か、カマクラが若返ってる!?   作:9ナイン9

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#大魔王降臨


50:相変わらず、葉山隼人の空気清浄力(ザ・ゾーン)は凄まじい。

 ガン、ガンと嫌な音が鳴り響く。

 研修の筈が、勢い任せで3階層まで来てしまった……。これもアーサーとサブレが元気過ぎるのが原因だ。

 頃合いを見計らいながら岩陰に隠れて敵の猛攻を防いでいる。少しだけ顔を岩陰から覗かせると、口から礫を飛ばすリスの魔物5体を確認出来た。

 

「今だ! サブレ、アーサー、敵を灰にしろ!」

 

「ドラァァァン!」

「ワウゥゥン!」

 

 勇ましく飛び出てた二匹が、豪快に口から吐いた炎で敵を包んだ。

 敵を焼くのは良いが、こっちも体感温度が上がる。お陰でダンジョンに入ってから汗だくだ。

 とりあえず、アーサーの戦闘の特徴が粗方分かった。基本的にはドラゴンブレス。それだけで仕留めきれないときは、ブレスで牽制しながら牙で相手の頭か頸動脈を嚙み砕く。しかもドラゴンの特徴なのか、見た限り龍鱗が想像以上に硬い。さっきも礫を喰らってもケロッとしてたしな。

 

 アーサーの戦闘研修にそこそこ満足した俺は、空間収納から出したタオルで汗を拭いながら、配信キューブに語りかけた。

 

「オハ幕府。こちら八幡。由比ヶ浜と小町、見えてるか? 俺は熱い中、真面目に労働してるぞ」

 

ゆいゆい:やっはろー!てかめっちゃ燃えてるね(; ・`д・´)

お米こまち:オハ幕府!素材拾ってるだけで威張ってるお兄ちゃんカッコイイ(≧▽≦)

 

 なんか、よくよく考えたら、やっはろーと同レベルの偏差値低めの挨拶をしてる気が……。恥ずかしくなるから考えないようにしよう。

 

「そうだろそうだろ、小町。こんな楽して金を稼いでるなんて自慢のお兄ちゃんだろ」

 

 これを配信と言っていいのか分からんが、一応配信をしている。視聴者は2人だけ。

 小町と由比ヶ浜がどうしてもドラゴンを見たいとメッセージを飛ばしてきた。それで、送ったURLを知っている人のみが視聴できる限定配信と言う形式にした。

 

ゆいゆい:画面の向こうに素顔のヒッキーがいるのなんか新鮮www

お米こまち:そこで誇らしげになるのが本当にごみぃちゃんだよ( ;∀;)

 

「おい由比ヶ浜、草を生やすな。ただでさえここ最近、俺の人生草だらけなんだぞ」

 

お米こまち:お兄ちゃんの場合は草じゃなくて腐だよ

ゆいゆい:www←これ前から打ってみたかったんだ!

 

 ちょっと小町ちゃん、上手いこと言わないの。確かに目は腐ってるけどさ。その他は清廉潔白だから(すっとぼけ)。

 

「ワウーン」

「ドラ~」

 

 頑張った二匹がキラキラと目を輝かせながら体を寄せてきたので撫でる。

 

「よしよし、アーサーもサブレも良く頑張ったぞー。今日はオーク肉でチャーシューを作ってやるからな」

 

お米こまち:小町もアーサーとサブレ撫でたいな~

ゆいゆい:うぅ、ヒッキーだけモフモフ撫で撫でズルイ(。-`ω-)

お米こまち:そう言えば結衣さんの勤務先の近くで苺スイーツが美味しそうなカフェ見つけたんですよ!今度行きません?

ゆいゆい:いく!いつにする?

 

 チャット欄で関係ない話が始まったし……。やめてよねー、ぼっちの近くで遊びに行く話しとかしちゃダメよ。誘われないの分かってても、妙に期待しちゃうのが悲しきぼっちの性だから。勇気を出して「お、俺も行っていい?」とか言った日には地獄を味わうハメになるから。誰も来ない待ち合わせ場所で三時間も待つことになるから(遠い目)。

 

「サブレは顔馴染みだからいいとして……。ほら、お前らが見たがってたドラゴンのアーサーだぞ」

 

 俺はアーサーの脇の辺りを両手で抱えた。

 うん? アーサーってこんなデカかったか? 気のせいか?

 違和感を感じながら、2人が見やすいように配信キューブへと近づけた。

 

「アーサー、俺の妹と友人に手を振ってあげてくれ」

 

「ドラドラ~♪」

 

 アーサーは万歳をするような格好で、翼をパタパタさせながらカメラに手を振ってくれた。その姿は愛らしさを感じさせる。

 

お米こまち:キャー!なにこの可愛い生き物(*꒪ཀ꒪)وブハッ!!

