気が付けば目の前に広がる港町。漁港は多くの船がゆらゆらと揺れながら停泊している。耳を澄ませばザザーンと漣の音が響き、鼻腔と口にしょっぱい潮風の味が広がる。
俺はこの場所を知っている。ここは前世の生まれ育った故郷なのだから。
(また、この夢か……)
この故郷の夢を見るのは、別に今回が初めてではない。過去に何度か見たことがある。
(はぁ……。転生して20年近くだというのに、俺はどうやらまだホームシックを引きずってるようだ)
こうして夢に見るのだから、今でも俺は前世の未練があるのだろう。しかし一度死んだ今ではもうここに戻ることも出来ず、仮に戻れたところで死人に居場所はあるのだろうか?
ここには人はおろか、クゥークゥーと鳴くカモメもお魚をちょろまかそうとする野良猫の姿も見えない。懐かしい気持ちにさせ、郷愁に浸りたくなるが生き物が一匹もいない寂しい街だ。
それに今世の俺の故郷は極東にあるあの移動都市だ。海は無く、現代日本と遜色無い住宅街や古めかしい建物や施設が集約したこことは違う故郷。
今世では大事な人達が多くいる。彼らがいない此処でずっと留まるわけにはいかない。
(しかし、ここって何回も来てるけど出る方法がわからないんだよなぁ……。色々やってみたけど上手くいかず、いつの間にか目が覚めたってのが大半だったし。……ま、一眠りするなりして気長に待とう)
港の縁に座り込み背中を仰向けに寝転ぶ。穏やかな潮風の音と匂いを感じつつ瞼を閉じる。そしていつしか俺の意識は深く眠りについた。
―……う~ん、むにゃむにゃ……はっ!夢か……。
(知らない天井だ……)
知らない場所で目覚めるとつい言いたくなる台詞を頭に思い浮かべながら、俺は目を覚ます。
(確か俺、大通りで撃たれてそれから……ってキララ達は無事なのか!?──って、痛ってぇ!!)
意識が覚醒し気を失う前までのことを思い起こし、思わず上半身を起こそうとすると脇腹に強い痛みが走った。痛む脇腹に視線を向けると、そこは包帯で巻かれて傷の処置が施されていた。
部屋を見渡せばそこは病院で見るような病室のような部屋だった。僅かにアルコールの匂いがするが、清潔感は保たれていて綺麗な部屋だ。
窓はカーテンで閉められており、外を見ようとゆっくり身体を動かしカーテンを開こうとしたその時、コンコンとドアをノックする音が聞こえた。
「ブンカさん、失礼します」
部屋の扉から誰かが入ってくる。扉の方に視線を向けると白衣を着た医者と思われる男性が部屋に入り、起きている俺を見ると驚きながら会釈し、口を開いた。
「ブンカさん、気が付いたのですか?お身体の方は大丈夫ですか?」
「ああ。……ところでここは、それに貴方は一体……?」
「これは失礼しました。ブンカさんに一から説明いたしますがよろしいでしょうか?」
俺は了承し、医者っぽい人はあの後の事情など説明をしてくれた。
ここは龍門にあるロドスの事務所といい、倒れた俺はここに運び込まれ治療を受けていたという。そして運ばれる前に偶然ロドスと提携してる医療従事者が通りがかり、俺に応急処置してくれたらしい。おかげで傷の治療自体は問題無く処置され、大事に至らなかったという。
しかし治療後、俺は数日間も目が覚めず今に至った。多分あの夢が原因なんだろう。あの夢を見るとどうしても目覚めが遅くなったりする。
夢のことは一先ず置いとき、あの後キララ達は追撃もあわず無事らしい。それと怪我の連絡を聞いて駆けつけてくれたチーフと応急処置してくれた医者も、今この事務所にいるらしいとのこと。呼んでほしいと医者に頼んだ数分後、大人数でこの入院室にやって来た。
「うわぁぁん、よ”がっだよ”ぉぉぉぉブンカぁ~」
「ほらほらキララ、鼻をかみなって。顔凄いくしゃくしゃになってるよ~?」
「済まぬブンカ殿、私が守ってやれなかった」
「ブンカさん、無事でよかったです」
「大丈夫かいブンカ君?どこか具合が悪いとか無いかな?」
「いやはや、目覚めて何よりですなぁ」
「数日間寝てたけど、にいちゃん元気そうだな」
……どうやら凄く心配させてたようだ。キララは泣きすぎて顔がショボショボピカチュウみたいなってるし、そんな彼女をよしよしとウタゲが慰めている。ママァ……を感じる(バブみ)。
アカフユさんは俺を守れなかったというけど気に病む必要は無いし、突飛な行動してご迷惑をかけたのはこっちだ。スノーズントさんは無事に起きた俺を見てホッとしてる。
あ、チーフ。この度は心配かけてホンマすんませんでした。無事であれば何より?ホントこの人聖人ってくらい良い人やわ。でもお説教はする?あ、ふ~ん(察し)、……お慈悲^~、お慈悲^~。
──ところでそこのケモナー特攻な胡散臭そうなおっさんとにゃんこショタは誰ぞ?ふむふむ、おっさんの方はリーさんと言い、ケモガキフェリーンのはアというのか。フェリーンの君、ちょっと名前言いづらくない?
