か、カマクラが若返ってる!?   作:9ナイン9

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52:そこそこ、比企谷八幡は普段から頑張っている。

 雪ノ下HDでの試食会を終わらせた翌日、カマクラとセインフィールさんと共に裏庭ダンジョン2階層に来ている。

 今日の目的は確認──昨日たまたま料理中に新たに発現したスキルを試しにきた。

 久しぶりの新スキル。補助系統のスキルとは言え、正直少しだけワクワクしている俺ガイル。

 

 発現したスキルは【フェイバリットモンスター】。

 効果:持続時間は1時間。テイムモンスターを一体選ぶ。モンスターブックに収納されてる全モンスターのステータスを合算して、選ばれたモンスターに付与する。持続時間が終わるまではモンスターブックはロックされ、他モンスターを呼び出せない。

 

 火力を底上げする短期決戦用のスキルというのが俺の所感だ。

 

「カマクラ。今からお前にスキルを使うから好き放題暴れろ。セインフィールさんは引き続き俺の護衛を頼む」

 

「了解」

 

「にゃ~」

 

 セインフィールさんは周囲への警戒を強め、カマクラは戦意を漲らせる。シャドーボクシングをするぐらいには、カマクラはやる気のようだ。

 さて、どうなるか見ものだ。カマクラを除いた総勢8体のステータスがそのままカマクラにプラスされる。期待値がハンパない。

 

「やるぞカマクラ」

 

 俺はカマクラに手を向けて【フェイバリットモンスター】を発動した。【モンスターブック】が現れて黄金に輝きだす。その黄金の光は一直線に放たれ、光を浴びたカマクラの体毛が徐々に黄金の色へと染まった。

 

「ニャッ!」

 

 光が収まると、エネルギーをスパークされる金毛のカマクラの姿が顕わになった。どこか荒々しい印象を受ける。

 え、これスーパーサイヤ人的なやつだろ。いや、どちらかと言うとラージャンだな。金獅子ならぬ金猫だな。

 カマクラの姿に満足してると、丁度ゴキブリ型のモンスター共が進軍してきた。数はざっと10以上。

 

「よしカマクラ、あいつらで試せ」

 

 指示を飛ばすと、カマクラは敵に対して手を振る。そして、僅かに空間が揺らいだ。

 

「……は?」

 

 なぜかゴキブリ共が細切れになった。

 確実にカマクラが何かをしたよな……。てことは、あの手を振る動作だけで敵を壊滅させたってことか?

 

「凄いわね。あの動作だけで100の斬撃を飛ばしてたわよ……」

 

「そ、そうなんだ……」

 

 歴戦の聖女であるセインフィールさんにはちゃんと見えてたようだ。俺には何も見えなかったけど。

 

「カマクラ、とりあえず暴れてこい。魔石も全部食っていいぞ」

 

「ニャニャ〜♪」

 

 上機嫌に飛び出して行ってしまった。と言うより、速すぎて声だけが後から聞こえてきた。完全に音を置き去りにしたよあの猫。

 俺達も後を付いて行き、カマクラが無双したであろう跡地でモンスターのドロップ素材を回収して周った。

 もうあの猫一匹でよくないですか?(七海感) 

 

「カマクラァァァァアアアッ! もう帰るぞー!」

 

 大声で呼ぶと、頭にモフっと何かを置かれた。案の定カマクラの肉球であった。こいつが敵だったら、俺は今頃八万回は死んでるぞ。なんなら死んだ事に気づかずにあの世に行ってるまである。

 

「体の調子とかは大丈夫か?」

 

「ニャッ」

 

 特に問題ないようだ。問題があるとすれば、モンスターブックから他の従魔達をあと30分は呼び出せない点ぐらいか。

 もしだ、もしこのスキルを使って強敵に打ち勝っても、選んだ従魔が満身創痍だったらかなりヤバイ。他の魔物に囲まれて袋叩きにされたらゲームオーバーだ。やはりこのスキルは奥の手だな。

 

「ニャッチャ」

 

 スキルの運用を考えてたら、マイフェイバリットが腕を伸ばして、指差しカッコつけポーズをしだした。猫将軍さん、狙いすぎですって。

 

「お前はどこのヒーロー使いだよ」

 

 とりあえずスキルの使用感とデメリットは把握出来たし、今日のダンジョン探索は切り上げよう。

 帰りは語る事が無いぐらいスムーズに帰れた。まぁ異世界の聖女様がボディーガードしてくれてるしな。

 ダンジョンから出た俺は、セインフィールさんとカマクラが先に家に入るのを確認してからダンジョンゲートの方へと振り返る。そして、腕を伸ばして、中指と人差し指もくっつけて伸ばす。

 

「……ガッチャ、いいデュエルだったぜ」

 

 爽やかに言ってみたものの、違和感が凄い。うん、やっぱヒーロー使いって柄じゃねーわ俺。

 

♢ ♢ ♢

 

番外編:魔王によるスパルタ戦闘訓練の日々

 

