評価、お気に入り登録、コメントが励みになっております!
□□□←三人称
「何でなのエイト! 何で私達が戦わなきゃいけないの! お願いだから話を聞いてよ!」
相手の女性からは交戦の意思が見受けられられないが、致し方無い。もし、少しでも話を聞いてしまったら面倒事に巻き込まれる可能性があるからな。それに俺はエイトとやらじゃない。全く戦えないって訳じゃなそうだし、適度に怖い思いをさせれば退散してくれるであろう。
健気に何度も呼び掛けてくる女性の声を無視して、俺はルーメリアとカマクラの絵をタップして顕現させた。
「ニャー」
訳:おい、今日は休みじゃないのかよ
「マスター? 今日はダンジョンアタックは休み……って何で……何で貴女がっ!?」
「噓……っ!? こんなの噓よっ!!」
ルーメリアと女性がお互いを視認すると、剣吞な雰囲気が漂い始めた。この感じ、知り合いだよな……。しかも仲良く無いパターンの知り合い。はいはい、また異世界系ね。エルフ疑惑だったのが、エルフで確定しましたよ。展開が超メンドクセェ。
「おいルーメリア、お前の知り合いか? 知り合いなら帰るように言ってくれ、迷惑してんだ」
一応ルーメリアと同郷っぽいし、億が一の確率でルーメリアの友人の可能性があるからな。
だが、俺の穏便に済ませられるかもしれないと言う希望をルーメリアは笑い飛ばした。
「ハッ、知り合いどころか互いの命を何度も奪い合った仲ですわよ。そうですわよね、聖女?」
あのエルフ、聖女様なのかよ。ラノベならメイン級のキャラ属性じゃねえか。もしかして、俺って喧嘩売る相手間違えた?
「な、何で貴女がいるのよ……っ! 女神フィーエルと共に死んだ筈……しかも、どうしてエイトと一緒にっ!? 答えなさい、戦血の魔王・ブラッドノイズ!」
恐れ、怒り、憎しみを感じさせる表情と声でエルフは空間から錆びた棒を取り出し、ルーメリアへと向けてた。錆びた棒は次第に形を変え、煌びやかな装飾で彩られた大杖となった。エルフの華奢な体が持つには余りにデカく、平然と持つその姿はどこか歪に見える。そう言えばあの錆びた棒、俺もルーメリアから貰ったな(8話で)。
「本名ブラッドノイズなのかよ……」
驚きの新事実が発覚した事で、小さく言葉が漏れた。異世界だとブラッドノイズって名前だったんだな……。魔王っぽい。てか、ブラッドノイズのが良いだろ。
キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード
アーカード
ディオ・ブランドー
ブラッドノイズ
ほら、このそうそうたる吸血鬼面子の中でも名前負けしてないですよ、ブラッドノイズさん。俺の中の材木座もカッコイイって言ってるし。あれ、材木座って誰だっけ。
材木座はさておき、一つ疑問がある。最初ルーメリアに名前を聞いた時、俺はルーメリアの異世界語が理解出来なかった。考えられるのは、本名を日本語に無理矢理翻訳した結果がブラッドノイズ。まぁここら辺は、いくら考えても分からないから後で聞くとしよ。
「その名で呼ばれるのは、随分と久しいですわね。良いですわ聖女ラスティー、貴女の疑問に答えてあげますわ。女神を倒し、虫の息だったわたくしを四天王クラウスが命懸けで逃がしてくれたんですのよ」
俺の知らないエピソードだ。本当に神様を倒したんだな……。それが良いのか悪いのかは置いといて、マジッべーわ。
異世界事情に啞然としてると、ルーメリアがまじまじと俺の顔を見つめてきた。
「なんだよ……」
「うーん、確かに宵闇の勇者エイトに似てますわね……あっちも目が腐ってましたし。でも髪色が違いますわ。わたくしとしては、こっちの腐ってる方が好きですわね」
えぇ、エイトさん勇者だったのかよ。なら尚更人違いじゃん。俺が勇者なんて陽キャじみた事をやる訳が無いだろ。仮に勇者に選ばれたとしても、旅の途中で行方を晦ましてバックレるね。あと腐ってるは余計だ。
「聖女、よく見なさい。マスターは宵闇の勇者に似てるだけで、全くの別人ですわ。なんならジョブは勇者ですら無い。冴えない従魔士ですのよ」
従魔士に冴える冴えないとか無いだろ……。
