か、カマクラが若返ってる!?   作:9ナイン9

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35:物騒な異世界魔王は、家出中に成長していた。

 忘れもしないあの日の悪夢──俺の口を凌辱したトラウマ的存在が、赤子のように泣きじゃくりながら俺に抱きついている。

 

「マスター……うぅ……寂しかった……グスッ……ですわ」

 

 いつものように早朝5時に起きて、走り込みをするべく外に出た。そうしたら玄関先に白銀の髪を揺らす綺麗なお姉さんがいたのだ。

 コイツは確かに見覚えがあるぞ。あの時は俺より背が高かった筈だがな。

 てか、めっちゃ血生臭い。よくよく見たらドレスアーマーと髪も汚れてるし。本当にダンジョンに何日も籠ってたようだな。

 

「オーケー、もう泣くな。一応聞くけど、お前は一週間以上前に家出したルーメリアで良いんだよな」

 

「そうですわ。マスターが何回も振ったルーメリアですのよ……グスッ」

 

「お、おう……」

 

 心にグサッとくる言い方はさておき、ルーメリア本人で間違いないようだ。アレか、見た感じ進化したんだろうな。

 にしても身長伸び過ぎだろ。俺と一緒だぞ。これじゃコイツがオイタした時に、グリグリがやりにくいじゃねえか。

 

「裏庭ダンジョンにもいなかったし、マジで心配したんだぞ」

 

 このまま泣かれると非常に居心地が悪いので、俺は手を優しくルーメリアの頭に乗せて、撫でる事にした。ズルくて温かい言葉を添えて。

 

「だから……もう、どこにも行くな。ずっと俺の側に居てくれ。お前のマスターとして、家族として、幸せにするから」

 

「……グスッ……そんなこと言ってズルい。マスターは本当にズルいですわ……」

 

 分かっている。自分がどれだけ身勝手で残酷な事を言ってるか。ルーメリアの気持ちを全て無視しているからな。

 

「でもわたくし、マスターの交際相手と仲良く出来る気がしないですわ」

 

 俺は甘えているだけだ。ルーメリアが自分の従魔と言う関係性のアドバンテージにただただ甘えているに過ぎない。

 でも、例え都合の良い願いだとしても、

 

「そこは……ほんの少しで良いから、頑張って欲しいです」

 

 死ぬまでコイツと居たいと、心の底から思うようになっちまったんだよ。 

 

「無理ですわよ。罵り合い、殴り合い、奪い愛、最悪殺し愛が起きますわ」

 

 なぜだろう……コイツの言う合いが、途中から意味深に聞こえるぞ。これはもう確実に死ぬぞ俺の胃が。都合の良い願いを叶える代償としては、甘んじて受け入れるしかないけどな。

 ただまあ、コイツの言う通りかもしれない。雪ノ下とルーメリアが仲良くしてるイメージが全く湧かない。

 今の内に少しだけ、脳内シミュレーションしとくか。

 

『マスターに一度は捨てられた学園編の負けヒロインが今更なんの用ですの? どうせまた捨てられますわ、可哀想に』

 

『現実を見れないなんて可哀想ね。負けヒロインは貴女よ、ルーメリアさん。比企谷君は戦う事しか能が無いヒロインは好みじゃないみたいね』

 

『口だけは達者じゃないですの、まな板雪女』

 

『貴女も口だけは回るのね、負けヴァンパイア』

 

 これはジーマーでバイヤーなんですけど。脳内シミュレーションの出だしから一触即発の修羅場すぎんだろ。

 あぁ、実際に起きた訳じゃないのに、既に胃が死にそうだよ。

 大体、学園編って何だよ。俺の人生はラノベじゃねっつーの。

 いや待て、よくよく考えたら目の腐ったぼっちなコミュ障男が最終的に学園一の美女(コミュ障毒舌氷属性)と付き合うってのは、ある意味ラノベっぽいな。加えて、10年後に迷宮探索者になってて可愛い従魔達にも囲まれている。

 

 なんだこのラブコメ物なのか、現代ファンタジー物なのか分からないクソジャンルは。一瞬自分の人生を小説にしようと思ったが、売れなそうだからやめよう。酷いオナニー小説とか言われそうだ。

 

「うん、お前らが喧嘩する度に俺がどうにかする。だから心配すんな」

 

「……従魔を捨てろ、と言われたら?」

 

「スライディング土下座でどうにかする」

 

「探索者を辞めて、と言われたら?」

 

「ジャンピング土下座でどうにかする」

 

