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12月31日と言う1年の締め日に、由比ヶ浜が夫と住んでる普通より大きめな一戸建ての家に着いた。呼び鈴を押すと、野生のたゆんたゆんな人妻ヶ浜さんがピッチピチなグレーのセーター姿で現れる。真面目に人妻ヶ浜って苗字ありそうじゃね?
「やっはろー! ニッ……ヒッキー!」
おい、今ニッキーって言いかけたよなこの人妻。色々と気になったので、表札の方に目を向けると横浜と書いてある。
推察するに現在、由比ヶ浜の姓は横浜と言う事になる。感想としてはランドマークがありそうな都会っぽい苗字だなと。まさかシティーガールになってたとは。これからはガハマでは無く、ハマさんと呼ぼうかな。やっぱガハマの方がカッコイイし、強そうだ。
「よぉ、久しぶりだな。横浜さん」
「唐突な他人行儀!? 馴れないからいつも通りで呼んでよ」
「……ガハマ」
久しぶりにそう呼んだからか、由比ヶ浜は意外そうに目をパチクリさせている。
「あー、裏でそう呼んでる感じ?」
「俺が陰口言ってるみたいに言うなよ」
「でもヒッキー、普通に陰口とか言いそうじゃん」
「フッン。まず俺の陰口を聞いてくれる相手なんて、従魔ぐらいしかいないな。そもそも、陰口を言うぐらいなら恨みつらみを込めてノートにそいつの名前を書くね」
「陰湿でデスノート方式!? しかも超ドヤ顔!?」
昔と変わらず良いリアクションをとってくれる由比ヶ浜。コイツのこう言うリアクションを見ると、なんだかノスタルジックな気分になる。良い意味でな。まぁ青春の1ページとう言うやつだ。青春とは噓であり、とか言ってた俺が青春の一ページとか超ウケルー!
「所で、ここだとアレなんだが……」
俺の言いたい事が伝わったのか、玄関に上げてくれた。
もう玄関からして広い。加えて新築の独特の良い香りが鼻腔をかすめる。
「なぁ、旦那さんはいるか? 一応ちゃんと挨拶したいんだが……」
正直気まずくて仕方ないが、間男と勘違いされない為にもちゃんと挨拶しときたい。
「それがね、はー君もヒッキーと会うの楽しみにしてたんだけど、急な仕事が入っちゃって……」
その楽しみって、俺をぶっ飛ばすのが楽しみって意味じゃないですよね。
「そ、そうか。それは仕方ないな……」
て事は俺は今、奥さんが一人で留守番してる家に上がってるのかよ。これがエッな企画モノなら『グヘヘ、一人の時に男をあげるなんて、不用心にも程があるぜ奥さんよぉ』とか言いながら背徳的なエェッが起きるに違いない。
エッな妄想は置いといて、俺は持ってきた手土産を空間収納から取り出して、由比ヶ浜に渡した。
「別にいいのに。でもありがとうね、ヒッキー」
これでも社会人としての一般常識は持ち合わせてるつもりだ。いい大人が人様の家に赴く時は立場とか関係無しに、軽めの手土産を用意した方が印象は良い。因みに、渡したお土産は千葉県民なら誰しもが大好きなピーナッツ最中である。
「ヒッキーのその……くうかんケース? 引っ越しとかで便利そうだね!」
「空間収納な。しかも考えつく使い方が引っ越しとか、お前いい奴だな」
「え? 荷物を運ぶ以外にあるの?」
「もっとあるだろ。夜な夜なマンホールの蓋を盗みまくってスクラップ業者に売るとか、人様の車とかバイクを盗んで、解体してから部品を売るとかな。なんなら危ない薬を運ぶのにも便利だぞ」
「ヒッキー…………」
ドン引きしている。由比ヶ浜は小さく「うわっ」とか言いながら後退ると、何故かスマホを取り出した。
「やめろ由比ヶ浜。思いついただけで、やってないからね? だから通報すんな!」
慌てて説得をすると、どうにか由比ヶ浜はスマホをしまってくれた。
あっぶね。あともちょいで、あらぬ容疑をかけらる所だったぞ。ただでさえSNS上で、
「良かった〜、なんかヒッキーが言うとリアリティって言うの?があるんだもん」
どんだけクズだと思われてんの俺。いやまぁ、確かに昔からクズ発言とかクズな行動を散々したきたけどさ。なんなら現在進行系で世間に対して、いつか発生するスタンピードの事に関しての情報提供もしてないしな。あ、やっぱクズだわ俺。
昔馴染みの世間話も楽しいが、俺にも小町を回収して実家に戻ると言う予定があるので、ここに来た目的を果たすか。
「来い、モンスターブック」
モンスターブックを呼び寄せて、最近進化したサブレの凛々しい絵をタップして召喚。
「ワウン? ……ワンワン!」
「あ! サブ、ぶぉおぶぉお!?」
サブレは由比ヶ浜を視界に入れると、会えた事が嬉しいのか、のしかかって顔を舐めまくっている。
後ろから見てると、狼に狩られてる可哀想な人間にしか見えないぞ……。
「どーどーどーサブレ、お座り。あー、由比ヶ浜がベチョベチョになっちまったな」
サブレを由比ヶ浜から離して、お座りさせる。由比ヶ浜を立たせて、俺はタオルを渡した。
