か、カマクラが若返ってる!?   作:9ナイン9

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9:賑やかなのは、まぁ悪い事じゃないな。

 魔王を我が家に迎えた記念に俺達は現在、すき焼き鍋を囲んでいる。

 俺の口を陵辱したロリっ子魔王が「記念の宴がしたいですわ!」と煩かったので仕方なく鍋パをする羽目になった。

 てか、歓迎会ってそもそも周りの先輩がやり出すもんだよね? 新入りがやれって言うのは違うと思うよ。そこら辺は魔王だし仕方ないか……。

 

「ゴブリン。わたくしにその肉を寄越しなさい」

 

「ゴブゥ……」

 

 マジかよ……と言いたげな表情で肉をルーメリアに差し出すゴブタニ。

 

「聞き分けが良くて宜しいですわ。褒めてあげます」

 

 この魔王は何故かゴブタニにだけ当たりが強い。まるでジャイアンだ。お兄ちゃんは、そう言うの良くないと思うよ。

 兄としての性なのか、俺はロリっ子魔王に優しく教育するべく、腕を垂直に上げる。

 

 てな訳で、喰らえ!魔王!

 

「痛いですわ!」

 

 俺は傍若無人の魔王の頭上にチョップを下ろしてやった。

 当の本人と言えば、頭を抑えながら目尻に涙を浮かべている。

 

「おい、駄王」

 

「だ、駄王ですって!? わたくしは気高く美しい戦血の魔王にしてトゥルーヴァンパイアクイーンのルーメリアですわ!」

 

 最後に小声で、今はただのプリンセスですけど、って付け足した。

 無駄に中二臭い名乗りだな。瞳も赤いし、某爆裂娘の遠い親戚かよこいつ。それなら恥ずかしい決めポーズも見せて欲しいわ。

 

「うっせ。いいか、よく聞けよ? 俺の従魔である以上は、魔王様だろうが特別扱いはしないからな。分かったら肉をゴブタニに返せ」

 

 叱ってやると膨れっ面で「むむむむ」と言いながら、肉をゴブタニの皿に返した。

 種族に「ヴァンパイアプリンセス」って書いてあったぐらいだ。今までは、家来共に甘やかされてきたに違い無い。

 だが、貧民家庭である我が家には駄王を甘やかす余裕なんて無い。

 あーそろそろ誰か俺を甘やかしてくんねえかな。現実逃避な甘い幻想を抱いてると、コップの中に入ってるソフィーが何かに反応を示した。

 

「プルプル」

 

「そうか、そうか〜ソフィーは肉が食べてみたいのか〜よし、俺の肉をやろう」

 

「わたくしの時と対応が違いません!?」

 

「お前と違ってソフィーはいい子だからな。なんならゴミも処理してくれるし、庭の雑草だって処理してくれたぞ」

 

 ソフィーを甘やかしてると、見られて無いと思ったのか、ルーメリアが自分の皿から、しれっと俺の皿にキノコを入れてきた。

 コイツ……中々いい性格してやがる。

 

「何しれっと入れてんだ。キノコも食え。偏食は許さないからな」

 

「マスターがこんな卑猥な物を食べさせてくるなんて思いませんでしたわ。最低です」

 

 プイッと顔を背けるルーメリア。

 そう言う発想になるお前の頭の中が卑猥だよ。

 

 にしても、なんだろうな……。小学校低学年ぐらいのイヤイヤ言ってた頃の小町みたいだ。懐かしい。

 あの頃は、ご飯も風呂も寝る時も付きっきりで世話を焼いたな……。

 

 そのお陰もあって、コイツの我儘は可愛いく見える。

 アレ? 俺ってもしかして小町に調教されてた? 小町なんて恐ろしい子!

 

 そんな調教済みな俺は、箸でキノコを掴んでルーメリアの口の側まで持って行く。

 

「おい、口を開けろ。意外と美味いぞ? 食わず嫌いは長い人生の中で損するけどいいのか?」

 

 俺がそう言うと、ルーメリアは不貞腐れ気味にこっちを向いてくれた。

 

 多分だが、魔石を食い続ける限り従魔達は俺の何倍も長寿だ。長生きで損なんかしたくないだろ。

 だからこのワードが刺さると俺は踏んだ。

 

 そして、ルーメリアは小さい口を恐る恐る開けて、アムッと可愛いくキノコを口に入れてくれた。

 

「美味いですわ……」

 

「だろ? 日本の食べ物に基本ハズレなんか無いから安心しろ」

 

 トマトよ、お前は例外だけどな。

 俺は自分の食事に戻ろうとしたが、袖を捕まれたので「なんだよ」と返す。

 

「と、特別にわたくしの口に食事を運ぶ事を許可しますわ」

 

