か、カマクラが若返ってる!?   作:9ナイン9

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24:想定外の事態に、比企谷八幡は遭遇する。

 新橋駅近くにあるダンジョンの三階層にて、俺は現在、帰宅するべくダンジョン内の通路を歩いている。

 昨日で、二つ受けた依頼の内の一つである、ワイドサーペントのドロップ素材は千葉県佐倉市のダンジョンで回収済み。

 で、今日はバレットモンキーの素材を無事に回収出来た。

 今まで自宅の裏庭ダンジョンしか経験してこなかったから、多少の不安はあったが、思ったより楽な仕事であった。

 ただ、裏庭ダンジョンと違って俺以外の探索者もいるのが、ちょっとばかし面倒であった。

 

「ゴブタニ、そこを右だ」

 

 探索者協会のホームページで買ったマッピングデータを見ながら、先導して歩いてる索敵役のゴブタニに指示を送る。

 あんまり目立ちたくないので現在、召喚してる従魔はゴブタニと俺の頭に乗っているソフィーだけだ。

 最高戦力であるルーメリアとカマクラがいると戦闘が派手になりがちだからな。 

 勿論ヤバイ状況になったら他の従魔も召喚するつもりだ。

 

「ゴブ~」

 

 念の為、今回は黒い猫の仮面では無く、白い狐のお面を付けている。

 お陰で他の探索者に「あの、もしかして嫁ニキさんですか?」と聞かれても、「ただのファンです」って誤魔化す事が出来た。

 まあ中には「そのスライムとゴブリンはどうやってテイムしたんだ!?」ってしつこい奴もいたが、クランリーダーから口止めされてるんだ、と言ったら引き下がってくれた。

 もう面倒くさいし、詳しいテイムのやり方を公開しようかな。従魔が一般化すれば目立たなくなるだろうし。

 でもな~、億以上の価値がある情報をタダで公開ってのもイヤだわー。

 

──ザアギュゥゥゥゥウウ!!

 

 今後の対策を考えてたら、少し先の方から魔物のと思われる獰猛な声がいくつか聞こえてきた。

 帰宅ルートでハプニングかよ、本当勘弁してくれよ。

 魔物の声的に戦闘してる感じか? 魔物同士なら良いが、探索者だったら待たなきゃイケないから面倒だ。

 てかもう夜の19時だぞ。俺以外に探索者がまだ滞在してたとはな。

 

「これなら早めに切り上げれば良かったわ……」

 

 このダンジョンの入場料が二千円だったせいで、いつもより稼がなくてはイケない、と変なバイアスが掛かったせいだ。

 俺は声がした場所の近くまで行って、岩陰から覗く事にした。

 

「えっ、アレってグレートアリゲーターじゃねえのか……?」

 

 遠くて顔までは確認出来ないが、女性と思われる探索者がボロボロの状態で、脅威度A-の大型ワニモンスター四体と交戦していた。浅い階層で高ランクモンスターが出る事はたまにある。その異常を探索者達の間では異常発生(イレギュラーパニック)と呼ばれている。

 

 空間収納から双眼鏡を取り出して、もっと詳しく見てみる事にした。

 綺麗な女性だな……あれ? なんかどっかで見た事がある気がするな……。

 だが、きっと気のせいだ。親しい女性の知り合いなんて、俺には総武関係者ぐらいしかいないからな。

 

「ゴブ、ゴブゴブ?」

訳:旦那、助け無いんですか?

 

「いや、助けると色々面倒だ。探索者なんだから死ぬ覚悟ぐらいは出来てるだろ」

 

「プルプル……」

訳:可哀想……

 

 俺も可哀想だとは思うが、ここはダンジョンだ。誰もが死ぬ覚悟を持って入っている。

 それに、様々なラノベを読み込んだ俺の脳内CPUが、物語の主人公を気取って助けたら面倒だと告げている。 

 まぁアレだ、このまま見殺しにする。

 だから許してくれ、どこぞの女性探索者よ。恨むなら不運な自分を恨んでくれ。

 

──ねえ比企谷くん、いつか私を助けてね

 

 目の前の光景に対して後ろめたさを感じてると、昔雪ノ下に言われた言葉が脳裏をよぎった。

 

「雪ノ下……」

 

 そうか、見たことがある風貌だと思ったら、どことなく雪ノ下に雰囲気が似てるのか。

 でも、だからといって面倒事は御免だ。

 

「どうすれば……いいんだよ」

 

 面倒なんてイヤだ、イヤな筈なのに……。

 

「何でこんな時に十年以上も前の事を思い出すんだよお、クッソ」

 

「プルプル?」

訳:マスター?

 

 多分、雪ノ下なら目の前の死にそうな人間を助けるだろうよ。

 元奉仕部部長としては当たり前の事よ、とか言いながらな。

 

「っ!?」

 

 俺が迷ってる間に女性探索者は武器を落とし、膝を地に着けてしまった。

 そして、ワニモンスターの口が女性探索者をかみ砕こうと、近づいている。

 もう迷ってる場合じゃない!