顔面ベチョベチョな人妻ヶ浜さんにちょっと興奮したのは、ここだけの話な。
「サブレ、本当に大きいなイケメンさんになったんだね! 偉いねサブレ!」
褒めながらサブレをモフりまくる由比ヶ浜。
何が偉いのか良く分からないが、こんなに大きくなってもサブレを受け入れてくれて本当に良かった。『こんな怖い魔物サブレじゃないもん……』とか言われたらどうしよかと思ったぞ。
ほっとした俺は、空間収納から大量の豚肉とか牛肉が入った袋を取り出し、玄関に置いた。
「わー、お肉いっぱいだ!」
「あと、これも。食後に5個食わせてやってくれ」
由比ヶ浜に魔石が入った麻袋も追加で渡す。これがないと勝手に、どこかのダンジョンへGOするかもしれないからな。
「って、ちょっと待てて。お金払うから」
慌てて財布を取り出そうとする由比ヶ浜を、俺は必要ないと言って制した。
「でも……」
「本当に大丈夫だ。肉はサブレが倒した魔物の素材を売って稼いだ金で買ったし、魔石はサブレが倒した魔物のなんだ」
ちょっとオマケしたけどな。
「凄い! サブレ超強いね!」
「だろ? サブレの稼いだ金で食う飯は超美味いぞ」
「ダメンズ発言!?」
「何言ってんだよ。従魔士なんだから、従魔のヒモになるぐらいで丁度良いんだよ。こっちは衣食住を提供すれば、それでトントン」
余裕があれば娯楽と教育もだな。最近なんて、うちのヴァンパイアは娯楽一色だけどな。インフルエンサー気取りなのか、自撮りをXに上げだしてるし。本当にしくじった、スマホにSNSの使用規制をかけるべきだったと後悔してる。
「んじゃ、2日後にサブレを迎えに来るから」
「あ、待って、ヒッキー!」
行こうとしたら呼び止められた。
どうした、と疑問を投げたら、気まずそうに彼女は口を開いた。
「えーと、ゆきのんとはどうなったのかな〜、って……」
そう言えば、由比ヶ浜には感謝のLINEを送っただけで、結果報告をしなかったな。にしても、横浜さんになっても由比ヶ浜は相変わらず由比ヶ浜だな。恋愛に興味津々なのが、本当に由比ヶ浜だ。
「あー、あん時は色々ありがとうな。こんな事言うのマジっべーって感じだけどよ……」
どう言いえば正解なのか、俺は迷ってしまい口ごもってしまった。
素直に復縁しましたと言って良いのか……。ちょっと、いやかなり照れくさいんだけど。
「なんで急にとべっち!? もしかして、ゆきのんに殴られたり……?」
殴られたってより、良いビンタは貰ったな。うん、これからは話し合いの途中で逃げるのはやめよう。
「まぁビンタは貰ったな」
「あー……ビンタで済んだんだ」
いやいや、済んだって何だよ。もっとヤバイ予想してたのかよ。俺ってそんな殴られキャラだっけ? そう言えば、よく平塚先生から愛の鉄拳を貰ってましたね。
「まーその、なんだ、これからは三人でたまに飲みに行けるな。俺がダンジョンで死ななきゃだけど」
恥ずいから遠回しに言うと、由比ヶ浜がわーって一瞬だけ目をキラキラさせたが、すぐに不満気な表情になった。
「もー、最後ので台無し! 本当になんでそんな縁起の悪い事言うの! そう言う所マジでヒッキー」
oh……。プンプンしちまったよ。
「仕方ないだろ。こんな事言うのスゲェ小っ恥ずかしいし」
「でさでさ、従魔達の事はちゃんとゆきのんに言ったの?」
「…………」
痛い所を突かれた俺は、プイッと顔を背けた。すると由比ヶ浜は「うわっ……」と声を漏らす。はい、今日で二回目のドン引きを頂きました。
「ねぇヒッキー、もしかして……本当にはーれむだっけ? がしたいの?」
「ちげぇよ。配信してるのが恥ずかしくて言えなかったんだよ。ロリコン野郎の嫁ニキです、とか雪ノ下に言えないだろ」
何がハーレムだ、中学生の妄想じゃあるまいし。いやまぁ、雪ノ下に知られて幻滅されたらどうしよとか思って、チキったてのは少なからずあるが。
まだどこか腑に落ちてない由比ヶ浜は質問を続けてきた。
「て言うかさ、メリメリとタマエちゃんは納得したの? なんか、メリメリとかキレそうだけど……」
「そこはまぁ穏便に何とかなった。てか、従魔は家族枠だからな」
トゲトゲした薔薇に囲まれながらの、穏便な家族会議。ブチギレたルーメリアの穏便な家出。短剣を使ったタマエとの穏便な仲直り。本当、何もかもが超穏便だったわ。やっべ、思い出すだけで胃が痛くなりそうだ。
「ヒッキーが刺されないか心配……」
「マジそれな。本当それな。今生きてるのが超奇跡」
「奇跡なんだ!?」
由比ヶ浜がリアクションを取ってる隙に、気になったので時間を確認した。もう10時になっている。小町との待ち合わせは10時半。そろそろ由比ヶ浜とは、お別れを済ませるとするか。
「おっと、そろそろ小町を迎えに行かないと。それじゃ、2日後に来るからよろしく。お前も、いい子にしてろよサブレ」
「うん、またねヒッキー! 今度は三人で飲み行こうね」
