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晩飯と風呂、おまけに魔王への献血も済まして寝室に行こうとしたら、ルーメリアに「今後の為に情報共有しますわよ」と言われ、待ったを掛けられた。
そして、良く分からないままリビングテーブルの席に着く。
「では、何も分かってないマスター達の為に、異世界ダンジョン講義を始めますわ!」
マスターを強調しながら、得意気に授業の開催を宣言した吸血鬼先生。いつも俺が偉そうに国語とか日本地理を教えてるから、その仕返しかもしれない。
「ウレシイナー」
「ゴブ……」
「ルーお姉ちゃんの授業ワクワク!」
知ってしまうと秘匿情報が増えるのが億劫な俺。眠たそうなゴブタニ。興味津々で真面目にノートを用意しているタマエ。
うん、タマエが真面目に育ってくれて、お兄ちゃん嬉しいよ。
恐らく、この授業の目的は日中のルーメリアが取り出した瓶の中に入ってるダンジョンについてであろう。今も目の前にあって、瓶の中で黒くモヤモヤしていて不気味だ……。
「一応マスターの知識レベルを知りたいので聞きますわ。ダンジョンについてどれぐらい知ってるんですの?」
大雑把すぎて回答に困る質問だ。でも、言われてみれば知ってる事が案外少ない気がする。
「ファンタジー生物が出る、お宝が眠ってる場合がある。タイプは大まかに広域型と階層型に分類されてる。ボスモンスターがいる。……このぐらいだな」
答え終わるとタマエがはーい、と可愛く手を上げた。講義が楽しいのか、ルンルンしている。
「モンスターさんとか、お宝ってどこから来たの?」
「いい質問ですわねタマエ。まずダンジョンには迷宮精霊と言うのが居て、その精霊がダンジョンを運営してるんですの。精霊の運営もく、」
「ストーーップ!!」
余りの新事実にびっくりし過ぎて、思わずツッコミを入れてしまったよ!
「マスターうるさいですわ。講義中は静かにして下さいな」
「いやいや! え? は? 精霊? 出だしから意味分かんねえよ!」
「だから、それを今からわたくしが説明するんですのよ。まあ今のマスターのリアクションで、この世界の人類がダンジョンについて、どれだけ無知なのかは理解しましたわ。これは、本当に基礎から説明した方がよさそうですわね」
どうやら、本当にこの世界の人間はダンジョンについて無知だったようだ。
とりあえず、今から聞く事は俺の中で特級秘匿情報に分類しておこう。何故だろう、秘匿情報だけが増えていってる気がする。
ミステリアスの男性が本当にモテルのなら、今の俺は超モテモテっ事になる。
「あぁ……頼む、基礎の基礎から教えてくれ」
これは大学の講義みたく、舐め腐った心構えで聞く講義じゃない。人類にとって異世界人の先端知識が聞ける貴重な講義だ。
なので俺もノートを取り出して、吸血鬼先生の講義を真面目に受ける事にした。
途中途中、俺やタマエが手を上げて質問したりと、異世界迷宮講義は一時間以上に及んだ。
ゴブタニに至っては、目を開けながら寝ると言う高度な事をしている。
・ダンジョンは迷宮精霊が運営している。
・迷宮精霊は人を積極的に呼び込む為に、権能を使って宝や魔生物を配置している。
魔生物に関しては、異なる次元から召喚してるらしい。
・迷宮精霊の運営目的は、長い年月を掛けて自身を高位の存在へと高めるため。要は進化。
原理は知らないが、攻略しようとする奴が来れば来る程、迷宮精霊の経験値的なモノが貯まるみたいだ。
・ダンジョンによっては天候や環境と言ったギミックも存在する。
・迷宮のランクは基本、専用の魔導具を使って迷宮精霊の強さを測って推察出来るらしい。
俺の住んでるこの世界のランク付けはかなり適当って事になるぞ……。そもそも、どうやってランク付けしてるか知らねーんだよな。後で調べてみるか。
