大楯の雷   作:擬態人形P

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第2話 ~列車上の対空戦闘~

大湊鎮守府に向かう事になった横須賀出身の雷は、大湊線の列車に乗って、内陸の陸奥湾を北上していた。

その列車内で出会ったのは、無口な早霜と不知火、社交的な春風と海風、良い感じの凸凹コンビの竹と夏雲。

しかし、そんな中で、内陸の海岸線なのに突如深海棲艦………空母棲鬼に列車が襲われてしまう。

素早く行動を開始した雷達は、夏雲の力もあり艤装を付けて屋根の上に登る事に。

迫る攻撃機を前に、即興で組んだ駆逐艦娘達は………。

 

 

「対空迎撃開始!撃ち方、はじめ!!」

 

海風の号令により、一斉に迫る鬼火の攻撃機に向けて砲撃を開始する雷達。

だが、走行する列車の上での砲火は、中々当たりはしない。

 

「もう、面倒ね!どうやってって………ええ!?」

 

狙いを合わせようとした雷は、思わず敵の攻撃機を見て、驚いて叫んでしまう。

てっきり「艦爆」と呼ばれる攻撃機で爆撃だけをしてくるかと思いきや、魚雷を放つタイプや機銃を放つタイプまで放っていたからだ。

この中で一番厄介なのは、実は連続で機銃を放つ「艦戦」と呼ばれるタイプ。

何故ならば、艤装のパワーアシストによって鉄壁の防御力を得ている艦娘ならばともかく、一般の人間にしてみれば、それだけでもハチの巣にされるだけの威力があるからだ。

 

「敵艦戦機を優先的に!………不知火!」

「了解、早霜と共に乗客のいる先頭車両まで走ります。」

「何かあったら電探で伝えるわ。」

 

列車での移動中は全く無口であった2人だが、流石に緊急事態の時は、淡々と的確に自分の役目をこなしていく。

春風と竹と夏雲は、その先頭車両への避難が続いている第2車両の上へと続いていた。

 

「私達も前の方に………っ!?」

 

だが、今度はここで最後尾の第4車両にいた海風が驚く。

魚雷を装填した「艦攻」と呼ばれるタイプの鬼火が、そのまま最後尾の列車へと突っ込んできたのだ。

 

「海風!?」

 

丁度、第3車両に移ったばかりの雷が背中の錨を取り出して、思いっきり後ろへと伸ばす。

海風は咄嗟に迎撃を止めて全速力で前へと走り、雷の錨を左手で掴む。

次の瞬間、列車に敵艦攻機がぶつかり、派手な爆発を起こした。

 

「くっ………!」

 

最後尾の列車が大きく抉れ、車両の大半が置いていかれる事になり、群がるように敵の攻撃機が爆撃やら雷撃やら色々と好き放題をして爆発を起こしていく。

 

「借りるわ!」

 

雷は海風を引っ張り上げると、彼女の右手の主砲を奪い連結部分に連射して破壊。

第4車両の残りの部分を切り離す事で、僅かながらデコイにする。

 

「海風、大丈夫!?」

「何………とか。」

 

主砲を返しながら、雷は海風の足を見て顔をしかめる。

両足のハイソックスが破け、血が流れていた。

これでは、足に力が入らないだろう。

 

「竹!手伝って!」

「だ、ダメです………置いていって………!」

「生憎、それは出来ない相談よ!」

 

諦めるような海風の言葉に怒りを見せた雷であったが、また海面を見てギョっとする。

空母棲鬼はこちらに砲門を向けていたのだ。

微妙に角度がずれているのは、第一射の誤差を修正して走っている列車を確実に狙い撃つ為か。

こうなった以上、雷達に対処する方法は無い。

 

「これじゃあ………!?」

 

だが、次の瞬間であった。

敵鬼クラスの台座が大きく傾き、砲撃が中断される。

その瞬間、台座の砲撃は別の所に向き、攻撃機の幾らかは空母棲鬼の周囲を守るように動き出した。

 

「援軍………?」

 

「よっしゃあ!ナイスだぜ、沖波!!今の飛び蹴りサイコーにカッコ良かったぞ!ビデオあれば良かったぜ!」

「あ、朝ちゃん!?止めてよね!?絶対スカートの中、見えてたから!?」

「コントをしている場合か!?早くアイツの動きを止めるぞ!」

「あー、もしもし。遅れてごめんなさい。敵の侵攻が早くて追いつくのに時間が掛かったわ。今から空母棲鬼を妨害するから。」

 

次々と海風の電探から声が掛かった事で、どうやら大湊からの援軍が到着したのを悟る。

暗くて良く見えなかったが、海面ではどういう原理か、様々な角度から機銃の如く弾丸の光が放たれていた。

 