 

「ゴブタニ、ソフィー! 飛斬と酸消弾をあのワニ野郎に撃てぇっ!」

 

 刹那、二匹の攻撃がワニ野郎の体を僅かに押しのけた。

 あのワニ野郎は、まだこの二匹には荷が重い相手だ。だけど、これはチャンスでもある。

 

「来いモンスターブック!」

 

 即座にカマクラのページをタップして呼び寄せる。

 

「頼朝さん、四体の内三体を倒してくれ!」

 

 誰かに見られてる可能性があるからな。裏庭ダンジョン以外ではカマクラを、頼朝と呼ぶ事にしてる。

 

「ニャァァァアア!」

 

 勇ましい咆哮を上げると共にカマクラはワニ野郎三体へと突撃し、瞬く間に一体の胴体を真っ二つにした。

 これであとは三体。二体はカマクラに任せるとして、

 

「ゴブタニ、ソフィー。これからの事を考えると、俺たちも格上との実戦を積むべきだ」 

 

「ゴブッ!」「プルプル!」

 

 二匹は強敵を前に、怯むどころかやる気満々のようだ。ここ最近、カマクラとルーメリアがいない時の事を想定して、訓練したフォーメーションを実戦で活かす時が来たようだな。

 

三位一体変則陣(デルタシフトフォーメーション)で行くぞ!」

 

 ゴブタニは刀を抜き、俺は空間収納から最近通販で買った魔鉄製(¥100000)のバットを一応取り出す。

 先ずは従魔二匹に俺のスキルである【従魔・水耐性付与】を掛ける。

 

「ソフィー、酸消弾でアイツの鱗を溶かしてくれ!」

 

 牽制と鱗破壊を兼ねて、乱雑に酸の弾をワニ野郎へとぶつけまくる。

 このダンジョンに入る前に、出てくるモンスターの特徴については粗方調べた。

 脅威度A-、グレートアリゲーターの厄介な点は硬い鱗、水刃ブレス、尻尾攻撃だ。

 先ずは鱗を破壊し、その箇所を重点的に攻撃してやる!

 

「ゴブ!」  

 

 顔の鱗が溶けた箇所へと、ゴブタニは果敢に攻撃を開始した。 

 大したダメージにはなっていない。だがワニ野郎はうざったいのか虫を振り払うかの如く手を出して来るが、そうはさせない。

 

「防御! モンスターズシフト!」

 

 カキンッ、とワニ野郎の爪がアルミ硬化したソフィーに弾かれた。

 三位一体変則陣(デルタシフトフォーメーション)──俺のスキルである【モンスターズシフト】を主軸に、防御と攻撃を瞬時に行うバトルフォーメーションだ。

 防御の掛け声で、防御系スキルを味方に瞬時に発動して貰うことで、敵の攻撃に対応すると言う寸法だ。

 そして逆に、

 

「攻撃! モンスターズシフト!」

 

 位置交換。ゴブタニのゼロ距離飛斬によって、ワニ野郎の顔から肉片が一部飛んだ。

 更に抉れた部分に、ソフィーの酸の弾で追い打ちを掛ける。

 

「ザアギュゥゥ!! ギュゥゥ!!」

 

 よっぽど顔面の傷に酸が染みたのか、ワニ野郎が暴れだして地面に顔を乱暴に擦りつけだした。

 従魔達と訓練した甲斐があったわ。

 あと呪術廻戦を書いてくれた単眼猫先生にマジ感謝だわ。このフォーメーションは東堂&虎杖VS花御戦を参考にさせて貰ったからな。

 

「ザアギュゥゥギュゥゥ!!!!」

 

 ヤッベ、怒りが最高潮に達したみたいで、大きく開いた口をこちらに向けている。その口には魔力が集まっていき、水刃ブレスを放つつもりだ。流石にあのブレスはアルミ硬化じゃあ防げないぞ!

 

「ゴブ!」

 

 攻撃を中断させようと、ゴブタニが切りかかるが、ワニ野郎は意に介していない。

 

 こうなれば……!

 

「口に巻き付け! モンスターズシフト!」

 

「プルプル!」

 

 位置交換。ソフィーが粘体を活かして縄状となり、ワニ野郎の口を塞ぐ形で巻き付いた。

 ソフィーさんマジ神! 無茶振りに対応してくれたよ!

 

「ギュゥゥギュゥゥ!!!!」

 

 口を塞がれて苦しいのか、体を思いっきり振るいながら暴れだした。

 溜めた魔力がキャンセル出来ないようだな。 

 次第に口から魔力光が漏れだし、

 

「ソフィー今だ! 離れろ!」

 

 ソフィーが離れた瞬間、口部が吹き飛んだ。自らのブレスでワニ野郎の口が自壊したのだ。

 ククッ、ワニ野郎ザマァ。

 

「ユュゥゥユュゥゥ……ユュゥゥユュゥゥ!!!!」

 

 口部から大量の血を流してるにも関わらず、目が諦めていない。むしろ、その目にはさっき以上の戦意が宿っていた。

 ワニ野郎、お前は強い。こうやって俺らが優位に立っていられるのは事前情報があったからに過ぎない。

 もし、こいつの攻略情報が無かったら、俺らは速攻で死んでたかもな。情報化社会でマジ助かったわ。

 

「第二ラウンドだ、来いよワニ野郎!」

 

 ワニ野郎に中指を立てて、空間収納から必殺兵器を取りだす。

 レッドオーガスの金棒──レッドオーガス君からドロップした激重の三メートル以上もある金棒だ。

 あの世から見ててくれ、魔王に敗れたレッドオーガス君よ。お前の意志は確かに俺が継いだ。

 この必殺兵器は俺だけの腕力じゃあ若干浮かすぐらいが限界だ。そう、俺だけの力じゃな、

 

「ソフィー、アイツの足元に粘性液を掛けまくれ!」

 

「プルプル!」

 

 こちらに向けて突進の構えを取っていたワニ野郎は、足元に掛けられた粘性液のせいで一歩一歩がかなり重くなっている。

 今だっ!

