大楯の雷   作:擬態人形P

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第10話 ~連なる者~

決闘を持ちかけた雷は、海風の怒りを爆発させる事で、その激怒した拳を受けて彼女の闇や激情を発散させるのが目的であった。

最終的に一方的に殴られる形になってしまい、ボロボロになりながらも、海風が自身の殻を破って自分を取り戻せた事に、喜びすら見せる雷。

そして彼女は、自分が過去に慢心や我儘故に「初期艦」の1人であった仲間を轟沈させてしまった過去を白状し、皆を驚かせる。

 

「1人でも多くの人々を救って欲しい。」

 

そう轟沈前に言われた事で、大楯で少しでも多くの人々や艦娘の体や心を救おうと決めた雷は、この30年の間、ずっと他人の為に力を振るって来た。

だからこそ、自分には旗艦の資格はないという事で雷から託された海風は、今度こそ仲間達に第九十九駆逐隊の長として宜しく頼むと言い、その場は丸く纏まる。

 

だが、休息を取った中、1人その一連の流れを見ていた夏雲は危惧する。

自己犠牲の精神で行動する雷は、危険では無いのかと。

 

 

気付けば雷は、花畑の上に立っていた。

色とりどりの花が咲き誇る空間に、暁型の艤装を背負って。

 

「また………この「夢」を見ちゃっているのね。」

 

この空間に立つのは、雷は初めてではない。

この30年間、何回も何十回も………それこそ何百回もこの場所に立っている。

 

「いつ見ても、この空間は綺麗よね。心を落ち着かせろってメッセージなのかしら?それとも………「貴女」の優しい心を示しているのかしらね?」

 

雷はその中をゆっくりと歩いて行く。

そして、花畑の中心のような空間に、その「艦娘」はいた。

薄群青色の髪をツーサイドアップで纏めているのが特徴で、比較的小柄。

煙突をイメージしたツバ付き帽子に、大き目の瞳を持っている。

艤装を身に着けている彼女は、立ち上がると雷を見つめた。

寂しそうな笑みを浮かべながら………。

 

「また、無茶をしたものですね。」

「でも、その分また沢山の人達を救えたわ!」

 

あくまで笑顔を見せる雷であったが、目の前の艦娘の顔は晴れない。

屈託のない笑みが魅力的な艦娘であるはずなのに………。

そして、その理由を雷は自覚している。

 

「………分かっているわ。どれだけ人を救ったって、私の犯した罪は永遠に許されるものじゃないって。」

 

雷は、過去に自信の愚行が元で目の前の艦娘………「初期艦」の娘を沈めてしまった。

だからこそ、恨まれて当然なのだ。

今でこそ落ち着けているが、初めてこの空間で彼女に出会った際は、錯乱すらしてしまったほど。

 

「私は………。」

「でも、安心して。人助けは「贖罪の心」でやってるわけじゃないから!こう言う資格はないけれど………私を変えるきっかけをくれた貴女には、本当に感謝してるから!」

 

雷は敢えて、とびっきりの笑顔を見せる。

それでも目の前の艦娘の顔は晴れなかったが、それは仕方ない事。

罪は罪として受け入れるしかないのだから。

 

「だから………私、これからはこの大湊で、みんなを救っていくわ!」

「……………。」

 

最後には閉口した艦娘に、最後まで笑い続ける雷。

やがて、花畑に陽光が差して光に包まれていく。

目覚めの時が近づいているのだと察した雷は、また来るわね………と手を振った。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

雷が目を覚ました時、日が昇り始めていた。

目覚まし代わりの「総員起こし」が掛かったらしく、彼女は布団から体を起こすと窓から外の海を見渡す。

訓練海域の近くでは、赤城が懲戒の為に偵察機を飛ばしているのが分かった。

 

「仕方ないとはいえ、ほとんど丸一日眠らせて貰ったのね………。」

 

同部屋の早霜と不知火は、既に起床をして布団を仕舞い始めている。

雷が起きなかったら、前日の決闘の件もある為、しばらくはそのまま眠らせておこうと考えていたらしい。

とにかく、雷はそんな2人を巻き込んで朝の体操を行うと、制服に着替えて部屋の外に出る。

丁度、彼女達を待っていてくれたらしく、海風と春風、竹と夏雲が立っていた。

 

「おはよう、みんな!今から朝食?」

「ええ。岸波が、改めてお礼を言いに来たわ。それと同時に、どうしてあんな面白い催しを見せてくれなかったのかっていう冗談も。」

「催しって………一応は決闘だったのにねぇ。」

 

大げさに肩を竦めた後で、思わず2人して笑ってしまう雷と海風。

顔にはまだ、互いに絆創膏が付いていたが、むしろ心の方はスッキリしているようであった。

そんな2人の姿を見て安堵した春風が、補足説明を始める。

 

「岸波さんの第三十一駆逐隊が、改めて挨拶をしたいそうです。………ちょっと、驚くべき事もあったので。」

「驚くべきこと?」

「百聞は一見に如かず。実際に会ってみればわかると思います。」

 