「ワウーン♪」
最後にサブレの頭をモフりまくってから俺は由比ヶ浜の家を出て、小町の住んでるマンション近くの駅へと車で向かった。
♢ ♢ ♢
小町を拾って、走行車の中で兄妹仲良くざっくばらんに話をしている。因みに雪ノ下との復縁と、それに付随した従魔の話を初手から聞かれた。なので、正直に話したら由比ヶ浜と同じ反応をされたよ。
「そう言えば聞いてよ、ハーレム狙いのごみぃちゃん」
「ちょっと小町ちゃん? お兄ちゃんは雪ノ下としか付き合ってないんだけど? そもそもハーレム出来る程の甲斐性無いんだけど」
「うわっ……そこまでダメンズに堕ちるんて、小町軽くショックだよ」
その由比ヶ浜と同じ反応やめて。マジでやめて。なに、いっその事開き直ってハーレムウェーイした方が良い感じだったりするの? それ間違いなくゆきのんが、おこのんになっちゃうからね? 一撃必殺の絶対零度でやられちゃうからね!
「お兄ちゃんはさ『俺にとってお前らは大事な家族だぜ』キリッ、ってキモ顔しながら臭い台詞で収めたつもりかもしれないけど、ルーちゃんとか絶対諦めてないよね?」
「いやまぁ、そこは今後とも家族として説得していきます……」
「しかも雪乃さんには内緒にしてるし。傍から見たら、ハーレム狙いのクソ野郎って思われても仕方ないと思うよ?」
妹の容赦ない言葉が、俺の胸に突き刺さっていく。
小町の言う通り、一番問題なのは交際相手の雪ノ下に真実を隠してる事だ。従魔達には言ってはいるが、タマエとルーメリアは開き直ってるのか、はたまた家族の意味を拡大解釈してるのか、隙あらばベタベタしてくる。確かに傍から見たらハーレム野郎だな。
「でもよぉ小町。雪ノ下に、俺って実は配信者で可愛い従魔達と住んでだよ〜、とか言えないだろ」
「そこはもう説得あるのみだよ、お兄ちゃん! いっその事、さっさと雪乃さんに決め顔で『異性として好きなのはお前だけさ』とか言いながら、結婚指輪でも渡したら? 安心するだろうし」
「復縁したばっかで、結婚はまだちょっと……」
そんな情けない事を言う俺に、小町は冷たい笑顔を向けてきた。
「じゃあ、もう大奥御殿の建設は確定だね、お兄ちゃん♪」
何だよ大奥御殿って。どこの殿様だよ俺は。源義経なんだけど。どちらかと言うと、最後にヤラかして殿様から指名手配されるような武将だぞ。本格的にヤバくなったら岩手県の平泉に逃げるのも手だな。
「はぁ…………考えただけで胃がキリキリする」
「だって変な所でチキってるお兄ちゃんが悪いんじゃん。まぁ小町的には、お兄ちゃんが幸せになってくれれば何でも良いんだけどね。あ! 今の小町的にポイント高い!」
と27歳のアラサー妹がポイントとか言い出してます。最後のがなければ本当にポイント高かったよ。そろそろ高いポイントより、高くなっていく年齢を気にして欲しいものだ。やれやれ。
「あ、そう言えばさっきの話の続きなんだけどさ。小町ね、大志君と籍いれたから5月か6月ぐらいに結婚式をあげるね~♪」
「そうか、おめ…………は? はぁ? はぁぁぁぁぁああっ!!??」
あまりにも衝撃的な事実に、俺の脳内CPUがバグり散らかした。これがBSSによってもたらされる
「ちょっとお兄ちゃん? はぁはぁ煩いんだけど。もしかして発情期?」
「小町が結婚……俺はもうお兄ちゃんじゃない……俺は誰のお兄ちゃん……オレワダレ」
「なんかお兄ちゃんがバグってる!? 大丈夫だよお兄ちゃん、小町はずっとお兄ちゃんの妹だから! あ! 今のも小町的にポイント高い!」
「うん、八幡的にはポイント低いけどな。でもアレだ、小町のウェディングドレスが見れると思えば、ポイントはプラスかもな」
「も~、相変わらず捻くれてるだんから~」
小町のありがたい言葉を貰えるのも今後減るんだろうな~、とか思いながら運転を続ける。
従魔の話やら、大志の話を面白可笑しく話してたらしてたら、気づけば実家近くの有料駐車場に到着。
さて、両親にダンジョン探索者になった報告をするとしますか。あと親父に年収マウントを取らないとな。ククッ
♢ ♢ ♢
昔変わらずの実家の雰囲気。大して変わらない家具の配置。意外だったのは自分の部屋ですら大して変わってなかった事だ。なんなら埃もそんなに無かったぞ。まさか定期的に掃除してくれてたとは。てっきり物置小屋にされてるかと思ったぞ。やっべ、ちょっと泣きそう。
昔に比べて国が働き方改革にうるさくなったせいで、社畜社員の両親と言えども年末年始は運良く家にいてくれた。国がうるさくなったのもあるだろうが、両親がある程度出世して末端社員じゃなくなったのもデカイんだろうな。その分責任は重くなったと思うが。
そして現在、俺は両親──白髪交じり且つボサボサ頭の目が腐った父親と、昔より皺が増えた小町似の眼鏡を掛けた童顔なお袋を前にリビングテーブルの席に着いている。その両親と言えば、俺が柄にも無く「真面目な話がある」と言ったせいで、若干困惑気味だ。