 ダリィわ 、このロリ魔王。

 よくよく考えれば、中身は何百歳もいってるヴァンパイアだよなコイツ。

 

「お前幾つだよ。俺はお前の給仕係じゃないからな」

 

「さっきからこのお箸?と言う物が使いにくいですの!」

 

「さっき使い方教えただろ。ほら、ゴブタニを見習え。それにゴブリンに出来て、お前に出来ないって魔王の沽券に関わらないのか?」

 

「むっ……言われてみれば、そうですわね」

 

 ルーメリアは悔しげな表情を浮かべると、ぎこちないながらも箸を握りだした。

 煽った甲斐があったな。やはり魔王ってのは沽券と言う物を大事にするらしい。八幡メモに加えておこう。

 

「にゃ〜」

 

「あーはいはい。お前もオカワリね」

 

 空き皿を咥えたカマクラが俺の足をポンポンしてきたので、その皿にすき焼きを継ぎ足す。

 どいつも良く食べるな……。食費は稼ぐとして、その内料理するのが面倒くさくなりそうだ。なんならもう既に面倒臭い。こんな形で主夫力が上がるとは思わなかったよ。

 

 いっその事、料理もこいつらに仕込むか? ルーメリアは……やっぱやめよう。なんか由比ヶ浜より危ない匂いがする。

 「見てくださいマスター! ダークマターを作りましたわ!」とか言いながら平気でドヤってきそうだしな。

 なにその純粋無垢な殺意。ナチュラルダークマター製造機のゆいゆいと同じぐらい怖い。

 

 ゴブタニは料理は出来ないが、最近レンチンとお湯の沸かし方を覚えてくれた。かなりの進歩だと思う。俺が居ない時にカップ麺は作れそうだから安心だ。

 猫とスライムに料理は……うん、無理だな。

 

 程々に腹が膨れた俺はスマホを取り出して、開設したばかりのチャンネルサイトに目を通す事にした。

 登録者数が3万と表示されてたので目を擦って、もう一度確認してみるが表示される情報はやはり変わらなかった。

 

 スパチャで8万は稼ぐし、魔王の封印解放イベントが起きるし、その魔王は仲間(謎)になるし、チャンネル登録者数は1日で万単位になるしで今日は流石に疲れた。

 

 色々な意味で疲れた俺は、そっとスマホの画面を消した。

 鍋と従魔達の皿も空になったので、回収する。食器をソフィーに渡すと汚れだけを消化して、綺麗な状態で食器を出してくれる。

 

「お前って本当に家庭の味方だよな、ソフィー」

 

 感謝をしながら撫でる。ソフィー無しの生活とかもう無理だわ。一家に一匹スライムは確実に必要。そんぐらいスライムと言う生き物は有能すぎる。

 

「プルプル」

 

 マスター大好きだって……。なんていい子なんだ。ロリっ子魔王に見習って欲しいまである。

 

 ソフィーが綺麗にしてくれた食器を一応水洗いだけして、ラックに戻す。これで洗い物は終了。掛かった時間は僅か5分未満。これぞソフィークオリティー。

 ソフィーを撫で回してると、後ろからユサユサと服を軽く引っ張られた。

 

「ん? どうしたルーメリア?」

 

「食後の甘味を熱烈に所望しますわ、マスター」

 

 今日碌に働いて無い新入り魔王が、無駄に偉そうな件について。

 とは言え、この魔王には明日から気持ち良く働いて貰わねばならない。仕方ない、やる気スイッチをデザートで押せるなら安い経費だ。

 

 なので、MAXコーヒーのダンボールからマッ缶を2本を取り出して1本渡す。

 

「液体が入った缶……?どうやって開けるんですの?」

 

 飲料缶の開け方が分からない様なので、目の前でプルタブを捻って、実際に飲んで見せる。っべー、魔王の相手をした後に飲むMAXコーヒーマジうめぇー。

 

「なるほど。こちらの世界は面白いですわね」

 

 理解したルーメリアはカチッと開けると、マッ缶を口に運ぶ

 

「………ッ!! キマシタワー!! わたくし、こんな深い甘みは1000年以上生きてきて初めてですわ!! 甘さの深淵を覗きましたわ!!」

 

 余っ程美味しかったのか、ルーメリアの真紅の瞳は輝きを増しており、顔は蕩けきっていた。キマシタワーとか言ってるけど、コイツって貴腐人じゃないよね?