・
※高ランクダンジョンの場合はボスでは無く、いきなりダンジョンガーディアンが出てくる。
・魔物は迷宮内で倒すと、魔力粒子となってダンジョンに還る。
※迷宮外で倒すと、魔力粒子にはならないので死体処理の必要が出てくる。ルーメリアのいた異世界では、ダンジョンの外にも魔物がありふれていた為、解体技術がかなり高かったらしい。
改めて講義でまとめた内容を見返すと、頭が痛くなる。これは公表した方がいいよな……。
いや、やっぱダメだ。こんなのを公表したら、ヤフーニュースどころじゃない。大々的に取り上げられて面倒な事になっちまう。っつーか、信じて貰えるかすら怪しい。
「あー、それと迷宮精霊の性格にもよりますが、長い年月誰も来ないと逆ギレして、ダンジョンの外に大量の魔物を仕向けて来ますわよ。これをわたくしの居た世界では、
「えー、モンスターさん達が外に……?」
「……嘘だろ」
タマエが驚く横で、俺は頭を抱える。
最低最悪なトンデモ爆弾情報をブチ込むんじゃねーよ!
え、なに? これもう知らんぷり出来ないんだけど。
「なぁルーメリア……長い年月って具体的にはどれぐらいなんだ? そもそも逆ギレってなんだよ?」
「長い年月は長い年月ですのよ。10年かもしれないし、100年かもしれませんわ。逆ギレは説明が適当すぎましたわね。迷宮精霊は兎に角ダンジョンに来て欲しいんですの。長い間誰も来ないと、外へ
マジで自分勝手な奴らだな。そもそも見つかってない野良ダンジョン、行きにくい場所にあるダンジョン、そういった所は必然的に放置されている。
そんな変な所にダンジョンを構えたクセに、誰も来ないから怒っちゃいました!は確かに逆ギレだな。
「お前の治めてた国では、スタンピードにどういった対処をしてたんだ?」
異世界の事例を参考にすべく聞くと、ルーメリアは得意気に鼻で笑った。
「なんと! わたくしが王として優秀過ぎて、イヴィルムでは一回もスタンピードを起こしてないですわ! ああ、因みにイヴィルムとはわたくしが治めてた国である【魔族連合国家イヴィルムハイラン・ダースティア】の事ですわ」
自分がどれだけ優秀な王様だったかの自慢話を、ドヤ顔で語っていく魔王様。
魔族連合国家とか、なんかカッコイイな。連合国家と言う名前からして、各部族がなんかしらの目的で加盟していて、政治体制は領内の国人領主や地方勢力との共生を念頭とした集団指導体制である可能性が高い。だとすると、戦国時代で言う所の毛利家みたいな感じかもしれないな。
そこら辺の話は、現状どうでもいいのでまた今度聞くとしよ。
いやさぁ、名君だったのは結構だが、今欲しいのはスタンピードが起きた時の対処法なんだよ。
ダンジョンが発見されてから9年超。早くても10年でスタンピードが起きると想定した場合、もう事前対処を考える段階は過ぎた。なら今考えるべきは起きた場合の対処だ。
「ねぇねぇルーお姉ちゃん。予めどのダンジョンで、スタンピードが起きそうとか分からないの?」
なんともいい質問だ。今から取れる手段としては最適解であろう。危ないダンジョンだけに的を絞って防衛線を張る。
まぁ、未発見の野良ダンジョンも考慮するとキリが無いけどな。
「そんなの思い切って、未発見の野良ダンジョンだけに的を絞る以外無いですわ。まぁ、この世界は魔法技術に関しては黎明期。野良ダンジョンを探知する魔道具を作り出すのも遠分先になりそうですわね。そもそも、この世界だと魔法関連は科学とやらで補ってる面もあるので、」
うんちくが長くなる前に俺は割って入る事にした。
「お前はそのチート道具を持ってるんだな?」
「本当せっかちなマスターですわ。えぇ、持ってますわよ。ダンジョン探知機って言いますの。欲しいならあげますわ。20個ぐらいありますし」