正直に言うか迷ったが、こんな俺を良い大学まで行かせてくれたのは両親だ。なのに俺は、学歴なんて一切意味をなさない3K(キツイ、汚い、危険)と言われるダンジョン探索者になっちまった。なので、最低限の義理を通すべきだと俺は判断した。
「ねえ八幡。アンタ、さっきから黙ってるけど何かあったの? それになんか、体格良くなってない?」
「アレだろ、例の外国人の美人局にあったから金を借りたいんだろ? 300円ならいいぞ」
このケチなクソ親父め、ゴブタニの餌にしちゃうよ? 300円貸すぐらいならくれよ。てか借りパクすんぞ。
親父の茶化しは置いといて、俺はゆっくりと息を吐いてから言葉を発した。
「実は、な、なんっつーか……今探索者をやってんだよ俺。だから、その……なんかワリィ」
思いの外なんとなく恥ずかしくて、とりあえず会釈みたくペコっと頭を軽く下げる俺。対して両親は、豆鉄砲をくらったような顔をしている。
「ねえ小町、私もう歳かしら。アンタのバカ兄貴が、探索者になったとか言ったように聞こえたんだけど」
いやお袋、何でそこで小町にパスが行くんだよ……。
「おい母さん。今更歳も何も、お前はもうおばあ──」
「黙ってな」
「──いった!?」
見事に良いエルボーが親父の腹に入り、悶絶しだした。ククッ、ザマァクソ親父。
親父を嘲笑っていると、俺の横にいる小町が目の前の2人に補足しだした。
「ねぇねぇ2人共。小町も最初は信じられなかったけど、お兄ちゃん立派な探索者だよ。しかも年商1億越えの」
「はい? 八幡が億……?」
「この前リストラされた愚息が……一億だと!?」
「ごめんな、社畜の親父より収入が高くて。もう一回言うわ、親父より高収入でごめんな」
ヒャッホーイ! 念願だった年収マウントを親父にカマしてやったぜ!
だが余りに信じ難いのか、親父の表情は渋いままだ。あとお袋も。
あれ? もっと驚いてくれると思ったんだが……。
「ねえ八幡。お母さんね、アンタにそんな危ない事をして欲しくないんだけど。大体、その大金を稼いでる俺カッコイイみたいなのカッコ悪いからやめな。それともその恥ずかしい自慢、他でもしてんの?」
えー、まさかの説教モードですか。てっきり「あんたが本気なら応援するよ」ぐらいで終わるかと思ったんだけど……。
「してないけど……でも、現代日本は資本主義であって、それに則って言えば稼げてる俺は偉くてカッコ、」
「八幡?」
これ以上言わせるな、と言いた気な恐ろしい雰囲気で屁理屈を止められた。
「お、俺が悪かったですボス……」
やはり世の中には母ちゃんより強い息子はいないようだ。
「今のはお兄ちゃんが悪いよ。こんな真面目な雰囲気を作っておいてさ」
溜息混じりで指摘してくる小町。
そうだな、今のは俺に落ち度があったな。飲み会とかふざけた場でやるなら兎も角、真面目な雰囲気でマウンティングをするのは痛い行為だったわ。
「で、八幡? あんた折角千葉大を卒業して高学歴なのに、何で死亡率が一番高い探索者な訳? お金を沢山稼ぎたいだけならコンサル業界や金融業界とかの成果主義の会社じゃダメなの? 正直言って、お母さんは賛、」
「母さん、ここは俺に任せてくれ」
悲痛な表情で他の職業を俺に勧めてくるお袋を、親父は制した。
知っているつもりでいたが、少しばかり世間様の探索者への評価を舐めていた。まあ無理もない、小町が探索者をやるとか言い出したら俺でも怒るし、止めるわ。うん、超本気で止めるね。
「なあ八幡。一億以上稼いでるってぐらいだから、本気で探索者をやってるんだな? 単に稼げるって理由で、イヤイヤやってる訳じゃないんだな?」
親父は静かに、それでいてこちらの真意を測るように問い掛けてきた。親父もシリアスモードかよ。親父が愚息じゃなくて、八幡呼びして来る時は大抵シリアスモードのときだ。
「ああ、本気だよ。俺がこんな事言うの柄じゃないし、恥ずかしいんだけどよ……守りたい家族がいて……それでその、仕方なくとか、イヤイヤとかじゃなくて、前向きにダンジョンアタックして冒険して、成長していくのが楽しくなってきたっつーか、なんて言うか……まあ、そう言う感じだ」
「なぁ母さん。あの八幡が前向きに、とか言い出したぞ……」
「きっとダンジョンで頭を打ったんだわ……」
えー、こっちもシリアスモードに合わせたのに、言い草が酷い。今でも後ろ向きだと思われてんのかよ俺。流石の俺もいい歳だよ? 後ろに向かって走るは得意だけどよ。でも今の八幡は、今までで一番のポジティブ幡だよ? ポジティブレベルがマイナス10からマイナス1になっただけど。結局マイナスのままかよ。
「おい小町、2人になんとか言っ……て、何でお前は涙ぐんでんの?」
「あのお兄ちゃんが、成長するのが楽しいなんて……小町超感激だよ!」
そんなんで喜ばれるお兄ちゃんは超微妙だよ!
