俺は半年ぶりに千葉市に訪れている。訪れた理由は、千葉市の庁舎にダンジョン課があって、千葉県内だとそこでしか探索者申請が出来ないからだ。
カマクラの若返りやゴブリンの出現で昨夜は一睡も出来なかった。多分、リアルで非現実的な光景を目の当たりにし過ぎてアドレナリンが分泌したんだと思う。
それに、寝れなかったのはある意味ラッキーだった。富津市は電車が止まる本数が少ないから寝坊せずに済んだ。
そんな事を思いながら庁舎内を歩いてると、ダンジョン課があるフロアにたどり着いた。整理券を発行して、椅子に腰を降ろして周りを見渡す。
「人多過ぎだろ……」
10代から20代の若者がヤケに多い。
今では探索者は16歳を迎えれば誰でもなれる。これも外国の政策を真似ての事らしい。多様化万歳って奴だろ。まぁ俺から言わせれば10代や20代の若者は青春の1ページ作りの為に来てるようにしか見えない。ガチで探索者をやる奴なんてのは頭のネジが外れてるか、俺みたいに社会からドロップアウトして仕方なくやるしか無いかの2パターンだろ。
「88番の方どうぞー」
俺の整理番号だ。
受付に行くとカウンター越しに座る女性が、人当たりのいい笑みを浮かべてくれた。
あっぶね! 余りの可愛い笑顔に勘違いしそうになったわ。コクって振られる所だったぞ。結局振られちゃうのね。
「こんにちは。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「ひ、ひゃい……こんにちは……えーとですね、探索申請をしに……」
っべー、女子と話すのが久しぶり過ぎて噛んじゃったわ。超恥ずい、もうお嫁に行けない。マジで誰か俺とカマクラを貰ってくれ。でも、それだと俺だけ捨てられる未来が見えるぞ。
「はい。では、こちらの書類を確認の上、必要事項のご記入をお願い致します」
言われた書類に必要事項を書いて、印鑑を押していく。
とりあえず、小さい文字はちゃんと見るべきだな。小さい文字で書かれてる文は大体こちらに、不利になる事が書いてある場合が多いからだ。
「…………記入終わりました」
免許証、書類、登録料10万円、証明写真を渡すと「ありがとうございます」と言われ、女性は何かしらの事務作業に入った。
書類は隅々まで見たが、特にこちらに不利になるような記載は無かった。強いて言えば、ダンジョンで死んだ場合は国は一切の責任を負いませんって書いてあったぐらいだ。そんなのは分かりきってる事だから気にしないけど。
「では、こちらが探索者登録証カードになります。注意事項としてカードの再発行には1万円掛かりますので、紛失にはご注意下さい」
渡されたカードにはFランクと書かれていた。
俗に冒険者カードと言われる物を見て俺は思う、ラノベの世界かよって。本当にラノベの世界なら俺は今頃、良くあるテンプレとして大男に絡まれて、路地裏でボコボコされてるに違いない。ってボコボコにされてる時点てテンプレじゃねえな。
「他に何か気になる点はありますか?」
そう言われて、ちょっとグレーゾーンな事を聞いてみる事にした。
「あの……鑑定ってして貰う事は出来ますか……?」
グレーな事を聞いたからなのか、女性は困惑したような表情をする。
「ダンジョンに入られたんですか?」
想定通りの返しだ。なら、予め用意したセリフで返せば良いだけだ。
「6年前、大学生の時に友達と面白半分でノラのダンジョンについ……すみません」
俺はできるだけ申し訳なそうな演技をする。
若気の至りだったんです!ごめんなさい作戦だ。
「そうだったんですね。昔はザルだったんですけど、最近は法律が厳しいので気をつけて下さいね?」
女性はホッとしたのか、笑顔で注意してくれた。法律上は申請をしてからダンジョンに入らなければならい。
主な流れとしては、申請→ダンジョンに1歩入る→鑑定、になる。