「よくそんなデタラメを言えたわね、魔王。紛れもないエイトの魂を感じるわ! エイトに何をしたのよ、エイトを返してよ!!」
とうとう魂だとかの胡散臭いスピリチュアルを言い出したぞ、あのエルフ。もうダメだ、なんか勝手に怒ってるし、勘違いしてるしで付き合ってられん。何より俺とエイトとか言うヤツを重ねて、期待を押し付けようとしてるのが気に食わない。
「ルーメリア。あのエルフはお前の敵って認識で良いんだな?」
「そうですわね。わたくしの同胞を殺し回った忌むべき敵ですわ」
「貴女が……っ! 貴女がそれを言うの!!? 罪もないエルフの民達を殺戮した貴女がっ!」
激昂をしてる所を見るに、どうやらルーメリアの発言はブーメランだったようだ。俺が勇者ならここで間に入って仲介をするかもしれないが、生憎と俺は差別をするし、贔屓もする。やはり俺は勇者とは程遠い存在だ。
方針は決した。最初は駆逐で済まそうとしたが、こうなったら抹殺するしかない。
「そうか。お前の仇なら、家族全員の仇だ。協力して確実にあのエルフをここで殺すぞ」
「なんでエイトまでそんな事を言うの……酷いよ、あんまりだよこんなの……」
涙を流し始めたエルフに、何故か胸がズキっと痛みだした。だが俺は同情なんてしない。と言うよりしたくない。
そもそも戦争が絶えない異世界から来た二人だ。お互い言い分があるであろう。だが俺は、あっちの言い分なんて聞きたくない。聞いたら同情して憐れむかもしれない。そんな面倒な気持ちになるぐらいなら聞かずに殺した方が良い。
「黙れよ、大人しくここで死んでくれ。やるぞ、ルーメリア、カマ……?」
空間収納からバットを取り出しすと、ルーメリアが手で制したきた。
「マスターとカマクラさんは手出しご無用ですわ。これはわたくしが始末をつけないとイケない故郷の問題。何より、歴代最強と謳われた聖女を相手に、マスターがいては足手まといですわ」
真面目に参加を拒否られちゃったよ。俺今さっき『大人しくここで死んでくれ』って超シリアスな台詞を吐いたのに。何これめっちゃ恥ずいんだけど。
「…………そ、そうか。でも危なくなったらカマクラを投入するからな」
「ニャッ」
訳:おいド腐れ、チキったな
ジト目を向けてくるカマクラから俺はスッと目を逸らした。
べ、べべ別にチキってねーし。歴代最強の異世界聖女相手に俺みたいな
「大丈夫ですわよ。あの聖女単体なら、わたくしが負ける道理などありませんわ」
そう言ってルーメリアは空間から錆びた棒を優雅に取り出した。
「まさか、この平和な世界で
表情を喜悦に染めたルーメリアは高笑いしながら武器の名を叫んだ。みるみると錆びた棒は大鎌へと姿を変えていく。刀身は真紅と表現するに相応しい
久しぶりの愛機に興奮したのか軽く3回程振り回すと、鎌の刀身をエルフへと向けた。
「全力で来なさい、ベルイースト祭国18代目聖女ラスティー・ゼナ・セインフィール。貴女の宿敵である魔王ブラッドノイズとして、全力で踊って差し上げますわ」
おおルーメリア、なんて魔王らしい台詞だ。お前いま最高に魔王してるぞ。ここが魔王城だったらもっと良かったんだがな。
「なんでエイトに記憶が無いのか分からない……でもっ!」
先ほどまで悲しみに囚われていたエルフが、魔王に触発されて臨戦態勢を取った。どうやらエイト問題を先送りにしたようだ。
「戦血の魔王ブラッドノイズ。ここで貴女を倒して、私は本懐を遂げてみせるっ!」
おい、チラチラ俺の方を見んなよあのエルフ。エイトじゃねぇって言ってんだろ。
「エイトエイトって、うるさいですわね。貴女、本当は心のどこかで分かってる筈ですわ。だって──」
魔王は邪悪な笑みを浮かべて、元勇者パーティーの女エルフに言ってはならない言葉を言い放った。
──エイトはもういないじゃない
□ □ □
「魔王ォォォォォォオオッ!!」
完全にブチギレタ聖女ラスティーが、音速の速さでルーメリアの目の前に現れ、大杖の先端を輝かせながらの突き攻撃を行った。その攻撃を予期していた魔王ルーメリアは大鎌を回す事で大杖を弾き、魔力を纏った正拳を聖女の腹に入れて、後方へとぶっと飛ばした。
