大楯の雷   作:擬態人形P

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第12話 ~鎮魂の演奏会~

旗艦の心得を教えて欲しいという海風に、経験のある雷と岸波は一朝一夕で培えるものではないと告げる。

そして、基礎的なランニングをしながら、情報を知る事と様々な人々とのコミュニケーションを取る事の大切さを伝える事に。

 

そんな中、彼女達は港で後始末屋「はくちょう」が、空母棲姫の台座を回収しているのを目撃。

艦娘提督である敷波を始め、磯波と野分、嵐の4人がやって来て挨拶をする内に、彼女達が、岸波と朝霜のバンドメンバーだと知る。

後始末の後に、沈んだ深海棲艦に対しての鎮魂歌を兼ねて、久々に演奏をしようとする事で、意気投合する6人であったが、早霜や不知火の様子がおかしくなって………。

その場は、空気を読んだ長波達が取り繕って何とかしたが、雷達は違和感を覚えた。

 

その後、海風が自分の過去にケジメを付けたいという事で、過去のトラウマであった失敗………大発動艇での救助活動の失敗を白状する事に。

だが、その詳細を聞いて行くと、失敗と言えるものでは無く、むしろ無茶ぶりを強いられていた事が分かった。

 

駆逐艦では、3隻までしか操作出来ない大発を、血の滲むような努力によって5隻まで扱えるようになった海風に感心した竹が、第九十九駆逐隊は「救急駆逐隊」が似合うと語る事に。

少しずつ方向性が見えてきた九十九駆の本質であったが………。

 

 

午前中のランニングを終えて海風が自身の特技を披露したところで、時刻は昼近くになっていた。

もうすぐ昼食の時間であったが、波止場ではギャラリーが集まりつつある。

それもそのはず。

敷波達のジャズバンドのメンバーが、それぞれの楽器を揃えて集まっていたのだ。

 

「えーっと………確か、朝霜がトランペットで、岸波がドラムで………。」

「敷波さんがアルトサックス、磯波さんがコントラバス、野分さんがピアノ、嵐さんがテナーサックスだよ。」

 

沖波が教えてくれた事で、納得する一同。

楽器に詳しくない第九十九駆逐隊の面々も、言われてみればピンと来た。

彼女達は念入りにチューニングを行い、それぞれの楽器の音色を確認している。

 

「楽器は繊細なものだから、気候に合わせてしっかりと調整しないといけないんだ。艤装と同じだね。今は、本当は「春」なんだけど………。」

 

続けられる沖波の説明に、一同は思わずため息を付きたくなる。

とてもではないが、昼近くなのに春と言えるような暖かな気温ではない。

そもそも幾ら北方とはいえ、夜になると氷点下になる時点で、かなり気候はおかしい。

 

(深海棲艦が出てから、ずっとこんなのだものね………。)

 

雷が空を………若干の薄暗い曇り空を見上げながら思う。

強力な深海棲艦の中には気候を操るものがいて、その影響か、北方は年中想像以上に寒く、南方は同様に想像以上に暑い。

異常気象が続く事で、生態系も変化してしまっているほどだ。

 

「横須賀は比較的、四季が安定していたんだけどね………。でも、秋になったら、異常気象の影響か、全国どこでも秋刀魚が獲れるそうじゃない?」

「岸ちゃんは、割と気にしているね。F作業好きだから。」

「逆に、全く獲れない年もあったよなぁ。あの時は子供のように暴れる岸波を、落ち着かせるのが大変だった。」

 

割と本気で言っているらしく、本気でうんうんと頷き合う沖波と長波を見て、思わず怪訝な顔をする雷達。

そんな中、マイクで敷波が挨拶を始める。

 

「えー、集まってくれたみんな、ありがとう!それじゃあ、ちょっとした演奏会を始めるから、聞いていってね!」

 

軽く片手でピースをしているが、恥ずかしい面があるのか、耳が密かに赤くなっているのが分かった。

そして、仲間達を見渡すと、岸波のドラムの音が響き渡り、演奏会が始まる。

 

「まあ………。」

 

思わずうっとりした声を上げてしまったのは、春風。

それだけジャズの音色は美しく、心を震わせるものがあった。

この音は、宿舎の方にも聞こえてきたのだろう。

いつもは昼食まで遅寝を決めている佐渡達も、興味深そうに出てくる。

不思議な事に、いつもならば文句の1つでも言いそうなのに、邪魔する気配が無いのは、それが音楽の魔力であるからだろうか。

やがて演奏会が進むと、敷波が曲と曲の間にマイクで再び声を響かせた。

 

「じゃあ、次の曲は………「鎮魂歌」、響かせてみよっか。みんな、色々辛い事あるとは思うんだ。だから、「大切な人」のために、祈って欲しい。」

 

