か、カマクラが若返ってる!?   作:9ナイン9

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49:タスクが終わっても、比企谷八幡のタスクは増える。

 

 昨日に引き続き、今日もファンタジー鉱石集めに勤しんだ。

 二日間の探索をして、どんぶり勘定でうん千万。こんだけあれば目的に対しての第一準備は完了だ。

 明日は唐ヶ原さんの所に行って、イベント用業務服の作成。

 これで当面の仕事は、オーク狩りだけだな。

 最大の目的(Sランクダンジョンクリア)を達成したら、オークの卸売業者をやるのもアリだな。

 ……やっぱダメだ。俺の思い描くスローライフ計画からズレる。

 

「はぁぁ~……ふぅ~」

 

「おぉ! 珍しくマスターが疲れた人の声を出してますわ!」

 

 お湯の温かさに癒されながら身を浴槽に沈めて放心してると、浴室の外からルーメリアの驚いてる声が聞こえてきた。

 さっさと着替えてリビングか部屋に帰れよ。

 

「珍しいってなんだよ。人間ってのはな、真面目に生きるだけで疲れる生き物なの」

 

「まるで自分を真人間みたいに言いますわね。変に自己肯定感が高くて笑えますわ」

 

 馬鹿笑いしてる魔王の声がドア越しに聞こえてくる。

 ちょっとルーちゃん? マスターへの敬意が足りて無いですわよ? 小町でももうちょい慕ってくれるよ?

 ……いや、小町の方も大概だな。ごみぃちゃんとか言うし。そんな所も可愛いけどな!

 

「おい、オレ普段から超真面目だろ。お前らが戦ってるとき、後ろでいつも真面目に楽することばっか考えてるから」

 

「それを世間では不真面目、あるいは他力本願って言うんですのよ」

 

 そこは適材適所って言えよ。大体、他力本願のなにが悪いんだよ。従魔士なんて他力本願で寄生プレイするジョブだろ。ほら、世界的ゲームのポケモンだってトレーナーが楽に金稼ぎしてるだろ。そう、言うなれば俺は世界的に認められる行為をしてるだけだ。お金ゲットだぜ!

 

「ウゼェ……駄王め」

 

「あ! 久しぶりに駄王って言いましたわ! マスターの禿げ!」

 

「禿げじゃねえよ……え? 本当に禿げてないよね?」

 

「……」

 

「急に無言になるのやめろ! なんか言ってくれ。冗談ですわよ、の一言を言ってくれ。お願いだから!」

 

 慌てて頭を触って確認してみる。依然としてふさふさだが、細かな所は不明だ。

 俺まだ今年でピカピカの30だよ? 薄毛で悩む歳じゃないからね? お願いだから死なないで俺の毛根さん!

 ……ピカピカとか表現まで禿げだしたぞ。

 

「まぁその……例えマスターが見るに堪えないツルピカ禿げになっても、ずっと一緒にいてあげますわ♡」

 

「お前のその下手なフォローのせいで、余計に心配になるんだけど」

 

「もしアレでしたら、マスターの父君から育毛剤を貰ってきてあげますわよ?」

 

「もう遠回しに禿げって言ってんじゃねえか。なんならトドメさしてるから。八幡のハート瀕死だから」

 

 親父の年々薄くなっていく頭と一緒にされるとかマジ屈辱。

 毛根の介錯用に、父の日にバリカンでも送ってやろうかな。

 

「マスターが駄王なんて言うから悪いんですのよ~♪」

 

 ひとしきり俺をイジリ倒した魔王の声が遠くなっていく。

 やっとうるさいのが、どっかに行ってくれた。これで心置きなくお湯に浸かれる。

 

 にしても最近、雪ノ下からあまり連絡こないな。イベント用に開発した製品の最終調整が忙しいとか言ってたが、大丈夫なのだろうか。あいつ、完璧主義な所があるから無理してないといいが。

 まぁ人の心配より、自分の心配か。俺の仕事は一つ間違えば命を落とす。従魔達がいるとは言え、ダンジョンが危険な所なのは変わらない。

 今でも思う、まさか超インド派でインテリ派で陰キャな自分が探索者になるとは。武術の経験もなければ、喧嘩の経験もない。そんな弱々でザコザコな俺が今も無事なのは、全部従魔達のお陰だ。あとセインフィールさんもだな。

 せめて自分が寿命を迎えるその日までは、従魔達に楽しい思い出を沢山作ってあげたいと思う。それが多分、俺に出来る家族への貢献だと思う。……セインフィールさんには、ちょくちょくボーナスの体でファンタジー鉱石をあげればいっか。

 

 頭の中も整理できたし、心ゆくまで風呂を堪能した俺は浴室から出た。

 

「えっ……?」

 

 出た瞬間、時が止まった。

 

「きゃぁぁぁぁあああっ!!?」

 

 何故か脱いでる途中──下着姿のセインフィールさんがいた。

 おかしい、ちゃんとドアに使用中の看板を張った筈だ。

 とは言え、この状況をどうにかしなければならない。

 だって俺はいま、身体(サファリパーク)にいる股間(エレファント)を放し飼いしているのだから。

 しかも、セインフィールさんの右拳が段々と攻撃的な光を纏いだした。

 まずい、これは非常にマズイ!