私有地にダンジョンが発生するなんて滅多に無いイレギュラーだからな。だが、俺はまだ敷地のダンジョンについては申告しない。もう少し確かめてからだ。色々確かめた上でシラを切るか、申告をするかを決めるつもりだ。
「因みに鑑定料が2千円掛かりますが、よろしいでしょうか?」
国もちゃっかり商売してるんだな〜と思いながら2千円を渡すと、女性は水晶?を持ってきた。
「では、こちらの【鑑定水晶】に触れてください。発現者なら魔力を読み取って個人の情報が頭の中に流れますので」
ダンジョン産のマジックアイテムか。役所でファンタジー体験するとはな。
でも嫌いじゃない。むしろ、こう言うのは大好きだ。だって男の子だもん。
ワクワクいっぱいで水晶に触れると、
「っ!!」
電流が走ったかのように、脳に情報がインプットされた。
ネーム:比企谷八幡Lv1
ジョブ:従魔士Lv1
スキル:【テイム】
従魔:【カマクラLv2】
以上の情報が頭に流れて来た。
従魔士ときたか……。かなりマニアックなジョブだ思う。役割としては後衛寄りのジョブであり、従魔への指示出しとバフ掛けがメインって所か。イメージし易いゲームだとポケットなモンスターが真っ先に上がる。
テイムは従魔士に付随したスキルだと考えるべきだな。
だが不明な点はまだある。Lv2のカマクラがゴブリン共を瞬殺できるもんなのか? やっぱり獣から魔獣に変異したから? それとも魔石を何個も食った?
やっぱ考えても分からん、後で確かめよう。今はカマクラが変異種だから強いと仮定するしか無い。
「どうでした?もし教えて頂けるならアドバイス出来るかもしれないんですが……」
カマクラの事は伏せた上で、今は従魔士の情報を手に入れよう。
「従魔士だったんですが……どうなんですかね……?」
「え、あ、従魔士だったんですね……」
お姉さんがすっげぇ悲しそうな顔してるんですけどお。どうしたの? 俺なんかしちゃった? まさか元カレが従魔士で、非業の死を遂げたとか!?
「えと……俺ごときが従魔士ですみません……」
「あ!いえ、違うんです!言いにくい事なんですが……」
数々のラノベとWeb小説をインプットした俺の脳内CPUはある答えを弾き出した。この反応からして従魔士はきっと、
「不遇職なんですね?」
「はい……スライムですら1000回テイムを掛けても1回成功するか、しないかなんです……」
なるほど。それが分かれば充分だ。しかも1000回と言うデータ付き。やりようは多分ある。
何より、どこぞのお偉い検討士よりかはマシだ。あの検討士凄いよな。検討を加速させるスキルなんてレアスキルに違いない。
「他に分かってる事はありますか?」
「そうですね……従魔士の方って従魔士だと分かった時点で探索者を辞退する方が多いのでデータが……あっ!確か魔力量の平均が普通より高かった筈です」
魔力量ねぇ……。水晶には魔力量までは反映されなかった。水晶の鑑定には限界があるに違いない。カマクラの詳細事項が依然として不明なのがその証拠だ。
「分かりました……わざわざありがとうございます。取り敢えず1ヶ月は頑張ってみますよ」
俺が前向きな返事をしたからなのか、女性が笑顔を向けてくれた。
「はい!それと、くれぐれもダンジョン内で無茶はしないで下さいね?」
「そこは命最優先でやるつもりなので大丈夫ですよ。ご心配ありがとうございます」
最後にお辞儀をして、俺は庁舎を出た。次にホームセンターとスポーツショップに行き、バット、フルフェイスヘルメット、プロテクター、バール、ジャージセットを買って帰宅した。久しぶりに女性と話せてウキウキしたのはここだけの話な。
♢ ♢ ♢
夕暮れを見ながら縁側でカマクラと寝そべってる俺の頭の中では、情報と仮説がグルグルと回る。