ゆいゆい:その子めっちゃきゃわたんなんだけど(*;ᵕ;*)

 

 案の定、女性陣から黄色い声が上がった。

 俺もドラ~♪って鳴きながら可愛いく手を振ってみようかな。きっと違う意味でキャーが聞こえてくるぞ。キモすぎるな俺。

 

「軽くアーサーの紹介だけしておくわ。性別は雌。種族は虹の龍と書いて虹龍(こうりゅう)。角度によって違う色に見えるのが特徴だ。愛称はアーちゃんだな」

 

お米こまち:メス……女の子……小町的に修羅場(ラブコメ)の波動をビンビン感じるよ( ̄▽ ̄)

ゆいゆい:へー女の子なんだ!よろしくねアーちゃん!

 

「ドラァ♪」

 

 小町ェ、修羅場に変なルビを振るな。俺のラブコメは高校時代に終わってるからね? 

 思い出すのは戸塚との数々の青春(ラブコメ)。あの頃は楽しかったねっ☆

 この後は明日に向けたオーク解体が残ってるし、アーサーの研修もこのぐらいでいいか。

 

「じゃあ、配信もここで──」

 

 配信を締めようとした途端、辺りを濃霧が包んだ。

 この霧、なんだか見覚えがあるぞ……。

 

ゆいゆい:え、なんで霧!?

お米こまち:まさかのお兄ちゃんピンチ!?逃げてお兄ちゃん!

 

「──多分大丈夫だから心配するな」

 

 疑問に思いながら2人に安全だと伝える。

 次第に霧は収まってゆく。そして、俺は背後から(パイ)を感じた。

 

「もー、探しましたわ。わたくしの愛しきマスター♡」

 

 後ろから胸を押し付けながら俺の頬に頬スリしてくるのは十中八九ルーメリアだ。

 あのですね、愛があるからって母性の象徴を押し付けるのは良くないですよ魔王様。色々と刺激強いから。だって俺、男の子だもん。

 しかも、ここにいるって事はオーク狩りの仕事を終えたのであろう。

 

「あのな、空気を読め。それと離せ」

 

 振りほどこうとしたら頬にチュッ、と温かみを感じた。

 

「キャッ♡ 仕事終わりのチューですわっ♡」

 

ゆいゆい:どうしよう!ゆきのんには絶対に見せられない浮気映像だ!(๑´ฅωฅ๑)

お米こまち:はいお兄ちゃんレッドカード~(*ノ>ᴗ<)

 

 やばい、このままだと浮気野郎になっちまう。ただこの場合、何を言っても墓穴を掘りかねない。だって馬鹿正直に『家族なんで普段からこんな感じだ』って言ってみろ。レッドカード100枚は追加されるぞ。故にここは沈黙が正解だ。

 

「ん? これは小町とユイガハマとやらのコメント……配信キューブ……? ハッ! マスター、ズルいですわ! わたくし抜きで配信をするなんて!」

 

「お前はどんだけ配信好きなんだよ。この配信は限定配信と言って、2人しか見てないの。アーサーのお披露目を身内にしてただけだ」

 

「ほぉ、そういう配信も出来るんですのね。納得ですわ」

 

ゆいゆい:メリメリやっはろー!

お米こまち:ルーちゃん昨日の電話ぶり~(≧▽≦)

 

 だから何で、小町とルーメリアはTEL友になってんだよ。

 

「マスター。このユイガハマとやらのやっはろーと、ハルノのひゃっはろーは何か関連が?」

 

「ああ、ひゃっはろー的なアホな挨拶だ。因みに、やっはろーが本家だ。多分」

 

ゆいゆい:むうぅ、またアホって言った!やっはろー可愛いじゃん!

 

 挨拶に可愛いさを追求してる奴なんて由比ヶ浜しか見たことないぞ……。ある意味一周回って革新的なまである。

 まさかガハマさん、時代の先を行き過ぎてた……?

 いや、無いな。無いったら無い。

 

「ふむふむ……やっはろーですわ! ユイガハマ、小町!」

 

「お前も使うのかよ……」

 

 ただ、なぜか全く違和感を感じない。違和感がないと言うことは、ルーメリアもアホっぽいと言うことか。納得ですわ!

 

ゆいゆい:やっはろー!

お米こまち:やっはろー!

 

「どらっはー!」

 

「わうんっはー!」

 

「お前らもかよ。てか言えてねえし」

 

 八幡は従魔達の偏差値が心配になってきました。俺は絶対に言わないからな。オハ幕府ですら抵抗感ハンパないのに。

 

「どことなく爽快感を感じれる不思議な挨拶ですわね。マスターも試してみては?」

 

「絶対にイヤだね」

 

ゆいゆい:そーだよ、ヒッキーも使おうよ( `ー´)ノ

お米こまち:そう言えば最後戸塚さんに会ったときに使ってたような……?

