か、カマクラが若返ってる!?   作:9ナイン9

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38:必ずしも、家族が一枚岩とは限らない。

 現在、5日連続でダンジョンに潜っている。

 もはや長期休暇じゃなくなっているぞ。これも全部従魔達の魔石消費の速さが原因だ。ほとんどが進化を果たしているせいで、以前よりも消費量が格段に増えてしまったのだ。

 

 かく言う俺も、日々の魔力操作訓練で自力を上げる事が出来たお陰で、従魔達の走るスピードになんとか追いつく事が出来てる。何でそんな芸当が出来てるかと言うと、魔力を両足に纏わせてるからだ。まだまだ技術は全然だけどな。集中してないと出来ないし、片方の足に魔力が偏ってしまう事もある。なんなら僅かな魔力しかまだ操作することが出来ない。

 

「「「りみぃぃぃぃ!」」」

 

 目の前に猫サイズのリスが何体も現れる。バレットスクワロルである。特徴は膨らんだ頬で、その頬からマシンガンの如く鋭利な石を飛ばしてくる。

 

「イタッ! 思ったより攻撃が激しいな……っ!」

 

無数に飛んでくる鋭利な石の飛礫を全て躱しきれずに、何発か俺の上半身に被弾してしまった。

 

「ギミィ!」

 

 バットでガードしてると、エルランが俺を守るように前へと踊り出た。なんて頼もしいタンクだ。あのエルランがカッコイイなんて……。引きこもりとは思えない雄姿だ。

 ここはエルランが耐えてる内に態勢を整えるべきだな。

 

「ソフィー、ザリン。アレやるぞ」

 

 俺の掛け声にザリンが俺の右手に巻き付き、ソフィーは縄状になって左手に巻き付く。

 見せてやるよ、二次元(アニメ)再現を。

 

 ──疑似・潜影蛇手!

 

 両手を勢い良く前に出すと、ソフィーとザリンが手から伸びて敵に嚙みつく。敵は体の一部を酸で溶かされたり、毒が次第に回ったりで前線が崩壊した。

 

 よし、あとは引き寄せるだけだ!

 ザリンを引っ張り戻すと、嚙み付かれていた敵もこっちに凄い勢いで引っ張られる。

 ヒャッホー! いっちょ上がり!

 こっちに引っ張った勢いで、俺の魔力強化キックが敵に炸裂。

 

 このキャッチ&キックを何回か繰り返した所で、敵は全滅。遭遇戦は我らの勝利に終わった。

 

「いってて……」

 

 戦いが終わると、攻撃を食らった所が疼きだした。さっきまではアドレナリンの影響で痛みをそこまで感じなかったんだろうな……。やはりカマクラ達がいないと被弾率が上がる。今日は強キャラ達を自陣に組み込まないで、探索に臨んでいる。まぁ従魔士として、自身が成長する為の試練だ。今頃アイツらは下の階層で暴れてるだろうよ。

 

「ギミィギミィ」

訳:さっきの技いらねえだろ。ソフィーに酸を撃って貰った方が、絶対に早く終わったぞ

 

 空間収納から通販で頼んだ雪ノ下印のミドルポーションを取り出して飲んでいると、エルランが跳ねながら文句を言ってきた。

 エルランの言う通り、ソフィーに酸弾を適当に連発させれば、あっさり終わっただろうよ。でもな、それだと全体的に成長しない。

 何より疑似・潜影蛇手を完成させるために、夜な夜な密かにソフィーとザリンと一緒に練習をしてたのだ。あの練習は無駄じゃなかった。それに、いざとなったら配信のネタにもなりそうだしな。大量の草の生えたコメでコメント欄が埋め尽くされそうだけど。

 

「バカお前、ロマンだよ、ロマン。男子ってのはアニメの技を再現したい生き物なの。昔、小学生の頃なんか掃除の時間になると箒を持った同級生から、よくスターバーストストリームをくらったもんだ……あー、中島の野郎、人生からログアウトしねぇかな」

 

「ギミィ……」

訳:でたよ、マスターの良く分からないトラウマ……

 

「プルプル」

訳:いつものやつ

 

「シャー?」

訳:アレ慰めた方がいい?