「私と従魔どっちが大事なの、と言われたら?」

 

(ヌード)土下座しながら、『どっちも大事だ』って叫んでやるよ」

 

 我ながら、なんて酷い回答だ。

 

「……マスターのバカ変態八幡」

 

 全く納得してない感じで、小さくそう呟いて俺の胸を軽く叩いてくる。

 八幡は悪口じゃねえだろ、と言いそうになったが寸前の所で俺は飲み込む。

 程度の低い言い合いをしても仕方ないし、コイツには早く風呂に入って休んで欲しいからな。

 

「それより早く風呂に入ってこい。お前、かなり臭うブフォッ!?」

 

 物凄い衝撃がみぞうち辺りに走る。

 ルーメリアはうずくまって悶絶してる俺の首根っこを掴んだ。

 コイツ、マスターに一発入れやがったぞ……。

 

「デリカシーの無いマスターには、従魔である私の髪を洗う義務がありますわね」

 

 そして、俺はそのまま引きずられながら風呂へとドナドナされた。

 一言申したい、解せぬ! 

 

♢ ♢ ♢

 

 結局魔王様に、ドナドナされて一緒に風呂に入る羽目になってしまった。

 まぁ従魔の世話をするのもマスターたる従魔士の仕事なので、こういった事態になるのは分からなくない。

 分からなくないのだが…………

 

「洗ってやるから、さっさと後ろを向け。目に毒だ」

 

「毒ですって!? 眼福って言って欲しいですわ!」

 

 この通り、魔王様の裸は眼福──けぷこんけぷこん、目のやり場に困る。

 進化したせいで、胸が出会った頃の大きさになってしまったのだ(推定E)。

 ロリガキだった頃はペッタンコだったのによ。一緒に風呂に入るのは今日で最後だ。マジでそろそろ自分の髪は自分で手入れしてほしい。

 

「先に言っとくが、一緒に入るのは今日で最後だからな」

 

「ふっん」

 

 拗ねた様子で、ようやく背を向けてくれた。

 

 血の固まりやら泥が付いてるので、ノズルからお湯を掛けまくる。シャンプーも大量に頭に掛けて、ゴシゴシと頭髪を揉みほぐす。そして洗い流す。

 この工程を3回ぐらい繰り返して、髪についた目立つ汚れを大方取り除く事が出来た。

 背が伸びたせいで前より洗いずれぇんですけど。

 目立つ汚れを取り除いた次は、櫛でほぐしながら10分以上洗う。するとルーメリアの髪は白銀の輝きを取り戻していく。

 

「おー、綺麗になっていきますわ。流石はマスター、褒めて差し上げます」

 

 マスターってより、悪役令嬢の奴隷をやってる気分だよ。

 普通逆だよね? 甲斐甲斐しく世話をして欲しい訳じゃないが、俺が奴隷の如く世話をするのはちょっと違う気がするんですよ。

 だがどっかの偉人が、君主は国家第一の下僕、と有難迷惑な言葉を残している。言葉通りなら従魔達のトップである俺は奴隷だ。

 とは言え、社畜をしてた頃よりマシだけどな。コレは新たな発見かもしれない。社畜より奴隷が楽だなんて、凄い発見だ。

 

「てかお前、全盛期の力は取り戻したのか?」

 

「まだまだですわ。今だと30%から40%ぐらい、と言った所ですの」

 

 4割でこの強者オーラ、中々に凄い。全部取り戻したら、近づくだけで死にそうだ。

 

「良かったな、全盛期に近づいて。後はゆっくり浴槽に浸かってろよ、お疲れさん」

 

 浴室から出ようとしたら、脇を掴まれてしまった。

 

「おい待て!? 降ろせ! 最近持ち上げられ恐怖症になったばかりなんだ」

 

 父親が子供を楽しませるが如く、脇を両手で持ち上げられる。

 もう持ち上げられるのはイヤだ。これもカマクラとか言う図太い腐れ猫のせいだ。

 

「おー、マスターが可愛いですわ。ほら高ーい高ーい、ポイント高いですわ!」

 

「小町みたいな事言ってんじゃねえ。しかも物理的に変なポイントを稼ごうとするな」

 

 意味不明だ。29歳の男性(裸)が浴室で魔族女性(裸)にたかーい、たかーいされるとかどんな羞恥プレイだよ。

 何が一番キツイってちょっとでも目線を下げたら、パイオツとかパイパイとかヴァンパイが目に付く事だ。ヴァンパイって卍解みたいでちょっとカッコイイな。

 

