か、カマクラが若返ってる!?   作:9ナイン9

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48:夢に近づくと、比企谷八幡は気持ち悪く笑う。

 昔と違って、俺には大きな野望がある。数十億の資産を築いて、家族達と悠々自堕落生活(スローライフ)を送ること。

 一見、社会を知らないガキの妄想じみた願いだが、俺は大真面目に叶えたい。昔なら、こんな身の丈に合わない願いなんて持たなかったであろう。だけど、従魔達の力をもってすれば不可能じゃない。従魔頼りなのが少々情けないが、仕方ない。だってオレ従魔士だもん。従魔は俺の力の一部だし。よって俺は強い。はいQ.E.D.。

 そう、これは天啓。従魔達と共生しながら、専業主夫としてスローライフを送れと、天からのお告げなのだ。まさか、学生の頃から憧れてた専業主夫に、手が届く位置に立てるとはな。まさに天運我に有り! 神様が俺のことを諦めてない!

 いやー、出来るだけ誰にも迷惑をかけずに、謙虚に生きてきた甲斐があったなー。そもそも、迷惑を掛ける相手が大していなかっただけですけどね!

 

「どうしたんですの、マスター? 気持ち悪くニヤニヤして」

 

 ルーメリアが指で俺は突っつきながら、呆れた様子で聞いてくる。

 俺達は今、自宅裏庭のダンジョンゲート前にいる。今日はルーメリアが持ってきたもう一つのダンジョンに入るつもりだ。

 

「……自分を善性溢れる人間に育ててくれた親に感謝してたんだよ」

 

「セコイことしか考えてないマスターが善性溢れる? プッ、相変わらず冗談が上手いですわね、マスター」

 

「八幡さんの場合、善性はともかく素直さを母親のお腹に置き忘れてきた、の間違いじゃない?」

 

 この2人、俺をイジルときは妙に息が合ってるのは気のせいだろうか……。

 ここは俺の善性を保証してくれる証人……ではなく、証犬に一言いって貰おうではないか。

 

「よし、サブレ。俺がどれだけ善性溢れる人間か、こいつらに言ってやれ」

 

「ワンワン」

訳:昔ね、八幡は車から僕を庇って轢かれたんだよ

 

「サブレちゃんは、なんて言ってるの?」

 

「噓……マスターが犬っころを庇って轢かれたですって!? そう言えば、わたくしのことも庇って虫に攻撃されてましたわね……」

 

 やはり同じ俺の従魔だからか、ルーメリアにはサブレの言葉が分かるらしい。

 確かにあったな、そんなこと。アレめっちゃ痛かったわ。

 サブレに証言させておいてなんだが、恥ずかしくなってきた……。

 

「八幡さんって普段悪ぶってるくせして、そう言う一面あるよね〜」

 

 やめろやめろ! あざといヤンキーみたいな扱いをしないでくれ。恥ずかしいから。

 さっさと今日の仕事を開始しよう。

 

「あー、全員集まったし、新たにダンジョンを開放するぞ」

 

 エルランはお留守番してるけどな。

 ニート予備軍のエルランを羨ましく思いながら、俺はルーメリアから貰った瓶を開封してダンジョンを外に出した。

 

 おお、これでダンジョンゲートが3つ並んだぞ。世間にバレたら大騒ぎになること間違いなしだな。だって多分、ダンジョンの移動方法を知ってるの俺らだけだし。そもそも移動方法が、迷宮精霊を恐喝すると言う時点でどうかと思うが。野蛮過ぎだろ魔王様。

 

「うーん、見栄え的にもうちょっと塀にピタッと寄せたいな……」

 

 俺がぼやくと、不敵な笑みを浮かべたルーメリアが、ダンジョンの前へと出た。

 

「偉大なる戦血の魔王、ルーメリアが命じる。壁に張り付くように移動しろ」

 

 威厳を感じさせる声が響くと、ゲートの3つが後退してピタッと、塀の壁に張り付いた。

 こんなんでゲートが動いちまうのかよ。流石は異界の魔王様。あまりの圧に、俺もビビって後ろに下っちまったよ。

 

「じゃあ入るか……」

 

 こうして俺の弱々しい掛け声で、新たなダンジョンへと突入した。

 

♢ ♢ ♢

 

「ニャア!」

 

 カマクラの爪撃を受けて、鉱物で形成された大蛇みたいな魔物が果てた。あとに残ったのは、ドロップした魔鉱石の塊と魔石であった。それを拾って、俺達は更に先へと進む。

 

 このダンジョンは、ルーメリア曰く階層型で計5階らしい。5階だけなら楽勝だと思ったが、一つ一つの階がやたら広い。現に今も2時間以上も掛けて一階のマッピングを、後方でしている最中だ。

 

 しかも、出てくる魔物も見た目からして強そうだ(小並感)。鉱石型の大蛇だったり、鉱石型の大トカゲだったりで。

 

「おい、なんだあれ?」

 

 次は鉱石の鎧らしきモノが出てきた。あれも魔物なのか…………?