「判断が遅いですわ」

 

 ルーメリアの右手の動きに気を取られ、左拳が俺の腹に食い込んだ。

 

「グハッ!?」

 

 軽くふっ飛ばされて、やっとの思いで息を吸う。ボロボロになった体に鞭を打ってどうにか立ち上がる。だが、痛みの恐怖で足の震えが止まらない。

 そんな情けない俺を見て、ルーメリアがやれやれと肩をすくめていた。

 

「……やはりマスターには武の才能も無ければ、素質も無いですわね」

 

 この魔王、言葉の戦闘力もたけぇな。そういうのは雪ノ下だけで充分です。

 

「もう少しオブラートに包めよ。泣きたくなっちゃうだろ」

 

 っつーか俺は一騎当千の探索者とか目指してないんですよ。だって俺だぞ。どう見ても無理だ。

 痛む腹を抑えながら、ある偉人をふと思いだした。

 

 その昔、中国大陸を統一した英雄がいた。その名は劉邦。大した武勇も無ければ、軍略に長けていた訳ではない。ましてや政治力が高かった訳でもない。そんな男が天下を取った。劉邦の優れていた所は人材活用術だと俺は見ている。

 武の韓信、智の張良、政の蕭何。この有能な三傑を使いこなしたのがデカかった。

 

 劉邦になぞらえるなら、俺にあと必要なのは蕭何だ。単純な武はカマクラで充分足りてる。ダンジョンとかのファンタジーに関する智はルーメリアとセインフィールさんが補ってくれている。だが現状それ以外のことを俺がしている。主には金銭管理だったり、取引先との折衝とかな。

 早く組織運営を任せられる蕭何が欲しい! 蕭何みたいな奴がいれば俺は家事をするだけで済むし、頑張ってる従魔達を褒めてるだけで良い。これぞらくらく劉邦作戦! ……よく考えたら俺に劉邦みたいな人徳とかねーわ。テヘ☆

 

「って、マスター! 聞いてますの!?」

 

 ルーメリアの大声で、思考の渦から現実に引き戻された。

 

「わりぃな。何だっけ? 才能とか素質の話だっけ?」

 

「違いますわ! 次の訓練は得物を使うって話ですわよ!」

 

 えー、訓練で武器使うの? 怖くないですかそれ。確実に怪我しちゃう。なんならサブレを助けたとき以上に怪我するまである。

 

「とりあえず、話を才能と素質に戻しますわね」

 

「その二つに大した違いがあるとは思えないんだが……」

 

 言い回しが妙だが、ほぼ同じ意味だろ。

 

「いやいや、わたくしからすれば全くの別物ですわ」

 

「ほぉう……ならどう違うかご教示願おうか」

 

 師事を乞うと、ルーメリアは満足気に自身の肩にかかった長い髪を払った。

 

「素質はマスターが思っている通りの意味ですわ。先天的な能力のこと……残念なマスターには、武の素質は皆無でしたけど。本当に残念ですわ」

 

「どんだけ俺を残念な奴にしたいんだよ……」

 

「次は才能、これこそ何においても大事ですわ」

 

 生まれ持った素質より大事なものが才能、か。……どういう意味で言っているか皆目見当がつかない。

 俺を首を横に振って分からないと告げた。

 

「わたくしの言う才能とは、それが超好きかどうかですわ」

 

 才能の定義が意外と単純だったよ。でも単純故に見落とした。

 

「その定義だと、素質ある奴に勝てるとは思えないんだが……」

 

「いいえ! それが超好きか、と言うのはバカに出来ないですわよ」

 

「……」

 

 改めて考えると、一理あるように思う。きっと超って付くのがミソだな。

 

「アレか、超好きだから教えて貰わなくても勝手に突き詰める的な?」

 

「そうです。その解釈ですわ」

 

 素質がないというのは、成長速度が遅いだけと解釈が出来る。でも、超好きななら練習量でカバー出来るパターンだってある。

 それなら俺に戦闘の才能が無いのも頷ける。だって痛いのとか嫌いだし。マジ大っ嫌い。Sランクダンジョンに挑むと言う目的を掲げていなかったら、こんな特訓は絶対にやっていない。

 

「超好きだから突き詰める、調べる、工夫する。これはどの分野でも超一流になるために必要なこと。実にシンプルですわ」

 

「それが難しいんだよなー」

 

 シンプルだからこそ難しい。生まれてから死ぬまでに、超好きになれるモノに出会える人間がどれ程いるのだろうか。大抵は出会わずして生を終えるであろう。しかも年齢が上がるに連れて、新しいことに挑戦することが億劫になって惰性で生きるようになる。悲しいことに、自分が本当にやりたいことを理解出来てる人間なんてごく僅かだ。

 

「おっと、話が逸れましたわね。結論、マスターには素質と才能の両方がないので経験でカバーして貰いますわ」

 

「……その経験って言うのは、訓練のことか?」

 

「それ以外なにがあるんですの?」

 