「アハッ! 戦いで我を忘れるなんて、貴女らしく無いですわね聖女。何か嫌な事でもあったんですの? 勇者と痴話喧嘩したとか?」
アウラ構文と言い、聖女を煽る事に興奮を覚える魔王。異界の地で何度も殺し合った因縁を持つ両者の戦いは、最早どちらかが倒れるまでは止まらない。
「うぅ……負けられない……死んで逝った皆の為にも、私は……私は魔王に負ける訳にはいかないの!! 【エクストラヒール】!」
立ち上がった聖女ラスティーの傷があっという間に癒えた。自身のスキルを魔力技術でブーストした事で、癒えない怪我と病気は無いスキルとなっている。これこそが、異世界で歴代最強の聖女と謳われた癒しの力である。
(なにあれスキル? 魔法? やはりイメージ通り聖女ってヒーラー特化なのかもしれない。てか、なんも見えなかったぞ……)
余りにの速さに先ほどの攻防を何一つ理解出来ないでいる比企谷八幡。彼はサイヤ人の戦いをヤムチャが目で追える訳ないだろ、と内心自虐しながら諦めていた。流石は従魔頼りのパンピーである。果たして彼が今後、この物語で強くなれるかは要注目。
「フッ、フハハハハハッ! あー、やはり貴女との命の殺り取りは楽しいですわね聖女! 宵闇の勇者と2人掛かりで、幾度もわたくしを追い詰めた時の事を思い出しましたわ。勇者が傷つく度に貴女が癒してましたわね。しかも貴方を狙うと、あの忌々しい勇者が小細工を弄してくるから中々に厄介でしたわよ。あれ程のクソゲーを押し付けられたのは、後にも先にも貴方達だけでしたわ。さぁ向かって来るが良いですわ、あの時と同様にわたくしを楽しませなさい!」
癒しの力を目の当たりにした魔王は、自身を追い詰めた勇者パーティーとの楽しい楽しい計8回に渡る殺し合いを思い出していた。そんな興奮する魔王に、比企谷八幡は表情を引きつらせている。
(始まったよ頭サイヤ人……)
「忌々しいのは貴女よっ! 魔王っ!」
思考回路がサイヤ人になった魔王へと果敢に攻め出す聖女。鎌の斬撃を躱し、隙を見つけては杖を振るが、戦巧者である魔王に攻撃はあっけなく往なされていく。
(くっ、接近戦はやっぱり分が悪い)
接近戦で軽くあしらわれる事に焦りを募らせていく聖女。その焦りは相対する魔王へと伝わり、余計に嗜虐心を煽る羽目となる。
「その程度ですの? もっと貴女の輝きをわたくしに見せなさい!」
魔王のギアが次第に上がっていき、聖女は遂に鎌の攻撃を杖で受け止めてしまった。
魔神機ヴァルレフィス。魔王の愛しきメインウェポンである。この鎌と打ち合えば、武器越しと言えど魔力を刈られる。更に直接、体を切られようものなら切られた部分は組織細胞が壊死。貧血症状もオマケで付与すると言った状態異常性能も持ち合わせている。
これらだけでも壊れ性能な武器なのに、まだまだ性能には奥があるのだが、現状ルーメリアが弱体化してるが故に性能の全てを引き出せない状態にある。因みに、異世界でヴァルレフィスは『貴方の魂を貪りたい』と言う意味である。
「本当、厄介な魔神機ねっ!」
接近戦でのヤリ合いを不利と見た聖女は大きく後ろへと飛び退き、魔法での攻撃を開始。
「聖なる槍よ、悪しき敵を貫け! 【ホーリーランス】!」
聖なる光の槍を空中に何十本も展開した聖女は、魔王へと射出してゆく。対して魔王はこの状況に大喜びしながら魔法を発動した。
「その聖神機を用いた魔法攻撃、懐かしいですわね! 深淵より出でし暗き闇よ、漆黒の守りで我が身を包み守り給え! 【ネオダークネスベール】!」
苛烈に攻め寄せる聖なる槍に対して、黒いベール纏う事で守りに徹した魔王。何故頭サイヤ人の魔王が魔法攻撃に対して守り徹したかと言うと、聖女の持つ聖神機に理由がある。
聖女ラスティーが持つ聖神機、名を【グラミエス】と言う。魔法攻撃の威力を5倍にするシンプルな倍加効果、魔法発動に伴い大気の魔力を使う肩代わり効果、常時自身を
(ダンジョンで戦ってるせいで、聖女が魔法使い放題じゃないですの! わたくしのスマホなんて、月のデータ利用量10ギガしか使えないのに。マスターのケチ!)
