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精神世界から目覚めるとソファーで寝ていた。時間は昼の13時。3時間以上は眠っていたようだ。ルーメリアかカマクラが家に運んでくれたに違いない。
問題を引き起こした件のエルフと言えば、ボロボロで気絶してる状態で椅子に魔力を無効化させられる特殊な鎖でグルグル巻きに固定されていた。
そんなエルフを前にルーメリアは不機嫌な様子でいる。
「マスターの魂が勇者の魂と混ざった経緯は分かりましたわ。ですが、聖女にトドメを刺せないのは納得いきませんわ! 何より、マスターに色目を使おうとした事が一番気に食わないんですのよ!」
とりあえずルーメリアには精神世界での出来事を全て話した。このエルフを保護する方針になった事もな。
「気持ちは分かるが、うちにヒーラーがいないのも事実だろ。それに、もう俺一人で従魔全員の飯を作るのがキツイ。しかも殺したら多分、俺は一生変な頭痛を抱える羽目になる。頼むから割り切ってくれ」
何が面倒って、このエルフを始末しようものなら俺の中にいるクソ勇者の残滓が、一生頭痛を与えてきそうな事だ。本当に異世界案件は厄介なのばかりだ。本来であれば、俺みたいな村人が抱えて良い案件じゃない。
「マスターは……本当に……この聖女が何を言っても、わたくしの味方でいてくれますの?」
ルーメリアが凄く不安気な顔をしている。異世界で残酷な事をしてきた自覚が有るのかもしれない。だが、滅びた異世界の事なんて、俺からしたらどうだって良い。そんなのは過ぎ去った遠い昔の事だ。大事なのは、ルーメリアが俺の従魔であり家族って事だ。
「この際ハッキリ言ってとくぞ。お前は残酷な人体実験を沢山したかもしれない。多くの罪も無い命を奪ったかもしれない。だが、それがなんだ? お前なりの正義があった筈だろ。何よりとっくに滅びた世界の話しだ。言わばリセットだ。大体、そんな血生臭い黒歴史程度で後悔すんなよ。黒歴史なら、俺のが遥かにヤバイから。思い出すだけで、うっかり死にたくなるぐらいにはヤバイから」
「マスター……」
ルーメリアはどこか照れ臭そうに近づいてきて、俺のシャツの端を掴みながら頭を差し出してきた。
「ん」
んって何だよ。撫で撫でして欲しいなら、そう言えよ。お兄ちゃんの撫で撫では家族に限っては無料なんだし。と言うか、家族と雪ノ下以外にはやる勇気なんて無いんですけどね!
なので、俺は何も言わずに撫でてやる事にした。
「マスターは、相変わらず女性を慰めるのが下手ですわね。大体マスターの黒歴史なんて、聞いてる限りだと全部自爆じゃないですの」
「うっせ。ブラッドノイズなんて中二病じみた名前の奴に指摘されたくねえよ」
「むっ」
足に痛みが走った。グリグリ踏んでくる当の本人は怖いくらいに笑顔だ。
「痛いから! 俺が悪かったから踏むな!」
「今のわたくしにはルーメリアと言う素敵な名前がありますの。加えて、魔王の名を侮辱するなんて、万死に値しますわよ?」
「ごめんってば! ほら、マッ缶やるから足を退けろ!」
ルーメリアはマッ缶を俺の手からふんだくり、頬を緩ませながら飲み始めた。
にしても、ルーメリアって名前、素敵って言うぐらいには気に入ってたんだな。少し安心したぞ。まぁ最初ポチって名付けようとしてたのは内緒にしとこ。墓場に持って行くまである。
「それより、そのエルフを叩き起こせ」
邪悪な笑みを浮かべながら空間収納からコーラを取り出し、振りまくるルーメリア。あー、こいつマジでタチが悪いな。
「なぁ、そんな子供の悪戯じみた事はよせ」
「マスター、この聖女は我々に迷惑を掛けたんですのよ。このぐらいの悪戯、良いと思いますわ」
まぁ、確かにこのエルフには散々迷惑を掛けられたな。俺だってクソ勇者の件と合わせて殴ってやりたい。