「…………」
どのような選択をするべきか、脳をフル回転させる。
その異世界産アイテムを使って、家出中に他のダンジョンに潜ってたんだろうな……。
まあ家出の事は置いといて、今考えるべきはダンジョン探知機なる物を手に入れた場合の使い道だ。
正直、スタンピード自体が俺の手に余る案件である。情報提供を探索者協会にした所で情報ソースを聞かれたら、答えようが無い。だって「異世界知識なんですよー」なんて言ってみろ。電波系だと思われて、まともに話を聞いて貰えるか怪しい。ダンジョン探知機なる物を見せればワンちゃん信じて貰えそうだが……。その場合はもっと面倒くさい。ルーメリアの事情を話さなきゃイケなくなるからな。
「いや、やっぱいいわ。必要な時に貸してくれればそれで良い」
「あら、本当にいいんですの?」
「よくよく考えたら、俺にとって大事なのはお前達従魔、小町と両親、あと数人の知人ぐらいなんだ。正直、赤の他人がスタンピードでどうなろうと、俺には関係ねえだろ」
「そう。マスターがそれで良いなら、わたくしは何も言いませんわ」
スタンピードに対する方針は決した。
結論として、俺は傍観に徹する。薄情だと思われるかもしれないが、面倒クセェんだよなぁ。
そもそも、そんな大きな案件に一庶民でしかない俺が悩まなきゃいけないのがバカげている。
俺は
これは命の取捨選択。ポストアポカリプスみたいな事態になりそうになったら、俺が助けるのは僅かな人間に限定させて貰う。
「で、ルーメリア。どうやって迷宮精霊と交渉して、ダンジョンを瓶の中に入れたんだ?」
「簡単ですわ。脅は……Win-Winな提案をしただけですのよ」
物騒な言葉を誤魔化して、異世界魔王は詳細を語り始めた。
♢ ♢ ♢
sideルーメリア
激闘──と言う程でも無いですわね。わたくしに蹂躙されたダンジョンボスが目の前で粒子となって消えた。
これで、家出してからダンジョンボスを倒すのは2回目。依然としてイライラが収まらない、と同時にマスター達に心配を掛けてる申し訳なさも込み上がってくる。
「……そうですわ!!」
このダンジョンを手土産に持って帰ればマスターが喜んでくれるに違いない。
でも、喜んでくれると言うよりは驚くマスターの顔が思い浮かびますわね。まぁそこは、サプライズと言う事で。
「迷宮精霊よ! 出てきなさい!!」
大声で呼び掛けるも、声だけが虚しく響き渡る。
いい度胸ですわね。戦血の魔王であるわたくしの呼び掛けに対して無視をするとは、なんたる不敬。万死に値しますわ。
「アーハッハハハ! ほらほら! 出てこないと貴方のダンジョンが壊れていきますわよ! これを直すのに、どのぐらいの日数と魔力が必要なのか見ものですわね!」
手に魔力を集め、魔力弾を主の間のあちらこちらに放撃していく。
壁は壊れていき、床は抉れる。このダンジョンを滅ぼす勢いで、躊躇なく破壊していく。
「やはり魔王はこうでなくては! フッハハハハ! 粉砕! 玉砕! 大喝采ですわー!」
「ちょっと! もうやめて下さい!」
久方ぶりの破壊を気分良く楽しんでたら、小さい光がわたくしの周りを飛びながら抗議してきた。
やっと無礼者が出てきましわね。これは少々、
「え!? ちょっと! く、苦し……い……っ!」
自身の手から魔力を伸ばし、光を拘束する。そのまま、わたくしの顔間近まで引き寄せる。
「わたくしが呼んだのに、3秒以内に出て来なかった。この時点で死刑ですわ」
「そ、そんな! 横暴、グヘッ!?」
身の程を弁えずに、口を開こうとしたので、魔力拘束を強める。
「わたくしがいつ貴方に、発言を許したんですの? 低級ダンジョンを運営してる下級精霊如きが、魔王に舐めた口を利くんじゃいですわよ」
