マレー沖海戦にてブリトン海軍を討ち破った葦原海軍は、陸軍と歩調を合わせて南方地帯の攻略に協力していた。
【南方攻略部隊】
第二艦隊司令長官 近藤咲夜中将
第四戦隊 司令官 近藤中将直率
重巡「愛宕」「摩耶」「高雄」
第三戦隊・第二小隊
戦艦「金剛」「榛名」
第五戦隊 司令官 高木諏訪子少将
重巡「那智」「羽黒」「妙高」
第二水雷戦隊 司令官 田中妖夢少将
軽巡「神通」 駆逐艦20隻
第四水雷戦隊 司令官 西村早苗少将
軽巡「那珂」 駆逐艦20隻
第五航空戦隊 司令官 吉良鈴仙少将
軽空「神鷹」「海鷹」
【比島攻略部隊】
第三艦隊司令長官 高橋青娥中将
第一六戦隊 司令官 高橋中将直率
重巡「足柄」軽巡「長良」「球磨」
第一七戦隊 司令官 小林純狐少将
敷設艦「厳島」「八重山」
第五水雷戦隊 司令官 原瑞霊少将
軽巡「名取」 駆逐艦20隻
第六潜水戦隊 司令官 河野屠自古少将
潜水母艦「長鯨」 潜水艦10隻
第六航空戦隊 司令官 今村椛少将
軽空「雲鷹」「冲鷹」
第一一航空艦隊司令長官 塚原にとり中将
第二一航空戦隊 司令官 多田八橋少将
(鹿屋航空隊、東港航空隊)
第二三航空戦隊 司令官 竹中布都少将
(高雄航空隊、台南航空隊)
(付属駆逐艦) 駆逐艦10隻
【その他部隊】
第四艦隊司令長官 井上成実中将
(トラックおよび内南洋諸島防衛)
独立旗艦・練習巡洋艦「鹿島」
第一八戦隊 司令官 丸茂紫苑少将
重巡「鳥海」練習巡洋艦「鹿島」
第一九戦隊 司令官 志摩さとり少将
敷設艦「沖島」「常磐」「津軽」
第六水雷戦隊 司令官 梶岡芳香少将
軽巡「夕張」駆逐艦27隻
第七潜水戦隊 司令官 大西豊姫少将
潜水母艦「迅鯨」 潜水艦18隻
第二四航空戦隊 司令官 後藤一輪少将
(千歳航空隊、追浜航空隊)
葦原軍が南方地帯へと進撃していく毎に欧美植民地艦隊との間ではいくつかの海戦が発生していった。
南方での葦原海軍の相手となったのは、鰤国海軍の他、美国と陀国が東南アジアに主力としておいていた重巡洋艦・軽巡洋艦の戦力を合同させた連合軍艦隊であった。
葦原軍はマレー半島に続き、フィリピンへも上陸。進撃を開始した。ダグラス・マッカーサー大将を司令官とするヴィンランド極東陸軍は、本間雅晴中将率いる第14軍を迎え撃ったが、葦原海軍比島攻略部隊の第六航空戦隊と第一一航空艦隊の航空攻撃及び支援もあり、クラークフィールド飛行場が爆撃されて、B-17爆撃機を含む航空戦力が開戦初期に壊滅。葦原軍4万に対し、極東陸軍は15万人と3倍以上の兵力を有していたが制空権を失ったが為に圧倒される。
12月27日には首都マニラが非武装都市を宣言し、在比美陸軍はマッカーサー大将と共に陣地のあるバターン半島とコレヒドール島へ移動し籠城戦を展開していく。そしてこの時、海軍のハート提督も潜水艦でジャワ島に脱出した。
ジャワに着いたハート提督は連合国のアジア艦隊を結集させ美鰤陀豪海軍の司令部を設置。陀国海軍のドールマン少将が司令官となる。
この時の戦力は重巡2、軽巡7、駆逐艦23、潜水艦46とそこそこの戦力であったが、言葉の違いなどで連携が十分にはいかなかった。足並みが揃わない中、目の前まで進んできた葦原軍に駆逐艦4隻へ夜襲を敢行するも、葦原駆逐艦の大半は既に美国製以上の性能を持つ二式対空・対水上電探を搭載していた為、早期に発見され、第四水雷戦隊各艦からの集中砲火を浴びて尽く撃沈された。(パリクパパン沖海戦)※
「電探とは、こうも海戦に役立つものなんですね」
この時、最前線で指揮をとった第四水雷戦隊司令官の西村早苗少将は改めて電探の力に感心した。この彼女の発言にあるように葦原海軍は電波兵器を充実させていたことが今後の海戦の勝因となったのである。※1