「ちげぇよ。コーラが勿体ないだろ。女の命である髪をバリカンで刈り上げるとか、もっとエグイ悪戯があるだろ」
「マスターが魔王より陰湿で鬼畜ですわ……」
えー、折角ナイスアイデアを出してやったのに。言っとくけど、今出した悪戯のアイデアは日本だとまだまだ序ノ口だからな。朝学校に行ったら自分の席に花瓶が置かれてたりとか、もっとエグイ悪戯あるからね。流石の俺でも、そのレベルの事はされたこと無いけどな。
「それはそうと、髪を切り落として禊をさせるアイデアは素晴らしいですわね」
ルーメリアは短剣を取り出した。そのまま短剣をエルフの頭部に近づけた所で、俺は待ったを掛けた。
「ちょっと待て」
「なんですの? まさか今頃になって同情心が湧いたとか、言い出したりしませんわよね?」
「違う。そのなんだ、よくよく考えたらそれで怒りだして、話が通じなくなったら面倒だろ。とりあえず、水をぶっかける」
「やはりマスターは、捻くれてて甘いですわね」
「そう言うのじゃねーよ。次にそのエルフが面倒を起こしたら、ツルッ禿にするから安心しろ」
俺はキッチンから水をバケツに汲み、気絶してるエルフの真ん前まで行く。
てな訳で、食らえエルフ!
「ゲッホ、ゲッホ! ここは……エイト!」
水をぶっ掛けられたエルフが、俺を視界に収めた事で瞳に希望を灯し始めた。
またエイトかよ。聞きたくもない名前だ。無性に腹が立つんだよ。人の魂に住まわせて貰ってるクセに、家賃を払わないような滞納勇者と一緒にされると。
「ルーメリア、その短剣を貸せ」
「ブラッドノイズ! エイトに何を……エイト!?」
短剣を受け取った俺は、椅子に縛られながら暴れるエルフを分からせるべく、その首に短剣を添えた。
「マジで黙れ。さっきからエイトエイトって、こっちは迷惑なんだよ。俺の名前は比企谷八幡だ。お前が愛した勇者と容姿が似てるだけの一般人だ。だから、俺と勇者エイトを重ねるのはやめろ。やめないならお前をダンジョンで始末する」
だが、納得のいってないエルフは喚き始めた。
「なら何で! 何でエイトの魂を貴方から感じるのよ! ブラッドノイズに、何かされてたんだよね!? エイト、お願いだから思い出して! ブラッドノイズの洗脳に負けないでよ!」
短剣を首筋に置かれて尚、勇者と俺を重ねるエルフ。しかも洗脳とか意味不明な事まで言い出す始末。これは暴力を以ってして分からせる必要があるな。
「ルーメリア」
魔王に合図を送ると、その拳でエルフの右頬に大音を響かせながら衝撃を与えた。
殴られたエルフの口から血が流れる。自分が置かれてる立場を理解したのか、表情は次第に恐怖に染まった。
「いいか、良く聞けよエルフ。2度目は無いからな。俺は勇者エイトじゃない。だが、お前の言う通り、あのクソ勇者は俺の中にいるらしい」
「…………どう言う事……なの?」
意味を把握出来ていないエルフに全てを話した。精神世界でクソ勇者に会った事と、エルフを保護するよに頼まれた事を。オマケとして、ルーメリアと出会った経緯も話した。これ以上、洗脳とか騒がれても面倒だからな。
「お前を保護するように頼まれはしたが、一応お前の意思は尊重するつもりだ。嫌なら出て行って貰って構わない。その時は、二度と顔を見せるな」
厳しめに言ってやると、二度と恋人に会う事が叶わないと知ったエルフは顔を俯かせた。
ヒーラーは欲しいが、必須かと言われるとNOだ。いつか治癒系のスキルを持った魔物をテイムすれば良いだけの話だ。それにエルフが自分の意思で去って行くなら、あのクソ勇者の残滓と言えど頭痛は起こしてこないだろ。
「ねぇエイ……えーと、八幡さん、でしたよね」
「な、なんだよ」
顔色を伺う感じで、名前を呼ばれた事に対して一瞬動揺してしまった。べ、別に名前呼びされてドキッとした訳じゃないからねっ!