え、リーさんが狙撃した犯人を捕まえて、ア君が俺の怪我を応急処置してしてくれた人?マジかよ助けてくれたり犯人を捕まえてくれたりと、何か何までありがとナス!
にしてもまぁ、リーさんから犯人の話を聞いたけど、まさか俺が狙われていたとはねぇ。ただの大学生をどうして狙うのやら……え?プラモVSの大会チャンピオンやってるやつがただの大学生じゃないって?う~ん……言うて俺はただの一般大学生だゾ。
今のところ警察組織や八島商工会が犯行の裏取りや背後にいる黒幕などで事件は調査されているとのこと。まぁ一般人な俺にはどうにも出来ないし、警察がガバガバ治安維持機関でないこと祈りながら真相が明らかになるのを待つしかないか。
あ、でも一応義父に今回のこと連絡しておかないとな。流石にこういうの黙ったままだとバレた時がこえ~からな~って、ん?なんかノックする音が聞こえたんだけど?
そうして数回ノックされた後、俺は扉に「どうぞ」といった。そして扉が開き誰かが入ってくる。
「失礼する。ブンカという患者はここだろうか?」
現れたの白衣を着た白髪のフェリーンの女性であった。独自に改造した白衣から露出している右肩には感染者だと分かる源石結晶が析出していた。
──というかなんだあのドスケベフェリーンは!?白衣もワンピも明らかに医者な恰好じゃねぇだろ。(医者としての)教えはどうなってんだ教えは!?
ハッ!?まさかあれはエッチな看護するためにああも露出してんのか!?なるほどそれなら納得がいくぞ!だったらエッチな看護してください!
……あれ?なんかドスケベフェリーンの目が蔑むような視線になってこっち見てるんですけど?
「ブンカ、途中から心の声出てたよ。そりゃケルシー先生だってそんな目するよ」
「や~い、ブンカのスケベ~」
これマジ?そりゃすげぇ失礼なこと言ったわ。でも二人だってあれはドスケベな格好だって思うだろ?
「ちょ、飛び火はやめろって!すいませんケルシー先生!ブンカって変なこと言いますけど基本スルーしてください!」
「アタシドスケベトオモッテナイヨー、ホントダヨー」
「……ブンカ君、目上の方に失礼だよ?ちょっとお口をチャックしようか?」
あ、やべ。チーフが少し怒ってるわ。怒らすと怖いからワイ、余計なこと言わない。お口チャックする。
「……一先ず自己紹介をしよう。私の名はケルシー。ロドスの医療部門の総責任者だ」
おいおいおい、
「今回私が来たのは君に告げないといけないことがある。その前に一部の関係者以外は退出してもらっていいだろうか?」
ふーん?なんか重要な話かな?残る人は俺、チーフ、リーさん、ア、そしてドスケ……もといケルシー先生。キララとウタゲは駄目ってことはなんかプライベートなことに関わるのかな?