「う、嘘……っ!? こ、この世界に魔王なんて……ギャァァアア!?」
魔力拘束を更に強める。
抗う者をいたぶって弄ぶこの感覚、やはり最高ですわ。ああ、弱き者の悲鳴は、今のわたくしの傷心を癒してくれる最高のメロディーですわね。
「フンッ、雑魚が」
流石にこれ以上やると、死んでしまう可能性が高い。そうなると、マスターへのサプライズプレゼント作戦が台無しですわ。
程々にいたぶって、スッキリした所でわたくしは下級精霊を解放した。
「あ、貴女はいったい何なんですか!」
「あ?」
軽く殺気を飛ばすと、精霊が怯えてしおらしくなる。今の殺気で、自身の死を10パターンぐらいは連想したに違いありませんわ。
「貴方に命令ですわ。このダンジョンを移動して貰いたいんですの。拒否権は無いですわよ」
「そんな……でも、」
「弱者風情が魔王の命令を聞けないと?」
「…………わ、分かりました。最後に一つだけお尋ねしてもよろしいですか?」
こやつ、一々ムカつきますわね。下級精霊の分際で、わたくしに意見する気ですの?
まぁ良いですわ。わたくしは寛大な魔王。一度の意見ぐらいは、聞くだけ聞いてあげますわ。気に食わない事を言われたら、今度こそ滅ぼせば良いだけですし。
わたくしは顎で、意見を申すように促した。
「その……見ての通り、私めのダンジョンは閑散としていて、利用価値があるとは言えません。移動先では、どのように扱われるのでしょうか……?」
「そんな怯えなくても良いですわ。安心なさい、悪いようにはしませんのよ。少なくても、これからは定期的に人が来るようになりますわ」
と言ってもマスターのパーティーだけですけど。
「それなら……」
「物分りが良くて何よりですわ。早速、この瓶の中に入って貰っても?」
「入るのは良いんですが、一旦ダンジョンの外に行って貰えると助かります……」
「ここまで来たわたくしに歩けと? 滅ぼしますわよ? さっさと貴方の権能でワープさせなさい」
脅迫……じゃなくて、お願いをすると、わたくしの足元に魔法陣が現れる。
これで労せずして、一気に出口まで出る事が出来ますわ。
♢ ♢ ♢
「と言った感じで、二つのダンジョンで懇切丁寧にお願いしたら移動を許可してくれましたわ」
「先ずお前は、懇切丁寧の意味を調べてこいよ」
魔力拘束とか何? 聞いてる限りだと懇切な部分も無ければ、丁寧な部分も無かったぞ。やり口がタチの悪いヤクザだ。なんなら、途中から精霊さんに同情してしまったぞ。会う機会が有れば、ルーメリアのマスターとして謝罪しとこ。
「お姉ちゃん強くてカッコイイ!」
「ちょっとタマエちゃん? 暴力で解決ダメ絶対」
タマエは目をキラキラさせながら
頭サイヤ人になられると困るからな。
「当然ですわタマエ。なんたって、わたくしは最強にして最高にして最悪のヴァンパイア!」
なんか名乗りが、鉄血にして熱血にして冷血の吸血鬼さんみたくなってきたのは気のせいか……。絶対練習しただろ。
因みにコイツはもう手遅れだ。どこに出しても恥ずかしく無い頭サイヤ人の魔王だ。
「オーケー、オーケー。で、最強にして最高にして最悪のヴァンパイアさん。今の話を聞いた限りだと、迷宮精霊がスタンピードを起こすような、ヤバイ奴には思えないんだけど」
「そんなの人間と一緒で個々の性格によりますわ。マスターみたいな捻くれた精霊も居れば、傲慢な精霊もいますのよ。まぁ、高位の迷宮精霊の方が厄介な性格をしている場合が多いですわね」
「あー、強くなるとお前みたいに傲、」
冗談を言いかけた瞬間、血の矢が顔面をすれすれで通り過ぎる。
「ヒッ!? 冗談だから矢を飛ばすんじゃねぇ!」
余りの驚きに椅子から落ちそうになるが、どうにか耐える事が出来た。
「次は股間に飛ばしますわよ」
マジで怖ぇですわ。進化してから余計に凶暴化してない?