 

 従魔達の話声が聞こえるが、聞かなかった事にしよう。

 スリリングな生存競争(バトル)をした俺達は4階層から3階層に上がり、合流地点である安全地帯で休憩をする事にした。

 

「おっし、今日も沢山食えよ」

 

 拾った魔石を空間収納から大放出。加えてそれぞれに好みの飯も渡す。エルランには段ボール、ザリンにはゆで卵を五つ、ソフィーには庭に生えてた雑草。

 うん、カマクラやルーメリアと違って、比較的に安上がりな飯を食う従魔達だと思う。

 

 ツナマヨサンドを貪ってると、エルランが騒ぎ出した。目を向けると、エルランが光輝いていた。

 

「ギミィギミィギミィィィ!! ギミィ!」

訳:来たぜ来たぜぇぇぇ!! 俺の時代がぁっ!

 

 凄いイキリセリフだ……。まるで就職が決まったニートみたいなイキリ方だ。因みに就職先がブラックだったまでがセットな。

 ゲームとかを元に考えると、疑似宝箱(ミミック)の正統な進化先はタンスとか本棚だと思われる。いや、サイズがデカくなると困る。デカくなった時は、俺の部屋から屋根裏に引っ越して貰うか。

 

 進化先を考察してたら光が収まり、ブオォォォォンと盛大なエンジン音じみた音が聞こえてきた。

 

「噓だろ……っ!!」

 

「ギミィギミィギミィ!」

訳:見ろよマスター、俺のこのイカしたボディーを!

 

 多分、今頃俺の目ん玉は飛び出す勢いに違いない。今までの従魔達の進化先は大体が予想出来た範囲内だったが、エルランに至っては予想の斜め上を行った。

 目の前にいるのは昔見た、群馬の峠を題材にした走り屋のアニメに出てきた車。惜しいのはパンダカラーではなくオールブラックな事。しかも、ドア部分に【鎌谷幕府】とイカしたフォントで書いてあるのが、妙にオマージュしている。あの部分、恥ずいから消して欲しいんだけど……。

 

「まさか宝箱が車に進化するとはな……。こい、モンスターブック」

 

ネーム:エルランLv10

種族:ミミック(マシーンタイプ)

スキル

【パラライズバイト】【フォルムチェンジ・カータイプ】【硬度強化】

 

──カータイプ──

【アタックミスファイアリングシステム】【魔石ブースト】【水面走行】

 

ステータス

生命力:410/410

魔力量:290/290

筋力 :+350 

耐久力:+610

敏捷力:+430

知力 :+280

 

 なんだこのミミック。もはやミミックの常識を覆しているぞ。

 いや、違うか。ゲームと現実を混同するのは良くない。ミミックは遭遇率の低いモンスターだ。依然として謎が多いから、こう言う事だって起こりうる。

 これは推察だが、自身の方向性を見出したから最近は積極的に、ダンジョンに付いて来てたのかもしれない。

 

「エルラン、確認していいか? 他の車になれたりするのか?」

 

 マフラーから火を吹かしたりと、ご機嫌なエルランに疑問をぶつける。すると意気揚々と答えてくれた。

 

「ギミィ! ギミィィィ!」

訳:良いぜ、見てろよ! フォームチェェェェェェンジッ!

 

 一瞬光ると、プリウスみたいなフォルムになった。その他には、自身の形をオープンカーや軽自動車みたく変換させた。どうやら、車なら何でもなれるようだ。

 

「おー! トラックは行けるか?」

 

 次は軽トラや2トンのダンプトラックにフォームチェンジするエルラン。

 もっと大きいのになれないのかと聞くと、どうやら2トンのトラックが限界のようだ。

 

「ギミィギミィ」

訳:やっぱこっちだな

 

 やはり気に入っているのか、AE86の形状に戻った。

 その他にも調べたら、宝箱にも戻れるようだ。ただ、以前と違うのは、宝箱の色がツヤツヤな真っ黒って事だ。

 本当に良かった。車のままだったら、場所の問題でせっかく買ったプリウスを売らなきゃいけなくなる所だったぞ。エルランで公道を走る訳にも……。うん? 行けるんじゃないか? 確か道路交通法で馬とかラクダって自転車と同じで、軽車両扱いだった筈。なら従魔も軽車両になる筈だ。

 ……と考えてみたは良いものの、リスクが高い。保険関連とかな。従魔保険とか存在しないので、事故を起こしたら一発アウトだ。

 

 自身の考えを否定していると、エルランが(ボンネット)で俺の服を掴んで、雑に揺らしてきた。

 

「ギミィギミィ!」

訳:おいマスター、狩りしようぜ! 狩り!