 

「ちょ! やめ──」

 

「八幡さんのエッチィィィィイイッ!」

 

「──グハッ!?」

 

 見事なまでな右ストレートが頬に入り、俺はノックダウンした。

 だが不幸中の幸いか、寸前まで見てた景色(サービスシーン)だけは(メモリー)にしっかりと記憶(インストール)することが出来た。

 聖女様のエメラルドグリーンのレース、しかと目に焼き付けたぞ!

 

♢ ♢ ♢

 

 やはり車の助手席は楽ちんでいいな。でも、一番はやっぱ後部座席に一人で座ることだな。誰にも気を遣わなくていいし。

 運転しなくて良いと言うのは、組織上層部特権だな。まぁ俺んとこの組織は大半が人外だけどな。

 

「ねぇ……いい加減気まずいから何か喋ってよ」

 

 とうとう無言の間に耐えられなくなった聖女様が喋りだした。

 車が走り出してから現在まで、正直言って超気まずい。だって、俺はゾーさんがやっはろーしてるのを見られてるし。あっちは、上司に下着姿を見られてるし。

 眼福でした、ありがとうございます。

 

「あー、あー、昨日はどっかの暴力聖女のせいで痛かったな~、痛くて眠れなかったな~」

 

 俺はエリートぼっちの誇りを持った人間。無言の間なんて余裕のよっちゃんなんですよ。

 口は災いの元と言う言葉がある。いかに喋らずして災いを呼び込まないか、に関しては俺の右に出る者はいない。なので、仕方なく昨日の嫌味を言ってやった。

 あれ? 結局災いを呼び込んじゃったよ。

 

「もー、うっかり殴ったのは悪かったわよ。でも、昨日のことはブラッドノイズのせいだって言ってるでしょう。陰湿ネチネチ上司」

 

 運転してくれている聖女様が、俺に図々しく文句を言う。

 どうやら、セインフィールさんが言うには、ルーメリアが勝手にドアの看板を『満』から『空』に変えたようだ。

 あの駄王にはそろそろお仕置きが必要なようだな。

 

「あ、昨日の痛みが疼きだした。痛いなー、減給しちゃおっかなー」

 

 俺はわざとらしく頬を手で抑える。

 例えルーメリアに全ての原因があったとしても、上司を殴ったことをスルーしてはイケない。どんなに上司が嫌な奴だったとしてもな。

 これだと俺がまるで嫌な奴みたいだな

 

「へー、そういうこと言うんだー。八幡さんって中身とか色々捻じ曲がった上司よね~。……っぷ」

 

 一瞬視線を俺の股間に向けたセインフィールさんが、わざとらしく笑った。

 このアマ、俺のヒッキーが捻じ曲がってるとでも言いたいのか。

 

「おい、何で俺の下半身を見て笑った? 笑う要素ねーだろ。捻じ曲がってるのは性格だけだぞ」

 

「性格は認めるんだ……変な人」

 

「あんたも大概だろ。変なエルフ」

 

「ちょっと、私の何が変なの? 真っ当に300年以上、生きてきたんですけど」

 

 俺からすれば300年以上生きてる時点で充分に変だよ。

 ただ、そこは種族的な価値観の違いか。長命種には長命種の悩みとかあるだろうし。マジ短命種で良かったわ。長命種になんて生まれたら、俺ぼっち確定だよ。結局ぼっちなのかよ。

 

「どう見ても変だろ。聖女が魔王のいるコミュニティに入るとか」

 

「それで言うと、魔王とラブラブしてる八幡さんも結構ぶっ飛んでるよね~」

 

「ラブラブしてねぇよ。妹とのスキンシップみたいなもんだろ、あんなの」

 

「え? 八幡さんは妹さんといつも、あんなくっ付いてるの……。ちょっと引く」

 

 聖女様は口を抑えて、ドン引きしだした。

 その顔やめて。どの部分に引く要素があった。アレか、ルーメリアがいつも胸を押しつけてくることか? よく耳をフーしてくる所か? それとも、朝起きたら何故かルーメリアが抱きついてる事を言ってるのか?

 なんか、よくよく考えたらアウトなシチュエーション多すぎだろ。

 

「エメラルドグリーンのクセに」

 

 小さく恨み言を呟くと、セインフィールさんが喚きだした

 

「ハッ!? 何で覚えてるの。ノックアウトしたのに!」

 

 地獄耳かよこの人。どうやら、長耳は飾りではないようだ。

 仕方ない。こう言う危機的状況でこそ、俺のコミュ力が活きるってもんよ。

 

「異世界に米はあったか?」

 

「似たものを食べてる種族ならいたけど……って、話しを誤魔化さないでよ!」

 

 全く活きなかったよ俺のコミュ力。コミュニケーション難しすぎだろ。由比ヶ浜なら、この方法で誤魔化せたのに。

 

「ねぇ八幡さん、忘れるまでボコスカ殴っていい?」

 

「ナチュラルに上司を脅すなよ。大体、そっちだって……お、おおおお俺の見てるだろ」

 

 キョドりすぎだろ、落ち着け俺。あんなラブコメハプニング、最近だと日常茶飯事だろ。

 ちょっとラブコメの女神様、最近仕事しすぎじゃないですかね?