いや、凶暴なのは今に始まった事じゃねえな。前から俺を鎖でグルグル巻きにしたりで、かなり凶暴だったわ。
「悪かったな。頼むから男子の象徴に手を出すのだけはやめてくれ」
「あるじ様、男子の象徴ってなに?」
「タマエ、男子の象徴とはチン、」
「アァァァッ! お前らもうおねんねの時間だ! 明日はクリスマスだからもう寝なさい」
大声で誤魔化しながら卑猥ワードが俺の耳に届く前に、強引に2人をリビングから押し出す。
保険体育の講義は結構だが、俺のいない所でやって欲しい。因みに俺は、その手の事を教えるつもりは一切ない。
「ゴブタニは……寝てるな」
不真面目なゴブタニはテーブルに突っ伏しながら夢の世界に旅立っている。
俺はゴブタニを背中におぶって、ソファーに寝かせる。
本当に世話のかかる奴ばっかりだな……。
明日がクリスマスって事もあり、寝室に行く前にLINEを開いて、雪ノ下とのトークルームに言葉を打ち込む。
HH:メリークリスマス
送信すると、直ぐに既読が付いて返事が返ってきた。
YY:メリークリスマス。寝る前にゾンビのうめき声が聞きたいのだけど、どこかにお手頃のゾンビは転がってないかしら?
この一見失礼だと思われる暗号文を意訳すると『貴方の声が聞きたい』って事でいいのだろうか……。勘違いだったらマジで恥ずかしい。恥ずかし過ぎて、八万回ぐらい死ねる。
悩んだ挙句、なんだかんだ俺も寝る前に、彼女の声が聞きたい思いがあったので電話を掛ける事にした。
「もしもし、あー、俺だ」
『通報するわ』
「ちょっと待て、オレオレ詐欺じゃねえよ」
『なら保健所に通報するわ』
「おい、保健所に電話してもゾンビの対応なんかしてくれねえぞ」
『あら、詳しいのね。何回保健所のお世話になったの?』
「お世話になった事ねーよ。てかゾンビじゃねえし」
むしろゾンビを引き取ってくれる保健所とか、それ保健所じゃねえぞ。傘マークの危ない組織だぞ。
『ふふっ、冗談よ。今は何をしてるのかしら?』
「ゴブリンの生態について調べてた。お前は?」
調べてたってより、俺の家で生態してるゴブリンが寝てる所を観察してたんだけどね。
『仕事熱心なのね。私は大きい猫さんの動画を見てたわ』
相変わらず猫が好きなんだな。てか大きい猫なら、丁度俺の家にもいるぞ。最近はダイマックスみたいなスキルも使えるようになったしな。でもアレは大きいってより
「そうか……大きい猫って可愛いくて、どこか憎めないよな」
雪ノ下の猫話やら仕事の話を聞きながら自身の寝室へ行き、ベッドに横たわる。
初めて知ったが、雪ノ下は大学在学中に俺と別れた後に理系の学部に転科。そのまま材料工学の分野で、博士号まで取ったようだ。今はダンジョン素材に関して色々と研究していて、自身の研究を生かせると言う事もあり雪ノ下HDの製品開発本部長に就任しているようだ。
マジで大手上場企業のお偉いさんじゃないですか……。本人から聞かされると、社会的な差を痛感させられる。俺はいつ死ぬか分からないような、しがない探索者。やはりこの差を埋めようと思ったら、偉業を成し遂げる他にないな。
「あー、そうか……博士……凄いな」
生活習慣が良いせいか、段々と意識が微睡む。同時に電話越しからは、雪ノ下の可愛い寝息が聞こえてきた。
「メリークリスマス。仕事がんばれよ」
寝落ちした雪ノ下にそれだけ言って、俺は電話を切って意識を夢の世界へと飛ばした。