「エイトの魂は八幡さんの魂の中へ溶けてしまった。でも、私はエイトと永遠を誓い合った仲なんです。八幡さんに嫌われてる自覚もあります。でもこの誓いは、私のかけがえのない宝物なんです」
だから仲間にしてくれと、言うエルフ聖女。ちゃんと俺を勇者ではなく、比企谷八幡と認識したようだな。にしてもこのエルフ、物好きだろ。自身を嫌ってる元カレ似の奴と、仇敵の魔王がいるコミュニティに入りたいとか、どんだけメンタル鋼なんだよ。
「ブラッドノイズ、貴女にいくつか聞きたい事があるの」
「なんですの? 聖女」
相変わらずルーメリアに対しては目つきが厳しいな、このエルフ。やはりパーティーに加えるのは危険かもしれない。あと、俺の胃が死ぬ。なんなら胃が生きてるか怪しいまである。なんかゾンビみたいだな。ゾンビじゃねえけど。
「貴女程の魔王が、本当に人間の従魔になったと言うの?」
「そんなに信じられないならマスターのモンスターブックを見たらどうですの? それに従魔って、案外快適ですわよ。何も言わなくても美味しい飯は出てきますし、髪だって洗ってくれますわ。なんなら娯楽だってマスターに命令……お願いすれば買ってくれますし」
うん、コイツ命令って言ったよな今。言い直したつもりかもしれないけど、何も直せてないからね。てことで、デザート抜きにしてやる。とりあえず今はエルフに信じて貰う事が優先だ。
未だに疑ってるエルフに、俺はモンスターブックを見せた。
「本当に、あのブラッドノイズが……っ! 教えてブラッドノイズ! 八幡さんとどう言う関係なの! 貴女がただの従魔に収まるなんて、信じられる訳が無いでしょ!」
まるで信じられない──いや、信じたくない様子でエルフは声を荒げだした。
「うーん、従魔以外の関係だと……えいっ♡」
「恥ずかしいからやめろよ」
ルーメリアがいきなり俺の腕に腕をまわして、俗に腕組みと言うのをしてきた。対してエルフは有り得ないモノを見るかのような表情を浮かべていた。
「マスターとわたくしは愛し愛される関係ですわね」
紛らわしい言い方すんなよ。愛してはいるが、それは家族愛だからな。異種族ラブロマンスなんてした覚えはない。
「噓よ……っ! あの、ブラッドノイズが!? 有り得ない、有り得ないわ、ブラッドノイズが人間に恋をするなんて、有り得ないわよ……」
いきなり大声を出したかと思ったら、ブツブツ言い出したんだけど、このエルフ。なに、情緒不安定なのん? ルーメリアに殴られて頭おかしくなったのん? それかエルフって種族の特徴だったりするのん?
「何で……何で……人を愛する事が出来て、あんな酷い事が出来たのっ!! 何で罪もない人間やエルフを沢山殺したの!! 何で妹が死ななきゃいけなかったの! 教えてよ魔王ブラッドノイズっ!! 私の妹が死ななきゃいけなかった理由って何っ!?」
エルフは怒り、もしくは悲しさ、或いはその両方の感情を感じさせられる歪んだ表情で、ルーメリを問いただすように言葉で責め立てる。対してルーメリアは、そよ風を受け流すかのような涼しい態度を取っていた。
「本当に何で人に愛されてるのよ……魔王ならこの世界でも悪逆の限りを尽くしてよ……何で普通に幸せそうに暮らしてるの……私の、この恨みはどこへ向ければ良いの……もう、どうしたら良いのか分からないよ……」
感情の向けどころが無いエルフの目からは、ボロボロと涙が零れ始めた。
残虐だと思ってた仇が、平和な異世界で幸せな家庭を作っていた。恨みを晴らそうにも、何かしようものなら今度は自分が恨まれる対象になる。しかも魔王が愛してる人間の魂の中には、自身の恋人の魂が入っている。厳密には溶けて混ざってるんだけどね。
善性溢れる光属性の聖女様が、感情ぐちゃぐちゃになる理由としてはこんな所か。脳破壊されていく聖女様とか、見てて憐れだな。
俺とは関係の無い、遠い遠い世界の話。聞く必要もなければ、理解する必要もない。なんならこれ以上、俺が憐れな気持ちになる必要も無いだろ。
「あー、故郷の話が思ってる以上に積もってるみたいだな。……終わったら呼んでくれ」