 

「あー、あの下品な聖剣ね」

 

「それだと聖剣に失礼だろ。魔剣と言え」

 

「謎に自信持ち過ぎでしょ……っぷ」

 

何で笑った……。さてはこのエルフ、むっつりな上に下ネタ大好きだな?

 

「エロフ聖女め」

 

「うん、あとで上司をファイヤーボールの的にしよう!」

 

「上司の抹殺計画を声高らかに宣言するなよ。怖いだろ」

 

 生意気なエルフ部下と下らない言い合いをしてると、カーナビゲから『目的に到着しました』と案内が聞こえてきた。

 唐ヶ原さんがどんな業務服を提案してくれるか、見ものだな。

 

♢ ♢ ♢

 

 ワンダーカーテンに到着して、唐ヶ原さんと一緒に業務服のデザイン案を詰めた。その後、唐ヶ原さんが1時間程で服を仕上げた。そして現在、女性陣で固まっている。

 

「わー、これ凄く可愛い! あるじ様見て見て!」

「このポロシャツとやら、シンプルで悪くないですわね。ほらマスター、早くわたくしを褒めなさい」

「桃華さん、こんな素晴らしい衣服を作って下さり、ありがとうございます」

 

「そんなに気に入って頂けて何よりです~♪ どうです比企谷さん?」

 

 目の前で身内達と唐ヶ原さんがキャッキャしている。唐ヶ原さんに至っては高そうな一眼レフで、写真を撮りっぱなしだ。

 女子って本当ファッション好き大好きフリスキーだよな。しかもこっちに、意味のない意見を求めてくる。因みに、気の利いたことを言えなくて、文句を言われるまでがセットな。ソースは俺、小町のファッションショーに何度も付き合わされたからな。

 

「あー、モノスゴク、カワイイデスネ」

 

「あるじ様がテキトー」

 

「適当じゃない言い方をするなら、タマエが一番可愛いぞ」

 

「わー! あるじ様、大好き!」

 

 タマエを褒めたのは良いが、ルーメリアが肩パンを連打してくる。昨日のこともあるし、コイツのことは絶対に褒めないからな。

 出来上がった服に不満はない。デザインだって事前に送った幕府のロゴを使ってくれてるし、本当に可愛いとも思う。

 服装は至って普通な白のポロシャツ。オリジナリティがあるとすれば、俺が頑張って画像生成AIで出力したロゴがバックプリントされてる点だ。

 

【挿絵表示】

 

 うん、実に幕府っぽい。家紋っぽく仕上げてる点と猫耳が個人的にポイント高い。

 

「あと比企谷さん、他の従魔達も呼んで下さいよ」

 

 はて、他も? なにか用でもあるのだろうか? まあいいや、召喚するか。

 俺はモンスターブックを呼び出す。他のページもポチっと押して、全員を呼びだした。

 

「なんと! 一応違うパターンで、全員の分を作りました!」

 

 唐ヶ原さんがカマクラから順に、着付けをしだした。

 カマクラとゴブタニには腰エプロン。サブレ、ザリン、アーサーには首に付けるスカーフ。ソフィーとエルランにはキャップ。それぞれのアイテムにはちゃんとロゴがプリントされている。残念な点があるとすれば、エルランが来てないことだ。

 

「おー、全員似合ってるぞ」

 

 褒めると、特にサブレ、アーサー、ザリンが甘噛みしてくる。良かったよ、気を良くしてくれて。

 

「あの唐ヶ原さん、これを。あと、これらも納品します」

 

 俺は空間から、ブツを色々と取り出した。

 

「えー! オーク肉めっちゃ多い!」

 

 肉を5㎏渡した。2㎏分渡すつもりだったが、こんなにサービスしてくれたんだ。これぐらいするのが妥当だろう。

 目には目を、歯に歯を。ガキの頃、俺が奉仕部部長に教わったことだ。なら、サービスにはサービスだ。

 

「はい。オークの皮の納品、ちゃんと確認しました」

 

 唐ヶ原さんは納品書にハンコを押して、俺に渡した。

 これで、タスクを一つ終わらせた。やれやれ、仕事の醍醐味ってタスクを潰したときの、この快感だよな。

 あっぶね! こんなのに快感を覚えてるから、社畜街道まっしぐらになるんだよ。

 

「トウガハラとやら、今後も素材に困ったら言って下さいまし。マスターに納品させますわ」

 

 何でコイツが偉ぶってるんだよ。

 

「痛い! マスターが結構本気でチョップしてきましたわ!」

 

 それはな、昨日の恨み辛みを込めてるからな。

 

「さぁさぁ、猫将軍様。なんかポーズ取って下さい」

 

「みゃーん」

 

 気づけば唐ヶ原さんwith従魔達の、SNS宣言用の撮影会が始まっていた。

 

「てか、八幡さんは桃華さんが作ってくれた服は着ないの?」

 

 おっとー、ここで聖女様からのキラーパスがきたぞ。せっかく極力影を薄くしてたのに。

 

「いや、まぁ、今度な……」

 

「あるじ様照れてる~」

 

 照れてるってより、純粋に恥ずかしいんだよ。

 何より、着て似合わなかったときのダメージがデカイ。俺みたいなぼっち歴が長い人間は、妹以外におニューの服を見せる機会が基本ないんですよね。

 

「えー、比企谷さん。着てみて下さいよ。あとでサイズが合わないってなると、二度手間ですよ?」

 

