大楯の雷   作:擬態人形P

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第11話 ~海風の特技~

雷は夢の中で花畑にいた。

そこには、過去にミスを犯した際に、自分を庇って沈んだ「初期艦」の艦娘が。

彼女は人々をこれまでもこれからも救っていくと安心させようとするが、彼女の顔は晴れないまま。

それは、自分の罪が許されない事だからだと自覚していた雷は、また来るね!………と言って夢から覚める事に。

 

そして、朝食の時間。

第三十一駆逐隊が自己紹介を兼ねて第九十九駆逐隊を誘うが、そこで旗艦の岸波が恐るべき特技を披露する。

何と彼女の中には別の人格である「岩波」が眠っていた。

1つの体に2つの脳を持つからこそ、海戦で尋常でない回避能力を発揮する事も可能な岸波の力。

「連なる力」を持つ、「連なる者」であると話す岸波と、そして艦娘歴が豊富である雷に対し、海風がとあるお願いをすることになる。

実は、第九十九駆逐隊を纏めていくうえでの、旗艦としての心構えを伝授して欲しいと、彼女は頼みこんだのだ。

 

 

午前中の訓練時間、第九十九駆逐隊と第三十一駆逐隊の計11人は、大湊警備府の外周を横2列で走り込む「複縦陣」の陣形で周りつつ、ひたすら走り込みをする。

雷や岸波が提唱した、基本である長距離ランニングによる足腰を鍛える訓練だ。

朝食時に海風に旗艦としての心構えを教えて欲しいと言われた際に、経験のある2人は、実体験を元に真っ先にこう答えた。

 

旗艦になるのに近道は無い………と。

 

「あの言葉を聞いた時は、ビックリしたけど………冷静に考えれば、そんな簡単に旗艦になれれば苦労はしないわよね。」

「長姉達から大体の事情は聞いたけど………貴女の元居たブラック軍港鎮守府は、何を強要していたのかしら?」

「まさか、「海風」という旗艦能力があれば、すぐに艦隊を纏められるとでも思ったのかしらね?」

 

走りながらでも、耐水性の用紙にしっかりとメモを取ろうとしている海風を見て、先頭を走る岸波と雷は思わずため息を付く。

全ての事柄は、一朝一夕で叶えられるものでは無い。

旗艦だって、仲間達と経験を積んでいくことで、徐々にその役割や特性を理解できるのだ。

それを把握して、初めて旗艦として最適解な指示を送れるし、仲間達との連携も上手くいく。

だが、彼女の前の居た軍港都市では、先輩艦娘だけでなく提督にも、そんなことすら分かって貰えなかったらしい。

 

「あー!何か腹が立ってきたわ!春風、後で住所教えて頂戴!呪いの手紙を送ってやるわ!」

「分かりました。昼食時にお教えします。」

「ちょ!?も、もうそれはいいから!?」

 

割と本気でやりかねない雷と春風の会話を聞いて、海風は思わず止めてしまう。

正直、彼女にしてみれば、雷との殴り合いで本当に後腐れなく過去を振り払えたのだから、もう掘り返して欲しくはないのが本音である。

 

「その代わり、改めて色々と教えてくれる?旗艦として学んでいくには、何が大切?」

「色々とあるけれど、まずは「知る事」かしら。」

「知る事?」

「そうよ。思い出して………空母棲姫との海戦や、貴女との殴り合いの時の事。」

 

そういえば………と、海風は頭を巡らせる。

臨時で指揮を執った雷は、空母棲姫を攻略する際に竹や春風に出来る事を聞いた。

結果的に、このやり取りを元にして本体を台座から引きずり落とす事に成功し、不知火のトドメの雷撃に繋げられたのだ。

過去の闇を発散させる為とは言え、海風に「決闘」をけしかけた時もそうである。

あらかじめ艦娘提督である鈴谷に自分の推論をぶつけ、動揺させて確証を得たから、海風や春風の過去をハッキリと告げる事が出来た。

 

