NEW『三好in山本五十子の決断』   作:フォークロア

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第二話(仮) 混沌の4月

「嶋野が暴漢に襲われただと!?」

 

「ああ。どうやら不満を持った軍の強硬派によって小磯参謀総長共々襲撃を受けたようだ」

 

 嶋野が襲撃された事件は草鹿より伝えられた将和の耳にも届いた。

 大抵のことでは驚かない将和も、この時は驚愕した。

 

「…嶋野は無事なのか?」

 

 将和は苦虫をかみつぶしたよう表情で問い掛けた。

 

「意識不明の重体だったが、先ほど意識が回復されたようだよ」

 

「っ、そうか!…無事で何よりだ」

 

「だが、これで嶋野さんは海軍大臣を続けられなくなるだろう」

 

 草鹿の返答にホッとした将和だが、小澤はこれで海軍のトップが変わってしまうことを懸念した。

 

 現役の参謀総長と海軍大臣が負傷したことがきっかけとなり、噂はすぐに葦原全土に広まった。その数日後には警察は実行犯から自供と捜査によって背後にいた首謀者である軍の中堅将校グループがいたことが判明した。

 

 後に『四・二二事件』と呼ばれるこの襲撃事件は良くも悪くも、その後の葦原国内に於ける悪印象を与えた。現にこの事件以降、葦原に襲撃事件は“一切起こらなくなった”からである。

 

 

 それから5日後、

 

「元気そうで良かった」

 

「三好長官…」

 

 将和は嶋野の病室を訪れていた。

 

「これ花束だ」

 

「ありがとうございます」

 

 一時は意識不明の重体だった彼女は今は大分回復しているように将和には見受けられた。

 それから二人は他愛のない会話を交わしては、笑ったり驚いたりとしていたが、最後に嶋野は本題に入った。

 

「三好長官、私は海軍総長を退こうと思いますわ。この体では職務を続けるのに支障が出ますから」

 

「そんなに悪いのか」

 

「数ヶ月はリハビリを受ければ回復はするそうですが、私事で戦時に於ける数ヶ月に政治的空白を生むのは国家大計の誤りとなります。だからこそ…」

 

「海相を退くか」

 

 1942年4月現在からの数ヶ月は間違いなく葦原の将来を左右する分岐点となる。故に嶋野は後進に道を譲り海軍が道に迷わないようにすると宣言した。

 

「おめでとう、嶋野元帥」

 

「むっ…別に私は元帥位が欲しくて辞めるわけではありませんわ」

 

 嶋野は頬を膨らませて抗議した。

 

「ハハハ、そうか。それで後任は決めてるのか?」

 

「ええ。豊田大将を推薦致しますわ」

 

「……そうか。まあ、適任、か?」

 

「何か気になることでもおありですの?」

 

「いや。(史実を見るとなぁ……)

 

 史実で山本の後々に連合艦隊司令長官、軍令部総長に就いた人物だけに適任ではあるかもしれないが、この人物のもとに海軍が滅んだのも事実である。また、人物がよく知らない人物ということもあり多少不安ではあった。

 

「…MI作戦のことでしたら、心配しないで下さい。私が退こうとも規定の方針ですから」

 

「ああ。次こそが桶狭間の戦いだ」

 

 桶狭間の戦いに勝利した織田信奈は、次に長篠の戦いでの武田を倒し、天下統一を成し遂げた。

 

 その長篠をミッドウェーに置き換えるならば、ここを制すればその後の戦争そのものが勝利に傾いてくると言っても過言ではない。

 

 ハワイ攻略の前哨戦となる「MI作戦」は連合艦隊にとって本命の作戦であり、絶対に失敗は許されない戦いであった。

 

「連合艦隊を勝たせるのが俺の役目だ。嶋野 お疲れさん」

 

「ありがとうございます、三好長官」

 

 そう言った嶋野の顔は安心した表情だったのである。

 

 

 しかし、嶋野はこの時職務を退いたことを後悔するのである。

 

 ◇

 