「うっ……」

 

 た、確かに。二度手間なんて非効率は、お互い仕事的によろしくないな。

 仕方ない。俺は無駄な羞恥心を捨てて、マネキンの後ろに隠れて着替えた。

 

「着たぞ」

 

「そこら辺にいそうですわね……」

「あるじ様普通~」

「可もなく不可もなし、って感じね」

 

 やめろ。その、ネタにすらならないのかよコイツ、みたいな目で見るのやめて。別に、イジらて味の出るネタキャラになりたい訳でも無いけどさ。

 

「比企谷さん、えーと……ノーマルグッジョブです!」

 

 ちょっと取引先さん、無理矢理忖度するのもやめて。より可哀想な感じがするから。てか、ノーマルが付く時点で、大して褒め言葉になってないからね?

 

「まぁ何を着ていても、わたくしのダサダサマスターに変わりありませんわ。さぁマスター、ペアルックで一緒に写真を撮りましょう♡」

「わたしもあるじ様と撮るー!」

 

 俺は2人に、強引に腕を組まれる。目の前には、ニヤニヤとした唐ヶ原さんがこちらにカメラを向けている。

 逃げれそうにないので、俺は仮面を付けると、カメラのフラッシュが輝いた。

 

「はいハーレム! もう一枚撮りますね!」

 

 なんだよ、その合図。やっはろーと同じぐらいバカっぽいぞ。

 一通り写真を撮り終えると、ワンダーカーテンの商品棚に置いてある商品が目に付いた。

 俺はゆっくりと、その商品に近づき手に取る。

 意外とこんな所にも売ってるもんなんだな。てっきり、舞浜とお店の土産コーナーにしか売ってないと思ってたわ。

 

「意外ですね、比企谷さん。パンさん好きなんですか?」

 

 可愛いくデフォルメされたゴブリンの着ぐるみを被るパンさんを眺めてると、不思議そうに唐ヶ原さんが声を掛けてきた。

 

「いや……俺ってよりパートナーが……まぁ、そんな感じです」

 

「……あ! これですね!」

 

 唐ヶ原さんはニマニマしながら小指を立てる。

 

「ほぉ、マスターの交際相手って、その目付きの悪い熊が好きなんですのね。しかも、その熊の目、マスターに似てますし。あー、何故か無性に怒りが湧いてきますわ。今なら怒りに身を任せて、世界を滅ぼせますわ。最近【墜星(メテオ)】と言う魔法理論を編み出しましたし、試す価値有りですわね。そう思いません、マスター?」

 

「っ!?」

 

 悪寒がした。突如と横に現れたルーメリアが、殺気マシマシ、しかも光の無い瞳で語りかけてくる。

 ドロドロとした嫉妬オーラが目に見えるぐらい怖いよ。

 

「本当だ! あるじ様と似てる! ねぇねぇあるじ様、この熊さん何て名前なの?」

 

 恐怖で硬直してると、タマエが空気を動かした。

 ナイスだよタマエちゃん!

 

「パンダのパンさんだ。ディスティニーランドのキャラだな」

 

「でぃすてぃにーらんどー?」

 

「遊園地って所だ。夢を謳い文句にしてるが、実態は上手いこと客を誘導して、付加価値とか言う有りもしない幻想(ブランド)に高いお金を払わせてる場所だ。しかも空気的には、お一人様お断りで、ぼっちだとかの弱者には全く優しくない選民的な場所でもある」

 

 販売機に売ってる飲み物はディスティニーバージョンのラベルってだけで無駄に高い。飯も味が普通なクセに、ディスティニーキャラの形をしてるってだけで無駄に高い。お土産に至っては原価率が低いストラップでも2000円以上。こんなに高いのは広告料とブランド料が上乗せされてるからだと俺は思う。いや、客はいったい何に金を払ってるんだよ。まさに幻想だ。

 

「比企谷さんの説明がめっちゃ最悪で偏見まみれです! いいですか、タマエちゃん。ディスティニーランドは家族や恋人と一緒に行って楽しむ場所なんです。パレードやアトラクションと言うのがあって、本当に楽しいんですよ!」

 

 この人、絶対に耳の付いたカチューシャを買うタイプだな。しかも行く度に買うから、同じカチューシャが家に何個もありそうだ。

 

「わー面白そう!」

 

 これ、絶対に将来全員から『ディスティニーに行きたい!』ってゴネられるやつじゃん。しかも、何だかんだ甘やかして連れてっちゃうのが俺だ。結局、連れて行くのかよ。

 

「所でマスター、これ欲しいですわ。わたくしにも買って下さいな」

 

「なんでお前が欲しがるんだよ」

 

「そうですわね……簡単に言うと、嫉妬と研究って所ですわね」

 

 全くもって意味が分からん。いや少しは分かるが、面と向かって言われると背筋が寒くなる。

 

「ねぇねぇ、あるじ様。わたしも欲しい!」

 

「仕方ねーな。……唐ヶ原さん、このパンさんを三つ下さい」

 

「はい、お買い上げありがとうございます!」

 

 買っておいて何だが、他の女性にあげた物と同じ物を彼女に渡すのって、結構危うい気が……。でも、従魔は家族枠で、小町と同じ枠みたいもんだしなぁ……。まぁ結論、大丈夫だろ。いや、大丈夫じゃないよヤバイよ。めっちゃヤバイ。

 

「やっぱ二つで」

 

「ですよね~」

 

 唐ヶ原さんは予期してたかのような感じで、二体のパンさんと渡した万札をお会計に持っていく。

 やっぱ俺は、女子的に有り得ないことをする所だったようだ。注意してくれてもいいじゃないですかー、ガハラさーん。

 

「私、あともう少しで八幡さんのことを軽蔑する所だったわ」

 

「うっ、マジで反省してます……」

 

 聖女様の追い打ちに俺は肩を落とした。まさか俺、女子達に査定されてる……?

