Yo!Yo!満喫する予定の冬期休暇now!なのに仕事now!よって俺は社畜now!両親から受け継いだぜ社畜適性MAX!そんな俺の癒やしはMAXコーヒーだぜ、Hey Yo!今日もイカしてるZe俺のラップ!
心の中で素晴らしい社畜ラップを響かせる俺は、リビングにてpcでカタカタと鎌谷幕府のアカウントに来たメッセに対応すると言う地味な仕事をしている。
『アウベックス㈱の若山と申します。
ルーメリアさんを本格的に歌手デビューさせて頂けないでしょうか。
勿論、源義経様には結構な契約金をお支払いさせて頂きます。
ご検討の程、よろしくお願いします。』
すげぇよな。アウベックスって俺でも知ってる超大手の音楽事務所だぞ。そんな所のエリート社員が俺みたいなモブ野郎に、懇切丁寧なメールを送って来んだからルーメリアの才能は本物なんだろうな。でも本人が事務所に興味無いと言ってるので、お断りの定型文を送信っと。
一応昨日、寝る前にルーメリアに興味あるか聞いたんだが『マスター以外の所で歌う? フンッ、死んだ方がマシですわ』って言われたよ。
さてと本人は興味が無いと言ってるし、次のメッセに目を通すか。
『鎌谷幕府・源義経様。
お世話になっております。
山長製菓㈱の井川と申します。
弊社新商品のレビュー案件を受けて頂きたいのですが、どうでしょうか。
まずはお話だけでも聞いて頂ければと思います。
ご検討の程、よろしくお願いします。』
これも有名な大手企業じゃねえか。チョコボールとかハイチューとか美味いよな。まあ受けないけど。こう言う堅苦しいメールが来ると、サラリーマン時代を思い出すから萎えるんだよ。ああヤバイ、
大体、鎌谷幕府の本業はYouTuberじゃねえんだよ。雪ノ下HDのレビュー案件を受けたのも、ほぼ仕方無くと言うか、元カノの姉の頼みだったからで、いわゆる縁故案件だ。
さて、次のメッセでも見るか。
『チャンネル名ゴムノットのトマトです。
お世話になっております。
自分達は登録者数300万人のエンタメ系YouTuberです。
コラボして頂けないしでしょうか?
そちらにメリットのある提案だと思います。
よろしくお願いします。』
コイツのダメ出しポイントを数えよと思う。
ダメ出しポイント一つ目、登録者数でマウントを取ってきてるし、どこか上から目線。
ダメ出しポイント二つ目、提示するメリットが具体的じゃないし、こっちはコラボで登録者数を増やすのをメリットだと思っていない。
ダメ出しポイント三つ目、俺の嫌いな食べ物であるトマトと同じ名前なのが許せん。
おめでとうトマト君、スリーストライクだ。トマトを洗って出直して来い。あと、ゴムノットはダメだろ。ゴムはちゃんと付けろよ。じゃないと、間違いが起きた時に後悔するぞ。あ、これだとダメ出しポイント四つだな。まぁどうでもいいや。
よし、これでお断り文をコピペするだけの作業は全て完了。次は本格的に文を書かなければイケない案件だ。
面倒くさいと思いながらXを閉じて、メールアプリを開く。
from:鶴間静流
件名:従魔について
比企谷様
いつもお世話になっております。
魔生物情報本部・従魔課の鶴間です。
比企谷さん、返事を下さいお願いします。
このままだと、上司と一緒に比企谷さんのご自宅に行く事になってしまいます。
或は探索者協会が強引な手段を取る可能性があります。
Ps.上を説得し続けるのがもう限界です!早く返事を下さい!
時は成った。鶴間さんから追撃メールが来るのは、これで6回目。このメールの文章から、探索者協会が俺の情報を欲しがってるのが見て取れる。今までの鶴間さんからのメールでは、探索者協会が俺の事をどの位の優先順位にしてるか図りかねていた。だが今回のメールで分かった。強引な手段を取ると書いてる辺り、俺に対しての優先順位はかなり高い。これで交渉の際に、かなり優位に立てるぞ、ククッ。
from:比企谷八幡
件名:従魔について
鶴間様
いつもお世話になっております。
比企谷です。
今まで仕事が立て込んでおり、メールに気付きませんでした。申し訳ございません。
予定的に明日だけ空いてますので、探索者協会にお伺いしても大丈夫ですよ。
Ps.なんか色々とありがとうございます!