どうでもいい事で怒るぐらいには余裕がある魔王。何故10ギガかと言うと、腐った目のお兄ちゃんの教育方針だからである。加えて、Wi-Fiのパスワードも教えて貰えないと言う徹底ぶり。そんな腐った目のお兄ちゃんのスマホはデータ利用量が無制限。これはケチと言われても仕方がない。
(とりあえず、ここまでの攻防で理解しましたわ。わたくしと同様、聖女も弱体化している。なんかガッカリですわ)
これ以上戦っても期待以上の事は起こらないと、魔王は内心悲しんでいた。魔王は日本に転移してから恋愛と娯楽に染まっていた。そんな平和ボケしかけていた時に異界の仇敵に再会し、久々に命を賭けられる程の戦いが出来るとワクワクしていた。だが結果は、高く設定した期待値を下げる形となった。
「聖天よ、邪悪なる者に鉄槌と言う名の恵みを! 【ホーリーレインバースト】!」
聖女が魔王を追い詰めるべく、次の魔法を発動する。ダンジョンの天井に数多の魔法陣が出現し、そこから光の
「底が知れましたわね、聖女。以前戦った時より遥かに弱くなってますわよ」
「それは貴女もでしょっ!」
魔王の言葉に、自身の弱体化に自覚がある聖女の表情が苦々しいものとなる。だが、それでも聖女は諦めない。魔王を討ち果たし、死んで行った者達の無念を晴らすと自身に誓ったから。
(あれで弱い判定なのかよ……)
戦いに参加しなくて良かった、と比企谷八幡は心の底か安堵していた。実に情けないマスターである。ここだけの話、この男は最近ダンジョンの事と、両親にどうやって探索者になった事を打ち明けるか、しか考えていなかったせいで明日が彼女である雪ノ下雪乃の誕生日である事が完全に頭から抜けていた。果たして、どんな危機的状況に陥るか乞うご期待。
「もう飽きましたわ」
魔法攻撃を切るだけの作業に飽きた魔王は
「なっ!?」
寒気が聖女の全身を襲うと同時に、気付けば目の前に現れる魔王。
顔面すれすれまで迫る鎌をどうにか躱した聖女。その直後に左の視界が迫りくる魔王の拳を捉えるが、時すでに遅し。鎌の攻撃に態勢を崩され、もう
「地に沈め。我が宿敵よ」
顔面を全力で殴られた聖女は、顔から轟音を鳴らしながら地に沈んだ。そして倒れた聖女の首元に、魔王が鎌の刃先を添えた事でゲームセット。
♢ ♢ ♢
「地に沈め。我が宿敵よ」
魔王らしいカッコイイ台詞と共にルーメリアは強烈なブローでエルフを地面に叩き付けてノックアウトした。ルーメリアがヤバイのは大前提として、あのエルフもヤバイだろ。あんな派手に顔面を殴られて、何で顔の原型が崩れないのん? しかも地面にクレーター出来てるし……。異世界は惑星ベジータだった説がより濃厚になってきたぞ。
「……っ!? なんだこれ……」
さっきから、何故だか胸が締め付けられてる感じがする。いったい何なんだこの嫌な感じは。きっとアレだ、ハイレベルな戦闘を目の当たりにしたせいで自身の無力さを感じただけだ。そうに違いない。
不安な気持で近づくと、魔王による拷問が始まる寸前であった。ルーメリアが倒れたエルフの首を片手で掴み、持ち上げていた。
「……ルーメリア何してんだ?」
「この聖女に殺された同胞の無念を晴らすべく、惨たらしい死を与えてやろうと思いますわ」
マジで拷問をする気だ。そんな事しないで、さっさと殺して欲しんだが。
「さっさと殺せ。さっきから何だか嫌な感じがする」
大体、こう言う『簡単には死なせないぞ』展開をやると逆転されんのがテンプレなんだよ。しかも相手は光属性キャラ代表格の聖女。光属性キャラと言うのはラノベとかのフィクション作品において覚醒要素を持ってるてのが相場だ。
何とも言えない不安を募らせる中、首を掴まれていた聖女が苦しそうに藻掻きだした。
「え……うぅ……エイ……うぅっ……ト……たす……あぁ……けて」
風前の灯火となったエルフの頬に涙が伝わり、助けを求めながら俺の方へと弱々しく手を伸ばしてきた。
頼むから、そんなお涙頂戴な雰囲気を出しながら赤の他人の俺に縋らないでくれ。残酷な異世界事情とか、そう言うの知りたく無いんだよ。俺は
──愛してるよラスティー
──私もよエイト
「っあ!? 何だこれは……っ!?」
一瞬頭痛が走ると、訳の分からない情景が脳を過った。一組の男女が愛を囁き合いながら、互いの唇を重ねるロマンチックなシーンが。
何なんだ、俺の知らないこの記憶は……っ!?