「わたくしのマスターなら、最後まで立ち会うべきですわ」
二階へとエスケープしようとしたが、首襟を掴まれて阻止された。何で俺も異世界のシリアストークに付き合わなきゃイケないんだよ……。
「聖女。貴女が倒した魔王軍暗黒十三牙の一人である、魔将ジェムドを覚えていますわよね?」
暗黒十三牙ってかませ犬感ハンパねぇ名称だな……。魔王軍四天王の下位互換的な軍務組織か。だとしたら魔王軍の人材の層が厚すぎる。
「……ええ、言葉遣いはアレだったけど、敵ながら勇敢で……戦士として立派な死に様だったわ」
「敵である貴女にそう言われて、死んで逝ったジェムドも報われてるに違いないですわね」
そこまで言うと、ルーメリアの表情がどこか暗いものとなった。
「ですが聖女、知ってます? 魔将ジェムドには愛すべき奥方と、生まればかりの一人息子がいたんですのよ? 奥方は貴方の事を大層恨んでましたわよ。貴女がわたくしを恨んでるように」
「…………っ!? そんな……私、そんな事知らない……だって魔族は、戦うことを至上の喜びとしてる残虐非道な存在だって……そう教わって……」
信じたくない様子で震え声を出すエルフの胸倉を、形容し難い笑みを浮かべるルーメリアが雑に掴み、顔を近づけた。
「やっと分かり合えましたわね聖女! わたくし達魔族もそうですわ。人間とエルフの全員とは言いませんが、あなた方人間種は魔族の事を迫害する心無い種族だと思ってましたわ。お互いそう言う偏見まみれだったから、知らなくて当然ですわよね? だって、わたくしも今初めて、貴女に妹が居た事を知りましたもの!」
「噓よっ! 私の妹だと知ってて殺したって聞いたわっ!」
「誰に唆されたか知りませんが、わたくしは貴女の親類縁者に的を絞った事なんて無いですわよ! 魔王軍所属のエルフ以外のエルフ全員を標的にしてましたもの!」
「教皇様が私に噓を言ったって言うの!?」
「出ました出ました教皇教皇。あなた方聖職者モドキは、上の言う事は何でも信じますわね! そんなんだから、宵闇の勇者が一人で死ぬ羽目になるんですのよ。本当に頭のオメデタイ連中ですわ!」
「なんですって……っ! 貴女がっ! 貴女が大量殺戮を犯したのは本当じゃない!」
「殺して何が悪い? 戦争だから殺すのは当たり前じゃないですの。ああ、そう言えばわたくしの首コレクションに、貴女が敬愛してた教皇スーデンの首がありますわ。欲しいならあげますわよ?」
「っ!? ブラッドノイズゥゥウ!! やっぱり貴女だけは許せない! 刺し違えてでも必ず殺すわ!」
魔王は道徳心ゼロの煽りをする。聖女は冷静じゃない。もはや魔王と聖女の言い争いはヒートアップし過ぎて、止めようにも止められない。それこそ本当に再び殺し合いをしそうな勢いだ。
韓国や中国が子供に反日教育を施すように、異世界ではエルフと人間に反魔族教育を施してたのであろう。そんな教育を受けた人種は当然、魔族を迫害する。そして魔族は憎しみから結託して、人間種を滅ぼすように動く。まさに異世界特有の事情って感じだな。誰も幸せにならない復讐の連鎖が永遠に続きそうだ。
俺は平成生まれだから、当然戦争なんて経験した事は無い。勿論戦争で大事な人を失った事も無い。TVを通して、外国で起きてる戦争報道を見ても『大変そうだな~』ぐらいの感想しか湧かない。よって両者の気持ちなんて、俺には1㎜も推し量る事が出来ないのだ。
なんで異世界で人魔戦争が起きたかは知らないし、知ろうとも思わない。ただ、『戦争と言う最も愚かな外交手段を取った時点で魔族側、人類側、どっちもどっちだろ』と言うのが俺の個人的な見解だ。
もう覚悟は出来た。愚かなる異世界戦争の延長戦は、真の意味で直に終わらるであろう。
何故なら、俺がこの戦争を終わらせに来たから。
今から平穏な家庭環境を取り戻す為に、自身が実行する行為へ対して自問自答をする。
Q.異世界での戦争が終わってるにも関わらず魔王と聖女が過去の因縁を持ち出して争っています。どうすれば良いですか?
