か、カマクラが若返ってる!?   作:9ナイン9

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カマクラがKAMAKURAします。


第一章:従魔邂逅編
1:どうやら、俺の人生は再び動き出すようだ。


 半年前、勤めてたブラック企業が倒産の危機に瀕して、俺を含む10人以上が整理解雇された。

 まぁ分かるよ? 俺は営業部とかみたいな直接的に利益を生む部門じゃなかったし、間接部門である総務部から人員整理されるのは予想出来た事だ。

 それに不幸中の幸いか、会社都合退職だから失業保険金も結構貰えた。

 

 それでも俺は思う。理不尽だろ!って。

 なーにが『比企谷君。君は優秀だし若い。こんな会社で埋もれるのは勿体ない人材』だ! あのクソ上司。

 腹いせに、1度も使わせてくれなかった5年分にわたる有給分の金と、今までの残業代をくれないなら訴えるぞって脅してやった。

 受けてきた仕打ちの数々の証拠資料を上司と社長に見せたらすんなりと払ってくれたのは拍子抜けだったのは覚えてる。やっぱりブラック企業には強く出るべきだな。ブラック企業は図太く生き残る為なら意外とすんなり払ってくれる。労基だとかの役所に目を付けられると企業的に面倒だってのもあるかもしれないが。

 

「にゃ〜ん」

 

 カマクラの鳴き声で、憎しみに囚われかけた頭が冷静になる。

 カマクラは俺が実家から引き取った。

 小町が大志と2人暮しするってなった時に、両親が社畜過ぎてカマクラの面倒を見れないってなったから小町達が引き取る筈だったんだが、何故かカマクラはテコでも動かなかった。で、偶々リストラされて時間が余った俺が実家に顔を出したら、カマクラがずっと俺から離れたがらないせいで俺に白羽の矢が立ったって訳だ。

 カマクラって昔は、俺より小町に懐いてた筈なんだけどな……。

 

「おっと、もう飯時か」

 

 そんな俺とカマクラは千葉県のド田舎である富津市に住んでいる。

 退職に伴い、勤めてた先の社員寮から出た俺は一旦実家に帰ったのは良いが、新たな住居先に困っていた。無職を住まわせてくれる賃貸物件が中々無かったのが原因だ。

 そんな時たまたま『無料で空き家譲ります』と言うのを、サイトで見つけたから試しに応募したらスムーズに話が進んだ。実際、不動産登録など諸々の費用で10万ぐらいは掛かったけどな。お陰で残金は588万円。大学の時から地道に貯めた金だ。因みに家の補修は自力でDIYした。

 

「あと2年は何もしたくない……」

 

 愚痴を零しながら、カマクラにキャットフードを差し出す。

 約6年に渡るブラック企業勤めのせいで、精神がすり減った俺は現在無気力状態。だから今は、田舎で自然に囲まれながら精神を療養中って訳だ。

 俺はアラサー。カマクラは老猫。気づけば、あの頃の平塚先生と同じ歳になっちまったよ。オマケに無職。

 とりあえず来年から本気だす。だから今から寝る。昼から寝るなんて俺って超健康的じゃん。

 

「俺は寝るけど、お前はどうする?」

 

「にゃ〜」

 

 この気だるそうな感じだと、まだ縁側で日向ぼっこしたいって感じか。

 

「お前も歳なんだから、あんまり動き回るなよ」

 

 俺はカマクラにそう言い残し、寝室へと向かった。

 

♢ ♢ ♢

 

「ふぁ〜今は……げっ、18時か。流石に寝すぎたな……」

 

 1日を無駄にし過ぎた事を後悔しながら俺はベッドから立ち上がり、キッチンに向かう。

 本当なら動画サイトで色々と見る予定だったんだがな。野菜の育て方とか。

 

「あれ?お〜い、カマクラ〜飯だぞ〜」

 

 オカシイな。カマクラはこの時間だと、いつもならキッチンでスタンバってる筈なんだが……。

 

「カマクラ〜飯抜きになるけど良いのか〜」

 

 声量高めで何度か呼んでみるが、やはり来る気配が無い。

 そして、不安が募ったのか、俺の脳裏に最悪のワードが過ぎった。

 

「死期……!?」

 

 猫は死期を悟ると身を隠すと言う話を聞いた事がある。

 そうだった、カマクラは猫の中だともう結構な歳だ。

 カマクラ、なんでだよ。俺ら家族だろ……。兎に角探さないと!