「や、もう一ヶ月以上は訓練してるけど、未だお前に触れることすら出来ないんだが?」

 

 そもそもダメージを与えられるヴィジョンすら見えない。

 

「落ち込まなくてもいいですのよ? マスターは雑魚なりによくやっていますわ」

 

「お前はもっと俺に対してオブラートしろ」

 

「分かってないですわね。この体術訓練のお陰で、今のマスタなら、この世界にいるそこら辺の低級探索者程度なら簡単に倒せますわよ? 毎日わたくしにボコボコにされてるから実感が湧かないのも無理ないですが」

 

 マジかよ。俺ってそこそこ強くなったのか。探索者界隈で底辺にならずに済んだのは良かったが、実感が全く湧かないぞ。

 とりあえず俺は、訓練で付いた傷を治すべくポーションを取り出した。

 

「あー、マスター? 訓練の傷程度でポーションを使うのはやめた方が良いですわよ」

 

 飲もうとしたらストップが掛かった。

 

「何でだよ……」

 

「ポーションは確かに便利ですわよ。ダンジョンなどの緊急性がある所で使うのは否定しませんわ。でも、日常で普段使いしてると、生物本来の自然治癒力が下がる。これはわたくしのいた世界の研究結果ですのよ」

 

「マジ!?」

 

 よくよく考えたら、傷をあっという間に治すような物にデメリットがあるのは当然か。しかも、この世界でのポーションの歴史は10年弱。こう言ったデメリットが見つかってないのも頷ける。

 

「まぁ、今日はここまでにしますわよ。朝ごっはん~♪」

 

 ご飯ごは~ん♪と口づさみなが家に入っていくルーメリア。

 そのご飯を作るの俺なんだよなぁ。体痛いなぁ……。

 

♢ ♢ ♢

 

「さあ今日の訓練を始めますわ」

 

 軽いストレッチを終えて、今日も朝の5時から魔王との地獄の特訓が始まった。誰だよ異世界のガチ魔王に特訓なんてお願いした奴は。自殺願望者かよ。俺なんだけどね!

 

「今日は武器を扱う訓練だっけ? 俺バットしか使えねぇぞ」

 

「ええ。マスターに剣だとかのカッコイイのは期待してないですわ」

 

 期待されてされてねーのかよ。期待とは無縁の人生だったから別にいいけど。

 

「わたくしが使うのは……これで十分ですわね」

 

 ルーメリアは3メートルほど離れたところに落ちていた木の棒を拾って戻ってきた。本当にどこにでも落ちてる特徴のない木の棒だ。

 

「あの、いくらなんでもナメすぎじゃないですかねぇ……?」

 

「これだから、彼我の力量も推し量れない愚者は困りますわ」

 

 こっちを小馬鹿にすると、ルーメリアは顎を上げて、見下しながら木の棒を肩に置いた。見るからに舐め腐ってる態度だ。

 

「さぁさぁバットを抜いて、どこからでも掛かってきなさいな。マスター」

 

 言われるがままに俺は空間収納から魔鉄製のバットを抜いて構える。

 絶対に俺は返り討ちにされる。火を見るよりも明らかだ。でも、怖がっていては訓練にはならない。ここは潔く諦めて、返り討ちに合ってダメ出しされよう。結局ダメ出しされるのかよ。

 

「行くぞ……!」

 

 俺はルーメリアに飛び掛かり、左方向から顔面を狙う。 

 

「なっ!?」

 

 木の棒で受け止めると同時に、バットが切り裂かれ、空振った。呆然とする俺はただただ、短くなったバットを見つめたままであった。

 

「なぜ、たかが木の棒に折られたか、分かりますわね?」

 

「……ただの木の棒に研ぎ澄ました魔力を纏わせている、からか?」

 

「正解ですわ。ポイント高いですわよ」

 

 小町みたいなことを言うルーメリアは、木の棒を指で上機嫌な様子で回していた。

 

「いや、でも、俺も寝る前にバットに魔纏を試してみたが、魔力が霧散するだけだったぞ」

 

「おお、試す程度の好奇心はあったんですのね。感心感心。……ただ、物に魔纏するのは人間からすれば一朝一夕の技術じゃないですわよ」

 

 えー、そんな高等技術だったのかよ。

 

「マスター、目に魔纏」

 

 そう言われて、目に魔力を纏わせる。

 

「……マジか」

 

 目に入ったのはルーメリアの持つ木の棒が魔力を帯びていて、その魔力の形状が刃状になっていた。リーチが伸びていて、まるで剣そのものだ。

 

「こんなことも出来ますわよ?」

 

 次は魔力の形状が変わって、金棒みたくなった。更には魔力を広げて盾状にもしてみせた。

 

「極めればどんな武器を手にしても、臨機応変に変えられるのか……」

 

 所感を述べると、ルーメリアはうんうんと満足気に頷く。

 

「その認識で間違ってないですわ。そして───」

 

