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マットの上で、布団に包まれながらスマホを持つ片手の震えが止まらない。
一応仕事として寝る前に、Xで『鎌谷幕府』と言うワードでエゴサを掛けたら、かなり話題になっていた。いわゆるバズったと言うヤツだ。ちょいちょい俺に対してのアンチコメントも目に付くが、そんなのはどうでもいい。悪口とか陰口には慣れてるからな。
問題なのは、トレンドに『潜影蛇手』やら『ハーレム』が入ってる事だ。この際、ハーレムは無視しよう。もう言われ慣れた。
これでも第三者から見たらハーレムに見えるのは、少なからず認めてるつもりだ。実情は、ただの家族だけどな。
ツッコミたいのは潜影蛇手の方だ。何で潜影蛇手がバズるんだよ。螺旋丸とか、かめはめ波なら分かるが、ドマイナー技の潜影蛇手がバズるなんて想定外だ。しかも、ご丁寧に切抜き動画まで出回ってるしよ。オマケに、アニメとの比較動画まで作られてるし……。いや本当に、俺はいつからフリー素材になった。偉大な三忍の一人と比較されても困る。俺は蛇博士じゃないんだよ。
スクロールを続けてると、3万ものイイネが付いたネガティブツイートが目に付いた。
『一般人の私からすると、従魔も探索者も野蛮な存在にしか見えない。人間に牙を向ける前に取り上げて殺すべき』
俺の従魔を殺すべきだと……。テメェらが死ね、平和ボケした猿共め。こっちは命懸けで、人類が必要としてるダンジョン資源を取って来てるんだぞ。
決めた、スタンピードが起きた時は、猿共が死ぬ様を高みから見物してやるよ。ククッ。
「本当に愚かしい猿共だな」
どす黒い感情を口に出した俺は、否定するように頭を振った。
「いかんいかん、何を考えてるんだ俺は……」
いくら従魔達を悪く言われたからって、人の死を願うのは違うだろ。この仕事をやる前から、世間体の悪い職業だと分かってた筈だ。少し短気が過ぎるぞ俺。
あと、思ってても猿とかの差別表現も控えるべきだ。ネットで調べて分かった事だが、探索者の中にはダンジョンに入らない一般人を猿と揶揄する過激な奴らが一定数いる。最初は偶然手に入れた
…………もう寝よう。これ以上考えても、胸糞が悪いだけだ。
「力が欲しいか……?」
目を瞑ろうとしたら、耳元から聞き覚えのある囁き声がしてきた。
俺はいつ闇堕ちフラグを建てたんだよ。
「俺を闇に誘うな。自分の部屋に帰れ」
声のする方に寝返りをすると、案の定ルーメリアがいた。顔が近い。
「あら、久しぶりに魔王らしい台詞を言ったのに、ノリが悪いですわねマスター」
お前が言うと洒落に聞こえねえんだよ。力を望んだ場合、どういう形で与えられるか考えるだけで怖い。
「寝れないなら、胸を貸してあげますわよ。さぁ、おいでなさいマスター」
追い出し方を考えてると、笑顔で両腕を広げてハグ待ちポーズをしてきた。
大体なんで隣で、ルーメリアが寝てんだよ……。
「あのな、霧化して寝床に侵入するなって言っただろ」
「何を言ってるんですのマスター。従魔ならマスターの夜伽も仕事の内ですわ」
「そんな役割、お前らに求めてない」
最近のルーメリアは【ミスト】のスキルで霧化して、風呂やら寝床に侵入してくるから困る。コイツは、怪盗ルパンの親戚かよ。なんなら、ルパン顔負けだ。
「良いじゃないですの。たまには、寝床を共にしても」
「たまには? ここ最近、起きたらお前が何故か隣にいるんだが?」
「もー、そんな細かい事どうでも良いですわ。えいっ♡」
俺に抱き付いてきたせいで、無駄に発育の良い魔乳が俺の腕に思いっ切り当たってきた。
うん、気持ち良いです。ありがとうございます。いや違う、そうじゃない。
「こら引っ付くな。あと当たってる」
「当ててるんですのよ♡ いくらでも、わたくしのヴァンパイパイを触って下さいな♡」
何がヴァンパイパイだよ。放り投げた柱に、そのまま乗っかって空中移動する鶴仙人みたいな名前だな。
俺は呆れる感じで、溜息をつきながら抵抗を諦めて、仰向けに姿勢を正した。
こう言うのは、抗うと余計に面白がってエスカレートしていくだけだからな。ソースは高校の頃の俺。陽乃さん相手に抗うと、あっちが面白がって状況が悪化した。うん、魔王ってやっぱおっかねーわ。あと、両方とも胸が
「で、マスター。何があったんですの? いつもより目がアンデッドですわよ」
「……別に何もねーよ」
「むっ。この間、小町と長電話してたら『お兄ちゃんの目がいつもより腐ってる時は、かなり思い悩んでるから気に掛けてあげて』ってアドバイスを貰ったんですのよ」
そもそも、なんで小町とTEL友になってんだよ……。こうやって俺の情報が筒抜けなっていくんだろうな。女子の情報網がマジで怖いですわ!