「さぁ、一緒に入りますわよ」

 

 そのまま抱き抱えられながら、浴槽にインしてしまった。しかも、ルーメリアの膝の上でお腹に手を回される形で。

 分かるよ? 幼体だった頃と違って2人並んで入れないのは分かる。分かるけど、この入り方は色々とヤバイ。何がヤバイって、主に背中から感じる母性の象徴とか、男性特有の生理現象とか。

 

「マスターのエッチ。絶世の美を持つわたくしに興奮してるんですのね」

 

 こんな時だけ仕事すんなよ股間(ヒッキー)

 

「生理現象にツッコむなよ。うっかり死にたくなっちまうだろ」

 

「えへへ、わたくしのマスター。食べちゃいたい♡」

 

 猫撫で声で、後ろから頬ずりしてきた。

 え、なにこの推定1000歳児の可愛い吸血鬼。

 俺の中で無し寄りの無しなシチュエーションなのに、有り寄りの無しなシチュエーションになってしまったぞ。

 因みに「食べちゃいたい♡」ってフレーズが減点対象だ。魔王な吸血鬼が言うと、シャレに聞こえない。

 

「ねえねえマスタ〜。ルーたんねぇ、大しゅきなマスターのお血血が飲みたいのぉ」

 

 お血血って……言い方があざとい。じゃなくて、誰だコイツ。

 あざといを通り越して、キャラ崩壊してるぞ。魔王を崩壊させた俺、マジで勇者だろ。コイツの居た世界から、何かしらの賞を貰いたいぐらいだ。

 

「お前なぁ……キャラ崩壊してる所悪いが、血は夜まで我慢しろ」

 

「ぶーぶー」

 

 おやおや、魔王様が駄々っ子になってしまったようだ。

 本当に元一国の王様かよ……。この現状を部下だったやつらに見せてやりたい。

 

「可愛い子ぶってもダメだ。いい加減離してくれ」

 

 そして、俺のお腹に回した腕に追加で力を入れてきた。

 そろそろ朝食を作りたいんですけど……。

 

「ヤ。ルーたんは、ハチマニウムが不足してるんですの。だから今日はずっとマスターをは・な・さ・な・い」

 

「……俺がトイレ行く時とかどうすんだよ」

 

「仕方ないから、我慢して付いていきますわ」

 

「そんな我慢求めてねぇよ!」

 

 1週間と少しの間、どんだけダンジョンで一人っきりが寂しかったんだよ。

 そもそも家出すんなよって話だが、俺にも原因の一端があるから、それを言うのは違う。

 

「なあルーメリア……俺には彼女がいるんだけど」

 

「はい、それが?」

 

「それがって……これ浮気に該当する行為だと思うんだよ」

 

「おやおや、マスターの交際相手は家族の触れ合いにケチをつけるような女なんですの?」

 

 この魔王、家族って言葉を都合良く解釈していやがる。とんだ開き直りようだ。もうこれは何を言っても、のらりくらり躱されそうだな。

 

「なぁお前、俺が彼女以外の知らない女と遊びでエツチな事してたら嫌だろ? きっと俺の彼女もこの状況を見たら嫌な気持ちになると思うんだよ」

 

 嫌な気持ちどころか、間違い無く死人が出る。主に俺がな。

 

「そのときはマスターを助けた結果、マスターを誑かした女がベッドの上で哀れな肉塊に変わるだけですわね」

 

「そう言う物騒なのをやめて欲しいんだが」

 

「物騒? マスターったら水臭いですわね」

 

「お前は血生臭いんだよ」

 

 なにこの魔王本当に。ゲームで魔王を仲間に出来ない理由がやっと分かったわ。リスクがでか過ぎるんだよ。気に食わない事があったら直ぐに殺すとか、滅ぼすとかを口にするのは良く無いと思います。

 

「ねぇマスター。全盛期には及ばないですが、わたくしもある程度は力を取り戻しました」

 

 そして、ビッグな事がしたいと言い出した。

 奇遇だな。俺もSランクダンジョン攻略計画を練っていた所だ。

 

「安心しろ。春先にビッグな事をするつもりだ」

 

「本当ですの!? やっと王位簒奪をする気になったんですのね!」

 

「……お前なに言ってんの……?」

 

 王位簒奪って聞こえた気がするが、気の所為だよな。普通に暮らしてたら、絶対耳にしない物騒な単語だ。

 

「うん? 天皇とか言うお飾りな王家を滅ぼして魔王比企谷政権を樹立する、と言う計画じゃなくて?」

 

「ちげぇよ!」

 

 物騒な考えにも程がある。なんだそのコードギアスの、母国に捨てられた第11皇子が考えそうな血生臭い計画は。

 

「お前頼むから配信で、天皇家を誹謗中傷するような発言だけはするなよ。マジで炎上待ったナシだから」

 

 丸焦げになった挙げ句、俺が頭を丸めた上でスーツを着て、謝罪動画を出さなきゃイケなくなる。それだけは本当に嫌だ!