A.魔王を倒した伝説の勇者になれば良い
「なぁお前ら、今更で悪いんだが、さっきから何言ってんだ? ブラッドノイズとか言う恐ろしい魔王なら俺がとっくに倒したぞ」
「「……は?」」
やめて! その引っ込んでろカスみたいな目を、
「エルフ。コイツはブラッドノイズじゃない。俺がテイムしたヴァンパイアのルーメリアだ。いやー、レッサーヴァンパイアからここまで育てるのタイヘンダッタナー、HAHA」
「いやマスター、どう考えてもそれは無ッムムム!?」
余計な事を言い出そうとするルーメリアの口に、うまい棒を突っ込んで黙らせる。ここは空気読んでマスターに任せろっつーの。
「今更噓をつくにも無理があるわよ! どう見てもブラッドノイズじゃない!」
俺はスマホを開き、ギャーギャー騒ぐエルフにロリメリアだった頃の写真を見せる。
「な? こんな小さい頃から俺が育てたんだ。それとも、お前が異界で戦った魔王ってこんなロリ魔王だったのか?」
出来るだけスマイルで説得を試みるが、エルフは聖女とは思えない目つきで俺を睨んできた。コイツ本当に聖女かよ。人殺しの目になってんぞ。
「ふざけないで! こんなの、異世界転移の影響で退化してるだけよっ!」
「ふざけないでって言われてもな……ブラッドノイズは俺がタオシタシナー」
ヤバイ。冷汗が出るし、何故か変にカタコトになる。村人だって頑張れば魔王を倒す事ぐらいあるだろ。いや、何回死に戻りしても絶対に無いな。
「なら、さっきの言い合いは何だったの? そのヴァンパイア、やけにの異世界事情について詳しいけど? もういい加減、こんな茶番はやめて!」
「あー、コイツ多感な時期でよ、自分の事を魔王だと思ってんだ。きっと勘違いしてるお前に合わせて楽しんでたんだよ……HAHA」
全く誤魔化せてねーよ俺。やっぱり異世界事情に首を突っ込んだのはまちがっていたのかもしれない。お陰で俺の胃世界事情が超ヤバーイ☆
「本当になんなの、この茶番は……ならっ! 八幡さんがブラッドノイズを倒した証拠を見せてよ!」
証拠なんてある訳ねぇーだろバーカ! 空気読んで忖度しろよ。俺なんてガキん時に、周りに忖度し過ぎてずっとぼっちだったんだぞ。折角こっちが『魔王ブラッドノイズは倒されましたメデタシメデタシ』って超ハッピーなエンドを用意してんだから納得してよねっ!
やっぱ戦争をしてきた奴らが、平和な日本で育った俺とは思考回路が違う事だけは分かったわ。
あとブラッドノイズさん、ニヤニヤしながら俺を見るのやめてね。君、思いっきり当事者だからね?
「証拠って……あ」
あるじゃないか証拠が! しかも結構な数あるぞ!