「あんたが似合わない台詞を、そこまで言うなんて驚いたわね。イヤイヤじゃないのも分かった。で、守りたいって家族って誰? てか、今日ルーメリアさんを連れて来る約束じゃなかったの?」
「ルーメリアには会わせるけど、母ちゃんが思ってるような関係じゃないからな」
「ん? どういう意味なの」
「まぁ先ずは俺のスキルを見てくれた方が早い。……来い、モンスターブック」
モンスターブックを呼び出すと、小町と俺以外がポカーンと口を開けて間抜け面を晒している。なにその顔ちょっとウケルー。
ここはカマクラの元気な姿をみせてやるか。なので、カマクラの絵をポチっとな。
「ニャー……ニャニャ!」
訳:ここは実家……ママニャー久しぶり!
愉快に、お袋に手を振るカマクラ。対してお袋は直ぐにカマクラだと認識したようで、あららと感動している。お袋はカマクラと仲良しだったもんな。
「お、おい八幡!? な、なな何だこの熊は!?」
親父はカマクラだと気づいてないようだ。ほら小町なんか親父に対してポイントが低いのか、溜息ついてんぞ。いやー親父、気付かないのは本当にポイント低いぞ。ちょっとだけ悪ノリしてやるか。ククッ
「大丈夫だぞ親父。そいつ気のいい奴だから」
「ほ、本当か……?」
怖がっているが、好奇心が勝った親父はカマクラをベタベタ触りだした。しかも触り心地が良いらしく、モフりだしたぞ。
「みゃーん」
訳:コイツ、ご飯くれなかったから嫌い
「は!? な、なにすんだアホ熊! いってて! 八幡やめさせろ!」
そしてカマクラは親父に、十字固めを極めだした。ダメだろ親父、アホとか言っちゃ。あと熊じゃないぞ。
やはり食べ物の恨みは恐ろしい。カマクラの言い分だと親父はあまりカマクラに飯をあげなかったんだろうな。
「「「親父(お父さん)(あなた)ポイント低ーい」」」
とは言っても、これ以上は親父の肩が外れかねないので、そろそろヤメさせよう。
「おーい、カマクラ。これやるよ」
カマクラに空間収納から取り出した猫飯の缶詰を見せると、あっさりと親父をポイして缶詰を受け取った。
そんなカマクラに小町は興奮した様子でナデナデしている。
「いてて……てか八幡、今カマクラって言わなかったか?」
「だから、本物のカマクラだって。若返って進化したんだよ」
信じられない様子の親父は口をパクパクと震わせながら、カマクラの方をガン見する。
「か、カマクラが若返ってる!?」
そして、俺が当初ビックリ仰天し過ぎて口走った台詞を大きく叫びだしたのである。
あー、やっぱ俺コイツの息子だわ。
♢ ♢ ♢
驚き震えあがる親父をどうにか落ち着かせてから、俺が探索者になるまでの経緯、なってからの経緯、全てを端的に話した(滅びた異世界の事以外は)。
視界の端でカマクラの方を見てみると、ソファーでゴロニャーしていた。アイツは当事者なのに、お気楽で良いよな。
「もうどこにツッコんでいいのか分からん……」
「まさかルーメリアさんがヴァンパイアだなんて、まさかよね、有り得ないよね……」
「お兄ちゃんさぁ、もう動画見せちゃえば? このままだと2人とも、息子の妄想癖なんじゃないかって思っちゃうよ?」
まだ信じ切れない2人を手っ取り早く信じされる為の案を、小町が耳打ちで伝えてきた。
いやさぁ手っ取り早いけどさぁ、黒歴史ノートを見せるようなモンなんですけど……。親父とか間違い無く腹抱えて爆笑するぞ。なにそれ超ウゼェ。
「仕方ないか。小町、お前が言ってくれ。俺が言うのはちょっと恥ずい」
やれやれ。いつかは言うつもりでいたし、それが予定よりかなり早くなっただけだ。本来だと億以上の資産を貯めて、FIREしてから言うつもりだったんだけどな~。まぁ、先に動画を見せた方がいきなり従魔達を召喚するよりかは、驚きは少ないか。
「ねぇねぇ2人共、お兄ちゃんが言ってる事は本当だよ」
小町はスマホでYouTubeを起動して、これこれと見せ始めた。
「「プッ」」
おい、なんで二人とも噴き出してるんだよ。あー、親父が腹を抱えて笑い出したよ。ぶん殴ろうかな。
小町がどの部分を見せてるのか気になったので、見てみたら見事に修羅場シーンでした。自分の修羅場動画を両親に見られるとか、どんな拷問だよ。普通に死にたいんですけど。てか今すぐ死ねる。
「まさか、愚息がハーレムクソ野郎になってたなんて。うら……じゃなくてけしからん!」
おい、今このクソ親父の本音が漏れた気がするぞ。隣にいるお袋なんかジト目になってんぞ。
「アラサー愚息にモテ期が来るなんてね……。お母さん的にポイント高いわ」