 ルーメリアは空間収納からアダマンタイトの塊を取り出して、宙に放り投げた。

 

「───達人の域に達した者はアダマンタイトをも断つ」

 

 そして、容易く一刀両断してみせた。

 現状確認されてるファンタジー鉱石の中で、最高硬度を誇るアダマンタイトだぞ。魔力と言うものが、こんなにも応用が利く奥深いモノだったとは。魔力やっべーわ。スキルや魔法のエネルギーだし、身体と武器も強化出来るしでマジファンタジーだわー。いつか科学的に解明されて欲しいものだ。文系の俺は使う専門だが。

 

「……」

 

「わたくしの故郷の至言をか弱いマスターに授けますわ。『優れた戦士は武器を選ばない。されど優れた武器に選ばれる』、これを有難く心に刻みなさい」

 

 武器を選ばない、か……きっと戦場で使えるモノは何でも使えってことだろ。なんとも合理性を突き詰めた格言だな。それに、武器に選ばれると言うのはファンタジー的に見れば、聖剣みたいなのに選ばれることであろう。

 

「さぁ、あと二時間ありますわ。訓練訓練!」

 

 俺に木の棒を投げ渡して、急かすルーメリア。

 こんな木の棒で、いったい何の訓練をするんだよ。アダマンタイトを切れとか言わないよな。8万年やっても出来る気しねぇぞ。

 戸惑っていると、魔王が道を示してきた。

 

「せめて、その木の棒で石を切れるレベルになってくださいまし」

 

「はぁ……はい、善処します」

 

 新たな訓練に入った俺は、木の棒に何回も魔力を通すも、全く上手くかない。やっぱ無理だろこれ。体なら何とか出来るようになったけど、感覚があまりにも違う。

 

「おい、コツとかないのかよ。出来る気しねーぞ」

 

 文句混じりに教えを乞うと、ルーメリアは空間収納から短検を引き出して渡してきた。綺麗な青い刀身、それでいてシンプルな作りになっている短剣だ。

 

「ミスリルの短剣ですわ。それでやってみなさいな」

 

 言われた通りにやってみると、さっきと違ってかなりの手応えを感じた。本当に僅かだけど、纏わせることが出来たのだ。

 

「どいうことだ……素材の違いか?」

 

「そうですわ。素材によって魔力伝導率が違いますの。ミスリルの伝導率は99.8%。ただの木の棒は木の種類にもよりますが、基本20%前後ですわ」

 

 ミスリルの魔力伝導率たけぇな。魔力操作素人の俺でも何とかなるとか流石は代表的なファンタジー鉱石。世間が知らないだけで色々な活用法がありそうだ。

 

「それならミスリルの武器で訓練した方がよくないですかねぇ……」

 

 効率的な提案をすると、強めに肩パンされた。

 

「いぃって!?」

 

「すぐにそうやって甘える。我がマスターとして本当に情けない。一流の戦士になれるとは期待してませんが、三流の戦士ぐらいにはなって貰いますわよ」

 

「おい、三流とかハードル高すぎだろ。せめて八流ぐらいにしろ。こっちは平和な日本でヌクヌク育った村人だぞ」

 

「ここまで志が低いとは……いや、八流になる気があるだけまだマシですわね……」

 

 自身のこめかみに指を当てて、イライラ気味になるルーメリア。その雪ノ下が呆れ果てたときにするポーズやめろ。結構心にくるから。

 

「いいですかマスター? 本来ダンジョンで戦う者は、木の棒に魔力を纏わせる程度のことは出来ますわ。わたくしからすれば、この世界で迷宮探索を生業にしてる者達のレベルが低すぎですわよ」

 

 んなこと言われても知らねぇよ。異世界は魔法だとかのファンタジーの研究が盛んだったかもしれないが、こっちだと新たに出来た分野だぞ。歴史の深さが違い過ぎる。そもそも、木の棒で岩を切るとか、そんなカッコイイこと俺に出来るようになるとは思えないんだけど……。だって俺だぞ。まぁルーメリアが匙を投げない限りは、ほどほどに頑張ろうとは思うけど。

 

「わ、分かったよ。善処───」

 

「ああ?」

 

「───めっちゃ頑張ります! だから殺気を飛ばすな!」

 

 こいつの殺気ヤベェだろ。脇腹を刺された自分、そんな光景を幻視したぞ。殺気で幻術を見せるなんて怖すぎだろ。うちは一族より凄いまである。

 

「なら先ずは、魔臓を鍛えるのと、物質への魔纏訓練を同時進行して頂きますわよ。中々にハードですので、覚悟なさいマスター」

 

「ん? 魔なんだって?」

 

「魔の臓ですわ! 魔力を作るところ。心臓の裏側にある小さい器官ですのよ」

 

「はいぃ? そんな器官聞いたことないんだが?」

 

「だって小さい上に心臓とほぼ同化してますもの。まあ鍛えればデカくなりますけど」

 