「悩んでると言うより、イラついてただけだ。寝れば収まる」
「ふーん。何でイライラしてるんですの?」
隠す程の事では無いよな……。ルーメリアもSNSをやってるし、見てる可能性が高いか。
思い悩んだが、俺は先ほど目撃した気に食わないツイートに関してざっくり話した。
「何て言うか、アンチツイートを見て、イラついたんだよ。もうブロックしたから大丈夫だけどな」
「あらあら、マスターの事だからわたくし達を思って怒ってたんですのね。よしよし、快楽で慰めてあげますわ」
「やめろ!」
俺のズボンを下ろそうとしてきた。ギリギリの所で、俺もズボンを掴み、せめぎ合いが発生する。
「良いじゃないですの! わたくしとマスターは熱い熱い口付けをして、男女の一線を越えた仲じゃないですの!」
「アレはお前が勝手にして来たんだろうが! 良いからズボンから手を離せ!」
あの時は色々驚き過ぎて、キスで強引に従魔契約してくるなんて思わなかったわ。そもそも、あんな契約方式アリなのかよ。
「ぐぬぬっ、なら先っぽ。マスターの先っぽだけで良いですわよ!」
「お前ふざけんな。その台詞は女子が言って良い台詞じゃねえんだよ。大体、男が先っぽだけで満足すると思うな!」
「なら先っぽから根元まで、全部挿入して良いですわよ!」
「だからヤらねぇって!」
「今ならオプションで、喘ぐ時にお兄様呼びしてあげますわ♡」
「え、マジ……って、変なオプションを付け加えてんじゃねーよ」
ついうっかり『ハァハァ、お兄様、あっん、イクッ、気持ち良いですわぁぁっ、お兄様ぁぁぁ!』みたいなの想像しちまったじゃねぇか! なんなら、めっちゃアリなプレイだと思っちゃいましたよ。
「マスターのヘタレ変態八幡!」
「八幡を悪口みたく言うなよ」
ズボンを下げられては上げるを繰り返してると、ルーメリアが段々と諦めだした。
「むー」
「むくれたいのはこっちだわ。そもそも何で、そんな欲求不満なんだよ」
「別に欲求不満って訳じゃないですわ。マスターとヤってる所を動画に収めて、マスターの交際相手に『うぇ~い! 彼女ちゃん見てる~? 今、貴女の彼氏とベッドの上で愛し合ってますわ!』とビデオメッセージを送りたいんですのよ」
「そう言うクソ知識どこで学んでんだよ……」
何だよその、NTRモノ同人誌の出だしのテンプレ脳破壊は。寝取られ役が男の時点でおかしいじゃねえか。
ただ、雪ノ下は確実に脳破壊されるな。そして、本気を出した雪ノ下が俺をザマァするまでがセットな。俺一切悪くないのにザマァされちゃうのかよ。
「勿論、マスターのパソコンにあるロックされたエッチなフォルダーで学びましたわ」
「どうやって8桁のパスワードを突破した!?」
ルーメリアは、俺のツッコミを無視して上を脱ぎだした。
「おい、何で脱いでんだよ!?」
「もうエッチはいいですわ。抱き枕で勘弁してあげますのよ」
「やめろやめろ、だから引っ付くな」
上半身裸で抱き付いてくる。加えて足を足で絡めてきた。お陰で全身に、柔らかい感触が伝わってくるのを感じる。
「せめてブラを付けろ!」
「ふっん、わたくし1000年以上生きてきましたけど、寝る時にさらしなんて付けた事ないですわよ」
なるほど、異世界の女性はさらしがデフォルトなのか。なんとも後衛的な文明だ。
「小町ですら寝る時はちゃんと付けてるのによ」
「うわっ、マスターキモッ。マジキッショ。なんで妹のブラ事情に詳しいんですの。シスコンキッショ」
妹のブラ事情ぐらい、兄なら知ってて当たり前だろ。……え、当たり前だよね?
