大楯の雷   作:擬態人形P

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第13話 ~早霜の過去~

昼飯前に、大湊のギャラリーと共に、波止場で敷波達のジャズバンドを聞く事になった第九十九駆逐隊の面々。

しかし、鎮魂歌を演奏する事になった途端、早霜が深海棲艦に祈りを捧げる事に意味があるのか?………と疑問を呈する。

死ねば皆、供養する物だと言ってのけた雷に対し、早霜は思わず彼女を庇った「初期艦」が沈む原因を作った深海棲艦は恨まないのか?………と問う事に。

だが、雷はこれに対し、自分の落ち度を「責任転嫁」するつもりは無いと言い、早霜を絶句させ、何故か不知火の動揺を招いてしまう。

 

その場は夏雲の好判断によって収まったものの、落ち込み気味の九十九駆に近づいて来たのは、工作艦の資格を手に入れていた北上。

彼女は、第三十一駆逐隊の4人の診察をすると言って、庁舎へと入っていく。

だが、その前に彼女は執務室に入り、鈴谷を診る事に。

 

気丈に作業をする鈴谷であったが、その状態は誰が見ても正常では無かった。

長波と沖波に熊野を呼びに行かせた後に、倒れてしまったのを見た北上は、そのボロボロの状態を見て悲しむ事になる。

 

 

昼食を食べた後、午後は夏雲に応急処置のやり方を教えて貰い、ストレッチなどの基礎的なトレーニングを行う第九十九駆逐隊。

更には夕張に頼んで、大湊に関する基本的な座学を習う事になる。

特に応急処置や座学は、雷や岸波が言っていた知る事に大きく繋がる為、旗艦である海風は、念入りにメモを取っていた。

夕食を食べた後は、風呂までの間に艤装を取り出して夜間訓練に。

春とは思えない氷点下の気候の中で、兵装の状態などを改めて確認する事になる。

 

「庁舎で何かあったのかしらね………。」

 

その間にボソリと呟いたのは、雷。

昼食時、熊野は、佐渡・八丈・石垣・能美・福江・平戸の問題児海防艦娘達の説教を行っていた。

だが、途中で庁舎に行ったはずの長波と沖波が、慌てて入って来たのだ。

そして、彼女達の話を聞いた途端、走って食堂を出て行った。

 

「普通に考えれば………鈴谷さんに何かあったのかもしれませんね………。」

「それは、工作艦の免許を持っている者としての直感?」

「はい………。熊野さんが焦るという事は、そういう事なんじゃないでしょうか………?」

 

根拠もある………と言って、夏雲は未だに停泊している移動鎮守府「はくちょう」を指す。

様々な地域の海戦後の後始末に追われる立場であるはずの船が、未だに大湊に留まっているのには、理由があるはずだ。

 

「もしかして………北上さんが、鈴谷さんを診ている?」

「可能性は高いと思います………。元々、前提督という夫を暴徒の凶刃で失っているんです………。私達にその弱さを見せようとしないだけで、心は相当ボロボロなのでは………?」

 

雷は、どうしたものかと思ってしまう。

見舞いに行こうにも、本人がそういった姿を見せたがらないのだから、下手に覗きに行くわけにもいかない。

誰か、寄り添える者がいればいいのだが………。

 

「熊野さんに、任せるしかないか。」

「お見舞いに行くと言ったら………、このアームガードで頭を殴っている所でした。」

「大げさじゃない!?」

 

割と鋭い視線を見せる夏雲に雷は引いてしまうが、どうやら冗談ではないらしい。

雷は自覚していないが、進んで誰かに介入しようとする癖は、良くも悪くも彼女の特徴となってきている。

仲間として少し知る事が出来るようになったからこそ、夏雲は常に警鐘を鳴らしているのだ。

 

「それよりも………俺としては、昼間の早霜さんと不知火さん達の方が気になったけどな。」

 

そこに、竹が頭を掻きながら歩いてくる。

早霜と不知火は、昼間の事で、何処かチグハグとしていた。

今は海風と春風が、さりげなく動きをチェックしてくれているが、やはり本人達が意識していないようなぎこちなさがある。

恐らく、昼間の鎮魂歌と雷の発言が、何か琴線に触れる事になったのだろうが、こちらも良く分からなかった。

 

「解決するなら………こっちが先よね。私達が鈴谷さんに迷惑を掛けるわけにはいかないもの。タイミングを見計らってだけど………面と向かって話をしてみようかしら?」

 

雷は腰に手を当てながら意気込むが、その姿を見ながら夏雲は、竹だけに分かるように密かに嘆息する。

下手に相手を詮索するのは良くないと思っていたものの、雷の言う事にも一理あるのだ。

だからこそ、同部屋の彼女にとりあえず任せるしかない………そう思ってしまってもいた。

 