 

「ゴブタニ、一気に立てるぞ!」

「ゴブ!」

 

 ううぅぅぅぅぅううっ!! クソ重いいぃぃぃいいっ!

 手が張り裂ける思いで、ゴブタニと一緒に一気に金棒を浮かした勢いから垂直に立てる。

 あばよワニ野郎、俺が戦ってきた中でお前が一番強かった。

 

「ラストだゴブタニ! 一気に押すぞおっ!!」

 

 垂直に立てた金棒を、次は二人で全身全霊で押し切る。

 

「ウオォォォォォォォオオッ!! (ゴブウゥゥゥゥゥウウウッ!!)」

 

 これが俺たちの、(レッドオーガス)の全力だぁぁぁぁぁあああっ!!!

 

「ユュゥゥユュゥゥ!!??」

 

 脳天直撃。(レッドオーガス)の一撃を貰ったワニ野郎は、轟音と共に地に深く沈んだ。 

 

「ハァ、ハァ……どうにか……勝った……」

 

 金棒の下からワニ野郎が、次第に光の粒子となって霧散していく。

 俺はこの勝利を、亡き(レッドオーガス)に捧げよう。ありがとうレッドオーガス君、お前のお陰で勝てた。 

 

「ニャー」

訳:時間かかり過ぎ

 

 文句を言いながら、口に加えていたドロップ品を渡してくるカマクラ。

 ったく、こっちはお前みたいにチートプレイなんて出来ないっつーの。

 

「あの……」

 

 にしても腕がつりそうだ。間違いなく明日は筋肉痛だろうな。

 明日は商談があるってのによ。

 まあいいや、この後に楽しみも控えてるしな。

 

「あの、ちょっと」

 

 今日はホテルに泊まるし、従魔達には何を食わせようかな。

 ピザでもデリバリーして貰うか。

 でもなあ、ホテルについた頃にはピザ屋は時間的に閉まってるか。

 

「仮面の人、話しを聞いて」

 

 ドロップ品と金棒も空間収納に入れたし、解散解散。

 

「ちょっと、お願いだから無視しないで!」

 

 おーい、誰だか知らないが女性を無視すんなよ。俺みたいに嫌われるぞ。

 

「ゴブ! ゴブブ!」

訳:旦那! ダンジョンキューブがありますよ!

 

「…………」

 

 おいゴブタニのヤツ、今なんて言った?

 まさか、俺らの戦いが配信されてたとか?

 流石にそれは無いと信じたい。

 

「あの! 何で無視するんですか!?」

 

 助けたボロボロの女性が、俺の真ん前に回り込んで来た。

 あーあー、これで無視作戦がおじゃんになっちまったよ。

   

「ッチ」

 

「舌打ち!?」

 

 ヤッベ、つい本心が舌を動かしてしまった。

 にしても、やはりどこか雪ノ下に似てる女だな。

 でもアレ? どちらかと言うと陽乃さん寄りか?

 まあ雪ノ下に似てる女なんていっぱい居るか。昔千葉村で出会った少女……えーと確か、ルミルミだっけ?も雪ノ下に似てたし。

 良く見ると、毛先を水色に染めている。コイツ絶対に陽側の人間だわ。言わば俺の苦手な分類。

 他に見た目から分かる情報だと、多分二十代前半(大学生?)ぐらい。胸はそこそこで綺麗系の身長160㎝。

 

「ゴブゴブ! ゴブゴブ!」

訳:この女、俺が推してるダンジョン探索者ですよ旦那! サイン貰って下さい!

 

 ゴブタニが凄い勢いで俺の腕を揺らしてくる。

 結構うる覚えだが、なんとなく思い出したわ。この女ってゴブタニが良くYouTubeで見てるダンジョン配信者じゃん。

 名前は何だっけ、磁器? 四季? 何でもいいや。とりあえず超メンドクセェ。

 

「あの……私、何か気に障るような事をしたのでしょうか……?」

 

 凄い申し訳無さそうな顔をしだした。

 頼むから、雪ノ下に似てる顔でそんな顔をしないでくれ。

 

「そう言う訳じゃないが……」

 

「本当に助けて頂きありがとうございます! それと、本当にごめんなさい!」

 

 女性がいきなり頭を下げてきた。

 意味が分からん。感謝される覚えはあっても、謝罪される覚えは無いんですけど。

 

「感謝は俺じゃなくて、コイツにしてくれ。コイツが進んでアンタを助けに入ったんだ。俺はイヤイヤ手伝っただけだ」

 

 功績を丸投げされたゴブタニは「え、俺!?」と驚きの表情している。

 元カノに雰囲気が似てたから助けました、なんてキモイ事は口が避けても俺は言いたくない。

 

「そう……イヤイヤなんですね」

 

 女性は悲しそうな表情を浮かべる。

 別に噓は言っていない。たまたま元カノに似てたから、たまたま助けただけだ。

 本来ならこんな面倒事は見て見ぬフリだ。

 これは別に俺が特別非情って訳じゃない。基本どの探索者も、赤の他人の為に命なんて賭けない。謝礼金目的で助太刀に入る奴もいるとは聞くが、そんな奴は少数だ。 

 

「えーと、ゴブリンさん……本当に……! 本当にありがとうございます!」

 

 女性はゴブタニの手を大事に握り、感謝の言葉を述べ続ける。

 しまいには感極まったのか、ハグしだしたし……。 

 

「ゴブ~♪」

訳:もう俺死んでもいいかな~♪

 

 いや、お前に死なれたら俺が困るんだが。

 とは言え、役得で良かったなゴブタニ。 

 

「もう良いだろ。所で、あんたは何でさっき謝った?」

 

 そう聞くと、女性はハッとしだした。

 

「あの……今はもう止めたんですけど、貴方の戦闘が配信されてまして……」

 

 コイツはバカなのか……。助けておいてこんな事は言いたく無いが、見捨てるべきだったか?