バリクパパン沖海戦が起こった1月24日同日、陸軍はビルマ攻略作戦を開始。その目的は援蒋ルートの遮断、南方占領地の北側拠点確保、インドの鰤離間工作が目的であった。ビルマの戦いは陸軍のみで行なわれた為、海軍の支援や連携こそなかった。がそれでも陸軍は5月30日までに全ビルマを制圧したのである。※2
一方、マレー沖でも鰤海軍が第三水雷戦隊が護衛する輸送船団への昼間に航空攻撃、夜間に駆逐艦二隻で夜襲を仕掛けてくるも、昼間は軽空母から発艦した防空戦闘機に防がれ、夜間は駆逐艦の電探に捉えられて敢えなく集中砲火を受けて二隻とも撃沈される。(エンドウ沖海戦)
ウェーク島攻略を終えたウェーク攻略部隊は第四艦隊と合同。ビスマルク諸島の豪美軍を攻略する『R作戦』を開始する。これは海軍の前線基地たるトラック諸島の脅威を取り除くと同時に良好な泊地と飛行場を持つラバウルを確保するためであった。
第一航空艦隊から一航戦と四航戦が上陸前に基地航空隊と共に援護に駆付けラバウルへの徹底攻撃に従事。守備軍はそれだけでほぼ壊滅。ハワイの美海軍へ救援要請を出したが、当然傷跡が癒えていなかったハワイからは断られ撤退するはめになった。
上陸部隊は1月25に主要地を制圧し4月までに周辺地域は掃討されるのである。
空母部隊は同時にニューギニアのラエ・サラモアも攻撃。攻撃終了後、四航戦は作戦から外れ飛行機輸送任務等を経て2月に横須賀基地へ戻る。その後は内地で訓練従事、美空母からの空襲に備え本土防衛(周辺含む)及び次期作戦の為の任務に就くのであった。※3その後南海支隊が同地に進出したが、どちらも豪地上軍はすでに撤退済であったため、この方面の作戦は終了した。
この間、将和率いる一航戦は同時期に陀軍基地のあるアンボン島を攻撃していた二航戦と合流し、豪州空襲へ向かうのである。
ジャワ方面ではケンダリーとパリクパパンに進出していた第11航空艦隊が連合国軍の航空撃滅作戦を開始した。連合軍艦隊のドールマン少将は葦原軍上陸部隊発見の報(誤報)に重巡1 軽巡3 駆逐艦7 を率いてマカッサル海峡に向かうも、哨戒中の伊号潜に発見され報告を受けた第11航空艦隊60機の反撃を受け、重巡・軽巡各一隻損傷の被害を出し撤退した。(ジャワ沖海戦)
南遣艦隊には第三航空戦隊が合流し航空戦力が増強されると、2月15日には南方油田スマトラ島への攻略支援に当たる。葦原軍は石油施設を破壊される前に確保する必要があると考え、落下傘部隊による奇襲攻撃が行なわれ、これが功を奏する。
2月19日にはジャワ本島攻略の足がかりにバリ島へも上陸が行なわれるのであるが、
そんな最中、
「降伏するか、YESかNOで答えよ!」
「イ、YES」
山下大将の詰問にアーサー・パーシバル中将は降伏を決意。
2月16日、遂に鰤軍拠点シンガポールが陥落した。
マレー半島へ葦原陸軍が上陸してから、僅か二ヶ月後のことであった。※4
シンガポール陥落に際してブリトン東洋艦隊はインド洋のセイロン島へと撤退した。
一方、ドールマン少将はバリ島上陸部隊撃退のため、連合軍艦隊に夜襲を決行。
だが、再び言葉の壁で連携不足のまま2手に分かれて攻撃してしまった結果、葦原海軍の電探に捕捉され、第8駆逐隊の「朝潮」「大潮」「満潮」「荒潮」以下多数の駆逐艦と共に反撃を受ける。※5
砲雷撃は連合軍海軍の艦艇に命中し始め大多数が撃沈破され、生き残った艦は撤退する。(バリ島沖海戦)
バリ島へも上陸が行われている2月19日、三好機動部隊による、豪州本土空襲が行なわれる。豪州軍基地は完全な奇襲となった為、駆逐艦2 輸送船8 を撃沈。航空機26機を撃墜するなどの戦果をあげた。
「長官、第二次攻撃はかけないのかい?」
草鹿は再攻撃をかけないのかと質問すると、将和は頷きニヤリとして返す。