 それにしてもゴブタニは吐き出したのに、コイツは気に入ったようだな。

 

 っく、不覚にも少し嬉しいと思ってしまった自分がいる。これではコイツと俺はMAXコーヒーを愛する同士と言う事になる。

 非常に不服だが、地の底まで落ちた好感度をほんの僅かながら上げてやるか。

 

「この味の良さが分かるなんてな……少しだけ見直したぞ」

 

 ロリっ子魔王は飲み干したのか「ぷはぁ〜」と幼女らしからぬ声を上げた。

 

「もう1本所望しますわ! なので、早く下さいマスター!」

 

「そうか、俺も同士が増えて嬉しい………だが断る!」

 

「な、なん……ですと……!?」

 

 1日1本ぐらいならあげるのは吝かでは無いが、何本もあげてると確実に我が家の財政を圧迫する。何より俺が飲めなくなる。

 

「お前が頑張って稼いだら幾らでもやるよ」

 

 心を鬼ぃちゃんにして告げると、ルーメリアは人差し指を顎に置き、考える仕草をみせる。幼女のクセに、妙に色気だけは有るんだよな……。

 何かを思い付いたのか「お金が有れば良いですの?」と聞いてきたので、頷いて返す。

 

「この世界でもオリハルコンやアダマンタイトは高価ですの?」

 

「うん?……オリハルコンの存在は聞いた事が無いが……アダマンタイトなら1キロ1億ぐらいだったと思うぞ」

 

 何か嫌な予感がする。もっと言うなら秘密が増えそな予感がする……。

 

「なら!これをいっぱい売ればイケますわ!」

 

 ルーメリアは空間収納から沢山のアダマンタイト鉱石を出してくる。

 いや、うん、もうビックリ疲れしちゃったよ。なんなら今日1日で一生分のビックリを味わったわ。ここまでくるとミラルーツぐらいの龍を見ないと、もうビックリ出来ない自信があるよ。

 

「…………無理だ、売れない。と言うか売りに行きたくない」

 

 俺の反応が想定外なのか、ルーメリアは、え?と言いながら固まってしまった。

 

「期待してた所悪いが……アダマンタイトって希少中の希少で、それはもう希少なんだよ……こんな量を売りに行ったら確実に目を付けらて面倒い事になる」

 

「あんまりですわ……でも!」

 

 気を持ち直したのか、ヒヒイロカネやダマスカス鋼、ミスリル等のファンタジー金属についても売れるのか聞いてきた。

 

 このロリっ子魔王、持ち物も規格外だ。どのファンタジー金属も1キロ売っただけで一夜にして億万長者になれるぞ。

 強いて言えば、ミスリルなら運良く見つけましたって言ってもイケそうな気はする。そんなミスリルでも1キロで500万はするけどな。

 

「甘い物を買って下されば、余ったお金はマスターに差し上げますわ」

 

 戦血の魔王は余っ程甘い物に目が無いらしい。お金をくれると言うのは嬉しい、凄く嬉しいが……こんな俺にも雀の涙程度のプライドはある。

 

 ストレージリングはグミとの交換だったから良いとして……いや、ぶっちゃけ釣り合ってないな。このままではこの魔王から施しを受け過ぎてしまう。

 俺だって探索者の端くれだ。自分の分は自分で稼ごとは思うし、コイツらは俺の従魔である以上、法律上は俺に所有者としての責任がある。だから、安易に従魔達に甘えるの違う気がする。

 

「あーまぁなんだ…提案は魅力的だが、その鉱石は全部お前の魔王としての思い出だろ? お前の思い出を売るのは流石に気が引けるわ」

 

 思い直したのか、ルーメリアは一瞬悲しげな表情を浮かべ、1つ1つの鉱石を丁寧に空間へと入れていく。

 ったく、やっぱり大事な思い出じゃねぇか。あと少しで思い出がお菓子に変わるとこだったぞ。

 俺ですら雪ノ下とのペアリングを未だに引き出しの奥に保管してるって言うのに。ってそれは俺が前に進めて無いだけか。

 

「……マスターは見た目と違って優しいんですのね。もっと欲深くて腐ってるかと思ってましたわ」

 

「別に間違ってないぞ。俺は自分に優しいし、睡眠欲と働きたくない欲は誰にも引けを取らない。なんなら欲が具現化して無職になったまである。オマケに目も腐ってるしな」

 

 そうか、俺を解雇したブラック企業は俺の願いを叶えてくれたのか。叶いたくない願いだけは叶えてくれるとか早く砕け散れよ、あのブラック企業め。

 

「ダメ人間の典型ですわね…………」

 

「まぁアレだ、甘い物が食べたかったらモンスターを倒しまくってくれ」

 

 話は済んだので、俺はソフィーを頭に乗せて風呂へと向かった。このままルーメリアと話してると甘い物が欲しいって煩そうだからな。

 

♢ ♢ ♢

 

 風呂に入って今日の悩みやらストレスを全部洗い流して、明日からまた清々しい再スタートを切る、筈だったんだが……

 