 なんかしらの事情があるかもしれないから聞いてみるか。

 

「事情は? 絶体絶命って時に、配信キューブを回すようなバカじゃない事を信じたいんだが」

 

「ちゃんと事情はあります! 先ず……」

 

 真実かは置いといて、女性は一から詳細に説明してくれた。

 パーティーメンバーといつも通り安全マージンを確保した上で配信してたら異常発生(イレギュラーパニック)に遭遇してしまったと。

 パーティー内では自分が一番強いからと、足止め役を買って出て他を逃がした。それ以前の戦闘で疲弊して、ポーションも無い状態で。

 そのせいで、配信キューブを切る余裕が無かったみたいだ。

 うぅ、バカとか思ってごめんなさい。めっちゃいい子でした!

 

「そ、そうか……災難だったな」

 

 だが、それはソレ、これはコレだ。

 

「所で謝礼金に関してだが……」

 

「はい! 億は流石に分からないですけど、一千万単位なら会社の方から、お支払い出来ると思います」

 

 一千万払えるのかよ。随分と太っ腹な会社と提携してんだな。 

 別に金はいらねえけど。

 

「話を最後まで聞け、謝礼金はいい。大して金に困って無いからな。動画を消せとまでは言わないが、俺が映ってる箇所を全部、編集でカットしといてくれ。要望はそれだけだ」

 

 言われた事が意外だったのか、女性は一瞬呆気に取られている。

 

「……いや! それだけだと私が納得出来ません! 会社を通すのがイヤでしたら、私のプライベートマネーからお支は」

 

「あのな、本人がそれで良いと言ってるんだ。お前に納得なんて求めて無いんだよ」

 

 それでも女性は、でも!と食い下がってきた。

 あー、話しが並行線だ、メンドクセェ。

 

「ゴブ! ゴブ!」

訳:旦那! 俺サインが欲しいっす!

 

 サインか……! それだ!

 閃いた俺は、女性に折衷案を投げる事にした。

 

「なぁ、アンタってかなり有名な配信者なんだよな?」

 

「え? えーと、自分で言うのもなんですが……チャンネル登録者が200万越えなんで、そこそこ……有名だと思います」

 

 超有名人じゃねえか。なんか生意気な口を効いてすいませんね。

 

「ならうちのゴブリンにサインを……そうだな、二枚くれ。困ったら転売する」

 

「転売……分かりました」

 

 空間収納からいざって時の為に、持ち歩いてた色紙とペンを取り出して、若干不服そうな表情をする女性に押し付ける。

 これはアレだからな、従魔達の為に持ち歩いてたモンだからな? 決して自分のサインを書く為に持ち歩いてた訳じゃないからな。サインの練習なんてして無いんだからねっ!

 

「ゴブゴブ!」

訳:旦那マジでひでぇ!

 

 アホ、困っても転売なんてしねえよ。二つともお前にくれてやるよ。

 

「書きました」

 

 女性からサイン入りの色紙を受け取り、空間収納にしまう。

 

「あの、やっぱり」

 

 あー、こんないい子に脅しとか使いたく無いが、これは脅した方が良さそうだ。

 

「おい、いい加減にしろよ。それ以上しつこいようなら、ここに置いていくぞ」

 

 キツく言ったからか、女性は怯えた様子で「分かりました」と理解してくれた。

 

「ほら、これを飲め。そんなボロボロだと道中で足手まといだ」

 

 ミドルポーションを女性に投げ渡す。

 

「代金を……いえ、ありがとうございます」

 

 金の事を言おうとしてたようだが、無駄だと思ったのか諦めたようだ。

 それで良い。アンタと関わるなんて、今後無いんだからな。

 女性が飲み干した所で、俺たちはゴブタニを先頭に、出口を目指して歩みを進めた。

 

・・・・

・・・

・・

 

「お兄さんって、名前は何て言うんですか? イヤイヤでも、助けてくれた方の名前ぐらいは、ちゃんと知っておきたいです」

 

 一階層に出た辺りで、ずっとダンマリだった女性が話しかけてきた。

 

「悪いな。赤の他人に名乗る名前は、持ち合わせてないんだ」

 

「そうですか……あの! 私は西御門四季乃って言います」

 

 西御門か、珍しい苗字だな。俺と同じで鎌倉市の地名が由来の苗字だと思われる。

 にしても、名前の最後に乃が付くのか。名前まで雪ノ下姉妹似かよ。どんだけミラクルな偶然が重なってんだよ。

 

「西御門ね、家に着くまで覚えとくわ」

 

「なんで……そんなに冷たいんですか……」

 

 どうやら、これまでの俺の対応が不服らしい。

 探索者の繋がりとか、配信者の繋がりとかどうでも良いんだわ。

 こっちは自分と家族の未来を描くのに精一杯なんだよ。

 