 

 えー、今日は充分戦っただろ。かれこれ5時間もサーチ&デストロイをやったぞ。

 コイツ、この前まで働いたら負けとか言ってたよな。やはりニートに強い力が備わると粋がりになるようだ。

 

 そんなこんなで、安全地帯から少し離れて3階層を探索する事になった。

 

「「「チュルゥゥ!」」」

 

 五体ものデカイネズミが現れた。対して戦意が高揚してるエルランはマフラーから騒音を立てながら敵に猛突撃。

 

「ギミィ! ギミィ!」

訳:死ね! 雑魚共!

 

 敵が現れては轢き殺していくエルラン。一発で轢き殺せなかった敵に対しては、マフラーを向けて火を浴びせている。

 もうなんて言うか、DQNが乗ってる車みたいだ。やはり、こんな奴を公道に出したらダメだ。「オラオラオラァ! 人間がゴミのようだぜ!」とか言いながら殺人事件を起こしかねない。

 

「プルプル……」

訳:進化すると性格って変わるんだ……

「シャー……」

訳:あんなに大人しかったのに……

 

 そうだなソフィー、ザリン。多分、今のエルランは進化して妙に自信が付いたせいでハイな状態だ。 

 例えるなら、発売当日に売切れが続出した遊戯王の新弾パックから運良くレアカードを手に入れた事により、一躍クラスのヒーローになって調子に乗ってる子供みたいだ。そして、そのレアカードを借りパクされるまでがセットな。

 

「おーい、エルラン。そろそろ戻るぞ」

 

「ギミィ、ギミィ」

訳:チッ、倒し甲斐のねぇ雑魚共だったぜ

 

 やめろエルラン、あまり強い言葉を使うな。弱く見えるぞ。

 エルランの粋った様子を眺めながら安全地帯に戻ると、下階層で狩りをしてたルーメリア達が待っていた。

 全員無事で何よりです。

 

「わー! 箱さんが車さんになってる!」

 

 車になったエルランが珍しいのか、タマエがベタベタ触りだした。対してエルランは、どこか嬉しそうだ。

 

「ギミィ? ギミィ~?」

訳:イカすだろ? タマエちゃん乗ってみる~?

 

「乗るー!」

 

 タマエが乗り込むと、次はルーメリアも乗ってみたいのか、近づいてきた。

 

「まさか、あの穀潰しが車とやらの姿に進化するとは。不思議ですわね……うん?」

 

 何やらルーメリアがガチャガチャしても、エルランのドアが開く気配が無い。どうしたんだ?

 

「何で開かないんですの! こら穀潰し、早く乗せなさい!」

 

「ギミィ! ギミィ! ギミィギミィ!」

訳:黙れ自称魔王のクソヴァンパイア! いつもいつも穀潰しとか言いやがって! 死ね、地獄に落ちろクソ女!

 

「…………殺す」

 

 orz……。まさかの仲間割れかよ、胃が痛い。普段を見て仲が良いとは思わなかったけど、死ねだとか殺すとかの暴言が飛び交う程に絆メーターが下に振り切ってるとはな。これはまさか、俺の監督不行きになるのか……。

 俺が胃を痛める中、ルーメリアは静かに怒りながら空間収納から魔剣だと思われる禍々しい剣を抜いた。

 

「カマクラ! ルーメリアを止めろ!」

 

「ニャー」

訳:ルーニャ、少し落ち着けって

 

 指示に応えてくれたカマクラが、素早くルーメリアの後ろに回り込んで羽交い絞めにして止めてくれた。

 

「何をするんですの、カマクラさん! わたくしはここで、あの穀潰しを滅ぼしますわ!」

 

「ギミィギミィ! ギミィギミィ!」

訳:ザマァねえなクソ女! 殺せるもんなら殺してみろよ、バアァァァカッ!

 

「滅ぼしてやりますわ、穀潰しがっ!」

 

 羽交い絞めにされてるルーメリアに向かって、ボンネットを開けてベロを出しながら煽るエルラン。勿論ルーメリアは更に暴れ出して、激おこぷんぷん魔王丸になってしまった。

 

「ギミィギミィ、」

訳:かかって、

 

「お前はこっちに来いバカ。悪いがカマクラ、もう少しルーメリアを抑えててくれ」

 

 更に煽ろうとするエルランの中からタマエを降ろして、エルランを強引に離れた所に移動させた。

 移動したは良いが、なんて言ってやるのが正解なんだ。マジでさぁ、皆と仲良くしろ的な説教すんの苦手なんだよな。何故なら、その手の事を言われるのが、俺自身が嫌いだから。皆って誰だよ、って感じだよな本当に。

