大楯の雷   作:擬態人形P

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第1話 ~始まりは列車の中で~

夕暮れのJR野辺地駅。

大湊鎮守府の近くへと向かうJR大湊線の入り口に、1つのアタッシュケースを持った少女が立っていた。

はるばる遠くの横須賀から、バスや列車を乗り継いできたその少女は、癖のある茶髪のボブヘアーに薄茶色の瞳を持っており、八重歯がチャームポイントである。

年頃の少女としては若干身長が低めであるため、可愛らしい側面が強そうだったが、ふとした拍子に外見年齢よりも大人びて見えるのは気のせいか。

とにかく少女は、横須賀から転がしてきた自身の体よりも巨大な荷物を始めとした、複数の荷物を、駅員達に4両編成の一番後ろの車両に詰め込んで貰う。

その様子を見ていた老いた姿の車掌が、帽子を取りながら彼女に挨拶をした。

 

「もしやお嬢ちゃん………「艦娘」かな?」

「ええ。………やっぱりあんな荷物を引きずってきたら、分かる物でしょうか?」

 

少しだけ首を傾げながらも、はにかんで車掌に笑顔を見せる少女。

その佇まいは、何処か子供ながらに不思議な母性を感じ取れる部分もある。

「だからこそ」車掌は、より確信したように頷きながら冗談を交えて言う。

 

「あの中身が、スーザフォンやコントラバスのような、大型楽器であるのならば違うがな。………恐らくは、「艤装」と非常用で扱う「弾薬」と言った所か。」

「そうです。「横須賀鎮守府」から、この大湊線の終着駅にある「大湊警備府」に転籍になってしまって。私の艤装は特に大き目だったから、持ち運ぶのに苦労したんです。」

 

少女は苦笑しながらも、列車の中に詰め込まれていく自身の「兵装」を見る。

その横顔を見ながら、車掌は少女に聞いた。

 

「………艦娘歴は?」

「30年ほど。」

「本当に艦娘が実装される初期の頃から「深海棲艦」と戦っていたんじゃな。下手すれば「初期艦」に匹敵する経歴の長さじゃ。」

「横須賀で、大した実績は上げてはいないんですけれどね。」

 

そう自嘲するように言う少女の瞳には、影があった。

車掌が目を細める中、今度は彼女の方から彼に問う。

 

「横須賀では、私以外にも「緊急で」様々な「軍港都市」から大湊に集められる艦娘がいると聞きました。搭乗艦娘は何人いますか?」

「お嬢ちゃんが最後で、計7人おる。全員が「駆逐艦」で、「遊撃艦隊」が結成出来るな。」

「ありがとうございます………じゃあ、間もなく発車ですね。」

「ふむ………第3車両が艦娘専用車両になっておるから、乗り込んでくれ。」

 

車掌に丁寧に頭を下げた少女は、言われた通り列車に向かう。

しかし、そこで車掌が、忘れていた………と言って少女を呼び止める。

 

「本人確認をしてなかったな。………お嬢ちゃん、名前………「艦名」は?」

 

言われた少女は改めて振り向き、笑顔で言う。

 

「「雷(いかずち)」。暁型3番艦の雷です!」

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

海に深海棲艦と呼ばれるバケモノが現れ、陸地に侵攻を始めてから5年。

様々な軍艦が成す術無く散っていく中で、とある天啓の下りた技術者により、艤装が開発された。

適性によりそれを付けた駆逐艦「吹雪(ふぶき)」を始めとした艦娘は初期艦と呼ばれ、その時から現れるようになった「妖精さん」と呼ばれる精霊のような存在と協力し、反撃が開始される。

やがて、艦娘は海の守護者となり、「轟沈」と呼ばれる多大な犠牲を出しながらも数を増やしていった。

 

それから30年。

横須賀鎮守府から始まった艦娘達は、他の鎮守府や警備府、「泊地」や「基地」、更に軍港都市など、様々な場所に配備されていく事になる。

 

(不思議な物よねぇ………艦娘って。)