「他人なんて、こんなモンだろ。それとも金輪際関わらない人間に、なんか期待でもしてんのか?」

 

 冷たくあしらうと、西御門は「ごめんなさい」とだけ言って黙ってしまった。機嫌が悪いと思われてたのかもしれない。

 こっちは仮面を付けている。表情からの情報をシャットダウンしてるから仕方ないか。

 お互い黙って歩く事10分ぐらいで、ゲートの前まで到着した。

 

「アンタが先に出てくれ」

 

「え……?」

 

「アンタと一緒に出たら目立っちまうだろ。時間をずらして俺は出る事にする」

 

 西御門が出て行ってから、俺は20分後に出る算段だ。

 

「分かりました。ゴブタニさん、助けてくれて本当にありがとうございます」

 

 そう言って、西御門はゴブタニにハグをする。

 当然、ゴブタニは鼻の下を伸ばしきっている。

 おーいお嬢さん。そのゴブリンかなりスケベだぞ。

 

「お兄さんと他の使い魔の方々も、本当にありがとうございました」

 

 西御門は俺たちに深々と頭を下げてくる。

 なんか動作が綺麗だな。いい所のお嬢さんなのかもしれない。

 だが、いい所のお嬢さんがダンジョン探索者なんてやるか?

 まあどうでもいいか。

 

「気にすんな、サインも貰ったしな。動画の編集だけ頼むわ」

 

「はい、そちらの方は直ぐに取り掛からせて頂きます」

 

 それだけ言うと、西御門はゲートから外に出て行った。

 

「お前達には苦労を掛けたな。休んでてくれ」

 

 従魔達を本に入れる。

 これで一件落着に思えるが、非常に面倒な事態に直面してる。

 聞いた感じ、西御門は超ド級の有名人だ。生還を果たした事で外は大賑わいだろうな。

 そして、配信で俺が助太刀に入った映像は流れてしまっている。

 無論、外の連中にもバレてる筈だ。西御門は今頃「嫁ニキさんはどうした!?」とか、聞かれてる可能性が高い。

 

 普通に考えれば、俺の取れる作戦は二通りある。

 一つ目は仮面を外して、比企谷八幡として外に出て、白を切る。

 二つ目はダッシュを決め込んで、ホテル目指して強行突破。 

 

 一つ目は絶対に無しだ。素顔を晒すのはリスキー過ぎる。

 二つ目も無しだ。俺よりステータスの高い奴に追いつかれるからな。何より従魔士の敏捷の補正値はそこまで高くない。

 

「ルーメリアに感謝だな」

 

 戦国武将である島津義弘は、関ヶ原の戦いにおいて島津の退き口と言う逸話を残している。

 関ヶ原の戦いで西軍が負けて、窮地に立たされた島津軍は敵軍の中央を突破して、多くの犠牲を払いながらも無事に九州へと撤退を果たしたと言われている。

 だが俺は、退き口において犠牲を払うなんてヘマはしない。なんなら強行突破もしない。

 

 既に己の内にある作戦を実行する前に、最後の自問自答をする。

 

Q.外に出れば即座に屈強な敵軍に囲まれます。さて、どうすれば無事に退却が出来ますか?

A.スケスケの実を食べて、ステルスヒッキーになる。

 

♢ ♢ ♢

 

 うげぇ、後味が不味い。

 緊急時の為にと、ルーメリアから予め渡されていた【インビジブルビーンズ】とやらを口に入れた事で、30分の間はステルスヒッキーモードとなった。

 マジでルーメリアはチートアイテムをいくつ持ってんだよ。

 とりあえず感謝の気持ちマシマシで高級スイーツを買って帰ろ。

 

「本当にいっぱいいるな……」

 

 ダンジョンから外に出ると、出待ちが沢山いらっしゃるではないか。

 ダンジョンゲートを見つめ続ける奴。

 カメラを回す奴。

 色紙を持ってスタンバってる奴。

 中には西御門の生還がよっぽど嬉しかったのか、泣いて喜んでる信者まで居る。

 まぁ誰の目にも俺は見えて無いんだけどな。

 じゃーな、そのまま永遠に出待ちしてろ。

 

「見てろよ、俺が嫁ニキの仮面を引き剝がしてやるからな!」

 

 おっと、俺の噂をしながら大笑いしてる奴が居るぞ。噂とか辞めてくれよ、うっかり人気者になったかと思っちまうだろ。

 ちょっとした好奇心が芽生えた俺は、カメラを持って大笑いしてる軽薄そうなチャラ男の背後に回り込んだ。

 なら俺は、てめえのズボンを引き摺り落としてやるよ、クソ野郎。

 ポッケからサバイバルナイフを取り出す。

 

「えっ、ちょ、何んだこれ!!?」

 

 チャラ男のベルトを切って、パンツごとズボンを下げ落としてやった。

 うわぁっ、コイツのポークビッツじゃねえか。

 

「ちょっと何あの人、恥ずかしいwww」

「おい、変態がいるぞwww」

「炎上商法か?www」

「ああいうのマジでダッセーwww」

「ちっさwww」

 

 この通り周囲は大爆笑。

 良かったな、俺の仮面を剝ぎ取るまでも無く有名人になれたぞ。 

 

「え、おい待て!? 俺のカメラァァァァァァアア!!」

 

