現在、裏庭ダンジョン二階層にて絶賛戦闘中である。二方向から攻め寄せるゴキブリ型とムカデ型のモンスターに囲まれつつあるのはいつもの光景と言って良いだろう。
「ニャァァァ!」「ガルゥゥゥ!」
俺を守るように陣取っている犬と猫──照狼であるサブレと大招き猫であるカマクラが、獰猛な声を上げながら敵を威嚇している。まさかこの二匹とダンジョンにアタックする日がくるとはな。
2人の女性に自慢してやりたい。
小町、お前が家族に選んだカマクラは今や立派なにゃん将軍になったぞ。
由比ヶ浜、お前の家族であるサブレは今や俺を守ってくれる頼もしい存在になったぞ。
「カマクラ、サブレ、来るぞ! サブレは炎で迎撃、カマクラはいつもみたいに細切れにしてやれ!」
「ウオーン!」
サブレの目の前に魔法陣が出現する。その魔法陣からは炎の球が幾つも射出されて、敵を無慈悲に燃やしていく。
コイツ、やっぱ中々強いな。まあポケモンでも虫は火に弱いし、当たり前の結果か……。
「ニャー!」
カマクラの方も自慢の爪で、敵を細切れにしている。今日も猫将軍様が絶好調で何よりです。
もうこのダンジョンはそろそろ卒業だな、正直な話マンネリを感じてきた。
今までは、このダンジョンで手に入れたドロップ素材を基準に、探索者協会が仲介してる納品型の依頼を選別してたが、今後は依頼を受けてからドロップ素材を求めて、別のダンジョンを探索でもするか。
そうだな……活動域は千葉、東京、神奈川の南関東を中心にしよ。東京には電車で行けるし、神奈川ならアクアラインルートでバスに乗れば簡単に行ける。
余裕があれば神奈川にある江ノ島や横浜にも観光として行ってみたいしな。ついでに名前繋がりで、鶴岡八幡宮にも参拝しに行こう!
「片付いたな。でかしたぞお前達」
倒したモンスターのドロップ品を拾ってると、サブレが「ワン! ワン!」と喜声を出しながら寄ってきた。
「よしよし、初めてのダンジョンで良く頑張ったなサブレ。こんだけ強いなら由比ヶ浜も安心するな。なんなら目ん玉が飛び出るまである」
そう言いながらサブレを撫でてると、カマクラがこちらを冷めた目で見ていた。
「お前も来いよ、撫でてやるから」
だが、カマクラはそっぽを向いて魔石を食べ始めた。
ったく、アイツは素直じゃねえな。夜にいっぱい撫でてやるか。
サブレのダンジョン演習も程々にして、俺達は待ち合わせ場所である三階層へと続く入口前まで着いた。
「ルーメリア。そっちは、たらふく食べたか?」
「ええ、わたくし達は存分に魔石を食べましたわ」
ルーメリアが満足そうに頷くと、他の従魔達もそれに続いて頷く。
今回は二手に分かれた。俺とカマクラは、二階層でサブレのダンジョン演習を監督。ルーメリアには他の従魔達を預けて、三階層で狩りをして貰った。
ルーメリアに任せたのは指揮官として優れてるからだ。なんなら、俺なんかより何倍も優れてる。流石はラストステージで待たないで、自ら軍を率いて勇者を狩りに行く魔王様だ。
「うぅ、あるじ様〜、ルーお姉ちゃんが凄く厳しかったでーす。うぅ」
俺を見た途端に、タマエがか細い声で足に抱きついてきた。どうやら上官にキツく絞られた様だな……。
「何を情け無い事を言ってるんですのタマエ。貴女のカバーに何回もスライムとゴブリンが入ったんですのよ? ちゃんと反省しなさい」
「ゴブゴブ、ゴブ~」
訳:まあまあお嬢。タマエの嬢ちゃんも頑張ったんだし、そうキツく言わなくても~
ゴブタニは陽気にルーメリアを宥めようとして割って入るが「ああ?」と気圧されて、あっけなく引き下がってしまった。
気持ちわかるよゴブタニ、めっちゃ怖いよな。声を上げただけお前は俺よりマシだ。むかし俺も由比ヶ浜を助けようと思って、イザコザに入ろうとしたら三浦に蹴散らされたよ。
「うぅ、あるじ様、お姉ちゃんが怖いです!」
なんか段々タマエが泣きそうなんですけど……。
確かにタマエはスキルを使うタイミングに甘い所があるし、少し鈍臭い所もある。だが、そんな怒る事か?