お袋からポイントを貰うの千葉大に受かって以来だぞ……。こんなしょうもうない事で母ちゃんポイント貰えちゃうのかよ。別に欲しくないけど。
「……とりあえずルーメリアから紹介するわ」
問題が起きませんように、と願いを込めてルーメリアの絵をタップすると本から光に包まれた魔王が顕現した。
「うん? ここはどこですの?」
「えぇっ!? ルーちゃんが姉さんになってる!?」
そう言えば進化したの伝えてなかったわ。
「あ、小町ですわ!」
小町を視界で捕捉したルーメリアが、ルンルンしながら小町へと近づいて、たかーいたかーいしだした。その高い高いする癖どうにかならないのか。どんだけ
「わー! 小町的にポイント高い!」
えー、小町ェ。高い高いされるだけで、ポイントあげちゃうのかよ。俺もガキの頃良く高い高いしてあげたのに、くれなかったじゃん。何この敗北感。後で俺も高い高いしようかな。
「「おっふ……」」
ほら、俺の両親なんて目ん玉飛び出る勢いだぞ。無理もないけどな。見てくれだけなら、ルーメリアは幻想的な美しさを持つ絶世の美女だもんな。見てくれだけなら。はい、大事な事だから2回言いました。
「おいルーメリア、小町とユリユリすんのは後にしてくれ。そこにいる両親に挨拶してくれないか」
顎で両親の方に示すと、ルーメリアはゴホッンと気合いを入れるように咳をする。優雅な足取りでゆっくりと、それでいて自信の高さを感じさせる振る舞いで両親の前まで行って、女神のような笑顔で自己紹介をしだした。
「初めましてですわ母君、父君。会えた事を心の底から光栄に思いますわ。わたくしルーメリアと申します。マスターとは主従関係であり、加えて愛し愛される関係でもありますの。これからも末永くお願いしますわ」
そして丁寧にカーテシーで挨拶をしたルーメリアは、両親と握手をしだした。
誰だよコイツ……。俺マスターなのに、そんな丁寧な挨拶された事ないぞ。あと愛とか安易に使うなよ。愛の価値が下がっちゃうだろ。何より俺が恥ずか死んじゃうから。
「おっふ、パパと呼んで下さい!」
はい、親父が陥落しました。控えめに言ってジーマーでモイキーです。
てか親父、握手が長いぞ。あ、ボスの拳骨が親父の頭にクリーンヒットした。
「えーと、前に電話したルーちゃん……よね?」
「はい、そうですわ母君。あの時、母君の助言があったお陰でマスターが凄く喜んでくれましたわ、ふふっ♪」
いやいや、ふふっじゃねえよ。何コイツ平然といい笑顔で噓ついてんだよ。君あん時(27話)ダークマターを俺に食わせたよね? 俺を三途の川送りにしたよね? 危なく川を渡りきるとこだったんだからね?
てか何でお袋とそんな仲良いんだよ……。まあいいや、話し込んでる間にタマエを小町に紹介するか。
なのでラブリーでプリティなタマエルの絵をポチっとな。
「うん? あるじ様ここどこ?」
「わー! 生で見るとめっちゃ可愛い!」
小町の声に驚いたタマエがキャッと鳴いて、俺の背中に隠れてしまった。
「タマエ大丈夫だぞ。俺の妹の小町だ」
「あるじ様の……妹?」
「小町は小町、よろしくねタマエちゃん!」
「あるじ様の妹だから……コマお姉ちゃん!」
「グハッ!?」
はい、お姉ちゃんとか言われた小町がタマエの可愛さに陥落しました。しまいには、だらしない顔をしながらタマエの耳をナデナデモフモフしだしたぞ。このユートピアは写メっておこうっと。
「えへへ、コマお姉ちゃんとあるじ様の匂いが似てて落ち着く~♪」
「ねぇねぇお兄ちゃん、小町がタマエちゃんのこと養って良い? てか養わせて下さいお兄様!」
「いくら小町でもタマエは渡さないからな。でもお兄様呼びはグッときたから代わりにこれをやろう」
「そう言えばお兄ちゃんって、ファンに向けて阿漕な商売してたね……」
唐ヶ原さんから送られてきた新商品の試作であるタマエの尻尾ストラップ(原価100円、予定販売価格1000円)を空間収納から取り出して、小町にプレゼントした。うん、確かに利益率からして阿漕だ。でも、価格設定してるの唐ヶ原さんなんだよな~。
「いいか小町、信者と書いて儲かると読む。故に俺はアホな信者共に、正しく対応してるだけなんだよ」
「お兄ちゃんマジでその発言、炎上するから配信で言わないでね」
小町から小言を貰ってると、タマエがてくてくとお袋と親父の方に挨拶しに行った。
「ママ、パパ、タマエって言います。あるじ様のおよ……家族です。よろしくお願いします」
ペコっと可愛いく頭を下げるタマエ。
なんかちょっと挨拶があざとい。ママとかパパとか言ってる辺りが本当にあざとい。お嫁さんを計算した上で途中で言い直すのもあざとい。タマエちゃんそう言うのどこで学んでるのん?