 比(人間2人)の下に自と書いて皆。要は自分の考えやら信念を曲げてその2人に迎合した結果、人間社会が完成する。

 正しい、本当に正しいよ。大人になって社会人を経験したから分かる、社会とは皆の集合体だ。自分の意志を貫きたいなら特別な才能がない限り迎合を余儀なくされる。なんなら特別な才能があっても、下手したら迎合を余儀なくされるのが社会だ。

 まあアレだ、アレ。社会なんてクソで生活保護が正解だと言いたい。うん、今なら将来の夢に生活保護受給者って恥じる事無く書けるね。

 

「なあエルラン」

 

「ギミィ、ギミィ」

訳:何だよ、俺は死んだってあのクソ女に謝んねぇからな

 

「どーどーどー、分かってる分かってる。俺は、お前の言い分が聞きたいだけだ」

 

 出来るだけ優しく宥めながら、あっちの肩は持たないとアピールする。実際、話を聞かない限りどっちの肩も持てないしな。

 てかコイツ、口悪すぎだろ。

 

「ギミィ、ギミィギミィ! ギミィ!」

訳:なら聞いてくれよマスター。あのクソ女、いつもいつも俺を見掛ける度に『穀潰し』とか『ニート箱』って呼んでくんだよ! これは立派なイジメだぜ!

 

 この告発で我が校にイジメは無いと言えなくなってしまった。イジメは受けた側がイジメだと感じた瞬間に成立してしまう。

 まずルーメリアが8割方悪いとして、肌感的には2割方はエルランにも原因があると思う、と俺は言いたい。

 自身の見解をまとめていると、怒りが収まってないエルランの愚痴が更に続いた。

 

「ギミィギミィ、ギミィギミィ、」

訳:なぁマスター、もうあのクソ女そこら辺のダンジョンに捨てようぜ。魔王だか魔女だか知らねぇけどよぉ、いつも偉そうにギャーギャー言ってて気に食わねぇんだよ。正直言って、あのクソ女さっさと死、

 

 聞くに堪えない事をベラベラ言い出したので、俺は強引に遮ることにした。

 

「おい、流石に言い過ぎだ」

 

 悲しみのせいか、自分でも分かるほどに冷たい声が出てしまった。

 俺はルーメリアもエルランも大事な家族だと思っている。なのに、その大事な家族が互いに憎み合ってるのが本当に悲しい。

 別に仲良くやれとは言わないし、互いに家族のように接しろとも言いたい訳じゃない。俺だって親父と仲が良いかと問われると、怪しいしな。なんなら、ちょいちょい言い争う仲だ。主に小町の事で。

 きっとエルランにとって、ルーメリアは気に食わない同僚ぐらいの認識なんだろうな……。悲しいけど、仕方ない。無理にお互いを好きになって貰う必要はないが、大人になって貰うぞエルラン。

 

「エルラン、まずお前が正しいし、被害者はお前だ。でもな、ルーメリアが諸悪の根源なのは大前提だとしても、お前にも原因の一旦はあったと思うぞ」

 

「ギミィギミィ!」

訳:何でだよ!

 

「良いから落ち着いて聞け。お前はアイツと違って大人だろ?」

 

「……ギ、ギミィ。ギミィ」 

訳:……あ、当たり前だろ。クソ女と違って俺は大人だ

 

 そんな事を言ってる時点でお前も充分ガキだよ。まぁこれで心理的なラベル付けは成功した。この『お前はルーメリアより大人だろ』的なラベリング効果で、コイツは無意識に大人の対応する事になるだろうよ。

 

「一つ聞くぞ、エルラン。もし俺が何もしない引きこもりで、お前達だけにダンジョンアタックをさせてたらどう思う? しかもお前達の稼いだ金で俺はゲームとか買って遊んでいるとしてだ」

 

「ギミィ……ギミィ」

訳:マスター……それは流石に死んだ方が良いぞ

 

 スゲェ身も蓋もない事を言われた。もうちょいマイルドに言えよ。なんか傷ついたぞ。

 

「だろ? ルーメリアもお前に対してそう思ってた可能性がある。アイツも自分の分の魔石をお前に融通してたんだからな」

 

「……」

 

 流石に思う所があったのか反論しなくなった。

 実際に今までコイツの分の魔石は他の従魔達から3個づつ融通して貰ってたしな。せめてもの救いは誰も文句……いや、ルーメリアはちょいちょい文句言ってたな、『なんで働かない者の生活を、健全な労働者が支えなきゃイケないんですの!』って。やっべ、エルランが生活保護受給者みたいだ。

 

「エルラン、これから上手くやれるか? 上辺だけで良いから」

 