 

列車に揺られながら、東北地方最北端の内陸に存在する陸奥湾を反時計回りに北上しながら、雷は自分の年頃の少女のような手を見る。

艦娘には艦名が与えられ、人間時代の記憶の他に、その艦としての記憶が根付き、姿もそれに準じた者へと変化してしまう。

更に、艦娘は「退役」するまでその姿で居続ける事になるので、時が止まったような扱いになるのだ。

故に、雷は外見通りの年齢では無い。

実際はもう、艦娘としてはベテランとも言える年齢なのだ。

 

(他の子達も、みんなそうなのかしら?)

 

雷は、まちまちに座っている少女達を見ていく。

それぞれ2人で向かい合うように座っている艦娘達が3組。

手前から、ピンク髪の少女と黒髪の長髪の少女。

茶髪の派手なツインドリルテールの少女に、海色の三つ編みの少女。

更に、薄緑の髪の少女と白髪の髪の少女。

それぞれ、無言で読書、笑顔で談笑、真剣にトランプをしている………といった感じだ。

一緒に座っているという事は、恐らく同じ場所から集められたのだろう。

 

(先に、挨拶くらいはした方がいいわね。)

 

雷は立ち上がると、まず読書をしている2人の所に行って挨拶をする。

 

「こんばんは、雷よ。貴女達も大湊に転籍になったのかしら?」

 

しかし、2人は互いに無言。

本を読んでいるというよりは、近寄りがたい雰囲気を醸し出している感じであった。

雷はいきなりの塩対応に少し呆れながらも、2人の艦娘に問う。

 

「名前くらい教えてくれない?私達、最悪同じ駆逐隊に配属されるかもしれないのよ?」

「………「不知火(しらぬい)」です。」

「………「早霜(はやしも)よ。」

 

本当に名前だけしか言わない2人の姿を見て、過去に何かあったのか?………とすら思ってしまう。

基本的に艦娘は人間時代の事を追及しないのが決まりとなっているので、雷は何も言えない。

少しだけ溜息を付くと、次の席へと移る。

 

「こんばんは、雷よ。少しの間だけ話に混ざってもいいかしら?」

「あら………ごきげんよう、「春風(はるかぜ)」です。」

「「海風(うみかぜ)」よ。貴女も大湊警備府へ?」

 

今度はしっかりと挨拶をしてくれたことで、安堵した雷は、2人を見てギョっとする。

何故ならば2人共、駆逐艦としてはかなり大人っぽい………簡潔に言えば胸部装甲がかなりの物だったからだ。

 

「うーん、母性では負けないつもりだったけれど、これはまあ立派な物を………。」

「………何処を見て言っているのでしょうか。皆様に挨拶をして回っているのですか?」

「え?ああ、ゴメンね。そうだけど………不知火と早霜って、貴女達にもあんな感じ?」

「うん、「舞鶴鎮守府」の近くの軍港都市から来たって事は教えてくれたけれど………。というか、あの感じだと、互いにすら余所余所しい感じがするわね。」

 

海風の言葉を聞いて、雷は言われてみれば確かに………とは思った。

何処か人を避けるような仕草は、不知火と早霜同士にも言えた。

2人共、同郷出身の互いであっても、余程触れてほしくない何かがあるのかもしれない。

 

「ちなみに私は横須賀鎮守府から来たけれど………貴女達は?」

「「北陸」の方から。ですから、この寒い環境には慣れていますわ。」

「ちなみに、あっちの2人は「四国」の方からだって。挨拶してみるといいわ、驚くから。」

「ありがとう、じゃあ聞いてみるわね。」

 

雷は促された通り、最後の1組に挨拶をする。

2人は相変わらずトランプに真剣になっていたが、雷が来たら快く受け入れてくれた。

 

「よう!俺は「竹(たけ)」!宜しくな!」

「えっと………「夏雲(なつぐも)」です………。宜しくお願いしますね。」

「ええ、宜しく………あら?」

 