 人間の体にそんなファンタジーな物があったとは驚きだ……。はい、秘匿情報が増えました。あとで秘匿ノートに記しておこっと。

 

「じゃあなんだ、人間は元から魔力を扱えるってことでいいのか?」

 

「少し違いますわ。この世界は空気中の魔素が異常に低い……ああ、魔素とは簡単に言うと、自然の空気に溢れてる魔力のことですわ。わたくしのいた世界だと魔素濃度が高かったので、生物が生まれると自然に魔臓が活発に働きますわ。ダンジョンも同様に魔素濃度が高くて、マスターの場合は初めてダンジョンに入ったときに魔蔵が活発化したんですのよ」

 

 ルーメリアは説明を終えてると、マッ缶を飲み始めて息を整えだした。

 ある程度は理解した。要は全く使ってなかった器官だから退化してたんだろ。しかも、その器官が魔素とか言うファンタジー元素に触発されて活発しだした。

 

「その魔臓とやらを鍛える意味は? 急に発現してきたジョブってそもそも何? 何でお前にはジョブが無いんだ?」

 

 次から次へと湧いてくる疑問をぶつけると、ルーメリアは手のひらで制してきた。

 

「ジョブとは何なのか、それについては今度座学でもしてあげますわ。今は強化訓練のが優先ですわよ」

 

「……それもそうだな。わりぃ、魔蔵とやらの強化を優先してくれ」

 

「では、詳しく説明しますわね。筋肉に負荷を掛ければ鍛えられる。これと同じように、魔臓も負荷を掛けて鍛えられますわ。鍛えることで魔力量を増やせますのよ。……多少は苦しい思いをする羽目になりますけど」

 

 レベルアップ以外で魔力量を増やせるとは……。それはそれとして、苦しいのとかイヤすぎる。俺って従魔士なんだけど。苦しいことをするジョブじゃないんだよなー。

 

「鍛え方は単純。魔力をただ限界まで放出する。これを毎日繰り返せば魔力量を徐々に増やせますわ」

 

「なぁ、確か魔力がすっからかんになると貧血症状みたいになる気がするんだが……」

 

 思い出すのは、サブレが暴走してたとき。あと少しで俺の方がぶっ倒れるところだったぞ。

 

「ええ、それが何か? いくらでも倒れてくださいまし。そうやって魔臓が強くなっていきますわ」

 

「いや、毎度毎度気絶するとか効率悪すぎだろ……」

 

「そこはちゃんと対策してますわ。さぁ、瞑想のポーズで魔力を放出して下さいな」

 

 そう説明されて、目を瞑って胡坐をかく。自身の魔力をゆっくりと外に押し出していく。

 だが、魔力を放出していくうちに意識がおぼろげになっていく。

 

「えい、ですわ♪」

 

「ふぇっ!?」

 

 意識を失いかける寸前、強引に口へと何かを突っ込まれ、無味な液体が体内へと侵入してきた。

 

「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ、うえぇ。なんだこの瓶は!? いったい何を飲ませた!」

 

「魔力回復薬。ゲーム風に言うならMPポーションですわね」

 

 出たよ異世界アイテム。こっちだと魔力ポーションはまだ開発されていない。これも特級秘匿情報に分類しておこう。上手くやれば特許が取れそう案件だが、確実に目立つ羽目になる。そもそも技術的に作れるか疑問だ。

 

「使って良かったのかよ。貴重品じゃないのかそれ?」

 

「低級ポーションなので、ただの消耗品ですわ。大体、この程度の物なら、わたくしが錬換法ですぐに作れますわ」

 

 何だよ錬換法って……。異世界用語を言われても頭の中が訳ワカメだから。ワカメ生えちゃうのかよ。

 

「ならいいけど……」

 

 一応の納得をすると、ルーメリアは緑色の液体が入った瓶を10個も渡してきた。俺はそれを受け取り、自身の空間収納にしまった。このポーションで効率的に訓練しろ、と言いたいのであろう。

 

「朝は物質への魔纏、夜寝る前には魔臓の鍛錬。今日の夜からやってもらいますわよ」

 

「……ㇵィ」

 

「声が小さい!」

 

「ヒィィッ!? サーイエッサー! オールハイルブラッドノイズ!」

 

 喝を入れられ、反射的に敬礼をしてしまった。

 こうして魔王様とのハイレベルでハードな新たな訓練が始まった。

 前々から体育会系だとは思ってたが、これでは体育会系を通り越して、ジェノサイド系だ。バットもダメにされてたしよ。……そうだよ、俺の魔鉄製のバット、アレ10万円したんだぞ。どうすんだよ俺の10万円! 返せよ10万円(泣)

 

♢ ♢ ♢

 

 あれから毎朝、物質への魔纏訓練、夜には魔臓の強化鍛錬を真面目にやっている。今日も訓練───ではなく、聖女様と魔王様が珍しく座学を開催してくれるらしい。

 俺は眠気眼を擦りながらリビングテーブルに座り、ノートを構える。目の前には魔王と聖女がいる。そして、隣にはウキウキしているタマエがいる。

 座学とかラッキー。今日は苦しい思いをしなくて済む。やったね☆

 