 

「ふむ、アレはマジックストーンアーマーですわね。大した相手じゃないですわよ」

 

 ルーメリアの解説を聞いてると、ゴブタニが前へと出た。

 

「ゴブッ!」

 

 居合一閃。目にも止まらない速さで、敵を切り捨てた。

 コイツ、いつの間に斬鉄剣なんてモノが出来るようになったんだ。

 

「おお、凄いぞゴブタニ」

 

「ゴブゴブ」

訳:また、つまらぬ物を切った

 

 なんか、カッコつけだしたんですけど。コイツの名前、ゴブ衛門にすれば良かったかな……。

 そんなカッコつけゴブリンのケツを、魔王が蹴り上げた。

 

「カッコつけてないで、早く進みなさい」

 

「ゴブッ! ゴブゴブ!」

訳:いって! お嬢、少しは褒めて下さいよ!

 

「フンッ、模擬戦でわたくしに、一太刀でも浴びせる事が出来たら褒めてあげますわよ」

 

「ゴブ……」

訳:そんな無茶な……

 

 若干ふてくされたゴブタニが進みだした。俺もドロップ品を拾って、その後を付いて行く。

 

「ドラ~」

 

 背中のリュックに入ってたアーサーが、俺の頭に登って「自分も戦いたいよ~」とか言い出した。

 龍種も血気盛んなんだな。

 

「ダメだ、今日は俺の側で見学しててくれ」

 

 肌感だが、このダンジョンはいつも行ってるダンジョンより難易度が高い。なのでアーサーには、まずいつもの裏庭ダンジョンで研修をさせてあげたい。

 

「ドラー」

訳:分かったー

 

 案外聞き分けが良いなコイツ。適当に返事してるだけの可能性が高いけどな。

 

「みんな止まって。こことか良い採掘ポイントだと思うわ」

 

 ある程度進むと、セインフィールさんが合図を送ってきた。

 俺は空間収納から、今日のために買った魔鉄製(¥50000)のピッケルを取り出し、採掘班であるカマクラ、セインフィールさん、タマエに渡した。あと俺も。

 

「なぁ疑ってる訳じゃないんだが、他の壁と同じように見えるぞ」

 

「他の壁より若干青く光ってるように見えない?」

 

 セインフィールさんにそう言われて、俺は目を凝らすが、やはり違いが分からない。

 

「これだからマスターは。魔力を目に集中させなさい」

 

 なるほど。最近習った対幻影魔法の応用みたいなものか。

 目の内と表面に魔力を集中させると、確かに壁から青い光が漏れてるように見えた。

 

「見えたぞ。この光はなんだ?」

 

「ミスリルの光よ」

 

 聖女様の答えに、俺の脳が理解するのを一瞬遅れた。

 

「……今ミスリルって言ったか?」

 

「ええ」

 

 おおぉぉぉおお! なんと! 一階層で早くも1キロ売るだけで500万、超軽量、超軟度で加工性抜群、魔力伝導率99.8%のあの高級ファンタジー鉱石のミスリルに出会えたぞ!

 

「よし! 早く掘るぞ! ルーメリア達警備班は、俺達採掘班に攻撃がいかないようにガード頼むぞ!」

 

「キッショ、あのマスターが急にリーダーシップを発揮しだしましたわ」

 

「なにこの現金な上司……ちょっと引く」

 

「あるじ様の目が¥になってる……」

 

 何故か全員が俺のことを呆れた目で見ている。

 おいおい、やめろよ。自分がキモイ奴かと勘違いしちまうだろ。確かに俺は、ラノベを読んでるときはニヤけてるキモイ奴だけどさ。結局キモイのかよ俺。

 

「うっせ、これもスローライフのためだ」

 

 夢の為ならば喜んでキモイ奴になってやる。なんなら少年期の頃、女子に何回もマジトーンで『キモ……』って言われながらメンタルを鍛えたから屁でもないね。

 俺のメンタルが言っている『大丈夫。僕、最強だから』と!

 

 最強呪術師(メンタル)になった俺を筆頭に採掘班で掘り進めた。

 途中途中、後ろから戦闘音が聞こえてくるが、ルーメリア達警備班が敵を殲滅してるに違いない。

 

「硬っ、なんだこれ!?」

 

 堀り進めてると、キンッと鳴って体の内側に衝撃を感じた。硬い層に当たってしまったようだ。

 

「こう言う場合は、ピッケル先端の尖がってる所に魔力を集中させて、当たると同時に魔力解放すれば瞬間威力を増やせるわ」

 

 理屈はなんとなく分かるが、ちょっと難しい気が……。

 

「ちょっと俺には──」

 

「はいはい、やる前から諦めないの。見本を見せるわね」

 

 聖女様は腰を落として、ピッケルを肩の位置まで引いた。野球で言うバッティングの構えだ。

 

「ケチ上司ぃぃぃいい! ボーナスよこせぇぇぇぇええっ!」

 

 意味不明な掛け声でピッケルを振り抜き、先端が当たると同時に壁が木端微塵となった。

 

「おい、ケチ上司って誰のことだよ」

 

「さぁ~? 誰のことだろうね~、そんなことよりさっさと掘るわよ」

 

 顎で俺に対して、さっさとやれと指図してきた。

 上司を顎で使うとは、この聖女も大概良い性格をしてやがる。コイツを聖女に選んだ奴の顔が見てみたいわ。

 

 俺は見本通りやってみるが、中々上手くいかない。そもそも、当たると同時に魔力を解放する感覚が掴めない。

 そんな悪戦苦闘する俺の隣ではカマクラとタマエが難なく掘っていた。

 