雷はそこで違和感………海風の言っていた「驚く事」に気づく。

2人の内、夏雲は背中に小型のランドセルのような物を………朝潮型の艤装を付けていたからだ。

 

「何で列車内なのに、艤装なんて付けているの?」

「あ………車掌さんにお願いして、基部だけでも付けさせて貰ったんです。これを付けると筋力が増強しますから、いざという時に役立つんですよ………。」

 

夏雲の言う通り、艤装を付ける事で艦娘の筋力は増強する。

その気になれば小柄な少女でも、大の大人を持ちあげられるようになるのだ。

しかし、こんな列車内で付ける意味が分からない。

そんな雷の心の内を知ってか、竹が補足説明をしてくれた。

 

「夏雲さんは、「第一級工作艦技術者免許」を所持してるんだよ。「工作艦」としての資格をな。」

「え!?駆逐艦なのに!?」

 

驚く雷に対し、夏雲は照れた顔を見せる。

第一級工作艦技術者免許とは、妖精さん達と一緒に作業をする為に必要な免許だ。

艦娘の兵装の整備を行う「工廠」で様々な開発などを行う他、海上に出向いている際に、現地での修理が可能となる。

本来ならば、専用の艦種しか習得する事が出来ない特殊な資格だ。

少なくとも夏雲………というか駆逐艦が所得出来るような資格では無い。

 

「私………あまり艦娘として長所が無いので、こういった裏方作業が出来るような資格を身に着けたんです。人間時代に機械弄りは色々とやっていたので………。」

「そうなんだ。私にしてみれば、十分凄い長所だと思うのだけれど………。」

「そ、そんなこと………。」

「謙遜するなよ、夏雲さん。俺はお前に何度も助けられてんだ。誇れる事は誇っていいぜ!」

 

竹がべた褒めした事で、夏雲は赤面し俯いてしまう。

ここら辺の関係性の良さは、不知火と早霜の2人とは大違いであった。

 

「あくまで、何か起こった時の為なんです………。本当は何も起こらない方が………一番ですし。」

「何でも大湊近辺の深海棲艦の動きが、最近活性化しているって聞くしな。もしかしたら、この内陸の陸奥湾にも、深海棲艦の姿が………。」

 

そこで、西側の窓の外を見た竹の言葉が止まった。

目線を追った雷と夏雲は、その先を見て固まる。

外の海では「大きな何か」が、航跡波(ウェーキ)を出しながら、列車の後ろから滑走してきていた。

この夜に入る時間帯に、民間船が出るとは考えにくい。

まさかと思った所で窓を開けると、外で警報が………深海棲艦の出現を示す、「深海棲艦警報」が鳴り響いた。

 

「夏雲さん、「探照灯」!」

「はい………!」

 

竹が反射的に叫んだ事で、夏雲が手持ちの探照灯を使い、海を照らす。

近くには春風に海風、不知火に早霜も集まって来ていた。

 

彼女達7人は見る。

巨大な移動式の台座に足を組んで腰掛けながら、こちらにニタリと笑みを向ける黒い鎧を纏った白い女の姿を。

 

「アレは「空母棲鬼」!?」

 

雷が叫んだ次の瞬間、台座ごとこちらを向き、砲門が輝く。

 

「伏せて下さいっ!!」

 

春風の悲鳴にも似た警告と同時に、紅蓮の砲火が列車に向けて飛来する。

丁度列車が急加速した事で、砲弾は僅かに逸れた。

それでも砲撃の余波が車両を揺さぶり、後部2つの車両………雷達のいる第3車両と、荷物を積んだ第4車両の窓ガラスが一辺に割れる。

 

「くそっ!?本当に居やがった!?ていうか、何でこんな内陸にまで鬼クラスに侵入されてるんだ!?」

 

竹が思わず愚痴るが、彼女を含め7人の体は既に動き始めていた。

一番後ろの車両へと駆け出すと扉を通り、最後尾の車両へ。

 

「大丈夫!?」

 