「……ギミィ、ギミ」

訳:……まぁ俺は大人だし、仕方ないな

 

 やれやれだぜ、と車体を揺らしながら言うエルラン。

 あー、ラベル効果が良くない方向に作用してる気がするんですけど……。コイツ大丈夫かよ。この態度だと、俺の知らない所でルーメリアに殺されかねないぞ。

 

 態度が軟化したエルランと一緒に元の場所へと戻ると、不機嫌なルーメリアは腕を組みながら貧乏揺すりしていた。

 話し合うべく俺は、エルランを睨み付ける殺気まる出しの魔王に声を掛けた。

 

「次はお前だ、ルーメリア。あっちで話そうぜ」

 

「いいですわよ。……その前に、あの穀潰しは殺しますけど」

 

「いいからコッチに来い」

 

 剣を持ってエルランに近づこうとしたので、咄嗟にルーメリアの尖った耳を掴んで、強引に連れて行く。

 

「痛いですわ! うぅ、分かったから離すんですの!」

 

 程よく離れた所で、ルーメリアの耳を離す。色々ムカついてるのか、どこか拗ねた様子のルーメリアの言い分を俺は聞くことにした。

 

「なぁルーメリア、お前の言い分が聞きたい。それと、エルランには矛を収める意思があるぞ」

 

 平和的解決が可能だと伝えるが、ルーメリアはアホくさいと言わんばかりに笑い飛ばした。

 

「ハッ、矛を収める? あっちが始めた戦争ですのよ。あの穀潰しを滅ぼしてやらないと、気が済まないですわ!」

 

 やはり武断派魔王。問題が起きれば、武力行使が一番手っ取り早いと思っている。まぁ実際にそうだとは俺も思う。現に今でも、暴力や恐怖を主体に、政治をやってる国があるぐらいだからな。だが、北の国と日本は違う。

 郷に入っては郷に従え。悪いがルーメリア、法治国家である日本と言う郷に従って貰うぞ。

 

「暴力は無しだ。あっちは自身の非を少なからず認めてるしな」

 

「むむっ、なんでマスターはあの穀潰しの肩を持つんですの! そもそも、あの穀潰しは自分の食い扶持を、わたくし達に稼がせておいて生意気ですわ!」

 

 やはりその点が気に食わなかったのか。なら説得出来るかもしれない。なんたってルーメリアは魔族の王なんだからな。

 

「お前の言う通りだ。アイツはもう少しお前や他の従魔達に敬意と感謝を持つべきだ。でもな、僅かな支え合いも大事と思わないか? 生まれながらにして、気高くも美しい戦血の魔王であるお前になら分かるだろ?」

 

 クエスチョンを投げ掛けると、意味を理解したのかルーメリアは表情を歪める。

 良かった。武断派とは言え、お前が異界の国で名君だった事が本当に良かったよ。

 

「国は一人だけだと成り立たないし、強くならない。それは俺達だってそうだ。でも、決して馴れ合いをしろと言うつもりは無い。お前が前に言ってた『なんで働かない者の生活を、健全な労働者が支えなきゃイケないんだ』てっのも分かる。だから、俺の方から今までエルランに融通してくれた分の魔石はお前達に還付させて貰う」

 

 そして俺はルーメリアに対して頭を下げる。『寛大な魔王なら、どうか許してやって欲しい』と言いながら。

 

「…………頭を上げなさいマスター」

 

 申し訳なさを感じる声で言われて頭を上げると、呆れ顔をするルーメリアがいた。加えてどこか納得出来てないようにも感じる。

 

「組織の長が臣に対して、そんな易々と頭を下げては舐められますわよ」

 

 まさに、おまいう発言だ。コイツ普段から俺に対して舐め腐ってるよね。それとも普段のあの態度には、俺が見抜けないだけで敬意があったのか……。

 いや、ツッコムのはよそう。これ以上、拗れるのは勘弁だからな。

 

「仕方ないですわね。マスターの言う事にも一理ありますし、マスターの顔を立てると思って、あの箱を超特別に許して差し上げますわ」

 

 これで双方の矛が収まった。同時に俺の胃痛も収まっていくのを感じる。そろそろどこかで、時間でも作って人間ドッグに行こうかな。マジで胃の辺りとか異常が出そうで怖い。

 

「そうか、ありがとうな」

 

 ルーメリアを連れて他の従魔達の元に帰ろうとしたら、腕を思いっきし掴まれた。

 

「なんだよ……」

 