「ねぇ後輩さん、こんな感じで良いの?」

 

「タマエ先輩もカー君も上手いです! 八幡さんは……」

 

 その俺ときだけ無言になるのやめて。余計傷つくから。最近話題の退職代行使いたくなっちゃうから。組織のトップが退職代行を使うとか、なんか斬新だな。マジでやってやろうかな。

 

「あと基本的なことだけど、八幡さんはもっと腰を使って。腕だけじゃなくて、肩も一緒に振って」

 

 なんか、ダメ出しが多くなってる気がする。その、腰とか振るとか言うのやめて下さい。聖女様が言うと、余計アレに聞こえますよ。

 ……なんか社会に出たせいで、俺も心の汚い大人になっちまったな。アレ? よくよく考えたら昔から汚い人間だったな。

 

「そうそう。そのまま当てて……そこよ! 魔力解放よ!」

 

 卑猥なことを連想しながら聖女のブートキャンプをこなしてると、やっと硬い層を砕くことが出来た。

 もう無理、疲れたってばよ……。

 

「ニャー、ニャー」

訳:おいド腐れ、ニャーはこの棒より爪で堀たい

 

 単純作業に痺れを切らしたカマクラが、俺に文句を言い出した。

 そんなワガママ猫さんの手を、聖女様が優しく握りながら励ました。

 

「ダメよ、カーくんの爪だと威力が高すぎて危ないの。もう少しだけ一緒に頑張ろう? ね?」

 

「……ニャー」

 

 カマクラは大人しく再度ピッケルで堀り始めた。

 あの猫め、俺には文句言うクセに女子相手には従順だよな。きっとこれも、小町による教育の賜物に違いない。やっぱ小町は偉大だなー!

 

 てか、いったい何メートル掘ったんだ? ちょっとした洞穴になるぐらいには掘ったぞ。

 ゴールの見えない作業に、少し不安な気持ちになってるとタマエが喜声に満ちた声を上げた。

 

「あるじ様あるじ様! 綺麗なお石さん見つけたよー!」

 

 タマエが手に持ってるのは、深い青の結晶。

 

「本物のミスリル……! でかしたぞタマエ!」

 

「凄いでしょ! えっへん」

 

 胸を張って、得意気な表情をするタマエ。

 なにこの天使、超可愛い。帰ったらモフモフしよ。

 そこから俺達は、タマエが堀だした箇所を重点的に掘り始めた。

 

「で、出たぞ! しかも、こんな沢山!」

 

 少し掘り進めたら、眩いほど沢山のミスリルが現れた。

 ヤバい、自然と顔が緩んでしまう。一日だけでうん百万も稼いだぞ!

 

「ほら、ダンジョン手当てをやるよ。もうケチとか言うなよ」

 

 部下想いの優しい上司である俺は、ミスリル鉱石一つをセインフィールさんに渡した。

 まぁセインフィールさんには、色々教えてもらったしな。たまには、部下の頑張りに応えてやらないと。

 

「えー、こんなにあるのに、こんだけしか貰えないの? やっぱりケチな上司ね」

 

 半眼でジーっと、俺を見つめながら過大な要求をしてきた。

 ぐぬぬっ、このアマ、なんちゅう強欲さだ!

 

「チッ……これでどうだ? もう文句は無しだからな」

 

 舌打ちしながら追加で四つ渡すと、華が咲いたような笑顔を浮かべてきた。

 

「わー、前々から思ってたけど八幡さんって、イケメンで尊敬出来る上司だよね~」

 

 金の力を使ったら、一瞬でケチ上司からイケメン上司に進化したぞ。やっぱりゲームと同じで、リアルも重課金者が強いのか。道理で世間からパパ活が無くならない訳だ。こんな現実、知りたくなっかったよ。

 

「よし、今日はここまでにして帰るぞ。お前達、今日の飯は楽しみにしとけよ」

 

「ニャーイ!」

 

「わーい、豪華なごはん~!」

 

 よしよし、従魔達が喜んでくれてる。やっぱ沢山稼いだ日は良いものを食わないとな。

 手に入れたミスリルを全て空間収納に入れて、俺達は掘った洞穴から外にでた。

 

「警備班、ご苦労……ってなんだこれ!?」

 

 真っ先に目に付いたのは、ルーメリア達の足元に転がってる大量の宝石と思わしき物。中には金塊と思わしき物まである。

 

「マスター、これらはどうするんですの? わたくしのいた世界では、金とダイヤなら価値はありましたが、このルビーだとかはクリスタリアノイド相手以外には、大した価値は無かったですわよ」

 

「……」

 

 一旦落ち着け俺。クールになれ俺。明鏡止水の心を持て俺。

 とりあえず、何で金目のモノが落ちてるか事情を聞こう。

 

「なぁ、何で宝石が沢山落ちてるんだ……?」

 

「うん? 鉱物型のドデカイ魔物から沢山ドロップしたんですのよ。犬っころとスライムが頑張って倒しましたわ」

 

「プルプル」

「ワンワーン」

訳:僕達頑張ったよー

 

「そうか、サブレとソフィーが頑張ったのか」

 