 

「やっはろー! よし、もっと流行らせようぜ!」

 

 うんうん戸塚が使ってるだけあって、なんて良い挨拶なんだ。言うだけで心が晴れやかになったかのような気分だ。マジやっはろー、超やっはろー、やっはろー以外勝たん。

 

「そのテンションで言われると、キショイですわ……」

 

ゆいゆい:さいちゃんが絡むと相変わらずだ!?

お米こまち:てかてか、てかですよ! ルーちゃんはお兄ちゃんとどこまでいきました( ≖ᴗ≖)?

ゆいゆい:確かに!あたしも気になる(#^^#)

 

 コメント欄を眺めてると小町からの不穏なコメントが投下された。

 やばいやばい、小町。お前は何を聞いているんだ。そんな碌でもないことを聞くんじゃない!

 

 視界の端でルーメリアを確認すると、口角を上げていた。その艶めかしい笑みは邪悪に見える。

 おいおい、絶対にトンデモないことを言うつもりだぞ!

 

「おー、良くぞ聞いてくれましたわ、小町。この前、マスターと互い裸で──」

 

「シャラーーーーップ! 本日はご視聴ありがとうございました! 次回も乞うご期待下さい!」

 

 俺は急いで配信キューブの電源をシャットダウンさせた。

 裸って単語が出た時点で俺は察したね。なんかしらのエピソードを8割増しで盛る気満々だと。

 

「ほら、行くぞお前達」

 

「はーいですわ~♪ 犬っころとドラゴンは後方を頼みますわね~」

 

 そして、恋人のように腕を組んできたルーメリアと俺は帰路についた。

 もー、なんなのコイツ!

 

「クゥーン……」

訳:浮気だ……

 

 奇遇だなサブレ。丁度俺も自身が浮気してるんじゃないかと疑わしくなってきた所だよ。

 それでも敢えて言おう──

 

「──俺達は家族だ。浮気じゃない」

 

「血が繋がってないズッコンバッコン出来る家族ですわね~♡」

 

 家族って言葉に自信がなくなってきたよ……。

 

♢ ♢ ♢

 

 胃が痛い。俺の平和だった胃世界が魔王の魔の手(タスク)によって脅かされている。

 イタイタするお腹を抑えながら、目線を上げると青空を背景に巨大なビルがそびえ立っていた。

 今日は幕張にある雪ノ下HD本社でお偉いさんに囲まれながらハンバーガーを作る。今の気持ちを言葉にするなら、来世は平和に暮らせると信じて屋上からのワンチャンダイブ!

 助けて平塚先生(オールマイト)! あなたの生徒が胃痛でピンチです。とは言え、どんなに願っても平塚先生が『私が来た!』とカッコ良く助けにくる確率は低い。ワンチャンこれが合コンなら来るかもしれないが。合コンなら来ちゃうのかよ。しかも、なんの成果を得られないまでがセットだ。

 

 せめてもの救いは雪ノ下がいないことだな。今朝、おはようの挨拶を送る次いでに「今日仕事が終わったら良ければご飯でもどうだ?」と遠回し気味に確かめたら、本社には来ないだろうと確信を得ることができた。ただ、製品の開発案件が忙しいからと言う理由で断られたけどな。

 そういえば忘れ物とかないよな……。パティは100人分ぐらいは予め成形してきた。バンズとか野菜もちゃんと用意してある。特性オーロラソースもブレンド済み。調理器具は先方が用意してくれている。

 

「よし、忘れ物は無いな。てことで帰るか」

 

 ビルを背に歩き出そうとしたら、肩を強く掴まられた。

 

「マジで言ってんの!? 忘れ物が無いのに帰るとか、マスター義経は頭おかしんじゃないの!?」

 

 俺に文句を言うのは、フワフワな耳当てを付けてるセインフィールさん。上司の俺に頭がオカシイとは、見上げた勇気だな。俺なら何も言わずに上司に付いていくね。そして全責任を転嫁されてクビにされる。やっぱ社会ってクソだな。

 

「いいかセイン、じゃなくてラスティーさん。男にはダメと分かっていても逃げなければいけない時がある。……今がその時だ!」

 

 お互い呼び方がいつもと違うのは、義経(おれ)の正体やら異世界のことを誤魔化すためだ。

 

「よくそんなカッコ悪いことをカッコイイ風に言えるわね。さぁ早く行くわよ社不上司!」

 

 逃げようとする俺の腕を掴みジワジワと引きずる。

 もー、何この上司を逃がさない部下。責任感強すぎでしょ。流石は世界の為に戦ってきた聖女様と言った所か。一ついえるのは、この人は絶対に入る組織を間違えてるぞ。国家公務員辺りとかオススメだ。