丁寧な文を打ち終えて、俺はメールを送信した。
因みに予定が明日しか空いて無いのは嘘。さっさと終わらせたいから明日にしたいだけだ。大体、情報を知りたがってるのは相手なんだから、全面的に俺に合わせるべきだ。っつーか合わせろ。本当に鶴間さんには同情するわ。上からガミガミ煩く言われてんだろうな。って俺のせいか。テヘッ☆
こちらの条件を呑ませ易くするためにも、お菓子系の手土産ぐらいは買って行くか。
これでビジネス系の返信をする作業は全て終わった。ある意味これから書くプライベート的な文章が一番難易度が高い。
溜息を吐きながらLINEを開いて、由比ヶ浜結衣をタップする。
『ヤッハロー!
ゆきのんに会いたいからセッティングお願い出来ない?
こんな事ガハマっちにしか頼めないからヨロシクな!
それと当日はガハマっちも来てね!オナシャス!』
ガハマさんばりの明るい文章を書いてみた。書いてみた感想としては、俺キモッである。どう見てもキショいし、キモい。俺が初手ヤッハローとかダメだろ。キャラ崩壊と言うより、キャラキモいである。結局キモいのかよ。
本来であれば陽乃さんに頼むのが一番手っ取り早いが、あの人に頼むと仕事がオマケで付いてきそう。てか絶対付いてくる。
とりあえず書き直すか……。
五回以上書き直してどうにか納得出来る文が完成した。
『よお由比ヶ浜。
色々有って雪ノ下と話し合いをしなきゃイケないんだ……。
だけど俺はアイツの連絡先を知らない。
アポを取って欲しいんだが、お願い出来ないか?お前にしか頼めないんだ。
それと交通費とかは全部出すから、当日は立ち会って欲しい……。
Ps.因みに会う日程はクリスマスとお正月以外なら大丈夫だ』
緊張しながら送信ボタンを押した。オマケでサブレの写メも五枚ぐらい送っておく。
情けないのは理解してるが、こういう場合雪ノ下と俺だけだと話しが拗れる可能性が高い。つうか拗れた例しかない。
とりあえず、由比ヶ浜の返信を待ちながらネットサーフィンでもしてるか。
「納得出来ないですわ! 何でわたくしだけ地理の勉強なんですの! これ凄くつまらないですわ!」
向かい側に座ってるルーメリアの声で、マウスを動かす手が止まる。
「だってお前、算数はマスターしてるじゃん」
現在、休暇を活かして人型の従魔達には将来の為に勉強させている。タマエとゴブタニには算数の基礎である四則演算。二人は集中したいらしくソファーの方で静かに問題を解いてる。
ギャーギャー言ってるルーメリアには地理。何でルーメリアだけ地理かと言うと、コイツは既に小学生レベルの算数をマスターしてたからだ。異世界で魔王として国家経営をしてたせいか、数字にはめっぽう強い。
俺的には算数までしか教えるつもりは無い。数学まで教えるとなると、俺もセットで復習しなきゃイケなくなる。大人になってまで、数学の復習なんて御免だね。もっと言えば、探索者に因数分解とか必要ない。
「じゃあマスターは、ここが何県か答えられるんですの?」
文句を言いながらプリントを見せてくる。
コイツ落書きし過ぎだろ……。日本に翼を生やして、ドラゴンみたいにすんなよ。まあ千葉は赤い犬だけどな。
「ここは、えーと……鳥取県だ」
「ブーブー! 岡山県でしたー! マスターのバーカー、バーカー! ぷっぷぷぷ」
憎たらしい表情で煽ってきやがった。
…………メスガキめ。これが材木座なら顔面に一発入れてる所だ。
「お前が90点以上を取るまではTVはお預けな」
「なっ!? 何を言ってるんですの! わたくし17時からやる仮面ライダー龍騎の再放送を見なきゃイケないんでのよ!?」
「龍騎の再放送だと? 今どこまでいった?」