 最後にチャラ男が手に持ってた高そうなカメラを強引に奪って、ダンジョンゲートへ向けて全力で投げてやった。

 これに懲りたら炎上商法は卒業すんだな。

 正義(ザマァ)を果たした俺は、チャラ男のヒステリーを背中越しから聞きながら、気分良くダンジョンゲートのある建物から外へと出る。

 にしても、同じチャラ男属性でも戸部ってうるさいだけで良い奴だったな。少なくても、人様に害悪行為をするような奴では無かった。なんなら、色々手伝ってくれたりで戸部マジで良い奴だったわ。

 

 戸部の評価を上げながら歩いてると、三メートル先で四人ぐらいの集団と黒塗りの高級車が目に付いた。

 西御門と女性三人? きっとパーティーメンバーなのかもしれない。にしても迎え付きとか、本当にVIP探索者なんだな。

 俺もそろそろ車買わなきゃなーって思ってると、車のドアが開いた。

 すると凄い勢いで女性が車から降りて来て、無事を祝い合うように西御門と熱い抱擁を交わしだした。

 

「……っ!?」

 

 降りてきた女性を見るや否や、俺の中での警戒レベルが一気にMAXに達した。

 昔より伸びた髪、昔より妖しい色気、昔と変わらない抜群のプロポーション。

 アラサーになった俺に今でも苦手意識を抱かせる存在。

 噓だ、何で、何でここにアンタが降臨してんだよ!? 

 似た容姿、似た雰囲気、似た名前、確かに共通点になりうる点は沢山あった。

 

「は、魔王(はるの)……さん」

 

 だとしても一体どう言う関係なんだ。

 雪ノ下と関わってた期間は、高校二年生から大学二回生までの四年弱。

 その期間で、他に姉妹がいるなんて聞いた事が無い。

 考えられる可能は、

 

「親戚って所か」

 

 いや、今は雪ノ下家と西御門の関係よりも、俺の正体がバレるかを問題視すべきだ。

 西御門は自身が生還した経緯を語る上で、確実に仮面男(オレ)の事を説明する筈だ。

 それは不味い。あの魔王の事だ、少ない情報で俺に辿り着く可能性がある。

 

 思考をフル回転させる。陽乃さんに与えてると不味い情報を、西御門に与えて無いかを考える。

 仕草、話し方、立ち振る舞い、必死に自分の行動を顧みるが、どれも重要な情報に思えてくる。

 ダメだ、些細な事まで考え出すとキリが無い。

 

「って焦り過ぎだろ俺」

 

 もう十年近くも会って無いんだ。仮面男(オレ)の些細な情報を聞いた所で、比企谷八幡に辿り着くのは不可能。

 それに鎌谷幕府の動画を見られたとしても、正体に辿り着けるとは思えない。

 

「ククッ、俺の勝ちだ」  

 

 勝利を確信した所で、西御門以のパーティーメンバーが陽乃さんに会釈して帰って行った。

 透明化が解けるまで、あと十分ちょい。もう少し情報収集するか。

 都合のいい事に、車の外で立ち話しをしてるようだしな。

 深呼吸で息を整え、二人の話しが聞こえる範囲まで近づく。

 

「四季乃ちゃんの言う事を整理すると、たまたま仮面の男が魔物を従えて助けに入ってきた。だけど、性別が男である事以外は不明って事ね」

 

 どうやら謎の仮面男の情報を整理してるようだ。

 

「あと、従えてた魔物は確か、大きい猫さんと、サッカーボールぐらいの青いスライムさん、そ、その……凛々しいゴブリンさんが助けてくれました」

 

 マジかよ。なんかゴブリンってワードの所で頬を赤くしたぞ。良かったなゴブタニ、意識されてんぞ。

 

「え~四季乃ちゃん、まさかゴブリンに恋しちゃったの!? どれどれ~お姉ちゃんに話してみなさいな~♪」

 

「や、辞めて下さい陽乃お姉様! 別に恋って訳じゃ……少しカッコイイと思っただけです」

 

 陽乃さんが西御門の頬をウリウリしだした。

 相変わらず構い方がウザイ。

 つーかゴブタニの奴、カッコイイとか思われてんのかよ。

 残念ながら、俺の従魔である以上は異種族ラブロマンスなんて起きない。と言うか起こさせない。

 監督責任とか、どっかからか俺が文句を言われそうだからな。あとゴブリンと人間のカップリングとか絵面が悪過ぎる。

 

「うん?」

 

 ガールズトークに耳を傾けてると、陽乃さんは何かを感じたのか俺の方に視線を向けた。

 は? 後ろには誰もいないぞ。バレては無い筈だ。

 その証拠に西御門は俺の方を見て無いからな。

 だが陽乃さんは三歩程、俺が立ってる位置に近づいてきた。

 おいおい、ステルスヒッキーを看破したのか!?

 

「陽乃お姉様?」

 

 手を伸ばしくる陽乃さん。

 その手の動きは、何かを探るように近づいてくる。

 ヤバイヤバイヤバイヤバイ!