「あのな、ルーメリア。お前はお姉ちゃんなんだ……」
自分の言おうとした言葉に、違和感を感じたので口を閉じた。
姉だから、兄だから、で我慢を強いられるのは、どこのご家庭にも良くある光景だ。実際、俺もガキの時たまに言われたしな。俺は別に良かった、可愛い小町の為なら何だって我慢出来たからな。
だが俺みたいなのは、世間的には少数派だろ。大多数は親に反発する。我慢をさせ続ければグレる奴だっている。不信感を抱いて、親に何も話さなくなる奴もいる。
なので、俺が取るべき立ち位置は中立。やるべき事は和解の為の仲介だ。
俺は身を屈める。タマエと真正面から向き合える様に。
「タマエ、俺の目を見てくれ。ルーメリアは理不尽な事をタマエに言ったか? タマエに出来ない事をさせたか?」
真剣にそう聞くと、タマエは俯きながら首を横に振る。
やっぱりか。ルーメリアはあくまでタマエの能力の範囲内で出来る事を、指示として与えていた。だとしたら、ルーメリアの悪い点は言葉の選び方ぐらいか?
「タマエ、ここはダンジョンなんだ。ルーメリアはお前に死んで欲しく無いから厳しく言ってるんだぞ? 俺だってタマエに死んで欲しく無いし、危なかったら注意だってする。だから、ルーメリアの気持ちも少しは考えてあげてくれ」
「……グスッ……ごめん……グスッ……なさい」
「よしよし、反省が出来るタマエはいい子だ。帰ったらおいなりさんを作ってあげよう」
あやす様にタマエの頭を撫でる。
小さい子供だからこそ自分の間違いを認めるのは簡単な事では無い。間違いを認める事が出来たタマエは、今よりきっと強くなる筈だ。
「ルーメリア、ちょっとあっち行こうぜ」
俺はルーメリアと共に適当な岩裏へと行く。
今から俺がする事は、世間話を交えたアドバイスだ。例えるならプロジェクトリーダに成り立ての部下に『お前凄く頑張ってるな。愚痴聞いてやるから、一緒に屋上でコーヒーでも飲もうぜ』って言う上司みたいな感じだ。
「ほら、これでも飲め」
空間収納からマッ缶を二つ取り出して、一つを渡す。
「なんですの? てっきり説教でもされるかと思いましたわ」
どこか俺を訝しみながら、ルーメリアはマッ缶を受け取って、プルタブを捻った。
「説教なんてしねーよ。むしろ、タマエを厳しく指導してくれてありがとうな。俺だと、どうも甘やかしちまう」
「ふふっ、わたくしは魔王。部下の至らない点を矯正するなんて容易いですわ」
褒められてるのがよっぽど嬉しいのか、進化した胸を張ってフンスしてる。
やめて、目のやり場に困るから。
「なあ参考までに聞きたいんだが、お前の居た世界って年がら年中、人間と魔族が戦争してたのか?」
「そうですわね……平和な時なんて、一ヶ月も続けばいい方でしたわ。ただ、小競り合いも含めると……毎日が戦争と言っても過言じゃないですわね」
戦争を毎日してる世界なら、部下に対してスパルタじみた指導になるのは仕方無い。部下も軍人としてスパルタを受け入れる。ルーメリアは戦闘員としては勿論、指揮官としても優秀。だが、暮らしてた環境のせいで指導のやり方に偏りがある。分かり易く言うなら昭和チックだ。
「なるほど……。やっぱ戦争が多かったんだな」
余計なお世話かもしれないが、とワンクッション入れてから、俺は話を続けた。
「人の下にしか着いた事が無い俺から、優秀なお前に提案だ。指導の際、一人一人の性格を考慮した方が、この世界ではより良い指導者になれるぞ」
俺の言葉の意味を理解しようと、ルーメリアは数秒間考え込んでから、適否を問うように口を開いた。
