──朗報? ワイ、感染してなかった件について。
確か源石を直に触れるなり体内に取り込んだりすれば鉱石病は必ず発症するよな。それは俺もよくわかってるし、バイトの仕事でも源石扱う業務に関しては厳重に防護措置を施して行ってる。
そんで今回、源石粉末を仕込まれた矢を直に撃ち込まれた俺は感染して当然だったはずだ。なのに感染してないって、もしかしなくても厄ネタ案件か? (そうだよ)
「ま、どのみち精密検査しないと正確にはわからねぇが、非感染の結果に変わらねぇと思ってるぜ、俺は」
「……それでは患者ブンカ。すまないがロドスとしては精密検査に協力してもらいたいが構わないか?」
うーん、これ「はい」か「Yes」の選択肢以外無い気がするんだけど。まぁこっちとしてもはっきりした方が良いし受けてもいいや。
あ、でも検査でキララ達に時間かかることを連絡しないとな。
「君の協力に感謝する。彼女達には私の方で説明しておこう。では患者ブンカ、私に着いて来てくれ」
ん、おかのした。
その後色々と検査(意味深ではない)されまいっちんぐだったがどうにか無事終わり、結果は──
「──以上の結果から、患者ブンカは鉱石病非感染者と判定だ」
知 っ て た。
まぁそゆことで診断結果が判明してはい、終わりって訳にもいかなくなった。今度は会議室っぽい場所に連れられ、先ほど俺の病室にいたメンバーと、
『本当は私から直接会いに来るべきなのだが、こちらも仕事でここから離れられず画面越しで申し訳無いね、ブンカ君』
「お気になさらず。こうして一介のバイト相手にわざわざ連絡を取っていただいたことに感謝いたします。ヤジマ社長」
タブレット端末から画面越しで話しかけている妙齢なオニの女性。彼女は俺とチーフが勤めている八島商工業の社長ことヤジマさんだ。
俺が中学生の時、地元での学生の自由研究展覧会にて彼女が俺の研究内容に興味を持ち、八島の伝手を直接結んでくれた本人である。この世界の科学技術などを学ぼうと思っていた時にこうして縁を結べたのは幸運以外の何者でもなかったため、彼女にはその機会を与えてくれたことに感謝している。
社長もチーフと同様にプラモVSや八島の仕事関係で龍門に滞在していたため、チーフに頼んでどうにかビデオ通話を繋げてもらい、今回の内容を伝えることが出来た。ケルシー先生からの許可も取ってある。
『その一介のバイトである君はプラモVSという人気コンテンツを生み出した立役者の一人だがね。社長として優秀な人材への礼節は当然のことさ。
……しかしまぁ、君も大変なことに巻き込まれたものだ。タケナカから話を聞いたが、未だにその診断結果が信じられない』
そう言って苦笑する社長。鉱石病に耐性を持つ人間なんてそりゃ聞いたことないしな。当人である俺ですらそう思ってる。
『……そしてロドスの皆さん。改めまして、私の大切な部下の命を救っていただきありがとうございます』
「ロドスは自らの理念に対し為すべきことを行っただけに過ぎません。それと我々としては彼について提案があるのです、ヤジマ社長」
ケルシー先生からの提案。それは俺がロドスに来ないかということだった。
意図としては何となくだが予想は出来る。源石を体内に入れられて感染してない身体なんて、鉱石病の研究者からしたら興味を引く以外の何物でもない。鉱石病治療を掲げるロドスも目を引くのは当然だろう。
ただケルシー先生、というよりロドス側の思惑としては今回の勧誘は鉱石病研究の協力というよりも、俺の身を案じてロドスで保護出来ないかという意味で主張していた。研究に関してはもし協力してくれるならありがたいと言っていたが。
鉱石病や感染者関連の企業からすれば俺の存在は喉から手が出る程に欲しいもので、そのためならどんな非道な手段や実験も問わないと予測されるという。
ロドス側はそれらの感染者問題を未然に防ぐために、このことを知ってる者が少ない今のタイミングで可能なら俺を迎え入れたいとのこと。
そんなケルシー先生の提案だが、社長とチーフは難しい顔をしていた。
『……正直難しいわね。彼を助けてくれた恩はあるにしても、その提案に乗るかと考えると……』
