緯を大まかに説明する。葦原では開戦前にこの世界とは別の男性提督が数人送り込まれたと共に、主力艦数隻、駆逐艦・潜水艦数百隻、1000万トン近い輸送艦、数千機の航空機、先進的な電波兵器等を提供されたことを。
「なるほど……そういう事でしたのね。通りで葦原が不自然な程強いと思ったら……まぁ神……はいたということでしょうが不公平ではなくて? 我がヴィンランドに手を差しのべるならば、もっとはやく差しのべてくれても良かったのでは?」
マリンの説明を聞いたセシリアは理解はしたが納得出来ないという表情で問い掛ける。マリンは両手を掲げる。
「ソーリー。ミッドウェーでの戦いが終わるまではヴィンランドの趨勢は分からなかったから、手を差しのべようにも上司からの許可が降りなかったのよ。実際ミッドウェーでの戦いで勝ってれば支援を受ける必要を感じなかったんじゃない?」
「っっ」
彼女の言うこともそのとおりなので、ニミッツは何も言い返せなかった。今の情勢を招いたのは船舶の比率とかではなく、自分たちヴィンランド海軍が葦原海軍との決戦に敗れたからに他ならない。※
劣勢になってからあの時助けてくれれば良かったのに、というのは自分達が負けた言い訳に過ぎない。その部分に関しては恥じらいは持っていた。
「それであなたは私たちにどのように手を貸してくれると言うのかしら?」
重々しい雰囲気をルーズベルトが払拭した。敗戦の記憶を振り払いきれないニミッツと比べれば、過去を悔いるより未来に向けて行動していく現実的な思考の切りかえができていたのである。流石は大国の大統領といったところであった。
「今のヴィンランド海軍には艦隊が一セットないのは問題だから空母八隻、戦艦五隻、補助艦艇多数を提供するわ。空母は建造予定のエセックス・クラスで、戦艦は計画していたモンタナ・クラスでどうかしら?」
「モンタナ・クラスを提供してくれるというのですか!」
ニミッツは目に光を取り戻し興奮したように反応した。※
「それが事実なら素晴らしいことだけど、果たして貴女を信用してすべて任せて良いのかしら?」
「私を信用するもしないも自由よ。どちらにしろ戦争をするのはあなた方の仕事であり、責任でもあるわけなんだから。兵器を私が提供するのと、自国が生産して手に入れる事に違いはあるかしら?」
「そのとおりです。如何にして敵に討ち勝つかを考え実行するのが私達の仕事です」
「そのとおりね。過程はどうであれヴィンランドを勝利へ導くのが私の仕事よ」
マリンの質問にニミッツとルーズベルトはそう答える。
この戦争に対して〝自己責任〟でもって行動している二人にとって〝結果こそがすべて〟であった。
「貴女のいうとおり助けてもらうことにしましょうか」
「オッケー! 細かい段取りについて詰めましょう」
話し合いの結果、モンタナ・クラスとエセックス・クラスが「支給」されるのは、一ヶ月後ということになる。これに新たなネイビーガールズを乗り込ませ、母艦機の訓練も見込むと、使い物になるのは更に二ヶ月以上はかかると見られた。
結果的に、ヴィンランド軍は当初予定していたソロモン諸島からの反撃を延期とし、9~10月頃にハワイへと侵攻しようとしている葦原軍を迎え撃つ計画に変更していくことになるのである。※
セシリアが自ら辞意表明をしてくるというのはある意味珍しい。というのも原作でもミッドウェー決戦で敗れ空母を喪失したが、だからといって彼女自身が司令長官の座を退くということはなかった。おそらくその後の戦いで挽回しようとしていたと思われる。
にも関わらずに今世界で自ら司令長官を辞めようとしているのは、今回の海戦結果が前代未聞の〝全滅〟だったからだ。まさに葦原海海戦と同様である。あの勝利がきっかけとなり、葦原は大国ルーシー帝国(当時)との講和に繋がった。それと同じことが今回のミッドウェー海戦におけるヴィンランドの立場で言える。
今のセシリアは差し詰め、バルチック艦隊司令官のロジェストヴェンスキー中将であろうか。
セシリアにとっても負けるとしたら〝空母と護衛艦艇が数隻沈められて〟敗走すると思っていた。
ーーーパール・ハーバーアタックのように停泊している訳じゃないのだから、最悪の場合でも空母が全喪、艦隊全体で3割程の被害が出るだろう。
これが、セシリアにとっての負け戦の想定内だった。
ところが予想外にもパールハーバーに戻ってきたのは〝数隻の艦艇のみ〟だった。
事実上、太平洋艦隊は全滅したのである。
将和が水上打撃部隊を率いて第16、17任務部隊を追撃し包囲してきた結果、殆どの艦艇は〝逃げる〟ことが出来なかった。その上で現場指揮官の命令で降伏しほぼ全ての艦艇が従ってしまったことにより、大半の艦艇が葦原海軍の軍門に降ってしまったのだ。
太平洋艦隊は戦力を喪失するどころか相手に戦力を与えてしまったも同然であり、大多数の将官、ネイビーガールズ達を失った。元々、葦原海軍との戦力比・パイロットの質を鑑みて〝最悪の場合押し負ける〟とは上層部も考えていた。だからこそ、『1年は葦原軍をハワイまでで食い止める』と大まかに取り決めていた。1943年に入れば新たに艦艇が続々と就役し出してくる。そうなれば葦原との戦力比が此方が勝っていくので、合衆国の戦略的勝利となると考えていた。故に旧日本軍風に言えば遅滞戦術を取ろうとしていた様なものだった。
ところが既存戦力たる太平洋艦隊は消滅してしまい『1年も持たない!』という状況になってしまった。このままではハワイ陥落は時間の問題であるばかりか下手すれば西海岸への葦原軍の攻撃乃至は上陸もあり得る。
という状況を作ってしまったセシリアは自分の首でこうなった責任は取れないが、せめてもとケジメをつけようと太平洋艦隊司令長官のイスから降りようとしたのであった。
彼女はミッドウェー海戦の翌日、辞表をしたためてノックス海軍長官に辞意表明をした。ノックスから事の詳細を聞いたルーズベルトはすぐにホワイトハウスに呼び出したというわけである。
ご意見、ご感想お待ちしておりますm(__)m