俺も久しぶりに見たい。あれ、最後に見た仮面ライダーって何だっけ? 多分ウィザードだった気がするな。
「わたくしの推しである王蛇が暴れてますわ」
ルーメリアは目を輝かせながら好きなライダーの名前を言いだした。
よりによって平成一番の極悪ライダーと言われた奴が好きなのかよ。好きになるライダーが魔王らしいな。俺的には龍騎とかナイト辺りを好きなって欲しいんだけど。まあ王蛇が容赦なくファイナルベント使ってキルしていく姿は、見ていて清々しいけどな。あのライダー本当に殺意高すぎだろ。
「やっぱお前って悪役キャラが好きなんだな」
そう聞くと、不思議そうに首を傾げた。
「うん? それもありますけど、一番の理由は王蛇が従魔士っぽいから好きなんですのよ」
「は? お前ちゃんと見てるのか? どう見たって超アタッカー型のライダーだろ」
「違いますわ。契約カード3枚とユナイトベントを持ってる時点で、モンスターを活かした搦め手想定のライダーですわよ」
ルーメリアの考察に、ガキん時の記憶を引っ張り出す。
確かに変身者が戦闘狂ってだけで、本来は従魔士みたいにモンスターで攪乱して、後方で機を伺うタイプなのかもしれない。
なに、て事は従魔士タイプのクセしてソードベントだけで過激アタッカーやってたの? 超ヤベーじゃん。少なくとも俺には絶対無理だ。
「……一理あるな」
「分かって頂けて何よりですわ。て事でTVを……」
だが俺は逃がさない。
「どさくさに紛れて勉強から逃げんじゃねえよ。せめて50点以上は取れ」
ハードルを下げてやったのにも関わらず、ルーメリアは凄くイヤそうな態度を取ってきた。
「ぐぬぬ、納得行きませんわ。マスターだって完璧じゃないですわよね? そもそも、この島根とか言う僻地、絶対行かないのに覚えるだけ無駄ですわ」
おい島根県民に謝れよ。
県庁所在地まで覚えろって言ってる訳じゃねんだし、47県だけ暗記すれば済む話しだろ……。
コイツあれか、暗記ものが苦手なのか? 違うな、好きな歌の歌詞を覚えられる時点で、暗記は出来る方だ。
なら、考えられるのは、覚える目的が無いから覚えずらいって所か。
「お前達は今後も日本で暮らす事になるし、色んな県に行く可能性が有る。事前知識が有った方が行った時に楽しめるぞ。それに……まあなんだ、俺もちょいちょい旅行に行きたいと思ってる」
「……素直にわたくし達と旅行がしたいと言えばいいのに……。仕方ないので乗せられてあげますわ」
ふっ、と軽く笑ったルーメリアはシャーペンを手に取り、問題を解き始めた。
お前も充分素直じゃねえだろ。
とりあえず、俺もルーメリアと同じ問題をやってみる事にした。
「マスターもやるんですの?」
「お前に偉そうな事を言ったんだ。高得点が取れる所を見せてやるよ」
90点以上を目標に俺も解き始める。
関東は完璧だな。
岩手と秋田ってどっちがどっちだっけ……。一旦飛ばすか。
北陸、中部、近畿は楽勝だな。
やっべ、九州と四国が意外と曖昧だ……。
沖縄は分かるとして、一番下が鹿児島で、端が長崎だから……。
おい、九州の難易度高すぎ! こんな行かねえ所なんて知らなくて良いだろ。ってこれだとルーメリアと同じ理屈じゃねえか。
オカシイナー、俺って千葉大卒なんだけどなー。こんな小学生レベルの問題で悩んでるようだと、高学歴自慢が出来なくなるんですけど。探索者をやってる時点で高学歴をドブに捨てたようなモンなんですけどね。
九州の穴埋めが曖昧な中、俺は県庁所在地の穴埋めをする事にした。
まずはトリッキーな所から攻めるか。
沖縄は那覇、神奈川は横浜、宮城は仙台だよな……。あれ、岩手って岩手市だよな?