「ジャッジャッジャーン! 第二回! 異世界基本講座を開催しますわ! イエーイ!」

 

 ルーメリアは手でパチパチしながら愉快に座学を開催した。そのハイテンションに、俺とセインフィールさんは白けていた。

 第二回……そう言えば結構前にダンジョンの講義をしてくれたっけ。先送りにしてたけど、いつかスタンピードが起きて地上に魔物共が進行してくる可能性があんだよな……。ハチマン、シーラナーイ、ナニモキイテナイ。

 

「イエーイ! ワクワク!」

 

 タマエがテンションを上げてきた。

 もー、カワイイー! 朝からお兄ちゃんのテンションも上がっちゃう!

 

「では、ジョブとは何なのか、について講義しますわ! 聖女が」

 

 初手からいきなり丸投げかよ。見ろよ、聖女様の顔を。無茶振りされて表情筋がピクピクしてんぞ。

 

「この際、講義するのはいいけど、この世界の知識レベルがいまいち分からないのよね。……そこんとこどうなの?」

 

「魔法とかダンジョンについては、黎明期。童に教える心構えで挑んだ方がいいですわよ」

 

「ならジョブの概要からね」

 

 聖女様の授業が始まり、俺はジョブについて秘匿ノートに大まかな内容を箇条書きで書き続けた。

 

・ジョブは人間とエルフを含めた純人種なら15歳までに発現する。

ただし、魔臓が活性化してない場合その限りでは無い。

 

・ジョブは当人の精神的特徴が反映されて、最初こそ他人と被るが、途中から十人十色になる。

極め続けれるとジョブは、使い手に合わせて独自の方向へと成長する。言わば、進化する。

 

・ジョブには大きく分けて、戦士系統、支援系統、生産系統の三種類がある

剛力士などが戦士系統、唐ヶ原さんみたいな裁縫士は生産系統で、俺みたいな従魔士は支援系統の分類される。もっと言うと従魔士は支援系統の中でも使役系ジョブに分類される。使役系には他だと死霊術士などが挙げられる。

 

・魔族や龍族にジョブがないのは、人間種と違って脳にある松果体と言われるジョブアーカイブなるスピリチュアル器官を持たないからと言われている。

ただし、人外種は最初から魔力を100%活かせる身体構造になっているため、決して劣っている訳ではない。純人種が魔力を100%活かそうと思ったら、長い年月を掛けて厳しい研鑽を積む必要がある。

 

 内容をまとめたノートを見ていると、俺の口から溜息がこぼれる。

 世の学者や評論家が日夜議論しているジョブの謎を解明しちゃったよ! これを世間に公表したら間違いなく時の人になれちゃう。根拠が異世界知識な時点でオカルトだとか、怪しいスピリチュアル系に思われそうだけどな。松果体なんて単語がまさにスピリチュアルっぽいし。スピリチュアル界隈だと第三の目とか、いかにも胡散臭い名称がついてたからバカバカしく思っていたが、まさかこんな重要な器官だったとは……。このノートは何がなんでも死守せねば。

 

「精神的特徴、か。お前達の居た世界だと、どういった奴が従魔士になるのか、解明されてたりする?」

 

 秘匿情報が増えたことにうんざりしながら、気になったことを異世界人の二人に聞くことにした。

 

「うーん、魔族の学者の間では、動物好きに発現するジョブとか、人間嫌いに発現するジョブとか、色々と意見が割れてましたわね……。聖女、人族国家はどのような見解ですの?」

 

「色々と諸説あるけど、エルクシア法国が従魔士1000人を対象に調べた結果、全員幼少期にある共通点があったことが確認できたわ。てか、魔族ってジョブの研究をしてたのね」

 

 わお。従魔士1000人を対象とか、酔狂な研究をする国だな。きっと研究を生き甲斐をとするワーカーホリック多かったんだろうな。

 

「敵である人族のことを研究するのは、当たり前のことですわよ。なんなら要注意人物である戦士たちのジョブは全て、人族国家の諜報員から仕入れてましたわ」

 

「諜報員ですって!? それって誰なのよ……」

 

 疑問を浮かべるセインフィールさんに、ルーメリアは邪悪な笑みを浮かべだした。

 

「例を言うと、貴女の故郷の宰相に淫魔を使った蜜の罠(ハニートラップ)を仕掛けた上で大金を掴ませたら、嬉々として魔族に情報を渡してましたわよ。フフッ」

 

「はぁ!? あの人売国奴だったの!?」

 

 話を聞いてたら、恐怖の余り俺の鳥肌が立った。

 怖っ! ハニトラ怖っ! ただまぁ、有り得ない話ではないけどな。前政権である自国民平和党の政治家とか、6割が中国のハニトラに引っ掛かって媚中政治をしてたしな。今となっては、新たに施行されたスパイ防止法に基づいてそいつらは処刑されたけど。性行為一つで組織や国が傾く可能性を考えると、俺も気をつけなきゃな。いや別に俺には雪ノ下がいるから心配ないとは思うが……。