「丁寧に洗うのですよ? マスター」

 

 何で俺はロリッ子魔王の髪をゴシゴシしてるんだ……。

 絹の様なサラサラの髪を流しながら、内心毒づく。ヴァンパイアの特性なのか、コイツの肌は超真っ白な上に妙に冷たい。

 

「なぁ、お前って恥ずかしさとか無い訳?」

 

 妹慣れしてる俺は幼女に裸を見られようが特に気にはしないが、一応気になったので聞いてみる。

 

「わたくしとマスターは口付けを交わした仲ではありませんか。今更ですわよ」

 

 交わしたとかロマンチック風に言うなよ。アレは無理矢理だっただろうが。言わば俺は犯されてしまったんだ。

 なんだろ……俺が犯されたって言っても、可哀想な感じがしないのは気の所為か?

 

「あっそ。シャンプーを洗い流すから目を瞑れ」

 

 ワシャワシャと洗い流す。ソフィーはロリっ子魔王の頭上でポヨンポヨン跳ねて楽しそうだ。ゴブタニは小心者なのか、魔王と言う肩書きにビビってる節がある。俺からすればただのちんちくりんだけどな。

 そんなゴブタニに比べてソフィーは魔王の肩書きにビビる様子が無い。知能の差なのか、個性なのか、謎は深まるばかりだ。

 

 俺はと言うと、会ったときの成体には恐怖を感じたが今のルーメリアは昔の小町を見てるようで懐かしく感じてる。

 そんな小町も今では大志の野郎と2人暮らしをしていて、愛を育んでいやがるけどな。

 お兄ちゃんは、そう言うの早いと思いますよ。チクショッ!!

 

「やけに手慣れていますわね。童貞じゃないのが真実味を帯びてきましたわ」

 

「おい、いい加減信じろよ。そろそろ本気で泣くぞ? あと、手慣れてるのは可愛い妹と何回も風呂に入った事があるからだ」

 

 まぁ雪ノ下と一緒に風呂に入ったって経験もあるが、信じて貰え無さそうなので黙っておこう。

 

「シスコンですの……?」

 

「……………………違えよ。小さい時の話だ」

 

「今の間は怪しいですわね。シスコンで童貞なんて、お可哀想なマスター」

 

 クスクス笑うロリっ子魔王にムカついたので、シャワーのノズルを顔面に向けてやる。

 

「グワッ! グワッ! 何をするんですの!」

 

「悪ぃ悪ぃ、心の汚れが見えたから洗い流したんだ。これに懲りたら俺を敬うんだな」

 

 余裕の笑みを浮かべながら言ってやると、フンッと拗ねた様子で浴槽に入っていった。

 やれやれ、本当にガキって世話が焼けるな。

 

「聞きたい事があるんだが、良いか? 主に異世界について」

 

 疑問を解消すべく、俺も浴槽に身を沈める。

 

「別に構いませんわよ。何でも話しますわ」

 

「お前は異世界転移して、この世界にいる。この認識で良いか?」

 

「合ってますわ。棺桶から出たら何故かこの世界に転移してましたの」

 

 どうやらコイツの意思で転移したって訳じゃ無そうだな。

 

「元の世界に帰ろうとは思わないのか?」

 

「わたくしが居た世界は次元ごと滅びましたわ。まぁ滅ぼしたのはわたくしですけど」

 

 湯船を満喫しながら、当たり前の様に言うロリっ子魔王。

 ステータスの称号も確認済。ここまでくると、もはや電波話で片付ける事は出来ない。次元を滅ぼした魔王が俺の隣に居るんだぜ? もはや笑えてくるわ。

 

「お前が滅ぼしたのは、まぁ良いとしてだ。その世界が滅びた事にダンジョンは何かしら関係してたか?」

 

 ダンジョンは今まで地球に無くて、いきなり9年前に沸いてきたモノだからな。正直言って、人類に資源をもたらしているからって俺は信用しきれない。

 

「ダンジョン? 無関係ですわ。むしろダンジョンは恵みをもたらすモノですわよ」

 

 どうやら俺の心配は杞憂だったようだ……。正直、かなり安心した。

 

「そうか……関係ないのか。知りたかったのはそれだけだ」

 

 聞かれると思ってた事が違ったのか、ルーメリアの顔は鳩が豆鉄砲を食らったようになっている。

 

「女神を殺した理由とかは聞かないんですの……?」

 

 神の存在は気になるが……だからってこの次元にいるとは限らない。それに居ても居なくてもどうでもいいってのが俺の本音だ。

 もっと言うと魔王の壮絶な過去を受け止めきれる程のメンタルを俺は持ち合わせて無い。なので、何故コイツが裏庭のダンジョンに封印されてたのかとかは、然程重要ではない。

 