不遇職か……本当にそうか?確かに序盤のモンスターを持っていない段階ではキツイとは思う。だが、考えてみるとソロでダンジョンに潜る奴は余りいない。大体、どいつもこいつも友達って存在と潜る筈だからな。そう考えると1人で戦力を抱えられる従魔士って最強じゃね? いや、現状最弱だと考えるべきだ。今はテイム成功の条件を考えよう。
現状分かってるのはテイムを1000回やっても上手くいかない事。何かしらの条件を満たして無いからだと推察出来る。前提としてはテイム対象を弱らせるのは安易に想像が付くが、ここまでの推察は誰でも辿り着ける。『テイム 条件』って調べたら同じ推察をしてる奴は沢山居た。問題は言い合いだけがスレで白熱してて、誰も具体的な条件を示せなかった事だ。
誰も持ってない情報だと俺にはカマクラってヒントがある。ペットが魔獣に変異したから、と言えばそこまでだが、俺はカマクラにヒントが隠されてる気がする。カマクラが魔獣化してから変わった事って何だ? 知能と戦闘力が高くなって、魔石を好んで食うようになったって事以外は特に思い当たらないな……。
「魔石か……」
スマホを取り出し『モンスター 魔石 食べる』と打って検索する。
「なになに……モンスターが魔石を食い続けるのは本能だと思われる……魔石を大量に取り込んだモンスターは強く進化し、進化の速度が早まる……か」
って事はカマクラも進化するのか……。メッチャ見てみたい気はするが、怖いと言う気持ちもある。と言うか元が獣のカマクラが進化出来るか甚だ疑問だ。いや、今はカマクラの進化よりテイムの運用法だな。
次は『魔石 用途』と打って検索する。
「えーと、魔石はマジックアイテムの材料に使われるのが一般的である。サイズには極小、小、中、大、極大の種類がある。また、魔石に自身の魔力を流して暴発させることも可能……基本はマジックアイテム作成の素材って事か」
最後の爆発させる使い方なんて、自爆特攻以外の用途が思いつかないしな……待てよ?
「魔力は流せる。て事は暴発しない程度に魔力を流し込める事も出来るよな……」
ただ、そうした場合の用途って何だ?
魔力は簡単に送れるが、取り出すには緻密な作業が必要と書いてある。戦場でモバイルバッテリーみたいな使い方が出来ないなら流し込むだけ無駄だ。
違う違う。魔石を戦闘運用で考えるのはダメだ。
魔石=売るだけの物、と言うのが当たり前過ぎて、誰も魔石の別運用を考えて無い。まぁ俺にとっても魔石はカマクラのエサ程度の認識だし……うん?
「モンスターに、自分の魔力を流した魔石を食わせたらどうなるんだ?」
調べようとしたが、指を止める。
━━━調べた履歴は企業側には筒抜けになるよな?
これは誰も試して無い。誰かが試してるなら掲示板サイトで議論に挙がる筈だ。この情報化社会では情報は武器であり、パワーだ。これから俺が試す事は多分、億以上の価値があるに違いない。
そして、もう1つの案が頭を過ぎった。
「第2案目は無しだな。流石に倫理観に欠ける」
捕まえて来たどら猫、どら犬に魔石を食せて、カマクラみたいに変異させる案が頭を過ぎったが、それをやったら人間として大事な物を失う気がする。それに多分テイムは成功しない。カマクラが俺に懐いてたと言う要素がデカかった気がするからな。
「にゃ〜!にゃ、にゃ!」
「うん? 魔石を食べに行きたい? 分かった分かった。だから引っ張るな!」
カマクラが俺の袖を口で引っ張るので、準備をしにリビングに行く。
何故か昔よりカマクラの言ってる事が分かるのは従魔だからか?
そんな疑問を覚えながら、俺は戦闘服に着替えて準備を済ませた。
「よし、完璧だ。不審者だけど」
ジャージの上にプロテクターを付けて、顔はフルフェイスヘルメットで覆う。オマケに野球用バット。誰かに見られたら確実にヤバイ奴認定されちゃう。
最後に登山用リュックを背負って俺とカマクラはダンジョンへと向かった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます。