か、カマクラが若返ってる!?   作:9ナイン9

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26:十年経っても、葉山隼人はリア充である。

 湘南の亀はレーザを放つ、怒りを添えてな。

 

「ウェェェェェェェェン!!」

 

 俺は現在、神奈川県藤沢市江ノ島のダンジョンで数体もの亀(ダンプカーサイズ)と生存競争(イチャイチャ)している。

 まあアレだ、またもや社畜に片足を突っ込んでるのかもしれない。何故なら、雪ノ下ホールディングスの下請け仕事(半ば無理矢理)を遂行してる最中だからだ。

 

「タマエ、結界で跳ね返せ!」

 

 迫り来るレーザを防ぐべく、指示を飛ばす。タマエは平手を前へと突き出し、術の名を叫んだ。

 

「結界術・射鏡陣!」

 

 ビィィン、と反射音を鳴らしながら、レーザが相手に跳ね反る。

 今度こそ、やったか?

 そう思った矢先、レーザが当たる直前に、亀の頭が甲羅の中へと引っ込んだ。それと同時に、俺の期待も引っ込む。

 レーザでも甲羅に傷一つ付つけられない。

 やっぱあの甲羅、硬過ぎんだろ。酸、斬撃、聖炎、どれもダメだった。幸いなのは、攻撃速度がかなり遅い事。

 カマクラも一応いるが、【招福】用員として出してるだけだ。他の従魔達に経験を積ませる為に戦闘に参加させてない。

 もはや時間を掛け過ぎた、もう出し惜しみしてる場合じゃないな。

 焦れた俺はモンスターブックを呼び寄せ、ヴァンパイア少女を顕現させた。

 

「あらマスター、今日の舞踏会に呼んで貰えるとは思いませんでしたわ」

 

 登場と共に、髪をサッとクールにかきあげるルーメリア。その余裕の態度が俺に安心感を与える。

 

「悪いな、俺らが踊るにはちょっと荷が重い相手だったわ。カマクラと一緒に踊ってきてくれ」

 

 そう言いながら視線を亀の方へと、向ける。

 

「仕方無いですわね。五体のうち四体は、わたくしとカマクラさんで殺ってあげますわ。あと一体は頑張ってみて下さいな」

 

 ルーメリアが勢い良く魔力燃開と唱えた。その体からは蒸気が溢れだしてくる。

 

「ニャー!」

 

 カマクラもルーメリアと共に、亀共へ突撃。俺は対峙してる亀を見据えて、どう倒すか思考を最大限加速させる。

 脅威度B+、マジックスチールタートル。攻撃と動きはかなり遅いが、圧倒的な防御力を誇っている。

 ドロップするのが運搬困難な巨大な甲羅。倒した後の旨味が魔石しか無いせいで攻略情報はかなり少ない。と言うか、倒すのは物好きしかいないと攻略サイトに書かれていた。

 強打撃スキルを持ってる奴でゴリ押し、って事ぐらしか攻略情サイトに書いてなかったしな。

 

 考えろ、モンスターと言えど所詮、亀がデカくなったに過ぎない。あの甲羅がアイツの体の80%以上を占めている。甲羅以外の箇所は確実に弱点だ。

 亀が確実に甲羅に籠っていられない状況と言えば……!!

 

「タマエ、妖術で全てが逆に見えるようにしろ!」

 

「やってみます! 妖術・幻朧!」

 

 妖しき紫の光が、亀へと降り注がれる。

 

「ウェェェェェェェェン!?」

 

 亀は視覚情報と立ってる感覚がリンクしてないのか、ふらつきだして混乱に陥ったようだ。

 よし!妖術成功だ!

 

「サブレ、ゴブタニ! アイツの周りを走り回れ!」

 

 あべこべに見える状態でサブレとゴブタニが周りを走り始め、巨大亀は右往左往しながら余計に足をバタバタしだす。

 もっと混乱させてやるよ!