「……指導する対象によって飴と鞭のバランスを変るべき、って解釈でよろしくて?」
「概ねその解釈で良い。厳しくした後は『お前に厳しくしてるのは死んで欲しくないからだ』とか、『お前には期待してるからな』とか言いながら優しさを与えるべきだ。まあなんだ……愛を感じさせれば良いんじゃねえの。知らんけど」
俺が社会人経験で学んだ事だが、自分の為に怒ってくれてるって感じさせれば、大抵の部下は飲み込んでくれる。
逆に理不尽だと思われると、ハラスメント問題に発展しかねない。総務部として、他の部署のハラスメント問題に介入させられた時はマジで大変だったわ。普通は人事の仕事だろあれ。
「ップ……愛って……ップ」
ルーメリアは盛大に吹き出すと同時に、大笑いしだした。なんだよ、俺の口から愛が出るのがそんなに変か? 俺以上に愛に詳しい奴はいないよ? まあ、愛は愛でも、ぼっち生活で培った自己愛だけどな。なんかスゲェ悲しくなってきた。
「あー笑わせて頂きましたわ」
「ツボり過ぎだろ。お前の飯に、俺の涙を入れてやろうかと思ったわ」
「マスターは女性に、ゲテモノを食わせる趣味でもおありですの?」
女の涙は武器で、男の涙はゲテモノかよ。それだと甲子園のグランドはゲテモノまみれって事になるぞ。
「ねーよ。兎に角、今回はお前もよく頑張ったな。感謝してる」
「感謝してるなら、わたくしの頭も撫でて欲しいですわ。タマエにするより優しく」
ルーメリアは進化してから、少女のクセして大人びてる雰囲気を凄く感じさせてくる。故に最近は頭を撫でるのに抵抗がある。
それに、最近はデレの要素が多くなってきた……気がする。
いかんいかん、変に意識するな俺、従魔は家族だ!
「ほら、これで良いか……?」
「むむっ、適当な感じがしますわ。最愛の女性を撫でる様にお願いします」
懸命に撫でてるのに、魔王様はお気に召さない様だ。
最愛の女性か…………。
──比企谷君、ずっと一緒よ。何があっても
「雪ノ下……」
ルーメリアの頭を撫でながらと言う不都合な場面で、不意に不適切な事を呟いてしまった。
「はぁぁぁっ!?」
やはり俺は、地雷原に頭から突っ込んでしまったようだ。現に、ルーメリアは怒りで震えだした。しかも親の仇かのように、俺を睨みつけている。
余りの怖さに俺は「ひ、ヒィ」と情け無い声を上げながら後退ってしまった。
「過去の女を思い浮かべながら、目の前の麗しきレディーの頭を撫でるなんて、良い度胸ですわねマスター」
「いや、ち、ちち違う! えと、だだってお前が最愛の女性とか言うから……つい……」
「フンッ、もうマスターなんて知らないですわ。わたくし、他の殿方の従魔になってきます」
どこかに行こうとするウルトラ不機嫌モードの魔王様は、首だけをこちらに振り向かせて、拗ねた子供のように舌を出しながらアッカンベーしてきた。
「他の殿方って……ルーちゃん!? ちょっと待ってくれ!」
結局俺はダンジョンから外に出るまで、
『食べたいスイーツはあるか?』
『読みたい漫画はあるか?』
『アイフォンは何色が良いんだっけ?』
と言った感じに、終始ルーメリアのご機嫌取りをする羽目になった。
その様子を眺めてた他の従魔達は俺をからかうし、やれやれと言った目を向けてくるしで、マスターとしての威厳が地に落ちてしまった。元から威厳なんて無いけどね☆
結局のところ何が言いたいかと言うとだな、ヴァンパイアだろうと人間だろうと女心って難し過ぎだろ。
♢ ♢ ♢