閃いた俺は、空間収納から聖魔神機と言われてる錆びた棒を取り出した。
「っは!? なんで八幡さんが聖魔神機を!?」
「これが証拠だ。邪悪なる魔王ブラッドノイズを打ち倒した俺は戦利品として、コレとストレージリングを手に入れたんだよ。しかも、沢山持ってたからルーメリアにもあげたって訳」
「それ、わたくしが無償であげ、」
「何だって? 高級スイーツが食べたい!? 仕方ないなー、ルーちゃんにはこの高級プリンをあげよう!」
「あら、マスターにしては気前が良いですわね。褒めて差し上げますわ」
またもや余計な事を言い出そうとする魔王に、俺は自分の為に買った高級プリンを泣く泣く差し出した。グッバイ俺の
「…………プッ、そう言う小賢しい所、エイトそっくり……本当ムカつく……」
何がツボに入ったのか知らないけど、椅子に縛りつけられてるエルフが肩を震わせ始めた。
「だから俺は比企、」
釘を刺そうとしたら、暖かい表情で見つめられた。そのせいで、何故か懐かしく温かい気持ちが湧いてしまった。多分、クソ勇者の魂の影響だと思われる。
「うん、そうだね。八幡さんはエイトじゃない。だって、エイトなら何があっても、殺しを簡単に許容したりしないから」
「あの……ダンジョンで殺そうとした事、根に持ってる感じだったりする……?」
「当たり前でしょ。いきなり抱き着いたのは悪かったけど、こっちは話し合いがしたかっただけなのに! あんな事されたら誰だってショックよ!」
いやだって、家族の仇なら殺すだろ普通。あれ、もしかして俺も頭サイヤ人になってきてる? そんな訳ないか。無いと信じたい。
「八幡さん、分かったわ。ブラッドノイズは貴方によって打ち倒された、て事にしとく。でも、私はその聖魔神機を扱うヴァンパイアが、この世界で悪さをしないように見張らせて貰う事にするから」
そして、改めて鎌谷幕府への加入申請をしてくるエルフ。どうやら、こっちの落とし所に落ちてくれたようだ。
どこか安心してると、肩に冷たい圧を感じた。目線の端で確認するしたら、ルーメリアの真っ白な手が置いてある。
「でも凄いですわねマスター。ブラッドノイズとか言う恐ろしい魔王を倒すなんて、見直しましたわよ。是非わたくしにも、その力を見せて欲しいですわ。ゆ・う・しゃ・さ・ま♡」
「ひ、ひっ!?」
背後から聞こえて来たのは、恐ろしぐらいに冷たく愉快そうな声。噓とは言え、俺みたいな雑魚雑魚な村人に倒された設定になったのが気に食わないようだ。魔王が勇者様とか言ってんじゃねよ。勇者と魔王が結託してるみたいだろ。なにその材木座が考えそうなクソ設定。
「……エイトの魂が溶けてるし……ブラッドノイズも倒した事になったし……八幡さんは一応勇者……?」
エルフまで俺を勇者にしようとしてるし……。
違う、俺は本来
あのクソ野郎のエイトは宵闇の勇者。対して俺の場合、敢えて名付けるなら偽りの勇者ってのが妥当だろ。
「勇者ってやっぱクソだな」
一人で小さく呟く。異世界事情に首を突っ込むのはこれっきりにしよう。
そう言えば、目覚めてからなんも食ってないな……。なんか作るか。
「あの……私はいつになったら、この椅子から解いて貰えるの……?」
あ、エルフを鎖でグルグル巻きにしたまんまだったわ☆
♢ ♢ ♢
「ラスティー・ゼナ・セインフィール、328歳。あの憎き教会のエリートコースを歩んでるだけあって、魔法学と魔法薬学に関しては文句無しですわね……」
「
現在、組織の長として人事的な仕事をしている。エルフに履歴書を二枚書いて貰って、それを俺とルーメリアで精査。俺は日本での経歴を、ルーメリアは異世界での経歴を確認している。従魔ならこんな面倒な事しなくて済むのに……。てか328歳のくせして、日本だと23歳って事にしてんのかよ。アホなアイドルでも、こんな露骨なサバ読みしねぇぞ。ただ、見た目が20代のせいで300代だと言われると、そっちのが嘘っぽく聞こえる。エルフ超不思議。
「あの……あとコレ、免許証と保険証」
ぎこちない笑顔で俺の前に身分証を置いてきやがったよ……。
「なんで日本名と日本戸籍を持ってんだよ……。え、本当に
「違います、ハイエルフです! ここ大事ですから!」
おうおう、流石は聖女様。エルフの上位種だったよ。エルフと会っただけでもファンタジー体験してるのに、ハイエルフなのかよ。江戸前のエルダさんだって普通のエルフなのに。いや、あのエルフは普通じゃないな。普通と言うより、引きこもりエルフだ。良いな、俺もあんな感じになりた。
「それは悪かったな……じゃなくてだな、日本戸籍どうやって手に入れた!?」
「それは何と言うか……やむにやまれぬ事情がありまして……HAHA」