 サブレとソフィーを撫でながら、自身の顔がだらしなくなっていくのを感じる。

 ミスリルだけじゃなく、まさか宝石類までがっぽり手に入るとはな。案外数十億なんてあっという間かもな。やっと来たな、俺の時代が。遅ぇよ時代、超待ったぞ。

 

「人間ってこんなにもキショイ顔が出来るんですのね……」

「上司がデュフフって笑ってる……怖っ」

「あるじ様が気持ち悪くなっちゃった……」

 

 俺はデュフりながら、乞食のように宝石類を拾い集める。

 従魔達の方から、気持ち悪いだとか聞こえるが大丈夫だ。何故なら俺のメンタルが『大丈夫。僕、キモイから』と励ましてくれるから。

 おい待て、とうとう自分のメンタルにもキモがられてんだけど。

 

♢ ♢ ♢

 

番外編:異世界で生きてた意外な人物達!

 

 昨日は、どうにかセインフィールさんのエイト問題を解決した(解決出来たと信じたい)。

 今日は日曜日。休日を活かして人型従魔達の教養をアップするべく、日本の歴史に関する授業を開催してる。それに何故か、セインフィールさんも参加している。

 はて、セインフィールさんは日本の歴史に興味があるのだろうか?

 

「以上、まとめると日本は古来より天皇制であり、天皇様は日本の象徴だ。基本的に天皇様は、政治には関わらない。だが、国民の幸福と世界の平和を願って、国の大事な行事に参加してくれている。よって全員、天皇様を敬うように。くれぐれも、馬鹿にするような発言はするなよ。特に配信で」

 

 一通り天皇の歴史に関する授業を終えて、この場に居る全員に形だけでも天皇様を敬えと警告する。

 

「うーん、一番偉いのは天皇様で……でも本当に偉いのは総理さんだから……あ! あるじ様分かった! 天皇様は偉い人にとって、都合の良いお人形さん!」

 

 おっと、タマエが自分なりに良くない解釈をしちゃったぞ。この解釈を要約すると傀儡政権と言うことになるぞ。

 でも、あながち否定出来ねぇ。過去の歴史において、天皇が時の権力者達に都合よく扱われてきた、ってのは度々あったしな……。

 

「タマエ、ちょっと違うぞ。天皇様は別に、偉い人の人形って訳じゃない。どちらかと言うと、憲法(ルール)に縛られた健全なお人形さんだ」

 

 結局お人形さんなのかよ。

 もっと良い伝え方を考えてると、魔王が嘲笑いだした。

 

「ハッ! やはりただのお飾り王家じゃないですの。戦場に立ったこともない。(まつりごと)にも関わらない。誇れるのは、神の子孫だと言う胡散臭い歴史だけ。わたくしのいた世界なら、すぐに滅ぼされてますわね」

 

 言い方言い方! 天皇様(トップ)を戦場に駆り出そうとするのをやめろ。軍事力重視の思想はマジでやめて欲しい。戦国時代なら名君かもしれないが、現代日本だと暗君だぞ。やはり価値観が違い過ぎる。

 でもまぁ仕方ないとも思う。ルーメリアは戦争の絶えない世界から来てるしな。コイツからすれば、実権を握れてない天皇様は情けなく見えるのであろう。俺的には、俺と身内と千葉が平和なら、誰が権力者でも大して気にしないが。

 

 ……いや、日本に戦争が起きないからと言って、誰でもは良くないな。一時期消費税を12%まで上げてしまった自国民平和党みたいな党が、政権を握るのは本当にダメだ。あの無能眼鏡総理だけは、許してはイケない。もうお亡くなりになったけど。

 まぁ今は消費税が5%まで下がって、暮らしが以前より楽になったけどな。ありがとう現総理! 今年も皇国民第一党を応援します!

 

「ちょっと、やめないさいよブラッドノイズ。いくらなんでも不敬よ。……象徴として、少し頼りないのは認めるけど」

 

 えー、セインフィールさんもそういうこと言っちゃうのかよ。

 こいつらが本格的に天皇様を馬鹿にしだす前に、少し話題を逸らそう。

 

「なぁ、この世界の歴史だと勝ち戦じゃない限りは、王自らが戦場に立つってあんまり聞かないんだが、お前らん所の王様連中は戦場に立ってたのか?」

 

「当たり前じゃないですの。魔族、人間種に関わらず戦争になれば王が主戦場に出張ってきますわよ」

 

 ルーメリアの言葉に、意外とセインフィールさんが頷き始めた。

 

「そうしないと派閥の支持率が下がるし、敵対派閥に付け入る隙を与えちゃうからね。……本当、ああいうの面倒なのよ」

 

 遠い目をしながらセインフィールさんが語っている。

 聖女様だし、政争に巻き込まれた嫌な思い出でもあるのか……。うん、触れないようにしよう。

 

「いましたいました。わたくしにも、敵対する旧魔王派閥の連中がいましたわ。懐かしいですわね。まぁそう言う愚かな連中は、暴力と脅迫で分からせてやりましけど」

 

 戦乱時の国政に関わってきた奴らなだけはあるな。こいつらの一言一言から、生きてきた世界の違いを感じさせらる。そう言うドロドロとした政治劇は、ドラマだけで充分です。頼むから我が家でドロドロするなよ。じゃないと、俺どろーんしちゃうから。