 マイナス査定されてる気しかしねーぞ。なんなら査定表の備考欄に来世も期待出来ない、と書かれてるまであるぞ。来世ぐらいは期待してくれよ。

 

 今後の身の振り方を考えてると、唐ヶ原さんに袋詰めれたパンさんを渡されたので、空間収納にしまう。

 用事も済んだし、帰るか。

 俺は辺りの商品棚を物色し始めた従魔達全員をモンスターブックに入れた。下手によそ様の店に、コイツらを解放するの怖ぇな。好奇心旺盛なのも考えものだ。

 

「じゃあもう帰りますね。今日はありがとうございました」

「桃華さん、素敵な服ありがとうございます」

 

 俺とセインフィールさんは唐ヶ原さん近づき、今日の感謝を伝える。因みに、セインフィールさんは俺のボディーガードと言う体にしてある。

 

「いえいえ、比企谷さんも聖女様もまたいつでも遊びに来てくださいね! 技術展覧会にも遊び行きますね♪」

 

「ははっ、そんときはサービスしますよ」

 

 世間話も程々に、エレベーターを待つ。

 

「そう言えば、比企谷さん」

 

「うん?」

 

「彼女に贈り物をするときは、特別感が大事ですからね!」

 

 だから反省してるって!

 

♢ ♢ ♢

 

 肉々しい匂いが、リビングを支配する。香ばしい匂いやら焦げた匂いが、食欲を搔き立てくる。

 唐ヶ原さんのとこから帰宅して現在、従魔達にハンバーガー強化演習を開催している。

 展覧会の当日に、俺しか作れませんじゃ何かあったときマズイからな。 

 

「ねぇあるじ様、これでいい?」

 

 タマエがチーズを乗っけたハンバーグを焼き終え、バンズに乗せる。その後は野菜とオーロラソースで彩りを添えて、ハンバーガーが完成した。

 

「おー、上手いぞタマエ! 可愛くて料理も出来るとか最高だな!」

 

「えへへ~」

 

 因みにタマエのタイムは6分越え。目標は5分前後。少し丁寧過ぎるが、慣れれば大丈夫だろ。ちゃんと作れると言う点ではタマエも合格だな。

 

 一応、今の所タイムクリア出来てるのは俺とゴブタニとセインフィールさんだけだ。

 やはり見栄え的に女性陣にはキッチンより、売り子をやらせる方がいいかもな……。でもそれだと、俺とゴブタニだけで作らなきゃいけなくなる。

 

 イベントごとで空気として動いた経験は腐る程あるが、人を動かした経験は全くない。空気になってる時点で働いてねーじゃん俺。まぁ何が言いたいかと言うと、人を適所に配置するのムズ過ぎだろ。

 仕方ない。とりあえず俺とゴブタニで作って、休憩するときはタマエとセインフィールさんにバトンタッチで良いだろう。

 

「フフフ……とうとう来ましたわね。わたくしの実力をみせるときが!」

 

 ルーメリアがフライパンを握ろうとしたので、俺はその手を掴んで止めた。

 

「いや、お前の配役はお会計で決まってるから。だから料理はしなくていい。っつーか、料理に関わんな」

 

 コイツは物覚えもいいし、数字にも強い。だから、ルーメリアの配役はレジ打ちで固定だ。

 

「わたくしを役立たずだと言いたいんですの!?」

 

 うん、だってお前、料理に関しては役立たずじゃん。カレーに桃缶入れようとしてた昔の由比ヶ浜以上に料理が壊滅的だもん。

 

「適材適所だ。お前はニコニコしながらお会計して、チー牛たちを萌え萌えさせる。オーケー?」

 

「流石マスター。なるほど、絶世の美を持つわたくしをダシにして、憐れな雄共に貢がせる作戦、と言う訳ですのね。作戦がクズ過ぎますわ」

 

 憐れなオスとか言ってるお前のクズレベルも相当だけどな。

 

「なぁセインフィールさん、コイツって本当に異世界でモテたのか? 見た目は認めるが、中身がアレすぎる」

 

「目と中身がアレなマスターに言われたくないですわよ!」

 

「やめろ離せ!」

 

「八幡さん、残念なことにブラッドノイズはモテモテだったわ。その邪悪で妖艶な美しさに惑わされた人は、数知れずよ。有名なので言うと……」

 

 ギャーギャーうるさいルーメリアにチョークスリーパーをされながら俺は、セインフィールさんの昔話を聞いた。

 アルガン帝国と言う国の超強い皇帝がルーメリアに一目惚れして求婚したと。そして、ルーメリアはその皇帝に『わたくしに剣で勝ったら、あなたの物になってあげますわ』と自信満々な条件を出したらしい。