 

「分かった、分かったから引っ張らないで! ちゃんと仕事するから!」

 

「分かればいいのよ。それより……マスター義経のせいで恥ずかしいんだけど」

 

 まるで俺の存在自体が恥ずかしいみたいに言うなよ。傷つくだろ。

 とは言え、さっきから行きかう人々にチラチラ見られてる自覚もある。なんなら『あれって嫁ニキじゃないのか』と言う声も聞こえてきた。登録者数50万ちょっとで偉く人気になったものだな……。

 目立ちたくないから仮面を付けてるのに、その仮面のせいで目立ってるとか皮肉すぎる。まぁ仮面を付けてる時点で怪しいんですけどねっ☆

 

 押してだめなら諦めろ。今回はダンジョン探索と違って、命を賭ける仕事ではない。いつもよりはマシな仕事、と思い込むことで観念した俺は深いため息を吐き、ビルの中へと入った。

 

♢ ♢ ♢

 

「義経氏ひゃっはろー!」

 

 通された大きめな会議室には元凶たる陽乃さんがいた。それだけならまだいい。問題なのは席に座してる貫禄マシマシのお偉いさん達だ。いかにもこちらを胡散臭そうに伺っている。

 勿論、中には見知った顔もいる。葉山隼人だ。苦笑いを浮かべながらこちらを見つめている。

 そう言えばアイツ、法務部部長だったな……。中途半端な知り合いがいるせいで余計に気まずいんですけど。もう帰りたい。

 

「……う、うっす……じゃなくて、雪ノ下副社長、この度はよろしくお願いいたします」

 

 気まずさを感じながら、俺は軽く会釈する。

 っべー、いつもの感じで話すところだった。マジでこの空気なんなの。魔物より会社役員の方が怖いんですけど。思いだすなー、上司に理不尽に詰められてたあの頃を。思い出すだけで俺の胃にダメージを与えるとか、あのクソ上司ヤバすぎだろ。

 

「あ、ひゃっはろー! 画面越しで見るより凄く綺麗! まるで物語のお姫様みたいだね。えーと、確か植物妖精のラスちゃんでしょ? 今回はよろしくお願いね」

 

 明るい印象で挨拶する陽乃さん。対してセインフィールさんは洗練された動作で、お辞儀をした。あまりにも洗練された動きに、俺は光の軌道を幻視した。そして陽乃さんも『ほぉ』と小さく感嘆の声をあげていた。

 

「いえいえ、こちらこそ雪ノ下副社長の陽だまりのような明るい美しさ、羨ましい限りです。それと改めまして、ラスティーと言います。マスター義経がいつもお世話になっております。雪ノ下副社長のことは、尊敬できる才色兼備な人だとマスターから伺っていて、会えて光栄です」

 

 セインフィールさんが笑顔を浮かべると、何故か後光が見えた気がした。他のお偉いさん達も聖女様の後光に当てられたのか、雰囲気が柔らかくなっている。

 前々から思ってたけど、この謎のたまに発動する後光なんなんだよ。しかも不思議と幸せな気持ちになる。もう洗脳の類なんじゃないかと思えてきたよ……。

 

「へー、義経氏がそんな風に……。ふーん、いいこと聞いちゃった♪」

 

「はい、マスターは言葉にしないだけで、雪ノ下副社長のことを信頼してると思いますよ」

 

 聖女様の社交辞令に陽乃さんは満更でもない様子だ。

 さ、流石は余所行き顔モードの聖女様! いつも文句ばっか言うクセに、不甲斐ないダメダメな上司(おれ)をちゃんと立てたよ! 八幡感動です!

 仕方ないから今後も上司でいてやろうじゃないか。HAHAHA。

 

「それじゃ皆も挨拶して」

 

 陽乃さんに合図でお偉いさん達が立ち上がり、それぞれがケースから名刺を取り出し始めた。

 え、気まずい。俺名刺なんて作ってないんですけど……。そもそも探索者が企業のお偉いさん達と関わるなんて、完全に想定外なんですけど。

 

「初めまして、東日本営業部の統括をさせて頂いてます」

 

 いかにもシゴデキって感じの偉そうな人から名刺を受け取る。役職の欄には営業部東日本エリア統括長と書いてある。やだー、マジなお偉いさんじゃないですかー。

 

「あ、はい……あのすいません……自分、名刺作って無いんですけど……」

 

「気にしないでください。探索者の方だとそう言う人が多いですからね」

 

 口ではフォローしてくれてるが、どことなく棘を感じる。しかも、表情は「やっぱコイツ怪しいな」と言いたげだ。

 お偉いさんはそのまま隣にスライドしてセインフィールさんにも名刺を渡した。

 