「「情報」っていうのは旗艦を行う上での武器なの。そういう意味では、貴女が教えてくれた凍結注意の情報も立派な武器。1つ1つ理解していく事で、新たな発想が得られるわ。」

 

人は咄嗟の判断なんて、そう簡単には出来はしない。

あくまで、「経験」をしなければ「学習」出来ないからだ。

だが、その身で「学習」するには、事前に「知識」として吸収しておかなければならない。

そうやって順を追って組み立てていく事で、初めて十全の力を発揮できるのだ。

 

「勉強になりますね………。」

 

そう答えるのは、しんがりを走る補佐を勤める不知火。

空母棲姫の時に、海風に代わって指揮を出せなかった彼女は、雷の言葉に素直に感心してしまっていた。

メモは取ってはいないが、しっかりと一言一句を頭に刻み込んでいる。

 

「竹が夏雲を尊敬しているのは、彼女がその20年の経験で、何度も助けてくれたからでしょ?」

「そうだなぁ………。俺も艦娘になったばかりの頃は、今よりも突撃娘だったからなぁ………。応急処置の仕方とか、色々と教わったっけ。」

「じゃあ、そのやり方、後で私達も教えて貰った方がいいわね。知らない事は、何でも教えて貰った方が、後々役に立つわ。………いい?夏雲。」

「はい………。後で呪いの手紙を書く代わりに、教えます………。」

 

流石に九十九駆の外交担当になっている為か、雷は仲間達との会話の中で、新しい面を見つけるのが上手い。

これも1つの特技であり、旗艦として必要であると感じた海風は、感心しながらメモを取っていく。

それを見たのだろう。

岸波が、補足説明をしてくれる。

 

「仲良くなるのならば、大湊のみんなとも仲良くなった方がいいわね。コミュニケーションを取る事は、それだけでプラスになるし、時には色々な情報源にもなるわ。」

「成程!後は、仲間同士で腹を割って話す事も必要ね。殴り合いも………。」

「それは、流石に雷に毒され過ぎよ。」

 

思わず艦隊内で笑いを誘った所で、11人は港方面に出る。

そこには、昨日いなかったはずの巨大な白い船が停泊しており、艦娘達が忙しそうに動いていた。

複数のロープを取り出して引っ掛けている対象は、あの空母棲姫の台座。

栗茶色の長髪を黒いリボンでポニーテールにしている艦娘の指示で、丁度台座を、船の大きな門………恐らく工廠の中しまっている最中であった。

 

「回収業者?という事は、あの船が、後始末屋………?」

「そうだよ、早ちゃん。大本営の依頼を受けてやって来ている、移動鎮守府の「はくちょう」。」

 

思わず船を見上げた早霜に対し、沖波が笑顔で語る。

船の近くまで行った所で、丁度台座の回収作業が終わったらしく、朝霜が大声を上げる。

 

「おーい、リーダー!ちょっと挨拶してくれーーーっ!!」

 

その声に反応した先程のリーダー格の艦娘が、専用の服………穢れに汚れないような防護服を着た艦娘達に後を任せると、3人の艦娘と共に近づいてくる。

それぞれ順番に、黒髪の2つの三つ編みの艦娘、銀髪の男装が似合いそうな艦娘、赤髪のセミロングの艦娘である。

 

「どうも。あたしは、はくちょうの「艦娘提督」をやっている「敷波(しきなみ)」。宜しくね。」

「秘書艦の「磯波(いそなみ)」だよ。貴女達が新しい第九十九駆逐隊?」

「物凄い海戦を披露したうえに、いきなり大喧嘩したって聞いたわ。あ………私は「野分(のわき)」よ。」

「「嵐(あらし)」だ。俺達と、岸波や朝霜はジャズバンドやってるんだ!」

 

順番に自己紹介されたことで、海風を筆頭に第九十九駆逐隊の面々も挨拶をしていく。

どうやら、彼女達が岸波達の言っていたバンドメンバーであるらしい。

岸波は、珍しく恭しく頭を下げると、敷波達を見渡して言う。

 