 案の定ルーメリアの圧勝。しかも、ルーメリアの気まぐれで、皇帝は生かされた。それ以来皇帝は政務をほっぽりだして、毎日狂ったように剣を振る日々を送る。しかも更に狂ってるのが、皇帝は美しい女性を切るのに快感を覚えるクソ性癖野郎になったとのこと。

 

 皇帝を狂わせるなんてマジで傾国の悪女じゃねーか、この魔王。

 やっぱ男って女で狂うのか。はっきりわかんだね。

 

「お前……その皇帝に謝ってこいよ」

 

 何より、狂った皇帝に切られた女子達が可哀想だ。南無阿弥陀仏。アーメン。

 

「フンッ、恋なんて惚れた方の負けですわよ」

 

 うわー、恋愛の真理だ。惚れた方は基本的に立場弱いもんなー。高校時代は雪ノ下の下僕みたいなもんだったし俺。

 

「ほら、お前の分のハンバーガーだ」

 

 作ってやったハンバーガーをルーメリアに渡すと、タマエと一緒にソファーの方へと行った。

 セインフィールさんも自分で作ったハンバーガーを持って、自部屋に戻って行った。

 俺は他の従魔達にハンバーグを作り終え、ダイニングキッチンに座って、ハンバーガーに口を付けた。

 我ながらなんて美味しいハンバーガーだ。やはり八幡は専業主夫になるべきだねっ☆

 

「あるじ様~、一緒にウルトラマン見ようよ~」

 

 ハンバーガーに舌鼓を打ってると、呼ばれた。

 おっとー、ミスターHACHIMANにプリティーなレディーから指名が入ってきたぞ。仕方ない、最近のは詳しくないがレディーと一緒にウルトラマンを見るか。

 なので俺も、ソファーの端に腰を下ろした。

 

「最近のウルトラマンゴテゴテしすぎだろ……」

 

 よく分からないままウルトラギャラクシーファイトとか言うのを見ている。昭和から平成中期までのウルトラマンは何となく分かるが、最近のは全く分からん。

 

『レッキングバースト!』

 

「おぉ! ジードが出て来ましたわ!」

 

 マジで分かんねー。誰だよジードって。目つき悪すぎだろこのウルトラマン。カラーリング的に悪のウルトラマンかと思っちまったよ。そもそも俺の知識、ゼロとベリアルで止まってんだけど。

 

「流石はベリアルの息子ですわ!」

 

「は……? る、ルーメリア。こ、こいつベリアルの息子なの?」

 

「そうですわよ。細かく言うとベリアルの遺伝子から作られてますわ」

 

 セブンの息子の次はベリアルの息子かよ。しかも闇堕ちウルトラマンの遺伝子からって、絶対に訳アリだろ。

 

「お前詳しいんだな……」

 

 内心ベリアルに息子がいたことに啞然としてると、次はタマエが騒ぎだした。

 

「あるじ様あるじ様。このウルトラマンさん、わたしの推し! Zって言うの!」

 

 なんだこのゴテゴテした軟派なウルトラマンは……。

 

「どいうヤツなんだタマエ。推すならお兄ちゃんだけにしなさい」

 

「えーとね、ゼロさんの弟子! 自称だけど」

 

 次はゼロの弟子かよ。

 なに? ウルトラ界隈で世代交代とか流行ってるのん?

 しかも、おれのジョークは軽くスルーされてるし。

 

 ケッ、最近のウルトラマンはダメだ。無駄に鎧でゴテゴテしてるし、カッコイイ武器持ってるしで、俺からすれば解釈違いだ。こんな軟派なヤツらはウルトラマンなんかじゃない。

 ウルトラマンに許される強化はタイプチェンジと最終回で金色に光る演出までだ。異論は認めない。

 

 好きだったウルトラマンを思い浮かべながら内心毒を吐いてると、俺は大きく目を見開いた。

 

『チェア!』

『ジュア!』

『デャ!』

 

 視界に入ったのはティガ、ダイナ、ガイア。

 

「うおぉぉぉぉぉぉおおっ!!! お前ら見ろ! これがウルトラマンだ!」

 

 ティガは俺が初めてTVで見たウルトラマン。多分、再放送だったと思う。

 ダイナは俺が初めて連れてって貰ったウルトラマンショーで見たウルトラマン。確か親父におんぶされながら見たんだっけ。

 ガイアとアグルは俺が初めてワガママを言って、両親に買って貰った人形だ。今でも実家にあるのだろうか……。今度機会があれば回収してこよう。

 

「あるじ様うるさーい」

「うっさ、マジでマスターうるさいですわ。この三体に思い入れでもあるんですの?」

 

 しまった、年甲斐もなく興奮してしまったようだ。でもこれは仕方がないんだ。

 

「あのな、俺みたいなアラサー世代はこの三体が画面の向こうで闘ってるだけで興奮しちゃうんだよ」

 

 なんならメビウスまでは興奮できるぞ。

 でも一つだけ解せないことがある。それは──

 

「──アグルも出せよ! 何でこの三体を出しておいてアグルがいねえんだよっ!」

 

 可哀想なアグル。まさかハブかれるなんて。シンパシーを感じちゃうまである。

 