 俺は慌てて家中の隙間を探し回るが、

 

「いない!!イヤイヤ、落ち着け俺。あんな老体で遠くには行かないだろ」

 

 自分に言い聞かせながら探索範囲を外に拡大する。

 本当にどこ行った!? 最後ぐらい一緒に居させてくれよカマクラ……。

 俺は屋根や木の上に登ったりするが、結局カマクラを見つける事が出来なかった。

 

「結局また1人かよ……」

 

 木に寄り掛かりながら座る俺は、つい寂しくなって弱音が出てしまった。 

 大学の時に色々あって雪ノ下とは別れて疎遠になった。由比ヶ浜は気づけば彼氏が出来て幸せになってた。

 時間は進むし、永遠では無い。歳を取るに連れて環境が変わるのは分かってた。

 それでも最近ずっと一緒に居すぎたせいか、カマクラだけはずっと一緒に居てくれると、どこか甘えてたんだ。

 

「カマクラ……1人にしないでくれよ……お願いだから……逝かないでくれ……」

 

 カマクラとワンニャンショーで初めて会った時から今日までの事を思い出すと、涙がとめどなく溢れてくる。

 もっと一緒に居れば良かった。

 もっと好きな物を食わせてやるべきだった。

 もっと撫でてやるべきだった。

 もっとカマクラとの思い出写真を撮りたかった。

 どんなに悔いても、失った命は戻らない。確かなのはカマクラと過ごした十数年の思い出は、間違い無く俺にとってかけがえのない宝物って事だ。

 

「歳を取ると涙脆くなるな……。早く見つけて弔ってやらないと」

 

 手で涙を拭ってると、もふもふとした暖かい感触が腰の辺りからしてきた。

 

「うん?」

 

 カマクラと同種、サバトラ種の若い猫が俺の腰に身を寄せてスリスリしている。

 若い時のカマクラにそっくりな猫だな。慰めてくれてるのか……?

 

「お前も一人ぼっちなのか?」

 

 どこかカマクラと重なり、俺は猫を抱えて間近で見てみる。

 何と言うか、この猫見れば見るほどカマクラと瓜二つだな。

 

「にゃ〜♪」

 

 この鳴き声って……

 

「……はっ!?」

 

 ガキん時から何年も聞いてきた声だ、絶対に聞き間違える筈が無い。

 

「にゃ〜♪」

 

 そして、俺は有り得ない事を口走った。

 

「か、カマクラが若返ってる!?」

 

♢ ♢ ♢

 

 俺は目の前でキャットフードを食べるカマクラをずっと観察してる。

 豪快に食べる感じが、まんま昔のカマクラなんだよな……。

 どうやら猫違いってのは無そうだ。

 

「にゃっ!」

 

 カマクラは5分も掛からない内に食べ終えると、ジャンプからの空中で綺麗なバク転を披露しだした。

 

「………っ!!」

 

 俺は驚きの余り声が出なかった。

 いったいどうなってる? 寿命間近だった猫にはとても思えないんですけど?

 気になった俺は、他人の知恵を借りるべくスマホを取り出さした。

 

「やっぱりヒットしないか………」

 

 スマホのグーグル先生で『猫 若返り』と調べても、それらしいモノは何もヒットしない。正確には猫の美容とかは出てくるんだが、カマクラが美容でどうにかなるレベルの若返りだとは到底思えない。

 

「にゃっにゃっ!」

 

 カマクラは右の前足で、床を叩きだした。

 

「まだ食うのかよ……」

 

 もう確定だわ。この図太い感じはカマクラだわ。

 どこか安心感を覚えてると、あるモノが目に付いた。

 

「ここの床って、こんなヤワだったか……!?」

 

 カマクラが叩いた床の部分が、おもいっきし凹んでる。

 なんか嫌な予感がする……。

 

「にゃ……にゃっ!」

 

 風が吹いた。

 カマクラがクラウチングスタートみたいなポーズをとったと思ったら、有り得ない速さで俺の顔面を横切ったのだ。

 

「……え?」

 

 今のはなんだ。あんなロケットみたいな飛び出し方はトムとジェリーの世界でしか見た事無いぞ。

 驚きながらカマクラが飛んで行った方向を見ると、戸棚の上にあるツナ缶を咥えて、こっちに戻ってきた。

 

「普通に開けてるし……」

 

 そして器用に爪で円を描くように切り開けて、皿の上に出した。

━━━俺は幻覚を見てるのか?