「鎌谷幕府、癒し手のラスティーです。申し訳ございません。私も名刺を持ってなくて……」

 

「いえいえ、名刺なんてなくても仕事は出来るから大丈夫ですよ、お嬢さん。所詮名刺なんて形式ですよ形式。はは」

 

 おい、ちょっと俺のときと雰囲気違うじゃねーか。俺にはそんな心の底からの笑顔を向けてくれなかったクセに。しかもフォローが超優しい。俺にも優しさプリーズ。あとお嬢さんとか言ってるけど、その癒し手328歳だから。ここにいる誰よりも年上だから。やいやーい、騙されてやんのー、バーカバーカ!(ゲス顔)

 決めた。帰ったら唐ヶ原さんに泣きついて、名刺を作ってくれる業者に依頼して貰おう。

 

 絶対に許さないリストにあのお偉いさんの名前を書いてやる、そう思いながら機械的に他の人達の名刺を貰い続ける。

 他の人から貰った名刺にも情報システム部長だったり総務部長とか、いかにもお偉い肩書が書いてあった。

 

「久しぶりですね源さん」

 

「あの……葉山部長の名刺は、以前に貰った気が……」

 

 何故か列に葉山が並んでいた。

 こいつ何がしたのん? 残念だけど今日はソフィーを出す予定は無いよ。

 

「えぇ、だから今回はいちファンとして握手がしたくて」

 

 そう言って笑顔で手を差し出してきた。

 意味が分からん。何でコイツ俺と握手したがってんの。比企谷菌付いちゃうよ?

 でもコイツのザ・ゾーンの前では、バリアが効かない比企谷菌ですら除菌出来そう。どんだけ強いんだよこいつ。

 普段なら拒否る所だが、他の目もある手前、俺は気前よく握手に応じた。

 

「次の配信も楽しみにしてますね」

 

 キラーンと星のエフェクトが出そうなイケメンスマイルでサムズアップをしてきた。

 配信を急かしたかっただけかよ……。コイツ鎌谷幕府にハマりすぎだろ。次も投げ銭してくれよ。

 

「っ!? アールライト……」

 

 妙な空気がしたから、隣を見る。セインフィールさんが名刺を渡そうとしている葉山に対して複雑な表情を浮かべていた。葉山は首を傾げ、どこか困惑気味だ。

 

「あの、ラスティーさん……大丈夫ですか?」

 

「あ、いえ……葉山部長の名刺ありがたく頂戴します」

 

 取り繕った笑顔で誤魔化したセインフィールさんは、名刺を受け取った。

 まさかとは思うが、葉山の中にも変なのが紛れこんでるとか無いよな……。

 

 程なくして、お偉いさん達との顔合わせタイムが終わった。何故かセインフィールさんの方が、俺より名刺を多く貰ってるのは気のせいかだろうか……。まだ何もしてないのに、俺って嫌われてるんですかね?

 それとも、俺じゃなくてセインフィールさんが代表者だと思われてるのかな。まぁセインフィールさんのがリーダーっぽいから分からなくはないが。俺の存在意義とは。

 

 今回貰った名刺と会社員時代に貰った名刺を組み合わせればデッキが組めそうだな。雪ノ下HD役員の名刺は中々に強そうだ。陽乃さんの召喚コストとか超重そう。なんなら陽乃さんだけ五分割してエグゾディア枠にするのもアリだな。

 

 名刺を見ながら下らないデッキ編成を考えてると、ニコニコにてる陽乃さんが話かけてきた。

 

「それじゃあ義経氏、ハンバーガー作りに実験室に行こっか」

 

「実験室で料理出来るんですか……?」

 

「大丈夫大丈夫、サクッと実験室の一部をアレンジしといたから♪」

 

 サクッと出来ちゃうのかよ。きっと一般社員達が頑張ったんだろうな(泣)

 

「その前にちょっとだけラスティーと最終打ち合わせさせてください。すぐ終わります」

 

 断りを入れて、俺はセインフィールさんを連れて会議室の端の方へと移動した。

 そして、気になったことを小声で聞いてみた。

 

「なぁ、まさかとは思うが葉山の中にも異世界の変なのが入ったりしてないだろうな?」

 

 聞くとセインフィールさんは目を瞑り、深く息を吸ってから息を長めにはいた。少しすると目を開けた。その目からは迷いを感じ取れない。

 

「……いえ、それは大丈夫よ」

 

「その割には酷く動揺してたように見えたが? 俺んときみたいに他人に見えるとか無いよな?」

 

「本当に大丈夫よ。ただ……今は亡きエイトの友人だった人に似てて、それで動揺しただけだから」

 