「私も………あの北上さんに比べれば、まだまだ力不足かな………。」

「ん?何か言った?」

「いえ………。」

 

夜間訓練は、ギリギリの時間まで続く事になる。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

訓練の後は、疲れを取る為に風呂に入る事になる一同。

すっかり忘れていたが、雷と海風は顔中に絆創膏を貼っていたので、それを剥がす事になる。

傷は薬湯のお陰ですっかり完治していたが、それでも念入りにもう一度薬湯に顔を浸す事になった。

そして、程良い眠気が来た所で、彼女達はそれぞれの自室に戻る事に。

雷達は畳部屋に布団を敷くと、軽く明日の気象やニュースを確認した後で睡眠を取る事になる。

川の字になって眠る事になるが、左から早霜・雷・不知火の順だ。

 

(何か久しぶりに、充実した日課を送ったわよね。)

 

大湊に転籍してきてからまだ2、3日であるが、朝から晩までしっかりと訓練を送れるのは、気分が良かった。

艦娘として、自分が強くなっていく実感を得られるのは、些細な事でもうれしい事。

特に、雷のように「もっと強くなりたい」という想いを抱いている者ならば、猶更である。

強くなればなるほど、その分誰かを救えるのだから………。

 

(ん………?)

 

ふと、窓から月明かりが差した事で、雷はそっとテラスの方へと出る。

早霜と不知火は就寝をして寝息を立てていた為、起こさないように。

 

「うわ~………。」

 

外に出た雷は、思わず感嘆の声を上げてしまう。

何故ならば、昼間の曇り空が嘘のように、星空が綺麗に輝いていたからだ。

これは、都心部である横須賀では、中々見られないような光景。

しばらく、彼女はその景色に見惚れていた。

 

「………「彼女」達とも、こうした景色を見たかったな。」

「それは………貴女を庇って沈んだ艦娘の事?」

 

声に振り向いてみると、就寝していなかったのか早霜が静かに起き上がっていた。

不知火は、相変わらずそっぽを向いて寝息を立てている。

彼女を起こさないように………それこそ何処か「労わる」ようにしながら、テラスの方へと出て来た。

 

「狸寝入りは感心しないわね。」

「極悪人を演じて、大芝居をする艦娘に言われたく無いわ。」

 

海風との決闘の時の事を言っているのだと思った雷は、少しだけ肩を竦めて見せる。

そうしている内に、早霜は静かにテラスの手すりに手を掛け、空を見上げた。

 

(こうしてみると………意外と身長は低いわよね。)

 

雷は、自分より僅かに背が高い位の背丈の艦娘を見て、少し考えさせられる。

大人っぽい雰囲気があるから中々分からないが、早霜は背丈が低めだ。

九十九駆で言えば、夏雲と同じ位だろうか。

どちらも雷に比べれば、着やせしているのは、風呂での姿を見ればよく分かるが。

 

「………何?」

「いや、大人っぽい雰囲気の割には背丈が低くて、それなのにスタイルいいなー………って思っただけ。」

「満天の星空を見上げながら、考える事じゃないわね。」

 

確かに………と思った雷は、思わず小さく笑ってしまう。

そんな雷に対し、早霜は改めて真剣な顔で対峙した。

何事かと思って首を傾げる雷に、彼女は頭を下げる。

 

「昼間は………本当にゴメンなさい。自分への苛立ちで、貴女の過去を深堀してしまったわ。」

「ああ、あの事。別にいいわよ、気にしてないし。」

「じゃあ………言っていた事も、嘘じゃないのね。」

「ええ。」

 

「初期艦」である艦娘を沈めたのは、自分の責任であり深海棲艦に責任転嫁するつもりは無い。

そう豪語した雷の言葉に、嘘偽りは無かった。

責任逃れをしようとしない姿には、早霜は分かっていたが感服してしまう事になる。

 

「本当に30年も、艦娘をやっているのね。それだけやっていれば、深海棲艦を憎みたくなる理由も、出来て当然のはずなのに………。」

「「彼女」に関して言えば、自業自得だもの。でも、貴女のように憎悪の感情で艦娘をやっている子も、横須賀では沢山見て来たわ。」

 

その言葉を聞いて、早霜は思わず少し眉をひそめてしまう。

雷は「深海棲艦に」とは、断定しなかった。

それはつまり………。

 

「やっぱり………「恨まれた」の?」

「そりゃあ、人類の希望であった「初期艦」の子を、私のミスで沈めてしまったもの。親しかった子達の中には、一生許さないって断言する艦娘もいたわ。」

 

平然と言ってのける雷の瞳には、影があった。

あくまで恨まれる事になったのは、雷自身の自業自得。

それを受け入れられているからこそ、彼女は自分を律する事が出来てはいるが、沈めた当初は感情を整理する余裕すら無かっただろう。

 