しまいには、お袋なんて「孫が出来た!」とか歓喜しだしたんだけど。
「パパだと!? よし、タマエちゃんに一万円あげよう!」
「おいクソ親父、タマエに近づくな。一万円は俺が代わりに貰っておいてやるよ、ククッ」
クソ親父がパパ活に手を染める前に、俺が間に割って入ってやった。
「誰がお前みたいなハーレム野郎に一万円やるか! 羨ま死ね!」
「本音ダダ漏れじゃねぇかよ、禿クソジジィ!」
「は、禿クソジジィ!? リストラ社員め」
「ああ!? 万年雑魚雑魚な平社員だった奴に言われたくねぇ~」
「何だと? そう言えばお前、さっきはよくも年収マウントを取ってくれたな捻くれ愚息!」
「その愚息より年収が低いのが悪いんだろ。悔しいならダンジョンにアタックしてきたらどうだ?」
しょうもうない言い合いをしてると、次第にヒートアップしてしまい、気づけばお互いの頬を引っ張りあっていた。
「お゛あ゛ち゛を゛お゛お゛お゛え゛い゛!(小町を他の男に取られた雑魚親父!)」
「お゛え゛ち゛! あ゛お゛お゛お゛え゛い゛え゛!(それはお前もだろ! 雑魚兄貴め!)」
「バカ共いい加減にしな」
お袋の拳骨が互いの頭部に直撃して、醜い引っ張り合いが終わった。
「「いってて。母ちゃん(母さん)コイツが!」」
「ああ?」
「「なんでもないです……」」
何故か喧嘩両成敗となり、正座をさせられた。こんなの理不尽だ……。
「ねぇ、お父さんとお兄ちゃん。次喧嘩したら結婚式に呼ばないからね」
「「ちょっと小町ちゃん!?」」
小町のウェディングドレスが見れないとか、今日まで生きてきた意味無いだろ。てか親父だけ出禁にしようぜ。ただでさえ戸塚のウェディングドレスを見逃したのによ。アレ、戸塚はウェディングドレスだよな?
「おお、あの父子さっきから息ぴったしですわ」
「喧嘩する程仲が良いんだよお姉ちゃん」
「ニャー」
訳:汚ねぇ父子だぜ
お前ら……全部聞こえてるからな。こうなれば、もう従魔全員を召喚してやる。
開き直った俺は従魔全員の絵をタップした。
今更マスターの情けない姿を、従魔全員に見せた所で痛くも痒くもないんだからねっ!
♢ ♢ ♢
二日間マジで疲れた……。休む為に帰省したはずなのに全く休めなかったぞ。両親は孫が出来たかのよにタマエとルーメリアに甘々だし、俺とゴブタニと親父は小町の結婚式で使われる思い出写真を仕分ける作業をさせられるしで、冬季休暇とは?状態だったぞ。
悪い事ばかりでも無かったけどな。小町と神社行ったり、小町と高級な寿司屋に行ったり、小町とショッピングに行ったりとまぁ中々のブラザーライフを送れたよ。ああ、因みにお袋も『頑張って家族を養いさい』って探索者を認めてくれたわ。
そして現在、俺は両親との湿っぽい別れの挨拶を回避したいから、朝早く実家を出ようとしたら玄関で問題が起きた。原因はエルランだけど。
「ギミィ! ギミィ!」
訳:イヤだ! マイハニーと離れたくない!
この通り、エルランが玄関で駄々をこねだしてモンスターブックに入ってくれないのだ。しかも理由が、小町に優しくされて惚れたから帰りたくない言う憐れな理由だ。
「何言ってるか分からないけど、またねエル君!」
小町はエルランに手を振るが、エルランは小町の足元から依然として離れようとしない。
「ギミィギミィ、ギミィ!」
訳:俺は二番目で良いから、小町の人生を歪める権利を俺にもくれ!