 一瞬呆気に取られたせいで反応が遅れてしまった。

 そして陽乃さんの手は、何か掴むように握った。

 

「……?」

 

 だが、その手は空気を掴んだ。陽乃さんは自分の手をまじまじと見つめている。

 間一髪。あと3mmでも伸ばされたら捕まっていた。

 

「陽乃お姉様、さっきからどうしたんですか? なんか変ですよ」

 

「う~ん、なんか懐かしい感じがして、ついね♪」

 

「はぁ……」

 

 陽乃さんの言ってる事に対して、西御門は困ったような表情を浮かべている。

 対して俺は、冷汗をきながら徐々に後退りしていく。

 

「ハァ……ハァ……!」

 

 恐怖の余り、呼吸が荒くなっていくのを感じる。もう情報収集とか言ってる場合じゃない。

 こなんハラハラドキドキはレッドオーガス君以来だ。

 これ以上魔王の領域内に居れば、間違い無く看破してくる。俺のサイドエフェクトがそう言ってる!

 ある程度、距離を取った所で全力疾走。結局、俺は尻尾巻いて逃げる事となった。

 

♢ ♢ ♢

 

side陽乃

 

 深夜12時、会社のオフィスで鎌谷幕府の演者である源義経氏の動画を見ながら考察を深める。

 従妹である四季乃ちゃんの情報を元に考えると、この人(厳密にはゴブリンだけど)が四季乃ちゃんを救出した可能性が高い。

 

「ヴァンパイアちゃん凄く可愛いな~♪ チャンネル登録しようっと」

 

 マウスを動かして登録ボタンをポチっと。

 このチャンネル面白いね。特にヴァンパイアちゃんが演者としてかなり優秀。

 って、今は源義経氏の正体、或いは居場所を割り出さないとね。

 

「でも、なにこの違和感。なんか懐かしい」

 

 もう一度、最初の配信動画から再生してみる。

 動画を見れば見る程、違和感?懐かしさ?を感じる。

 まさか私、義経氏に会った事がある?

 私が懐かしさを感じるって事は、それなりに面白い出来事が起きったって事だよね。

 会った事があるのを前提として、脳内で条件の絞り込みをかけてみよっと。

 

 小学校? いや違う、習い事をしてた記憶しかない。あと隼人と雪乃ちゃんが仲違いした事ぐらいかな。

 中学校? 興味を抱く対象がいなかった。よって中学校は違う。

 高校? めぐりん&静ちゃんとの友情を育んだ記憶しかない。あのときは色々面倒を掛けてごめんね静ちゃん。

 大学? 特になし。

 

「でも大学か~」

 

 大学生時代って実家的に色々と起きた気がする。主に雪乃ちゃん関連だけど。

 雪乃ちゃんが一人暮らしをしだした。

 雪乃ちゃんが奉仕部と言ういかがわしい名前の部活動を通して成長した。

 雪乃ちゃんが可愛い彼氏をつくった。

 

「比企谷くん元気かな、元気だと良いな~」

 

 ふと比企谷君を思い出してしまった。

 昔の雪乃ちゃんを想像すると、セットで思い出してしまう男性。

 本来なら今頃雪乃ちゃんとゴールインして、私の義弟になってた人。

 でも、それは叶わなかった。私たち雪ノ下家全員の不配慮のせいで。

 もっと気に掛けてあげるべきだったよね。まさか、学業を放棄してまで雪ノ下家に認めて貰いたい気持ちが強いとは思わなかった。

 うん? 待って。比企谷君ってそれなりに面白い出来事を起こしてくれてるじゃん!

 一回思い返してしまうと、比企谷君関連の思い出がとめどなく溢れてくる。

 

「でも、そんな筈無いよね」

 

 だってあの比企谷君だよ? 比企谷君が全人類で一番ダンジョンに行くとは思えない。

 比企谷君だったら『俺がダンジョン? 陽乃さん、そんなに俺に死んで欲しいんですか?』とか言うに決まってる。

 でも比企谷君だと思って疑ってしまうと、もう比企谷君にしか見えてこない。

 何で義経氏と比企谷君がこんな被って見えるの……? 

 顔は仮面のせいで分からない。

 声はダンジョン内で撮影してるせいで断定出来ない。

 唯一似てる点が有るとすれば猫背ぐらい。

 

 疑問が膨れ上がった時点で、二個目の動画を見終える。

 話しの内容的に多分、義経氏には妹がいる。比企谷君には小町ちゃんがいる。

 あと分かった事は20代後半(多分だけど)。比企谷君も年齢的に20代後半。

 うん? 比企谷君も義経氏と似たような猫を飼ってた気がする。

 

「比企谷家の猫、アレは確か鍋パの時だった気がする」

 

 昔の記憶を懸命に掘り起こす。

 雪乃ちゃんを迎えに、一回だけ比企谷君の実家に一瞬お邪魔した事がある。

 名前までは思い出せないけど、確かに猫がいた。白いサバトラ種のが。

 

「本当にグレイキャット?」

 

 グレイキャットが白いサバトラ種っぽい猫型モンスターなんかに進化する? 