ああ! ダメだ! 小町を思い出すと、大志の顔まで連想してしまう。もうやめてくれ、これ以上俺の脳を破壊しないでくれ!
「さあマスター、お休みのチューですわ」
「顔を近づけるな、ビッチヴァンパイアめ」
唇を近づけようようとして来るので、俺はルーメリアの顔面を雑に押し抑えた。
「もー、ビッチじゃないですわ! 殿方とのキスはマスターが初めてですわ!」
「何が初めて……うん?」
俺の気のせいじゃないならコイツ今、『殿方とのキスは』って言ったよな?
コイツと出会った時のキスは慣れた奴の技そのものだった。未経験と言う事は有り得ないと思われる。
て事は……。
「お前まさか……
震え声で聞くと、ルーメリアは訳がアリそうな顔しだした。
「宰相であるガルマンダと、四天王達のせいですわ。彼奴等が『魔王様。結婚相手は俺達より強い奴じゃないと、認めないですからね』って口ウルさかったんですのよ。お陰で、わたくしの側仕えは全て女性。だから性処理は側仕えのメイドで済ませてましたわ」
なるほど。よくよく考えたら頷ける内容だと思う。間違いが起こる可能性を考えると、どこの馬の骨とも分からない男を女王の世話係には出来ないわな。必然的に、ルーメリアの性欲もメイドさん達が世話する事になる訳か。なにそのレズな異世界シチュエーション、超エロい。
ただまぁ、王族特有の結婚相手に縛りがあるのが、なんとも不憫だ。
「魔王様も大変なんだな……」
王族には王族の苦労があり、庶民には庶民の苦労がある。少なくても俺は高校の頃、雪ノ下や陽乃さんを見たせいで、自分から進んで上級国民になりたいとは思わなかった。よし、絶対に雪ノ下家への婿入りルートだけは全力で回避してやる。
「フフッ。お陰で、女性を満足させる術だけは立派になりましたわ」
誇らしげな表情をするルーメリア。性技には自信があるように見える。
「自信があるのは分かったが、俺で試そうとするな」
「むっ」
俺に絡めてる腕と足に力を入れてきた。
「わたくしが寝るまで撫でて欲しいですわ」
「ハイハイ、分かりましたよ魔王様」
頭を撫でる続けると、次第に寝息が聞こえてくる。普段は綺麗系なのに、寝てる時は可愛いんだよなコイツ。
そして、明日の仕事内容を脳内で確認し終えて、俺も寝る事にした。
♢ ♢ ♢
朝の魔力操作ルーティンをいつも通りに終わらせて、裏庭に集まっている。
昨日、ルーメリアが騒がしかったせいで若干眠気がする。なのに、騒がしかった当の本人と言えば元気そのものだ。
「えーと、じゃあ今からこのダンジョンを解放する」
ルーメリアが持って来た瓶の蓋を開けると、黒いモヤモヤが瓶から外へと溢れ出て、ゲートの形となった。
「おお、ダンジョンが増えた」
ダンジョンの直ぐ隣にダンジョンがある。これが世間にバレたら大事になりそうだな……。
「じゃあ、わたくしのチームが入りますわ。1時間もすれば、気絶したオークが届きますから解体は聖女チームに任せますわね」
上機嫌なルーメリアに続き、カマクラ、ソフィー、サブレ、ゴブタニが入っていく。
「ギミィ……」
訳:本当にあの女に付いていくのかよ……
「お前は護衛されて、輸送するだけだから別に良いだろ」
最後に不満気味のエルランが入る。コイツがルーメリアと仲が悪いせいで、昨日は説得するのが大変だった。お陰で追々、車のフィギアを買う事になったよ。
「シャー」
訳:暇だから入口で見張ってくる
ザリンも入って行った。
まぁ、来た時の為の合図役も必要か。ザリンちゃん気が利く子だね!
「なあセインフィールさん。オークの解体って、一体5分ぐらいだっけ?」
「それはブラッドノイズが雑なだけ。ちゃんとやるなら、20分は掛かるわね」
それでも20分かよ。魔力操作で強化された肉体なら当たり前なのか?