「敷波先輩、磯波先輩、後で久々に演奏しましょう。野分や嵐もいいかしら?」

「あたいも!最近、海戦ばっかだったからな!九十九駆も来てくれたし、久々にリラックスしたいぜ!」

 

同じ駆逐艦同士でも経歴が違うのか、敷波や磯波には先輩………という言葉を使う岸波に、雷達は新しい側面を感じる。

朝霜も何処か楽しそうにしている所を見ると、彼女達は本当にバンドが好きなのだと思った。

 

「いいよ。じゃあ、昼ご飯の時に演奏しよっか。丁度、「鎮魂歌」も演奏したいからさ。」

「鎮魂歌?誰か犠牲に………?」

「いや、沈んだ深海棲艦への。それが、あたし達「後始末屋」のスタイルだからさ。」

「……………。」

 

平然と敵対していた深海棲艦を弔おうと言ってのけた敷波達の言葉に、一瞬早霜の顔が曇る。

同時に不知火も俯くが、別の組織とはいえ「艦娘提督」がいる手前、雷は敢えて今はそれに気づかない振りをしようとした。

只、やっぱり他の皆もその違和感は、感じてしまったのだろう。

長波が2人の肩に手を置きながら、海風に告げる。

 

「勿論、海風達も聞いて行くよな?」

「お願いしても………いいかしら?」

「よし………じゃあ、積もる話もあるだろうし、何より演奏の準備が必要だ。岸波と朝霜はそっちの用意に回って貰おう。」

「そうするわ。長姉、沖姉、後はお願いね。」

 

敷波達は台座を回収し終えた報告をする為に、庁舎にいる鈴谷に話をしに行く予定があるとの事で、岸波と朝霜は付いて行く事になる。

俯いている早霜と不知火の肩をポンと叩きながら、海風に聞いた。

 

「んじゃ、ここからは、私が岸波に代わって色々教えようか。海風、雷、宜しく頼むわ。」

「ええ。あ………そうだ。これから旗艦をやるうえで、みんなに改めて知って欲しい事があるの。」

 

何かしら「負の面」が出そうになった早霜や不知火の為にも、話題を変えようとした部分があるのだろう。

そうでなくても、海風は「ケジメ」として、皆に早く伝えたい事があった。

雷がその真剣な様子を悟り、真面目な顔で聞く。

 

「何を話したいの………?」

「私が………前の軍港都市で失敗した任務の事よ。」

 

海風はそう言うと、工廠を指し示した。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

工廠には、様々な兵装が置いてある。

主砲や魚雷、爆雷などの基本的な物に加え、探照灯などを始めとした特殊な兵装も置いてある。

その中で、工廠の担当主である夕張に案内される形で海風達がやって来たのは、隅にある、人間を詰めれば大人10人位は乗れそうな、大きな木の船が並べられた空間であった。

木の船といっても、それは船体だけで、後部のプロペラ部分にはエンジンがしっかりと搭載されている。

 

海風は、夕張にお願いをして艤装を装備させてもらうと、その木の船………「大発動艇」と呼ばれるものに近づいた。

 

「知っての通り、「海風」という改白露型の艦娘は、大発を遠隔操作する事が出来るわ。そして、この大発は、人命救助に役立てる事が出来る。」

 

少し寂しそうに語るのは、その初めての旗艦任務での失敗を思い出してしまっているからか。

しかし、自分でそのトラウマという殻を破れた海風は、静かに目を閉じると、おいてある大発の内の1つに触れる。

すると、エンジンが掛かり始め、プロペラ部分が回る。

 

「ここまで言えば大体分かると思うけど………私の最初の旗艦任務は、沈んだ船舶の乗組員の救助。その際に大発の扱いに失敗して、あわや犠牲者を出すところだったの。」

「そっか………。私は感覚が分からないけれど、大発って扱いが難しそうだものね。幾ら大発装備が出来るからって、いきなり3隻も扱うのは………。」

「5隻操作するのは………当時の私では無理だったわ。」

「………はい?」

 

海風の言葉に、うんうんと頷いていた雷は思わず固まる。

聞き間違えかと思い、周囲を見渡すが、第九十九駆逐隊の面々は勿論の事、長波や沖波、夕張ですら固まっている。

今、海風は何と言ったのか?