「彼の保護者の一人として申しますが正直な所、私はロドスのことを未だ半信半疑なとこですね。一応ロドスは善よりの組織と見たいのですが、こういった感染者ビジネスで成り立つ組織は闇が深いのもまた事実であり、信用したくてもそう簡単にあなた方を信用出来ないのです」
「あなた方の疑念は否定はしません。故に私達も今回の提案は強制ではないため断ってもその意思を尊重し、彼への強制や監視もしないと約束します。
……しかしもし、彼をロドスに預けて頂けるのであれば、医療部総責任者として彼には可能な限りの便宜は図るつもりです」
悲しいことに感染者関連の組織に対する世間の目は冷たいものだ。大多数が弱みに付け込む悪徳商法での搾取ビジネスだったり、有名どころだとこの間大きな事件を起こしたレユニオン・ムーブメントといったテロ組織だったりするのが多い。偶然とは言え俺の命を助けてくれたロドスだが、搾取ビジネスのための必要経費として行った策と考えられるし、今後俺に非道な実験を行わないという保証もない。
『……まぁ、外野である私達がとやかく言うよりかは、当人がどう思ってるのか聞いてみたいわ』
「ブンカ君、君はこの提案をどう思っているんだい?」
「……そうっすね、結論から言うとお二人が許していただければ、ロドスの提案に乗ろうかと思ってます」
『あら』
「ブンカ君!?」
「……意外な返答だ。正直断ると考えていたのだが、何か理由があるのか」
なんか意外そうに思われているけど、俺がこう言った理由は3つある。
一つ目の理由、今のまま極東に戻るのはどうも嫌な予感がするってことだ。実行犯は捕まったがおそらく今回の犯行には裏に誰かが確実にいる。しかもどういう意図で自分を狙ったかはわからん。それに毒殺か感染者にさせようとしてきた以上、生命的にも社会的にも問わずどうしても自分を確実に殺そうとしてきたのは事実だ。
そんな黒幕は極東にいると想定して、感染者と思われてる俺がわざわざ感染者事情に厳しい極東に戻れば、そいつはこっちの状況に違和感を感じるだろう。最悪そいつが俺が鉱石病に患っていない事実に感づき、そうなれば奴は嫌がらせでさらに過激な手段を仕掛けてくる可能性がある。
下手すればうちの義父や社長にチーフ、最悪キララ達や彼女達の家族にまで手を掛けてくる可能性がある。
あと黒幕はただの大学生である自分を暗殺のターゲットにしていたことにキナ臭さを感じている。もしかしたら八島の中に黒幕あるいは内通者がいるのではと思ってる。
そんな八島に戻るのも不味いだろうし、事件と社内の事件関連調査とかは社長やチーフにお願いするしかない。流石に無意識に操られてたとかならどうしようもないが、二人が内通者だとは今までのお付き合いからしてほぼあり得ないと考えている。
長々と言ったが、要はほとぼりが冷めるまで極東以外の場所で雲隠れしたいということだ。
二つ目の理由は、個人的にロドスは現状信用出来そうな感染者組織と判断した。もちろん社長やチーフの懸念通り、こういう鉱石病や感染者関連の組織には暗い裏はあるのが普通だ。
しかし今回でロドスを信用に足る要素が確認出来ている。それは親友であるキララ達とアカフユさんだ。
大会後の会合で彼女達と話をしたが、親友である二人はロドスでの生活を多少のしがらみがあるとは言え、今までの日常にほぼ近いと言ってた。ロドスからそう言わされている可能性もゼロでは無いが、直に対話してそういった感じは無く、彼女達は心からロドスでの生活を楽しめていると思ってる。
それと要素であるアカフユさんだが、彼女は風貌からして極東北部の武士なんだろう。極東北部の武士は仁義や尊厳を大事にする武士道を重んじる人で、人道無視なドブラックな場所に居続ける人とは思えない。
もしロドスがろくでなしな企業だったらすぐにこの場から立ち去っているだろう。逆にこうして居続けているということは弱みを握られているでもない限り、ロドスは彼女にとって信用に足る組織だと言う証明になりえる。
まぁ重要研究対象として価値のある俺と、一般患者や協力者の彼女達ではおかれる立場は違うかもしれんが。それでも自分という貴重なサンプルを使い潰す真似をするほどロドスは愚かではないと思っている。