雑に自身の体中に魔力を纏わせる。まだ偏りはあるが、毎日朝と寝る前に修行をしたお陰で、前よりはマシになった。
「そう言えば、八幡さんは魔力の扱いはブラッドノイズから教わってるの?」
興味深そうに、セインフィールさんが聞いてきた。
「ああそうだ。今は魔力操作の訓練と、基礎的な近接戦闘の訓練をつけて貰ってる」
「ねぇ八幡さん。そ、その……八幡さんはブラッドノイズとは男女の仲なの……?」
「それは無い、断言してやる。そもそも俺、ちゃんとした人間の彼女いるし」
「だったら何で、ブラッドノイズとあんなに親密なの? 八幡さんはブラッドノイズが怖くないの? 本当はブラッドノイズと、何かを企んでるとか無いよね?」
初日に説明した筈なのに、未だに何かを疑ってるよ、このエルフ。
「まず、アイツが世界征服とか企んでるなら、俺みたいな雑魚の力を借りる必要なんて無いだろ」
どちらかと言うと、俺がアイツに力と知恵を貸して貰ってる立場だしな。
「アイツが異世界で、お前ら人間種に何をしてきたかは察しはつく。だけど、それってお互い様じゃないのか? お前らが悪いとは一概には言えないが、そもそも魔族にちょっかいを出さなきゃ良かっただけの話じゃないのか?」
「私はただ、戦乱を終わらせる為に戦った。それにフィステリア教の教義には──」
「宗教の話はやめてくれ。不快だ」
胡散臭い事を言おうとしたので、遮らせて貰った。
大方その教義に『魔族は悪です』とか書いてあったに違いない。
ただでさえ我が家には、異世界で起きた人魔戦争の禍根が持ち込まれたと言うのに、宗教関連まで持ち込ませてたまるか。
「宗教が不快だなんて……」
「俺は無神論者だ。神頼みしたい時だけ、都合よく神を信じてるんだよ。大体、あんたのいた世界は滅びただろ。なら、あんたの信じてる神も滅んだんじゃないのか? 居もしないモノを信じるのは勝手だが、俺にその手の話をするのは止してくれ」
そもそも宗教の教えって、元は馬鹿共を支配しやすくする為のモノだろ。言ってしまえば底辺校の校則と一緒だ。
で、その教えを時代の権力者達が都合よくパフォーマンス用に改竄して利用してきた。
日本でまともに教育を受けてきた者であれば、誰でも分かる事だ。やはり比叡山は一回燃やして正解だったな。信長グッジョブ!
「そうね、日本人には宗教の話しはタブーだってネット記事に書いてあったのを思い出したわ。不快な気持ちにさせて、ごめんなさい」
セインフィールさんが、申し訳なそうに頭を下げてきた。
その記事って外人向けの記事だろ……。
「いやまぁ……頭まで下げる事はないけどよ……」
気まずい雰囲気が流れる中、お花を摘みに行ってたタマエが戻ってきた。
「うん? あるじ様と後輩さん、何かあったの?」
何かあったって聞かれましても……。宗教的なイザコザが起きそうだった、と言って良いのだろうか……。
「違うんです、タマエ先輩。私が失礼な事を八幡さんに言ってしまって……」
「うーん、あるじ様。後輩さんをいじめるのメッだよ〜」
えー、俺が悪い事にされちゃったよ。
「ちょっとタマエちゃん? お兄ちゃんなんも悪い事してないよ。これはアレだから、新入社員研修だから。ミスした時の為に、謝罪の研修をして貰ってただけだから」
自分で言っといてなんだけど、謝罪の研修って大分ブラックだな。
懐かしいな、俺も新入社員研修で謝罪の練習を3時間させられたっけ。
よくよく考えれば、謝罪の研修とか本当オカシイよな。自社のサービスに自信がありませんって言ってるようなもんじゃねえか。
とは言え、鎌谷幕府がホワイトかと問われると怪しいラインではある。
「あるじ様、ブラックな事させるのメッ」
浮かない顔するセインフィールさんを慰めるべく、タマエはその背中をさすりだした。
タマエが優しい子に育って、お兄ちゃん嬉しいです。
「タマエ先輩……可愛い」