 

「構わず走り周れ! モンスターズシフト!」

 

 従魔士Lv7→従魔士Lv8。

 【ソウルコスト】

 

 どういう事だ……テイムした訳じゃないのに、スキルレベルが上がったぞ。

 それに、このスキル……。いや、考察は後しよう。

 

「ウェェェェェェェェン!!?」

 

 ゴブタニとサブレの位置交換。見えてた存在が別の存在に変わる事で、混乱に混乱を重ねる。

 

「サブレ今だ! 顔面にバーニングタックル!」

 

 巨大亀が右足を大きく上げだして、大きく隙ができた瞬間、サブレが炎を纏いながら巨大亀の顔面に強烈なタックルを与える。

 バランスの崩れた巨大亀はそのまま勢いで裏返り、藻搔き始める。混乱も相まって、もう自分がどういう状態になってるか理解出来てないようだ。

 

「フフッ、ハハハハハ! お前ら、タコ殴りにしろ!」

 

 勝利に酔いしれる俺も魔鉄バットを空間収納から取り出す。

 散々手こずらせやがって、サンドバッグにしてやる。

 

「あるじ様の顔が悪い人になってる……」

 

 おっと、子供に見せちゃイケないゲス顔になってたようだ。

 それはそれとして、巨大亀はちゃんとぶっ殺すけどな。

 

 浦島太郎でいじめられていた亀みたく、裏返った巨大亀に従魔達と共にフルアタックをかける。

 手足をジタバタさせながら暴れてるせいで、多少手こずったが無事に討伐完了。

 

「思ってたより早く終わりましたわね」

 

 涼しい顔で微笑むルーメリア。お前とカマクラの戦闘力がオカシイだけだからね。お前らがサイヤ人なら、こっちはヤムチャみたいなもんだから。根本的に違いすぎる。

 

「にしても本当にデカいな……」

 

 巨大な甲羅が五つドロップしている。雪ノ下ホールディングスからのオーダーは三つ。

 そうだな、四つ目も買い取って貰って、五つ目は素材として持っておこう。

 

 甲羅を空間収納にしまって、自身のジョブレベルについて考える。

 【モンスターズシフト】を使った直後にレベルが上がった。テイムしないで上がったのは、これが初めて。考えられるのは、スキルを使えばジョブレベルに経験値が加算されるってことか。今までの事を考えると【テイム】を使うのが、一番経験値効率が良いと言うのは明らかだけどな。

 

「くっ……ふざけんなっ!」

 

 八つ当たり気味に適当な石を壁へと蹴っ飛ばす。

 ジョブレベルについては別に良い。最強探索者を目指してる訳じゃないからな。

 問題は新たに手に入れたスキルの【ソウルコスト】だ。

 

【ソウルコスト】

自身の従魔を魔力エネルギーに変換して、一撃を放つ。威力は従魔の力によって変動する。

 

 従魔を使い捨てにしながらジョブレベルを上げてね、って言われてるみたいで虫唾が走る。こんなスキル使ってたまるか、そんな機会は永遠に来ねぇよ。

 

「あるじ様、怒っちゃ怖い……何かあったの?」

 

「ごめんなタマエ、ちょっと怖かったよな。もう大丈夫だから」

 

 どこか怯えてるタマエに対して、その頭を撫でてあげる。不機嫌な態度を出すなんて指揮官として三流以下だ。最近買った『指揮官として』と言う本に、そう書いてあった。今後はもう少し気をつけよう。

 そんな事を思ってると、男女が入り混じった声が聞こえてきた。

 

「タマエ、結界をかけろ」

 

 指示をすると、タマエは防逢陣を発動した。

 

「ここから戦闘音が聞こえたんだって」

「本当なの? 巻き込まれるとかイヤだからね?」

「まあまあ、何かあったら僕がヒールするから」

 

 通路の奥から男2人、女1人が姿を現す。女はいかにも派手なギャル系で、見た感じリーダーっぽい。最後尾の男は、どこか苦労人を感じさせる雰囲気がある。前を歩いてる男はいかにも戦士職で、パリピって感じだ。

 ケッ、リア充パーティーかよ。八幡ああいう人達嫌いです。

 