何やら含みのある春風の発言に、雷は首を傾げるが、その内容までは教えてくれなかった。

ちなみに、雷が寝ている内に早霜と不知火は挨拶を済ませていたらしく、岸波の驚くべき事が分かっていないのは、彼女だけであるらしい。

 

「何か1人だけ仲間外れの気分。………まあ、いいわ。まずは腹ごしらえをしましょ。」

 

雷は口笛を吹きながら、歩き始める。

その姿は、相変わらず明るく頼もしいものであった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

宿舎の寝室は2階にある。

その為、1階に降りると風呂場や洗濯機、食堂などがあるのだ。

雷達は、前日の洗濯物を洗濯機に入れると、妖精さん達に後を任せて食事に向かう。

食堂では、大湊の町から数名、食堂で働く係として雇われている。

いずれも壮年の男女ではあったが、人当たりの良さそうな方々であった。

彼らから朝食を受け取った第九十九駆逐隊の面々は、丁寧に挨拶をすると海風に案内される形でテーブルの一角に向かう。

そこには、岸波を始め、長波、朝霜、沖波の第三十一駆逐隊が集っていた。

岸波の正面に雷が座る形で、前後左右を取り囲み、第九十九駆逐隊の面々は椅子に座らせてもらう。

 

「おはよう、岸波。ゴメンなさいね、入渠中に催しやっちゃって。娯楽は好きなの?」

「おはよう。………ええ、大好きよ。F作業とかバンドの演奏とかは趣味だし、クリスマスとかも大好きね。」

 

相変わらず古傷だらけの岸波が、治った左腕を見せながら………といっても、こちらも古傷だらけだったが、それでも指を1本ずつ動かし、完治している事を示した。

そして、笑みを見せると、仲間達の自己紹介を始める。

 

「改めて、三十一駆の仲間を紹介するわね。まずは長姉………長波よ。」

「よ、長波サマだ。好きな食べ物はチャーハン。上手いよなぁコレ。」

「長姉は、艦隊の補佐。練度は三十一駆の中では一番高いわね。」

 

朝からだというのに、長波は卵チャーハンを美味しそうに食べながら、雷達に挨拶をしていく。

チャーハンが好みという艦娘は意外と少なく、そういう意味では長波は、もっとチャーハンの食文化を広めたいと思っているらしい。

 

「冗談よね………?長波姉さん。」

「さあ、どうかな?次、朝霜ね。」

 

若干不安そうにした早霜の言葉をさらりと流しながら、長波は朝霜に話を振る。

彼女は、ふふんと立ち上がると、腕に腰を当てて自己紹介を引き継ぐ。

 

「あたいは朝霜!こう見えて楽器の演奏を得意としていて、何とトランペットが吹けるんだぜ!」

「朝ちゃんは、一番の器用万能ね。アトランタ先輩程ではないけれど、対空砲火も得意としているわ。」

「岸波はドラムやってんだよな!たまにあたい達、演奏するんだよ!」

 

音楽が得意な艦娘というのも、珍しいと雷達は思った。

しかも、意外にも時たまそういった艦娘達が集まって演奏会を行っているという。

 

「他の仲間達は?」

「ああ、とある船にいるんだ。ま、その内会えると思うぜ!」

 

朝霜の言葉の意味を不知火は分からなかったが、彼女はニヤリと笑うと沖波に引き継ぐ。

若干おどおどとした沖波は、眼鏡を合わせるとペコリと頭を下げる。

 

「私は沖波。えっと………趣味は眼鏡の収集かな。長波姉さんや岸ちゃん、朝ちゃんがお世話になっています。」

「沖姉は、意外性担当かしら。対潜攻撃を得意としている他、ちょっとした兵装の裏技を見つけるのが好きなの。後、格闘戦も大好きね。」

「待って、岸ちゃん!?最後は余計だからぁ!?」

 

思わず赤面して慌てる沖波の姿を見て、そういえば最初に空母棲鬼の台座を蹴り飛ばして砲撃を阻止した時の事を、今更ながらに雷達は思い出す。

只、兵装の裏技という言葉が気になったのか、夏雲が質問をする。

 

「具体的には、どんな兵装の改革を………?」

「えっと………岸ちゃんを見たから覚えていると思うけど、私達の主砲、ドラムマガジンで弾薬が供給される形になっているの。」

 

確かに、利き手側の腰に弾薬が詰まったボックスがあり、そこから弾薬がどんどん主砲に自動装填されるような作りになっていた。

どうも、元々は別の軍港鎮守府で見かけた「照月(てるづき)」と呼ばれる駆逐艦を参考にしたらしく、これにより、主砲の連射能力と残弾数を飛躍的に高められるようになったらしい。

 

「成程………そんな工夫が………。」

「それで、そんな私達を纏めてくれているのが、旗艦である岸ちゃん………岸波。」

「改二艦の姿は、まだ見つかってないけれどね。でも、それなりには頑張ってるわ。」

「どんな時でもマイペースなのが、岸波の長所だな。只、それとは別に、岸波には「切り札」がある。」

 