「興味ないな。復讐だってお前なりの正義が有ってやったんだろ? 俺はその世界の住人じゃ無いから問いただす意味が無い。お前が話したいなら聞くけどな」

 

「そう……なら、ワタクシからも聞きたい事が有りますわ」

 

 ルーメリアは主にこの世界の情勢を聞いてきた。どんぐらい平和なのか、戦争はあるのか、差別はあるのか、とかだ。

 なので一般常識の範囲で教えた。

 

 粗方教えると、この世界の情勢が安定してるのが意外なのか、ルーメリアは驚いていた。

 その中でも日本は、女性が夜中に1人で出歩いても大丈夫なぐらい治安が良いと言ったら、驚きを通り越して感動している。

 

「素晴らしい世界ですわ。そこまで平和だと急いで力を取り戻す必要が無さそうですわね」

 

 そうしてくれるとこっちも嬉しい。この魔王が全盛期の力を取り戻したら正直カマクラの存在だけで抑制出来るか怪しいからな。

 

「でも少しは頑張れよ? なにぶん稼がなきゃお前らを食わせられない」

 

 平和な分、社会システムは出来上がっている。ダンジョン探索をして、何かしらの資源を金と言う引き換え券に変えなければ社会的に詰む。

 お金の事はまた明日考えよ。探索者協会からの振込まれた100万もまだあるしな。

 

「マスター……散って逝った四天王達の顔が見えてきました……」

 

 あやふやの声でそう言われたので、顔を見てみるとのぼせ掛けてるようだ。

 四天王達の顔って、それ三途の川の向こう側だよね!?

 

「おい、もう出るぞ。立てるか?」

 

 頷いたので、手を引っ張て湯船から出す。

 お兄ちゃんスキルがオートで発動してるせいで、身体を拭いてやる事にしたのだが……。

 

「うぅん、あんっ、そ、そこ敏感ですわ」

 

「おい、頼むから変な声出さないでくれる!? てか、そんな声出す余裕があるなら自分で拭け!」

 

 頭だけ拭いてやったので、雑にタオルを投げ渡すと「マスターのエッチ」とか言ってきたので無視する。

 見てくれのせいでついつい忘れそうになるが、コイツって良い歳したヴァンパイアのお姫様だったわ。

 なので自称プリンセスのロリBBAヴァンパイアとラブコメなん起きる訳が無い。起きたとしても精々コメだけだ。

 

「うん? 俺の千葉Tどこいった?」

 

 自分の身体を拭き終わって、ドライヤーも済まして、手を伸ばしたら置いてあった所に大事なI♡千葉Tシャツが無いのだ。犯人は1人しかいないよな……。

 

「おい、それ俺の」

 

 犯人に目を向けると、俺の千葉Tを着てはいるがブカブカなせいで、着られていると表現した方がしっくりくる。

 

「器が小さい男はモテませんわよ?」

 

「はぁ〜お前さ、空間収納にパジャマとか無い訳?」

 

「戦闘用の服ならありますのよ。部屋着は全部魔王城に置いてきましたわ」

 

 置いてきましたわ、じゃねーよ。もうお前の魔王城は絶対に滅びてるだろ。

 幸いにも千葉Tは5着あるから1着盗られた所で特に問題無いけどさ……。

 

 ロリっ子魔王に冷ややかな目線を送ってると、何を思ったのか俺にドライヤーを押し付けてきやがった。

 

「喜びなさいマスター。わたくしの髪を乾かすと言う崇高な使命をお与えしますわ」

 

 こいつ……。見た目が幼女じゃなかったら、俺の右ストレートが炸裂してる所だったぞ。なので、憂さ晴らしに俺の両拳で頭をグリグリしてやる事にした。

 

「痛いー!うぅ、痛いですわマスター!」

 

 適度な所で解いてやると、俺にうぅと言いながら睨んでくる。

 マスターって従魔に睨まれるようなポジションだっけ? もっと、こう…信頼して貰えるポジションな気がするんですけど。

 

「何度も言うが、ここにはもうお前を甘やかしてくれる家来は居ないんだよ。いい加減理解しろ」

 

「四天王のライミーならやってくれますのに…………ライミーは優しかったですわ……」

 

 昔を思い出して悲しくなったのか俯いてしまった。これじゃまるで俺が酷いヤツみたいじゃねーか。

 つーかコイツの四天王ってどんだけコイツを甘やかしてたの?