 じっとしてると、そのままリア充パーティーが和気あいあいと通り過ぎて行った。

 

「マスター、自意識過剰ですわ。誰もがわたくし達を知ってる訳じゃないですのよ?」

 

「それはそうなんだが……従魔って珍しいし、変に注目浴びるのイヤなんだよ」

 

 っつーか、知らない人間と絡みたく無い。

 

「あるじ様って人見知り?」

 

「違いますわタマエ、マスターは赤の他人とのコミュニケーションを面倒くさがってるだけですわ」

 

 良く分かっていらっしゃる。そんな君には八幡検定一級をあげちゃう。

 

「この話はまた今度だ、ドロップ品も回収したし帰るぞ」

 

「話は終わってませんわ。今日のわたくし達の食事はなんですの?」

 

 とルーメリアは俺の袖を掴んでくる。そんなに腹減ってたのかよ、朝食にサンドイッチいっぱい食べたよなお前。

 

「そこら辺で何かテイクアウトするつもりだけど……」

 

「マスターは何を食べるんですの?」

 

 シラス丼と答える。途端にルーメリアはギロッ、と目つきを厳しくした。

 

「わたくし達は冷飯で、マスターはご当地グルメを満喫。許せませんわ!」

 

「私もご当地グルメが良いです!」

 

「ちょ、お前ら……」

 

 ルーメリアとタマエに続いて他の従魔達も抗議の声を上げ始める。いつも家と本に閉じ込めて悪いとは思うけど、大っぴらに連れて歩けないだろ……。

 

「無理に決まってんだろ。お前らを連れて歩いたら、それこそ大騒ぎだ」

 

 ふーん、とルーメリアは意味深に声を出す。

 

「魔物や魔族っぽく無かったら良いんですの?」

 

 なんか途轍もなくイヤな予感がする。俺のサイドエフェクトがそう言ってる。スゲー、俺ってば実力派エリートになれちゃうよ。

 

「まあ……まあそう言う事になるかな……」

 

「なら、これですわ!」

 

 ルーメリアはそう言うと、空間収納から幾つかネックレスを取り出して、従魔達に配り始めた。

 

「スライム、貴方は体内に入れときなさい」

 

 ソフィーが溶かす事なく、体内にネックレスを入れた。

 

「おい、噓だろ……」 

 

 ルーメリアがネックレスを付けると、金髪碧眼の外国人美少女になった。カマクラは中年の太ったオッサン。ゴブタニは柄の悪いジャージ姿の金髪ヤンキー。タマエはおかっぱの和風幼女。サブレはダックスフンドのぬいぐるみ。

 

「ソフィーがルービックキューブになったんだけど」

 

「プルプル」

 

 手に持ってみると、感触はスライムだった。

 

「【変り身の首飾り】ですわ。これなら触れられない限りは、感づかれる事は無いですわよ」

 

 またチートアイテムかよ。これだったら全員で出掛けても大丈夫なんだろうけど、ビジュアル的に違和感しかない。何よりカマクラが太ったオッサンとか違和感ありまくりだ。

 

「ニャー」

 

 太ったオッサンが鳴いたぞ。なにそれちょっとウケルー。

 

「頼むから、お前は声を出すな」

 

 仕方ない、今日は湘南観光を楽しむか。これならよっぽどの事が無い限りはバレないだろ。

 

「今はとりあえず、過剰戦力だから本に入っててくれ」 

 

 柄が悪くなったゴブタニとルービックキューブになったソフィー以外を本にしまう。

 外に出たら、適当な路地裏で出してやるか。

 

 こうして目的のドロップ素材を手に入れて、俺は江ノ島ダンジョンの三階層から出て行った。

 その後は擬人化(ぬいぐるみ+ルービックキューブ)した従魔達と一緒に湘南観光をした。

 

 カマクラは絡んできた湘南ヤンキーを半殺にする。ゴブタニは言葉が通じないのに、ボンキュッボンな湘南ギャルをナンパ。ルーメリアは屋台の店主と揉める。サブレは向かってきたトビを丸焼きにした。ソフィーとタマエはいい子で天使。