「マスター……?」
──ラスティー、今回お前は残ってくれ
──ダメよエイト! 一人で魔王ブラッドノイズと戦うなんて無謀だわ!
──戦う訳じゃない。少し話し合うだけだ。今回の件で、あの魔王だって俺達と戦っても意味が無いって知った筈だからな
「うぅぅぅああっ!? 一体……っ! 一体何なんだよこれは!」
次に湧いてきたイメージは、先ほどの男がエルフに別れを告げるシーン。エルフの方は必死な様子で男に行かないように説得している。
強烈な頭痛なせいで俺は地に膝を着けて頭を抱えてしまった。もう訳が分からない。まるで実際の記憶であるかのように、鮮明に脳内に浮かぶイメージ。こんな存在しない記憶を俺は知らない。
「ルーメリア! 早くそのエルフを殺せ! 俺がおかしくなりそうだ!」
頭痛に抗いながらルーメリアを急かす。俺の異変を感じ取ったルーメリアは鎌を振る予備動作に入った。
「さらば聖女。すぐに愛しき勇者の元に送ってあげますわ」
──ラスティー、お前を絶対に死なせたりしない。俺の命に代えても
「っ!? ダメだっ!」
「ちょ、マスター!?」
まるで意識を一瞬乗っ取られたかのような感覚に陥る。気付けば寸前の所でエルフを庇うような形で、俺はルーメリアを押し倒していた。
「意味分かんないですわマスター! 殺せと言ったり、殺すなと言ったり、一体どうしたんですの!?」
「うわぁぁぁぁぁぁあああっ!? ルーメリア……エルフをころ……すなっ!」
──あぁ……変な役を押し付けて悪かったな。……感謝する、偉大なる魔王ブラッドノイズ
──後の事はわたくしに任せて
今までの比にならないレベルの頭痛がガンガンと襲ってきた。薄れゆく意識の中、最後に見た光景は崩壊した神殿と思われる場所で、死にゆく勇者を看取るルーメリアであった。勇者を看取るルーメリアの表情は、どこか曇り空のように憂いを帯びていた。
この光景を最後に、俺は意識を失った。
♢ ♢ ♢
目を覚ますと、不思議な場所に立っていた。広くて明るい場所だ。ステンドグラスの床に、ステンドグラスの壁。オマケにステンドグラスの天井。多分、凄く広い建物の中にいると思われる。いや、どんだけステンドグラスで構成されてるんだよ、この建物。日本の建築基準法から外れてるだろ。ならここは海外建築か? いや、さっきまでダンジョンにいたのに海外にいる訳ないか。て事は夢か?