ちょっと聖女さま? タマエの耳をモフモフし過ぎじゃないですか。俺最近、あんまりモフモフ出来て無いんですけど。
「ねぇねぇ、後輩さん。何であるじ様と一緒にいる時、そんな寂しそうな顔をするの?」
タマエのセインフィールさんへの質問に、俺はハッとした。
そう言えば、仕方なくうちに迎えいれて以来、俺はセインフィールさんの浮かべる悲し気な表情を、みて見ぬふりしていた。
と言うより、無意識的に見ないようにしてたかもしれない。
「それはその……」
改めて彼女を顔をちゃんと見ると、憂いのある表情を浮かべていた。
そうか……。魂を見た影響かは知らないが、何故だかセインフィールさんは俺と勇者エイトが同一に見えている。
もう会う事の出来ない愛した相手と同一に見える人間。その人間は自分の怨敵と家族関係を築いている。
頭では別人だと分かってても、その光景を毎日見てれば、嫌でも陰鬱な気持ちになるわな。
「タマエ。セインフィールさんは、給料が低いのを不満に思ってるだけだ。そうだろ、セインフィールさん?」
「後輩さん、そうなの?」
「……えぇ、そうなんです。出来れば年に2回3ヶ月分のボーナスを付けて欲しいな〜、って」
助け船を出すと、誤魔化すように明るく答えた。
その年2回のボーナスに関しては本気で答えただろ……。悪いが、その待遇は大手上場企業でもない限りは無理だ。
「そんな文句言うなら、あんたを雪ノ下HDに左遷してやってもいいぞ」
「うそ! あのエリートしか入れない大企業とコネがあるの!? てか左遷扱いなの!?」
コネと言うか、そこのご令嬢さんと2回目のお付き合いをしてます。えっへん☆
「うっわ、凄いドヤ顔……。でも八幡さんって何気に凄い人……?」
何気ってなんだよ。ナチュラルに凄いだろ俺。
なんて言ったって、俺はあの異世界魔王ブラッドノイズを倒した男なんだからな(大嘘)。
「ちょっとした縁があるだけだ」
まぁいいや、エイト問題はどうにか出来そうな気がするしな。ぶっちゃけこの問題には関わりたくないけど!
三人で適当に雑談をしてると、ザリンがゲートから顔を出した。
「シャー!」
ザリンの合図で、俺達は通販サイトで買った
構えてると、ゲートの向こうから次々と雑に巨体がこちらに投げ込まれてきた。その数は十数体。この雑さはカマクラに違いない。
「マジでオークだ……」
目の前には赤い鎖でグルグル巻きされ、且つ気絶したオークが山積みになっていく。
余りの生々しさに、忌避感を刺激される。
コイツらって気絶してるだけで、まだ生きてるんだよな……。
近づくと、僅かに息が聞こえてくる。
一思いに殺すならまだしも、今から解体しなきゃイケない。凄くイヤなんですけど。しかもなんか臭いし。
「えいっ! 八幡さんとタマエ先輩も首を早く切って!」
セインフィールさんが容赦なくオーク達の首を飛ばしていく。
流石異世界人だ、手慣れている。
「ブモォ……」
「ひっ!?……なんだ、鳴いただけか……ビビらせんなよ」
俺が一体目の首に包丁を入れて手こずってると、タマエがサイコな台詞と共に笑顔で首を切り飛ばしていた。
「美味しくなーれっ♪」
ちょっとタマエちゃん、お兄ちゃん的にその最高にサイコな台詞どうかと思うよ。顔に返り血浴びてるのが本当にサイコポイント高いよ。
「そこ! 八幡さん、もたもたしない!」
「は、はい!」
首切り聖女指導の元、俺は首切りブートキャンプを嫌々こなした。三体しか切ってないけどね。パンピーな俺が三体もの首を落としたんだ、むしろ褒めて欲しい。
「おお、本当にダンジョンの外だと粒子にならないんだな。てか、裏庭が殺人現場になっちまったよ……」
草に掛かった血のせいで、緑の景色が赤に塗られて軽くホラーチックになってしまった。
あとでソフィーとルーメリアに、処理して貰えるから大した問題ではないけどな。とは言え堪える光景なのは間違いない。
「じゃぁ今からオーク解体の見本を見せるわね」