大発を………一気に5隻?

 

「ゆ、夕張さん………駆逐艦の大発の最大搭載数って………。」

「ええ………頑張っても3隻が限界のはずよ。4隻以上を一気に扱おうとしたら、キャパシティオーバーを起こして………最悪、脳が限界を超えて、目や鼻から血が出るわ。」

 

基本的に艦娘には、「装備枠」と呼ばれるものがあり、大体は体の大きさに比例する。

戦艦は戦艦に見合ったサイズが、駆逐艦には駆逐艦に見合ったサイズが。

その都合も有り駆逐艦の大発動艇搭載数は、誰であっても今の所は3隻が限界なのだ。

しかし、今海風は、平然と5隻と言った。

 

「5隻も扱えないわよ!?どれだけブラックだったの!?その軍港鎮守府は!?」

「海風さんは………任務失敗後に、1人苦しい努力をされて、一度に5隻も扱えるようになりました。でも、その時はもう遅く………虐げられる羽目に………。」

「出来るようになっちゃったの!?」

 

俯きながら、忌々しそうに呟く春風を見て、雷は衝撃を受けてしまう。

海風は何気ない顔で大発に次々と手を触れていくと、本当に5隻稼働させていった。

 

「頑張れば、6隻目も………。」

「わーっ!?いいって!分かったからっ!!本当に、呪いの手紙を送ってやった方がいいかしら………。」

「それよりも………この特技は………いざという時に役立つかもしれません。」

 

本気で苛立ち始めた雷に、夏雲が海風の特技に驚きながらも、アドバイスを送る。

大発動艇を3隻ではなく5隻も扱えるという事は、単純計算で、30人以上50人までの人間を救助する事が出来る。

深海棲艦に沈められた船から救援が来た際に、この海風の力を活かす事が出来れば、沢山の人達を救えるだろう。

 

「鈴谷さんも、海風さんの長所に関しては………、しっかりと伝えて欲しいものです………。」

「でもよ。そう考えると、第九十九駆逐隊って言葉………割と現実味が帯びてこないか?」

「竹、それはどういうことですか?」

 

不知火の質問に、竹がニヤリと笑いながら告げる。

 

「「救急駆逐隊」。当て字で、第九十九駆逐隊に相応しいじゃねえか。旗艦である海風さんが、率先して救助の才能を持っているんだからよ!」

「そうね………。竹が怪力で救助するでしょ?春風がみんなを支えて元気づける!夏雲が治療をする!その間、私が守って、早霜と不知火がサポート!完璧じゃない!」

「え?あ、まあ………な。」

 

何処か竹の言葉の歯切れが悪かったのは、前日に夏雲から雷の「自己犠牲」精神が危ういという言動を受けたから。

しかし、述べている事は間違っていないように感じたので、ここでは夏雲も含め、とやかくは言わなかった。

 

 

第九十九駆逐隊は、少しずつ意味を持ち始める。

それこそ、当初からは違った………しかし、思わぬメリットを持った方向性で。




海風の持つ、ある意味とんでもない特技が明らかに。
駆逐艦が、大発を一気に5つもコントロールできるのならば、輸送に対地攻撃に、更には救助に活躍可能ですよね。

ここで登場した敷波達の面々の元ネタは、勿論メディアミックスである「海色のアルトサックス」。
個人的に音楽が好きなので、少し設定を借りさせて貰いました。

とにもかくにも第九十九駆逐隊の持ち味が、少しずつ明らかになって来ましたね。
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