「マスター、わたくしは魔石の還付はいりませんわ。代わりに31とサイゼリヤとやらに、行ってみたいですの」

 

 外食に行きたいのかよ。意外と要望が可愛いな。てか31か、久しぶりに俺もカフェオレアイスが食べたいしアリだな。

 

「別に良いけど、外に出る時は【変り身の首飾り】は付けろよ」

 

 はいは~い、と適当に返事をしながらルーメリアは他の従魔達の所へと戻って行った。

 

 その後の帰路も後ろから注意深く観察してると、ルーメリアはゴブタニをイジったり、エルランはドヤドヤしながらサブレに今日の武勇伝を語っている。見るからに、お互い不干渉スタイルで行くらしい。

 根本解決(なかよく)までは行かなかったが、別にそれで良い。学校や会社と同じで、土台皆仲良く出来るなんて思ってないしな。必要なのは嫌な奴とも上手くやる術を身につける事だ。そう言う意味では、不干渉も一つの術だと言えよう。

 

 今思うと人間教育って不思議だよな。人間は日本で教育を受ける過程で、基本的に皆仲良くを教え込まれる。言わば、教育と言う名の洗脳。

 なのに令和になった今でも、イジメ、年収差別、争いは存在する。

 そんな愚かしい人間に比べて従魔は最高と言える。多少の悪戯をしてくるのは玉に瑕だが、明確な背信行為はしないし、俺なんかの為に戦ってくれる。まぁそれは、俺がマスターとして衣食住を与えると言う責務をきちんと果たしてるからなんだけどね。

 言ってしまえば、家族関係となんら変わらない。親がちゃんと責務を果たすから、子がある程度の信頼を寄せてくれるだけの事。

 とりあえず、発現したジョブが従魔士で本当に良かったと思う今日この頃です。

 

♢ ♢ ♢

 

番外編:破壊力抜群なASMR

 

 現在、俺はルーメリアが一方的に押し付けてきた音声データを編集するべく、作業を開始した。

 ヘッドホンを装着。開始ボタンを押すと、音声が流れてきた。

 

『雑ぁ魚♡ 雑ぁ魚♡ ざこざこマスタ~♡』

 

 開始一分も経たない内にストップボタンを押した。

 え、何これ、ご褒美的なやつ? 俺にこのメスガキボイスのクソウザデータをどうしろと? 

 これを聞いて俺に興奮しろとでも言うのか。生憎と俺はメスガキに強い耐性がある。ほら、いろはすと小町ってメスガキみたいなモンだっただろ。昔アイツらにどんだけコキ使われたと思ってるんだ。

 

 途方にくれてると、魔王(メスガキ)からラインが送られてきた。

 

ルー:言い忘れてましたが、その音声データでASMRと言うのを作ってYouTubeに上げて欲しいですわ

 

 同じ屋根の下にいるんだから直接言いに来いよ。どんだけ現代化が進んでんだよ、あのヴァンパイア。スマホ一つで何でも出来ると思ってるアホなインフルエンサーかよ。アイツその内、詐欺広告とかに騙されそうだな。

 

 そもそも、ASMRって何だよ。作業用BGMの印象しかねぇぞ。

 ASMR素人の俺はググる事にした。

 ググった結果ASMRと言うのは、人が聴覚や視覚への刺激によって感じる、心地よさやぞくぞくする快感などのことで、主に聴覚で得られる体験を指すらしい。正式名称は『Autonomous Sensory Meridian Response(自律的感覚絶頂反応)』との事。

 

HH:おい、こんなの特殊性癖な奴しか聞かないぞ

 

ルー:マスターみたいな?

 

HH:至ってノーマルなんだけど。お前さては痴女だな

 

ルー:痴女になるのはマスターの前だけですわ♡

 

 もう無視しようかなコイツ。

 だが、無視を決め込んでもルーメリアのメッセは続いた。

 

ルー:どう考えても鎌谷幕府の視聴者なんて特殊性癖ですわ(☝ ՞ਊ ՞)☝ウェーイ

 

ルー:このASMRを出せばミリオン再生間違い無しですわ(☝ ՞ਊ ՞)☝ウェーイ

 

ルー:急上昇ランキングも狙えますわよ(☝ ՞ਊ ՞)☝ウェーイ

 

ルー:小町も応援してますわ(☝ ՞ਊ ՞)☝ウェーイ

 

 早い、マジで早い、どんだけ文字打つの早いんだよこのヴァンパイア。由比ヶ浜といい勝負だぞ。

 

HH:ウェイウェイうるさい。戸部かよお前は

 

ルー:戸部!? どこの女ですの(°ㅂ°ꐦ)

 

 あっ、そう言えばコイツって戸部の事知らないわ。

 

HH:トベキンTVの戸部だよ

 

ルー:あー、あのベーべーうるさいYouTuber。たまに面白いですわよね

 

 通じちゃうのかよ……。てかトベキンTVの視聴者だったのかよ。

 

ルー:一番コラボしてみたい相手は鎌谷幕府、と言ってましたわよ?

