一ヶ月以上も寝かせちゃって本当に申し訳ありません。リアルで忙しかったのと難産だったのがダブルパンチできたせいで滅茶苦茶遅れちゃいました。
それと三話に出てきた呪霊の術式なんですが、勝手ながら少し変えさせていただきました。前のが“確実に不意打ちを成功させる術式”で、一回の戦闘で一度きりしか使えないという設定なんですが、それを“一人につき一度きり確実に不意打ちを成功させる術式”に変わりました。この場合では真人にはこの術式が効かないことになります。
変更後の術式は術式対象一人に対して一度きりの成功となるので、一度術式を使った相手が近くにいた場合は成功しない場合があると言った感じに変わりました。
本当ややっこしい説明ですみません。
━━━━真人が七海を逃がしたすぐ後
「虎杖君、無事ですか。無事ならば状況の説明を」
『ナナミン!やっと繋がった。順平は見つけて……今伊地知さんの車の中にいる』
「吉野順平の拘束を即時お願いします、最悪の場合彼が呪霊に襲われる可能性があるので」
『……!分かった!!』
そう返事が返ってきて直ぐに電話が切れ、七海は虎杖の所へ向かおうと歩き出す。
(……あの武士のような呪霊、恐らくは五条さんが取り逃した単眼の呪霊の仲間だな)
意思疎通が可能なほどに言葉を喋り、そしてあの呪力量、低く見積っても一級が妥当だ。
(……あの時の言葉)
『こいつは俺が相手する!!お前は虎杖悠仁の所へ急げ!!』
(……演技の可能性も捨てきれない……だが)
七海の中で、あの時の呪霊の目が、どうしても
「……善性を持った呪霊なんて、存在しないはずでしょう」
負の感情が集まった結果に生まれる物が呪霊なのだ、その中に善性など存在するわけが無い……だがどうしても七海には、あの呪霊が人に害を与えているようには見えなかったのだ。
「兎も角、今は虎杖君と合流しなくては」
━━━━20:15 駐車場
「順平、前行った映画館でツギハギのやつに会わなかったか?」
「ツギハギ……?」
車の中、順平と隣合って座った虎杖は、早速聴取を始めていた。
「さっきお前の事襲ってたバケモン、そいつの仲間かもしれないんだ」
「……!!」
反応からして関係があることは明白。あとは情報を聞き出せれば
「…………もしその人を見つけたとしたら、虎杖君はどうするの?」
「……祓う。さっきみたいに」
ハッキリと、包み隠さずに伝える。たとえそれによって順平が話さないという選択をとったとしても。
「じゃあ、話すことはなんにもないよ」
「頼むよ、もしかしたら人が大勢死ぬかもしれないんだ!」
虎杖は順平の肩を掴み、その目を真っ直ぐに見つめる。
「……虎杖くんは、僕のことを助けてくれた恩人だよ」
「……だったら!」
「けどあの人も!僕を助けてくれた恩人だ!」
その勢いに、虎杖が気圧されてしまう。ここまでの激情を人からぶつけられる事など、数える程しかなかったからだ。
「……虎杖くんと真人さんが殺し合うなんて、僕は嫌なんだ」
「……そっか」
車内がしんと静まり返ったその時。ふとコンコンと、車窓を叩く音が聞こえた。
「……鳥?」
燕のような姿をした鳥が、順平の側の窓に止まりくちばしで車窓を叩いていたのだ。
「紙を咥えてる……?」
「……呪霊の呪力だ、下がってくれ順平」
順平を下がらせ、慎重に窓を開けると、鳥は咥えていた紙だけを虎杖に渡して飛んで行ってしまった。
「なんか書いてある……?」
━━今夜21時、里桜高校に虎杖悠仁のみで来い━━
「……真人さんだ」
「……狙いは順平か」
紙をくしゃりと握り潰し、伊地知へと向き直る。
「伊地知さん、俺行くよ」
「……ダメですよ虎杖君、相手は特級です。七海さんに連絡は済ませてあります、彼が到着するまでは待ちましょう」
「でももう20時だ、ナナミンもすぐには来れないだろうし、ここで逃がしたらもう会えないかもしれないだろ」
伊地知は、少年院での一件で虎杖を死なせてしまったことをずっと悔いていた。自身が彼を送り出さなければ、彼が死ぬことは無かったのではないか、自身が間違わなければ、彼の心に傷を残すこともなかったのではないかと。
「頼むよ、伊地知さん」
けれど伊地知は、その目を知っていた。学生だった時に何度も見た……先輩達の、呪術師の目を。
「……危険と判断したら、戦闘をせずに逃げてください。七海さんもそこまで遅くなることも無いでしょうから」
「……ありがとう!!」
「……ッ虎杖くん!!」