♢ ♢ ♢
「これで全部だな……」
いつも以上に早起きして、小さなクリスマスツリーを設置したり、クリスマスパーティー用の料理を全て完成させる。前々からちょくちょく準備してた甲斐もあって、予定通りに仕上げる事が出来た。今や空間収納の中には、豪華な料理がわんさか入っている。
時間を確認すると、まだ朝の8時。俺は寝てる従魔全員の側に、そっとクリスマスプレゼントを置く。
全員の寝顔が可愛いくて、普段の疲れが吹き飛んだわ。これで八幡サンタの任務は完了。あとは、全員が起きるまでモーニングコーヒーを楽しむとしよ。
コーヒーを飲みながら、ネットサーフィンをしてると従魔達がニコニコしながらリビングに集まってきた。
「ゴブ~」
訳:旦那今日もカッコイイっすね~
ゴブタニは何故か俺の肩をもみだす。不自然過ぎて気色が悪い。まぁ魔鉄製の鞘を気に入ってくれて何よりだ。
「ワンワン♪」「プルプル♪」「シャー♪」
「良かったなお前ら。サンタに感謝しとけよ」
サブレは膝、ソフィーは頭に乗ってくる。ザリンはいつも通り首から肩にかけて巻き付いてくる。
うん、プレゼントを喜んでくれてお兄ちゃん嬉しいよ。
サブレには魔物素材で作られた高性能フリスビー、ソフィーにはの紫晶石とか言うダンジョン産のファンタジー鉱石で作られたマグカップ、ザリンにはファンタジー鉱石で作ったネックレスをプレゼントした。
「ギミィ、ギィ……ギミィ」
訳:なあマスター、その……ありがとうな
机の上に跳ね登ってきたエルランは、照れくさそうに感謝を告げてくる。
車好きのコイツには、
何気に86のフィギアが意外と高かったから、大事にしてくれよ。
「そうかそうか、お前も嬉しかったか。でも感謝はサンタにしとけ」
エルランを撫でてると、肩にモフっとした感触がする。
カマクラの奴、いつの間に俺の背後に回り込んだ……。
「どうした」と声を掛けると、カマクラは俺に背中を向けて尻尾を伸ばしてきた。
「みゃっ、にゃにゃ」
訳:今日は特別に、にゃーの尻尾を触ってもいいぞ
どうやら尻尾を触らせるのが、俺に対しての精一杯のデレらしい。
こいつも大概素直じゃねえよな。そんなに爪とぎタワーが気に入ったのか。まあモフれって言ってるし、思いっきりモフらせて貰おう。
「ニャ~」
訳:くすぐったい
「おぉ……久しぶりに触ったぞ」
こいつの尻尾、手触りがめっちゃ気持ち良い。タマエの尻尾とはまた違った気持ち良さだ。具体的に言うならカマクラの尻尾は凄くサラサラしている。
カマクラの尻尾を堪能してたら、バタバタと2階から騒がしく降りてくる音が聞こえてきた。
来るぞ来るぞ、騒がしい奴らが来るぞ。
「「マスター!(あるじ様!)」」
目を輝かせてる吸血鬼と九尾が勢い良くリビングに入ってきた。
ほら騒がしいのがきた。
そのまま囚われの姫を助けに来た勢いで、2人は俺に突っ込んで来た。
「やめろ! こら、引っ付くな! 一々頬っぺにキスしてくんじゃねえ」
2人を引き剝がすのに10分、プレゼントした
今どきのiPhoneの初期設定、難し過ぎだろ。舐めてたわ。やっぱアンドロイドスマホにすれば良かったかもしれない。
しかもこの2人、速攻でXとかインスタをインストールしたよ。もう現代っ子じゃねえか。魔族が現代に適応してる件について。
「SNSに何かを投稿する時は俺に確認とれよ」