「旗艦………貴女の名前を教えて。」

「今は、第三十一駆逐隊………でいいかしら。「岸波(きしなみ)」よ。本当は空母や軽巡とかもいるんだけれど、他の敵艦の迎撃に当たって貰っているわ。」

「「朝霜(あさしも)」だ!あたいが来たからには、任せろ!」

「「沖波(おきなみ)です。………朝ちゃん、そうは言うけれど、もう列車に群がっている攻撃機はどうしようもないよ?」

「「長波(ながなみ)だ。そういうわけだから、食いついてる奴らだけは、何とかしてくれ!」

 

順に声が聞こえたかと思いきや、今度は空母棲鬼の台座が派手な爆発を起こす。

どうやら、魚雷を使用したらしい。

第三十一駆逐隊の妨害により、空母棲鬼本体は、どんどん離れていく。

 

「分かったわ………そっちは任せるわね。………いたた。」

「大湊に着いたら、ドックを優先して使って貰って。向こうで会いましょう!」

 

岸波との通信が途切れるのと同時に、竹が雷達の元に駆け付けてくれる。

ステゴロスタイルの竹に海風を抱きかかえて貰うと、第3車両の上を走って貰う。

夏雲も後ろに戻ってきてくれていたので、雷は残っている敵攻撃機の迎撃をしながら第2車両へと移る。

 

「連結器、破壊します!」

 

全員が渡ったのを確認した後、夏雲が連結器を破壊して第3車両を切り離し、新たなデコイに使った。

群がる攻撃機によって車両は無残な姿へと変わるが、これはやむを得ない。

そのまま竹には海風を抱えながら、先頭車両まで走って貰う。

 

「第2車両です。先頭車両に、乗客の移動は完了しましたわ。」

 

春風の通信が聞こえた事で、更に雷と夏雲も迎撃を放棄して先頭車両へと走っていく。

先頭では、不知火と早霜が左右を向いて車両に近づく攻撃機をとにかく破壊して回っていた。

 

「!?」

 

だが、ここで雷は気付く。

攻撃機は先頭車両の上を飛び回っているだけでなく、真横からも機銃を放ちながら突撃してきている事を。

不知火もそれに気づいたのか、海風に代わって迎撃指示を出す。

 

「左90度、撃て!」

 

迫る攻撃機は3機。

咄嗟に手の空いていた夏雲が1機、春風が1機破壊に成功するが、雷は主砲が右肩についているので射角の関係上、最後の1機をどうする事も出来ない。

 

「ならっ!!」

「雷、何を!?」

 

機銃が迫る中、雷は敵攻撃機の上に陣取ると真後ろを向いた。

そして、何と縁の出っ張りに「主機」と呼ばれる専用のブーツを引っかけて逆さまにぶら下がると、中の乗客が悲鳴を上げている窓の前で、両肩の巨大な盾を接続させて即席のシールドを作る。

突撃してきた攻撃機は機銃が塞がれた途端、そのまま盾にぶつかって押し込もうとした。

だが、雷は咄嗟に右の盾を「上」に弾き、敵機を下へと飛ばす。

そのまま地面へと叩きつけられた攻撃機は、粉々になった。

 

「どう?こういう事も出来るのよ!………って、わわ!?」

 

逆さま状態でドヤ顔を披露した雷であったが、ずっと左に曲がっていた列車が、僅かにだが右にカーブをしたことで、バランスを崩しそうになる。

危うく落ちかけた雷の足を、手が………早霜が掴む。

 

「その恰好で言っても………みっともないだけよ?」

「あはは………そうね、ありがとう。」

 

雷は思わず赤面する。

何せ逆さまにぶら下がった事で、スカートが完全に捲れあがっていたのだから。

そうしている内に、不知火が第2車両を切り離して最後のデコイにする。

残った攻撃機は切り離された車両に群がった事で、何とか列車は危機を脱した。

 

 

――――――――――――――――――――

 

 

大湊駅へとたどり着いた雷達は、ゆっくりとブレーキが掛かった事で、ようやく列車の屋根から降りられる事になった。

艤装を仕舞っていたケースは全部爆撃などの餌食になってしまったので、兵装などは装備をしたままだ。

足を怪我してしまっていた海風は、そのまま竹が無理やりな恰好ではあったが、お姫様抱っこをする形になった。

 

「は、恥ずかしいのだけれど………。」

「我慢我慢。………と、何か爺さん車掌が来たな。」

 

駅のホームでパニックになった乗客の対応に追われていた車掌達であったが、その中で雷が出発時に会話をした人物がやってくる。

彼は7人を見渡すと、深々と頭を下げた。

 

「この度はありがとうございます。貴女達がいなければ、皆死んでいたでしょう。」

「貴方がそんな敬語で話す必要は無いですって。出発する時のように気安くでいいですよ………ねえ。」

 

雷が6人を見渡すと、順にコクリと頷いた。

車掌は、そうですか………と言うと、改めて頭を下げた。

 

「お陰で助かった。お嬢ちゃん達がいなかったら、本当に全員お陀仏じゃった。」

「だから、気にしなくていいですよ。これが艦娘の仕事ですから。………それにしても、本当に大湊警備府の艦娘達は、何をやっているのかしら?」

 