 とまあ中々に、胃に優しく無い観光であった。俺がいなかったらマジで逮捕案件。今後こいつらとの旅行はゆっくり考えた方が良さそうだな。

 ああ因みに、タマエと同じ背丈ぐらいの男の子がタマエに話し掛けてきたので、俺が耳元で『殺すぞガキ』と囁いてやったら泣いて逃げて行ったわ。毒虫を排除するとか、俺マジでファインプレーだったわ。

 

♢ ♢ ♢

 

 湘南観光を楽しんだ翌日。

 雪ノ下ホールディングスの所有物であり本社である幕張に最近新築された巨大なビルディングに足を運んでいる。

 面倒を承知で来ている目的は、巨大な甲羅を納品する為。気まず過ぎて仕事じゃなきゃ絶対に来ない。

 

「あの……もう一度名前をお伺いしてもいいでしょうか?」

 

「だから源義経です。雪ノ下陽乃副社長にはちゃんとアポ取ってますよ」

 

 これで受付のお姉さんに名乗るのは三回目。オカシイナー、名前が源義経なのと仮面を付けてる以外は怪しくない筈なんだが。警備員がさっきからガン見してきてるのも、きっと気のせいだ。

 

 気まずさに耐えてると、お姉さんが固定電話を手に取ってどこかに掛けだした。

 

「お疲れ様です雪ノ下副社長。受付の者です、源と名乗る方が……え、大切な人!? はい!直ぐに通します!」

 

 なんか凄く誤解されそうな伝え方をされてる気がするんだが……。無駄に面白がってるだけに違いない。

 受付のお姉さんは慌ただしく「これを!」と、来客と書いてあるネックストラップを渡してきたので、首に掛ける。

 会釈をして、エレベーターに乗り、ダンジョン製品営業本部と書いてある25階を目指す。

 

 前々から規模感が違う一族だとは思っていたが、いつ間にこんなデカいビルまで買ったんだよ。もうフィクションの世界のセレブになってるぞ。以前より近付き難い家柄になってしまったようだな。

 

 そんな事を思ってると、ピンポンと到着音が鳴り、エレベーターの扉が開く。

 

「ひゃっはろー比企谷君! それとも義経って呼んだ方が良かったりする?」

 

 飄々とした陽乃さんが待ち受けていた。そう思うなら最初から偽名で呼んでくれよ、このおばさ、

 

「比企谷君は私とお・は・な・しがしたいのかな~」

 

 恐ろしいぐらいに笑顔だ、圧が凄い。イヤ、この場合は圧ではなく殺だな。

 にしてもおかしい、仮面を付けて尚且つ無表情を意識したつもりなのにサトラレたぞ。この人絶対になんか変なスキル持ってるだろ。

 

「…………な、なんの事でしょうか?」

 

「まあまた今度ゆっくり話せばいっか」

 

 どの道お・は・な・しは免れないようだ。グッバイ俺の未来。

 

 付いてきてと言われたので付いて行くと、職員が沢山いるラボみたいな所に連れて来られた。

 陽乃さんがこのフロアに来るのが珍しいのか、入った瞬間雰囲気が引き締まった。これは会社アルアルだな、いつも来ないお偉いさんが急に来ると変な雰囲気になるってやつだ。

 因みに、何故かお偉いさんの長話に付き合わされただけなのに、後々上司にサボり判定されて理不尽説教されたのが俺だ。

 職員達にチラチラ見られながら着いた所は、結構広めな会議室であった。

 

「うん、ここで良いかな。義経氏、ここに甲羅を出して貰えないかな」

 

 そう言われたので、甲羅四個を空間収納から出す。

 

「え、ウソ! 四個も!?」

 

 ガラス張りの外から覗いてる職員もおー、と驚嘆を零す。やめてくれ、なんか恥ずかしいから。いっその事、謙遜しまくって鈍感系になろうかな。

 

「四つ目は定価で良いんで買い取って貰えないですかね……」

 

「むしろ有り難いぐらいだよ! これも100万で買い取るね♪」

 