「余り搭乗員達を消耗させたくない。だからこそ、仕上げは戦艦にやって貰おうじゃないか」
「『出雲』を使うつもりかい!」
「なるほど、面白い!」
将和の言葉に草鹿は驚き小澤は笑顔で返す。
今回の作戦で空母部隊は「比叡」「霧島」に続き大和型戦艦「出雲」も随伴させて来ていたのである。
その「出雲」を実戦投入しようというのだから、小澤達は将和の機転に感心した。※6
そうして、豪州の軍事施設は機動部隊護衛下の戦艦「出雲」の46センチ砲弾が着弾し破壊されるのである。※7
一方、陀印作戦は山場のジャワ本島攻略へと移っていた。海軍は第11航空艦隊・第3艦隊、陸軍は第3飛行集団の400機以上に加え空母部隊も参加。ジャワは航空戦力で包囲されたのである。
周りを葦原軍に制圧された連合軍は絶望的状況であった。美鰤陀豪海軍司令部からも同盟国スタッフが続々と脱出し、残るはドールマン少将の陀国軍のみであった。
「各員……我が方に策はないわ。ただひたすら攻める。陀国海軍は、戦わずして滅びることなしと心得なさい!」
なんと、そう宣言したのはドールマン少将自身である。
彼女は万策尽きた上で、残る艦艇(重巡3 軽巡2 駆9)を自ら率いて葦原軍上陸部隊の輸送船団を叩くために出撃したのである。※8
対するは、東部ジャワ攻略部隊を護衛する高橋青娥中将の指揮する陀印部隊で、麾下に第二水雷戦隊、第四水雷戦隊、第五戦隊、第四航空戦隊、第十一航空戦隊等で編成される。
主に迎え撃ったのは、高木諏訪子少将が指揮する第五戦隊、田中妖夢少将が指揮する第二水雷戦隊、西村早苗少将が指揮する第四水雷戦隊である。
ドールマン艦隊はすぐに重巡「那智」の偵察機に発見され、軽空母部隊より攻撃隊が差向けられた為に、全艦大小の被弾、及び沈没艦が出始める。それでも尚前進を続けるドールマン艦隊に対し〝敵は全滅覚悟で突っ込んで来るつもりだ!〟と理解した葦原艦隊は、単縦陣を形成し丁字戦法を展開。
ドールマン艦隊との同航戦に持ち込むと、五戦隊の重巡部隊及び水雷戦隊は次々に敵艦へ砲撃、雷撃を命中させる。激戦の末、葦原艦隊は勝利をおさめる。※9
ここに連合軍艦隊は全滅した。(スラバヤ沖海戦)※10
3月1日阿南惟幾中将を司令官とする第16軍は3方向からジャワ島に上陸、攻略を開始。三好機動部隊も支援に回ってきたことで、各基地の陀国軍は組織として急速的に崩壊。上陸した葦原軍は地元住民が協力してきたのもあり、上陸開始から9日でジャワの攻略は完了した。
南部に点在するクリスマス島へ戦艦「金剛」「榛名」が艦砲射撃を展開した際は20分足らずで白旗が掲げられた。ジャワ攻略が終わったことで三好機動部隊はセレベス島のスターリング湾に帰投したのである。
そして、ここフィリピンでの戦いも今また決着がつこうとしていた。
籠城戦で粘っていた在比美軍も食料の備蓄が底をつき、戦力と士気の低下は著しく降伏も時間の問題であった。
ルーズベルト大統領はマッカーサーが捕虜になった場合のデメリットを鑑みて豪州への脱出を命じるも、将和によってマッカーサーの逃亡を阻止するようにと厳命されていた第三艦隊も南遣艦隊の南雲中将の部隊と合流し、マニラ西方海上からマニラ湾のキャビテ軍港を徹底攻撃し目に見える魚雷艇をすべて撃沈。
ミンダナオ島からダーウィンまで、Bー17の脱出経路となり得る飛行コースへは目を光らせていた。
また、葦原陸軍の方でもコレヒドールの監視を強化しつつ、マッカーサーのプライドを刺激する煽り宣伝をパターン拠点に拡声器で流したのである。
〈We're going to die in Bataan. He is a very pitiful child. I don't care about my mother or father.