そう言い車から出て、里桜高校へと向かおうとした虎杖を、順平が引き止める。
「僕も、一緒に行かせて欲しい」
「ダメだ、順平は術師じゃないし、何より相手は特級だ。危ない時に庇えるかも分からない」
言い聞かせる様に順平へ語りかけるが、埒が明かないと察すると順平が外へ出る前にドアを閉める。
「……ごめん、順平」
伊地知へ目配せをして車を発進させてもらってから直ぐに、虎杖は里桜高校へと走り出した。
━━━━20:50 里桜高校 校庭
「……案外早く来たね、虎杖悠仁」
「ツギハギ……お前が真人ってやつか」
辺りを見渡しながら、真人とは一定の距離を取って、虎杖は姿を現す。
「そんなに警戒しなくて大丈夫だよ、俺戦う気なんて無いし」
「……信じられるわけねーだろ」
順平から話を聞いているとはいえ、相手は呪霊。信用などできるはずもない
「……ほんっと昔から呪術師って強情だよねー」
そう言いながら真人は両腕を切り落とした。
「ほら、それで信じられる?なんなら縛りでも結ぼうか?」
「……いや、いい」
真人は呪霊だが人型だ、雰囲気も呪霊よりも人に近いため、虎杖はそれが自分のせいで傷つくことが嫌だったのだろう。
「そんじゃ本題、単刀直入に行こうか……実はとある呪詛師を筆頭に呪霊達が徒党を組んでるらしくてね」
「……もしかして、あの富士山の呪霊か?」
「なんだ知ってたんだ、まあそれなら話が早い。問題はその呪詛師でさ、そいつの今の名前が……」
「……は?」
黒い液体のようなものが里桜高校を囲ってドーム状に広がり、周囲が夜の様に暗くなる。
「帳……?なんで……」
「虎杖悠仁!!説明は後だ!今はとにかく周りを注視しろ!!」
真人がそう叫び、周囲へ意識を向ける。もし下水道で戦った呪霊がいるのならば、
「後ろだ!!」
その一言を聞き脳内で咀嚼する前に、虎杖は後ろへ回し蹴りを放っていた。
「……ッ呪霊!?」
『へぇ……流石というか、いい判断だね。刀が弾かれてしまったよ』
「羂索!!!」
真人が下水道で戦った呪霊が、虎杖の背後から斬りかかったのだ。
『おや、その名で呼んでくれるのか、てっきり加茂の方かと思ってたよ』
「どうでもいい、何のつもりだ」
『なあに、ただの嫌がらせさ。さっきはしてやられてしまったからね』
軽薄な笑みを浮かべながら、弾かれた刀を拾い上げる。まるで真人たちを一切気にしていないかのように隙だらけでだ。
『君、どうせ私が何したって五条悟へ私について伝えるつもりだろう?別に代替案はあるから構わないんだけどさ、私だけが損するなんてのも癪だからね』
「だから虎杖を殺すってか?嫌がらせになってねえだろ」
『これは単に彼の成長を感じたかっただけさ、私の目的は吉野順平だよ』
「は?」
呪霊がそう言うと、暗がりから細長い呪霊に巻き付かれた順平が運ばれてきた。
「順平ッ!!」
「……ッッッ!!」
真人が奥歯を噛み締める姿を見て、呪霊は気味の悪い笑みを浮かべる。
『いいねえ、いい顔をするじゃないか。江戸の時以来かな?君がそこまで肩入れする人間なんて』
「手ェ出さないんじゃ、無かったのか……!!!」
『嘘に決まってるでしょ、縛りでも結んでおくんだったね。安心しなよ、
真人の顔が、憎悪で埋めつくされたかのように歪み、それを見た呪霊は興奮するかのようにさらに口角を吊り上げた。やがて堪えきれなくなったかのように大声を上げ、おぞましい声を上げ笑い出す。
『
「…………殺す」
表情が抜け落ちたかのように真顔になった後、ただ一言、長年煮詰まった呪いの言葉だけを呟いた。
「テメェッ……伊地知さんをどうした!!」
虎杖が里桜高校へ向かった後 、順平は伊地知が安全な場所まで送り届けるはずだった……だが今順平はここに居て、伊地知は居ない。それが何を意味するかは、虎杖にも容易に想像が着く。
『……ああ、あの補助監督か……どうかな、少々強引に連れてきたからね。もしかすると死んでるかも』
心底つまらなそうに、まるでどうでも良いことかのように虎杖の質問へと答える。
「……ッテメェ!!!」
『おや、彼の生死は今私が握っていることを忘れないでね?私としても殺したくはないんだ』
ヘラヘラと笑っている呪霊に対し、虎杖と真人は手をこまねくことしか出来ない。何とか状況を変えようと必死に頭の中で解決策を導き出そうとしていたその時。
順平を縛るように巻きついていた呪霊が、鉈によって祓われた。
「……状況の説明を、虎杖君」
━━━━21:15 七海建人 到着