そう言って、聖女様はオークの腰布を剝ぎ取る。
「これは雄ね。雄の場合は先ずはこうして」
いきなり生殖器を根本から切り飛ばした。
容赦無さ過ぎて怖い。お陰で、俺のヒッキーが縮こまってしまったぞ。
「オークの睾丸は滋養強壮や精力増強に効く薬の材料になるから、取っておいて」
「バイアグラかよ……一応聞くけど、その薬ってどんだけ効力があるんだ?」
興味はある。その薬を飲めば、やっはろーを超えたやっはろーしてるヒッキーが見れるかもしれない。
「そうね……90歳のおじいちゃんになってもアソコが上150度元気になるわね」
「マジか……」
欲しがる奴絶対にいるぞ。なんなら商品化すれば稼げるまである。その時の商品名は『ヤッハローの極意』にしよう。
「これであるじ様のアソコが元気になるね~」
「タマエちゃん? お兄ちゃんまだ元気だからね?」
なんなら、まだ上方向に伸びるから。
「取り敢えず、八幡さんの枯れてる悩みはまた今度聞くとしましょう」
いやだから枯れてないって。この子達どんだけ俺をEDキャラにしたいんだよ。
「オークの解体で気を付けるべき事は一つよ。オークの肉体はかなり強靭な脂肪に包まれていて、並のナイフでは刃を入れると、直ぐにナイフがダメになる。だから、ナイフに魔力を纏わせて作業してちょうだい」
セインフィールさんはレクチャーしながオークの部位を的確に捌いていく。
順番としては四肢を切り、胸から腹に渡って縦に切り目を入れて内蔵系と魔石を取り出し、最後に部位ごとの皮を剝がす。
大凡の流れは理解したので、俺とタマエも解体を開始した。
首切りをする時と同じで、包丁に魔纏してサクサク切れば良いんだろ。案外簡単だな──
「八幡さん、全くなっていないわね。しかも魔纏が甘いせいで、部位が何個か傷んでるし」
──と思ってた時期が俺にもありました。
俺の解体した部位を見ながらセインフィールさんが、厳しい評価を下している。
「なんか、ごめんなさい……」
いや5分ぐらいだけならナイフに魔力を纏わせる事は出来るんだよ? ただ解体に集中してると、ナイフに纏わせてる魔力に偏りがでてくるんだよ。しかもナイフに意識を割き過ぎると、今度は解体の効率が落ちる。
「ねぇねぇ後輩さん、これでOK?」
「タマエ先輩、流石です!」
えー、タマエちゃん何でそんな綺麗に解体出来るの? 魔力操作の訓練とかやってないのに。
あれ、もしかして俺って才能ない?
「厳しい事言ったけど、魔族は元々魔力の扱いに長けてるから自分と比べない方がいいわよ」
「べ、別に比べてねーし」
あっぶね、恥ずかしくて危うく家に引きこもる所だったぞ。にしても良かった、どうやら種族的な特徴だったようだ。
「だとしても、毎日訓練してる割には下手だけど」
もうイヤだー。この聖女、平気でグサッとくる事を言ってくるんですけどー。聖女ってもっとこう、慈愛に満ちた存在じゃないのん?
「あの……改めて伺うけど、殺そうとした事、まだ根に持ってたり……します?」
恐る恐る伺うと、聖女様は冷たい笑顔を浮かべた。
「さぁ~? 自分の胸に手を当てて考えてみれば?」
その言い方、絶対根に持ってるじゃん。今となってはノーサイドでいいじゃん。俺の中に勇者がいなかったら完全に敵対ルートじゃん。そもそも勇者いなかったら抹殺してたわ、テヘッ☆
「悪かったって、これあげるから」
「ビール! ……い、一応貰っておくわ」
銀色のビール缶を渡すと受け取って、自身の空間収納にしまった。
フッ、やはり組織を円滑に回すには賄賂が手っ取り早い。
聖女様の機嫌を良くしたところで、俺は解体を再開した。
「シャー!」
俺が三体目の解体を終わらせた辺りで、ザリンが第二波の合図を送ってきた。
もう来ちゃうのかよ。疲労で腕とか結構重いんですけど。
ええい! こうなったら、魔力操作の訓練だと思って無心でやってやるよ!