 葉山に似た知り合いもいるのかよ。まぁ世の中には、容姿が似てる奴が3人は存在すると言うしな。あんなザ・ゾーンの使い手があと3人もいるのかよ。爆発しろ。

 

「……そうか、分かった。信じることにする」

 

 本人が大丈夫と言っているなら、これ以上問いただす必要は無いだろ。何より話が凄く重くなりそうだ。

 懸念点の確認を終えた俺達は陽乃さん率いる役員達に付いて行き、実験室へと入った。目に入るのは、白を基調とした部屋。頭の良い奴が使いそうなよく分からない機械や機材。それに、ビンの液体に入った魔物の素材だと思われるモノ。

 俺達はそのまま右側のスペースに案内され、そこにあるのはアイランド型の広めな調理スペースだった。だが、一番目を引かれたのは業務用の大型鉄板だ。

 

 マジでこの鉄板で料理していいのか……。柄にも無く八幡燃えてきましたよ。この鉄板を使えば、いつもよりクオリティの高いがものが出来そうだ。最初は従魔達の世話のために始めた料理だったが、気づかない内に楽しくなっていたとはな。

 ……豪邸を建てるときは、調理環境にもこだわろうかな。

 とりあえず調理遂行のために、プリティーなお手伝いさんを呼ぶとしよう。

 

「こい、モンスターブック」

 

 タマエの絵をポチっとな。

 

「やっと出番! あるじ様、わたし料理頑張ります!」

 

「おう、一緒に頑張ろうな」

 

 光に包まれて現れたタマエ。周りにいるお偉いさん達と言えば、陽乃さんと葉山以外はポカーンとした間抜け面をしている。

 因みにルーメリアは家に置いてきた。ギャーギャーうるさくてマジで大変だったぞ……。お陰でアニメのDVDBOXを二つも通販で買うハメになっちまったよ。

 

「タマエちゃん、ひゃっはろー!」

 

 なんで俺の周りにいる奴らの挨拶ってバカっぽいんだ……。

 

「ハルノお姉ちゃんだ! えーとね、ひゃっはろー!」

 

 俺の周りにいる奴らの挨拶ってめっちゃ可愛いよな!

 

「キャー! タマエちゃん連れて帰りたい! いいよね義経氏?」

 

 何故かタマエを抱きしめだしたし。そんなタマエは陽乃さんの母性の象徴に包まれて「柔らかいー!」と嬉しそうだ。

 

「誘拐宣言しないでくださいよ。ダメに決まってるでしょ」

 

 てかこの人は、タマエを連れて帰るより先にやることあるでしょ。結婚相手になってくれる勇者を見つけるとか。そろそろ頑張らないと平塚先生みたいになりますよ。

 

「それじゃあ始めますか」

 

 空間収納から具材を取り出す。

 紙に包んだ成形されたパティ。業務用スーパーで買った大量のバンズが入った袋。予め家で家で下処理した野菜とソース。これらを取り出して各々に指示を飛ばす。

 

「ラスティーはパンを切って軽く焼いて欲しい。焼き終わったものからタマエに渡してくれ。タマエは焼き終わったパティとバンズを使って、いつも通りにハンバーガーを完成させてくれ」

 

 俺達はエプロンを付けて、アルコールで手を除菌してから調理に入った。

 まずは中火設定にして、トングで掴んだ牛脂を鉄板にひく。ほどいい温度になったところでパティを投入した。

 

 やっぱ大型鉄板だと一気に何個も焼けるから効率がいいな。何より先方が用意してくれた道具の中に、肉を潰すやつがあった。これって確か、ミートプレスだっけ? アメリカの本格ハンバーガーを作るときに使うやつだ。前々から使ってみたかったんだよねこれ。

 

 俺はワクワクいっぱいで、ミートプレスを使ってパティを潰した。

 おお、この潰した時のジューってなる音、最高!

 

「マスター義経、肉汁こっちに分けて」

 

「へーい」

 

 ヘラで肉汁をセインフィールさんの方に寄せると、パンを焼き始めた。

 オークの肉汁で焼いたパンとか絶対に美味いんだろうな……。考えただけで腹が減ってきた。

 

 思考を自身の作業に戻す。

 ある程度パティが焼き上がったらチーズを乗せて、蓋をする。一分待ったら蓋を外してパティをヘラですくって、隣のまな板に乗せた。

 

「ほいタマエ、焦らずいつも通りに作ればいいからな」

 

「はーい♪」

 

 横目で確認するとタマエは丁寧な作業でハンバーガーを完成させていた。

 うん、これならタマエは問題なさそうだな。

 

「ハンバーガー三つ出来ましたよ~」

 

 タマエの声に真っ先に反応を示す陽乃さん。目が肉食獣みたいになっている。

 この人、さては朝ごはん抜いてきたな……。

 