 

「まったく頭が痛くなるわ……。もうあっちの話はやめましょう。ええ、もう過ぎたことよ」

 

 セインフィールさんは自分に言い聞かせ終えると、改めて従魔士の説明を始めた。

 

「話を戻すわね。従魔士達の共通点、それは幼少期に強い孤独感を覚えてた点よ。もっと細かく言うと、家族がいなかったり、家族がいても愛を貰えなかった環境で過ごしてた、とかね。自称プロぼっちの八幡さんも身に覚えあるんじゃないの?」

 

 マジかぁ……。家族には愛されてたと思うけど、学校と言うコミュニティでは常に孤独感を覚えてたのは確かだ。なるほどね、従魔士は俺のアイデンティティが生み出したジョブと言うことか。だとすると、今後別の従魔士を見かけたら元ぼっちだと思えば良いんだな!

 

「このことから、他者との強固な繋がりを求める者に、従魔士のジョブが発現するんじゃないかと言われてたわね」

 

 セインフィールさんが説明を終えると、ルーメリアが俺の肩を叩きながら大笑いしだした。

 

「プハッ、ハーハハハハッ!! いつも得意げな顔で孤独者の理念を崇高であるかのように語ってるクセに、本当は友人が欲しいだけの構ってちゃんだなんてマスターは可愛いですわね! これは傑作ですわー! あー、ヤバイ、笑い過ぎて腹が痛いですわ! ハーハハハハッ!!」

 

「ぐぬぬ……」

 

 呻き声をだしながら、自身の顔が熱くなるのを感じる。

 ああ、認めよう。構ってちゃんではないが、今思えばガキの頃は我慢強い寂しがり屋だったかもな。だって泣きながら部活メイトのJK二人に『本物が欲しい』とか言っちゃうぐらいだし。マジで本物って何だよ。意味不明な上に抽象的なことを言っちゃうとか構ってちゃんかよ。イヤダー本当に構ってちゃんじゃん。アアアァァァ! ハチマンハズカシイー!

 

「くっ、殺せ!」

 

 我ながら見事なクッ殺を披露すると、ルーメリアが俺の肩に手を回してきた。

 

「大丈夫ですわマスター♡ マスターが禿げようが、老いようが、わたくしはずっとずっと一緒。なんなら来世も一緒♡」

 

「やめろ、顔を近づけるな! 来世とか流石に重すぎなんだよ!」

 

 何がヤバイって、こいつなら本当に魂を操る魔法を使って、来世とか言う有り得ない現象を起こしそうなのがマジでヤバイ。

 ルーメリアをどうにか押しのけてると、タマエがセインフィールさんに更なる疑問をぶつける。

 

「ねえねえ、後輩さんのジョブは何なの? 聖女様?」

 

「あれ? 私、自分のジョブ言ってない?」

 

 セインフィールさんはポカーンとして、俺達を見つめる。

 

「聞いてないよ?」

「俺も聞いてないな。てか聖女じゃないのか?」

「わたくしからは周知してないですわよ」

 

 反応を見るに、分かってるのはルーメリアだけのようだ。この様子だと聖女と言うジョブでは無いのかもしれない。

 

「……えーと、期待を裏切るようで悪いけど、私のジョブは大聖天治癒士。治癒士から進化した上位ジョブよ。あと、聖女ってのは、国から認められた称号なの」

 

 へぇー、今までてっきり聖女ってジョブだと思ってたわ。今更だが、組織の長として知れたのは良かったかもな。

 

「まあ総括すると、ジョブはその人のトラウマや欲望によって構成されている、と言うのが私の居た世界の研究結果ね」

 

 聖女様のまとめを秘匿ノートに記して俺は、前から思ってた疑問を聞くべく挙手をした。

 

「なあ、前にルーメリアからステータスの数値を当てにするなって言われたけど、セインフィールさんも同意見か?」

 

「ええ、あんなのは大雑把な基礎数値だもん。体調不良の時に数値が変わらないのが、その証拠よ。ただ、魔臓の強化訓練をしてるなら、魔力量は参考になるわね」

 

 異世界の魔族側と人類側の意見が一致してるし、言っている通りなのであろう。体調が悪い時に鑑定したことないから分からんが、変わらないのは驚きだ。今後はMPに注目しとこ。

 

 ステータス関連で知りたいことは大方知れた。正直まだまだ疑問はあるけどな。魔族と魔物の違いとか。ただ、その疑問は今回の座学の趣旨から外れるから、次機会が有れば種族講義でもして貰うか。

 

「ジョブの概要も終わったし、従魔士の特徴を講義するわね。ただ、私は従魔士の専門家じゃないから一般常識しか教えられないわよ」

 

「ああ頼む。お前らの一般常識はこの世界だとノーベル賞モノだ」

 