とりあえずキララ達は外で待っててよ。俺もよくわからんが悪いことは起きないでしょ。
「ふーん?まぁわかったよ、外で待ってるね?ほらキララ、邪魔になるから行くよ」
「う、うん。じゃあブンカ……待ってるよ?」
「事情があるのだろう。それならば私達は失礼しなければならないな」
「お、お邪魔しました~!」
「それでしたらケルシー先生。患者の方をよろしくお願いします」
キララ達が部屋から退出し、部屋は静まり返った。
「──さて、このような対処をする理由を説明するが、当の私も今回のことで半信半疑で来たのだ。故に状況の整理するためにもオペレーターのアに説明を頼みたい」
「オッケーケルシー先生。ぶっちゃけブラッドさんか来るかと思ってたけど、まさかトップがお出ましするとは思わなかったぜ」
「君からの報告でワルファリンが向かおうとしてたのだが、今回は総責任者の権限で私に代わらせてもらった。……それに、君達二人が揃うと患者に何をしでかすのかわかったものではない」
「信用無いねぇ。ま、確かにブラッドさんがいたら一緒に新薬の臨床試験するかもしれねぇけどな」
ねぇこの医者大丈夫?すげぇ不穏なこと言ってるんだけど。ナニカサレタヨウダな状態になってない俺の身体?
「安心しろって、あん時はウンの野郎がいたから何もしてねぇよ」
「そういうと話が余計こじれるから止めろっつてるでしょうが……。ブンカさん、アがあなたを治療している時はウンというストッパーがいたから何もされてないと思いますよ。アもむやみやたらと一線は超えねぇのはおれが保護者の保証します」
そっか~それじゃそれならヨシッ!(現場猫並感)ってことでもう気にしないでおくわ。
「話が反れちまったな。そんでアンタを応急処置したんだけど、こいつを見てくれ」
そう言ってアが取り出したのは血痕が付いたボウガンの矢だった。
「──この矢なんだが、鏃に毒と源石粉末が仕込まれていたんだ。それがどういうことかは
──後はわかるよな?」
アの言葉に全員が鏃を忌々し気に見てから、俺の方に沈痛な表情を浮かべてこちらを見た。え~っとつまり──
「……俺って意図的に鉱石病を感染させられたってこと?」
「ま、そういうことだ。……っとなるはずだったんだけど、な」
「「「「???」」」」
ん?なんか引っかかるな。要するに俺は感染者になったんじゃないのか?
「論より証拠ってことだ。ケルシー先生、こいつの診断カルテを見て読み上げてくれ」
アは数枚の診断表を取り出し、ケルシー先生にそれを渡す。彼女は受け取ったカルテを読み始め結果を口にした。
「……造影検査の結果、臓器の輪郭は明瞭で異常陰影も認められず、循環器系源石顆粒検査において鉱石病の兆候は認められない、だと?ア、君の言いたいことはまさか──」
「造影検査に関しては患者が寝たきりだったから簡易的にしか検査してねぇけどよ、少なくとも腹部に病巣があってもおかしくねぇのに反応も何も無かったんだ。それにこいつの【血液中源石密度】は0.08u/Lとやけに低いと来た。こんなことが分かったから念の為に医療部でそれなりの地位のある人物、俺が連絡取れそうな相手としてブラッドさんを呼んで話を聞こうとしたんだ」
「ア先生、つまりブンカ君は……」
チーフが恐る恐るアに尋ね、アは「ふぅ」と一息ついてから口にした。
「──患者ブンカ、こいつは現時点の診断結果からして鉱石病は未感染と判定するしかねぇな」
はえ~、俺って鉱石病に感染してないんすね~。
――えぇ??????(宇宙猫状態)
ブンカ
目覚めたらなんかとんでもない診断結果された
ア
寝たきり中の主人公の検査結果に一番驚き宇宙フェリーンになった。その後ロドス医療部でそれなりの地位がある人に報告すべきと判断しワルファリンに連絡した。けどケルシーが来るとは思ってなかった。
鏃のことはほぼ誰にも話しておらず、リーと患者の関係者であるタケナカにしか話してない。しかし診断結果はインフォームドコンセントとしてこの時まで秘密裏にしておいた。
ケルシー
龍門に向かうワルファリンを見かけ尋ねてみたら、アからの連絡と何となく自分が向かった方が良い予感を判断し無理矢理代わった。
患者の診断結果に内心思わず宇宙フェリーンになった。
リー、タケナカ
患者の診断結果を聞いて、これ自分らが聞いていいのかとちょっと迷った。