「一応、後学の為に聞きたいんですけど、マジックスチールタートルの素材依頼って俺以外だと幾らぐらいなんですか?」

 

「うーん、そうだね……今回の依頼を安全性と経済性込みで考えるとベテランのAランクパーティー1隊、Bランクパーティー1隊、輸送用員のサポーターを10人ってのが妥当だから……600万行かないぐらいかな♪」

 

 俺ってめっちゃ安上がりじゃん。いやまあ確かに俺ってサポーター云々の人件費と運送費は掛からない。強いて言えば食費しか掛からない戦力は持ってるんですけどね。考えれば考える程に俺って市場価格を崩壊させてる気がする。やっぱり【ストレージリング】は壊れアイテムだ。

 

「是非ともその指輪は、時間をかけて解析したいもんだね~♪」

 

 俺の右手の薬指に嵌ってる指輪を見ながら、陽乃さんは気味悪く笑みを浮かべる。対して俺は右手を庇うように引っ込める。

 

「いやいや、流石に大事な商売道具は預けないですからね」

 

「ふーん、ところで比企谷君はルーちゃんとデキてるって事で良いの?」

 

 当たり前かのように聞いてきた。何で俺が異種族ラブロマンスをしてる前提なんだよ。

 

「急に話しがオカシイ方向に行きましたね。デキて無いですよ、家族同然なだけです」

 

「だって二人とも右手の薬指だし、デザインも同じ。ねえその指輪、幾つ持ってるの?」

 

 視覚からの情報を元に導きだしたのか、かなり厄介な質問をしてきやがる。

 右手の薬指にハメてる理由は、単にルーメリアが煩かったからだ。【ストレージリング】の保有数は正確じゃないが、恐らくルーメリアの口ぶりからして何百以上も持ってる筈だ。ただそれを開示するには、必然的に滅びた異世界の事を話さなければならない。

 

「…………ノーコメントで。こちらにも企業秘密があるんですよ」

 

「へぇー、やっぱ訳有りなんだ」

 

 この人、興味深々って顔をしていやがる。すっげー面倒くせぇ。

 

 警戒心をMAXにしてると、陽乃さんは「はいこれ」と笑顔で紙を渡してくる。

 確認すると、口座を記入する用紙であった。この人から渡される重要書類ってトラップがありそうで怖い。なんならハンコとか押したくない。これは嵌められ無い為にも、必要以上に確認した方がよさそうだな。

 

 隅から隅まで確認してると、ガチャっと誰かが扉を開けて入って来た。

 

「陽乃さん、これ急ぎで頼まれてた書類です」

 

「マジか…………」

 

 入ってきた爽やか笑顔の人物を見て、俺はただただ啞然とした。イカしたスーツ姿ってのもあるが、昔とかなり変わってるからだ。

 なんでコイツが……いや、そう言えば雪ノ下家の関係者だったな。しかも明るい茶髪だったのが黒の七三分けになってるし。イケメンってどんな髪型になってもイケメンなんだな。超ムカつくわー。

 

「お! サンキュー隼人♪」

 

 色男、聡明、優れた運動神経、中身は品行方正。神が何かの手違いで作ってしまった男、それが葉山隼人だ。

 

 葉山を見ながら懐かしんでると、陽乃さんがニヤニヤしながら葉山の紹介をしてきた。

 

「義経さん、こちら弊社の法務部部長の葉山です。隼人、こちら凄腕従魔士の源義経さんだよ」

 

 へー、法務部部長か、大出世だな……。って違う、紹介されなくても知ってるわ。このおばさ、じゃなくてお姉さんは俺の危機的状況を楽しんでるだろ。

 

「源義経……って陽乃さん、本当に本人なんですか!?」

 

「そうだよ隼人、正真正銘の源義経だよ♪」

 

 葉山は凄く嬉しそうに俺との距離を詰めてくる。何コイツ怖い!