 元々カマクラは賢い方ではあったが、これは賢いってレベルじゃない。純粋に知能が高い。いや高くなったと言った方が良いな。それに爪もオカシイ。薄いとは言え、鉄製の缶を容易く切るなんて規格外だ。

 カマクラさん進化した? ヒトヒトの実でも食べた? あの世で神様に会ってチート能力でも貰った?

 何にしろ普通じゃないのは確かだ。

 それならコッチも普通じゃない確かめ方をすれば良い。

 

「なぁカマクラ……どこで超パワーを貰ったんだ?」

 

 カマクラが規格外の知能を有してるなら俺の言葉が分かる筈だ。

 若返りは分からないが、超パワーには心当たりなら有る。あるが……ソレがこの富津市の田舎に有るなんて聞いた事が無いし、有ったら大騒ぎになるかもしれない。

 

「にゃっ」

 

 カマクラは食べ終えると、俺に首で着いて来いと合図を送って、何処かへ向かって歩きだした。

 

 カマクラに付いて行くと家の裏庭に着いた。俺が結構前に木の板で蓋をした所を、カマクラが前足を使って叩きだした。

 

「ここに何かあるのか?」

 

「にゃ〜」

 

 頷いってるって事は、どうやら若返りの答えがここに有るらしい。

 ここって小さい穴があったから俺が安全の為に木の板で蓋した所だよな? 中に何かあるのか? ちょっと怖いんですけど。

 僅かに不安を感じながら木の板をどけると、

 

「おいおい……これってダンジョンゲートか!?」

 

 黒いゲートを見ながら俺は思う。最悪の予感が的中したと。

 ダンジョンゲート。それは俺が大学2年の時に突如と世界各国で起きた現象。最初に観測されたゲートはオーストラリアのタスマニア州。今だと日本では1000を超えるダンジョンが観測されている。

 ダンジョンの中には様々な恩恵がある。例えばラノベやゲームでお馴染みのポーションの材料であったり、万病を治す薬の材料等の不思議な産出物が挙げられる。そう言った材料を求めてダンジョンに入る奴らを世間は攻略者、探索者と呼んでいる。

 

「どうすれば良いんだよ……」

 

 もちろん美味い話だけでは無い。ダンジョン内にはファンタジーモンスターがウロウロしている。日本は当初自衛隊を送り込んだが、敗北を喫した。何故かナイフは通用するのに銃火器が通用しなかったからだ。厳密にはゴブリン等の雑魚モンスターには通用したらしいが。

 各国が対応に遅れる中、中国はとち狂ったのか、ダンジョンを一般人に公開しだした。だが、これは想定外の自体を巻き起こしたのだ。若い世代、主にファンタジーに詳しい若者達が予想以上の戦果を挙げる事に成功。で、各国が真似て今の状況にあるって訳だ。

 

「申請するの面倒いんですけど!」

 

 スマホで調べた限りだとダンジョンゲートは至る所にある。ビルの屋上や中だったり、私有地、川、無人島。私有地の場合は県のダンジョン課に申請すれば所有が認められる。問答無用で資産税が跳ね上がるけどな。逆にダンマリを決めるのはアリだが、バレると罰金処分を受けてしまうと書かれていた。

 

「とりあえずカマクラの件はちゃんと確かめないとな」

 

「にゃ〜♪」

 

 何こいつ、また入りたいの? 俺ゴブリンにすら勝てる気がしないよ? なんならスライムにも。

 

「ええい!どうにでもなれ!」

 

 恐怖と僅かなワクワクを感じながら、意を決してカマクラと一緒にゲート内に入ってみると、中は薄暗い洞窟であった。天井の鉱石が発光しているようだが、あまり遠くまでは見渡せない。

 何だかんだ俺も男の子って事か。年甲斐も無くダンジョンにワクワクを感じるとはな。

 

「にゃ!にゃ!」

 

 通路の途中でカマクラが鳴きだした。

 まるでココ!ココ!って言ってるようだ。

 

「この辺りで若返ったのか?でも、なんも無いぞ……」

 

 辺りを見渡すが、石ころしか目につかない。

 考えろ、考えろ。カマクラは魔力みたなモノを浴びて若返ったのか? いや、それなら入った時点で若返った筈だ。ワザワザ少し進んだ通路で声を挙げたりしない。可能性としてはココに何か落ちてて、それに触れたか? 或いは飲んだ?