そこで雷が見たのは、衝撃で崩れた荷物の山と下敷きになっている2人の車掌。

ここで夏雲が素早く前に出ると、艤装のパワーアシストを受けながら怪力を発揮して、車掌達を救出していく。

 

「雷さん、外を見ていて下さい!春風さん、海風さん、不知火さん、早霜さんは、車掌の方々をこの車両の入口の方へ!竹さんは艤装を付けるので、後ろを向いて!」

「おう!」

 

おどおどしていたような夏雲の口調が一気に変わった事で、友人の竹以外、皆が圧倒されて言われた通りに役割をこなす。

外を見た雷は、空母棲鬼が台座の左右から一つ目の鬼火のような攻撃機を発艦させていくのを見た。

 

「爆撃もしようとしているわ!?」

「こうなったら、俺達で対処するしか無いな!艤装を付けて列車の屋根の上に登るぞ!」

「その前に竹さんは、車掌2人を連れて運転手の方々に指示を貰ってきてください!」

 

積みあがった荷物の山を掻き分け、あっという間に竹の松型の艤装と兵装を取り出した夏雲は、素早く装着をしていく。

そのスピードを雷は横眼で見たが、自分で装着するよりも倍は早かった。

 

「んじゃ、行ってくるぜ!」

 

艤装のパワーアシストを付けた竹は夏雲よりも更に怪力なのか、軽々と大人2人を両脇に抱えて先頭車両へと向かって行く。

そうしている間にも、夏雲は艤装や兵装が入ったケースの山を掻き分け、次は白露型の艤装………海風の艤装を取り出した。

 

「海風さん!「艦隊司令部施設」有りますね!臨時で旗艦を勤めて下さい!」

「え!?う………うん!」

「不知火さんは補佐で!」

「分かりました。」

 

あっという間に役割を決めてしまう所を見ると、かなり経験が豊富だと雷は感じる。

そうこうしている内に、陽炎型の艤装を不知火に、夕雲型の艤装を早霜に、神風型の艤装を春風に、そして暁型の艤装を雷に付けていく。

 

「雷さんの艤装、左右の「盾」が大きく無いですか?」

「え?………ああ、ちょっと思う所があってね。普通の暁型より大きめにして貰ってるの。」

 

雷は、少しだけ困ったように笑みを見せると、自分の艤装の感覚を確かめる。

弾薬もしっかり補充して貰ったので、砲撃戦に関しては問題ない。

流石に魚雷は持って来ていないので、雷撃に関してはどうしようも無かったが、そもそも列車の上でやる事では無いだろう。

そうしている内に、竹が戻って来た。

 

「あの爺さんの車掌から、指示貰って来た!乗客は全員先頭車両に集めるから、デコイにするために順次後ろから切り離してくれってよ!」

「分かりました!海風さん!」

「い、今から旗艦を務めるわ!屋根の上に登るわよ!」

 

竹が最後尾まで走り扉を蹴り破ると、慎重に海風、夏雲、早霜の順番に登っていく。

大型の艤装を付けている不知火、春風、そして雷は上で複数人に掴まれる形で引っ張り上げて貰う。

 

「大湊に行く前に、こんな大変な任務をするなんて思わなかったわ!」

 

最後に登った雷は突風で飛ばされないように姿勢を低くしながら、迫る鬼火の攻撃機を睨みつける。

 

 

ここから、雷の大湊での戦いが始まる。

これは「掬う者」としての、艦娘達の戦い。




遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。
初めての方は、初めまして。
知っている方は、お久しぶりです。
新年が明けて、いきなり地震で大変でしたが、余震に悩みながらも無事に過ごせています。

今回、気晴らしではありませんが、新しく中編から長編の話を考えました。
自分なりのペースではありますが、マイペースに投稿していきたいと思います。

今回の主人公になるのは、暁型3番艦の雷(いかずち)です。
彼女と仲間達のシリアスで時に熱血スポコンな話になる予定なので、気が向いた方は、感想など、宜しくお願いします。
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