 

「どうせアレだろ、出陣つっても戦場の後方に構えてるだけだろ」

 

 ルーメリアは、頭サイヤ人だから仕方ないとして。古今東西、王を出陣させる理由なんて軍の士気を上げるためのパフォーマンスに過ぎない。王自らが剣を振るなんて、フィクションの中だけだ。

 

「なに言ってるんですの? わたくしが葬ってきた王達は、自らワイバーンに跨って、前線で得物を振り回してましたわよ」

 

「うんうん。大体、どこの王様も血気盛んだったしねー。武闘派じゃなくても後方で強力な攻撃魔法を放ってたりするし」

 

 前言撤回。コイツらの居た世界がもうフィクションみたないもんじゃねーか。死んだらアウトな人が戦場の前線に出るとか、キングダムでしか見たことないぞ。なに、みんな天下の大将軍でも目指してたんですか?

 

「ねぇねぇあるじ様。王様が戦うのっておかしいことなの?」

 

「そうだな。俺の価値観で言えば、物凄くおかしい。王様が死んだら、最悪国が傾くし」

 

「そんなの、出陣前に後継者と補佐役を決めてるから大丈夫ですわよ」

 

 そんな簡単で良いのかよ、後継者決めって……。

 疑問に思っていると、セインフィールさんが懸念点を話だした。

 

「でも、後継者の王子様が幼かったりすると、補佐役の派閥が政権を握って好き勝手にやりだすのよね~」

 

「それも幼き王にとっての試練。傑物なら、成長した時に国を己が手中に収めますわ。逆に愚物なら、一生そのまま奸臣共の操り人形ですわね」

 

 聞いてるだけで、嫌になるリアルなドロドロ感だ。

 てかコイツら、仲が悪いクセに話に華が咲いてるぞ。あんまり綺麗な華じゃないけど。

 

「んじゃ、今日の授業はここまでな」

 

 話が大部脱線したので授業終わらそうとしたら、ルーメリアが待ったを掛けだした。

 

「マスター。わたくし、この58ページに書いてある戦国時代と言うのが気になりますわ!」

 

 やっぱ気になる所そこかー。どんだけ戦いが好きなんだよ。とは言え、日本の歴史に興味を持ってくれたことを嬉しく思う。

 やれやれ、マスターとして従魔の為に一肌脱ぐか。

 

「わーったよ。少しだけ授業をする」

 

 応仁の乱から始まり、足利幕府の権威が低下して北条早雲を筆頭に、各地に独立した勢力を持つ戦国大名が台頭する。そこから織田信長が天下統一に王手を掛けるが、明智光秀の手によって本能寺に倒れる。そして、羽柴秀吉が山崎の戦いに勝利して、織田家から実権を奪取する。関白になった秀吉の死後、徳川家康率いる東軍が関ヶ原の戦いで勝利。その後、徳川家康が1603年に江戸幕府を開く。最後に、大阪の陣で豊臣家を滅ぼして戦国の世を終わらせた。

 

 途中で何回か質問されたが、こんな感じの説明をざっくりして終えた。マジでざっくりだな。教師だったら間違いなく親御さんからクレームがきちゃうレベル。しかも、女子生徒をいやらしい目で見てたとか言う冤罪をかけられるまでがセットだ。

 あっぶね! 平塚先生に憧れて、教師にならなくて良かったわ。

 

「織田信長……織田信長……やはりどこかで聞いた気がしますわ……」

 

 何故かルーメリアが、信長を連呼している。はて、どうしたのだろうか……?

 あれか? 同じ魔王だから通じる所があるのか?

 信長の場合は自称魔王だけど。

 

「おい聖女。あなたに聞くのは癪ですけど、織田信長に聞き覚えはなくて?」

 

「あなたは、いちいち一言多いのよ。でも確か、オダと言う王様が私達の世界にいたわね」

 

 どうせたまたま異世界の偉い人に、オダオとか言う奴がいた、みたいなオチだろ。

 

「……あ、思い出しましたわ! マスター。我々のいた世界に、ノブタダ・オダと言う人間がいて、極東の島国の主だったんですのよ」

 

 ノブタダ・オダ……ノブタダ織田……織田信忠!? 別に詳しい訳ではないが、俺の記憶が正しいなら、聞き覚えがあるどころじゃないぞ。信長の野望で何度も見た武将だしな。

 有り得ないと思いつつ俺は、検索エンジンに織田信忠と打った。

 

 なになに……信長の嫡男であり、本能寺の変で信長と共に散った悲運の将である。性格は大胆で、決断力に優れている、と書いてある。生きていれば豊臣の天下は有り得なかった、と評価している学者がいる程有能な人物であったことが伺える。

 だとしても、有り得ないだろ。たまたま異世界に、名前が同じな王様がいただけに違いない。

 

「しかも、自己紹介の第一声が『第六天魔王、オダ・ノブタダである』でしたわ。人間のクセに魔王を名乗るなんて、随分と奇特な人間でしたわよ」

 

 奇特じゃない。マジもんの奇妙様だよ!