『比企谷。この舐めた作文は何だ? 一応言い訳くらいは聞いてやる』
ステンドグラスの壁に触れたら、映像──懐かしき俺の記憶が流れ出した。青筋を浮かべる平塚先生がいるぞ。うわっ、ガキんときの俺って生意気過ぎんだろ。これは確かに奉仕部に入部させられるわな。今となっては入部して良かったと思ってるけど。こんな俺に、時間を使ってくれた平塚先生には本当感謝してる。
「やっぱ夢か」
周りのステンドグラスから次々と、記憶の映像が煌びやかに流れ出した事で夢だと確信した。
そして、一つの映像が目に付いた。
『それでも……それでも、俺は……俺は本物が欲しい』
腐った目の男子高校生が女子2人の前で泣いてるよ。なんちゅう恥ずかしい映像だ……。まぁ夢だし、誰かに見られてる訳じゃなから別に良っか。もし仮に誰かに見られたら死んでやる。
とは言え本物か……。そんな青臭い幻想を追っかけてた時期が確かにありましたね。上辺だけの関係が嫌だとか、相手の事を100%知っていたいとか、昔の俺ってちょっと重過ぎじゃないですかね。こう思えるぐらいには、俺も成長して大人になったて事か。
『お前は望んでないかもしれないけど……俺は関わり続けたいと、思ってる。義務じゃなくて、意思の問題だ。……だから、お前の人生歪める権利を俺にくれ』
あぁ、もっと普通に告れよ俺。見てて恥ずかしいだろ。なんなら今でも顔から火が出そうだよ。この時期はまだ恥ずかしくて、関係性を聞かれても胸張って付き合ってます、って言えなかったんだよな俺……。挙句の果てに、こんな恥ずかしい台詞で告ったクセに大学二回生の時に破局。本当に我ながら情けない。
『そう言うの全部含めて、貴方が好きです』
oh……。次は葛西臨海水族園でガハマさんに告白されてるシーンじゃないですかー!
結局、照れくさくて上手く返事が出来なかったんだよな……。またこの瞬間に戻っても出来る気がしないですけどね。あー、やっぱ俺って情けないな。
『先輩。わたし一色いろはは先輩の事が好きです。あ、でも先輩には雪乃先輩がいるので付き合って欲しいとかじゃないんです。これは自分に対してのケジメです。だから無理ですごめんなさい』
これは確か卒業式の日だ。一色からベストプレイスに呼び出されて、告られたんだっけ。結果的に俺が振られたみたいになってるけどな。マジで何で呼び出された俺が振られてんの。因みに、第二ボタンを力づくで略奪されるまでがセットな。
あれ、こうやって通しで見ると、俺って何気に青春してね?
『なーに? 昔可愛い彼女がいただと? おい比企谷、童貞だからって噓は良くないぞ。ハッ、ハハハハハ!』
これはブラック企業にいた時の記憶だ。帰ろうとしたらクソ上司に捕まって、飲みに付き合わされたんだっけ。しかも奢ってくれなかった。今思い出しても腹が立つ。次はコイツに年収マウントを取ってやる。絶対にだ。
次々と年代関係無く映像が流れていった。エモい映像から恥ずい映像、俺の辿った軌跡の全てが視界に入ってくる。
「……やっぱ、黒歴史のが多いな。特に最近の配信とか」
「そうか? お前の人生、見てる分には飽きないけどな」
自分の黒歴史に呆れて独り言を零すと、唐突に後ろから話掛けられた事にビクッとした。
「っ!?」
話掛けてきた奴の顔を見るべく振り向いた俺は、余りの驚愕に言葉を出せなかった。
自分と似た顔、加えて腐った目つき。青みがかった黒色の髪。違う点があるなら、アホ毛が無い事と、猫背じゃない事。最大の特徴は、胡散臭い笑顔と飄々としてる雰囲気だ。俺はコイツを知っている。もっと具体的に言うなら、ついさっき知った。なぜ異界の人間が俺の夢に出てくる。
「宵闇の勇者……エイト」
「おう、俺の記憶を流した甲斐があったな。て事で、よろしくな八幡」
ウェーイと言いながら、俺の肩をフレンドリーに叩いてきた。コイツ戸部っててウゼェ。
もう異界の存在はルーメリアだけで充分だ。こんなオカルトじみた奴の相手なんかしたくない。
自分の頬を殴ってみるが、夢から覚める気配が無い。痛みを感じ無いのが唯一の救いだ。
「おいおい、ここは夢じゃないぜ。お前の精神世界だ。自分を痛めつけても意味ないって」