渇き笑いをするエルフに対して、ルーメリアは大義を得たような、いい笑顔を浮かべ出した。
「とうとう本性を表しましたわね、この偽善聖女め。まさか、こんな下劣な手段を取るとは! マスター、この卑しい女はきっと役所の人間に思考誘導の魔法を掛けて、戸籍を作らせたに違いありませんわ!」
「貴女だけには、下劣とか卑しいとか言われたくないわよ! 農民を洗脳して、何人もの勇者を葬った癖に!」
また異世界のヤベェ女共が揉めだしたんだけど。
洗脳とか思考誘導とか、異世界の魔法がクソヤベェんだけど。俺に主人公適正があったなら『フッ、面白れぇ女共』で流す事が出来たかもしれない。だがモブな俺は『ヤベェ女共がいる、胃が痛い』にしかならない。
「頼むから日本に異世界のイザコザを持ち込まないでくれ……」
「そ、そうね。ブラッドノイズ、私はきっと……一生貴女の事を許す事が出来ない。でも、あっちの事を日本に持ち込むのも違う。だから、これからは頑張って貴女のいい所を探すようにする。そこから始めよう思うわ」
「フンッ、精々頑張りなさい聖女。わたくしはこれからも貴女を憎み続けますわ」
「っ! 貴女は何でそう、」
「ストップ」
胃を痛めながら俺は割って入った。これだからリーダーとかやりたくないんだよ。マジ隼人君リスペクトだわー。
嫌々ながらも歩み寄ろうとする聖女。余裕で拒絶する魔王。片方が仲良くする気が無いんだから、仲良く出来る訳が無い。
「なぁ、ルーメリア、それとセインフィールさん。お前達は無理に仲良くしなくて良い。出来るとも思えない。仕事をする時だけ、俺に協力してくれ」
ここでミソなのは、俺に協力させる事だ。こいつらがお互いの為に頑張るとは思えないからな。なんならルーメリアとか聖女への嫌がらの為に、わざと足を引っ張る可能性すらある。
「わたくしはいつだって、マスターに献身的ですわよ」
「そうだな。お前がいてくれるお陰で、ダンジョンでの魔石集めがかなり楽になってる。ありがとうな」
「わ、わたくしの偉大さを分かっているようで何よりですわ」
ふんっ、とそっぽを向くルーメリア。尖った耳がどことなく赤いように見える。何でこんぐらいで照れてんだよ。ちょっと可愛いじゃねえか。
「で、話しを戻すぞ。セインフィールさん、あんたは魔法で日本戸籍を入手したって事で良いんだな?」
「は、はい……その、何か問題でも……?」
問題が無いと言えば問題は無い。だが、あると言われれば有りそうな気がする。
発生する問題と言えば賃金だな。戸籍があると言う事は人権が発生してると言う事になる。人権があると言う事は労働に金を払う必要がある。千葉の最低賃金は時間額で1026円。計算が面倒なので1050円で雇うとして、少なくとも1日8時間労働させると8400円を払わなければならない。マジかよ、保護する上に金払うのかよ。俺なんてリーダー手当も胃痛手当も発生しないのによ。
「別に問題は無いけど……あの、給料必要だったりする……?」
「うわっ……ブラック」
ドン引きした上に小さくブラックとか言いやがったぞ、このエルフ。自分でも酷い事言った自覚あるけどさ。やっぱ給料必要かー。労基とか裁判案件にされるのは御免だ。
「冗談だ。えーと、この北海道の牧場で働いてた時の年収を教えて貰っても?」
「確か年収は550万前後だったような……500は確実に行ってます」
「マジか……」
おい、俺の社畜時代より100以上も高いじゃねえか。なに、俺って高学歴なのに、右も左も分からない異世界人に負けてたの? なんだこの地味な敗北感は。
「どう言う経緯で牧場で仕事する事になったのか、もっと詳しく教えて貰ってもいいか?」
「は、はい! あれは確か……」
エルフは自身が日本に来てからの事を語りだした。
異世界が滅ぶ寸前に転移魔法を使い、気づいたら日本の北海道に居たと。
北海道の山道で飢え死にしそうになってた所を、浜松と言う優しい老夫婦に拾って貰い、『行く宛がないなら、うちで働くかい?』と誘われたらしい。しかも北海道の中でも結構大きい牧場で、その老夫婦の家柄も名家だったと。
そして、たまたま連休時に東京観光に来たらエイトの魂を感じたから、辞職したと。
いや、このエルフさぁ、俺が保護する必要ある? そのまま牧場無双してた方が稼げたぞ絶対。
「経緯は分かったが、その長耳はなんも言われなかったのか?」
「最初は驚かれたけど、浜松夫妻は事情を話したら分かってくれたわ。他の人と接する時とかはコレを付けてます」
エルフがピアスを付けると、長い耳が人間サイズの耳になった。出たよ、異世界産のマジックアイテム。しかもこのエルフもストレージリングを所有してるし。なに、異世界だとストレージリングはデフォなのん?