計画変更。目標である90点以上を下方修正して、80点以上を目指す。
千葉大卒の誇りを捨てさった俺は、どうにか全ての空欄を埋めた。
「79点……。てか岩手って盛岡市なのかよ」
採点したら、ギリギリ目標点数に届かなかったよ。今後は千葉大卒って名乗るのやめようかな。あ、そもそも名乗る相手がいなかったわ☆
因みに島根の県庁所在地を島根市って書いたけど、松江市だったよ。許せん、あの僻地め。
「大口を叩いておいて79点、ぷぷっ。長く日本に住んでるクセして恥ずかしいですわね」
なんとも良い笑顔を浮かべながら俺にプリントを渡してきた。
甘め採点をしてやろうと思ったが、激辛で採点してやるよ。
はい、東京都じゃなくて東京って書いてるからバツ。
群馬の群が平仮名だからバツ。
どんな覚え方をしたら静岡をサイレントヒルって覚えるんだよ……。カッコイイから0.5点やるよ。
おいおい、鹿児島の所に僻地って書くなでゴワス。
全ての県庁所在地の欄にはジャパンって書いてるしよ……。
「38点だ。おめでとう、お前は追試だ」
「なんでですの! 魔王にバツを付ける時点で不敬ですわ!」
おうおう、とうと身分を盾にしてきたぞ。生憎と日本に不敬罪なんかねーんだよ。確か1947年に廃止された筈だ。
「ふんっ、なんとでも言え。早くもう一回やれよ。50点以上を取るまではTVは見せないからな」
「そもそも、最後の問題も納得いきませんわ!」
プンプンしながら、問題の一つを指差してきた。
『東京ディスティニーランドがある県を答えよ』
ああ成程ね、これはサービス問題に見せかけた引っ掛け問題だな。
「千葉に住んでて、そんなのも分かんねえのかよ。千葉だよ、千葉」
「はぁぁ!? なんで東京を名乗ってるんですの!?」
怒りをあらわにしながら、ルーメリアは操血魔法で蝙蝠みたな羽を生やし始めた。すげえ魔王っぽいんですけど。
「この屈辱……! 腹いせに滅ぼして来ますわ!」
「ちょ待てよ! そう言う物騒なのは無しって約束しただろ」
俺は飛び立とうとする災害にMAXコーヒーを渡して、どうにか落ち着かせる。腹いせでディスティニーランドを滅ぼすとか、しょうも無さ過ぎてお兄ちゃんビックリだよ。
「あのな、こんなんで腹を立ててたらキリが無いぞ」
「…………つい感情的になってしまいましたわ。ごめんなさい」
表情は依然としてムスッとしてるが、素直に謝ってくれた。
思ったより地理の勉強がストレスだったのかもしれないな。
でもなー、勉強って多少のストレスを許容するのが前提だしな……。
ここは一旦自分に置き換えてみよ。
改めて数学の勉強をしたいかと言われたら絶対にノーだ。なら、自身が数学の勉強をしても良いと思えるには、何が必要なのだろうか。好きな推理小説に、数学の方程式が出てきたら少しはその方程式に興味を持つかもしれないな……。
そうか、好きと掛け合わせてみるのは有りだな。
「なあルーメリア。各県のご当地スイーツに興味はないか? 沖縄のサーターアンダーギーとか結構美味いぞ」
「サーター……アンダーギー……?」
興味津々なのか、途端に真紅の瞳が輝き出した。
はい、スイーツ情報で魔王が一匹釣れましたよ。
「例えば山梨なら信玄餅が有名だな。宮城の仙台ならズンダを使ったスイーツが沢山ある。あとは……」
色々と例えを出していくと、ルーメリアは瞳に♡を浮かべながらヨダレを垂らし始める。
「おっと、失礼しますわ」
何故か俺の着てるジャージの裾を掴んで口を拭き始めたし……。
なので本気のデコピンをする事にした。
「痛い!」
「お前はナチュラルに人の服でヨダレを拭くんじゃねえよ」
「さあマスター。そんなジャージより、スイーツを調べながら地理の勉強ですわ!」
「俺のジャージの価値が低過ぎだろ……」
結局、由比ヶ浜の返事が来るまでルーメリアの勉強に付き合う羽目になった。お陰で60点以上は取れるようになったし、俺はご当地スイーツの知識が無駄に増えたよ。今度は是非とも90点以上は取って欲しいものだ。ここだけの話だが、余りに美味しそうだったから、島根県のソウルフードと言われるバラパンを密かに取り寄せちゃった☆
そして由比ヶ浜からも返事が返ってきた。
『ヒッキーやっはろー(^O^)/
確認したらOKだって!