「おいバカ! もう帰るぞ」
痛々しい事をベラベラ言い出す前に、強引にエルランをモンスターブックの中へと入れた。誰だエルランに痛い告白の仕方を教えた奴は、まったく。小町がミミック語に詳しくなくて本当に良かった。いやミミック語ってなんだよ。理解出来るの俺ぐらいだろ(エルランに限るけど)。
「ねぇねぇお兄ちゃん。なんかエル君泣いてた気がするけど大丈夫?」
「気のせいだろ。泣いてるように見えたなら、小町に遊んで貰えて感動してただけだろ」
恋と感動はセットである。なので、エルランの叶う事の無い悲しき初恋にも感動が含まれてると言えよう。ドンマイ、エルラン☆
「じゃあ、またな小町。呼んでくれれば直ぐに会いに行くからな。因みに、一番のオススメはお兄ちゃんとの同棲コースだ」
「キモイよお兄ちゃん。本当にキモイ。妹をハーレム要員にカウントしようとしてるのがマジでキモイ。でも、従魔達に会いたいから配信は見に行ってあげるね♪」
結局俺は最後までハーレム野郎扱いなのかよ。てか、実の妹をハーレム要員にカウントするとか無理だろ。例え本当は血が繋がってませんでした~みたいなトンデモ設定を出されたとしても、絶対に異性として見る事は無いぞ。
「…………俺じゃなくて従魔達かよ。てか、配信は見に来なくていいから。そんなの見てないで社会貢献してね」
「はいはい、小町はお兄ちゃんが勇敢に戦う所を期待して見に行ってあげるから。あ、今の小町的にポイント高い!」
「はいはい、高い高い。いつまでも俺の妹でいてくれよ。……それと、その、結婚おめでとう小町」
「うん! ありがとうお兄ちゃん!」
感動のあまり泣きたくなる気持ちを抑えて、幸せそうな小町の頭をわしゃわしゃしてから俺は実家を後にした。涙は結婚式までとっておくからな小町。あ、今の八幡的にポイント高い!
こうして、両親への義理を果たした俺は久しぶりの帰省を無事に済ませる事が出来た。
・・・・
・・・
・・
・
由比ヶ浜の所からサブレの回収を終えた。まさか旦那さんがあんな可愛い系だったとは……。戸塚とタメ張れるぐらいには可愛かったぞ。
今は運転しながら一人で感慨深くなっている。
あ~、小町も結婚か……。大志に一言二言は言いたい所ではあるが、それ以上に兄として喜ばしい気持ちでいっぱいだ。本当に時が経つのは早い。小町の小学校から大学まで、全ての入学式と卒業式で一緒に写真を撮ったのが昨日のようだ。何これヤバイ、もう既に泣きそうなんだけど。
泣きたい気持ちを堪えてると、家に着いたので車を駐車場に止めた。
俺が玄関扉まで行き、鍵を挿した瞬間だった。
──見つけた
突如と声がしたので、振り返ると知らない誰かが俺の胸へと抱きつくようにドサッと飛び込んできた。
「やっと見つけた、私のエイト!」
「……っ!?」
どこか嬉しさを感じ取れる涙声で俺をエイトと呼んでくるのは、見ず知らずの女性だった。
視界に映るその女の特徴は、雲なき綺麗な大空のように澄んだ空色の腰まである髪と、その髪色と同色の瞳。鼻は高く、ハリウッド女優のような整った顔立ち。胸は大して無いが、雪ノ下と同じぐらいのスレンダーなモデル体系。服装はジップパーカーとジーパン。だが、一番の驚くべき特徴は
え、このエルフっぽい人は誰なのん? 八幡はいつからエイトさんになったのん?
「離せ!」
腕に魔力を纏わせて強引に振り払おとしたら、こちらの攻撃を察知した女性は後ろへと飛び退いた。
今の身のこなし、戦闘の素人じゃなさそうだな。
悲しみに染まった面立ちの女性は振り払われて尚、俺に語りかけてきた。
「エイト、私よ! ラスティーよ! ラスティー・ゼナ・セインフィールよ!」
確信を持って俺をエイトと呼ぶ見ず知らずのエルフっぽい女性は、ラスティーと言うらしい。いやマジで誰だよ。美人がいきなり抱きついてくるとか、どう見ても怪し過ぎる。何より面倒な匂いがプンプンする。俺と家族の平穏を脅かす他人は全員敵だ。
「知るかよ、生憎こっちは長年社畜ボッチだったんだ。お前みたいなファンタジーな知り合いはいない」
いくら田舎と言えども、ここで戦闘行為をすると人目に付く可能性が万が一にもある。なので俺は、全力疾走で裏庭ダンジョンへと向かった。
「エイト!? 何で逃げるの!」
突入を果たすと同時に、女性もダンジョンに入ってきた。
ここまで来れば問題ないな。てか許可なしに、人様のプライベートダンジョンに入って来んじゃねぇよ。金払え。
ダンジョンの入り口から少し離れた場所まで来た俺は女性の方へと向き直り、スキルを発動した。
「来い! モンスターブック!」
よくも小町の事で幸せいっぱいになってた、俺のハッピー気分を害してくれたな。
やってやるよ。鎌谷幕府が誇る
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