 光文17年も4月へと入り、連合艦隊旗艦は長門から新たに就役した大和へと移り変わった。

 

 その大和の作戦室では、GF司令部の面々と将和や多聞等はMI作戦の研究に入っていた。

 

「ヴィンランドは必ず、、空母機動部隊を繰り出して来る。史実では奇襲作戦を前提に作戦を立てた敵空母はミッドウェー島攻撃後に出て来る想定であったが、敵は用意周到に待ち構えているミッドウェー近海に敵空母が待ち構えていると考え強襲、、作戦で挑むべきだ」

 

 将和の発言に司令部の面々も頷いた。

 

「K作戦の方はどうなってる?」

 

「敵空母は珊瑚海からハワイに帰港したまま動く気配はなし。それと今月に一隻の大型空母がハワイに新たに入港したと報告が上がってる。おそらく空母『ワスプ』」

 

 将和の質問に黒島亀子が答える。

 

「ふむ…大体予想通りだな。「エンタープライズ」と「レキシントン」を沈めた今、美軍に残る空母は「ヨークタウン」「ホーネット」「サラトガ」「ワスプ」の四隻しかいないはずだからな。ニミッツは残った戦力をすべてミッドウェーに出してくる腹積もりだろう」

 

「だとしたら敵の航空戦力は精々三〇〇機程度といったところか。対して私らは正規空母九隻は投入出来るから戦力比は二倍。軽空母を含めたら三倍近い開きだ。秋月型防空駆逐艦による対空射撃と電探によって海軍は以前とは段違いに対空能力は向上したし、零戦の性能も一段と高くなった。葦原海軍は空母機動部隊同士の戦いでも十分勝算があるぜッ!」

 

 参謀長の宇垣は自信を持って言い切った。

 それを皮切りに参謀達も口々に弾んでいった。

 

「緒戦から私達は連戦連勝よね」

「そうね。このまま勢いつけてハワイ攻略よ」

「南洋でも我が軍は敵航空戦力を一蹴し、主導権を握ってたわ」

「第二段作戦でも鎧袖一触よ、美軍なんてなにほどのことがあるってのよ!」

 

 連合艦隊司令部でも、これまで続いた勝利の驕りの兆候が芽生え始めていた。それは主張となって現われていく危険性を孕んでいた。司令官が慎重な姿勢でも部下の声に押されたら引き込まれていくからだ。それが史実の杜撰なMI作戦の図上演習となって現われていったのだ。

 

 勝利の美酒に酔いしれるとはこういうことだろう。勝って兜の緒をなんとやら……。将和は自分でもみるみる顔色が変わっていくのが分かった。

 

「お前ら! ヴィンランドはいずれ新たな戦力を俺等と同様に提供されるんだぞ。まだ敵の既存戦力すら叩ききっていないに、なんだ。その傲慢な言葉は!」

 

 将和の一喝に先程まで話していた参謀達は沈黙した。

 

「その驕りこそが、別の世界の葦原が敗北する要因に繋がったんだ! セイロン沖海戦では山口の旗艦『翔鶴』は敵艦載機の攻撃を受けて被弾し源田航空参謀も戦死したのだぞ。注意一秒死者一生であることを忘れるな! 聞くが、開戦以来航空戦隊の搭乗員は大小失っている。その分の補充は?」

 

「は、はい。実戦経験を積んだ軽空母搭乗員達は開戦時よりその技量を高めておりますので、内地で順次正規空母の航空隊として教導にあたり、MI作戦前には正規空母搭乗員の補完は出来ます。軽空母には新たに航空学校を卒業した者達と古参搭乗員を隊長機に割り当てて実戦経験を積ませる段取りを取っております」

 

 将和の発言に樋端航空甲参謀が答える。

 

「では、作戦の機密保持は? 先の九州爆撃で国民は敵への報復を唱えている傾向があり、海軍の次の目的地を掴もうと一兵卒に接触してきているぞ」

 

「なんだって!?」

 