 

「源さん、弊社の西御門を助けて頂き本当にありがとうございます!」

 

 と凄い勢いで頭を下げてきた。お、イケメンポイントを更に見つけたぞ、イケメンってつむじもイケメンなんだな。ハチマンヤッパリイケメンキライ。

 まあ冗談は置いといて、西御門って雪ノ下家関係者に愛されてんだな。この分だと、昔の雪ノ下みたく拗れてるとかは無さそうだな。

 

「ゴホッゴホッ、お気になさらずに。たまたまですから」

 

 比企谷八幡だと気が付かれないように、出来るだけ声を低くする。

 

「…………」

 

 何故か不思議そうに葉山が見つめてくる。やめろよ男も落す気かよコイツ。

 

「あの……どこかで会った事ありますか?」

 

 っべー、葉山くんマジっべーわ! もう気づかれそうなんですけど! なに陰キャの声も覚えてるとか真の陽キャは違うな!

 とりあえずさっさと誤魔化さないと。

 

「え、ええーと、自分は北海道出身なんですが、葉山さんも北海道出身ですか?」

 

 俺がデタラメを言うと、一瞬納得のいかない表情をするが、すぐに元の爽やか笑顔に戻った。

 

「いえ……自分は千葉です」

 

 この感じ、若干違和感を覚えてるようだな。

 

 話しもひと段落着いた所で、陽乃さんのスマホが鳴りだした。

 

「ちょっと外すね」

 

 そう言って耳にスマホを当てながら会議室から出てしまった。

 

 俺と葉山の間にシーンとした気まずい空気が流れる。

 そして、葉山が口を開いた。

 

「で、お前は何してるんだ──」

 

 ──比企谷?

 

「…………」

 

 いまコイツ何て言った。比企谷って言った気がするが、きっと気のせいだ。

 

 ずっとだんまりを決めこんでると、葉山が溜息混じりに話しを続けてくる。

 

「大学の時からずっと音信不通で心配だったんだ……本当に再会出来て良かった比企谷」

 

 優しく俺の肩に手を置いて来る葉山。やっぱりお前は昔と変わらず聡明だよ。しかもムカつくぐらい超イイ奴だ。

 観念した俺は、壁にあったスイッチを押して、ガラス張りにシャッターを降ろす。

 葉山以外の誰にも見られて無いのを確認して顔に手を伸ばし、俺は仮面を取った。

 

「久しぶりだな……葉山」

 

 仮面を取ると、葉山は嬉しさと驚きが混じった様な顔を見せる。

 

「まさかとは思ったけど、本当に比企谷だなんてな。随分と様変わりしたじゃないか」

 

「仕事で命を懸けてるんだ、多少は変わるだろ」

 

 素っ気ない俺の態度に、葉山は昔と変わらず笑顔で受け流す。

 

「そうだな、動画も見たぞ。凄く充実してるじゃないか、可愛い彼女が二人も出来て」

 

「ゲホッゲホッ! 彼女じゃねえよ、従魔であり家族だ。なにそんなにイチャイチャしてるように見える? 動画だと割と痛い目に合ってる記憶しか無いんだが?」

 

「比企谷、お前は相変わらず面倒な性格なんだな」

 

 何でコイツは俺の後方理解者面してんだよ。それとも真の陽キャって人の良い面を見つけるのが趣味だったりするのかよ。

 

「お前はどうなんだよ、葉山」

 

「俺か? ゆみちゃ……ゴホッゴホッ、優美子とは仲良くやってるぞ?」

 

 うん? 優美子って三浦か? しかもコイツ今ゆみちゃんって言いかけたよな?

 

「……なぁ、お前ってもしかして……三浦と結婚してたりするのか……?」

 

 恐る恐る疑問を口にすると、葉山は盛大な溜息を吐いた。え、何か変な事でも聞いちゃった感じ?