・・・・
・・・
・・
・
「ハァ、ハァ、もうムリ、ツカレタ」
第三波の解体をどうにか終えた。疲れた俺は全身に返り血を浴びた状態で、地面に仰向けで横になる。
傍から見たら間違いなく殺人現場に違いない。
一日だけでこの血生臭さが取れるとは思えない。今夜と明日の朝は間違いなく長風呂コースだ。さっさと風呂に入りてぇ。
聖女様がゴクゴクとビールを飲みながら、疲れ果てた俺を見下ろす形で声を掛けてきた。
「八幡さん、この世界に生まれてきて良かったね」
同感だね。異世界ヤベェよ。こんな事しないと生きていけないとか、思っていた以上に冒険者が辛すぎる。
だが一つだけ分かった。やはり日本人がよく妄想する異世界転移して、俺tueeeeeするとか俺には無理だ。そもそも価値観的に異世界生活が現代日本人と相性が悪い。ネット小説とかでよく見る設定の、ネットとかスマホが無い異世界なんて俺は絶対に行きたくない。
「あるじ様、大丈夫?」
「ああ大丈夫だ。お兄ちゃんちょっと疲れただけだから」
むしろ俺的には、ピンピンしてるタマエのが不思議なんですけどね。
目を瞑って英気を養ってると、聞き覚えのあるお嬢様口調が耳に入ってきた。
「久しぶりのオーク狩り楽しかったですわ」
ルーメリアが2体の気絶したオークを引きずりながら、他の従魔達と一緒に帰ってきた。
まだオークあるのかよ。今日は第三波までの予定だろ。
「おー、マスターが死体になってますわ!」
とか言いながら、シャッター音を鳴らしてきた。
やめろ、その写メ何に使う気だよ。てか死体じゃないし、生きてるし。
「変な写メ撮るな。で、あとはその二体だけで終わりか?」
「気にしなくていいですのよ。これはわたくしがやりますわ」
そう言って、ルーメリアは解体を手早く始めた。
確かにセインフィールさんのやり方より大雑把だ。首と四肢を引きちぎってるし。いや、何かしらの道具使えよ……。
「ドレイン」
ルーメリアは最後に辺りの血、俺達に掛かってる血を銀色の球の中に吸収した。取り敢えず、掃除がお手軽に終わって良かったわ。
解体した部位を全て空間収納に入れて、俺達は帰宅した。飯を食った後の予定は、オーク食材を使った調理実験。
こんなグロイ仕事をしたあとだと、食欲無いんですけど……。
机に豪華な具材がふんだんに入った鍋を三個並べ終えて、俺は席に着いた。
「えーと、今から鎌谷幕府に加わって頂いたセインフィールさんの歓迎会を始めてたいと思います」
エルラン以外の全員が今集まっている。今後の組織の空気を良くする為にも、歓迎会を開催した。殺そうとした手前、こう言うので少しは緩和しておかないとな。
「ブーブー!」
俺が開催の口上を述べた途端に、魔王が親指を下に向けながらブーイングを飛ばして来てた。いやさぁ、ルーメリア君さぁー、そこは適当にノリ良く『イエーイ』とか言ってくれよ。歓迎会でブーイング飛ばす奴なんて初めて見たぞ。
「ニャーイ」
なんとカマクラが合いの手をくれた。君は出来た猫様だよ。
「ありがとうなカマクラ。それとセインフィールさん、野次は気にしなくて良いから自己紹介してくれ」
「はい、ラスティー・ゼナ・セインフィールです。日本名は開成聖成です。好きな方で呼んで下さい。この度は訳あって鎌谷幕府に入る事になりました。主な役割はヒーラーです。幕府の皆さん、仲良くして頂けると嬉しいです」
笑顔で自己紹介し、最後にセインフィールさんは一礼する。所作がthe聖女様って感じだ。
「ゴブ、ゴブ!」
訳:おう、よろしくなぺちゃパイの姉ちゃん!
うん、コイツはセクハラで捕まればいいのに。
「歓迎して頂いてありがとうございます、ゴブタニさん」
違う違う、アンタそのゴブリンに思いっ切り馬鹿にされてんぞ。
「ワンワン!」
訳:変な耳の人よろしくね!
ちょっとサブレ君? 人の外見的特徴を変とか言うのはダメよ? ガハマさんから教わらなかったのん?