「あるじ様がこんなに興奮するの珍しいね。プリキュアでしか興奮できないかと思ってた~」

 

 あのタマエちゃん、その言い方だと俺が性癖異常者っぽく聞こえるんですけど……。

 

「ふむふむ……マスターの反応を見るに、世代ごとに好みのウルトラマンが別れそうですわね」

 

「それはあるかもな」

 

 親父なんてウルトラマン80を見る度に『エイティー先生だ!』ってめっちゃウルセェもん。

 あれ……まさか俺と親父って似てる? マジショックだわ。

 

『必ず〜出会うから〜♪』

 

 久しぶりのウルトラマンを意外と楽しんでたら、着信が鳴った。

 スマホを見ると、雪ノ下陽乃と表示されていた。

 いったい何の用だ……。もう今日の八幡はオフモードなんですけど。でも出なかったら、あとが怖いなー。出たら、仕事が発生しそうな予感がする。だって俺のサイドエフェクトがそう言ってるもん。

 

 そうだ、もうダンジョン遠征してることにしよう。でも展覧会絡みだったら聞かないと不味いよな……。

 鳴り響くクライアントからの圧に折れた俺は、リビングから出て渋々電話にでた。

 

「うっす」

 

『ひゃっはろー! お世話になっております。愛しの陽乃ちゃんだよっ☆』

 

 マジかこの人。32歳のくせして自分をちゃん付けしたぞ。少しは現実を見た方がいいと思いますよ、三十路魔王め。

 

『あ、痛いとか思ってるでしょ~、今どき普通だぞ~、ぶーぶー』

 

 どこの世界の普通だよ……。それとも魔王界隈だと普通なのか。ルーメリアも千歳以上のクセして可愛い子ぶってるし。

 

「良いんじゃないですか。多様性の時代ですし」

 

『それ、ごまかすときに使うセリフじゃーん』

 

 なんだよ、じゃあ笑えば良かったのか。確実に俺が死ぬぞ。

 

「いやいや、ぼっちは多様性を重んじる生き物なんですよ」

 

『えー、あんなにハーレムしておいて、まだぼっちとか抜かしてるの? やっぱ最高に面白いね君』

 

 通話越しに爆笑してる声が聞こえてくる。

 彼女と復縁しようが、従魔が増えようが、経済的に豊になろうが、俺はエリートぼっちの信念を決して捨てない。何故なら、それがエリートぼっちだから。

 

「で、何の用ですか?」

 

『そうそう明後日、本社に来て役員達にオークハンバーガーを作って貰えない? 遠回しに色々と文句言われててさ、煩わしいんだよね~』

 

「……え? あー……そう言うことですか」

 

 話しの背景が何となく分かったわ。俺と陽乃さんは旧知の仲だから、ある程度の信頼を築けてる。だが、それ以外のお偉いさん達からすれば、俺は仮面を付けた胡散臭い探索者でしかない。最悪副社長が騙されてるんじゃないかと思ってる奴がいたって不思議じゃない。

 これは誤解されないためにも、ちゃんと行った方が良さそうだな。

 メンドクセェ……。イヤだなぁ、お偉いさんに囲まれながらハンバーガーを作るのか……。めっちゃ気を遣うシチュエーションじゃん。せっかくサラリーマン辞めたのに。

 

『お、察しが良くて助かるよ』

 

「本気で胃が痛くなってきました」

 

 空間から胃痛薬を二つ取り出して。マッ缶で流し込む。

 

『じゃあ、明後日はよろしくねっ☆』

 

「よくよく考えたら明後日は、アレがアレでアレなんで」

 

『うんうん、暇ってことね! 流石は未来の義弟くん、頼りになる~』

 

 最後によろしく、と言いながら一方的に電話を切られた。

 これさぁ……本当に将来スローライフできるのん?

 気づいたら雪ノ下HDの下請けになってるとか有り得そう……。うわっ、リアル過ぎて鳥肌が立ったわ。

 

 社会から逃亡(ドロップアウト)した元社畜(ブラックソルジャー)として、俺はわざわざ自分の夢を口にすることにした。

 

「スローライフは……絶対に……諦めないからな」

 

♢ ♢ ♢

 

番外編:彷徨いし勇者の魂

 

 気づけば訳の分からない場所を、体感3日以上は彷徨ってる気がする。

 見たこともない建物、見たこともない生き物、見たこともない服を着てる人々、目に入る風景の何もかもに疑問を覚える。

 

 ここはどこだ。

 何故俺はこんな姿になっているんだ。

 確か、最後は魔王ブラッドノイズに全てを託して死んだ筈だ。

 あの場所──いや、きっとここは全く別の世界に違いない。

 俺のいた世界はどうなったのだろうか。きっとブラッドノイズのことだ、覚悟を決めて女神ごと滅ぼしてる可能性が高い。

 

 申し訳ないことをしたな……。本来なら俺のやるべきことを、ブラッドノイズに押し付けてしまった。あいつだって魔族の平和を望んでたのに。たまに戦闘狂だけど。

 

 でも一番気掛かりなのはラスティーだ。例え相手が俺じゃなくても、幸せになってほしいと思う。出来れば100年以上は俺のことを引きずってほしいけどな。

 

 自分のいた世界に思いを馳せながら移動してると、気づけば日が暮れて夜になっていた。

 なんとなくだが、あと数日で限界かもしれない。

 