 何となく気持ちは分かるけどな。四天王からすれば相当可愛かったんだろうよ。俺もかなり小町を甘やかしてきたからな。

 しゃーない、ドライヤーの使いた方ぐらい教えてやるか。

 

「アレだ、今日だけドライヤーの使い方を教えてやるから、明日からは1人でやれよ?」

 

 ルーメリアはこくりと頷いた。その頭上に居るソフィーは触手を伸ばしてルーメリアの頭を撫でていい子いい子している。ソフィーは気配りが出来て、なんていい子なんだろうな。八幡的にポイント高いぞ。

 ドライヤーをルーメリアの髪に向けると、ソフィーは俺の頭上へと移ってくる。

 

「……マスター」

 

 乾かしてやってると、落ち込んだ様子で呼んできた。なんか元気ないな……。少し言い過ぎたか?

 

「うん? 何だよ?」

 

「やっぱり手慣れてますのね。童貞なんて言って悪かったですわ…………」

 

 反省してる所そこかよ。まぁ雪ノ下の髪も結構乾かしてきたからな。ロングの髪を乾かすって想像以上に大変なんだよ? 全く湿り気が取れないのが本当に大変なんだから。因みに「湿り谷君のせいで全く乾かないわね」って罵倒が平然と飛んでくるまでがセットな。

 

「分かってくれれば良いんだよ」

 

「お詫びとして私が力を取り戻した暁には新四天王の1人に任命してあげますわ♪」

 

 愉快に俺を最高幹部に取り立てるとか抜かしてるが、コイツって俺の従魔だよね? それとも俺がテイムされた感じだったりする? あらいやだ四天王になったら間違い無く「アイツは四天王の中でも最弱」とか四天王カースト最下位になる未来が見えたよ。

 

「ウワーハチマンスゴイウレシー」

 

「むー全く嬉しそうじゃないですわね。四天王に選ばれるなんて誉れ高い事ですのよ」

 

「あのな、お前の居た世界じゃ名誉ある役職かもしれないが、こっちだと悪の幹部の印象しかねーんだよ」

 

 四天王なんて肩書きで喜びそうなのって材木座しか思い浮かばないんだよな。次いでに戸部と大和と大岡。ほら、あいつらって三浦の四天王だろ?

 

「はっ!? 皆が憧れる役職じゃないですの!?」

 

 大変驚いてる様なので、ラノベのお話とか、ファンタジーゲームのお話をすると「こっちだと魔王って印象が悪いですのね……」って落ち込んでしまった。

 ああ何となく勘づいたわ。コイツのいた世界だと魔王って多分、魔族の国を束ねてる王ってだけで完全な悪役って訳では無さそうだな。

 

「別に落ち込まなくても良いだろ。皆に愛されてるスライムが魔王になる作品だってあるぞ。お前の振る舞い次第だと思うけどな」

 

 俺としては皆なんてあやふやな存在はどうだっていいけどな。大衆に理想を押し付けられるなんて考えただけでゾッとする。

 

「振る舞い次第……マスターって意外と前向きなアドバイスが出来るのですね」

 

 褒められたので、俺は得意気に鼻で笑ってみせる。

 

「そうだろ。因みに俺にとっての前は他人とっての後ろだからな」

 

「それを世間では後ろ向きって言うんですわ………マスターって捻くれ者ですのね」

 

 可哀想な物を見る様な視線を鏡越しに向けらた。ロリっ子魔王には俺の小粋なジョークが通用しない様だな。

 

「何を言ってるんだ。捻って捻って捻ねりまくった結果、もう捻れり様が無い程に真っ直ぐになったぞ」

 

「それは更生不可になっただけでわ……」

 

 更生か……懐かしいな。俺の青春の起点となったワードの一部だ。

 俺が奉仕部に入部するキッカケとなった舐め腐ったレポートは、今でも一語一句鮮明に思い出せるぐらいだ。

 

「そうだな。結局、更生出来なかったわ…………」

 

 俺の独り言が意味不明なのか、ルーメリアは首を傾げて頭の上に?を浮かべる。

 

「よし、乾かしたぞ。明日からは1人でやれよ」

 

 俺は上半身裸なので、服を着に2階の自分の寝室へと向かった。

 

♢ ♢ ♢

 

 服を着た俺は、寝室にある作業机の上で【魔生物図鑑︰最新版】を開いて眺めている。来週の配信に備えてヴァンパイア系のモンスターがいるか詳しく調べるのが目的だ。

 調べてる理由は単純で、炎上回避の為だ。新しい従魔が仲間に加わりました!って言って、ロリっ子魔王を配信に出してみろ。誘拐だとか言われて通報待った無しだ。日陰者の俺が逮捕でもされてみろ。日陰から闇に堕ちてしまう。

 

「レッサーヴァンパイアってのがいるな……」

 