現在、目の前に居る従魔について少しだけ悩みを抱えている。勢いと物珍しさだけでテイムした宝箱型モンスターのミミックであるエルランの扱い方についての悩みだ。
ミミックの特性なのか、エルランは安全性を重視してると言うか、家の外に出たがらない。いわゆる閉じ籠り。
ミミックについて調べた所、倒したらレアアイテムをドロップする事と、遭遇したら必ず逃げ出す事ぐらいしか書いて無かったのだ。そもそも遭遇率が低いせいで、生態がブラックボックス化している。箱だけに。
「なあエルラン、お前は戦わなくて良いから、明日辺りダンジョンに行かないか?」
エルランはいつも俺の部屋の片隅でじっとしてるだけで何もしない。見事に鑑賞用の箱に擬態してるのだ。
俺としては、少しは健康的に散歩して欲しい所ではある。
「ミィミィ……」
行きたくないらしい。昔の家から出たがらない自分を見てるようで複雑な気分だ。
別にエルランに関してはコストが掛からないから、戦わなくても問題ない。何故か好物が、ダンボールと発泡スチロールなのだ。後は水、石、魔石ぐらいしか口にしない。
ダンボールと発泡スチロールはスーパーから大量に無料で貰える。石はそこら辺にあるし、魔石は従魔達が融通してくれる。
「そ、そうか……。なんかしたい事とかあるか?」
「ミィ」
永遠に部屋の隅っこでじっとしてたいらしい。
本当に低燃費なやつだな。
「欲しい物とかあるか? 今なら特別に買ってやるぞ」
「ミィ、ミィミィ」
紙が欲しいらしい。
「紙か……ちょっと待ってろ」
紙と言っても種類が沢山あるので、ルーズリーフ一枚、トイレットペーパー、昔DIY用に買ったやすり紙を渡してみた。
エルランはそれらの紙を口に入れて、味わうように咀嚼を始めた。
「ミィ」
やすり紙が美味いらしい。
「お前、本当にソフィー以上に低コストだな……」
なんかこう、俺と同じぼっち臭がしてきた。
手が掛からない嬉しさと同時に、ちょっとした寂しさも感じる。
両親も俺に対して、こんな気持ちを抱いたのだろうか……。
「なあエルラン。何かあったらちゃんと相談してくれよ? 俺じゃなくても、他の喋り易い従魔達にでも良いから」
長年のぼっちとしての経験上、ぼっち気質な奴をこれ以上構い倒すのは良くない。過度なストレスを与えるだけだからな。
一人で居る事は悪じゃないし、全然良い。大事なのは一人でもソレを理解してくれる奴が居るかだ。俺に小町が居たようにな。
「ミィ」
心配御無用か……。まあ何かあれば自己申告してくるだろ。腹ペコ申告はちゃんとしてくるし。
「じゃあお休み。いい夢見ろよエルラン」
俺がそう言って明かりを消そうとした時、エルランに「マスター」と呼び止められた。
「どうした?」
「……ミィミィ」
訳:……心配してくれてありがとう
「お、おう。その、なんだ……たまにで良いから話し相手になってくれよな」
最後に蓋の部分を撫でてあげてから、俺は就寝に入った。
エルランはぼっち気質ではあるが、意外と素直で安心したぞ。
どっかの捻くれたボッチみたいだったら、平塚先生に更生をお願いしなきゃイケなくなっちまう。
『結婚したぁぁぁぁああいっ!』
今なんか悪寒がしたぞ。きっと気のせいだ。よし寝よ。
こうして俺は意識をブラックアウトした。
何故か鮮明な夢を見た。
平塚先生の結婚式で新郎側がバックレると言う内容であった。しかも最悪の事に招待されただけの俺が急遽、新郎として立つ羽目になったのだ。これ正夢じゃないよね? 夢の中だけでも良いから早く誰か貰ってあげて!