 父親の自称を真似てる時点で、もうほぼ確定だ。転移か転生かは知らないが、確実に信忠さん異世界に飛ばされてるじゃん。しまいには王になってるし。

 

 そうだな、書籍化するなら『二条御所の炎に包まれたら知らない地にいた件について。~是非もなし!ならば異国の地にて天下を狙うまでよ!~』こんなタイトルが妥当だろ。五巻まで続いたら、やっと買うか悩むレベルのタイトルだな。

 でもマジかー、織田信忠ってなろう系主人公だったのか。ヤベェめっちゃ面白いんですけど。

 

「……なぁ、その王様、他に何か特徴的なことを言ってなかったか?」

 

「そうですわね……会ったのが、わたくしが728歳のときだったので、記憶が曖昧ですわ……うーん……」

 

 思い出すまで時間がかかりそうだったので、俺は聖女様の方にボールを投げることにした。

 

「セインフィールさんは、その王様に会った事があるのか?」

 

「いえ、無いわ。初代オダ王が生きてた年代だと、私はまだ幼かったのよ。ただ、その王様が極東の島国にヒイズル国と名付けた、と教会の授業で聞いたわ」

 

 ヒイズル国……日出ずる国じゃねーか。信忠さんめっちゃ日本のこと恋しがってるじゃん。

 

「あ! よく『であるか』、『是非もなし』と言ってましたわ。しかも、いきなりわたくしに側室になってくれ、と身の程を知らない求愛をしてきたので小指を詰めてやりましたわ」

 

「なに指詰めてんだよ!? 織田信長の息子だぞ、絶対そうだ!」

 

 てか側室って……。信忠さんハーレムしてたんですね。もうなろう系のテンプレじゃないですかー。

 

「普通に許してくれましたわよ? 『おぬしのような強く麗しい女性になら、小指の一つぐらい安いものだ』なーんてクサイことも言ってましたわね」

 

「信忠、女性に甘すぎだろ……」

 

「あとそう言えば、酒の席で『我は元々違う世界で偉大な父上の後を継ぎ、王になる筈だった。だがキンカンの阿呆が謀反をおこしたせいで……。いや違うな、キンカンを唆したのはサルに違いない!』と酔っぱらいながら言ってましたわよ。戯言かと思って聞き流しましたけど、本当っぽいですわね」

 

 えーと、確か金柑が明智光秀で、猿が羽柴秀吉だから……なんだろう、歴史の闇に触れた気がする。確かな証拠も無いし、聞かなかったことにしよう。

 でも、一番ツッコミたいのは、よく指を詰めてきたサイコ魔王と酒を飲む気になったな。きっと懐の深さも父親譲りだったのであろう。

 

「ねぇあるじ様、さっきから何の話してるの? わたし、分かんないよー」

 

「簡単に言うと……そうだな、昔死んだと思われた日本の偉い人が、ルーメリアの世界で生きてんだ」

 

「ねぇ後輩さん後輩さん。そんなことあり得るの?」

 

「そうね、確かに異世界から人を呼び寄せる禁忌の儀式魔法は存在します。ただ極東の島国に、その魔法が伝わってるとは思えないから……考えられるのは、何らかの原因で日本に空間の歪みが発生して、オダ王が転移したのかも」

 

「聖女、それは有り得ないですわ。本人曰く、目を覚ましたら10歳以上も若返ってヒイズル国の草原にいた、と言ってましたわよ」

 

「若返りまで……だとすると、ごく稀に起きると言われる、世界の意志で次元渡りが起きたとか……?」

 

 世界の意志ってなんだよ。信じたくないけど、ラノベでよくある神様に転移させられたってやつか?

 

「ルーメリア、織田信忠はなんかこう、凄い力とかスキルとか持ってなかったのか?」

 

「直接鑑定してないから確証ではないですけど、本人曰く『天下人』と言うジョブらしいですわよ。剣を交えた感想としては、わたくしが4割の本気を出すぐらいには強かったですわね」

 

 全盛期のルーメリアが4割か。うん、どう考えてもチートジョブだろ天下人。これは神様、あるいは超常的な何かにチートを付与されてますね。

 

「ああ、マスター。勘違いしてならないのは、どんなに強い戦闘向きのジョブでも努力しなかったら、華が咲くことは一生ないですわよ。オダ王の強さは、魔力操作訓練とかの基礎的なことをしっかりしている所だと思いましたわ。何より奥方が30人もいて、甲斐性があるように感じられましたわね」

 

「そのあたかも、俺が努力しない甲斐性無し、みたいな言い方すんなよ。甲斐性無しなのは認めるが、いくらなんでも30人とか多すぎだろ」

 

 一夫多妻、価値観が戦国時代だ。英雄色を好むとは良く言ったものだな。織田信忠は間違いなく父親似だよ。

 

「エルフ、ドワーフ、獣人、果てにはハーピィ、クリスタリアノイド、龍族の奥方までいましたわよ。流石のわたくしでも、少しビックリしましたわ」

 

 多種族ハーレムかよ。

 この情報にセインフィールさんが驚きだした。

 

「それ本当!? ハーピィ、クリスタリアノイド、龍族を奥さんにするって、結構物好きな王だったのね……」

 

 セインフィールさんのリアクションを見る限り、異世界人の価値観的に有り得ない種族を奥さんに迎えてるのが伺える。多分だが、信長の珍しい物好きが信忠にも遺伝してる気がするぞ。

 