 ルーマニアにはレッサーヴァンパイアが出るダンジョンが存在するらしい。見た目は痩せ細くてかなり弱そうだけどな。

 いいや、こうなったら……何でこんな可愛いヴァンパイアになったんだろ〜? 毎日スイーツを食わせてたからかな〜? とか言っておこう。誰も証明出来ないし、俺も証明出来ない。これぞ腐り目悪魔の証明。って、腐り目は余計だわ。

 

「何だかんだ1番手っ取り早いのはルーメリアを出さない事だけど……アイツをハブいたら確実に煩そうだからな……」

 

「失礼な、わたくしは煩くないですわよ!」

 

「うわっ!?」

 

 独り言をボヤいてたら、当の本人が前触れも無く大声と共に現れた。俺は驚いた拍子に肘を机の角にぶつけてしまい、ハニーボーンを起こしてしまった。

 いってぇ……コイツはノックも出来ねぇのかよ!

 

「驚かすなよ。で、なんの用だ? ここ俺の聖域なんだけど」

 

 目の前では魔王がプンプンしながら仁王立ちしている。ロリっ子が不機嫌でもなんも怖くない。むしろプリプリしてるのが可愛いまである。まぁ中身がBBAなので可愛いなんて思ってあげないけどね!

 

「わたくしのステータスを見て欲しいですわ」

 

 真面目なトーンで言われたので【モンスターブック】を呼び、ステータスを確認してみる。

 

ステータス

生命力:500/500

魔力量:500/500

筋力 :+350(-150)↓30%

耐久力:+350(-150)↓30%

敏捷力:+350(-150)↓30%

知力 :+350(-150)↓30%

 

 どういう事だ? ステータスが30%ダウンってただ事じゃないだろ。神の呪いとかか?

 

「ステータスが著しく下がってる……お前ってまさか……呪われてるのか?」

 

 ただでさえ魔王って存在が特級呪物なんだから勘弁してくれよ……。

 

「ゲテモノ扱いしないで下さい! これはヴァンパイアの体質のせいですわ」

 

 ヴァンパイアの体質……ああ、そう言う事ね。

 

「却下だ! 血はあげないからな!」

 

 俺は自身の体を抱えて防御態勢に入る。

 デザートを寄越せは譲歩できる。髪を洗えだの乾かせだのも譲歩できる。だけど血を寄越せはOUTだろ! こいつヤッパ俺を殺す気満々じゃねーか。

 

「そんなに拒絶されると流石に傷つきますわ……グスッ」

 

 ルーメリアは弱々しく歩きながら部屋を出て行こうとする。え、今泣いてなかった?

 

「ちょ、待てよ。一応話しだけは聞いてやるから」

 

 最近問題を起こした某事務所の有名イケメンタレントみたいな呼び止め方をしてしまった。このワードが咄嗟に出てくるなんて俺もイケメンなんじゃないか?

 

「……!!」

 

 呼び止めたらロリっ子魔王が向日葵が咲いたかのような笑顔で振り向いてきた。そして俺にダイブをかましてくる。

 

「流石はわたくしのマスターですわっ!」

 

 コイツ……絶対ウソ泣きしただろ。

 

「離せ! 近い、近いって! いいから離せ!!」

 

 顔が近いので頬を無理矢理押し返して一旦落ち着かせる。ロリったとは言え、俺はコイツのキスがかなりトラウマだ。いくら絶世の美女とは言え、アレは無いわー。

 

「で、お前に血を吸われたら眷属になるのか? それとも廃人か?」

 

「眷属?廃人?……なんかこの世界のヴァンパイアに対する見識はズレてますわね……」

 

 詳しく聞くと、眷属化のスキルは存在するらしいが、そのスキルは死体にしか通用しないらしい。へ〜アンデッドだとかゾンビとかって言われてきた俺には刺さるスキルだな。別に俺はアンデッドじゃねえけどな。

 

「どの道、血を吸われすぎたら死ぬ気がするんだが?」

 

「………………そこは大丈夫ですわ」

 

 はい!ダウト!

 

「今の間は何!? もう信用できないからね? てか、元から信用皆無な自覚ある?」

 

「お願いですの! 絶対に吸い過ぎない様にしますわ! 大体マスターを殺したら、わたくしがカマクラさんに首を刎ねられます。そんなヘマはしませんわ!」

 

 カマクラの安心感マジパネーわ。もうアイツに飼われてるんじゃないかと錯覚すらする程だ。招き猫は伊達じゃないってことか。

 

「てかよ、ゴブタニの血はダメなのか?」

 

「ゴブリンの血は苦くてイヤですわ。やはり、人間の血の方が美味いんですのよ……ふふっ」

 

 ルーメリアは舌を使って鋭い八重歯を艶めかしく見せてくる。お願いしてる立場が選り好みするのはどうかと思うよ。ゴブリンの血が不味そうなのは俺も思うけどさ。ごめんなゴブタニ。