「「え~、本当に確認するでござるか~?」」
おい、今デジャヴった気がする。昔にも小町と一色が、同じセリフでハモッてたぞ。
うん、スマホ依存症になったら没収しよう。
「君たちのSNSは、24時間お兄ちゃんが監視してるからな」
「マスター、流石にキショイですわ……」
「あるじ様、そこまで束縛されるのはちょっと……」
女子に対して「監視してるからな」ってのは、流石にキモイようで2人はゴキブリ見るような目で俺から離れていく。
俺ぐらいプロのぼっちになると、こう言った視線には耐性があるってもんだ。それでも一つだけ言いたい。お前ら、もうちょっとサンタに優しくしろよ……。
「まぁマスターがキショイのは今に始まった事じゃないですわね」
ルーメリアは自身のスマホをタマエに渡すと、霧状になって消えた。
「…………は?」
意味が分からない。どうやって霧状になった……っは! スキルか!
すっかり忘れていたが、進化したルーメリアのステータスを未だに確認していなかった。
「来いモンスターブッ、おい、離せ!」
ステータスを確認しようとした矢先、消えたかと思ったルーメリアに後ろから抱えられる。
何故俺はお姫様抱っこをされてるんだ……。
「タマエ、写真を撮りなさい。あとでSNSとやらのアイコンにしますわ」
コイツ、小っ恥ずかしい写真をSNSのアイコンにする気か!?
もはや振り解けないので、俺は慌てて猫の仮面を空間から引っ張り出して、顔に付けた。
「はいチーズ!」
タマエの合図でシャッター音が鳴る。
結局、小一時間ぐらい気が済むまでルーメリアとタマエの撮影会に付き合わされる羽目になった。
「よしお前ら、裏庭ダンジョン攻略の打ち上げ会兼クリスマスパーティーを、」
「ハイハイ、マスターの前口上はいいですわ。カンパーイ!」
従魔達は俺の前口上を、お決まりかのようにスルーして宴を始めてしまった。
俺マスターなのに……こうなればヤケ酒だ!
♢ ♢ ♢
Sideルーメリア
「お前ら聞いてくれよ、俺の一番の黒歴史を。ガキだった頃によぉ、女子2人に泣きながら『本物が欲しい!』って言った後は流石に死にたくなったね! ハッハハハハハ! いやー、今思うと本物ってなんだよって感じだよな~。あー、やべぇ超ウケルー! ハッハハハハハ!」
マスターが壊れた。
目の前で自身の青臭い過去を語りながら、腹を抱えて不気味に大爆笑している。
わたくしが進化した事もあり、マスターがお酒を解禁してくれましたの。
そこで、つい出来心でほろ酔い状態のマスターに飲み比べ勝負をしかけたら、マスターが乗ってしまったのが事の始まりでしたわ。
「カーくん、覚えてる? お前がこーんなにちっちゃな子猫だった時に、よく俺と小町でミルクをあげてたんだぞ〜」
「ニャー……」
訳:コイツキモい……
マスターは泣いてるのか笑ってるのか良く分からない表情で、幕府最強であるカマクラさんに抱きつきながらダル絡みを始めてしまいましたわ。
しかもなんだか、カマクラさんは幼少期だった頃の話に弱いのか、いつもみたくマスターを背負い投げしないですわね。
「本当に……本当に長生きしてくれてありがとうなカーくん……グスッ……こんな立派に若返って、しかも大きくなって……お兄ちゃん嬉しいぞ!……グスッ……あの時お前が死んでたら、俺は今頃ショックで生活保護を受けながら寂しく生きてたに違い無い……グスッ」