In my homeland, I was long abandoned, and I had no medicine, no weapons. I don't even have a meal. No one knows, you just die. The yellow monkeys shoot you with guns, boil and roast them, and eat them. Doug flashes a four-star and runs away. Saying "I shall return"〉※11
果たして、その効果は絶大であった。
「私は動かない。絶対にここを離れない」
「大統領命令ですよ!」
マッカーサーが脱出するという噂はコレヒドール要塞に広がりつつあった。(実際本当のことである)
どこから情報を嗅ぎつけたのか、あるいはマッカーサー将軍の逃亡を防ぐための葦原軍による陰謀かは定かではなかったが、大統領から命令されてきている以上、それを無視するのは命令違反である。
サザーランド参謀長はもう何度目かは分からないやり取りをマッカーサー大将としていたが、プライドの高い彼は葦原軍からの煽りに意固地となってしまった。
「なにが!『I shall return』だ! こんな負け犬のようなことを私が言うか! クソ、イエローモンキーどもが! 地獄に落ちろ!!」
『地獄に落ちかけているのはアンタの方だ!』とサザーランドは口に出かかってつぐむ。
普段は冷静なマッカーサーも、今の絶望的な状況と、全軍に流れる噂と部下達からの白い目が彼の精神的な均衡を喪失させつつあった。
まさに、戦争である。それも末期の人間が陥る思考だ。
そんなマッカーサーをマッカーサーたらしめる唯一のものは軍人としての矜持であった。
「私は永遠にここにいる。老兵は死なない、永遠に粘ってやる。奴等の前から消え去ることはないのだ。私は、最後まで戦うぞ。いざとなれば爆弾を背負って敵に突っ込む」
こうして、マッカーサーは去らずに最後までフィリピンで粘る決断を下した。
ここまでは彼は軍人の鑑であった。
しかし、ヴィンランド極東陸軍は、その後も飢餓や疫病で多くの犠牲を出しながらもバターンを守り続けたが、4月に入ると増援を得た葦原軍は総攻撃を開始。
最終防衛ラインへと迫ったところで、本間雅晴中将はマッカーサーに対し降伏を勧告するのである。
「…白旗をあげてくれ」
「イエッサー!!」
マッカーサーは顔を下に向けて俯き、失意の内に部下に対し降伏を受け入れるように伝え、部下もそれに泣いて応じた。
こうしてマッカーサーが葦原軍へ回答したことで、ヴィンランド極東陸軍約11万人は組織的に全面降伏してくる。※12
自軍より多くの兵士が降伏してきたことで葦原陸軍も対応におわれるも、長谷川清大将率いる南遣艦隊がタイミングよく輸送船団をまわしてきてくれたおかげで大事には至らなかったのである。
長谷川がフィリピンに上陸した頃になると美軍は行動を停止し、本間司令官の指揮の下、武器が一箇所に集められ始めていた。
『歴史が変わったな』
長谷川はフィリピンに降り立ち、それを実感した。※13
長谷川は毅然とした態度で、椅子に座る男の前に腰掛けるなり英語で話しかけた。
「お会いできて光栄です、ダグラス・マッカーサー将軍」
マッカーサーは小さく顎を引き、長谷川と隣に座る本間中将を交互に見比べる。
「本間中将の軍服は、私の知っている葦原陸軍のものだが、なにゆえ貴官は〝海軍の制服〟を着ているのだ?」
マッカーサーの疑問は当然だった。この世界の男性は海に入れない体質が基本なのだから男の海軍軍人なぞ存在しないのである。
「申し遅れました。俺は葦原中津国海軍南遣艦隊司令官の長谷川清大将です。薄々は情報を掴んでいるでしょう? 俺が葦原に現われた男性提督の一人だ」
「貴官がそうなのか!……それも海軍提督大将で艦隊司令官だと……? だが男が海を渡るには……」
「まあ、少々事情があってね。俺はラ・メール症状が効かない体質だから普通に海上勤務をするのに支障がないんだ」