「ニャー」
訳:腹減ったー
コイツに至っては飯の事しか考えてねーし。
「プルプル♪」
「シャー♪」
訳:よろしく♪
「わ~、この子達可愛いですね」
ソフィーはセインフィールさんの頭に乗り、ザリンは首に巻きついた。
「あのねあのね、わたしタマエ!」
「凄くプリティー……じゃなくて、よろしくお願いしますね、タマエ先輩」
「先輩……! そう、わたし先輩! よろしくね後輩さん♪」
どうやらタマエは先輩呼びされるのが気に入ったようだ。なんなら胸を張ってえっへんしてる。
うん、今日もタマエちゃんは安定の可愛いさです。
「じゃあ、挨拶も程々にして乾杯しようぜ。て事でセインフィールさんの就職にか──」
「「乾杯!」」
俺の音頭を無視して全員が乾杯しだしたり、飯を食い始めた。俺ってこの組織のリーダーだよな……。それとも俺が勘違いしてるだけで、本当は下っ端だったんですかね。いや、組織のトップと言うのは常に孤独だと聞いた事がある。て事は、俺のリーダー適正はSSS。何故なら俺はエリートぼっちの精神を持ち合わせてるからな。うん、酒が心にシミルナー。
全員が鍋から自身の取り皿に料理を移していく中、何故かセインフィールさんだけはタイミングを掴み切れていない様子である。
遠慮してモタモタしてると、コイツら平気で全部平らげてしまうぞ。
「ほら、あんたも遠慮しないで食え」
仕方ないので、俺が取り皿に具材を沢山入れて渡した。勿論、肉は退けた。
「あ、ありがとうございます」
セインフィールさんは食い終わると、また気まずそうな表情を浮かべだした。
仕方ない、世話の掛かる聖女様だな。
なので俺はおかわり用の鍋を取り出して、セインフィールさんの前に置いた。
「八幡さん……ありがとうございます」
こんなんで抹殺しようとした事をチャラに出来るなら安いもんだ。
「あ、ちょっと待ってくれ」
「え……」
セインフィールさんが箸を付ける寸前に、ある事に気が付いたから引き下げた。
あっぶねー、エルフって肉とか食べれないもんな。ちゃんと退けてやらないと。
なので俺は肉だけを他の鍋に移してから、再度セインフィールさんの前に鍋を置いた
「さぁ、気にせず食べてくれ」
「酷い……八幡さん……そんなに私の事、嫌いなの……」
何故かセインフィールさんが泣き出したんだけど。
え……? 俺また何かやっちゃいました?
「ゴブ」
訳:うわっ、旦那が女を泣かせたよ
「クゥーン……」
訳:八幡サイッテー……
「プルプル」
「シャー」
訳:かわいそう
「ニャー」
訳:お前はいつかやる奴だと思ったよ
「あるじ様、イジメは良くないよ……」
待て待て、この空気なに? 俺が悪いの? なんで八幡が弾劾裁判に掛けられてんの?
俺がイジメの主犯格扱いされる中、ルーメリアが上機嫌に笑い始めた。
「アハッ! 流石ですわマスター! 陰湿な手段で聖女の心をへし折るとは! それでこそ、わたくしのマスターですわ!」
ルーメリアが嬉しそうにしてるのを見る限り、俺は最悪手を指してしまったようだ。
「あのセインフィールさん……もしかしてだけど……肉が食べたかったりします?」
「逆に何で肉嫌いだと思ったの!」
えー、エルフって肉食うのかよ!
創作物だと大体ベジタリアン設定なのに。これは俺に固定概念を植え付けたサブカルが悪い。なので俺は悪くない。
「わ、悪かったって、ほら肉……アレ、ニクガモウナイ……HAHAHA」
全ての鍋を見渡すと、肉が全て無くなっていた。もう一つ目に付いたのは、肉を無理やり自分の口に詰め込むルーメリアの姿であった。しかも俺と目が合い、茶目っ気を見せてきた。
「テヘッ☆」
ブラッドノイズゥゥ……。やっぱコイツ性根が
「やっぱり八幡さんはブラッドノイズと共謀して私を苦しめたいのね……グスッ」
セインフィールさんが涙を流すと同時に、頭痛が走った。
──ねえねえエイト、これ似合う?
──ああ、お前は何着ても似合うぞ
「うっ……!」
あのクソ勇者、こんなしょうもない事で頭痛をおこすなよ!
「ちょっと待ってろ。肉焼くから」
こうして歓迎会は主役が泣くとういう惨事に見舞われ、俺が追加で料理をする羽目になりましたとさ。
そして俺は今後、異種族の歓迎会をする時は事前にちゃんとリサーチをしようと心に固く誓うのであった。
ここまで読んで頂き、ありがとうございます!
番外編の時系列は42話と43話の間です。
それとお久しぶりです。
エタらせるつもりは無いので愛読して頂いてる方々、これからも温かく見守って頂けると嬉しいです。