っつーか、その老夫婦よく異世界の話しを信じたな。
「畜産業と聖職者以外の経験はあるか?」
「他だと、異世界では農業もしてたわ。あとは……あ! パソコン教室に通ってたからExcel、PowerPoint、Wordも人並みには扱えると思う。異世界言語のスキルも持ってるから、この世界の言語は全て話せるわ」
oh……。君はグローバルなエルフなんだね。パソコン教室に通う辺り、この世界に馴染もうとする努力が伺える。是非とも外資系企業をオススメしたい。いやマジで何でうちに来たんだよ。officeソフトも使えるなら、いくらでも働き口あんだろ。学歴フィルターに引っかからなければだけど。
そう言えば、異世界言語のスキルを持つ奴がもう一人いたな……。
「なんですの?」
楽しそうにスマホをいじるルーメリアを見つめると、こっちに反応してきた。
「いや、お前も英語とか話せるのか?」
「話す、聞くだけなら余裕ですわ。書く、読むは無理ですけど」
なんか中途半端なスキルだな……。まぁコミュニケーションを取ると言う観点だけで見れば充分便利か。
「よし、セインフィールさん。あんたの時給は1050円な」
「1050円……」
やめて、奴隷墜ちした人間が浮かべそうな絶望的な顔になってますよ。金が必要な辺り、このエルフも現代日本に適応しすぎだろ。
「せ、1100円でどうだ」
「はぁ……」
今度は溜息かよ。このエルフ聖女、意外と図太いな。
っつーか聖女って聖職者だよな。聖女のクセして俗にまみれてないか。俺みたいに奉仕の精神を持って欲しいものだな。
「分かったよ。最初の一か月は時給制で1200円。二ヶ月目から給与制で手取り23万でいいな?」
「も、もう一声!」
上等だ、このアマ!
「……手取り25万払ってやるよ。これ以上文句言うなら、違う魔王の所に売り飛ばすからな」
「うそ! 他に魔王がいるの!?」
いるぞ、雪ノ下陽乃と言う愉快な魔王が。きっとエルフを売りたいと言えば、嬉々として引き取ってくれるに違いない。ククッ
「いやまぁ、魔王みたいな奴がいんだよ」
「アハッ! ハルノは確かに、魔王の素質が有りますわね」
何故か異世界魔王が楽しそうに乗ってきた。魔王同士惹かれあってるのかもしれない。頼むから二人で世界征服とか企まないでくれよ。
「あのブラッドノイズが認めるなんて……日本も意外と恐ろしいのかも……」
大丈夫、日本はいい所だ。もっと言うなら千葉は超いい所だから。恐ろしいのは、何故か俺の周りだけだから。一体前世で何をすれば、こんな周りが恐ろしい事になるんだ。もうヒッキーじゃない。これじゃアンラッキーだよ。さっさとラッキーになりたい。
「ああ、それとあんたの部屋は二階な」
「……うん? マスター、二階に部屋なんてもう無いですわよ」
「俺の使ってた部屋だよ。俺は屋根裏で寝る事にする」
とうとう自分の部屋から自分を追い出すと言うトンデモ人事をする羽目になってしまった。
決めた。早急に大金を集めて、土地と家を拡大してやる。これも大願を果たす為だ。
俺は必ずいつの日か、まちがいのない悠々自堕落な生活を送る!
ここまで読んで頂き、ありがとうございます!