 

「えー」

 

「えー、じゃねえよ。それで炎上したバカが山程いんだよ」

 

 決めた。近い内に従魔達には歴史の授業をしよう。マスターとして、どれだけ天皇様が尊い存在なのか教えなければならない。

 大体誹謗中傷なんて言うのはな、資金パーティーで裏金を作る汚職政治家とか、除草剤をばら撒くようなビッグでモータなブラック企業とか、をターゲットにすれば良いんだよ。

 

「じゃあマスターはどんなビッグな事をするんですの?」

 

「Sランクダンジョンを配信しながら攻略する。どうだ、ビッグな計画だろ?」

 

 だが何故か、ルーメリアはつまらなそうに声を発した。

 

「この世界基準のSランクって……期待出来そうに無いんですのよね」

 

 魔法で戦争してたような、お前が居た世界と一緒にされても困る。

 だけどルーメリアの言うように、この世界は魔法関連、ダンジョン関連やらの知識がまだまだ浅いかもしれない。

 

「そこはもっとやる気を出してくれよ」

 

「まあ良いですわ。わたくしに計画を打ち明けた、と言う事は頼みたい事があるようですし」

 

 鋭い。俺は確かにコイツに頼みたい事が有る。と言うより、ルーメリアにしか頼めない。

 

「お前が以前みせてくれた絶聖真魔流(アンチブレイヴァーアーツ )って流派を教えて欲しい。俺を含めた個人個人の戦力の底上げが必要だ」

 

 教えを請うが、背中越しのルーメリアは何か考えてるのか、間が開く。

 あの流派が使えるようになれば、確実に戦力向上に繋がる筈だ。

 

「まぁ、ゴブリンとタマエならまだしも、マスターには無理ですわ」

 

「……何故だか、理由を聞いてもいいか?」

 

「まず、絶聖真魔流とは魔なる者達、その中でも亜人系統の魔族にしか扱えない流派ですの。人間であるマスターには奥義を会得することは絶対に不可能ですわ」

 

 名前に魔が付く時点で多少は予想出来てた事だ。だからそこまで落胆はしてない。

 これで別の強化方法を探さなきゃいけなくった。

 そもそも従魔士を強化すると言う考えに無理があったのかもしれない……。

 

「もぉ、そんな辛気臭い顔をしないで下さいマスター」

 

「いやだって、俺らのパーティーってどう見ても俺が穴だろ」

 

 自虐的になっていると、後ろからルーメリアが耳を甘噛みしてきた。なんだよこのエロい展開。家族は甘噛みなんかしないぞ。あー、でもカマクラとサブレはするか。

 

「わたくし言いましたわよね、奥義は会得出来ないと。全ては無理ですが、絶聖真魔流の第一段階なら人間でも会得できますわ」

 

「……本当か? それで構わない、頼むから教えてくれ」

 

「良いですわよ。その代わりに対価を要求してもよろしくて?」

 

 悪魔に何かを望む時は対価が必要だと言い伝えがある。魔王も対価が必要みたいだな。

 

「何が欲しいんだ? 言っとくが億レベルの高いモノとか、雪ノ下と別れろとかは無理だからな」

 

「いえいえ、そんなものは望まないですわよ。まぁ、追々叶えて貰う事にしますわ」

 

 どうやら後払いでいいようだ。命を寄越せとか言わねぇよな。

 

「むむぅ、その顔ムカつきますわね。言っときますが、命や魂とかの類は要求しないので安心して下さいな。そもそもマスターがいなくなったら、誰がわたくし達を養うんですの」

 

 お前なら俺から魂を抜いて、身体だけを操り人形にするとかやりそうだけどな。

 

「……そう思ってくれてるなら良いけどよ」

 

「とりあえず修行は、明後日からにしますわよ。確か、明日はクリスマスとやらじゃなくて?」

 

「あぁ、そうだな。明日は豪華な飯を沢山用意するから楽しんでくれ」

 