 宇垣が絶句する。将和は「大和」まで来る途上の内地の様子を見て発言したが、連合艦隊司令部では寝耳に水であった。普段彼女たちは艦隊勤務をしているため内地の方に目が行かないので、半舷上陸した者達の動向までは把握できていなかった。

 

「どうしましょう・・・」

 

 渡辺寿子戦務参謀が頭を抱える。

 

「ならばこうしよう。敢えて偽情報を民間に流して次の目的地がどこであるかを掴ませないようにするんだ。敵を騙すには先ずは味方からだ」

 

「なるほど! 早速軍令部と掛け合いますね」

 

 将和の提案に寿子は納得する。

 

「今後も、敵情の最新情報は真っ先に俺達各提督達には正確に伝えてくれ。前線で戦い判断するためにも必要だからな。連合艦隊内司令部と現場指揮官達では意思疎通を図ることを怠らないようにしよう」

 

「了解しました」

 

 将和が兜の緒を締めたことで、参謀達も気を引き締めた。

 

 こうして、連合艦隊はMI作戦は最終調整に入ったのである。

 事の発端は開戦前からあった。将和達との衝突の後に樹立された畑政権が左遷させた(強硬派の)参謀将校達の逆襲であった。日陰の身となった彼(女)達は今回の本土空襲によって、不満を持った者達を唆して、指導者を排除し自分達の都合の良い代理人をトップに仕立てて再度中央に戻ろうと考えていたのである。

 そこで、チャンスが巡ってきた。

 

―――まさか皇居前で襲撃されるとは思うまい……

 

 幸か不幸か嶋野達は隙をみせてしまった。そこで襲撃を受けたのである。暴漢達は直ちに護衛兵に取り押さえられたが、襲撃を受けた嶋野は重傷。小磯総長は意識不明の重体という大惨事となった。

今回の事情を汲んだ周りは彼女の退任と同時に元帥への昇格を決めていたのである。軍人としては最高の地位である。生きて元帥府に列せられるのは葦原海軍の歴史を顧みても10人ぐらいしかいないため、栄誉あることであった。

葦原中津国の戦国時代の歴史です。

 MI作戦を強襲作戦にしたのは史実で相手に動きが読まれていたからと考えて企図したというわけではない。将和はすでに史実とは歴史敵の動きは変化していっていると考えており、同時に敵に此方の動きを悟られていないだろうという〝甘い考え〟を捨てて作戦を考慮したのである。

 また、史実でこうだったからと考え計画を立てたとして、実戦で敵が史実とは違った動きをしてきて此方の対応が効かなくなるなんてことは防ぎたかった。将和にとって史実知識はあくまで参考、、にしていただけだったのである。

 K作戦とはハワイにいると思われる敵機動部隊に対する偵察を企図した作戦のことである。

 作戦成功の成否はなんといって情報を掴んでおくことだ。この作戦に従事していた潜水戦隊は将和が提供した伊四百型潜水艦で編制した新規の潜水戦隊であることは言うに及ばないことだった。

 史実では限りのあった帝国海軍の潜水戦隊が別任務についていてミッドウェー海戦に間に合わずに敵機動部隊の動向を掴めなかったが、今世界では十分に潜水艦数に余裕があった葦原海軍はK作戦を実施出来たのである。

 開戦前みんな口には出さなかったが、大国ヴィンランドを敵に回して勝てるとは思っていなかった。それでもやらざるを得ないのならば、せめて一矢報いて、その間に名誉ある停戦に持ち込みたいと願っていた。

 ところが緒戦で大勝してしまったものだから、ヴィンランドもたいしたことないなという驕りがうまれてしまい、ひょっとしたらひょっとするかもしれないと考え始めた。

 インド洋ではセイロン島を攻略したので、トメニアの支援も可能となった。そうなればトメニアがブリトン、そしてルーシ連邦に勝つ可能性も芽生えた。

 そうすれば、枢軸国の勝利だ!

 そのような、ばら色の夢さえ一軍人達が描き始めるのも無理はなかった。




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