「俺の精神世界だと……? だとしたら、何で異界の勇者がいんだよ。てか、あんた故人だろ」
そもそも精神世界の時点で……いや、異世界の魔王やら聖女やら勇者が現れたんだ。今さら精神世界なんて驚く程の事じゃないな。段々ファンタジー現象に慣れていってる自分に嫌気がさしてきたぞ。頼むから平和な日常に戻してくれ。いや、探索者になった時点で平和な日常とは程遠いか。
「あぁ、俺の肉体はとっくの昔に死んでる。何故か、魂だけになったけどな。で、気付いたら地球の中の日本にいたって訳。オーケー?」
「全然オーケーじゃねえよ。日本にたどり着いた所までは分かったが、何で俺の中にいんだよ。っつーか、出てけ」
とりあえずこのクソ勇者が、俺に存在しない記憶を植え付けた犯人って事だけは分かったわ。
「あちゃー、それは無理な話だな~。だって俺の魂はもう溶けて、お前の魂の一部になってる感じなんだわ。今お前の前いる勇者エイトは残滓みたいなもん。あ、これ結構真面目な話ね」
自身と顔が似てるせいか、勇者の飄々としてる感じに苛立ちを感じる。てかコイツ、マジで言ってんのかよ。こんなふざけた奴と魂がフュージョンしてるとか超嫌だ。魂に関する刑法が有れば確実に訴えてる所だぞ。
「おい……なら、いつから俺の中に居た?」
恐る恐る聞くと、勇者は腕を組んで悩み始めた。ノリが軽いせいで本気で悩んでるか怪しいけどな。
「あれは確か……小町ちゃんが家出した時だから……まぁ、お前がガキん時だな」
「噓だろ……」
小町が寂しさの余り家出したのは、小学校低学年の時。俺は4年生ぐらいだった筈だ。
「なぁ八幡。まさか、高校んときに泣きながら『俺は本物が欲しい』とか言ってるのを、俺に聞かれてたのが嫌だったりする? なら大丈夫だって。俺なんも聞いてないからさ」
凄く良い笑顔で誤魔化してきたけど、何一つ誤魔化せていない。
「オーマイガー! え、うそ、本当に俺の人生、全部見られてたの!?」
「見てない見てな~い。お前が毎朝、渋谷凛のポスターにキスしてた所とか、妹モノのアレなDVDを見ながら懸命に右手を動かしてる所とか一切見てないから! プッ」
「なに笑ってんだよ。テメェさっさと出てけ! 家賃滞納者め!」
コイツは俺が専業主夫を目指してた時期に平然と俺を笑いながら、俺の中でのうのうとニートしてたんだ。許せん。何より、俺のアレなプライベートを全部見てたのが一番許せん!
「ひでぇな、滞納とか言うなって。ほら俺今アレだから、デスノートで言う所のリューク枠みたいなもんだから」
いま手元にデスノートがあったらコイツの名前を八万回は書く自信があるぞ。しかも、リュークって最後に主人公をあっさり殺すよな。なにそれヤベーじゃん。この勇者、疫病神だぞ。
「てか、何で俺みたいなぼっち野郎の中に入ったんだよ。もっと他にまともな奴いただろ」
葉山とか戸部とか。あと葉山とか戸部とか。
「なんて言えば良いか……魂の波長が合った的な? まぁそんな感じ」
そんな感じって、どんな感じだよ。俺的には超嫌な感じなんだけど。
「もういい、リアルに帰してくれ。お前と話したせいで疲れた」
だが、クソ勇者のエイトは人差し指を横に振りながら話を聞いてくれたらな、と偉そうに要求してきた。
「何が望みだ? 体の所有権は渡さねーからな」
「そんな事は出来ないって。さっき言ったように、俺は勇者エイトの残滓。お前の体を乗っ取る力とか無いから。出来る事と言えば、お前に勇者の記憶を流す事ぐらいだから」
ぐらいとか言ってるけど、他人の記憶って凄い情報量だからね? 頭痛半端ないからね。頭痛が痛いレベルだからね。頭痛が痛いってアホな表現をしちゃうぐらいには痛いから。
「お願いしたいのは、超簡単なことだ」
エイトの要望は、例のエルフ聖女を保護して欲しいとのこと。マジでナメてんだろ……。
「な? ほら簡単だろ? 誰も傷つかない世界を完成させようぜっ☆」
「お前バカだろ? こっちは魔王と暮らしてんだぞ。聖女と魔王が同居とかどこのコメディアニメだよ。あと、その俺のスゲェ恥ずかしいモノローグをネタにすんじゃねえよ」