雷が言っているのは、さっきの岸波達の第三十一駆逐隊を始めとした現地の者達の対応の悪さだ。

もっと早期に警戒をしていれば、こんな内陸で空母棲鬼に好き勝手させられる事は無かったはずである。

 

「詳しい事はワシにも分からぬ。じゃが、最近はこの陸奥湾でも被害にあう区域が多くてな。警備府で何かあったのでは?………という声も広がっておる。」

「確かに………そうでなかったら、私達が急に集められる事も無いですからね。」

 

鎮守府や警備府に関する情報は極秘となっているため、滅多な事では外には出回らない。

だから、この車掌も状況から想定した発言しか出来ないのだ。

 

「とにかく、外に出れば警備府からの迎えの者が待っているじゃろう。この場はワシ等に任せて、行ってくれ。」

 

恐らく、早く海風をドックに「入渠」させて傷を治して欲しいと思っているのだろう。

雷達は、素直に言葉に甘える事にした。

 

「ありがとうございます。では、失礼しますね。」

 

そう挨拶をしたうえで雷達は改札口を出て、駅の外へと出る。

迎えの車を探す一同であったが………。

 

「隙あり!!」

「っ!?」

 

突如、雷のスカートが背後からめくられる。

何事かと思い、背中の錨で押さえつけようとするが犯人は既に距離を取っていた。

 

「ちょ!?何するの!?」

「なーんだ、つまんねーの。もうちょっと派手な色だったら目立ったのに。」

 

赤面しながら背後を睨みつけた雷が見たのは、水色の髪がグラデーションになっているポニーテールの帽子を被った少女であった。

その背丈は雷達よりも更に低い小学生ほどで、いかにも悪ガキといった感じの姿だ。

 

「あの姿は………「海防艦」?」

「何だぁ?海防艦だからってバカにしてんのか!?」

 

早霜が思わず呟くと、その呼ばれた少女はムッとした顔をした。

海防艦とは、駆逐艦よりも更に低い背丈の艦娘の少女達の事で、敵の潜水艦退治を主な任務としている。

速力や主砲の適正距離の都合上、他の艦種には大きな力を持たないが、他の艦種では厄介な潜水艦には、とにかく強いのが大きな特徴であった。

勿論、雷達と同じく外見年齢と精神年齢は一致しない。

只、何となくだが目の前の少女は、本当に外見相応の「少女」のような気がしたのだ。

 

「この「佐渡(さど)」様は、お前達とは違うんだ!ヘマをして怪我するような艦娘じゃねえ!」

「あら、それは聞き捨てならないわね。」

 

海風の事を言っているんだと分かった雷は、あからさまに不機嫌そうな顔をして腰に手を当てる。

そして、若干鋭い目で言い放つ。

 

「市民を守る為に、戦って付いた傷なのよ?それを馬鹿にするのはどうなのかしら?」

「市民?守る?………フン、そんな奴ら守る価値あるのかよ!」

 

返って来た言葉に………艦娘が放ったとは思えない言葉に、一瞬、雷達は耳を疑った。

この目の前にいる佐渡という艦娘は、市民を守る気は無いと宣言したのだ。

 

「………どういう事?」

「こんな町の奴等なんて守る価値無いんだよ!佐渡様達は、早くもっと大きい所で羽ばたきたいのに!全部あの司令のせい………いだだだだ!?」

 

怒りの言葉が中断する事になったのは、後ろから伸びて来た手に首根っこを掴まれたから。

溜息を付きながら現れたのは、女子高校生くらいの、栗色のポニーテールの女性。

 

「何すんだ!放せ!「熊野(くまの)」!?」

「やっぱり、貴女に迎え役を任せたのは間違いでしたわ。ごめんなさいね、突然大湊所属の艦娘が、暴言を吐いてしまいまして。」

「ええっと、貴女は………?」

「わたくしは「航空巡洋艦」の熊野ですわ。大湊警備府の秘書艦も務めていますの。皆様、宜しく頼みますわね。」

 

暴れる佐渡の首根っこを掴みながらも、上品に片手でスカートの端を持って礼をする熊野。

彼女は唖然とする雷達を、近くに止まっているバスへと案内する。

 

「話は、大湊警備府で行いましょう。ちょっと急ぎの用も出来ていますし。わたくしが運転をするので、少しの間ですがくつろいで下さいませ。」

 

熊野は笑顔でバスの入り口に佐渡を放り込むと、7人を招く。

雷達は唖然としながらも、黙ってついて行くしかなかった。




いきなり列車の上での対空戦闘という、特殊な戦闘を経験する事になった雷達。
そして、何処か一般的な艦娘である海防艦佐渡とは違う「佐渡」との出会い。
無論、こうなってしまったのには理由があるわけで………、そこも物語の1つのポイントになります。
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