 

「三年前に結婚式の招待状を出した筈なんだけどな」

 

 三年前って絶賛社畜をしてた頃だぞ。あの頃はポストに入ってた物を確認しないで捨てていた気がする。これは確実にヤラかしてるな俺。

 

「HAHA……悪かったな、それとおめでとうさん」

 

 こうなれば、ここはご祝儀でも渡して誤魔化そう。俺は大人だ、大人は何事も金で解決するもんだ。

 

 俺が財布を出そうとすと、葉山が苦笑いしながら止めてきた。

 

「比企谷、金はいらない。でも、その……ちょっとした頼みがあるんだ」

 

 目を泳がせながら凄く気まずそうに葉山は言う。

 

「何だ? 戸部の告白ならもう止めないぞ」

 

「あのな、俺達はもう大人だぞ。戸部が天皇家の娘さんに告白しようとしても止めないよ」

 

 いやそれは止めろよ、無謀過ぎるぞ。

 

「その、えーと……ソフィーちゃんを撫でさせて貰えないか」

 

「…………は?」

 

 なんか葉山が素っ頓狂な事を言った気がするんだが……。

 

「だから、ソフィーちゃんを撫でたいんだ」

 

「まあ……そのぐらいなら……」

 

 モンスターブックを呼び寄せて、スライムのソフィーを召喚。

 

「プルプル」

 

「なあソフィー、このお兄さんがお前のファンなんだ。ちょっと構ってあげてくれ」

 

 お願いすると、ソフィーは葉山に向かって飛んだ。対して葉山は両手で受け止める。

 

「ソフィーちゃん……プルプル……可愛い……」

 

 なんか葉山の顔が凄い緩んでるんですけど。ちょっとこれはイケメンポイントはあげられないな。

 

「なあ比企谷、俺でもスライムを家族にできるかな」

 

 同級生だったイケメンが十年ぶりに会ったらスライム厨になってた件について。

 

「いや、知らねえよ」

 

「飼いたいな……スライム」

 

 ダメだ、葉山が残念な奴になってきてる。それはそれで面白いから別に良いけど。

 

「プルプル♪」

 

 ソフィーも撫でられて満更でもなさそうだな。

 

 葉山のキャラ崩壊を複雑な気持ちで眺めながら、重要書類を仕上げてると、陽乃さんが戻ってきた。

 仮面を付け直して、葉山からソフィーを取り上げる。

 

「あ……」

 

 おい葉山、そんな捨てられた子犬みたいな目すんなよ……。

 

「お、意外と早くバレたんだ♪」

 

「貴女絶対に楽しんでますよね。それとこれ」

 

 書類をご機嫌な陽乃さんに渡す。まあ葉山の人間性的に言いふらすと思えないから別にいいや。

 恥ずかしいから配信は見ないで欲しいけど。でもコイツならソフィーに貢ぎそうなんだよなー。これは良い、葉山から金づるの波動を感じてきたぞ。ククッ

 

「不備は無さそうだね。うん、お金はすぐに振り込んでおくよ♪」

 

 今回の儲けは計400万。とうとう予算800万で車を買う時が来たな。でも信頼のある所から安く買いたいから、交渉してみるか。

 

「あの陽乃さん、いらない車とかあります? 丁度いいのがあれば買い取りたいです」

 

 陽乃さん個人はともかく、雪ノ下ホールディングス自体は超大手企業だから信頼できる。

 

「車ねえ……そいえば隼人、何台か使ってない車あったよね?」

 

「確か……」

 

 二人の話しを聞いてると、社員用に買ったけど意外と使われて無い黒のプリウスが3台余ってるらしい。

 プリウスか。まさに営業車って感じだが、ハイブリッド車だし良さそうだな。はなっから贅沢を言うつもりは無いし。

 聞いてみて色々考えた結果、新品同様の三年落ちのプリウスを250万で売って貰う事にした。 

 

「んじゃあ話しも終わったし、ランチに行こっか比企谷くん♪」

 

「いやアレがアレでアレだか、」

 

 言い訳の途中で腕を掴まれた。俺も反射的に葉山の腕を掴む。 

 

「っておい比企谷!?」

 

 悪いな葉山、お前も地獄に付き合って貰うぞ。

 

 結局三人仲良く、陽乃さんの奢りで近くにある料亭で鰻を食べた。葉山には三浦の作った弁当があったらしいが、そこはなんかゴメンな。何だかんだ昔話や世間話をしたりで、思いのほか楽かったのが悔しかったです。




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