出会ったばかりとはいえ、真剣な言葉に誰もが………それこそ佐渡達すら、俯き何かを考える。

やがて、野分のピアノの音が聞こえると、シックな曲が響き渡り始めた。

その音色に合わせて、人々は何かに対して祈っていく。

人によっては手を合わせる者もいたし、静かに涙を流す者もいた。

雷もまた、祈りを捧げる。

自身を庇って沈んだ「彼女」を含め、この30年の経歴で犠牲になった「仲間達」の為に。

 

「………あんな曲も響かせられるのね。音楽の力って素晴らしいわ。」

「彼女達は………沈めた深海棲艦の為に、祈っているのよね。」

 

ここで細々とだが、珍しく隣にいた早霜から口を開いた事で、雷が小声で対応する。

その目には影があったのをみると、一目で敷波達の祈りの心が「気に入らない」のは見て取れた。

だから、言葉を選びながらも雷は真摯に答える。

 

「沈んでしまえば、みんな犠牲者よ。「彼女達」もまた、海戦の………ね。」

「「奴等」は、人間達を………本能の赴くままに「殺して回った」のに?」

「殺されたからと言って殺して回っていたら、永遠に憎しみなんて消えはしないわ。」

「納得いかない………私は、そんな綺麗ごと………。」

 

明らかに憎悪の感情を抑えられなくなっている早霜に対し、警鐘を鳴らしたのか、長波が後ろから抱きしめ、落ち着かせようとする。

だが、早霜は我慢出来なくなったのか、雷を睨みつけるようにして言う。

 

「貴女は憎んでいないの?貴女を庇った「初期艦」を殺した深海棲艦を。」

「おい、早霜さん………!?」

 

思わず竹がたしなめようとするが、言ってしまった言葉は消えない。

しかし、雷は動揺をしていなかった。

むしろ、その冷たい目を受け止めると静かに言う。

 

「彼女を沈めたのは、私の落ち度よ。深海棲艦に「責任転嫁」をした所で、その罪は消えないわ。」

「っ!?」

 

信じられない言葉を聞いたように、早霜の目が見開かれる。

一瞬ふらつくが、長波がその身体を支えていた為に、倒れる事は無かった。

しかし、丁度雷の反対側にいた不知火が、ガクガクと震え始める。

まるで、それこそ何かトラウマを刺激されたかのように。

 

「不知火、大丈夫………?」

「い、いえ………何でもありません………。」

 

その様子を敏感に察する事が出来たのだろう。

海風が沖波と共に、支えようとする。

不知火は何とか落ち着こうとしていたが、やはり様子がおかしかった。

その全体の様子を見ていた夏雲が、静かになるべく感情をこめずに告げる。

 

「少し、静かにしましょうか………。皆さんの祈りの邪魔をしてはいけません………。それに、そろそろ曲が変わりそうです………。」

「分かったわ………。ごめんなさい、雷。」

 

早霜は雷に頭を下げて謝罪をすると、静かに敷波達の演奏を聞く。

不知火もまた深呼吸をすると、同じようにして再び聞き入ろうとしていた。

 

敷波達のジャズバンドは、その後も続く。

その時だけは、大湊の人々を温かく包み込んでくれていた。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

演奏会が終わった後は、昼食に移る事になる。

只、演奏中での出来事があった為か、雷はともかく、早霜と不知火は気まずい顔をしていた。

それぞれに長波、海風と沖波が付いていてくれたが、ここで少し長波が申し訳なさそうな顔をする。

 

「あー………悪い。実はこの後、あたし達、「診察」があるの。」

「診察………?」

「うん。こうして、はくちょうが停泊している時に、「お医者さん」に診て貰ってるんだ。………あ、噂をすれば。」

 

沖波の目線を追うと、無表情が印象的な黒髪の1本の三つ編みを持った艦娘が歩いて来ていた。

その姿を見て、雷は驚く。

 

「貴女は………雷巡の「北上(きたがみ)」さん!?」

「今は、「工作艦」がメインだけどね。………って、見ない間にまた古傷増えてない?」

「北上さんに言われたく無いなぁ………。」

 

少々申し訳なさそうに呟く長波の言う通り、北上もまた、かなりの古傷が付いていた。

どうやら、長波達と同じく、昔はかなりの無茶をしていたらしい。

 

「雷巡は商売上、使い回される事が多い職だからねー。ま、仕方ないさ。」

 

北上はそう言うと、庁舎を指し示す。

実は、医務室もそこにあり、第三十一駆逐隊の4人は定期的に診察をして貰っているらしい。

無論、ここで興味を持ったのは夏雲。

 