 

「いいか? 少しだけだからな? 俺がストップって言ったらやめろよ。分かったな?」

 

 注意しながら俺は手首をルーメリに向けて差し出す。

 

「首のが吸いやすいですわ……」

 

「痕が付くからイヤだね。つーか我儘言ってるとマジで追い出すぞお前」

 

 もし仮の仮にだ、コイツが俺の恋人なら喜んで首から吸わせてやったかもしれないが、俺はコイツと異種族ラブロマンスをするつもりは無いし、コイツも俺に特別な感情を持ち合わせてる様には見えない。

 大方、衣食住を提供してくれる便利な人間にしか思ってないだろうよ。俺も戦力としてしか見てないからお互い様だけどな。

 だから血を分けてやるのはコイツを万全の状態で働かせる為だ。

 

「特別に手首で我慢して差し上げますわ」

 

 そして、頂きますと言いながらカブッと小さく手首に噛み付いてきた。

 

「うっ……」

 

 思ったよりは痛くないな……。強いて言えば腕の立つ医者に注射を打たれたような感じ。

 

 吸われてる所を眺めてると、次第にルーメリアの真紅の瞳が喜悦に満ちてきた。

 ハッ!? 吸い尽くす気だろコイツ!?

 真紅の瞳が輝きだした事に危機感を覚えた俺は何度も声量高くストップと言うが、やめる気配が無い。

 

 なら、これでも喰らえ!駄王!

 

「またぶちましたわ!? しかも全力ですの!?」

 

 全力チョップを頭にお見舞いしてやると、ルーメリアは我に返ったのか手首から口を離してくれた。

 

「お前が聞かないからだろうが!」

 

 だが、ルーメリアの目の輝きは治まるどころか、更に妖しい輝きを増していく。

 

「ハァハァ、ハァハァ……マスターの血はヴァンパイアにとって麻薬ですわ。甘過ぎます……あのコーヒーと同じぐらい甘いですわ……なのでおかわりですの!」

 

 そう言ってしがみついてくるが、俺は全力で押し抑える。

 魔王の目がイッちゃってるんですの! 八幡の命がヤバいですわ! こうなったら最終兵器を出しますの!

 

「カマクラァァァァアア!!!」

 

 全力で相棒の名を叫ぶと、どこから現れたのか、有り得ない速度でモフモフ毛玉がバァンと音を立てながらロリっ子魔王にタックルをかました。ロリっ子魔王は頭から壁へと激突して沈黙してしまった。

 

「ニャーン?」

 

 カマクラはとっちめてやったぞ?と雑用を終わらせかのように言ってくる。

 

「か、カマエモーン!! 怖かったよー!」

 

「にゃっ!?にゃにゃ……」

 

 俺はカマクラを抱き抱え、感謝のモフモフをしまくる。コイツ以前より毛艶が良くなってるな。めっちゃ気持ちいいわ。

 

「ニャーン!」

 

「グハッ……イッテェ……」

 

 けども、モフられまくるのがウザかったのか、俺は猫パンチを頬に食らってしまった。

 

「ニャー」

 

 カマクラは、また明日なと言いながらクールに窓から出て行ってしまった。多分、大好きな深夜徘徊に行ったに違いない。てかアイツいつもドコ行ってんだ? 問題を起こさないと良いが……。

 

「この駄王はどうすっか……」

 

 ルーメリアが気絶している。自業自得とは言え、このまま捨ておくのも気が引ける。説教はまた明日だな。

 

「ったく、世話の焼けるヤツだな……」

 

 仕方ないので、丸で駄目な魔王ことマダオを抱えて、ベッドに下ろして毛布を掛けてやる。

 なんと言うか、寝てる姿だけは幼女らしくて可愛いなコイツ。俗に言う残念な美人ってやつか。喋り方はお淑やかなのに、振る舞いがもう残念なヤツのソレだ。

 

「俺も寝るか。なんかダルい」

 

 血を吸われた影響なのか、若干ダルい気がする。ベッドが占領されてるので俺は布団を敷き、ライトを消して横になる。

 落ちかける意識の中、様々な想いが俺の中を駆け巡ってくる。

 

 最近ヤケに賑やかになったな……こんな賑やかなのは何年ぶりだっけ……大学の2年辺りから賑やかな記憶が全く無いな……。

 全く裕福ではないけど、こんな生活もアリなのかもな……そっか、何だかんだ寂しかったのか……エリートぼっち失格だな……。

 迷惑料としてミスリルを1つ2つぐらい貰っとけば良かったな……。

 

 そんな事を思いながら、俺の意識は夢の彼方へと飛んでいった。

 




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