「そうなのか? それにしても男性提督を艦隊司令官に任命するとは、葦原海軍も思い切った人事抜擢をするものだ」
マッカーサーは葦原が先進的に男性を海軍に登用していたことに逆に感心した。※14
「ところで我が軍の兵士たちはジュネーブ条約に沿う扱いをされるんだろうな」
「当然です。その為に私は輸送艦を引き連れてやってきました」
「ほぉー、行き先は葦原かね?」
「いいえ、満州国です」
それを聞くとマッカーサーは一息つき、椅子の背もたれに仰け反るように身体を預け、見据えるような視線を長谷川に向けた。
「フン。目的は分かっているぞ。宣伝と強制労働であろう」
「人質か……、良い考えだな」
違うのかと、マッカーサーは目を丸くした。先走ったことを後悔したようだ。
「残念だがそこまで俺等は悪人じゃないんだよ。アンタたち捕虜は第三国を通じて美国へ帰国だ」
「なに?」
マッカーサーは、片方の眉毛を上げて不思議そうな顔になり、本間は尻を浮かせて驚いた。
「馬鹿な。捕虜を一方的に解放すると言うのか」
「ただし条件がある」
長谷川はマッカーサーと本間の二人を交互に見た。
「解放する代わりに、軍を退役してもらう」
「長谷川長官、それは駄目だ。こいつらがそんなこと守るものか」
本間は呆れ、マッカーサーは笑みを浮かべている。
「その条件なら問題ない。早いところヴィンランド本国へ送り返してくれ」
「安心するのは早いぞ、マッカーサー将軍」
長谷川は視線を厳しくした。
「再び戦場に出てきたら、今度はアンタはフィリピンへ上陸する前に輸送船ごと海に沈むことになるだろうよ」
「ッ(成る程……意外とコイツはやるな……)」
釘を刺してきた長谷川にマッカーサーは押し黙る。人の良さそうな顔だからといって、性格までそうだと思ったら大間違いだ。外見に騙されて相手が油断すれば、まったくもって長谷川の術策にはまるようなものだった。
「いいですね、本間司令官」
「しかし……」
「10万人もの捕虜を養い続けていく程、我が国に余裕はないはずだ。それにこれは大本営からの命令でもあります」
本間は唸るような声を発したが、大本営命令とあればそれ以上反論しなかった。
この日から2日後、降伏したヴィンランド極東陸軍110,000余名の捕虜達は輸送船に押し込められて、フィリピンから追い出された。
マッカーサーをはじめフィリピンで降伏した美軍兵士たちは、その後、二度と戦場に戻ることはなかったのである。
かくして葦原軍はフィリピンの攻略に成功したのであった。
完全自動化されている訳ではなかった歩兵部隊が中心の葦原陸軍が、ブリトン軍を圧倒しマレー半島南部まで雷撃的に進撃を成し遂げたのには、チャリンコを用いた移動などが大きかった。
後退した鰤軍は、それでも東洋のジブラルタルと称されるシンガポール要塞に絶対の自信を持っていたが、この時には制海権と制空権を失っていたので、連日にわたる空襲と海岸からの葦原軍上陸による補給地ブキッ・ティマ高地が奪取されたことで、パーシバル中将はたまらず第25軍の司令官山下奉文中将に降伏を申し出たのである。
しかし、葦原軍がジャワ沖に来てしまった以上、もはや引きこもったまま終焉を迎えることは出来ない。戦わずに滅びるよりは戦って滅びるのが残された自分達の使命であった。故にこの出撃が自身の最期となるのを彼女は理解していた。
いや、それ以前に補助艦艇が此方に多数含まれていたため、数の利を生かせたのが大きかった。その為、史実では夜戦まで持ちこたえたドールマン艦隊も日が落ちる頃には全滅した。
その為海軍が誤射で攻略軍司令官乗船の輸送船を沈めてしまうという事態はなかった。
その輸送船に今世界で乗船していたのは今村均中将より引き継いだ阿南惟幾中将であった。
今世界ではこの人事異動に連鎖した為に、香港攻略に際して第11軍が奪回に向かって来る支那軍を防ぐための拠点・長沙に攻撃をかけるという出来事もなかった。
なお、今世界では葦原陸軍は香港での防戦で支那軍の撃退に難なく成功した模様である。
御意見や御感想等お待ちしていますm(__)m