「だからかな………横須賀の司令官も、遂にそんな「膿」を手放す選択肢を取ったの。」

「っ!?貴女も海風達と同じく………厄介払いを?」

「私の所は、流石にホワイトだったわよ。司令官は、何度も私に頭を下げてくれたわ。でも………私を恨んでいた子達は、その内、私の目を見ていられなくなっちゃったから。」

 

感情に任せて憎悪の言葉を投げかけていた者達にしてみれば、雷自身が気にしていなくても、出会う度にバツが悪くなる。

艦隊の士気に影響を及ぼしてしまうのならば、雷の存在はデメリットになり兼ねない。

だからこそ、心機一転させようという親心も含め、横須賀の提督は、大湊に送る決意をしたのだ。

 

「そんな扱いをされても………貴女は恨まないの?」

「繰り返すけど元々は、身から出た錆だもの。ちゃんと自分のしでかした事は、受け入れなくちゃ。」

「………強いのね。」

 

夜なのに、あまりにも眩しくすら映った雷の姿に、早霜は更に俯いてしまう。

30年も艦娘をやって、全ての罪を受け入れながらも許せる雷は強い。

それこそ、自分が完全に見劣りしていると実感してしまう位に。

 

「早霜は………憎悪を抱いている自分が嫌い?」

「………嫌いよ。少なくとも、「復讐」を考えなければ、やっていられないもの。」

「復讐か………。深海棲艦との海戦が長引けば、そんな理由で戦う人達も増えるわよね。」

 

雷の方は、早霜を否定はしない。

自身を「イジメっ子」と称する程に、荒れていた過去があるからだろうか。

早霜は、その目をジッと眺めながらも思い切って聞いてみた。

 

「ねえ………雷。」

「何?」

「雷は………私が人間時代、何をやっていたか分かる?」

「うーん………別に占い師じゃないんだから、外れている可能性も高いけれど………。」

 

目を泳がせた雷は、真面目な顔で早霜を改めて見ると静かに告げる。

 

「教師かな。学校の先生。」

「な………!?」

 

思わず叫びそうになった早霜は、慌てて口を閉じて部屋の中を確認する。

中では相変わらず不知火が、寝息を立てているのが分かった。

その姿に安堵しながらも、早霜は深くため息を付き、雷を見る。

 

「どうして分かったの………?こんな背の低い駆逐艦の見た目なのに。」

「人間時代の過去に、見た目は関係無いわ。艦娘になった途端、姿は変わって退役まで固定されちゃうんだから。」

 

雷はそう言うと、「元教師」である早霜の前で、人差し指を立てる。

そして、過去を言い当てるまでに至った経緯を説明し始めた。

 

「切っ掛けは、佐渡を始めとした海防艦娘達。何かに付けて貴女、気にしていたじゃない。」

「そう………ね。」

「あの姿を見て、何となく思ったのよ。貴女は過去に、あのくらいの「子供達」に関係した職に就いていたんじゃないかって。そう考えると、真っ先に浮かぶのは「先生」でしょ?」

「……………。」

 

早霜は、思わず閉口してしまう。

確かに多少気にする素振りは見せていたが、それだけでここまで当てて来るとは思わなかったのだ。

ここら辺は、30年も艦娘をやっていた者の嗅覚なのかもしれない。

 

「ああ、安心して。流石に貴女の人間時代の過去を、言いふらす気は無いから。」

「そ、そう………。」

 

ここだけの秘密………と言った所で、雷は軽く眠っている不知火の方を見る。

早霜は、黙ってくれる事に安堵しながらも、外を見ながら静かに告げ始めた。

 

「………確かに貴女の言う通りよ。私は舞鶴周辺の学校で、先生をやっていたわ。」

「子供達を教えるのって大変でしょ?熊野さんを見ていると、何となく分かるもの。」

 

反骨心旺盛な海防艦娘達に説教をする姿は、それこそ学校の先生に見える。

尤も、その子供達は、素知らぬ顔であるが。

 

「確かに大変よ。でも、その分やりがいもあるわ。生徒達が健やかに成長するのは、見ていて充実感を得られるもの。」

 

少しだけ苦笑をしていた早霜であったが………急に顔に陰りが見え始めた。

唇を噛み締めると、悔しそうに………声を絞り出すように呟く。

 

「でも………私はみんなを守れなかった。深海棲艦の爆撃で………ほぼ全員、殺されたから。」

 

早霜の表情に出ていたのは、明らかな復讐心であった。




早霜の人間時代の職は「教師」。
先生として、多数の子供達の面倒を見ていた模様。
だから、海防艦娘達に思う所があったみたいですね。

また、雷も横須賀時代は色々と経験した模様。
30年も艦娘をやっていると、体験する事は多いらしいです。
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