「じゃあ、まずは私から──」

 

「副社長、危ないのでまずは他にまかせましょう!」

「そうですよ副社長。人間にとっては毒かもしれないですし……」

「そもそも素顔すら見せない仮面男の作った物なんて信用出来ないです!」

 

 陽乃さんがハンバーガーを手に取ろうとしたら、他の役員達が囲んで強引に止めに入った。

 おっとー、どうやら思ってたより魔物の肉に対する反発が大きいようだ。まぁ仕方ないよな。俺があっちの立場なら同じような反応になると思うし。

 やはり配信で宣伝を一回した程度ではダメだったようだ。いや違うな……。理解を得難いと知りながら、魔物食材を選んだ俺の落ち度だ。……残念だが、また次の機会に食べて貰えればそでいいか。

 

「あるじ様……」

 

 ケモ耳がしおれて悲しそうな表情を浮かべるタマエに、胸が痛くなる。

 セインフィールさんの方も確認をすると、特段気にしている感じでは無さそうだ。流石に300歳を越えると、人生経験豊富なんだろうな……。

 

「……大丈夫だタマエ。これは後で俺達が食べよう」

 

「せっかく美味しいのに……」

 

 どんなに良い物を作っても必ずしも売れる訳ではない。どんなに努力しても結果が実る訳ではない。どんなに言葉を並べても相手に想いが伝わるとは限らない。社会を経験したアラサーにもなると、この考えがデフォルトになってくる。

 失敗をするのもまた人生だ。でも──

 

「──タマエ、努力は自分を裏切らない。平気で夢を裏切るけどな。だから今は頑張った事実で、自分を慰めるんだ」

 

 結果が出なくても、努力は自身を成長させる。これさえ理解してれば、ブラック企業でもそこそこ頑張れるってもんよ。

 

「あるじ様が……微妙に前向きなこと言ってる!」

 

「本当に微妙だけど良いことを言うのね。マスター義経」

 

「だろ。後ろに向かって三歩前進して、前に一歩後退する。それが俺だ」

 

「結局後ろに進んでどうするのよ……本当にどうしようもない上司ね」

 

 クスクス笑う聖女様。

 湿っぽい雰囲気も払拭できたし、撤収の準備でもしますか。

 

「お嬢さん、ハンバーガーを貰えるかな?」

「素材調達部の部長として確かめないとね。私にも一つ」

 

「え……うん! これね、凄く美味しいよ!」

 

 撤退スイッチが入った所で、葉山とメガネを掛けた男性がハンバーガーを貰いに来た。それに対してタマエは嬉しそうにハンバーガーの乗った皿を渡す。

 葉山は笑顔でハンバーガーを受け取ると、そのまま口に運んだ。

 

「……っ!!? ぱな、じゃなくて美味いな!! 三千円って言われても全然払えるよ」

 

 ハンバーガーを一口かじると、葉山はそのまま凄い勢いで完食した。隣のメガネの人も同じ感じだ。

 

「はは、本当に暴力的な美味さだ。……皆さんも一緒に食べませんか? 凄く美味しいですよ。自分が保証します。これを食べないなんて、人生損ですって」

 

 柔らかい口調で役員達に安心して食べられると告げる葉山。

 一体なんなんだ、この胸の高鳴りは。何故か葉山が凄く輝いて見える。

 

「は、葉山君、本当に大丈夫なのかね……?」

 

「ええ、そもそも副社長が連れて来た凄腕の探索者ですよ? その時点で信用は担保されてると思いますが」

 

「……い、言われてみれば確かに……我々は失礼なことをしてしまったようだな……」

 

 葉山の主体的な行動によって明らかに空気が変わり始める。お偉いさん達のゲテモノを見るような目に、興味の色が宿り始めた。

 葉山、お前……これが……トゥンク……? ハッ!? っべー、一瞬トキメキそうになりましたわー!

 隼人くんマジッパネェわー、マジで白馬の王子様に見えたわー。……くっ、まさかエリートぼっちの俺がザ・ゾーンに呑まれかけるとはな。今日の所はお前の勝ちだ葉山。

 

「ほら、あの隼人が大丈夫って言ってるでしょ。いい加減どいて!」

 

 陽乃さんは強引に囲みを突破して、ハンバーガーを受け取った。

 

「ナニコレ!? めっちゃ美味い!! うん、マジぱないのって感じ!」

 

 あー、ぱないのって言っちゃったよ。クロスオーバーはよそでやって欲しいよ。

 葉山の空気清浄力(ザ・ゾーン)によって、安全だと確信を得た役員達が並び始め、俺達は大急ぎで作業を再開した。

 やはり恐るべし葉山隼人。あの頃のカリスマ性は色あせるどころか、以前より増してる気さえする。何より、相変わらずめっちゃ良い奴。心と顔がイケメン過ぎなのがちょっとムカつくけどな。