 

「にゃぁぁぁぁああっ!」

 

 思考の渦に呑まれてると、カマクラが獰猛な声は響かせた。

 

「お前そんな声だs……って! なんだコイツら!?」

 

「「「ギィィギギ!!」」」

 

 気づけば、3体の醜悪な顔をした緑色の小人が目の前にる。

━━━これがゴブリンか!?

 たまにダンジョン配信動画をみるから間違い無い。コイツらはゴブリンだ。リアルで目の当たりにすると、かなりの恐怖を感じる。いやもうトラウマになったまである。

 

「…………カマクラ……お前は生きてくれ」

 

 正直、リストラされた時……いや、もっと前かもな。雪ノ下と別れた時から俺の目に映る世界は、ずっと灰色だった。あの時から生きる希望みたいなのが持てて無いんだ。

 そうか……ずっと未練タラタラだったんだな俺。それが分かっただけでも良い人生だったかもな。

 俺はこれで最後か、と思いながら囮として飛び出そうとした時、

 

「にゃっ!」

 

 カマクラが凄い速度で敵に向かって突撃しだした。

 

「カマk……嘘だろ……」

 

 気づけばカマクラは敵の背後で、凛々しく佇んでいた。

 

「「「ギィィ……!?」」」

 

 敵3体の首は同時に流れるように地面へと落ちて、次に胴体がパタンっと倒れると、粒子となって消えた。

 カマクラの凶爪によって敵は、一瞬の内に首を刎ねられていたのだ。

 

「………」

 

「にゃ〜?」

 

 俺の空いた口が塞がらない中、カマクラは首を可愛く傾げる。

 あれれ〜?僕また何かヤラかしちゃいました? と言ってる様にしか見えない。

 コイツどこの鈍感系チート主人公だよ!? それとも本当に最強なのか!? いっその事「大丈夫、僕最強だから」とか言って欲しいわ!

 

「にゃ〜♪」

 

 そしてカマクラはゴブリンからドロップした魔石と言われる物を飲み込んだ。

 

「…………おい!? 何やってんだお前!! 早くぺってしろ! ぺって!」

 

 俺は慌ててカマクラの両後ろ足を掴んで、逆さ吊りにして揺らすが、

 

「にゃ!?にゃっ!」

 

 蹴りを顎に食らってしまった。

 

「いてて……お前まさか、それ食って若返ったのか!?」

 

 カマクラはコクって頷くと、残りのゴブリンの魔石を飲み込んだ。

 大方だが予想出来たぞ。カマクラはフラフラと散歩してる所を偶々このダンジョンを見つけて入った。で、何故か落ちてた魔石をエサだと思って食べたら若返った。

 でも、これだと問題が1つある。

 それは……

 

「お前!? 絶対に魔獣に変異してるだろ!!」

 

 俺のツッコミは虚しく響き渡る。そんな俺にカマクラは咥えてたモノを渡してきた。

 

「なんだコレ? 歯と腰布か?」

 

 ゴブリンのドロップ品だよな……。

 

「それより早く出るぞ!」

 

 俺はドロップ品をポッケに入れて、急いでカマクラを抱えてゲートの外に出た。

 

「ハァ、ハァ……ふぅ、でも……これで光明が見えたな」

 

 危機から解放されて、安堵感から地面に座り込む。

 これで俺とカマクラはWin-Winなんじゃないか。俺は一生分の生活費が欲しいし、カマクラは魔石が食べたい。ならダンジョン探索者になれば良い。

 ほぼカマクラ頼りになる気がするけどな。

 

「確実に何か発現したよな……」

 

 昔の記憶だが、聞いた所によるとダンジョンに入った人間は魔力とジョブスキルが発現するらしい。そして、経験を重ねてスキルを獲得して増やしていくと。

 ゲームみたくジョブには、ハズレやアタリがあるとも聞いたな……。

 

「自分のジョブが気になってきたぞ……」

 

「にゃ〜♪」

 

 ご機嫌なカマクラの腹を撫でながら俺は今までに無い程の希望を感じてる。

 どうやら1匹とぼっちの人生が再び動き出したのかもな。カマクラは猫生だけど。

 




ここまで読んで頂き、ありがとうございます。
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