「それは楽しみですわね! あー、考えただけでお腹が空きましたわ。さあマスター、朝食を作る時間ですわよ」

 

 腹ペコ魔王に引っ張られて風呂を出る。コイツ、本当に自由だよな。

 

「何をしてるんですの。ほら、早くわたくしの髪を乾かして下さい」

 

 偉そうにタオルとドライヤーを押し付けてくる。 

 

 髪を乾かしてやった後は、俺のI♡千葉Tシャツ勝手に着て、リビングに行ってしまった。

 アレだ。自由じゃなくて、我が儘なだけだったわ。しかもあの魔王、これで俺からI♡千葉Tシャツをパクるの3枚目じゃねぇか。シクシク

 

♢ ♢ ♢

 

 従魔達が朝食を食べ終わり、俺はノートパソコン開きながら遅めの朝食をとっている。

 

「ほらタマエ、高ーい高ーいですわ!」

 

「わー、高い! お姉ちゃんもっと!」

 

 従魔達が戯れている。俺はその光景を微笑ましく思う。

 家出の件には誰も触れず、全員が温かくルーメリアを気遣っているのであろう。まあ、ルーメリアもお騒がせ事件を起こした自覚があったみたいで、お詫びに大量の魔石を持って帰ってきていた。

 なんか家出ってより、旅行先から豪華なお土産を沢山持ち帰ってきた歳上のお姉さん感が凄い。

 

「ゴブリン。貴方もたかーい、たかーいしてあげますわ」

 

「ゴブゴブ! ゴブ、ゴブ!」

訳:下ろせ! おい振り回すな!

 

 ……今のは見なかった事にしよう。ゴブタニが宙を舞ってフライアウェイしている所なんて俺は決して見ていない。

 アレはたかーいたかーいってより、他界他界だよな……。

 

「スライムとイヌッコロ。貴方達は軽過ぎですわよ」

 

「プルプル?」「ワン?」

 

 ソフィーとサブレ持ち上げて、物足りなそうな顔をしだしたぞ。いや、それなんてエクササイズだよ。

 

「シー、シャー!」

訳:魔王様、初めまして!

 

「ほぉ、わたくしの知らない間に新入りがいますわね。わたくしは、気高くも美しい戦血の魔王ことルーメリアですわ。幕府での役職はマスターの正妻(ブレイン )、しっかり覚えときなさい」

 

「シャー……シャ!」

訳:ブレイン……番!

 

 キーボードを叩く俺の指が止まった。

 そうか、アイツって俺のブレインだったのか……。にしても、ニュアンスに違和感があるのは気の所為だろうか……。

 ツッコミを入れちゃダメな匂いがプンプンするぜ。うん、これは聞かなかった事にしよう。

 あとザリンちゃん、つがいとか変な風に納得しちゃダメですわよ。

 見猿聞か猿言わ猿の三役を1人でこなした俺は、再び視線をパソコンに戻す。

 メールアイコンを押して、唐ヶ原さんから来てるメールを確認する。

 

from:唐ヶ原桃華

件名:売上の報告

比企谷様

 

いつもお世話になっております。

ワンダーカーテン㈱の唐ヶ原です。

 

今回のグッズ売上に関する資料を本メールに添付しましたので、ご確認の程よろしくお願いします。

 

Ps.ヤバイヤバイヤバイ!ヤーバババイなんですけど!売れ行きがメチャンコバイヤーなんですけど!マジで比企谷さん神!

 

 

 途中まで良い感じのビジネスメールだったのに、最後の文で台無しだ。

 まあ興奮するのも無理無い。だって、添付されたPDFデータを見たら、俺ですらメチャンコバイヤーって呟いちまったよ。

 グッズの売上利益が追加発注分の予約品の代金も含めて2000万弱。この内10%がワンダーカーテンの分け前になる。 

 だが、驚くべきはそこじゃない。鎌谷幕府のグッズを抜きにしたワンダーカーテンの売上が過去一になっている、と資料のグラフから見てとれる。

 きっと、うちのグッズを買いに足を運んだ客が、ワンダーカーテンの主力商品も沢山買ったに違いない。

 良かった良かった、ビジネスはWin-Winじゃないとな。

 

 

from:比企谷八幡

件名:売上の報告

ワンダーカーテン㈱

唐ヶ原様

 

いつもお世話になっております。

比企谷です。

 

御社の売上が好調で何よりです。

今後も鎌谷幕府のグッズの選定、販売、その他諸々をお願いします。

これからもビジネスパートナーとして、よろしくお願いします。

 

Ps.アホな信者共から儲けた金で飲む酒は美味いに違いない!