チャーハンを食べ終わった長波が、皿を置きながら、岸波を見る。

切り札?………と言われ、雷は首を傾げてしまう。

 

「雷にはまだ説明してなかったんだよな。岸波………見せてやれ。」

「ええ………。」

 

岸波は、黄土色の瞳を閉じる。

そして、その目が開くと赤みが混じっていた。

次の瞬間、割と落ち着いていた顔が急に粗暴じみた物に代わる。

 

「よお!!テメエが雷か!?チンマリしてるが、30年戦士なんだってな!ま、三十一駆の1人として、俺様もよろしく頼むわ!!」

「………へ?」

 

明らかに岸波のものとは思えない乱暴な口調に、雷は一瞬固まってしまう。

まるで、急に人格が入れ替わったような………。

 

「おい、「岩波(いわなみ)」。名前ぐらい言わねぇと、伝わらねぇぞ。」

「おっと悪い悪い。まあ、俺様をいきなり見たら、驚くのも無理ねぇわな!何せ、この艦隊の切り札だからな!!」

 

朝霜の渋い説明を受けて、雷は自身の30年の知識を何とか引っ張り出そうとする。

確か岩波というのは、撃沈数の水増しの為に作られた、虚構の駆逐艦の名前であるはずだ。

しかし、それが岸波の中に宿っているという事は………。

 

「な、何!?「二重人格」なの!?」

「そんな、スケールの小さなものじゃねぇよ!俺様は、岸波の言わば裏の側面!俺様と岸波を合わせて、表裏一体のようなものよ!」

「岩ちゃん………世の中では、そういうのを二重人格って言うんだよ?」

 

もはや仲間達………というか、大湊警備府の中ではお馴染みになっているのか、三十一駆の仲間は勿論の事、厨房にいる一般の人間も苦笑している状態。

事前説明が無い中、1人だけ訳が分からない雷は、周りを見渡す。

 

「もしかして、驚く事って………。」

「そりゃ、俺達もビックリだったな。1つの体に、岸波さんと岩波さん、2つの人格が宿っているんだからよ。」

 

竹が代表して雷に答える。

雷は、驚いた顔を見せながらも、思わず頬を膨らませてしまう。

そういう事は、事前にある程度は教えてほしかったと。

尤も、昨日の事を考えれば、雷にそういう資格は無いようにも思えるが………。

とにかく、岩波は一旦目を伏せると岸波に戻る。

 

「これが、「私達」の切り札。1つの体に2つ分の脳が宿る事で、それこそ反射と思考を融合させる事が出来るってわけ。」

「あ………だから、救援に駆け付けた時、異様なまでの回避能力を見せつけたのね。」

 

確かに、岸波と岩波が力を合わせれば、常人の艦娘では有り得ない反応速度を見せる事が可能だ。

故に、岸波は改二艦でないのに、長波達に匹敵するような力を発揮する事が出来ている。

単艦で空母棲姫を足止めしようとしたのは、決してやせ我慢からでは無かったのだ。

 

「私達は、この力を「連なる力」と呼んでるわ。言い換えれば、「連なる者」ね。」

 

岸波と岩波、2つの思考が連なる事で、驚異的な力を発揮できる。

だからこそ、2人は切り札とも言える存在であった。

しかし………。

 

「でも、デメリットもある。岸波と岩波の2人分の力を使うと、その分入渠時間が増えてしまうんだ。」

「長波の言う通りだな。最悪、海戦中に「電池切れ」を起こしちまう事だってあるし。」

「だから、普段は無理をしない方がいいに越した事は無いの。」

 

確かに、空母棲姫との海戦後の岸波は、夏雲や赤城が支えなければ動けない状態であった。

ちなみに入渠に関しては、結構今回はギリギリまで力を使った為に、今朝まで続いていたとのこと。

元々、高速修復材(バケツ)が効かなくて、切り札とはいえここまでのデメリットがあるのならば、コストパフォーマンスはかなり悪いと言えた。

 

「まあ、仕方ないわよ。その為の九十九駆の招集でもあるんだし、しばらくは無理せず程々にやっていくわ。」

 

岸波は、笑みを見せながら挨拶を終えようとした。

しかし、ここで雷の隣に座っていた海風が立ち上がる。

何事かと思った一同であったが、彼女は頭を下げるとハッキリと告げた。

 

「岸波と………それに、雷にお願いがあるの。」

 

雷は自分も含まれている事を受けて、思わず自身を指差しながらも海風の顔を見る。

彼女は横目で雷を見た後、岸波を見た。

 

「私に………旗艦としての心得を教えて!」

 

それは、第九十九駆逐隊の旗艦として、皆を纏めていく為の海風なりの第一歩であった。




前を向けるようになった海風の第一歩目。
それが、自分が旗艦に相応しい存在になる為に、先達者に教えを聞くという事です。
ここから彼女の歩みは、再び始まりますね。

一方で、同じ夢をずっと見続ける雷。
そこでずっと出会っている人物は………。
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