 肉体なき魂だけの状態。その魂に相応しい体を持たない魂は摩耗速度が早くなる。きっと俺がまだ辛うじで魂を維持できてるのは、勇者であり常人より魂の強度が強いからに違いない。

 こんな目に見えない姿になってまで生き長らえるとは。しかも知らない世界で。

 

 少し疲れたな……。おれ勇者として結構頑張ったよな。流石にもういいか。終わりがくる、その日までゆっくりしてよ。

 

──うぅ……お兄ちゃん……寂しいよ……グスッ

 

 勇者の責務から解放されたことに安堵してたら、女の子らしき声が聞こえてきた。

 やはり魂だけの状態って感受性が高くなるな……。

 

 興味本位で、声が聞こえてきた方を目指すと、小さい女の子が開けた場所で長椅子に座りながら泣いていた。

 仕方ない。消滅する前にこの子の側にいてやるか。

 なので俺は近くの黒いどら猫に体を貸して貰い、泣いてる女の子の膝に座った。

 

「にゃんこだ……カー君……うぅ」

 

 あれ、余計に泣いちゃったよ。まさか猫嫌い?

 

「にゃぁ……」

 

「あ、ごめんね……ペットのカー君を思い出しただけなんだ……」

 

 猫を飼ってるのか。と言うか、何でこんな夜遅い時間にこの子は外をうろついてるんだ?

 整ってる身なりを見る限り、孤児とも思えないしな……。

 疑問に思ってると、女の子はポツリポツリ(おれ)の背中を撫でながら語りだした。

 

「いつもね、家に帰ると誰もいなくて……小町はそれが嫌で……悲しくて……友達の所に泊まりながら五日間も家出しちゃったんだ……どうしよう、帰ったら怒られちゃうよ……うぅ」

 

 なるほどな。名前はコマチと言うのか。それで、帰ったら怒られるから家に帰りたくないと。本当に平和な世界だな。元の世界でこんな時間までうろついてたら、確実に人攫いに遭うぞ。

 

──小町! ったく、あいつ本当どこ行ったんだよ……おーい小町ー!

 

 コマチちゃんを呼ぶ声、きっと身内に違いない!

 

「にゃっ!」

 

「あっ、行っちゃった……」

 

 声のした方へと走って向かうと、少年がずっとコマチちゃんの名前を叫んでいた。その表情は酷く焦っている。

 なんだこの少年……。言っちゃなんだが、生前の俺に目が似てるぞ。無性にシンパシーを感じるぜ。

 

「にゃっ、にゃにゃ!」

 

「うわっ!? ってどら猫かよ。ごめんな、今は構ってる余裕がないんだ」

 

「にゃっ!」

 

 俺を撫でてどっかに行こうとしたので、ズボンの裾を噛んで捕まえる。

 

「なんだよ、こいつ……」

 

「にゃぁぁぁぁぁ!」

 

「……付いて行けばいいのか?」

 

 頷くと、渋々と俺に付いてきてくれた。

 しつこくアプローチを続けたら、やっと折れてくれたよコイツ。

 走りながら案内すると、公園に到着した。

 

「公園になんかあるのかよ……って小町!? おーい小町!」

 

「お兄ちゃん……っ!! お兄ちゃーん!!」

 

 再会を果たした兄妹は熱い抱擁を交わしだした。

 どうやら、コマチちゃんの兄貴だったようだな。

 

「小町、凄く心配したんだぞ。今日お前の友達の家に迎えに行ったら、もう帰ったって言われて、気が気じゃなかったんだぞ」

 

「お兄ちゃん……怒ってないの? グスッ」

 

「帰ったらお前は母ちゃんにこっぴどく怒られる。だから、お兄ちゃんが妹を甘やかすぐらい別に良いだろ」

 

 うんうん、良い兄貴じゃないか。なんか久しぶりにグッときたわ。目は腐ってるけど。

 さてと、俺はお役御免だし退散退散。

 

 猫に体を返して、俺は兄妹が家に帰るまで見守り続けた。

 ここからは交渉だ。きっと理解してくれる筈。こいつの魂と、俺の魂の波長ならきっと大丈夫。

 故郷に帰る術は無いし、もう終わってもいいと思ってたのに、なんでだろうな……。何故かこの少年の先が気になる。

 

 少年が寝るの見計らって、俺は少年の精神世界の奥深くへと入った。暖かい暗闇が支配する中、出来るだけ和やかに俺は少年に語りかけた。

 

『少しだけ君の心に居場所を貰えないかな?』

 

『誰……?』

 

『黒い猫って言えば分かる?』

 

『あぁ……お陰で妹を見つけられました。ありがとうございます』

 

『別に構わないさ。妹が無事で何よりだ』

 

『その、全然好きなだけ心に居て良いよ。おれ友達いないし……』

 

 嬉しいけど、理由が悲しいぞ少年……。

 

『ありがとう。じゃあ君の心と一つになるよ』

 

 こうして俺は八幡の心に溶けて、長い付き合いになることとなった。




オハ幕府!
ここまで読んで頂き、ありがとうございます!

Q.八幡は当時のことを覚えてますか?
A.黒猫のことは若干覚えてますが、精神世界でのやり取りは全く覚えてません。
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