 異世界で解明された従魔士の情報を、俺は聞きながらノートに書き込んだ。

 

・従魔士の基礎スキルであるテイムは、基本的に魔物と契約するスキルである。

契約内容には細かな違いはあるが、魔物達が望む物は大概が餌と魔石であると言われている。

 

・契約の前段階として自身の魔力を流した魔石をあげることで、薄い精神的繋がりを作ることが出来る。

ただし、好感度が高い場合はこの限りではない。

 

・契約内容によっては契約は切った方が良い。

 

・従魔士が得るスキルは従魔へのサポート系が大半。

 

・モンスターブックに入れっぱなしだと好感度が下がる。

 

・主人が契約違反や暴力行為を起こすと普通に反乱が起きて、最悪の場合は殺される。

 

・従魔が死ぬと、酷い精神的ダメージを負い、人によっては一週間以上も塞ぎ込む。

ただし、人によっては従魔に対して愛がない者もいて、そう言った者は精神ダメージは無い。

 

・従魔士が死ぬと従魔達は契約が強制的に解除される。

契約解除された従魔の行動は、主の墓を守る者、自由に旅へと出る者、主の家族と共に暮らす者、と多種多様らしい。

 

 書き込んだ内容に驚きを隠せない。ちょっとなにこの新情報!

 

「契約って解除出来るのかよ……」

 

「ええ、出来るわ。テイムした後に契約内容を聞いて、履行が無理そうなら精神的繋がりを意識して解除することが出来るの」

 

 言われてみれば、テイムした後に契約内容を聞いたことなんてないぞ。でも、誰も文句を言わないと言うことは、従魔達は俺との暮らしに満足してると言える。あっぶね! 次からはテイムしたら要望をちゃんと聞くようにしないと。

 

「お前らちょっと全員来い!」

 

 リビングと庭でわちゃわちゃしてる従魔全員を呼び寄せて、聞きそびれていた契約内容を念の為聞くことにした。

 

「お前ら契約内容とかあったりする?」

 

「ニャー」

訳:魔石と飯くれ

「ゴブ」

訳:魔石と肉

「プルプル」

訳:魔石

「ワンワン」

訳:ダンジョンで冒険して魔石食べたい

「ギミィギミィ」

訳:食住と娯楽の完備、あと魔石よこせ

「シャー」

訳:魔石と食べ物

「ドラ~」

訳:ご飯~

 

 良かったよ! これなら飯さえちゃんとあげてれば寝首を掻かれることは無いぞ。あとエルラン、お前は引きこもりのクセに図々しいな。 

 一安心しながら、視線をタマエとルーメリアに移した。

 

「えーとね、あるじ様とずっと一緒! でね、魔石も食べたい!」

 

「わたくしに魔石と血を捧げて、贅沢させなさい」

 

 うん、この子達も問題なさそうだな。あとは契約解除を試してみるか。

 目を瞑って意識すると、確かに無数の光る繋がりのようなモノを認識することが出来た。なので、試しにルーメリアとの繋がりを切ってみた。

 

「あ、出来た」

 

「っ!? ふざけんじゃないですわよ! このクソゾンビ!」

 

 鬼の形相で俺の胸倉を掴んで罵倒を浴びせてくるルーメリア。やべぇ、こんな怒るとは思わなかった。

 

「待て待て! 試しただけだから! テイム!」

 

 ルーメリアの手から逃れてテイムを発動してみるが、ピキッと弾かれた。

 あれ? 何で……?

 

「わたくしは容易くテイムされるような安い女じゃないですわよ!」

 

「あ、あの……俺にどうしろと……」

 

 恐る恐る伺うと、ルーメリアが妖しく笑い始め、自身の唇を指でなぞり始めた。その艶めかしい仕草に、悪寒が走った。

 

「フフフフフッ、ねぇマスター。初めてわたくしと契約したときのことを覚えてますわよね?」

 

「ヒッ!?」

 

 数ヶ月前を思い出して徐々に後ずさる俺。

 

「カマクラさん、マスターを抑えて下さいまし」

 

「ニャー……」

訳:何でニャーが……

 

「マスターが隠してる大量のチュールを後で献上しますわよ?」

 

「ニャッ!」

 

 時既に遅し。俺の背後に回り込んだカマクラに羽交い締めにされてしまった。

 

「やめろお前!」

 

 こんなの昔風に言うなら謀反だ謀反! 本能寺の変ならぬ鎌谷幕府の変だよ! これが魔貫光殺砲を撃たれるラディッツの気持ちか。知りたくなかったよ、こんな気持ち。ヤダー、タスケテー!

 希望の眼差しを全員に向けてみるが、全員『お前が悪い』と言いたげな呆れた表情をしていた。

 

「さぁマスター、再契約しますわよ♡」

 

「あ、嗚呼……」

 

 助けてぇぇぇぇぇ小町ぃぃぃぃぃ!!




オハ幕府!
ここまで読んで頂き、ありがとうございます!
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