 

 マジかよ。戸部とコラボとかイヤだ。速攻でヒキタニバレする自信しかない。って俺はヒキタニじゃねえよ。

 

HH:コラボは拒否るとして、ASMR動画は作っておくわ

 

 作らないと永遠に下らないメッセが来そうだしな。

 

ルー:拒否が早いですわ!?

 

 作業に集中出来ないので、スマホの電源を落とした。

 再びプレイボタンを押して、ボイスデータを聞く。

 

『雑ぁ魚♡ 雑ぁ魚♡ ざこざこマスタ~♡ 従魔に頭が上がらない雑魚マスタ~♡』

 

 ムカつくけど、この部分はOK。っつーか、メスガキボイスのASMRとか本当に再生数伸びるのかよ。

 リスナーの奴らにルーメリアのマスターになった気分でも疑似体験させる狙いか。確かに分からせたい欲は刺激出来るかもな。いや、分からせたい欲ってなんだよ。そんな欲、一部の特殊な人間にしか備わってねぇよ。

 

『雑ぁ魚♡ 雑ぁ魚♡ ざこざこマスタ~♡ ルーたんに血を吸われて喜んでるドMマスタ~♡』

 

 これは……分からせたい。お前にあげる血なんかねーよ、と言って分からせたい。

 うん、この部分もOKだな。

 

『雑ぁ魚♡ 雑ぁ魚♡ ざこざこマスタ~♡ いつもダンジョンで足手まといの弱弱マスタ~♡』

 

 悪かったな足手まといで。いつか分からせてやるからな。

 

「……っは!?」

 

 これが、分からせたい欲!? 危ない所だった。あと少しでメスガキボイスの虜になる所だったぞ。

 ここまでの中毒性があるとは……。よし、心を強く持とう。

 だが、強く持った心は直ぐに砕かれた。

 

『雑ぁ魚♡ 雑ぁ魚♡ ざこざこマスタ~♡ ルーたんの中に直ぐ出しちゃうマスターの雑魚チ○コ~♡』

 

「噓つけあのエロメスガキィッ!!」

 

 俺が一体いつナニを、ルーメリアのナニに入れたんだよ! この部分はカットだ、カット。

 にしても、とんでもないメスガキだ。これは隅々まで確認した方が良さそうだな。危ないセリフが入ってたら炎上しちまう。主に俺が。

 

 それから俺は、見事に分からせたいと言う欲に駆られながら、メスガキASMRの編集と確認(カット&チェック)の作業を続けた。

 

『えーとね、えーとね、声入れるね! 雑ぁ魚♡ 雑ぁ魚♡ ざこざこあるじ様~♡  いつもタマエの尻尾をモフモフしてくる変態あるじ様~♡』

 

 タマエ……何で、お前までボイスデータを提供してるんだ。

 でも、この……このメスガキは持ち帰りたい! 

 認めよう、俺はメスガキに屈してしまった。でも言い訳ならある。あの比企谷八幡(シスコン)が妹キャラに勝てる訳ないだろ。なんなら自分にルビを振っちゃうぐらいには俺は心から屈してしまったのだ。

 て事で、この部分はOK!

 

『雑ぁ魚♡ 雑ぁ魚♡ ざこざこあるじ様~♡  えーとね、いつもいつも甘やかしてくれるあるじ様が大だ~い好き~♡』

 

「グハッ!」

 

 恐るべしタマエちゃん。もはや罵りたいのか甘えたいのか分からないギャップ構文だが、もうタマエなら何でもアリだ。

  

『雑ぁ魚♡ 雑ぁ魚♡ ざこざこあるじ様~♡  淫乱黒髪巨乳生徒会長JKのAVを見てるクソあるじ様~♡』

 

「…………HAHA」

 

 有り得ない情報が聞こえてきたせいで、乾いた笑いが零れ出た。

 なんで俺のパソコンにある隠しフォルダーのコレクションの事を知っているんだ。何重ものロックを掛けた筈なんだが……。大体、クソなんて汚い言葉をどこで覚えたんだ。お兄ちゃん色んな意味で泣きたくなってきたよ。