「あと、わたくしの国と国交を開くにあたって、立候補してきたヴァンパイア族の女性を嫁がせましたわ。オダ王があんなに喜んでくれるなんて思わなかったですわね。ふふっ」

 

「ねぇねぇ、ルーお姉ちゃん。そのヴァンパイアの人は幸せになったの?」

 

「ええ、たまに里帰りしてきた時なんて、ずっと惚気話を聞かされましたわよ。因みにオダ王とその女の間に生まれた子は、15男と言うこともあって、魔王軍近衛師団長になりましたわ」

 

 ちゃっかり外国の王族を家臣にしてるし。でも15男までいくと、流石に王位継承権は無いか。なら母方の地元で待遇の良いポストを与えて、働かせた方が案外いいのかもしれないな。

 

 それにしても、30人以上もいる奥さんの満足度を高い状態で維持するとは……。なんて言うか、英傑の息子はやっぱ違うな~。俺だったら全員にナイフでめった刺しにされてるね。それ以前にハーレムなんてしないけどな。

 

「織田信忠の話ばかりになったが、他にこっちの偉人の転移者はいなかったのか? 聞いてて面白い」

 

 俺の質問に、2人が腕を組んで悩みだした。この様子を見るに、織田信忠がイレギュラーだったのであろう。

 

「わたくしがそれらしい事を聞いたのは、初代オダ王だけですわ。それ以外だと、愚かな小国が異世界召喚の禁忌を犯した事件ならありますが、長くなるのでそれはまたの機会にしますわね」

 

「今思うと、心当たりが一人いるのよね……ねえ八幡さん、コーソン・ハーケイって聞き覚えあったりする?」

 

 なんだよコーソン・ハーケイって。そんな偉人、少なくとも俺は知らないぞ。

 モノは試しだと思い、検索エンジンに『コーソン・ハーケイ 偉人』と打って調べてみる。

 だが、やはり該当する偉人はいないようだ。

 

「名前だけだと特定がムズイな。なんかこう、こっちの世界に関することを言ってなかったか?」

 

「えーと……中華よ! チュウカのカホクが恋しいって言ってた。カホクは分からないけど、今思うとチュウカはきっと中華料理の中華に違いないわ」

 

 ならカホクは、中国の河北省に違いない。てことは北京のある辺りか。

 改めて検索エンジンに『コーソン・ハーケイ 中国河北省 偉人』と打ってみた。

 そして、AIが絞り込んだ候補に出てきたのは、中国後漢末期にいた武将の名前。その名は公孫瓚。字は伯珪。

 

 おー、知ってるぞコイツ。漫画とかだと初期劉備の兄貴分的な奴だ。確か袁紹に負けたんだっけ。

 

「なぁ、それコーソン・ハーケイじゃなくて、公孫瓚・伯珪じゃないのか」

 

「そう言われても、分からないわ。なんか、名乗るときはいつも独特な訛りだったし」

 

 なるほど。上手く聞き取れなかったオチね。

 にしても、公孫瓚か。信忠と言い、マイナーとまでは言わないが、有名一歩手前の武将ばっかだな。歴史系の作品に触れたことのある奴なら分かるって感じの武将だ。

 

「ねぇねぇ、その人は何した人なの?」

 

 タマエの質問に、俺は首を傾げる。

 ゲームやら漫画の影響で名前を知ってるってだけで、詳しくは知らないんだよな。強いて言えば、騎馬隊の印象が強いぐらいだ。

 なので、タマエの質問をそのまま聖女様にパスした。

 

「公孫瓚はそっちで何やってたんだ?」

 

「エームル公国と言う国で、騎士団長をしていたわ。手合わせをしたけど、結構な腕前だったわよ。特に槍が凄かったわね」

 

 似合うな騎士団長。にしても、異世界では騎士団長なんて安定的な職業に就いたのか。きっと袁紹にボロ負けしたから丸くなったんだな。なんか哀愁が漂ってそうな騎士団長だな。

 

「聖女。お前の言うエームルの騎士団長とは、白き鎧を纏っていて、白いラウンドホースに跨ってた奴のことですの?」

 

「そうよ、よく知っているわね。エームルの『白い斬撃』と周辺諸国に恐れられていたわよ」

 

 異名カッコ良過ぎだろ公孫瓚。なんだよ斬撃って。どんだけ切りまくってんだよ。

 公孫瓚の活躍ぶりに感心してると、ルーメリアが妖しく黒い笑みを浮かべだした。

 

「知ってるも何も、わたくしが討ち取りましたもの。あの強さ、間違い無くわたくしのベストバウトTOP10には入りますわよ。しかし彼奴、こっちの出身だったんですのね。殺さずに捕えとけば良かったですわ」

 

「「……」」

 

 【悲報】公孫瓚が異世界で魔王に殺られてた件について。【討死】

 これは書籍化無理っすね。せめてもの救いは、その魔王が強者扱いしてくれてる事だな。

 三国志でもそうだが、公孫瓚って主人公の強敵と外伝で戦ってる立ち位置なんだよな。なんか、回想に出てくる的な感じで。

 

「コーソン騎士団長……恩あるあなたの仇を取れないこと、どうかお許しください」

 

 何故か聖女様が、天に向かって祈りを捧げだしたんだけど……。

 