でもごめんね……
ゆきのんが、もう大人なんだから二人で話したいだって( ;∀;)
力になれなくてごめん(;_:)
もし仲直り出来たら三人で飲みに行こうね!
それと詳細はゆきのんの予定が決まったら送る!
Ps.次逃げたら許さないbyゆきのん』
そうだよな。アラサーになってまで由比ヶ浜に面倒を見て貰おってのが間違ってんだよな……。
にしても雪ノ下と二人で会うのか……。一、二発のビンタを貰う覚悟はしとこ。
「やっべ、考えただけで胃痛がしてきた……」
♢ ♢ ♢
side雪ノ下雪乃
今に思えば、大学院を卒業してからあっという間だった。
ダンジョン発生の波に真っ先に乗る事が出来たお陰で、雪ノ下建設は新規事業であるダンジョン製品事業を軌道に乗せた。そう言う経緯もあって、雪ノ下建設は会社名を雪ノ下HDに改名。今では海外にも事業を展開しており、多角的な事業を営んでいる。
なにより年々雪ノ下HDは成長目覚ましく、とうとGAFAMと肩を並べる所まで来てしまった。
そんな雪ノ下家の一員である私は大学在学中から実家の仕事を積極的に手伝ってたとは言え、入社していきなりの製品開発本部長。入社当初は上場して間もなかった事もあり、プレッシャーと戦いながらの激務が続いたけれど、それがある意味では良かった。仕事さえしていれば彼の事を思い出さずに済むのだから。
「……もうこんな時間」
視界の端で、時間を確認したら20時になっていた。雪ノ下HD工場にある開発本部のフロアで現在、私はパソコンと向き合いながら仕事を処理している。
最近は、私の受け持つ部署も安定してきている。残業なんて滅多にしないけれど、昨日は見たい配信動画があった為、三時間ほど仕事を抜けさせて貰った。
それでも優先すべき仕事は全て終わらせておいたから問題は無い。
仕事の進み具合に問題が無くても、今日は個人的な理由でサービス残業をしている。手を動かさないでいると久しぶりに彼──比企谷八幡を思い出してしまうから。
なんでこうもう最近、彼の事の事を思い出す事が多いのだろうか……。
いいえ、正直理由はハッキリしてるわ。最近ハマってる【鎌谷幕府】と言うチャンネルの源義経が彼と重なるから。
最初は些細なキカッケだった。
仕事の休憩時間にたまたま猫さんの動画を漁ってたら、比企谷家の飼い猫であるカマクラさんに似てる猫がダンジョンで戦う配信動画を見つけてしまった。そう言えば懐かしくなって、いきなり3万も投げてしまったのはいい思い出ね。
今では毎週欠かさず動画を見るリスナーになった上に、スパチャも投げてしまうファンである。由比ヶ浜さんは心配してくれていたけれど、大して金を使う事の無い私は、質問ついでにスパチャをするのが楽しくなっている。
金を使う時なんて、外食とたまに発売されるパンさんグッズぐらい。オマケに30間近で交際相手もいない。と言うより、今更新規の恋なんてする気になれないのが本音。
「……比企谷君」
女性としての幸せを見失って、つい彼の事を思い出してしまったわ。これも義経さんのせいね。次の配信で一言ぐらい文句を送ってあげようかしら。
あ、そう言えば一ヶ月もの冬季休暇に入るとXに投稿してたわね。クリスマス配信を期待してだけにガッカリだわ。
自身が鎌谷幕府を追う為だけにSNSのアカウントを開設するなんて思わなかったわね……。
それにクリスマスが近いせいか最近、生産管理部の武田課長がアプローチをしてくる。やんわりと断るのも意外と大変なのよね。
内心憂鬱になる中、切りの良い所で仕事を終えた。スマホを手に取って家族から何かしらの連絡が来てないか確認する。
「……え?」
『ゆきのんやっはろー(^O^)/
あのさあのさ、ヒッキーが話したいんだって……
会ってあげる事って出来たりする?