♢ ♢ ♢
俺は現在、日曜日と言う貴重な休日にPCの画面を見ながら、自分の中で必死に理論武装を固めている。
絶対に逃げきってやる……。
from:鶴間静流
件名:従魔について
比企谷様
いつもお世話になっております。
魔生物情報本部・従魔課の鶴間です。
度々のメールと電話申し訳ございません。
前回送ったメールを拝見して頂ければと思います。
或いは電話を掛け直して貰っても大丈夫です。
連絡して頂きたいです。
Ps.私は比企谷さんに嫌われる様な事をしたのでしょうか……
とうとう催促のメールが来てしまった。しかもなんか気に病んでるし……。
前にメールが一件、ここ最近で電話が二件、俺はそれらを全て無視している。
やっぱり無視って最低だよな。
最低だと思う反面、別に問題無いだろとも思う。
やられた側は最低な気分になるが、してる側は意外と何とも思ってない事の方が多い。
ガキの時に俺のメールを無視した女子共が未だに俺に謝罪して無いのがいい例だ。言い換えれば彼女達は無視した事を何とも思って無い。別に今更謝罪して欲しい訳じゃない。現に俺も鶴間さんのメールを無視してる事に、そこまで心を痛めて無いしな。
しかも鶴間さんはビジネス上で無視されてるだけで、プライベート上で無視されてる訳じゃない。仕事として割り切れば精神的ショックは少ないだろ。上司にガミガミ言われるかもしれないがな。
「よし、見なかった事にしよ」
ほんの少しだけ申し訳ないとは思うが、俺の平穏を守る為だ。仕方ない。
大体、俺はサラリーマンじゃない。個人事業主なのだ。
サラリーマンみたく来るメール全てに、対応するような組織的な義務は俺には無い。
何よりラノベのテンプレ展開がほんの僅かに可能性としてあるのが怖い。
探索者協会本部に行く→立派な部屋に通される→お偉いさんに根掘り葉掘り情報を聞かれる→面倒事を依頼される→俺の平穏が崩れる。
だがこれはテンプレの一例に過ぎない。
一番最悪のパターンだと、探索者協会の上層部が実は人間じゃなかったと言うオチだ。オマケに世界存亡の危機に俺を巻き込んで来る。
まあ流石にこれはオカルトじみた妄想だが、ファンタジーが混じった現代なので何が有るか分からないのが怖い。
俺は面倒事なんて御免だね。タダでさえ配信者なんて面倒な仕事もやってるのに、これ以上の面倒を抱えたくない。
「後は依頼を探して終わりだな」
メール画面を閉じて、探索者協会のホームページを開く。自身のホームにログインして、丁度いい納品系の依頼が無いかを探し始める。
明日は配信日なので、明後日には別のダンジョンに遠征するつもりだ。
「ワイドサーペントの皮が三枚で四万円の依頼と、ホーンラビットの角五本で二万五千円の依頼があるな……」
俺の探索者ランクで受けられる依頼が掲載されてる欄を見ながら【魔生物図鑑︰最新版】を開いて、モンスターの特徴と出現地を調べる。
おお! ワイドサーペントなら千葉県佐倉市にあるダンジョンの二階層に出現するようだ。
ホーンラビットは……ああ、一番近くて埼玉か。無しだな。
「ワイドサーペントとバレットモンキーの依頼にするか……」
バレットモンキーが東京の新橋駅近くのダンジョンに出現するらしいので、依頼を受けた。
ワイドサーペントの危険度がEで、バレットモンキーがE+だ。油断はしないが、正直言ってレッドオーガス君を倒した実績のある我がパーティーの敵では無い。
暇だし、参考用に他人のダンジョン配信でも見てみるか。
そう思って、YouTubeを開いた。
「やっぱ、うちが特殊か……」
動画を何個か見てみたが、どいつも探索中にコメント返しなんてして無い。と言うか、してる余裕が無さそうだ。
まあうちは遠・中・近の攻撃スキル、索敵と防御スキルまで完備してるからな。いざとなったらカマクラのマップ破壊スキルである【毛玉】もある。