あと個人的に鉱石病の研究に協力することは吝かではない。自分の身体で鉱石病のメカニズムの解明がされれば、キララとウタゲ──大切な友達の鉱石病を治療出来るかもしれない。流石に臨床試験で失明や聴覚障害、四肢欠損など五体不満足になることは御免こうむりたいが、採血程度の協力ならまぁ良いかと思ってる。
最後に三つ目の理由、俺がロドスに出向くことには八島商工業にもメリットがあるということだ。今回のことで俺自身がロドスと八島商工業の繋がりとなる楔になれないかと考えていた。
ロドスでは鉱石病の治療をしているだけではなく、感染者の暮らし向上改善も考えているのだとキララ達から聞いている。八島はアミューズメントや工業関連の事業を手掛けてるし、ロドスに対し娯楽や生活物資の提供や支援は出来るのではないかと考えてる。
それに、社長も以前に八島内部で万が一にも出てくるであろう内部の感染者の治療・受け入れ先を考えていたのは聞いたことある。もし今回の交流で互いが信用できる企業であることが協定を結ぶことが出来れば、八島は今後の感染者に対する問題の対応手段を得れるだろう。ついでに、八島も感染者という新たな顧客の販路を広げられるから商業的にもメリットがある。
ぶっちゃけ個人的に言えば、ロドスみたいに人として真っ当な理念を持ってる感染者団体はテラ中を探しても滅多にいないし、この繋がりを逃すのはお互いに……いや、八島にとって多大な不利益を被ってしまうと思っている。
「──以上がロドスの提案に乗る理由です。細かい取り決めなどはありますがどうでしょうか?」
そう俺が話し終えると、部屋にいる皆が目を丸くしながらこちらを見続けていた。
……あれ、なんか不味いこと言っちまったか?
「ああ、すまない。若い身としては随分としっかりした考えを持っていて驚いただけだ。君の意見はこちらとしては願ったり叶ったりになる」
『まさかそんなことまで考えていたなんてねぇ……。タケナカ、今すぐブンカ君の正社員昇進手続きを行えるようにしなさい。こっちは今回の事件での人員の洗い出しと事情聴取を行うわ』
「問題ありませんよ社長。この時のために彼の昇進準備は整えておりますので、いつでも出来ます」
「いやはや、最近の若ぇもんはしっかりしてんなぁ。アも彼の事を見習いなさんな」
「おいおい、俺はそんな柄じゃねぇよ。そういうのはどっちかっていうとウンやワイフー姉の役割だろ」
お、おう。なんか話はまとまってくれた感じか?
あ、チーフ曰くなんでも今までの働きから正社員として昇進できるように準備をしていたという。けど直ぐにこうしなかったのは、こちらの大学生活に配慮しての事だったらしい。今回の事で大学は中退をせざるを得ないため、遠慮する必要がなくなったわけだ。
こっちとしても今回の事で社会的な立場は消失するのでとても助かる。かんしゃ~。
「では1ヶ月後ロドスはブンカ氏、君を迎え入れる。それまでに必要な手続きなど済ませておいてくれ」
『ブンカ君、八島の方での手続きや準備は私とタケナカで用意しておくわ。大変な苦労をさせるかもしれないけど、ロドスと八島の関係構築、貴方に任せます。頑張ってね』
ん、おかのした。
さて、八島への手続きはチーフがどうにかしてくれるとして、こっちでやるのは大学中退や引っ越しの準備に義父の連絡、そして親友の二人への今回の説明だな。思わぬ状況になったけど、ちゃちゃっとやっちゃいますか。
─寂しいけど暫しの別れだ、
ブンカ
診察結果に関しては「まぁ、そんなこともあるか」とすんなり受け入れている。
自身の提案は打算に対価やリスクを踏まえた上で最善策として話した。とは言え前世の日本に近い国であった極東から離れるのは少し寂しさを感じた模様。
ケルシー
テラでありえない事例に患者が困惑するかと思ったが、存外に冷静な判断していたことに驚きながらも感心している。
ロドス的には彼の提案はありがたい提案と思っている。
ヤジマ、タケナカ
主人公のバイト先の社長と上司。ブンカの提案は会社にとってありがたいのと同時に、年若い彼に会社への気遣いさせてしまったことには負い目を感じている。
将来有望で大事な人材に舐めた真似をされたため、今回の事件の黒幕は使える伝手をフルに使い徹底的に追い詰める予定。