「ハッ、ハハハハハ! どうしたんですの聖女? そんなに仇が取りたいなら、いつでも相手になりますわよ」

 

 煽るな煽るな。本当そう言う所だぞお前。

 

「いいえ。この世界で、あなたと無益な争いをするつもりは無いわ。もう憎しみの連鎖は終わりにするべきなのよ」

 

「大層ご立派な心構えだこと。なら黙って、エームルの騎士団長の首が握り潰される所を見てるがいいですわ」

 

 ルーメリアは、空間から麻袋らしき物を取り出した。きっとあの中に公孫瓚の首が入ってるに違いない。

 揶揄うにしては、そろそろ度が過ぎてるぞ……。

 

「やめなさい、ブラッドノイズ。死者の体を弄ぶなんてあってはならない事よ!」

 

 だが、ルーメリアは止まらない。袋に手を入れ出した。

 

「やめなさい、と言った筈よ」

 

 聖女は空間から大杖を取り出して、魔王へと向ける。対して、ルーメリアは好戦的な笑みを浮かべた。

 

「得物を抜きましたわね」

 

 一触即発の空気。二人の殺気が辺りに飛び散る。

 怖いけど、流石に止めた方がいいな。

 

「お、おい……お前ら──」

 

「メッ! お姉ちゃんヒドイことするのメッ! 後輩さんも武器を向けるのメッ!」

 

 俺がチキってる間に、タマエが止めに入った。

 

「タマエ、下がりなさい。あなたには関係ないですわ」

 

「ヒドイことするなら、もうルーお姉ちゃんとゲームしないから!」

 

 タマエの言葉にルーメリアは苦虫を嚙み潰したよう表情になり、不貞腐れた様子で片手で頬杖しだした。

 

「……チッ、興が削がれましたわ」

 

「タマエ先輩、わざわざありがとうございます」

 

 ルーメリアはつまらなそうに麻袋を人差し指で回し始め、セインフィールさんは安堵しながらタマエに軽く頭を下げている。 

 魔王と聖女の争いを止めるとは、タマエちゃんマジ勇者。

 

「ねぇブラッドノイズ。その首、故郷の河北と言う所に埋葬してあげたいの……だから……お願いします」

 

 おいおい、聖女が魔王に深く頭を下げてるぞ。そんなに大事な首なのか……。

 

「ほぉう、エームル騎士団長の首を譲れと? これは、わたくしが戦場で正々堂々と真正面から戦って討ち取った、大事な(コレクション)ですのよ?」

 

 白々しくルーメリアは口を回し始めた。何を望んでるかは分からないが、交渉を有利に運ぼうとしてるのが透けて見える。

 なんて図太さだ。その大事なコレクションを、潰そうしたのどこの誰だよ……。

 

「勿論、タダとは言わないわ」

 

「ッ!?」

 

 何やら禍々しい見た目の本と思わしき物を、空間から取り出しだしたセインフィールさん。それを見たルーメリアの目は、驚きに満ちていた。

 

「あなたの魔法の師だった忌存の魔女、アーディンが記したとされる禁命の書よ。これなら釣り合うんじゃないの?」

 

「おのれぇ、忌々しい……なぜ聖女が……所有の刻印などは施してないのですわよね?」

 

「えぇ、してないわ。と言うより、出来なかった、のが正しいわね」

 

「フッ、ならいいですわよ。取引成立ですわ」

 

 互いの物を渡し終えると、それぞれ大事そうに物を抱えだす。両者のその光景は、どこか郷愁を感じてるように見えた。

 

「我が尊き師アーディンよ……。時間は掛かりましたが、これで遺言通り貴女の禁書を全て集めることが出来ましたわ」

 

「コーソン騎士団長。私とエイトを助けてくれたご恩、やっと返す事が出来るわ」

 

 なんか、呟きを聞く限りだと、どっちもスゲェ訳ありって感じだな。

 しんみりとした空気の中、タマエが嬉しそうに俺の袖をコッソリ引っ張ってきた。

 

「あるじ様あるじ様、一件落着だね♪」

 

「ああそうだな。タマエのお陰だ。頑張った褒美に夕食はタマエが決めていいぞ」

 

 本当にタマエが止めなかったら、異世界決戦が勃発していたところだったしな。

 

「本当!? じゃあ、今日はキツネうどん大盛り!」

 

「お、いいぞ。なんならお兄ちゃん、お稲荷さんも作っちゃうぞー」

 

 オーク肉も大量にあるし、チャーシュー作って細かくして、いなり寿司に組み込もう。今日の夕食はお狐定食で決定だな。

 

「わーい、お稲荷さーん!」

 

「八幡さん、私は中国の河北に行ってくるわね。今日中には戻るから」

 

 タマエの頭を撫でてると、セインフィールさんが訳の分からない事を言い出した。

 この人、世界との距離感バグってるだろ。

 

「いや今日中って、流石に無──」

 

「じゃあそう言うことだから!」

 

 室内に強風が吹いた。腕で顔をカバーしてる間に、聖女様が目の前から消えてしまった。

 

「今のは風系統の魔法ですわね。今頃は遥か上空にいますわよ」

 

 マジかよあの聖女。堂々と敵対国家(チャイナ)無断入国(イッチャイナ)しに行ったぞ。ヤベェなおい。




オハ幕府!
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