あと、会うならあたしも行った方が良い?
なんかヒッキーがあたしにも来て欲しいんだって(^_^;)
Ps.会うなら日程はクリスマスとお正月以外は大丈夫だって』
由比ヶ浜さんから信じられないメッセージが来ていた。
だけど許せない。これはあの男と私の問題。大方あの男は由比ヶ浜さんを呼び込んで、場を穏やかに収めようと思ってるかもしれないが、そうはさせないわ。そもそもいい歳した男のクセして、既婚女性の由比ヶ浜さんに迷惑を掛けようとしてるのが本当に許せない。なにより……
「クリスマス以外って……。そう言う事ね、もうあの男にとって私は過去の女なのね……」
怒りと悲しみが込み上がりそうになるが、ペットボトルから水を口に流し込んで、喉を潤すと同時に自身を落ち着かせる。
危うく感情的になる所だった。でも由比ヶ浜さんも由比ヶ浜さんね。なんであの男と繋がってるのを言ってくれなかったのかしら。
だが、こんな八つ当たりじみた考えは良くない、そう思って頭を横に振る。
きっと由比ヶ浜さんは、私に気を遣ってくれたから言わなかっただけよ。
と、とりあえず由比ヶ浜さんに返信をするべきね。
『やっはろー結衣!
八幡は元カレだし会っても良いよ☆
てか結衣には悪いから来なくても大丈夫だよん( ;∀;)
これは私と八幡の問題だもん(;_:)
話しは変わるけど、八幡と会う時はキレイめな格好が良いかな?
それともツインテールにして可愛い系が良いかな?
分かんないよ結衣ぃぃぃ(*ノωノ)』
何故かしら、変な文章が出来あがってしまったわ……。もしこんな文を送ってしまったら、きっと私の中にある大事な何かが崩れさってしまう。思ってたよりも動揺しているわね私。こんなふざけた文章は、速やかに書き直すべきだわ。
『こんばんは由比ヶ浜さん。
私一人で充分よ。
必ずあの男の首を獲ってきてみせるわ
あと、貴女とも色々と話しがしたいのだけれども』
ダメよ、これだとただの殺害予告じゃない。しかも由比ヶ浜さんを怖がらせる可能性が高い。
結局5回以上も書き直して、やっとまともな文章が出来た。
『こんばんは由比ヶ浜さん。
丁度良いわ。私もいい加減、あの男と話して前に進むべきね。
それと私達はいい歳した大人よ?貴女がいなくても、ちゃんとあの男と話せるわ。
会う日程は、予定を確認してから追って伝えるわ。
Ps.比企谷君には次逃げたら許さないと伝えておいて頂戴』
少しばかり緊張しながら送信ボタンを押した。
クリスマスを避ける辺り、比企谷君にはもう大事な女性がいるかもしれない。私と会うのも、きっと何かしらのケリをつけたいから。そう言う事なら比企谷君の中では、まだ私と言う存在がくすぶっている事になる。比企谷君の面倒くさい性格を考えるなら、私とのケリをつけるまでは正式に誰とも付き合わない、多分。
パソコンをシャットダウンして、デスクから立つ。近くの窓辺に行き、月明かりに照らされた君津の景色を眺めながら、僅かな希望が胸の奥から湧き上がってくるを感じる。
「なら……なら……まだやり直せる……かもしれないわね」
ここまで読んで頂き、ありがとうございます!