何より人員?魔員?がいっぱいいる。誰か一人がコメント読み上げ役に回っても問題ない体制を築けてる。
試しにSかAランクの配信者を探してみたが見つからない。
そうだよな~、Aランクまで上がる奴が配信で小銭稼ぎなんかする訳無いか。
「キャァアァアァァァァアア!! えぇぇぇぇぇぇぇえすぅぅぅぅうう!!!?」
なんかルーメリアの騒がしい奇声が、ヘッドホン越しに聞こえてきたのでヘッドホンを外して視線をソファーの方へと向けてみる。
ああ成程。ワンピース頂上戦争編を見てるのか……。俺も昔リアルタイムで見た時はショックを受けたっけ。そう言えばショック過ぎて、絶対に許さないリストに赤犬の名前を書いちまったよ。
『今日までこんなどうしようもねェおれを……鬼の血を引くこのおれを・・・!! 愛してくれて・・・ありがとう!!!』
やっぱいつ見ても悲しいけど、良いシーンだな。なんかこうグッとくるわ。何より俺も小町に言いたい、こんなどうしようもないお兄ちゃんを愛してくれてありがとう! よし、これはお兄ちゃん的にポイント高いぞ。因みに小町にポイント低いって言われるまでがセットな。ってプラマイゼロじゃねーか。なんならマイナスかもしれない。
「噓ですわ……!! わたくしの中でのアニメいい男ランキング二位のエースが死ぬなんて噓ですわー!」
どんだけ感情移入してんだよ。てか一位誰だよ。ルーメリアだし、クロコダイル辺りが好きそうだな。
「大丈夫だよルーお姉ちゃん! エースさんは蘇るよ!」
いや蘇りません。カイドウを倒し終わった現時点で蘇って無いんだからもう無理だろ。
むしろ蘇ったら感動を返せってクレームを入れてやる。
「そ、そうですわね! こんなんで死ぬ程エースは弱く無いですわ!」
それ以上言ってやるな、エースがあの世で泣いちまうだろ。
これは真実を言うべきだろうか……。
個人的な面白さを取るなら言うべきだが、空気がどんよりしそうで怖い。
仕方ないな、真実を言うか。
「お~い、ルフィの兄貴なら生きてるぞ~」
俺がそう言うと、ルーメリアは何故かドヤ顔で「ほら、やっぱりですわ!」とはしゃぎだし、タマエは「良かった」と安心している。
許せルーメリア、タマエ。だとしても俺は噓を言っていない。
だってサボは生きてるもん。テヘッ☆
♢ ♢ ♢
厄介な問題に直面している。多分だが、猫を飼っている人間であれば大多数が厄介だと思う問題だ。
「頼むから風呂に入ってくれカマクラ。お前、結構臭うぞ」
カマクラは若返ってから全くって言って良いほど風呂に入っていない。何より連日ダンジョンで浴びてる返り血のせいで、ここ最近かなりの異臭を漂わせてる。カマクラが近くに来ると、鼻がひん曲がるんじゃないかと錯覚する程だ。
だから正直言って、気を遣うような言葉を選んでられない。
「にゃ……シャー!!」
臭いと言われて一瞬落ち込んだが、嫌な気持ちが勝った様でシャーシャーモードになってしまった。
魔獣化する前なら強引に入れたが、現在の熊みたいな図体のカマクラに力技は通用しない。下手したら俺が病院送りになってしまう。飼い主が病院送りとか、医師に笑われちゃう。
「そんなワガママ言うなら飯抜きにすんぞお前」
「にゃっ!? にゃ……!!」
数日飯を我慢出来るぐらいには風呂が嫌らしい。どんだけ風呂が嫌いなんだよ……。
こうなれば、
「言っとくが、これは家族全員の意見だ。お前らも言ってやれ」
ソファーでゆったりしてる他の従魔達に意見を言う様に促すと、全員申し訳なさそうに口を開いた。
「えーとね、カマクラおじ様、その……正直臭いです……」
「プルプル……」
訳:親分汚い……
「ゴブゴブ……」
訳:親分の隣で飯を食べるのキツイっす……
そしてトドメに、
「カマクラさん、その体臭で恥ずかしく無いんですの?」
「にゃっ……!?」
全員から口撃されて、ガーンと言う効果音が付くぐらいには衝撃を受けたようだ。