 うん、この部分はNGだな。

 

 タマエの部分も10分以上続き、残る再生時間は5分となった。どうせ締めはルーメリアだろ。トンデモ発言が出ない事を祈ろう。

 構えてると、想像もしなかった人物の声が聞こえてきた。

 

『お兄ちゃん? 最初に言っとくけど、小町はルーちゃんに手伝ってくれたら、お兄ちゃんがバイト代払ってくれる、って聞いたからやるんだからね?』

 

「は?」

 

 噓だろ、俺のリアル妹である小町(27歳)の声だ。バイト代って何だよ。ルーメリアの奴、そもそもギャラいくらで交渉したんだよ。

 あいつ小町の趣味が貯金だって知ってんのか? 悪く言えば守銭奴。あー、これは確実に高くつくわー。いくら俺が小町大好きフリスキーだからって、ないわー。リアル妹のメスガキボイスに金払うとか、どんなお兄ちゃんだよ。

 

『雑ぁ魚♡ 雑ぁ魚♡ ざこざこお兄〜ちゃん♡ 他の男に妹を取れた雑魚お兄~ちゃん♡』

 

「グハッ!」

 

 八万ポイントものダメージが入ってしまった。

 クソッ! オノレ大志の野郎、よくも俺にBSSしてくれたな。アイツにはいつか面と向かって『お前に兄と呼ばれる筋合いは無い!』と八万回ぐらいは言ってやるからな。

 

『雑ぁ魚♡ 雑ぁ魚♡ ざこざこお兄〜ちゃん♡ 小学校と中学合わせて20人以上に振られたダメダメ非モテお兄~ちゃん♡』

 

「ファッ!?」

 

 そうだ、相手はリアル妹。俺の黒歴史を誰よりも間近で見てきた人間だ。ルーメリアの奴、とんでもない小町(フィニッシャー)を召喚してくれたな。

 

『雑ぁ魚♡ 雑ぁ魚♡ ざこざこお兄〜ちゃん♡ 中学の時に渋谷凛のポスターに毎日朝チューしてたごみい~ちゃん♡』

 

「やめろぉぉぉぉぉぉおおっ!」

 

 何で小町が知ってんだよ!? え、あれ全部見られてたの? やっべ、今すぐにガソリンの掛かった毛布に包まって火を付けて焼身したいんだけど!

 

『てことで3万円振り込んでおいてね、雑魚お兄~ちゃん♡』

 

 27歳の妹によるメスガキボイス3回で3万円。今の俺からしたら安いが、庶民感覚で言えば高い。妹よ、ボリ過ぎだぞ。まあいいや、ここは大人の余裕(マネーパワー)と言うやつを見せてやるよ。ククッ

 

 これで20分に及ぶ音声を全て聞き終えた。勿論、小町の部分は全てカットして、別ファイルに保存。俺の目覚まし用の音声にしてやる。

 

「はぁー……編集するか」

 

 このままYouTubeに投稿してもASMRとは言えないので、音声を上手いことリピートさせて2時間ぐらいのデータにしなければならない。加えて画像も必要だ。画像は適当にロリだった頃のルーメリアとタマエのツーショットを使えば良いか。

 

 結局俺がデータを完成させて、YouTubeに投稿出来たのは夜中の2時。

 因みに『【ルーメリア】メスガキボイスASMR【タマエ】』と言うタイトルで投稿した。

 

 一仕事を終えて、俺は軽めのシャワーを浴びた。

 

「やっば……」

 

 浴室から出て、動画のコメント欄を確認したら大量のコメントが書いてあった。

 

:なんちゅうASMR出してんだよwww

:これは分からせたい!

:ルーちゃんのメスガキASMR最高!

:気づいたらワイの目覚まし音声になってしまった

:これが嫁ニキを疑似体験すると言う事かwww

:タマエちゃんの部分を永遠とリピートなう

:さっさと配信しろよ嫁ニキ

:俺達幕臣からしたらこのASMRはご褒美

:このASMRは作業が……はかどらないwww

:性癖に刺さりました

:パンツ溶けました

:これが嫁ニキの性癖って事でOK?

:俺も雑魚って罵られたい!

:なんだこの悪魔的なASMRはwww

etcetc……

 

 リスナー諸君、俺の趣味じゃないです。ルーメリアの持ち込み案です。

 そして、気づけば再生回数が10万を優に超えた。

 このペースなら明日にはミリオン行くな。行って欲しいかと問われると微妙だけど。

 やはり、この世の中には思ったより変態が多いようだ。




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