 

「悪かったね、お嬢ちゃん。食べもしないで適当なことを言って……」

 

「うん……じゃあね、残さずに食べてくれたら恨みっこ無しね!」

 

「儂も悪かったよお嬢ちゃん。ところでお嬢ちゃんの名前はタマエちゃんで良いのかな?」

 

「そう! わたしね、タマエって言うの! あるじ様が付くけてくれた名前なの~♪」

 

 タマエの可愛らしく接客する仕草に、お偉いさん達は口から「おっふ」と漏らし続ける。

 あのタマエちゃん? おじさんキラーになってません? 

 でも妖狐と言うのは人間を惑わす、と色々な伝承にある。ならばタマエの在り方はきっと正しいのだろう。ちょっと将来が怖いですけどね。

 

「フッ、流石は私のタマエ先輩ね!」

 

 なんでこのエルフは誇らしげなんだ……。

 

「ほらほら、適当なことを言った人達はちゃんとタマエちゃんに謝ってね~、じゃないとハンバーガー食べさせないから~♪」

 

 あの陽乃さん? そこはリーダーである俺に対して謝らせるべきでは? まぁ別にいいんだけどね? 俺ってほら、心が広いし?

 まぁ真面目な話をすると、胡散臭い仮面野郎に謝るよりは可愛い女の子に謝る方が心理障壁は低い。美味い物を作ったからと言って俺が胡散臭い存在なのには変わりはないしな。

 

 だからきっと陽乃さんは、俺と言う存在ではなくタマエを前面押し出したのであろう。やはり、タマエを召喚しておいて良かったよ。これがルーメリアだったら、役員が何人かミンチになってたかもしれないし。ヒィィイイ、怖いですわ!

 まぁいいや。報酬に色を付けて貰おう。

 

 ──従魔士Lv9→従魔士Lv10。

 ──【フェイバリットモンスター】

 効果:持続時間は1時間。テイムモンスターを一体選ぶ。モンスターブックに収納されてる全モンスターのステータスを合算して、選ばれたモンスターに付与する。持続時間が終わるまではモンスターブックはロックされ、他モンスターを呼び出せない。

 

 お偉いさん達の分を焼き終わって、自分達の分を作ってると情報が脳内を駆け巡った。

 きたきたきたーーー!!!

 超久しぶりにジョブレベルが上がったぞ。オマケに新スキルも手に入れた!

 これもパッシブスキルである【テイマークッキング】がのお陰だな。

 でもなんだか、スキルの名称がガッチャしてる主人公の使う魔法カードっぽい。効果は強いが、リスクがあって使いどころが難しい感じがする。見るからにサシでの短期決戦用のスキルだ。でも、このスキルを使う場面ってどんな場面だ? 

 考えられるのは圧倒的な個が必要になる場合。……まあいい、明日にでもダンジョンで試してみるか。

 

 スキルの考察をしながら料理を進めていると、実験室のドアが開く音がした。

 

「マジかよ……」

 

 視界の端で確認した瞬間、俺は戦慄し、震えた声がこぼれ出た。そして周囲は入ってきた人間に対して、顔色を伺いながらペコペコと頭を下げだした。だが陽乃さんだけは完全にこの状況をニヤニヤしながら楽しんでいる。

 ヤバイ、変に汗が止まらない。胃も痛いよ。土に還りたい。もー、来るなら来るって予め教えてよねっ! なんも心の準備してないんですけどー!!!

 

「お母さん遅いってば~」

 

「ごめんなさいね陽乃。先方との会議が長引いちゃって」

 

「でもベストタイミングだよ。出来立てのハンバーガーもあるし」

 

 入ってきた黒い着物を纏う人物は、そのままハンバーガーが並んでるカウンターまでやってきた。俺はタマエを後ろに下がらせて、相対する形となった。

 うわっ、会うのいつ以来だっけ……。にしても、この人って今50代後半とかだよな。見た目あんま変わってねぇな。エルフの遺伝子とか入ってそう。

 

「一つ頂いていいかしら?」

 

「……ど、どうぞ遠慮にゃく」

 

 やばい、緊張しすぎて噛んだ。でも無理もない。だって目の前に──

 

「ふふっ、そう緊張なさらずに。それと初めまして、社長の雪ノ下です。副社長である陽乃から、腕利きでユーモアに富んだ探索者だと伺っています」

 

──千葉の大魔王が再臨したのだから。

 

「源義経でしゅ……です」

 

 あ、また噛んじゃった(泣)




オハ幕府!
ここまで読んで頂き、ありがとうございます!
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