大楯の雷   作:擬態人形P

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第16話 ~変則マッチ~

互いのわだかまりはまだ消えずとも、比較的心情が楽になった早霜と不知火。

それに満足した功労者の雷は、第九十九駆逐隊の面々に次なる考えを相談する。

朝食前に「下準備」をしたうえで、精神的に限界が来ていた熊野を見た一同は、彼女に対して不良として振る舞う佐渡達を何とかするから、一度休んでほしいと説得した。

 

まず、庁舎に行った海風達は医務室で熊野を休ませると、一晩北上の看病の元で眠った鈴谷に、事情を説明。

彼女は思わず動揺してしまうが、一度雷を信じてみようと言う。

 

一方、宿舎では雷達が問題の海防艦娘達を起こしていた。

自分のペースで話し続ける雷に敵意を見せる佐渡達であったが、彼女はここで茶目っ気たっぷりに言う。

堂々とサボるならば、それ相応の理由を付けてサボればいいと。

そして、更に彼女達に驚くべきことを聞いた。

賭け事は好きか?………と。

 

 

「賭け事………?」

「そう、賭け事。」

 

質問をした八丈は、怪訝な顔をする。

訓練の時間なのに、訓練をしない海防艦の面々に、雷は人差し指を立てたまま「賭け」の内容を説明し始めた。

 

「私と海風が、決闘したのを覚えてる?」

「う………うん、あんな派手な事してたから………。」

「振り返ればアレも、一応許可を得たとはいえ訓練をサボる形よね。だったら、私と貴女達で同じ事をやらない?」

「おいおい!?海防艦と駆逐艦で、大喧嘩をやり合おうって言うのか!?」

 

思わず引いてしまう佐渡。

海風との決闘は、確かに大喧嘩と言える程の取っ組み合いになってしまった為、審判をする事になった佐渡を始め、海防艦娘達が委縮するのは無理が無い。

しかし、それに対して雷は大げさに溜息を付くと、軽い調子で言ってのけた。

 

「何?そんなんじゃ、一生大湊から出世出来ないわよ?大体、堂々と訓練をサボっているくせに、いざ決闘をしろと言われたら「被害者」ぶって怖がるの?」

「な!?んなわけ………!?」

「大体………今の私の言葉、ちゃんと聞いていた?」

 

雷が改めて呆れたように言ってのけた事で、佐渡は八丈と顔を見合わせる。

ここでその意味を察したのか、平戸が手を上げる。

 

「雷さん。額面通りに受け取るのならば………貴女は、「私と貴女達」って言いましたよね?それってつまり………。」

「な!?まさか………6対1でやる気なのか!?」

 

福江が驚愕したため、雷が自信満々に頷いて見せる。

幾ら海防艦と駆逐艦という変則マッチとはいえ、佐渡達全員に対して雷は1人で相手をするって言ったのだ。

 

「舐められてる………!?」

「こちらは30年艦娘やっているのよ?サボってばかりの艦娘達なんて、私1人で十分。」

 

思わず能美が睨みつけてくるが、雷はむしろ更に挑発するように胸を張ってみせる。

石垣もまた、雷に鋭い視線を向けながら言った。

 

「賭けの………内容は………?」

「私が勝ったら言う事聞いてもらうわ。………って言っても、私達と一緒に訓練をして貰うだけだけれどね。」

「私達が………勝てたら………?」

「子分になってあげるわ。便利でしょ?」

 

当然のように言ってのける雷は、6人を見渡す。

すぐさま、彼女達は円になって相談を始めた。

そこで、雷は追加条件を付加する。

 

「そうそう、決闘は今日の昼ご飯前。当たり前だけど、武装は演習用の兵装を使ってよね。審判は早霜と不知火にやって貰うけど………まさか、この条件で飲まない理由は無いわよね?」

 

確認するように言った事で、やがて佐渡達は雷を見て言う。

 

「………本当に子分になるんだな?」

「貴女達が勝ったらね?但し、私が勝ったら、約束守って貰うわよ?」

「………分かった。後悔するなよ!」

 

流石に、負ける事なんて無いと思ったのだろう。

佐渡が代表して言った事で、雷は了承。

こうして、彼女が大湊に来て2回目の決闘が決まる事になった。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

昼飯前、噂を聞きつけたギャラリー達が、またも訓練海域に集まっていた。

決闘好きの雷が、今度は海防艦達の性根を叩き直すという、ある意味どちらにも納得のいかない内容でだが。

 

とにかく、訓練海域に抜錨した艦娘達を見ながら、制服に着替えていた鈴谷と熊野が北上達に連れられて波止場に並んでいた。

両者共、ある程度の睡眠が取れた事で顔色は大分回復しているようであったが、これから起こる賭け事を前に、胃が痛んでいる。

 

「本当に………本当に、大丈夫なのかな………。」

 

まだメンタルが回復しきっていない鈴谷に、いつものノリは無い。

一方で、海風は旗艦として大切な事を学ぼうとメモを纏めようとしているし、春風と竹は、そんな鈴谷達を支えている役目。

夏雲は北上と今後の看病の方針について、今も話をしていた。

これは、自分がいないときに第三十一駆逐隊の4人もついでに診て貰おうと、北上が判断したためである。

 

「停止線まで下がったー!?覚悟はいいー!?」

「その余裕もそこまでだからな!泣いて喚いても、許してやらないからなっ!」

 

雷が1人突っ立っているのに対し、佐渡達は「単横陣」という、本来ならば対潜に長けた横一列の配置についていた。

明らかに決闘開始直後に、一斉砲撃をするのが分かる陣形。

只、雷が特に気にした様子も無く、ペイント弾の入った主砲をチェックする。

海防艦組の中には普通とは装備がおかしい面々もいたが、雷はツッコまない。

 

「では、早速ですが始めたいと思います。」

 

不知火が笛を咥えると、早霜と頷き合う。

そのうえで、7人を見渡すとしっかりと告げた。

 

「よーい!始め!」

 

「よっしゃ!撃ちまくれーーーっ!!」

 

笛が吹かれた瞬間、佐渡の指示で6人の海防艦娘達は、我先にとペイント弾を撃ち始めた。

それこそ雨のように降り注ぐ強烈な集中砲火。

だが………その狙いは全員杜撰で、雷はほとんど動く必要が無い。

 

「呆れた………。実力とかいう以前の問題ね。」

「何だと、お前!!」

 

軽く煽るだけで簡単に乗ってしまう所を見ると、相当実戦経験は無いようであった。

ここら辺は事前に夕張に「確認」をしていたとはいえ、いざ肌で経験をしてしまうと思わずため息が出てしまう。

 

「ねー、当たってないわよー?というか、当てる気あるのー?」

「今に見てろ!能美、切り札だ!!」

「そこね!!」

 

ここで佐渡が、自信満々に能美に指示を出す。

能美は今回の決闘に際して、両手にアームガードを………夏雲のような朝潮型の兵装を装着していた。

恐らく、海防艦としての低い火力を駆逐艦の武装で補おうと考えていたのだろう。

今の能美の単装砲は連装砲になっており、そして………駆逐艦らしく4門の魚雷を放って来た。

 

「魚雷使えるのね。体格は確かに、それなりにあるけれど………。」

 

比較的海防艦の中では大柄な能美ならではの一撃であったが、雷はまだ動かない。

何故なら、放たれた4本の魚雷はその左右を通過していったからだ。

どうやら、あくまで扱えるだけで、当てられるだけの練度は身に着けていない模様。

 

「く………次は当てる!」

「そうそう、そこなんだけどね。あんまり身の丈に合わない事しない方がいいわよ?練度が足りてなければ、玩具でしかないんだから。」

「何で、そんな余裕なの!?」

「貴女達が、下手だからでしょ?」

 

能美が苛立ちながらも、もう1撃魚雷を放つが、そもそも姿勢が安定していない為にブレが生じている。

そのブレが命中率の悪化に繋がっている為、ターゲットに当たらないのだ。

2回も失敗している事を考えると、とてもではないが、現時点では実戦では扱えないだろう。

 

「おい!当ててくれよ、能美!?」

「これ、難しいのよ!3回目は………。」

「仕方ないわね………とりあえず、1人減らすわ。」

「え?」

 

雷はそう言うと、軽やかにステップを踏んで………海面をダンッ!………と、踏み込み急加速をした。

左右の大楯を使う事無く、駆逐艦の速力を活かして単装砲の雨の中を潜り抜けると、あっという間に八丈の前に立つ。

 

「わ!?わ!?わわ!?」

「あ、咄嗟に撃てたのは、及第点かも。でも………やっぱり練度不足ね。」

「わーーーーーっ!?」

 

近づかれた八丈は、慌てて単装砲を撃つが雷は屈む事で安全に対処。

そのまま右肩の主砲を顔面に当てる。

トマトのような真っ赤な塗料を当てられた八丈は、海面を転がり撃沈。

これで、5対1。

 

「ぷ、プランBだ!!」

「無いでしょ、そんな物。」

 

しかし、実際にはあるのか、佐渡の指示で5人のフォーメーションが分かれる。

能美と平戸が雷に肉薄し、その後ろから佐渡、石垣、福江が並ぶ。

 

「平戸、左からお願い!」

「はい………!」

 

能美は平戸に指示を出すと、左右のアームガードで殴ろうとして来る。

雷は冷静にこれを左の盾で弾きつつ、打突武器としても使用しようと考えているのか………と密かに感心した。

そして、平戸は逆側から、何と素手で殴ってくる。

海防艦の拳で、駆逐艦をノックアウトするのは難しい………普通ならば。

 

「ま………その為の「メリケンサック」なのよね。」

「え………!?」

 

意表を突いた一撃で、確実に顎を狙いに行った平戸は、その手首を掴まれた事で動揺する。

言葉通り両手には演習用のゴム製とはいえ、確かにゴテゴテとしたメリケンサックが付いていた。

 

「「その為の」………って!?何で、知っていて………!?」

「何の下準備も無しに多対一の決闘を申し込むと思ってた?ちゃんと予め、「予習」はしているのよ。」

 

雷は九十九駆の仲間と共に早朝訓練をする前に工廠に行って、夕張に確認を取っていたのだ。

あらかじめ6人の海防艦達が、どんな兵装を扱うか。

どんな練度で、どんな戦い方を好むか。

情報こそ命だと言ってのける雷だからこそ、こういう所はしっかりとしていた。

 

「ず、ズルい!?」

「別にズルく無いわよ。貴女達も私の事、調べておけばよかったじゃない。………それと能美、危ないわよ?」

「え………へぶっ!?」

 

雷の言葉で思わず後ろを振り向いた能美は、その顔面にペイント弾を受けてしまう。

味方が接近しているにも関わらず、焦った佐渡と福江が主砲を撃ってしまったのだ。

その為、ペイント弾は能美に直撃をして彼女は、思わず両手を上げてその場で踊るように右回転。

動作が狂ったのか、左手首の魚雷が真上に飛び出し平戸に降り注ぐ。

 

「えええええええ………!?」

 

雷は素早く後退した事で回避に成功するが、真上から魚雷を受けた平戸は顔どころか全身を真っ赤にして悲鳴を上げて倒れる。

これで、3対1。

 

「ま………まだ、終わらない!」

 

石垣は腰に、燃料タンクのような物を付けていた。

消火器のような装備であったが、これは「高速建造材(バーナー)」と呼ばれる工廠で使われる用具の、演習用の代用品。

 

「面白い物、使うわね。」

「これなら………簡単には………!」

「でも、取りまわしが悪いわよ?ほら。」

「な………!?うあああああああああ!?」

 

消火器を取りまわそうとした所を、雷は落ち着いて接近して、タンクと取っ手の間の脆い所を器用に蹴り飛ばす。

すると、破壊されたタンクからは大量の塗料が噴射し、石垣を真っ赤に染め上げる事に。

早いもので、2対1になっていた。

 

「兵装が見抜かれているんじゃ、対処しようがないじゃないか!?」

 

福江は左手首に盾を装備していた。

目の前にいる雷の物ほど大型では無いが、普通の暁型の兵装並の大きさがあるのを見ると、参考にしたのは、一部の睦月型であるだろう。

 

「その装備は同じ盾持ちとしては、有用に思えるわね。でも………やっぱり扱い切れないと意味が無いわ。」

「な、何言って………!?」

「盾は、真横に向ける物じゃない。状況に応じて角度を変える物。常に90度を向けたままじゃ………頭守れないわよ?」

「どういう意味………うわあ!?」

 

盾に身を隠していた福江は、その身を持って雷の言っていた事を悟る事になる。

彼女は主砲の射角を上げると、頭上から降り注ぐ形で撃ったのだ。

計算しないと上手くいかないが、そもそも「止まっている相手」には、普段の数倍は当てやすい。

福江が倒れた事で、佐渡1人になってしまった。

こうなると、練度もあって勝率は限りなく低い。

 

「あ………ああ………。」

「どうする?降参する?」

「く………仕方ない………。」

 

雷はゆっくりと近づき、佐渡を見下ろす。

その目を受け悔しそうに彼女が主砲を下ろしたので、雷は手を腰に当てた。

しかし、その瞬間、佐渡がニヤリと笑みを浮かべると、主砲を再び構える。

 

「馬鹿め!そんな簡単………んがっ!?」

「泥臭く諦めないのは、いい事よ。でも、不意打ちを許して貰える程、敵が甘い存在だと思ったら大間違いね。」

 

佐渡が主砲を向けると同時に膝蹴りを顔面に叩き込んだ雷は、海面に仰向けに倒れる彼女に対し、笑顔で言ってのける。

最初から佐渡が「降参」と言っていない時点で、不意打ちが来ると踏んでいたのだ。

だから、この手段をルール違反だとは言わないし、逆に甘くないとも教えて見せる。

 

 

結果的に、佐渡達6人は完敗をする事になる。

当初は雷を心配する者達もいたが、今の海防艦娘達が頭を使った所で、練度が無い時点で彼女に勝てる要素など、誰も持ち合わせていなかったのだ。




あの手この手で、色々と創意工夫をしていた佐渡達海防艦娘6人。
しかし、雷が事前に下見をしていた為、手の内は全て丸わかりに。
「情報」を大切にしている彼女だからこそ、油断は全くしませんでした。

結果的に、ほぼ完封する事に成功した雷。
この変則マッチによって、海防艦娘達の運命も少しずつ変わっていきそうです。
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