しまいには号泣しだしましたわ……。生活保護が何なのかは知りませんが、姑息な手段で生き長らえようとしてた事だけは伝わってきましたのよ。
微笑ましく眺めてると、カマクラさんと目があってしまった。
「ニャー、ミャッ」
訳:おいルーニャ、コイツをどうにかしろ
鬱陶しそうに呼ばれてしまいましたわ。
正直、今は手に持ってる日本酒とやらとマグロの大トロを深く味わいたい気分なので、見て見ぬフリをしようと思いますわ。
「ねぇねぇお姉ちゃん。今ならあるじ様、なんでも素直に答えてくれる気がするよ」
今度はタマエがニヤニヤしながら面白そうに耳打ちしてきましたわ。この子ったら、妙に小悪魔な所がありますわね。
まぁでも、確かに言われてみればマスターが素直になる機会ってあんまりないですわね。
うん、仕方ないですわ。同じ従魔のよしみとして、カマクラさんに助け舟を出してあげましょう。
「ねぇマスター、わたくしってマスターから見て可愛いですの?」
「は? なに言ってんのお前?」
軽いジョブを打った筈なのに、重いストレートが返ってきましたわ。
マスターからしたら、わたくしって本当に魅力がないんですのね……。
「可愛いとかの次元じゃねーよ。3次元はおろか、2次元の女子だってお前には勝てねぇよ」
「……」
別の意味で重いストレートでしたわ!!
この人間がわたくしのマスターなのか疑うレベルで素直ですのよ! え、これがあの捻くれマスターですの!?
「ねぇねぇあるじ様! 今日一緒に寝よ?」
「タマちゃんは甘えん坊だな〜。良いぞ、むしろウェルカム! お兄ちゃんがいくらでも一緒に寝てやる。ハッハハハハハ!」
妹キャラの上目遣い恐るべしですわね。
わたくしも負けてられないですわ。
「マスターにチュー……して欲しいですわ……ダメ?」
上目遣いで出来るだけ恥じらう感じで言ってみる。すると、やれやれな感じでマスターは立ち上がって、わたくしの隣に座ってきた。
え……本当に! 本当にキスしてくれるんですの!? これはもう勝確と言う奴ですわ!
他の従魔が見守る中、次第にマスターの顔が近づいてくる。狼狽えるわたくしは、とりあえず目を瞑り迎撃態勢をとった。
チュッ、と温かい感触がしてきた。
ただムカつくのは、その感触は口からではなく額から感じた事ですわ。
「……マスター、額じゃなくて口が良いですわ」
文句を言ってやると、次は指をわたくしの額に優しく置いてきた。
「許せルーメリア……また今度だ」
似合わないキメ顔に、ムカッとくるキザな台詞。
あー、キッショ。NARUTOの17巻を読んだわたくしには分かりますわ。これはどう見ても、うちはイタチの真似。同じ兄属性でも、カッコ良さに天と地ほどの差がありますわ。勿論、マスターが地の方。まぁ何が言いたいかと言うと、超ウゼェですのよ。
「どうしたルーちゃん? そんなプンプンして、むぐっ!?」
近くにあった日本酒の瓶を飲み口からマスターの口に突っ込み、そのそのままゴクゴクと飲ませる。
「その台詞は万華鏡を開眼してから言いやがれ、ですわ!」
結局この後、盛大に酔っ払ったマスターは、口から汚い火遁を吐き散らかしてノックダウンしてしまった。
望んだキスは貰えませんでしたが、お酒も飲めて料理が食べ放題なクリスマスと言うイベントは、凄く楽しいですわね!
ここまで読んで頂き、ありがとうございます!
皆さんはお酒に呑まれないで下さいね(笑)