 ダンジョンアイテムに関する会社の役員をしてる以上、私にも魔生物に関する知識がそれなりにある。

 魔物の進化先は大体が、サイズ的に大きくなるのが一般的。

 動画を見て思ったけど、義経氏は従魔士に関するかなりの数の情報を秘匿してると思う。

 従魔士に関する質問は無視してるか、はぐらかして答えてるようにしか見えない。

 これは私の憶測だけど、この猫も秘密が多い。もっと言うならグレイキャットから進化したってのは絶対噓。

 個人的な決めつけが多い中、段々と私の中で義経氏と比企谷君の類似点が多くなってきたよ。

 

「なんか、鎌谷幕府の谷も比企谷の谷なんじゃないかと思えてきちゃった」

 

 私はいくつかの有力な検索エンジンで『比企谷』『比企谷八幡』と打ち込んで、彼の現状を調べてみる事にした。

 

グーグル:主に歴史と地名に関して多く出てくる。比企谷君個人に関してはゼロ。

X:ゼロ

インスタ:ゼロ。あ、小町ちゃん見っけ! フォローしようっと♪

フェイスブック:ゼロ

ライン:ゼロ

 

 厳密には比企谷君じゃない比企谷さんは何人か出てきたけど。

 うーん、比企谷君を探索者だと仮定すると、あとは探索者ネットか。

 あのサイトってダンジョンの場所を検索する時にしか役立たないよね。

 後は国家公認の公務員探索者しか検索出来なかった気がする。

 まあ物は試しだよね♪

 そう思って、まずは比企谷八幡と打ってみたがヒット数はゼロ。

 次に比企谷と打ってみると、

 

「フフフ、あっははははははっ! あー何で気が付かなかったんだろね~♪」

 

 よくよく考えたら義経氏の動画には他の探索者が人っ子一人映っていなかった。

 ダンジョン時代と言われるこの時代に、普通ならほぼ有り得ない。

 詰めが甘いね♪ こんな名前のダンジョンだと、見つけてって言ってるようなもんじゃない♪

 

「プライベートダンジョンって線があったのか~、でもやっと十年ぶりに──」 

 

──義弟君を見つけちゃった♪

 

♢ ♢ ♢

 

番外編:男の葛藤

 

  魔王の領域内からみっともなく逃走を果たした俺は現在、ネオンに照らされた夜の街をウキウキワクワクしながら歩いている。

 恐るべし魔王。まさか懐古感なんてあやふやなモノで、俺の存在を感じ取るとはな。

 

 陽乃さんに対しての警戒度を上げながら歩いてると、目的の店が入ってるビルディングの前で歩みを止める。

 看板を見ると、いやらしい格好をしている女性が沢山映っていらっしゃる。

 そう、俺は今日この風俗店に来るのを、一週間も自家発電を自粛するぐらいには楽しみにしてた。

 風俗に来るのはサラリーマン時代のクソ上司に付き合わされて以来だ。因みに奢ってくれなかった。

 ちょっと前までは性サービスに金を払うなんてバカのする事だと思っていたが、ここ最近の俺は欲求不満だ。

 言わば性欲が爆発して過ちを犯す前に、その欲求不満を解消すべく俺は来たのだ。

 理論武装完了。誰にする訳でも無い言い訳を自分にしながら店に入り、受付の厳つい黒服に話しかける。 

 

「あの、60分コースの制服オプション付きで。指名はえーと……」

 

 在籍リストを見ながら誰にするか迷う。

 この、おバカそうでパイオツがデカイ子いいな。

 いや、このあざとい笑顔を浮かべる小悪魔っぽい子も捨てがたい。

 でもなぁ、やっぱこのツンとしてそうな綺麗な子にするか?

 だが何故か、このラインナップから選んではイケない気がする。

 よし、このフワフワしてそうな癒し系美女にしよ。てことで股関(ハチマン)の相手は、キミに決めた!

 

「この、えみっしゅって子でお願いします」

 

「かしこまりました。ではお客様こちらへ」

 

 オーダーをし終えると、黒服に案内されて待合室に入る。

 呼ばれるまでにアルコール消毒と、爪を切るように言われたので決戦の準備に取り掛かる。

 約1年ぶりの性交渉。なんなら雪ノ下と別れてから、初めて自分から風俗に来た。

 この気持ち、この興奮。ククッ、八幡(ワクワク)が止まらねえぜ!

 

──マスタ~

──あるじさま~

 

 爪を切りながら股関(ハチマン)の躍動を感じてると、愛しき家族二人の笑顔が脳裏によぎった。

 待て待て、金を払ってサービスを受けるだけだ。俺は別に悪い事なんてしない。してないったらしてない。

 そもそも彼女なんていないし、浮気をしてる訳でも無いのに、俺は誰に言い訳してるんだ?

 

──マスター最低ですわっ!

──あるじ様メッ!

 

「う、ううっ」

 

 脳内再生が止まってくれない。まるで浮気がバレた気分だ。

 ヒヨってんじゃねえよ俺、ずっとこの日を楽しみにしてたんだぞ。ここまで来たからには絶対にサービスを受けてやる!

 

──マスタ~♡

──あるじさま~♡

 

「ひ、ひっ!?」

 

 今度は俺の中の生存本能が、警告を大音量で鳴らしてきやがった。

 完全には覚えてないが、ここ最近の配信でかなりの恐怖を体に刻みこまれたようだ。

 ヤバイヤバイ! バレたら二人に殺される!

 

「お客様、お待た」

 

「やっぱ仕事残ってたんで帰ります! これキャンセル料でっ!」

 

 店員が入って来ると同時に俺は立ち上がり、一万円札を強引に押し付けた。

 そのままダッシュを決め込んで、外へと駆け抜け、勢いを殺さずに泊まってるホテルへとゴートゥー。

 ルーメリア、タマエ、お兄ちゃんが間違ってたよ! だから許して!

 

 後日談だが、

 店の匂いが若干服に付いてたせいでルーメリアに怪しまれた。

 誤魔化したけどな。ゲーセンに寄ったら香水のキツイ女が隣に座ってきた、と言って難を逃れる事が出来たよ。

 つーか、なんで魔王属性の奴ってこんなに感が鋭いんだ。




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