 

 

 最後の文をラフに書いて送信。

 信者と書いて儲かる、と読む。神様(アイドル)を使ったビジネスが儲かるのは昔も今も変わらない。

 神様やら宗教に金を使う奴の頭の中を、覗いてみたいもんだ。

 大天使トツエルぐらいの癒やしを与える存在じゃないと、金なんて到底払えな……これが、神に金を払う奴の信仰心か!

 あー、戸塚のグッズとか売ってねぇかな。

 

 脳内で大天使に癒やされた俺は、次の作業に取り掛かる。社畜時代から俺を支えてくれた戦友(ChatGPT)(ホームぺージ)を訪れる。

 前からある画像生成機能を使って、鎌谷幕府名義で運用してるXとYouTubeアカウントのヘッダー画像を、今から作成しようと思う。

 

 作業に取り掛かるも、イメージ通りの画像が中々生成されない。

 やはり呪文(プロンプト)の選定が難しい。細かく指示しても解釈違いが起きる。

 

「出来た……!」

 

 悪戦苦闘すること2時間。やっとイメージに近い画像が出来た。もうここいらで妥協しよう。本当にイメージ通りの画像を作るとなると、絵師に依頼しなきゃイケなくなるからな。

 

「あるじ様、何が出来たの?」

 

 俺の声が思いの外大きかったのか、従魔達が好奇心に満ちた目で周りに集まってきた。ちょっと恥ずかしいから見ないで欲しいんだけど。

 

「ああ、チームロゴと言うか、SNSのヘッダー画像が完成したんだ」

 

 俺はドヤ顔で努力の結晶を見せる事にした。

 

【挿絵表示】

 

「……うーん、オジ様はもっと丸っこくて可愛い気がする」

 

「ゴブ、ゴブ?」

訳:この親分目つき悪いぞ

 

 従魔達から解釈違いだとかの意見が飛んでくる。その意見はごもっともだ。だが、これ以上こんな仕事に時間をかけるべきじゃないのが俺の見解だ。今後クオリティーを上げる機会があれば、その時に上げれば良い。

 完璧じゃなくても良いから、必ず仕事を完成させる。これが社会人として最初に学んだ仕事術だ。因みに社会人として一番大事な心構えは『嫌になったら退職代行を使ってでも速攻で職場を辞めろ』だ。今思うと、人間は働く為に生きてるんじゃない。生きる為に働いてるんだからな。

 

「ニャー、ミャッ」

訳:おい、にゃーはもっとプリティーだぞ

 

 カマクラに至っては、俺の頭を軽く突っつきながら自画自賛をしだした。プリティーな猫はご主人の頭をド突いたりしねーよ。

 

「マスター、何でわたくしのは作ってくれないんですの? プリティーなのを要求しますわ」

 

 やっぱ出てたよ、こう言う奴が。いるいる、大して必要ないのに自分の分も作れとか言う奴。こう言うのに忖度しだすと、キリがない。しかも次は、ポリコレを意識しろとか言うクソリプが来るまでがセットだ。結果クソみたいな作品が完成する。結論を言おう、映像作品にポリコレ思想で意見を言う愚か者共、砕け散れ。

 

「お兄ちゃんが君達に、お菓子をあげよう」

 

 従魔達が本格的に我が儘を言い出す前に、空間から菓子(ワイロ)を取り出して、従魔達の口に突っ込んでいく。

 そして、誰も文句も言わなくなった。

 ほら、簡単だろ。──誰も傷つかない世界の完成だ。

 

「モグモグ……そう言えばマスターに、一日早いクリスマスプレゼントを持って来ましたわ」

 

 一瞬自分の耳を疑った。この気持ちを俺は知っている。

 ガキの頃誕生日に、小町から手書き絵のプレゼントを貰った時と同じ気持ちだ。

 お兄ちゃんスーパー感激だよ!

 さっきはワガママ女とか思ってごめんな。

 

「ルーちゃん……」

 

 俺が感動してると、上機嫌なルーメリアが黒いモヤモヤの入ってる大きなガラス瓶を二つ、空間から取り出した。

 嫌な予感がする。一体何だこの黒いモヤモヤは……

 

「この中に入ってるのは、わたくしが攻略してきたダンジョンですのよ。これでプライベートダンジョンが増えますわね」

  

 褒めて褒めて、と言った感じの魔王様。

 はは……そうですわよねー、お前は平然とヤラかす戦血の魔王様でしたわ!




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