「大丈夫大丈夫、あのブラッドノイズと仲良くやれてるお前なら大丈夫だってー。あんな幸せそうな顔をした魔王を見た時は、マジでビックリしたぞ。加えて、お前にホの字。いや~、魔王を恋に落とすとか、俺なんかよりよっぽどお前のが勇者だね。よっ! 勇者!」
俺の事なら何でも知ってるかのように面白おかしく話すクソ勇者。仕事でもないのに、こうやって『お前なら大丈夫だから~』と期待を押し付けてくる奴が俺は嫌いだ。
「なぁ、お前のことマジでぶん殴って良いか?」
機嫌が悪い事伝えると、勇者エイトはオチャラけた雰囲気から一変して、俺に顔を近づけゆっくりと口を開いた。
「それでラスティーを大事にしてくれるなら、気が済むまで俺を殴れ」
「……意味分かんねえよ。お前の彼女じゃねえのかよ。なに、寝取られ趣味でもあんの?」
「なぁ八幡、俺はお前なんだよ。俺の魂のほぼ全てが、お前の中に溶けて混ざったんだ。ラスティーの目から見たら、お前は俺なんだろうな……」
達観したように、自分なんてモノは消えたと語るクソ勇者のエイト。スピリチュアル過ぎて分かりにくい。今目の前にいる残滓エイトは勇者エイトの思念体、または記憶体みたいなモノだと解釈した方が良さそうだな。
これでやっと合点がいった。確かに俺と勇者エイトの容姿は似てる。だが、あくまで似てるだけだ。瓜二つって程じゃない。でも、あの聖女は俺とエイトを同一人物だと信じて疑わなかった。カラクリまでは分からないが、何らかの方法で魂を見られた可能性が高い。或いは、俺を勇者エイトの転生体だと勘違いしているか。俺がこんな奴の転生体であってたまるか。
「だから別に、お前に対してラスティーを取られて悔しいとかの感情は無い」
「あのな、俺彼女いるんだけど?」
「あぁ、雪乃ちゃんだろ? それがどうかしたか?」
その首を傾けて、意味不明でーすみたいな表情やめろ。コイツ、一々俺の感情を逆撫でしないと気が済まないのか。
「どうかしたか、じゃねぇよ! 俺があのエルフの気持ちに応える事は永遠にねぇって事だよ。それと、気安く雪乃ちゃんとか言うんじゃねぇよ」
「別に付き合えって言ってる訳じゃない。仲間としてでも良いから大事にして欲しいんだ」
「さっき言ったよな? こっちには、お前らと因縁深い魔王ルーメリアがいる。仲良くやろうぜってのは無理だ。悪いがあき、」
言い切る途中で、勇者エイトが真正面から俺の肩に手を置いてきた。俺を見つめる眼差しは真剣そのものだ。
「ラスティーを仲間にした際のメリットは、お前が思ってる以上だ。春先に高難易度ダンジョンに挑戦すんだろ? ラスティーなら絶対に助けになる」
「……聞かせろ」
勇者エイトが提示したメリットは以下の通りである。
・鎌谷幕府にいなかったヒーラーが手に入る事。しかも自衛の出来るヒーラー。
・異世界転移の影響で弱体化してはいるが、この世界基準ではそれでも反則級の戦力である事。
・家事が得意。
・異世界技術を用いた農業が出来る。
・ルーメリア以上の魔法知識がある。
・美人だから目の保養になるし、配信に出せば間違いなくチャンネル人気にブーストを掛けてくれる。
最後の以外は確かにメリットだと思う。超魅力的なダンジョン人材だ。今後のことを考えるとヒーラーはマジで欲しい。何より家事が出来るってのが良い。掃除洗濯ならまだしも、最近料理がマジできつくなってきた。
「言っとくが、余りに理不尽じゃない限りは、何か問題が起きたら俺はルーメリアの肩を持つからな」
エルフは人種だ、魔物じゃないから従魔には出来ない。言ってしまえば俺の家族ではない。同じ組織ってだけの他人になる。
「大丈夫だって。ラスティーはああ見えて郷に入っては郷に従えが得意だから」
「融通の効く聖女様なんだな」
段々と俺の体が光輝き始める。これでやっとリアルに戻れる。自分の精神世界に来ると言うのは、興味深い体験ではあったが、もう来たくない。だってクソ勇者の残滓がいるから。
「またいつの日か会おう、魔王を籠絡せし英雄よ。あんまり色を好み過ぎんなよ~」
帰り際に聞こえてきたのは、クソ勇者のオチャラけた言葉であった。
あの家賃滞納勇者を、一発殴っておけば良かったわ
ここまで読んで頂き、ありがとうございます!
いやー、やっぱ勇者のフルパーティーじゃないと魔王には勝てないですね!笑