あー前足を地につけて項垂れちゃったよ、ちょっと面白い。
「ワンワン」
訳:僕はドブ臭くても気にしないよ
サブレに足でポンポンされて、ガーンにガーンが重なっちゃったよ。
これが死体蹴りってやつか。俺も昔は良く由比ヶ浜に死体蹴りされたな。やっぱり飼い主に似るんだな。
「にゃ……にゃ……」
訳:風呂……イヤだ……
なんか、ブツブツ言い出したよ……。
「な? どんだけ臭いか分かっただろ? 洗ってやるから、さっさと済ませようぜ」
カマクラを無理矢理立たせて、風呂に連行する。カマクラの足取りは、まるで断頭台に赴くような足取りだ。
「浴槽に入れ、綺麗にしてやる」
青ざめてるカマクラを浴槽に入れて、ノズルを向ける。お湯を浴びた第一声が断末魔じみた「ミャァァァァッ」であった。
「こら! 暴れるな!」
根っからの風呂嫌いなのか、はたまた猫としての本能なのか、一分も我慢しないで暴れだしてしまった。
ちょっと狐さんの手でも借りようかしら。
「タマエ〜、ちょっと手伝ってくれ〜」
声量高く呼ぶと、は〜いって返事が聞こえて来た。暴れるカマクラを宥めてると、直ぐに部屋着姿のタマエが浴室に現れる。カマクラを見て、タマエは苦笑いを浮かべていた。
「カマクラおじ様、子供みたーい」
おじ様って慕ってる奴が風呂で駄々こねてたら、そう言う反応になるわな。
「タマエ、カマクラに妖術を掛けてくれ」
頷いたタマエは手をカマクラへと向ける。
「妖術・幻朧!」
「にゃっ……みゃっ!? シャー!」
あれ? 一瞬落ち着いたのに、直ぐに正気になったぞ。
「うーん、あるじ様〜、おじ様の魔力が私より強過ぎるせいで抵抗されちゃいました……」
落ち込むタマエの頭を撫でながら一旦考える。ゲームで言うと所のレジストってやつか。一瞬でも妖術が掛かった所を見ると、カマクラの意思の問題な気がする。要は抵抗の意思を削げばいいんだな。
「おいカマクラ。正気のまま地獄を長時間味わうか、妖術に掛かって早めに終わらせるか、どっちがいい?」
「にゃ……」
幻覚を受け入れるようだ。
妖術を再度かけて貰って、カマクラが落ち着いた所でタマエと二人でカマクラの体を懸命にゴシゴシする。
流れて行く水は黒く濁っている。まるで何十年も洗ってない絨毯の様だ。しかも毛が絡まってたりで、ゴワゴワ感が凄い。
絡まってる所は、ブラシも使いながら丁寧に解かしていく。じゃないと、毛の絡まってる所の汚れが落ちないからな。
毛が凄い量、抜けるな……。
大まかに汚れを落とした所で、猫用シャンプーをふんだんに塗りたくっていく。
おお、泡立ちが良いな。
泡立ちが良すぎてカマクラが、かまくらみたいになってるぞ。
ガキの時はカマクラって名前を付けた小町にセンスを感じ無かったが、こんな姿を見ちまうと、カマクラと言う名前で良かったと思う。
「おじ様あわあわ~♪」
「写メ撮ろ……。よし、後は洗うだけだな」
カマクラとタマエのツーショットをスマホに納めて、シャンプーを丁寧に頭から洗い流していく。
ここまで掛かった時間は二時間超。猫ってより熊を洗ってた気分だ。
今後は月一で絶対に風呂に入れよう。結構マジで。
「後は拭いて、ドライヤーするだけだな。タマエ、妖術を解いていいぞ」
妖術が解かれると、次第にカマクラの虚ろな目は生気を戻していく。
「終わりだカマクラ。後は拭くd、うわっ!? やめろお前!!」
「キャッ!?」
タオルで拭こうと思った矢先、カマクラは急にブルブルッと体を豪快に揺すった。
当然、俺とタマエはびしょ濡れ。
猫を洗うのって、こんなに難易度高かったっけ……。
「ニャー!」
そして、カマクラはそのまま勢い良く逃走。
あの猫野郎、今日の飯に野菜をいっぱい入れてやるからな。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます!