大楯の雷   作:擬態人形P

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第19話 ~雷の人脈~

佐渡達海防艦娘を、基礎的な訓練で鍛えていく雷達。

少しずつではあるが成長しているという実感を得た佐渡達は、何とも微妙な顔をしながらも認めざるを得ない状況に。

 

そんな中八丈が、雷は捨て子だったのか?………とこっそり聞いてくる。

雷はあっさりと認めながらも、「痛い目」を見ていた事から横須賀鎮守府で荒れる事に繋がり、一生の後悔をしたと語る。

そんな雷の親心を察した八丈は、少しだけ「親」という概念を自覚する事に。

 

その後、雷達は教育係や戦力が今の大湊には足りていないと感じた為、鈴谷に頼んで横須賀の「新藤 明(しんどう あきら)」提督と話を付ける。

実の父のように慕っている雷は、彼にお願いをする事で、大湊に転籍してもいい艦娘を募るが………。

 

 

テレビ電話が再び繋がった時、画面を覗き込んでいた鈴谷や九十九駆の目の前には、新藤提督と共に1人の艦娘が映っていた。

紺のセミロングに、赤い瞳が特徴の艦娘。

その姿を見た途端、雷は思わず大きく驚きのけぞる。

 

「り、「龍鳳(りゅうほう)」さん!?龍鳳さんが増援!?」

「あら、雷。私が新戦力として行ったらダメなの?」

「あ、いやでも………ええっと………本当に………いいんですか?」

 

その雷の尋常では無い驚き様を見て、竹が訝しげに聞く。

 

「雷さん………龍鳳さんと何かあったのか?」

「あ………うん………、私、昔は荒れていたから、彼女が「大鯨(たいげい)」であった時代から、よく取っ組み合いのケンカをしていて………。」

 

赤面しながら雷は説明した。

龍鳳は特殊な艦種であり、潜水空母である大鯨が「改装」………艤装などを強化する事で、軽空母へと生まれ変わるのが特徴だ。

只、大鯨時代はお世辞にも強い艦娘とは言えない為、雷はよく彼女に絡んでいたらしい。

 

「つまり………大鯨時代に偉そうに子分にしようとしていたら、龍鳳になった事で逆襲を受けてしまったって事ですか?」

「春風、ぶっちゃけすぎぃっ!………それもあるけど。私を庇って沈めた初期艦の子を慕っていた1人だから………。」

 

雷にしてみれば、正直、増援として挙手をしてくれるとは思っていなかった人物であるらしい。

龍鳳は一連の会話の流れにテレビ画面の向こうで呆れた表情を見せながらも、ハッキリと言ってのける。

 

「大湊の現状を聞く限り、貴女の荒れた時代を知らない中堅以下の艦娘達じゃ、不安が残るでしょ?」

「確かにそうですが………。でも………。」

「いいから、こういう時はベテラン達に頼りなさい。………貴女がいなくなった事で、何だかんだ言って寂しさを覚えている子達は多いんだから。」

 

龍鳳の顔には、確かに寂しさが浮かんでいたが、雷の転籍理由をハッキリと知る早霜や不知火は、それ以上に彼女が後悔を覚えているような感じがした。

恐らく、自分達の抱いた黒い感情故に、雷を北の僻地に追放してしまったのでは無いか?………と考えているのかもしれない。

只、そこら辺に関しては鈍感なのか、雷は龍鳳以上に何とも言えない表情になっていた。

 

「私が加勢に行く事が嫌なら、嫌と言いなさい。………どうなの?」

「嫌じゃないです………。只………。」

「じゃあ、援護に行くわね。鈴谷さん、宜しくお願いします。」

「う、うん………こちらこそお願いね。」

 

半ば強引に決める所を見ると、横須賀で長年付き添った雷の扱いには、ある程度は長けているのかもしれない。

九十九駆の旗艦である海風は、密かに参考にする部分もありそうだとは思った。

 

とはいえ、雷の複雑な心境は一旦横に置いておくとして、実際にベテランの龍鳳が戦力として来てくれるのはかなり有り難い。

彼女は夜戦に特化した「夜間作戦軽空母」である「改二乙」と、速力や対潜を重視した「高速対潜護衛空母」である「改二」を、状況に合わせてコンバートする事が出来る。

熟練であるとはいえ、赤城だけで保っていた航空戦力を賄えるのは、大きな強化と言えた。

そもそもその赤城は、北方の地の寒さに適応するための「寒冷地装備&甲板要員」という特殊な装備を付けなければいけない状況。

その分、艦載機のやりくりに苦労しているのだから、単純に空母系が増えるのは嬉しい事であった。

 

「あの………さっきベテラン達に頼むって言っていましたよね?もしかして他の増援も………。」

「ええ。貴女の「喧嘩仲間」よ。後2人いるから紹介するわね。」

 

それで、龍鳳と入れ替わりで画面に出て来たのは、不揃いに切られた前髪が印象的な、黒のサイドテールの少女。

服装から夕雲型の艦娘だと分かったが、その瞬間に雷は露骨に嫌そうな顔をしてこう叫ぶ。

 

「出たわね!?ハレンチ!?」

「いきなり、ハレンチ言うな!私の名前は「藤波(ふじなみ)」なんだから、ちゃんとそう呼んでよ!」

「横須賀中の駆逐艦に、ハレンチな下着送り付ける時点でハレンチでしょう!?」

「だから、ハレンチ連呼するな!」

 

文字通りいきなり破廉恥な言葉の応酬に、どういう意味かと思った九十九駆の仲間達は、雷を見る。

珍しく子供っぽくギャーギャーと言っていたので、とりあえず止める意味でも同じ夕雲型の早霜が問う。

 

「あの、雷………この藤波姉さんに、何があったの?」

「このハレンチは、やってる事が卑猥過ぎるの!」

 

雷が説明をするには、藤波は紐パンを着用しながらも、寝間着はズボンを履かないというとんでもない主義であるらしい。

しかも、横須賀の駆逐艦娘達に似合いそうなキャミソールをプレゼントしているとか………。

それ故に、雷が横須賀で荒れている時は、彼女もまた「喧嘩仲間」の対象であったらしい。

 

「た………確かに、それは破廉恥と言われても仕方ないですね………。」

「でしょう、春風!」

「もー!折角、増援に加勢しようと思ったのに、待遇悪すぎ!」

 

画面越しに思わず頬を膨らませる藤波であったが、雷は眉をひそめると彼女に問う。

 

「………どういう風の吹き回しなの?藤波が私の所に来るなんて。」

「大体の理由は、龍鳳さんが言ったじゃん!今の大湊には、私のようなベテランが居た方がいいって。一応、改二艦じゃないけど、夜戦火力と索敵には自信あるんだよ?」

 

実際に藤波は、特に索敵に関しては改二艦も目を丸くするような実力を持っている。

空母の運用が難しい中、この周り中を見渡す事が出来る目視能力は非常に有難い。

それに………と、藤波は真剣な顔で呟く。

 

「私も北方で用があるんだ。雷が行くときは迷っていたけど、やっぱり行かないと後悔すると思ったから………。」

「そうなの………?」

「だから、私も宜しく!もち、戦力になるからさ!」

 

彼女の言う「用」というのが何かは分からなかったが、その表情からあまり気軽に触れていい事だとは思えなかった為、結局雷は押し切られる事になる。

意外と雷って押しに弱いのだな………と仲間達が思いながらも、3人目が画面に映る。

こちらは背が低めで、癖のあるセミロングの黒髪にアホ毛、金色の瞳が特徴的だ。

 

「まさか最後は、「三日月(みかづき)」とは………。」

「んもうっ!雷、貴女頼んでおいてそれは無いんじゃない?」

「だって、もうちょっと若手が来ると思っていたもの………。」

 

クラクラとした様子の雷を見て、また顔を見合わせる九十九駆の面々。

今度は、不知火が問いかけてみる事になった。

 

「雷、三日月とはどういう関係だったのですか?」

「………よく、私を庇って沈んだ「初期艦」の子と共に、説教を受けてたわ。」

 

雷が語るには、三日月は真面目でありながらも、結構身内に対しては容赦がない性格であるらしい。

それ故に、彼女が沈めてしまった初期艦の娘と一緒に、よく色々とお節介を焼いていたらしい。

つまり、言い換えればその初期艦の娘とは仲が良かったのだ。

当然ながら、彼女が改心した後に憎悪の目を向けていた娘であるはず。

 

「それが、一体どういう経緯で………。」

「繰り返しの説明になるけど、貴女を追放してしまった事で、司令官を含めて後悔している娘も多いわ。何だかんだ言って貴女がいなくなった為に、横須賀の艦娘達のモチベが下がってしまったの。」

「正直、信じられないけど………。」

「だから、私がみんなを代表して面倒を見に行ってあげるって言う事で、士気の低下を抑えていたのよ。」

 

三日月は、あらかじめ新藤提督に志願して、何処かのタイミングで自分も大湊に送って欲しいとお願いをしていたらしい。

そして、雷が増援要請をして来た事で、またとない機会であると感じて真っ先に手を上げる事になったのだ。

 

「「あの子」の為にも、貴女のお目付け役は必要でしょ?」

「いや、まあ………うーん………。」

「ちなみに、三日月の得意技は何なの?」

 

雷に任せると、話が滞ってしまいそうだと僅かな時間で学習した海風が、強引に話を進める。

その意図を察してくれたのか、三日月は積極的に答えてくれた。

 

「私も彼女と同じく防御盾を使えるわ。流石に雷ほど無謀な事はしないけれど、自分と味方を守れるのが自慢ね。」

「確かに、三日月という艦娘は盾による防御能力に長けているわよね。」

「後は、大発動艇も扱えるの。場合によっては、輸送とかが必要な事もあるでしょ?」

「そうね、戦力として来てくれると、本当に有難いわ。」

 

三日月も、大湊の戦力としては非常に有難い。

大発を操れる艦娘はそんなに多くは無いし、同時に盾を操れる艦娘というだけでも希少だ。

何より経験豊富な睦月型である事から、教育係としても期待できた。

 

「じゃあ、お願いね。大湊で待っているから。」

 

海風が頭を下げた事で、雷が思わず恨めし気な目で彼女を見る。

しかし、ここは旗艦としての強引さを発揮していい場面だと、海風はこれまでの経験で学んでいた。

最後に、三日月が3人を代表して纏める。

 

「雷は納得していないかもしれないけど………これは、貴女の人脈がもたらした結果なんだから、胸を張りなさい。」

「えーっと、人脈と言っていいのか………。」

「どんな形であれ、人と人との縁は何を起こすか分からん。三日月君の言う通り、自信を持ってもいいじゃろう。」

「司令官………。」

 

やはり納得はしていないようだったが、新藤提督にまで口沿いをされては、雷は黙るしかない。

一方、鈴谷にしてみたら、大湊警備府を回すうえで、これ以上にない戦力が来てくれる事に感謝しかなかった。

 

「新藤提督………本当にありがとうございます。何てお礼を言ったらいいか………。」

「君や熊野君の心労を考えたら、本当は大部隊を一気に送ってやりたいのじゃがな。今はこれで、我慢をしておくれ。」

「い、いえいえ!これだけ沢山の艦娘が来てくれるだけでも、感謝ですよ!」

 

頭を下げる新藤提督に、申し訳なさそうに思わずぶんぶんと手を振ってしまう鈴谷。

とにかく、九十九駆の面々や熊野と共に何度もお礼を言った事で、テレビ電話は切られる事になる。

雷達の乗った列車が深海棲艦に襲われた事を鑑みて、3人の増援は海路を使い、自分達で航行しながらやってくる手筈になった。

電源が切られた画面を見ながら、鈴谷は呟く。

 

「何か………雷って凄いよね。その人脈で、魔法のように必要な人達を集められるんだから。」

「ま、魔法って………私は只、みんなと下らない理由でケンカをしていただけですから………。」

 

雷の持つ不思議な魅力を感じた鈴谷の言葉に、彼女自身は謙虚に首を横に振るが、仲間達は密かに肯定していた。

30年も艦娘をやっているからこそ、得られる人脈もあるのだと。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

その頃、宿舎の2階の一室………、佐渡と八丈の寝室に、海防艦娘6人が集まっていた。

昼飯後に佐渡が密かに呼んだのだが、他の者達はその理由が分からない。

 

「佐渡さん………明日以降の訓練の為にも、休んだ方がいいとは思うんですけれど………。」

「いいからちょっと話を聞いていってくれ。損はしないからさ。」

 

流石に疲労の溜まっている平戸が、佐渡に対して不満を言うが、彼女は得意顔で周りを見渡す。

まるで、誰かに何かを聞かれないようにしているかのように。

 

「誰にも聞かれたく無い………内緒話………?」

「ん?ああ、石垣。あいつ等に知られたら不味いからな。福江、悪いが扉の前で誰か来ないかチェックしてくれ。」

「よく分からないけど、分かった。」

 

「あいつ等」というのは、当然ながら雷達の第九十九駆逐隊であるだろう。

佐渡は、福江に頼んで入口を封鎖すると、能美に頼んで窓も閉めて貰った。

 

「ここまでするなんて、何なの?」

「みんなは………このまま、こんなクソみたいな町で一生を過ごすなんてゴメンだよな?」

 

能美の質問には答えず、佐渡は真剣な顔で海防艦仲間を見渡して言う。

その瞳はぎらついており、何かしらの野心と闇が見え隠れしていた。

理由は単純だ。

彼女達は艦娘になる前、この大湊の町で理不尽に虐げられ、捨てられたのだから。

だから町に愛着は無いし、そもそも艦娘になったのも、そうするしか生き残る手段が無かったから。

そこまで言ってのけた佐渡を見て、八丈が何か嫌なものを感じる。

 

「まさかとは思うけど、佐渡………。」

「ようやく、チャンスが巡って来たんだ。あたし達が出世する為の、大きなチャンスが………!」

 

佐渡は懐から、折りたたんだ紙を取り出す。

それは鈴谷達が探していた、貨物船の護送任務の為のサインが書かれた書類であった。




雷の横須賀時代を知る艦娘が登場。
龍鳳、藤波、三日月の3人が、増援として大湊に駆け付けてくれます。
これで、海防艦娘達が戦力になってくれれば、大幅にやりくりが楽になりそうですね。

只、肝心の佐渡達は、何やら部屋で不穏な空気を出していて………。
反骨心旺盛な態度は崩さない佐渡。
まだまだ、波乱を予感させますね。

尚、藤波の記事は全部事実。
寝間着なのにズボンを履かない。
浜波にお土産でキャミソールを送る。
ある意味、大胆過ぎる艦娘です。
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