「北上さんも………「第一級工作艦技術者免許」を?」

「お?………という事は、同業者?いやー、駆逐艦では滅多に見ないかもねぇ。人間時代に何かあった?」

「ええ、まあ………。」

「私は、「北上」という艦が工作艦の経歴があるから、比較的資格を覚えやすかったけど、大変だったでしょー?でも、こういう資格も覚えてしまえばわびさびよね~。」

 

のんびりとした口調で受け答えをしていく北上は、かなりの歴戦の勇士に思えた。

それだけの余裕を持ち合わせており、九十九駆の中では比較的落ち着いている夏雲ですら、包み込んでしまっているからだろうか。

とにかく、そうやって鼻歌混じりに庁舎へと歩いて行って、ふと雷達を見る。

 

「そうそう。流石に診察時は、脱ぐことになるからさ。ここから先は、長波と沖波だけね。」

「あ………すみません。2人共、ありがとう。岸波や朝霜にもそう言っておいて。」

「んじゃ、ひとまず失礼するわ。あんまり喧嘩するんじゃないぞ。」

「心配掛けちゃダメだからね。それじゃあ………!」

 

最後に早霜と不知火に念入りに告げた事で、2人は思わず頭を下げる。

北上に連れられ、手を振りながら長波と沖波は庁舎の中に入っていった。

 

「じゃあ、私達も昼ご飯、食べよ!」

 

早速、雷や岸波の教えを守ろうと思ったのか、海風が手を合わせてコミュニケーションを取ろうとする。

工廠の時とは違い、落ち込み気味の第九十九駆逐隊の面々であったが、とりあえずは旗艦に従う形になった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

一方、庁舎に入った北上は、医務室に行く前に、長波や沖波と共に執務室に寄る。

そこでは、書類の束に包まれながら、相変わらず鈴谷が頭を抱えて机に足を掛けて座っていた。

書類は空母棲鬼と空母棲姫による列車の襲撃の件や、近隣住民の不安の声、深海棲艦襲撃による保証金などの割り振りなど、挙げてしまえばキリが無い。

 

「鈴谷、久しぶりー。………アレ、熊野は?」

「チーッス………海防艦達の説教。懲りないねぇ、熊野も。」

 

どうやら、宿舎の昼食の場に行って、わざわざ文句を言っているらしい。

無論、そんなことで反骨心旺盛な海防艦娘達が、真面目になるはずも無い為、鈴谷は無駄な努力だと思ってしまっている。

北上は、ふーん………と言うと、徐に聞く。

 

「敷波達の演奏会は、聞かなかったの?」

「聞く余裕無いからね。ちょっち忙しいから。」

 

鈴谷はそう言うと、重そうに体を上げて、書類仕事に取り掛かろうとする。

あくまで普通に振る舞っているようではあったが、昨晩は眠れなかったのか、目にはクマが出来ており、あまり良い状態では無いのが長波や沖波でも分かった。

だから北上は2人にお願いし、宿舎の食堂に行って熊野を連れ戻してきて欲しいと言う。

走って出ていく2人に対し、大げさだなぁ………と鈴谷は笑ったが、北上は扉を閉めると彼女の机へと歩いて行く。

そして、ため息を付きながら書類の一枚を………とてもじゃないが、見るに堪えないヨレヨレのサインの入った物を見せると、冷静に告げた。

 

「1回休んだ方がいいよ。心の余裕無くしてるし。」

「無くしてないし。」

「演奏会、聞きたく無かったんでしょ?思い出したく無かったの?「旦那さん」との思い出を?」

「そんな事………っ!………あ………。」

 

思わず苛立ち机を、ドンッ!………と叩いて立ち上がろうとした鈴谷は、ここでふらつく。

明らかに後ろに倒れる前兆だと悟った北上は、素早く机を飛び越え気を失った鈴谷を支えた。

 

「提………督………。」

 

僅かに涙を流しながら、亡き夫の事を呟く鈴谷を見て、北上は嘆息。

そして、執務室の床に優しく横たえながら言う。

 

「分かってたとはいえ………やっぱり、今でも鈴谷の心はボロボロだね………。それこそ、私や岸波達の体の傷の事、とやかく言えない位にさ………。」

 

その目には、珍しく悲しみの感情があった。




何かしら過去にあったのではないか?………と思わせる早霜と不知火。
振り返れば第1話の列車の中から、彼女達の様子は何処かおかしかったですよね。
2人には一体、何があったのか…?

そして、倒れてしまう鈴谷。
北上が工作艦の資格を持っているのは、史実を参考にさせて貰いました。
詳細に考えてみると、明石のような工作艦って何でも出来ないといけないから大変ですよね。
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